Journal of Japan Academy of Nursing Science
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The Family Support Process of Nurses in End-of-Life Care Practice of Elderly inpatients
Mariko YamamotoMikiko Ito
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2020 Volume 40 Pages 602-610

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Abstract

目的:本研究では,実践に比して学術的な関心が当てられてこなかった,病院での明確な意思の確認が困難な終末期高齢者の看取りについて,看護師のEOLC実践における家族支援のプロセスを記述した.

方法:協力が得られた3府県4病院に勤務する看護師19名に高齢患者の看取りの経験について半構造化面接調査を実施し,質的に分析した.

結果:EOLC実践における家族支援のプロセスは,〈病棟の医療チームからEOLCに対する承認や理解を得る〉,〈家族が患者の死(いのちの終わり)を受容できるよう家族の価値観に働きかける〉,〈ケアや看取りに対する家族の評価により家族支援を評価する〉で構成された.

結論:看護師は,病棟内でのコンセンサスのもとでEOLC実践を計画し,治療優先からEOLC実践への転換,展開ができるように家族の価値観に働きかけ,家族と共にEOLC実践ができるようにしていた.

Translated Abstract

Purpose: The purpose of this study was to describe the family support process of nurses in End-of-Life Care (EOLC) practice of elderly inpatients who cannot express their intentions clearly, which has not been paid adequate academic attention whereas it amounts to actual practices.

Methods: The study participants were 19 hospital nurses from four hospitals in three prefectures in Japan and data was collected with semi-structured interviews.

Results: The nursing practices for the terminal elderly inpatients involved three phases: (1) obtaining consensus within the ward’s medical team regarding EOLC nursing practices, which reinforced the practices, (2) guiding the family in preparing to accept the inpatient’s death, and (3) evaluating their nursing practices through the family’s reactions after the patient’s death.

Conclusion: The practice of EOLC for terminal elderly inpatients in hospitals is to consider the patient’s comfort and palliation. Nurses commit their families to be able to accept the inpatient’s dying and support them to provide the patients EOLC.

Ⅰ. 緒言

日本の全死亡者のうち80歳以上が61.3%(厚生労働省,2019b)を占めるような高齢者多死社会において,看取りの場の確保は重要な課題である.諸外国における病院死の割合は4割前後である(Public Health England, 2018Dirk et al., 2014)のに対し,日本では,80歳以上の高齢者の病院での死亡は7割以上を占め,かつその数は高齢化に伴って増加し,2000年と比較し1.93倍,60万5千人にのぼる(厚生労働省,2019a).平成25年の調査では,医療療養病床では死亡退院が37.8%,介護療養病床では36.9%と,「死亡」での退院が最も多くなっている(みずほ情報総研株式会社,2014).たとえ本人や家族が自宅で終末期を迎えることを希望したとしても,核家族化による家族の介護力の限界から,最終的には入院・入所を選択せざるをえない場合も少なくないのが現状である(宮田ら,2004).在宅で療養できない虚弱高齢者は,家族や介護者,あるいは病院や施設の都合で,療養場所を転々としている状況があり,実際に高齢者が病院のベッドを終の住処としていることが少なくない(玉木ら,2017)との報告もある.一方で,ターミナルケア加算が新設された介護老人保健施設(以下老健施設)における死亡数は増加しており,2017年には3万3千人にまで増加し,「死亡」による退所者が12.0%になっている(厚生労働省,2016).老健施設は高齢者にとって,終の棲家として位置づけ可能となり,看取りの場としてもひとつの選択肢となりつつある.

終末期高齢者は,認知症をはじめとして理解や判断,意思表明する能力を著しく低下・喪失している状態であることも多い(Silveria et al., 2010).そのため,高齢者に対する終末期医療については,厚生労働省(2007)が2007年に「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン(2015年には終末期医療は「人生の最終段階における医療」へと名称が変更されたが,本稿では終末期医療と表現する)」を示した.また,2018年には,厚生労働省(2018a)から人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスや認知症の人に対する意思決定支援に関するガイドライン(厚生労働省,2018b)が発表され,本人の意思確認が困難な場合の家族等の推定意思役割の尊重やケアチームによる患者や家族に対する総合的な医療・ケアの必要性などが提唱された.これらのガイドラインが発表されたことを背景に,2010年代以降家族の代理意思決定に関する研究は増加している.国内の既存研究では,園田・石垣(2009)が訪問看護師を対象に行った面接調査のほか,病院や介護保険施設の看護師を対象にしたもの(矢野,2015加藤・百瀬,2014森・杉本,2012曽根ら,2011)など医療従事者を対象とした研究が先行していた.一方で,認知症により本人の意思の確認が困難な一般・療養病棟に入院する患者の治療や延命の方針は,過去の本人の意思が判断材料とされるのが約2割であったのに対し,家族の希望を判断材料とするのが約半数と最も多く(公益社団法人全日本病院協会,2019),家族の意思決定が高齢者の終末期ケアに対して影響を与えていることが明らかにされている.意思決定に関わる家族を対象に行った調査(牧野ら,2020中里ら,2020)はまだ緒についたたばかりである.

