2020 Volume 40 Pages 594-601
目的:乳がん術後患者のボディイメージに焦点を当て,身体活動に関連する要因を明らかにする.
方法:乳がん術後女性127人に無記名自記式質問票による横断調査を行い,76人(59.8%)から回答を得た.ボディイメージはBAS-2,身体活動量はIPAQで評価した.欠損値のない53人を対象に相関分析を行った.
結果:通院治療なし群ではボディイメージと中等度以上の活動量間で正の相関(ρ = 0.51),夫との同居と歩行量間で正の相関(ρ = 0.59)があった.通院治療あり群ではボディイメージと活動間で有意関連がなかったが,きょうだいとの同居が中等度以上の活動量と正の相関(ρ = 0.35),ステージ(ρ = –0.37),治療法の数(ρ = –0.39)と歩行量間で負の相関を示した.
結論:乳がん術後患者のボディイメージと身体活動の関連は通院治療有無によって異なり,身体活動を促すには,病状にあわせた支援の必要性が示唆された.
Objective: To determine the factors associated with physical activity in postoperative breast cancer (BC) patients, with a special focus on body image.
Method: In a cross-sectional survey, we used the Body Appreciation Scale-2 and International Physical Activity questionnaires to evaluate body image and physical activity, respectively in 127 females with a history of BC surgery. Then, 53 participants with no missing values for physical activity were enrolled. The relationship between body image and physical activity was examined using correlation analysis.
Results: In women without outpatient treatment, positive correlations were observed between body image and moderate- to high-intensity physical activity (p = 0.51) and between living with a spouse and the amount of walking (p = 0.59). Conversely, in women with outpatient treatment, there was no significant relationship between body image and physical activity. Besides, while living with siblings was positively associated with moderate- to high-intensity physical activity (p = 0.35), BC stage and the number of treatment types were negatively correlated with the amount of walking (p = –0.37 and –0.39, respectively).
Conclusion: The relationship between body image and physical activity varied depending on the presence or absence of outpatient treatment. Supportive intervention programs tailored to the patient’s medical condition may improve physical activity in postoperative BC patients.
日本人女性11人に1人が乳がんに罹患しており,特に家庭・職場・地域において様々な実質的役割を担っている30歳から64歳の女性において,最も多いがんとなっている(国立がん研究センター,2018).乳がんの生存率は他の悪性腫瘍より比較的高いが,乳がんサバイバーの多くは術後の外見の変化や身体機能の低下,再発や予後への不安を抱いて生活しているため(樋口ら,2008),術後の継続的な支援が求められる.一方,生活の中に運動を取り入れると,術後に肩や腕が動きやすくなり,リンパ浮腫の予防やしびれが軽減する効果があること(Devoogdt et al., 2010),中等度以上の身体活動は,乳がん死亡リスクを低下させること(Zhong et al., 2014)が先行研究で明らかになっている.しかし,乳がんサバイバーの多くは,身体活動を十分に行っていないことが報告されている(Sabiston & Brunet, 2012).
がんサバイバーの身体活動を低下させる要因として,主に日常生活に支障をきたすレベルの倦怠感が挙げられている(Bower et al., 2003;山内・中村,2015).一方,近年海外で行ったコホート研究では,乳がんサバイバーの身体変化による羞恥心と罪悪感は,身体活動を阻害する要因であることを明らかにした(Castonguay et al., 2017).手術療法は乳がん治療方法の第1選択肢として,約9割が手術を受けている(全国がんセンター協議会,2018).乳房切除術はもちろんのこと,乳房温存術であっても乳房の変形は避けがたく,変形や喪失によるボディイメージへの影響は大きい(砂賀・二渡,2008).ボディイメージとは,自分自身の体に対する個人的な思いであり,経験や状況の中で刻々と変化すると言われている(齋藤ら,2002).乳がん術後患者を対象とした質的研究では,多くが自分の体は手術によって,個人としても女性としても半分欠けていると感じ,自分の体の変化を否定的に捉えていた(Sema & Ayla, 2016).また乳がん治療を受けてから1年未満の女性を対象に行った研究からは,74.8%の女性が術後の自分の身体に不満を感じており,多職種医療専門家からのフォローを受けなかった女性はよりネガティブボディイメージを持っていることが分かった(Guedes et al., 2018).また,乳がん術後患者を対象とした面接調査からは,「薄着になった時の事,温泉の事を考えると不安になる」「外に出ていく自信がない」「しばらく家にいたい」といった身体の外見に対する自信のなさから,社会活動や身体活動意欲が低いことが示された(齋藤ら,2002).乳房手術によるネガティブボディイメージは,身体活動だけではなく,社会参加,そしてQOLにも負の影響を与えることが推測される.
