Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Self-assessment of Implementation of Discharge Support for Terminal Cancer Patients and Related Factors by Ward Nurses
Tomoko YamajiShuko MaedaNaoko Murakado
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2020 Volume 40 Pages 562-571

Details
Abstract

目的:病棟看護師の終末期がん患者に対する退院支援実践の自己評価と関連要因を明らかにする.

方法:地域がん診療連携拠点A病院の病棟看護師473人を対象に,無記名の自記式質問紙調査を実施した.調査内容は,属性,退院支援実践の自己評価とした.

結果:終末期がん患者退院支援実践経験のある153人を分析対象とした.退院支援実践の自己評価が高かったのは,患者・家族からの情報収集,家族への療養場所の希望確認であり,社会資源の活用,患者への余命の理解の確認は低かった.退院支援実践の自己評価への関連要因は,病棟看護師の退院支援への苦手意識・終末期がん患者を自宅退院につなげた経験・在宅療養後の情報提供を受けた経験・退院支援に関する知識の有無などであった.

考察:病棟看護師への支援として,退院後の患者の情報提供を受けられるシステム作り,苦手意識の改善への方策,退院支援の学習機会の必要性が示唆された.

Translated Abstract

Objectives: This study aimed to clarify self-assessment of implementation of discharge support for terminal cancer patients and related factors by ward nurses.

Methods: We conducted an anonymous self-administered questionnaire survey of 473 ward nurses of a cancer care district liaison hospital A. The survey contents were self-assessment of attributes and implementation of discharge support.

Results: Responses from 153 nurses who had experiences of implementation of discharge support for terminal cancer patients were analyzed. The items with high self-assessment of implementation of discharge support were information gathering from patients and their families and confirmation of desired care places with families, and those with low self-assessment were use of social resources and confirmation of the understanding of life-expectancy with the patients. Factors related to the self-assessment of implementation of discharge support by ward nurses included their sense of weakness in supporting discharge, experience of leading terminal cancer patients to be discharged at home, experience of receiving information about events after care at home, and presence or absence of knowledge about discharge support.

Discussion: Creation of a system through which ward nurses can receive information of discharged patients, measures to improve their sense of weakness, and the necessity for chances for them to learn discharge support were suggested to be useful for supporting ward nurses.

Ⅰ. 緒言

現在,わが国では在院日数短縮化や病床数削減に取り組む一方,在宅医療の充実や,医療上のニーズや日常生活に課題を抱える患者が在宅生活に移行できるように退院支援が推進され,再入院率の減少などその効果が明らかになってきた(Tsuboi & Fujimori, 2020).退院支援を必要とする患者の多くは高齢者であり,高齢者の受療率・死因共に,「悪性新生物(がん)」が上位を占めている(内閣府,2020).また,近年,自宅での終末期医療や最期を希望する国民のニーズが明らかになっている(厚生労働省,2018).このようなニーズに答えるには,退院支援を早期から行うことが重要であり,実際に入退院支援加算では,数日以内の患者抽出や退院に向けての計画立案が求められている.短い入院期間で,病状やADL低下が進行する(添田ら,2020)終末期がん患者の退院支援を効果的に行うためには病棟看護師の担う役割が大きい.

これまでに,病棟看護師による終末期患者への退院支援について,福井(2007)河野(2014)は,患者の入院期間や医療処置の種類,看護師の学習経験,患者への積極的な情報提供の有無,患者と死ついて語れるかが,終末期患者の在宅療養への移行や退院支援の実施内容に関連すると報告している.Oosono et al.(2018)は,終末期がん患者の退院時の家族へのサポートには,病棟看護師の緩和ケア経験などが関連していることを報告している.終末期患者の退院支援に対する病棟看護師の認識について,佐藤ら(2011)は,病棟看護師の90%以上が終末期がん患者の在宅ケア移行支援に困難を感じていることを報告している.大川ら(2008)は,看護師の在宅移行に関する考え方は,終末期看護経験や在宅移行援助経験の有無によって違いがあることを報告している.早川・高田(2004)は,大学病院の一般病棟に勤務する看護師の多くは,在宅療養に関する知識に自信がなく,在宅療養に関する質問に戸惑った経験をもつことを報告している.黒澤ら(2016)は,5割の看護師が退院支援に困難感を感じていること報告している.以上,病棟看護師による終末期患者への退院支援の実践は,看護師の経験,退院支援や終末期看護の実践力が関連し,病棟看護師の多くは退院支援に困難や自信のなさを感じていることが報告されている.しかし,これらの大部分は終末期ではあるが,がん患者に限定したものではない.終末期がん患者ではさらに困難を感じていることが予測される.