終末期医療の難しさについて,長尾(2018)は,日本の文化的背景として,患者の意思を中心にとらえながらも,患者と生活をともにし絆で結ばれている家族を一つの単位として考える傾向があり,「患者本人の意思だけでなく家族にも十分に気を配らなければいけない.ここに日本の終末期医療の最大の特徴と難しさがある」と述べている.

高齢患者の看取りやEnd-of-Life Care(以下,EOLCと略す)に関する先行研究は,主に緩和ケア病棟やホスピスにおける緩和ケア(World Health Organization, 2004Costello, 2001),がん患者を対象にしたものが中心で(種市ら,2006上山,2007市原ら,2012),一般・療養病棟における終末期高齢者の「看取り」は,その数に比して,学術的に研究されることはほとんどなかったと言える.

そこで本研究では,老健施設における高齢者の看取りも増加傾向にあり(厚生労働省,2019a),在宅看取りが推進される状況下においても,なお主たる看取りの場所である病院において,明確な意思表示が困難な終末期高齢者に対するEOLC実践とそれに随伴する家族支援のプロセスについて質的記述的なアプローチによって明らかにし,病院におけるEOLC実践について考察することを目的とした.これによって病院におけるEOLCのあり方や実践の質の検討に資する知見を得ることができると考えられる.

なお本稿でのEOLCは,患者自身の明確な意思の確認が困難な事例や状況での実践に限定する.また,以下,本文中の‘患者’とは,80歳以上で医療処置による疾病の治癒や症状の改善が見込まれず,衰弱によって終末期を迎えていると判断された高齢者のことを表す.また‘価値観’とは,終末期を迎えていると判断された高齢者のLifeに対して,延命・生存に価値を置くか,症状緩和に価値を置くか,高齢患者のQOLを重視するか,のような病院での医療や看護提供のあり方を左右する考え方のことを表すものとする.

Ⅱ. 研究方法

1. 研究対象者

研究対象者は,研究協力の得られた西日本にある3府県4つの病院(その地域の一般の入院に係る医療を提供する病院)に勤務し,病院で死亡した80歳以上の患者に関わった経験のある看護師である.グラウンデッド・セオリー・アプローチで用いられる理論的サンプリングの手法(Strauss & Corbin, 1990/1999)により,研究者の機縁や直接の依頼によって病院の地域性,病棟の種類を選定し,協力が得られた病院の病院長もしくは看護部長を通じて,条件を満たす対象者を職位,経験年数などが多様になるように紹介を依頼してサンプリングを行った.紹介された対象者には,調査時に再度,研究者から趣旨説明した上で協力を依頼し,参加の同意を確認した.調査は,病院長もしくは看護部長の協力が得られた場合には,看護師と同じ施設の他の医療従事者等にも同様に調査を依頼し,協力の得られた医師1名,介護職員6名にも実施し分析の参考にした.

2. 調査方法

インタビューは2014年2月から2015年3月に実施し,対象者のプライバシーを保護するため,対象者の勤務先の個室を借りて行った.インタビューガイドを用いて約1時間を目安に半構造化面接を実施し,入院中の患者への医療提供やケアに対する経験や個人的な見解,対象者が経験した印象的な看取り事例についての実践とその評価について自由に語ってもらった.対象者の許可を得てICレコーダーに録音した音声データを逐語録にし,匿名化したものをデータとした.