しかし,日本の先行研究の多くは,術後乳がん患者のボディイメージの変容や不安についての質的研究や実態調査であり,ボディイメージと身体活動の関連を調べた研究は見当たらない.そこで本研究では,日本の術後乳がん患者を対象に,ボディイメージに焦点を当て,身体活動に関連する要因を明らかにすることを目的とし,調査を行った.この結果は,乳がん術後患者の身体活動を促す支援方法を検討する際の有用な情報提供になると考える.
無記名自記式質問紙を用いた横断調査.
2. 調査対象本研究への協力が得られたA県内の乳腺外来病院(5施設)に通院している乳がん術後患者と乳がん患者会に参加しておりかつ乳がん手術を受けたことがある女性を対象とした.計127人(外来患者92人;患者会参加患者35人)に,調査への協力を依頼した.
3. 調査期間2018年12月1日~2019年4月30日
4. 調査方法対象施設では外来受付窓口担当者から,患者会では集会時に会長から対象の乳がん術後患者に研究協力の依頼書と質問紙一式を手渡した.回答後の質問紙は,各施設に設置した回収ボックスに投函,または直接研究者あてに郵送する方法で回収した.質問紙の返信をもって本研究への協力に同意したこととした.
5. 調査内容 1) 身体活動量信頼性・妥当性が確認された国際標準化身体活動質問票(IPAQ)の日本語版短縮版(村瀬ら,2002)を用いて評価した.IPAQは平均的な1週間における身体活動の日数および時間から身体活動量を算出するものである.消費カロリー計算ツールである身体活動のMETs(Metabolic equivalents)表の改訂版(国立健康・栄養研究所,2012)を用いて,IPAQの各項目に設定された身体活動の強度に,身体活動日数と時間を掛け合わせたものを合計し,平均的な1週間の身体活動量(METs·min/week)を算出した.身体活動は,歩行,中等度,強度に分類され,歩行は「3.3 × 1日あたりの歩行時間(分)×1週間あたりの歩行を行う日数」,中等度は「4.0 × 1日あたりの中等度の身体活動の時間(分)×1週間あたりの中等度の身体活動を行う日数」,強度は「8.0 × 1日あたりの強い身体活動の時間(分)×1週間あたりの強い身体活動を行う日数」で計算する.総身体活動量は,「歩行量+中等度の身体活動量+強度の身体活動量」で算出する.
2) ボディイメージ日本語版Body Appreciation Scale-2(BAS-2)を用いて評価した.BAS-2は自分の身体に対する満足感や外見への好意的な評価を示すポジティブボディイメージを包括的かつ簡便に測定できる尺度である(表2).計10項目からなり各項目は「1.全くない」から「5.いつもある」の5段階で評価し,合計得点が高いほどポジティブボディイメージの傾向を示す.尺度の信頼性・妥当性も証明されている(生田目ら,2017).
3) 対象者の概要年齢,同居家族,就業状況,趣味,乳がん以外に治療中の疾患,手術方法,がんステージ,術後経過年数,治療方法,年通院回数,身体症状などについて回答を得た.
6. 分析方法身体活動量はがんステージや疲労感など病状や治療による副作用の影響を受けることが明らかになっているため,本研究では乳がん治療の目的で通院している「通院治療あり群」と,「通院治療なし群」に分けて分析した.1)両群の背景とボディイメージ得点の分布は単純集計で把握し,Mann-Whitney U検定とカイ二乗検定(Fishersの直接法)で比較した.2)ボディイメージ得点と身体活動量の中央値と四分位範囲を算出し,Mann-Whitney U検定を用いて両群間の差を調べた.3)患者の背景,ボディイメージ得点,身体活動量間のSpearman相関係数を算出し,変数間の関連を調べた.なお,統計解析は統計ソフトSPSS ver. 25を用い,有意水準は0.05とした.
7. 倫理的配慮本研究は,岐阜医療科学大学研究倫理審査委員会の承認(30-17)を得て実施した.対象者には研究の主旨と方法,調査は無記名であること,回答は自由意思であり,回答しないことで不利益が生じないこと,調査票は厳重に保管・管理し,得られたデータは本研究の目的以外には利用しないことなどを文書で説明し,質問紙の返信をもって同意が得られたものとした.