そこで,我々は終末期がん患者への退院支援に関する院内教育はじめ,病棟看護師向けの組織での取組が必要であると考えた.これら取組を行うためには,病棟看護師の終末期がん患者への退院支援の現状を把握する必要がある.しかし,これまで量的調査に基づき終末期がん患者の退院支援の現状を把握した研究は少ない.そこで我々は,病棟看護師による終末期がん患者への退院支援の現状を自己評価から把握することにした.実践の有無ではなく自己評価とした理由は,病棟看護師が困難と捉えている退院支援が把握でき,院内教育に発展できると考えたためである.また,これまでの研究から退院支援の実践や認識には,看護師の学習内容や経験が関連していることから,退院支援の自己評価への関連要因も調査することにした.このことにより,より効果的な院内教育などに役立てることができると考える.

本研究の目的は,病棟看護師の終末期がん患者に対する退院支援の実践の自己評価と,それに関連する要因を明らかにすることである.

Ⅱ. 研究方法

1. 研究対象者およびデータ収集方法

終末期がん患者の退院支援に携わった経験のある病棟看護師を研究対象者とした.地域がん診療連携拠点A病院の看護師801名のうち,病棟看護師473名(師長,主任含む)に2018年3月6日~31日に,無記名の自記式質問紙調査法,留め置き法を行った.

A病院は特定機能病院入院基本料を算定しており,39診療科,病床数774床,病棟数は23病棟,固定チームナーシングを導入している.退院連携部門を有し,退院支援加算2(調査時)を取得しており,がん看護専門看護師は2名在職している.

研究の目的として終末期がん患者の退院支援実践の自己評価と,病棟看護師ということから考えられる関連要因を明らかにしたいと考え,条件をなるべく統一させるように対象設定を行った.各都道府県によって,共通の退院支援マニュアルやルールが作成されていることがあるため1つの県に限定した.退院支援に関する知識を関連要因として想定していたため,退院支援加算の種類や院内の相談場所が同一になるように1つの医療機関に限定した.

2. 研究の概念枠組み

概念枠組みを図1に示す.本研究では各関連要因は「病棟看護師の退院支援実践自己評価尺度」と「病棟看護師の終末期がん患者に対する退院支援の自己評価」に影響すると考えた.

図1 

研究の概念枠組み

3. 調査内容

1) 関連要因

年齢,経験年数,職位,病棟看護師の経験の有無(学習経験,自身の家族の在宅看取りや在宅介護の経験,終末期がん患者を自宅退院につなげた経験,在宅療養後の情報提供を受けた経験),退院支援に関する知識の有無,退院支援の実践に関する苦手意識を尋ねた.退院支援の苦手意識は,4段階リッカート方式(1:ない,2:あまりない,3:少しある,4:ある)で尋ねた.

2) 退院支援の実践自己評価

Sakai et al.が作成した病棟看護師の退院支援の自己評価(the Discharge Planning of Ward Nurses:DPWN,以下DPWNとする)と病棟看護師の終末期がん患者に対する退院支援の自己評価を用いた.DPWNでは患者は限定されておらず,終末期がん患者特有の退院支援があると考えたためDPWNと病棟看護師の終末期がん患者に対する退院支援の自己評価の2つを用いることとした.

DPWNは,Sakai et al.(2016)が,病棟看護師による退院支援の実践の自己評価を測定する目的で開発したもので,内的整合性,信頼性,内容的妥当性,確証的因子分析等による構成概念妥当性が確保されている.退院支援24項目の実施状況について6段階リッカート方式(1:まったくできていない~6:十分できている)で評価される.

病棟看護師の終末期がん患者に対する退院支援の自己評価は,先行研究(福井,2007本田ら,1999井上,2015松谷,2014奥村,2013藪崎,2015湯浅ら,2006脇坂・黒田,2012)より,「I終末期がん患者の退院のタイミングや症状緩和に関する援助」,先行研究(河野,2014佐藤ら,2011山戸ら,2009脇坂・黒田,2012)より「II患者への余命や告知,療養についての要望確認」,「II家族への余命や告知,療養についての要望確認」,先行研究(朝倉ら,2012佐藤ら,2011山戸ら,2009脇坂・黒田,2012)より「III患者,家族,医療者の思いのずれの調整」の各項目を作成した.これもDPWNと同様,6段階リッカート方式(1:まったくできていない~6:十分できている)で評価した.

全調査内容の内容的妥当性について,A病院退院調整部門専従看護師と共に検討し調査項目の追加・表現の変更を行った.予備調査を10名対象に実施し,表面的妥当性について検討を行った.