3. 分析方法

分析データは,インタビューで語られた中心となる事例における看護実践とその評価,その中で語られた家族との関わり,それ以外で語られた家族に対する関わりや捉え方についての個人的な見解などとした.データは節や文,パラグラフなど意味のあるまとまりに区切り,意味内容の類似点や相違点を継続的に比較分析しながら,その内容を表す定性的コーディングを行い,実践が展開されたコンテキストや各事例ごとの特徴を考慮して,事例-コード・マトリックス(佐藤,2017)の手法によって,継続比較を行い,データとコード間,複数のコード間,複数の事例間の検討を通じて,コードの焦点化と概念化,ならびに事例間の共通性や相違を生じさせる条件を見出し,EOLC実践に随伴する家族への関わりについて焦点化して記述した.なお看護師19名の分析終了時点で新たに重要な概念が生成されなくなったと判断し,データ収集を終了した(Strauss & Corbin, 1990/1999).医師や介護職員のデータは,看護師の実践の意味づけや裏付けとして分析の参考に用いた.また,分析の妥当性を高めるために,臨床医学,看護学,公衆衛生学,倫理学領域の多様な学問的バックグラウンドをもつ研究者らで定期的な質的データの分析セッションを行い,信頼性・妥当性の確保につとめた.なお,結果には,分析結果を表す典型的なデータを例示し,対象者が語った言葉は『 』,カテゴリーは〈 〉で表記した.

4. 倫理的配慮

研究協力の得られた各病院の病院長と看護部長から,研究協力の承諾書を書面によって確認し,紹介された医療従事者に対しては,インタビュー開始時に,調査者から研究の趣旨,目的,方法,プライバシーの保護と成果の公表,インタビューを録音しデータ化することについて文書を用いて説明し,同意書の署名により研究参加の意思を確認した.本研究は大阪大学医学部保健学倫理委員会にて審査を受け,承認(受付番号278,承認日2014年1月23日)を得て実施した.

Ⅲ. 研究結果

1. 調査対象者

調査対象者となった看護師19名の特徴については(表1)に示す通りで,看護師としての経験年数は20年以上が大半であった.患者の入院中の経過としては,誤嚥性肺炎を繰り返した後に重症肺炎になり,家族の意思で経管栄養を始め,吸入・吸引のために半年間入院していた事例や,口から食べたいという患者の希望を尊重して家族が栄養目的の点滴は拒否し,毎日のように見舞いに来て経口摂取の見守りや援助を続け,徐々に状態が悪くなって4か月後に死亡した事例などである.

表1  対象者の特徴
病院所在地 地方 4
都市部 15
病棟の種類 療養病床 10
一般 9
年代 30代 6
40代 6
50代 7
現職場での勤務年数 5年未満 11
5~10年 5
11~20年 2
不明 1
職位 一般 9
主任 1
看護師長 7
看護課長 2

2. 入院中の患者に対するEOLC実践における家族支援のプロセス

EOLC実践における家族支援のプロセスは,〈病棟の医療チームからEOLCに対する承認や理解を得る〉,〈家族が患者の死(いのちの終わり)を受容できるよう家族の価値観に働きかける〉,〈ケアや看取りに対する家族の評価により家族支援を評価する〉の3つのカテゴリーから構成され,コアカテゴリーは〈EOLCを家族とともに実践すること〉と命名された.以下,プロセスを構成するカテゴリーについて記述する.

1) 〈病棟の医療チームからEOLCに対する承認や理解を得る〉

(1) 入院中の患者に対してEOLCを実践する

看護師は,入院中の患者に対して,患者の表情や雰囲気を見ながら,「おそらくこう感じているだろう」「こうしてほしいと思っているだろう」と,患者の顔色や表情の変化,声の調子,処置やケアに対する患者の反応の様子,活気や不安などの精神症状の変化等を自らの五感や経験値を動員して観察することで患者の意思を見出し,受け止め汲み取ろうと努力をしていた.看護師は,患者の思いを捉えようとしながら,安楽や苦痛に配慮してEOLC実践を行っていたと言える.

(2) EOLCに対して承認や理解を得る

一方で,一看護師としてのアセスメントやEOLC実践に対しては迷いも感じていた.患者へのケアの臨床場面では,看護師と患者は一対一で相対し,単独でケアを行うことが多いからである.そのため「一看護師個人としてのアセスメントや看護」の確かさについて,同一勤務帯に働いている医療チーム内の同僚看護師とのやりとりでインフォーマルに,またカンファレンスを通じて管理職看護師からフォーマルに承認や理解を得て,その下では,自身の実践に対する肯定感が得られていた.