127人のうち76人から回答を得た(回収率は59.8%).そのうち,身体活動量に欠損値のない53人を分析対象とした.通院治療あり群は34人,なし群は19人であった.
1. 対象者の背景とボディイメージ得点の分布対象年齢は中央値が60歳で,夫との同居が77.4%,就業ありが56.6%であった.術後経過年数の中央値は4.1年で,ステージII以上が45.3%,乳房全摘出手術が58.5%であった.通院治療あり群はなし群より術後経過年数が有意に短く(中央値1.7年と12年),年間6回以上通院している割合(47.1%と0%),内分泌治療を受けている割合(70.6%と0%)が有意に高かった.患者会参加割合は,通院治療なし群が78.9%と,あり群の26.5%より有意に高かった.その他の項目では,両群間で有意差が認められなかった(表1).
全体(n = 53) | 通院治療あり(n = 34) | 通院治療なし(n = 19) | p | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
n | % | n | % | n | % | ||
年齢 Med(25%th~75%th) | 60(49.5~68.25) | 58(47.8~64.5) | 63(56.0~71.0) | .069 | |||
同居家族(複数回答) | |||||||
夫 | 41 | 77.4 | 28 | 82.4 | 13 | 68.4 | .311 |
子ども | 32 | 60.4 | 23 | 67.6 | 9 | 47.4 | .241 |
父(義父) | 5 | 9.4 | 4 | 11.8 | 1 | 5.3 | .643 |
母(義母) | 11 | 20.8 | 7 | 20.6 | 4 | 21.1 | 1.000 |
きょうだい | 3 | 5.7 | 3 | 8.8 | 0 | 0.0 | .545 |
就業状況 | |||||||
あり | 30 | 56.6 | 20 | 58.8 | 10 | 52.6 | .775 |
なし | 23 | 43.4 | 14 | 41.2 | 9 | 47.4 | |
趣味(複数回答) | |||||||
アウトドア | 24 | 45.3 | 12 | 35.3 | 12 | 63.2 | .084 |
インドア | 33 | 62.3 | 24 | 70.6 | 9 | 47.4 | .140 |
なし | 8 | 15.1 | 4 | 11.8 | 4 | 21.1 | .436 |
治療中の病気(乳がん以外) | |||||||
あり | 20 | 37.7 | 13 | 38.2 | 7 | 36.8 | 1.000 |
なし | 33 | 62.3 | 21 | 61.8 | 12 | 63.2 | |
術後経過年数 | |||||||
Med(25%th~75%th) | 4.1(1.2~10.5) | 1.7(0.8~4.3) | 12(6.5~14.1) | .001 | |||
ステージ | |||||||
I | 26 | 49.1 | 16 | 47.1 | 10 | 52.6 | .706 |
II以上 | 24 | 45.3 | 16 | 47.1 | 8 | 42.1 | |
無回答 | 3 | 5.7 | 2 | 5.9 | 1 | 5.3 | |
乳がん手術方法 | |||||||
乳房切除術(全摘出) | 31 | 58.5 | 20 | 58.8 | 11 | 57.9 | 1.000 |
乳房温存術(部分切除) | 22 | 41.5 | 14 | 41.2 | 8 | 42.1 | |
乳房再建術 | |||||||
あり | 3 | 5.7 | 1 | 2.9 | 2 | 10.5 | .290 |
なし | 50 | 94.3 | 33 | 97.1 | 17 | 89.5 | |
年間通院回数 | |||||||
6回未満 | 37 | 69.8 | 18 | 52.9 | 19 | 100.0 | .001 |
6回以上 | 16 | 30.2 | 16 | 47.1 | 0 | 0.0 | |
治療方法の種類(複数回答) | |||||||
放射線治療 | 5 | 9.4 | 5 | 14.7 | 0 | 0.0 | .147 |
抗がん剤治療(化学療法) | 5 | 9.4 | 5 | 14.7 | 0 | 0.0 | .147 |
内分泌療法(ホルモン剤) | 24 | 45.3 | 24 | 70.6 | 0 | 0.0 | .001 |
身体症状(複数回答) | |||||||
倦怠感 | 17 | 32.1 | 13 | 38.2 | 4 | 21.1 | .554 |
リンパ浮腫 | 8 | 15.1 | 4 | 11.8 | 4 | 21.1 | .425 |
腕が上がりにくい | 18 | 34.0 | 12 | 35.3 | 6 | 31.6 | 1.000 |
腕のしびれ | 10 | 18.9 | 8 | 23.5 | 2 | 10.5 | .462 |