4. 分析方法

すべての調査項目は単純集計し,DPWNは,尺度全体の合計得点,4下位尺度の合計得点,各平均値を算出した.病棟看護師の終末期がん患者に対する退院支援の自己評価は,因子分析とクロンバックα係数の確認により質問項目の構成概念妥当性や信頼性の測定を行い,合計得点ならびに各平均値を算出することにした.関連要因の検討は,調査項目の変数に応じて,Spearmanの順位相関分析,t検定,マンホイットニーのU検定を行った.分析には,IBM SPSS Statistics Ver. 23を使用した.

Ⅲ. 倫理的配慮

調査への協力は自由意思であり,協力の有無によって不利益が生じることはないことを,研究対象者に宛てた研究依頼文書に記載した.質問紙は無記名とし,データ入力は全て数値化したものを入力し,研究対象者が特定されないようにした.なお,本研究は金沢医科大学医学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した.(承認番号:I257)

Ⅳ. 研究結果

1. 回収率

調査用紙の回収は406人の85.8%であった.そのうち終末期がん患者の退院支援に携わったことがある人は153人の60%で,153人を分析対象とした.

2. 関連要因の基礎集計結果

関連要因の基礎集計結果を,表1に示した.平均年齢は34.9 ± 10.7歳,経験年数の平均は12.9 ± 10.9年,職位はスタッフが123名(86.0%)であった.

表1  関連要因について
項目 分析対象 回答 人数(%)
病棟看護師の経験 介護支援専門員の資格 143 有り 3(2.1)
在宅看護論の履修 140 有り 101(72.1)
訪問看護の実習や職業経験 143 有り 99(69.2)
終末期がん看護の学習経験 143 有り 111(77.6)
退院支援についての学習経験 143 有り 72(50.3)
在宅で家族の介護経験 143 有り 29(20.3)
在宅で家族の看取り経験 143 有り 14(9.8)
終末期がん患者を自宅退院につなげた経験 143 有り 93(65.0)
在宅療養後の情報提供を受けた経験 142 有り 85(59.9)
退院支援に関する知識 退院支援加算の設定 143 知っている 121(84.6)
所属する病院の退院支援加算の種類 144 知っている 39(27.1)
退院支援加算1の算定要件 144 知っている 27(18.8)
退院支援加算2の算定要件 143 知っている 27(18.9)
転院や自宅退院を希望した場合の相談場所 144 知っている 119(82.6)
退院支援の実践に対する苦手意識 143 有り 105(73.4)

欠損値のため,調査項目により分析対象数が異なる

3. DPWNの得点と関連要因

基礎集計結果を表2に,DPWNと関連要因の分析結果を表3に示した.質問項目別で最も平均値が高かったのは,患者・家族からの情報収集4.5点,低かったのは社会資源の活用3.4点であった.合計得点は,144点満点中,平均点は97.8 ± 14.3点,最小値は59.0点,最大値は144.0点,中央値は96.0点であった.DPWNの合計得点と統計的に有意に(p < 0.05)相関もしくは関連があったものは,看護師の年齢,経験年数,職位,学習経験,在宅介護の経験,退院支援の経験,退院支援に関する知識,苦手意識であった.