『みんなでカンファレンスをもつ,(看護実践の)方向性をみんなで周知することで同じケアができる』

『ケアに対しても(家族から)クレーム的なのがあって.そこはみんな(同僚看護師)で,んーって(家族のクレームを疑問に)思って,そこはみんな(も同じように)思ってるんやなって』

2) 〈家族が患者の死(いのちの終わり)を受容できるよう家族の価値観に働きかける〉

看護師は患者が終末期であることを予測できても,家族が必ずしも同じように感じているとは限らない.そうした場合,看護師は,EOLC実践を通して,患者に死期が迫っていることを家族が自ら気づけるように支援し,最期を生きている患者のいのちについて,患者を中心に考えられるように家族の価値観に働きかけていた.すなわち,患者にとって苦痛を伴う治療や延命処置によって生存を保つだけでなく,苦痛排除や安楽優先という価値観で提供できる医療・ケアもあるということに気づけるような働きかけである.

(1) 家族の「患者の死(いのちの終わり)の受け入れ」準備状況を判断する

看護師は,家族の「患者の死の受け入れ」準備状況を判断するため,患者を訪室する家族の様子や,家族が患者に実施するケアなどをモニタリングしていた(表2).そして家族が病院を訪れた時には,直接,一看護師としてのアセスメントや看護実践の内容を伝えていた.また,患者に必要な医療処置やケア,声かけなどによって患者の反応を引き出すようなセンシングを実施して家族に見せ,家族が患者の死を受け入れる準備がどの程度できているか,その準備性をアセスメントしていた.看護師からみた家族の「患者の死の受け入れ」準備状況について判断する条件は(表3)の通りとなった.

表2  患者の家族の「患者の死の受け入れ」準備状況に関するモニタリング項目
患者と対面する家族の様子(患者と会話があるか,患者に触れたりしているか)
患者に対する実際的なケアを行っているか
誰が来ているのか
どのくらいの頻度で来ているのか,
どのくらいの時間滞在しているのか
看護実践に対する反応
表3  看護師からみた家族の「患者の死(いのちの終わり)の受け入れ」準備状況を判断する条件
データ 受け入れ準備状況(サブカテゴリー) 条件(カテゴリー)
家族が病院に頻回に訪れ患者に寄り添っている姿を看護師が確認している ・病院への見舞いの頻度が多い
・患者に長い時間寄り添い患者の状態を理解している
〈患者の死を受け入れられる条件〉
『点滴したら余計にむくんだり呼吸困難がおこってそれは苦しめることになる』
『もうこれ以上(治療を)するのはやめてください』
・入院中の患者に対して治療として積極的に何かする必要がないと感じている
『口から食べさせてあげたいし,飲ませてあげたいから点滴はいりません』
『長くなるね,しんどくなるね,ということで点滴はしない』
・患者の意思の優先や苦痛の排除に価値をおいている
『もう限界よね,もういい加減人生終わらせてあげたいよね』
『そういうものをつけて長生きするよりも自然にいったほうがいい』
・患者の死期について認識している
『ご家族の方が毎日来られて話しかけていればいいんですが,そうでない,年に何回か…』 ・病院への見舞いの頻度が少ない 〈患者の死を受け入れられない条件〉
『病院にいるのに(治療を)何もしてもらえない』
『点滴もせず,ただ死期を待つだけの状態にいるのは見た目にかわいそう』
・「病院は治すのが基本」「病院に来た限りは治療が必要」と感じている
『末梢の点滴だけでできるところまでで結構です』
『点滴は入れてほしいです,酸素もできるだけ.でも苦痛のあることはやめてください』
・治療に対する要望や意識が高い
『高カロリー(輸液)だけで栄養が入っていて,ほとんどベッド上で吸引.高カロリー(輸液)で生かされていた』
『ご飯も食べれないのに無理やり栄養(を)突っ込まれて…』
『抑制(患者の身体拘束)してまで点滴をしてくれって家族もいる』
・患者に対する治療や延命処置に価値をおいている
『私らは(患者の)痛みが取れればと思って,苦痛から解放してあげたいからっていうこと説明しても,ちょっと家族さんには(私らの気持ちが)つながらなかったり』 ・看護実践に対する家族からの共感的な反応が得られない
『(痛がっているけど)生きている母との時間を大事にしてお別れしたい』 ・患者の鎮静(苦痛緩和)より患者の覚醒/苦痛(家族の意向)を優先させている