痛み | 18 | 34.0 | 13 | 38.2 | 5 | 26.3 | .548 |
治療による副作用 | 10 | 18.9 | 5 | 14.7 | 5 | 26.3 | .287 |
患者会への参加 | |||||||
あり | 24 | 45.3 | 9 | 26.5 | 15 | 78.9 | .001 |
なし | 29 | 54.7 | 25 | 73.5 | 4 | 21.1 |
p:Mann-Whitney U test or χ2 test(Fishersの直接法)
Mean ± SD | p | |||
---|---|---|---|---|
全体 | 通院治療あり | 通院治療なし | ||
1.自分の身体を尊重している | 3.65 ± 1.10 | 3.59 ± 1.13 | 3.78 ± 1.06 | 0.576 |
2.自分の身体のことをよいと感じている | 3.25 ± 1.27 | 3.09 ± 1.24 | 3.56 ± 1.29 | 0.144 |
3.自分の身体にも少しはよいところがあると感じている | 3.35 ± 1.08 | 3.26 ± 1.05 | 3.50 ± 1.15 | 0.384 |
4.自分の身体に肯定的である | 3.48 ± 1.11 | 3.41 ± 1.10 | 3.61 ± 1.14 | 0.472 |
5.自分の身体が必要とすることに注意を払っている | 3.77 ± 1.06 | 3.74 ± 1.11 | 3.83 ± 0.99 | 0.833 |
6.自分の身体に愛情を感じる | 3.80 ± 1.09 | 3.79 ± 1.09 | 3.81 ± 1.11 | 0.948 |
7.自分の身体の他人と異なる部分を受け入れている | 3.58 ± 1.09 | 3.56 ± 1.05 | 3.61 ± 1.20 | 0.702 |
8.自分の身体に対する肯定的な姿勢が行動に表れている(例:顔を上げて,笑顔を見せる) | 3.48 ± 1.15 | 3.50 ± 1.02 | 3.44 ± 1.38 | 0.937 |
9.自分の身体が心地よい | 3.04 ± 1.11 | 2.88 ± 1.04 | 3.35 ± 1.22 | 0.227 |
10.メディアで目にする魅力的な人々のイメージと異なって いても自分は美しいと感じる | 2.37 ± 1.19 | 2.44 ± 1.16 | 2.22 ± 1.26 | 0.462 |
合計得点 | 34.02 ± 9.04 | 33.26 ± 8.71 | 35.63 ± 9.80 | 0.252 |
p:Mann-Whitney U test
ボディイメージ尺度のCronbachのα係数は0.93であった.項目10「メディアで目にする魅力的な人々のイメージと異なっていても自分は美しいと感じる」は両群とも平均値が3点未満で最も低かった.通院あり群は,項目9「自分の身体が心地よい」も平均値が3点未満で低かった.なお,すべての項目において両群間で有意差が認められなかった.
2. 通院治療あり群となし群の身体活動量の比較表3は,通院治療あり群となし群の身体活動量の分布を中央値(四分位範囲)で示したものである.歩行量と中等度の身体活動量ともに,分布のばらつきが大きく,強度の身体活動量は両群とも中央値と四分位範囲が0であった.有意ではないが,通院治療あり群はなし群より,歩行量は多い(中央値がそれぞれ594と198 METs·min/week)が,中等度の身体活動量は少なかった(中央値がそれぞれ0と240 METs·min/week).
全体(n = 53) | 通院治療あり(n = 34) | 通院治療なし(n = 19) | p | |
---|---|---|---|---|
Median(25%th~75%th) | Median(25%th~75%th) | Median(25%th~75%th) | ||
歩行量 | 528.0(99.0~1534.5) | 594.0(156.8~1980.0) | 198.0(0.0~990.0) | .097 |
中等度の身体活動量 | 0.0(0.0~480.0) | 0.0(0.0~360.0) | 240.0(0.0~960.0) | .117 |
強度の身体活動量 | 0.0(0.0~0.0) | 0.0(0.0~0.0) | 0.0(0.0~0.0) | .815 |
総身体活動量 | 888.00(306.0~2772.0) | 981.0(285.0~3129.0) | 720.0(320.0~2772.0) | .801 |
p:乳がん通院治療あり群となし群間の身体活動量のMann-Whitney U test 身体活動量単位:METs·min/week
表4で示した通り,ボディイメージ得点と身体活動量の間では有意な関連が認められなかったが,「きょうだいとの同居」は中等度以上の身体活動と正の相関(ρ = 0.35)を示し,がんステージ(ρ = –0.37),受けている治療タイプの数は歩行量(ρ = –0.39),総身体活動量(ρ = –0.42)と負の相関を示した.