表2  DPWNの得点 n = 145
質問項目 中央値 平均値±標準偏差 下位尺度の平均値±標準偏差
I 患者・家族からの情報収集 1 患者の入院前の生活状況(ADL,認知レベル,住環境など)について情報収集する 5.0 4.6 ± 0.7 4.5 ± 0.6
2 患者の疾患,進行度,予後について情報収集する 5.0 4.6 ± 0.7
3 患者のADL状況,認知・理解能力について情報収集する 5.0 4.7 ± 0.6
4 家族構成と関係性,キーパーソン(インフォーマルも含む)について情報収集する 5.0 4.6 ± 0.7
5 患者の社会背景(生活史,職業,信条,趣味など)について情報収集する 4.0 4.2 ± 0.8
II 患者・家族への意思決定支援 6 患者・家族が退院に向けてどのような思いを抱き,今後どのように過ごしたいのか意向を把握する 4.0 4.3 ± 0.7 4.1 ± 0.7
7 患者・家族の理解度に合わせて医師からの病状説明の場を設定する 4.0 4.3 ± 0.8
8 患者のADLより,今後の生活で起こり得る課題について検討する 4.0 4.3 ± 0.8
9 患者・家族の思いを医師と共有して,今後の方向性を話し合う 4.0 4.2 ± 0.8
10 病状に伴い,今後起こり得る生活上の変化について患者・家族へ説明する 4.0 4.0 ± 0.9
11 現在の病院機能と役割について患者・家族へ説明する 4.0 3.7 ± 1.0
12 患者・家族・医療者間で今後の方向性の意思・意向にずれが生じていないか確認する 4.0 4.0 ± 0.8
III 社会資源の活用 13 患者の在住する地方自治体には在宅療養を支えるために どのようなサービスがあるのか把握する 4.0 3.6 ± 0.9 3.4 ± 0.9
14 介護保険の対象者,申請方法,サービス内容について患者・家族へ説明する 4.0 3.6 ± 1.0
15 往診や訪問看護の対象者と利用方法について,必要時に患者・家族へ説明する 4.0 3.6 ± 1.1
16 生活保護制度による医療費の負担割合について,必要時に患者・家族へ説明する 3.0 3.0 ± 1.1
IV 院内外の多職種連携による療養指導 17 患者・家族へ病棟スタッフが統一した内容で医療処置を指導する 4.0 4.1 ± 0.8 4.1 ± 0.7
18 点滴の管理や内服管理方法について,医師や薬剤師と連携して患者・家族が対応可能となるよう簡素化する 4.0 4.1 ± 0.9
19 退院後の環境を想定したADL動作についてリハビリスタッフと連携して患者・家族に指導する 4.0 4.1 ± 0.8
20 栄養士やNSTに在宅での食事方法や栄養について相談する 4.0 4.1 ± 0.9
21 退院調整部門と協働して,患者の生活に合わせた医療処置の方法をアレンジする 4.0 4.0 ± 0.9
22 在宅生活で起こり得る異常や緊急時の対応を患者・家族が理解できているか確認する 4.0 4.0 ± 0.9
23 退院前のカンファレンスで在宅生活の課題についてケアマネージャーや往診医,訪問看護師,ヘルパー,保健師へ申し送る 4.0 4.1 ± 0.9
24 在宅療養の準備をする(医療材料購入について情報提供,関係医療機関との調整など) 4.0 3.9 ± 1.0
表3  DPWN合計得点,DPWN4下位尺度の合計得点と関連要因 n = 145
関連要因 DPWN合計得点 I II III IV
患者・家族からの情報収集 患者・家族への意思決定支援 社会資源の活用 院内外の多職種による療養指導
平均 ± 標準偏差またはρ値 p ρ値または平均順位 p 平均 ± 標準偏差またはρ値 p ρ値または平均順位 p ρ値または平均順位 p
属性 年齢1) ρ = .406 .000 ρ = .234 p = .006 ρ = .389 .000 ρ = .433 p = .000 ρ = .273 p = .001
経験年数1) ρ = .384 .000 ρ = .221 p = .010 ρ = .373 .000 ρ = .429 p = .000 ρ = .251 p = .003
職位2)3) スタッフ 96.9 ± 14.6 .042 70.6 .296 28.4 ± 4.9 .010 68.9 .025 69.7 .096
管理職 103 ± 11.6 80.9 31.3 ± 3.3 91.0 86.3
病棟看護師の経験 介護支援専門員の資格2)3) 有り 110.3 ± 29.7 .535 98.5 .258 33.3 ± 7.6 .095 91.2 .413 67.1 .323
無し 97.6 ± 14.0 71.4 28.7 ± 4.7 71.6 79.4
在宅看護論の履修2)3) 有り 96.0 ± 14.0 .039 66.7 .070 28.4 ± 4.8 .188 64.8 .007 67.1 .105
無し 101.5 ± 14.3 80.4 29.6 ± 4.7 85.3 79.4
訪問看護の実習や職業経験2)3) 有り 98.5 ± 15.3 .415 74.2 .330 29.0 ± 5.1 .323 70.7 .579 74.3 .310
無し 96.4 ± 11.9 92.3 28.2 ± 4.1 74.9 66.7
終末期がん看護の学習経験2)3) 有り 100.2 ± 13.5 .000 77.6 .002 29.5 ± 4.6 .000 77.4 .004 76.6 .012
無し 89.8 ± 14.5 52.5 26.0 ± 4.5 53.5 55.9
退院支援に関する学習経験2)3) 有り 100.7 ± 14.8 .016 78.6 .053 29.6 ± 5.1 .049 82.4 .002 78.0 .081
無し 94.9 ± 13.4 65.3 28.0 ± 4.3 61.5 65.9
在宅で家族の介護経験2)3) 有り 104.7 ± 16.1 .004 88.7 .014 31.0 ± 5.2 .005 84.0 .078 86.9 .029
無し 96.1 ± 13.4 67.8 28.2 ± 4.5 67.0 68.2
在宅で家族の看取り経験2)3) 有り 102.9 ± 14.4 .170 80.4 .418 30.1 ± 4.5 .262 92.5 .049 78.4 .544
無し 97.3 ± 14.3 71.1 28.6 ± 4.8 69.8 71.3
終末期がん患者を自宅退院につなげた経験2)3) 有り 102.2 ± 13.3 .000 77.8 .021 30.0 ± 4.5 .000 83.2 .000 82.9 .000
無し 89.8 ± 12.8 61.2 26.5 ± 4.5 51.2 51.8
在宅療養後の情報提供を受けた経験2)3) 有り 102.5 ± 13.8 .000 77.2 .040 30.0 ± 4.6 .000 82.9 .000 85.1 .000
無し 90.9 ± 12.5 63.0 26.9 ± 4.5 54.5 51.2
退院支援に関する知識 退院支援加算が設定されたことを知っているか2)3) 知っている 98.9 ± 14.3 .043 73.5 .307 29.1 ± 4.7 .145 74.6 .074 75.9 .007
知らない 92.2 ± 13.0 63.8 27.5 ± 5.0 57.6 50.3
働いている病院の加算の種類2)3) 知っている 104.5 ± 13.3 .000 79.4 .225 30.7 ± 4.1 .003 97.0 .000 89.1 .004
知らない 95.3 ± 14.0 70.0 28.0 ± 4.8 63.4 66.3
加算1の算定要件2)3) 知っている 106.4 ± 11.8 .000 82.5 .162 31.3 ± 3.5 .002 102.4 .000 97.6 .001
知らない 95.8 ± 14.2 70.2 28.2 ± 4.8 65.6 66.7
加算2の算定要件2)3) 知っている 106.4 ± 11.8 .000 82.5 .139 31.3 ± 3.5 .002 102.3 .000 97.5 .000
知らない 95.5 ± 14.0 69.6 28.1 ± 4.8 65.0 66.1
相談場所を知っているか 知っている 99.4 ± 13.4 .003 75.2 .083 29.4 ± 4.4 .000 76.6 .009 75.9 .033
知らない 90.0 ± 16.4 59.5 25.7 ± 5.4 52.8 56.4
苦手意識 苦手意識1) ρ = –.485 .000 ρ = –.327 .000 ρ = –.496 .000 ρ = –.388 .000 ρ = –.376 .000
苦手意識(2群)2)3) 有り 94.4 ± 13.0 .000 64.6 .000 27.5 ± 4.4 .000 64.7 .000 63.6 .000
無し 107.7 ± 13.1 92.3 32.3 ± 4.0 92.2 95.4

1)Spearmanの順位相関分析ρ = Spearmanの順位相関係数 2)(対応のない)t検定 3)マンホイットニーのU検定 ※網掛けは1)~3)の検定結果p < 0.05であったもの

※DPWN合計得点,II「患者・家族への意思決定支援」の合計得点は正規分布していたため,(対応のない)t検定を行った.I「患者・家族からの情報収集」III「社会資源の活用」IV「院内外の多職種連携」の合計得点は正規分布していなかったため,マンホイットニーのU検定を行った.

4. 終末期がん患者に対する退院支援の自己評価と関連要因

病棟看護師の終末期がん患者に対する退院支援の自己評価は,因子分析の結果,4因子が抽出され,因子負荷量が0.4以上であること,複数の因子に0.4以上の因子負荷を示さないことを確認し,質問項目全体のクロンバックα係数0.954であり,点数化して分析することが可能であると判断した.

基礎集計結果を表4,関連要因との分析結果を表5に示した.質問項目別で最も平均値が高かったのは,家族への余命や告知,療養についての要望確認4.3点,低かったのは患者,家族,医療者の思いのずれの調整3.9点であった.合計得点は,108点満点中,平均点は73.3 ± 12.0,最小値は23.0点,最大値は100.0点,中央値は72.0点であった.