ボディイメージ得点 | 歩行量 | 中等度以上身体活動量 | 総身体活動量 | 夫との同居 | 母との同居 | きょうだいとの同居 | 通院回数 | がんのステージ | 治療の数 | 身体症状の数 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
歩行量 | –.14 | 1.00 | |||||||||
中等度以上身体活動量 | –.31 | .22 | 1.00 | ||||||||
総身体活動量 | –.22 | .85** | .50** | 1.00 | |||||||
夫との同居(ありvsなし) | –.07 | .13 | –.21 | .13 | 1.00 | ||||||
母との同居(ありvsなし) | .31 | .00 | .13 | –.04 | –.15 | 1.00 | |||||
きょうだいとの同居(ありvsなし) | .14 | .21 | .35* | .20 | –.13 | .61** | 1.00 | ||||
通院回数 | –.42* | .23 | –.01 | .15 | .28 | .10 | .12 | 1.00 | |||
がんのステージ | –.36* | –.37* | –.06 | –.31 | .00 | –.23 | –.11 | .25 | 1.00 | ||
治療法の数 | –.01 | –.39* | –.22 | –.42* | .00 | .27 | .00 | .22 | .42* | 1.00 | |
身体症状の数 | –.39* | –.04 | .09 | –.03 | .11 | –.06 | .09 | .45** | .59** | .32 | 1.00 |
患者会への参加(ありvsなし) | .39* | –.22 | –.26 | –.29 | .10 | .19 | –.19 | –.30 | –.14 | .25 | –.26 |
* p < 0.05 ** p < 0.01;値はspearman相関係数
表5で示した通り,ボディイメージ得点は中等度以上の身体活動(ρ = 0.51)と正の相関を示した.また,夫との同居は歩行量(ρ = 0.59),総身体活動量(ρ = 0.64)と正の相関があった.一方,母との同居は中等度以上の身体活動と負の相関(ρ = –0.57)があった.
ボディイメージ得点 | 歩行量 | 中等度以上身体活動量 | 総身体活動量 | 夫との同居 | 母との同居 | がんのステージ | 身体症状の数 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
歩行量 | –.23 | 1.00 | ||||||
中等度以上身体活動量 | .51* | –.38 | 1.00 | |||||
総身体活動量 | .02 | .73** | .09 | 1.00 | ||||
夫との同居(ありvsなし) | .09 | .59** | –.15 | .64** | 1.00 | |||
母との同居(ありvsなし) | –.47 | .12 | –.57* | –.12 | .07 | 1.00 | ||
がんのステージ | –.03 | –.19 | –.19 | –.28 | –.08 | .06 | 1.00 | |
身体症状の数 | .11 | .20 | .15 | .16 | .14 | .21 | .23 | 1.00 |
患者会への参加(ありvsなし) | –.09 | –.02 | .28 | –.02 | –.07 | .27 | –.06 | –.04 |
* p < 0.05 ** p < 0.01;値はspearman相関係数
本研究では,乳がん術後患者のボディイメージ得点と身体活動量の関連は,通院治療なし群では正の関連を示したが,通院治療あり群では関連を示さず,身体活動量はがんステージや受けている治療数と負の相関を示した.
乳がん術後患者のボディイメージ得点は,体の外見を評価している項目のみが3点未満と低く,他の項目はすべて3点以上であった.しかし,一般女性を対象に同じBAS-2を用いた海外の先行研究(Tylka & Wood-Barcalow, 2005)では,すべての項目が3点以上であったことから,乳がん手術を受けた女性は,自分の身体のことを尊重し受け入れているものの,手術で変わったしまった体の外見に対しては,一般女性より低く評価していることが考えられる.
通院治療なし群においてボディイメージ得点が高いほど中等度以上身体活動が有意に高い正の相関が得られた本研究の結果はカナタで行った前向きコホート研究結果を支持する.この先行研究では,乳がん術後に身体関連羞恥心が強い患者ほど中等度以上の身体活動量がより減少していた(Castonguay et al., 2017).身体関連羞恥心とは,自分の体を否定的に捉えるネガティブボディイメージに近い感情であると言える.この先行研究では身体活動を妨げる健康上の問題がない乳がん術後患者を対象としており,本研究の通院治療なし群と近似した対象であると言える.乳がん術後患者は生存の差し迫った脅威がなくなると,身体の変化による感情的な混乱や健康上のリスクが増加すると言われている(Fang et al., 2014).手術によってがんが取り除かれると,緊張や不安は徐々に軽減されるが,時間の経過や体の回復とともに現実の日常生活に戻り,社会参加が増えるにつれ乳房の喪失や変形を実感するようになり,それが憂鬱な感情を招き,身体活動意欲に負の影響を与えると考えられる.本研究の通院治療なし群はあり群より術後経過年数が長く(中央値が12と1.7),約8割近くが患者会に参加していたことから,通院治療なし群において身体活動量がボディイメージの影響を受けていたことが推測される.これらのことから,比較的病状が安定し身体活動に支障をきたす健康上の問題がない乳がん術後患者に対しては,ボディイメージや感情のアセスメントを行い,ネガティブなボディイメージを抱かないような支援,または自尊感情を高める介入プログラムの検討が必要と考える.
一方,本研究対象の通院治療あり群においては,ボディイメージと身体活動量間に有意な関連が認められなかった.この結果は,通院治療が必要な乳がん術後患者は,病状が重いため,体の外見より身体の苦痛症状による不安が身体活動量に負の影響を与える可能性が考えられる.がんサバイバーの身体活動量低下には,がんのステージや握力や下痢(Park et al., 2019),日常生活に支障をきたすレベルの倦怠感(Bower et al., 2000)が挙げられている.乳がんサバイバーを対象とした山内・中村(2015)の研究では,倦怠感スコアと一日の平均歩数は中程度の負の相関があり,ホルモン治療中の女性の8割以上が強い倦怠感を抱えていた.病状が重いと仕事や日常生活,または趣味としてのウォーキング,散歩などの軽度身体活動も難しいことが考えられる.本研究で通院治療を受けている女性の3割以上に倦怠感,腕が上がりにくい,痛みなど身体活動を妨げうる健康上の問題を抱えており,7割がホルモン治療を受けていた.また,乳がんステージが高いほど歩行量が有意に少なく,複数治療を受けるほど歩行量と総身体活動量が有意に少ない結果であった.通院治療を受けている女性の身体活動は,ボディイメージより身体症状の影響を受けやすいかも知れない.そのため,通院治療を受けている患者に対しては,身体活動の重要性を認識させ,身体活動のモチベーションを高める支援が求められる.実際,乳がん術後患者を対象に身体活動を促す介入を行った海外の研究では(Park et al., 2019),身体活動の介入効果は,乳がんステージが高い,または身体症状がある群でより高かった.また,別の研究では,乳がん術後患者において,自発的モチベーションが高い人は,身体活動レベルが高い(Brunet et al., 2013)ことも報告されていることから,身体が病弱で活動的ではない,またはステージが高い術後患者に対しては,より注意を払い,身体活動を促す教育や支援が重要である.
本研究にはいくつかの限界がある.サンプルサイズが小さく,横断研究であるため,結果の一般化や因果関係を明らかにすることには限界がある.また,ボディイメージは乳がん患者の感情を考慮しポジティブな側面から評価する尺度を用いたが,乳がん患者専用の指標ではないため,術後ボディイメージを十分反映していない可能性もある.しかし,上記の限界があっても本研究は日本人乳がん術後患者のボディイメージと身体活動の関連を調べた初めての研究として,乳がん術後患者の身体活動を促す支援の在り方を検討する際の有用な情報になると言える.
術後乳がん患者のボディイメージと身体活動量の関連は,通院治療を有する病状の有無によって異なる可能性が示された.この結果から,乳がん術後患者の身体活動を促すためには,病状が安定し身体活動が可能な乳がん術後患者に対しては,ネガティブなボディイメージを抱かないような支援が,病状が重い患者に対しては,身体活動のモチベーションを高める支援が重要であることが示唆された.
付記:本研究は,第23回東アジア看護学研究者フォーラム(23rd EAFONS 2020)で発表した内容の一部である.
謝辞:本研究にご協力いただきました患者様,そして調査遂行にご尽力いただきました医療施設および患者会の責任者とスタッフの皆様に深く感謝申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:TUは研究の着想,研究デザイン,データ収集,分析,解釈,原稿の作成に貢献した.JSは研究デザイン,データ分析,解釈,論文作成に関与した.
JMは研究デザイン,原稿・研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.