表4  病棟看護師の終末期がん患者に対する退院支援の自己評価 n = 141
質問項目 中央値 平均値 ± 標準偏差 4因子(I~IV)の平均値 ± 標準偏差
I 終末期がん患者の退院のタイミングや症状緩和に関する援助 1 退院のタイミングを逃さないように,速やかに他職種へ相談する 4.0 3.9 ± 0.8 4.0 ± 0.7
2 終末期がん患者の症状緩和の方針を医師に確認する 4.0 4.3 ± 0.8
3 患者に適した症状緩和の方法を医師に提案する 4.0 3.8 ± 0.9
4 在宅での生活リズムを考慮しながら鎮痛剤の内服時間を調整する 4.0 4.0 ± 0.8
5 鎮痛剤のタイミングを掴めるよう患者とともに使用効果を評価する 4.0 4.1 ± 0.8
II 患者への余命や告知,療養についての要望確認 6 患者に告知の有無を確認する 4.0 4.2 ± 1.0 4.0 ± 0.8
7 患者に余命の理解を確認する 4.0 3.6 ± 1.0
8 患者に望む療養場所の確認をする 5.0 4.5 ± 0.9
9 患者に望む看取り場所の確認をする 4.0 3.9 ± 1.0
10 患者に望む処置やケアを確認する 4.0 4.0 ± 1.0
III 家族への余命や告知,療養についての要望確認 11 家族に告知の有無を確認する 4.0 4.3 ± 1.0 4.3 ± 0.8
12 家族に余命の理解を確認する 4.0 4.2 ± 0.9
13 家族に望む療養場所の確認をする 4.0 4.4 ± 0.8
14 家族に望む看取り場所の確認をする 4.0 4.2 ± 0.9
15 家族に望む処置やケアの確認をする 4.0 4.2 ± 0.9
IV 患者,家族,医療者の思いのずれの調整 16 患者と家族の思いのずれを調整する 4.0 3.8 ± 0.9 3.9 ± 0.8
17 医療者間の思いのずれを調整する 4.0 4.0 ± 0.8
18 患者・家族と医療者間の思いのずれを調整する 4.0 3.9 ± 0.8
表5  病棟看護師の終末期がん患者に対する退院支援の自己評価と関連要因 n = 141
関連要因 I II III IV
自己評価合計得点 終末期がん患者の退院のタイミングや症状緩和に関する援助 患者への余命や告知,療養についての要望確認 家族への余命や告知,療養についての要望確認 患者,家族,医療者の思いのずれの調整
平均 ± 標準偏差またはρ値 p ρ値または平均順位 p ρ値または平均順位 p ρ値または平均順位 p ρ値または平均順位 p
属性 年齢1) ρ = .214 .014 ρ = .295 .001 ρ = .049 .582 ρ = .227 .009 ρ = .096 .277
経験年数1) ρ = .211 .016 ρ = .321 .000 ρ = .028 .749 ρ = .226 .010 ρ = .094 .286
職位2) スタッフ 73.2 ± 12.3 .502 68.9 .074 70.3 .818 68.7 .304 70.6 .668
管理職 75.2 ± 9.8 77.2 68.0 78.9 66.3
病棟看護師の経験 介護支援専門員の資格2)3) 有り 79.0 ± 20.7 .419 94.2 .291 77.8 .732 75.8 .796 86.7 .459
無し 73.3 ± 11.8 69.5 69.8 69.9 69.6
在宅看護論の履修2)3) 有り 73.5 ± 11.4 .725 66.1 .235 69.2 .742 69.1 .754 70.8 .265
無し 72.7 ± 13.6 75.0 66.7 66.8 62.5
訪問看護の実習や職業経験2)3) 有り 74.4 ± 11.5 .178 72.1 .351 72.0 .375 71.4 .523 72.7 .223
無し 71.4 ± 12.9 65.3 65.5 66.8 63.9
終末期がん看護の学習経験2)3) 有り 74.9 ± 11.9 .006 76.0 .001 73.9 .030 75.2 .004 72.8 .123
無し 68.2 ± 11.1 49.1 56.3 52.0 60.4
退院支援に関する学習経験2)3) 有り 75.4 ± 11.9 .047 79.3 .005 71.6 .634 76.5 .048 75.5 .090
無し 71.4 ± 11.8 60.3 68.4 63.2 64.2
在宅で家族の介護経験2)3) 有り 77.2 ± 12.9 .062 92.2 .001 76.7 .320 78.6 .201 77.7 .248
無し 72.5 ± 11.6 64.4 68.3 67.8 68.1
在宅で家族の看取り経験2)3) 有り 76.2 ± 10.5 .394 79.4 .377 78.7 .410 79.3 .375 69.8 .952
無し 73.2 ± 12.1 69.0 69.1 69.0 70.0
終末期がん患者を自宅退院につなげた経験2)3) 有り 75.7 ± 10.9 .002 76.2 .014 73.6 .149 77.8 .002 76.8 .006
無し 69.3 ± 12.8 58.7 63.4 55.6 57.6
在宅療養後の情報提供を受けた経験2)3) 有り 76.3 ± 10.9 .001 76.9 .008 76.4 .014 77.9 .002 76.9 .008
無し 69.3 ± 12.5 58.7 59.4 57.1 58.7
退院支援に関する知識 退院支援加算が設定されたことを知っているか2)3) 知っている 74.1 ± 11.8 .113 73.6 .014 71.9 .203 71.9 .193 71.5 .293
知らない 69.7 ± 12.8 50.8 60.0 59.9 619
働いている病院の加算の種類2)3) 知っている 76.3 ± 11.0 .079 85.3 .009 79.3 .124 76.4 .291 74.0 .537
知らない 72.3 ± 12.2 65.2 67.4 68.4 69.3
加算1の算定要件2)3) 知っている 78.2 ± 10.6 .025 92.5 .003 90.6 .006 82.2 .105 77.1 .358
知らない 72.3 ± 12.1 65.7 66.1 68.0 69.1
加算2の算定要件2)3) 知っている 78.2 ± 10.6 .022 92.4 .002 90.4 .005 82.0 .094 76.6 .356
知らない 72.1 ± 12.0 65.1 65.5 67.4 68.6
相談場所を知っているか2)3) 知っている 74.5 ± 10.8 .043 74.6 .009 72.2 .274 73.1 .086 73.1 .086
知らない 67.5 ± 15.6 50.8 62.3 57.8 57.8
苦手意識 苦手意識1) ρ = –.400 .000 ρ = –.430 .000 ρ = –.285 .001 ρ = –.358 .000 ρ = –.318 .000

1)Spearmanの順位相関分析ρ = Spearmanの順位相関係数 2)マンホイットニーのU検定 3)(対応のない)t検定 ※網掛けはp < 0.05

※自己評価合計得点は正規分布していたため,(対応のない)t検定を行った.その他の合計得点は正規分布していなかったため,マンホイットニーのU検定を行った.

病棟看護師の終末期がん患者に対する退院支援の自己評価への関連要因には,年齢,経験年数,苦手意識,終末期がん看護の学習経験,終末期がん患者を自宅退院につなげた経験,在宅療養後に情報提供を受けた経験,退院支援の知識であった.

Ⅴ. 考察

1. DPWNの得点

退院支援の自己評価に関する質問項目の中で,患者・家族からの情報収集の項目の点数が高く,社会資源の活用に関する項目の得点が低い結果は,DPWNを用いたSakai et al.(2016)林ら(2018)坂井ら(2015)西山・関井(2019)の研究と同様である.患者・家族からの情報収集は,終末期がん患者にかかわらず,退院支援のスクリーニングのために必要不可欠であることから,退院支援実践の自己評価は高かったと考えられる.がん患者は,最後の2ヶ月で急速に機能が低下する特性上(Lynn, 2001),訪問看護や訪問診療,訪問介護,福祉用具貸与などが重要になる.しかし,介護保険サービスは年齢制限があり,壮年期のがん患者では社会資源の利用に困難を抱えていることから(大園ら,2012),壮年期も含まれる終末期がん患者の社会資源は複雑となっている.これらの背景から社会資源の活用に関する項目の得点が低かったと考えられる.社会資源活用の自己評価向上を目指すには,社会資源の活用に関する項目の得点への関連していた退院支援に関する学習経験や自宅退院につなげた経験,退院支援に関する知識などを獲得できる機会を設けていく必要があると考える.訪問看護師や退院調整部門と協働することや,社会資源活用の自己評価向上の一助になると考えられる.

2. 終末期がん患者に対する退院支援の自己評価

終末期がん患者に対する退院支援の自己評価の質問項目の中で,患者の余命確認は,最も自己評価が低かった.そして,患者本人に対する告知や余命の理解の確認,本人とその他関係者との思いのずれに関連した項目の自己評価も他に比べると3点台と低かった.これらの項目は,すべての患者本人の意思確認が関連している項目である.これらの項目の自己評価が低かった背景は,終末期患者では,家族から「余命については言わないで欲しい」といった希望があることや,病名告知はされているものの,余命の告知はそれよりも低いこと(小松・島谷,2017)が考えられる.越野ら(2019)は,大学病院の看護師にがん看護に対する困難感を2回調査し,6年間経過後,がん看護に関する知識は向上しているものの,告知を受けていない患者とのコミュニケーションの困難感がさらに高なったと報告している.本研究では,「患者への余命や告知,療養についての要望確認」,「患者,家族,医療者の思いのずれの調整」に関連していたものは,終末期がん患者を自宅退院につなげた経験,在宅療養後の情報提供を受けた経験,苦手意識であった.患者本人への意思確認については,がん看護や退院支援に関する学習よりも,実際に終末期がん患者の退院支援に関わることが重要であると考えられた.

3. 病棟看護師の終末期がん患者に対する退院支援の実践の自己評価に関連する要因

これまでの研究では,退院支援の実践や自己評価への関連要因として,病棟看護師の看護師経験年数や訪問看護経験,研修会などの学習経験,年代や介護経験,がん患者退院支援経験と成功体験などが報告されている(木場・斎藤,2017).本研究では,先行研究の結果に加え,看護師の年齢,終末期がん患者を自宅退院につなげた経験,在宅療養中の情報提供を受けた経験,退院支援に関する知識(退院支援加算について等の知識など5項目),苦手意識が関連要因としてあがった.そして,DPWN,終末期がん患者に対する退院支援の自己評価の関連要因は共通していた.本研究の対象は,経験年数は平均12.9 ± 10.9年と10年以上で,終末期がん患者の退院支援経験者であったが,自宅退院につなげた経験がある看護師は65.0%と高くはなかった.このことから,自宅退院につなげた経験のある病棟看護師が,経験のない病棟看護師と一緒に振り返る機会を設けること,退院後の生活に関する情報提供を在宅ケア関係者に依頼することは,今後看護師の退院支援自己評価を高めることにつながると考える.特に対象としたA病院は,23病棟を有して病床数や病棟数が多いことから,手術室やICUなどから病棟に異動になることも多く,看護師経験年数とがん患者への看護経験や退院支援経験が比例するとは限らないことから共有する方法の確立が期待される.苦手意識について調べたものは,手術室看護師の術前訪問の苦手意識と術前訪問実施行動に関連がみられたものがある(吉川・白田,2010).積極的な看護実践につなげるためには,苦手意識の改善が必要であることは本研究でも同様であるといえる.このことから,退院後における在宅療養中の患者の情報提供を受けられるシステムを作り,苦手意識の改善への方策,退院支援についての学習機会を設けていく必要がある.また,病棟看護師の90%以上が,終末期がん患者の在宅移行支援に困難感を感じていることが報告されている.終末期がん患者の退院支援においては病棟看護師が中心となり,退院支援を実施していくことが予測される.退院支援に関する困難感をなくし積極的に病棟看護師が終末期がん患者の退院支援に関わるためには病棟看護師の終末期がん患者への退院支援の自己評価を向上させることは重要であると考える.

Ⅵ. 結論

病棟看護師の終末期がん患者に対する退院支援の実践の自己評価は,患者・家族からの情報収集,家族への余命や告知,療養についての要望確認について高く,社会資源の活用,患者・家族・医療者の思いのずれの調整についての自己評価は低かった.関連要因の検討では,苦手意識が少なく,終末期がん患者を自宅退院につなげた経験,在宅療養後の情報提供を受けた経験,退院支援に関する知識を有する病棟看護師は自己評価が高かった.以上から,病棟看護師への支援として,退院後の患者の情報提供を受けられるシステム作り,苦手意識の改善への方策,退院支援の学習機会の必要性が示唆された.

Ⅶ. 本研究の限界と課題

1点目は,調査対象施設を1施設のみとした点であり,研究解釈の限界がある.退院支援に関する取り組みは,病院毎,地域毎によって異なり,病院毎の特徴や地域の取り組みに関したことも考慮した調査が求められる.2点目は,本調査は看護師の自己評価の調査であり,実践実態を調査したものではないことから,退院支援専任看護師やケアマネージャー等の他者評価と差異が生じている可能性がある.今後は,病棟看護師の終末期がん患者に対する退院支援の実践の実態についても調査が求められる.しかし,今回の関連要因から,病棟看護師の退院支援の経験が関連していることが予測されるため,経験の程度や今後は受け持ち患者など退院支援を行った患者毎の退院支援についても調査していく必要がある.

Ⅷ. 結論

病棟看護師の終末期がん患者に対する退院支援の実践の自己評価は,患者・家族からの情報収集,家族への余命や告知,療養についての要望確認について高く,社会資源の活用,患者・家族・医療者の思いのずれの調整についての自己評価は低かった.関連要因の検討では,苦手意識が少なく,終末期がん患者を自宅退院につなげた経験,在宅療養後の情報提供を受けた経験,退院支援に関する知識を有する病棟看護師は自己評価が高かった.以上から,病棟看護師への支援として,退院後の患者の情報提供を受けられるシステム作り,苦手意識の改善への方策,退院支援の学習機会の必要性が示唆された.

謝辞:調査依頼を快諾してくださりました,A病院病院長様,A病院看護部長様,調査用紙の配布や回収にご協力頂きましたA病院看護部の皆様,各病棟師長には深く御礼申し上げます.

また,本研究にご協力頂きましたA病院の病棟看護師の皆様には心より感謝申し上げます.本当にありがとうございました.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:TYは研究の着想,研究デザイン,データ収集,分析解釈,論文執筆の全てに貢献;SM,NMは研究デザイン,データ収集,分析解釈,論文執筆の全てに貢献した.全ての著者は最終原稿を読み,承諾した.

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