(2) EOLC実践を通して家族支援を行う(表4

看護師は,(表3)の条件を基に,EOLC実践における家族支援を行っており,それらは,家族の「患者の死の受け入れ」準備状況に応じて,〈受容的・共感的支持〉,〈教育的介入〉,〈修正的介入〉,〈患者の死を受け入れるための時間的猶予を設けるための介入〉のカテゴリーに分けられた(表4).〈受容的・共感的支持〉とは,家族の患者に対する思いや家族が選択した医療方針に共感する,家族と共に患者の死期を認識するなど,家族に対する受容的な支援や関わりであり,これは,(表3)の〈患者の死を受け入れられる準備がある条件〉の下で行われていた.一方,〈教育的支援〉とは,患者の状態を説明したり,実際に患者の様子を見ることを勧めたり,患者にとって一番大切なことを共に模索することを通して,家族が患者に死期が迫っていることを実感できるようにする関わりである.〈調整的支援〉とは,家族の間で意見が異なる状況に折り合いをつけたり,患者の安全・安楽を阻害する家族の選択に対して,倫理的な是非を直接問いかけたりするアプローチである.また,〈患者の死を受け入れるための時間的猶予を設けるための支援〉とは,家族が患者の死を受け入れられない状況を受け止め,家族が希望する延命目的の治療を優先することで,家族が納得して患者の死を受け入れるための時間的猶予を設けることを意図した「待つ」アプローチである.これは,家族の変化を期待した消極的な〈教育的支援〉とも捉えることができる.これらの〈教育的支援〉,〈調整的支援〉,〈患者の死を受け入れるための時間的猶予を設けるための支援〉は,(表3)の〈患者の死を受け入れる準備がない条件〉の下でなされていた.

表4  EOLC実践プロセスにおける家族への支援
データ 介入方法(コード) アプローチ(カテゴリー)
『家族さんが自分で選択したことが良かったんだろうって思う時があると思うんです.だからそこで良かったって思えるような言葉かけを心掛けています』 ・家族が選択したことに対して肯定的な言葉かけをする 〈受容的・共感的支持〉
『もう十分がんばってくれましたよね』
『もう,精一杯ちがいますか』
・患者の死期を共に認識する
『すべての機能が落ちかかっている患者さんにそれだけの点滴を入れて負荷をかけるっていうのはとても見た感じはいいですけど,負荷がかかることを(家族に)必ず説明している』 ・処置に伴う患者の苦痛や負担を説明したり,実際に見てもらう 〈教育的介入〉
『普段でもなかなか(病院に)来られない家族さんがおられて,食べれなくなったからどうしますかって一応説明したんですよ,そしたら胃瘻作ってくださいって言われて.でも胃瘻作るとこういう状況になりますよって.それでも家族さんにお願いしたのはせめて1週間に1回でいいから見舞いに来てくださいねって』 ・こまめに来院してもらうことで患者の状況を見てもらうことを提案する
『こういう風な医療をしたらこういう最期になりますとかこういう経過をたどりますとかいうのはお医者さんを中心に説明させてもらって,いろんな積極的な治療をするのかどうかの選択肢を用意して家族さんに選択してもらうっていう形をとるんですけど』 ・処置後の経過や消極的治療を含む選択肢について医師から説明してもらう
『家族の思いだったり,本人の苦痛だったり,あるいは患者さんが一番に考えた時にどれが一番いいかっていうのを模索しながらバランスよくできる,そこをこう,なんか攻めて行ってここらへんで落ち着こうかっていうところはやっぱり探していかないとだめだな』 ・患者のために一番大事なものを共に模索する
『お母さん(患者)の意見を聞きながら娘さん(主介護者)の意見を聞きながら中和というか.(患者さんの治療方針に関して)どういう方向にもっていったら一番いいかなってことで一緒にお話しますけど.』
『ずっとみているキーパーソンの方はかわいそうだからやめたって,という人もおるんです.ただ,よそから帰ってくる身内の方は点滴もしてないのか,っていうような見方をする人が多くって…』
・意見が異なる家族同士の意見の折り合いを図る 〈修正的介入〉
『抑制(身体拘束を)してまで点滴をしてくれって家族もいるんですけど,それはどうなんですかって家族には問いますね.手も縛られ使えない状況ってすごい苦痛なのはわかりますよね,みたいな.』 ・家族が選択した医療処置に対する是非を問いかける
『その先生(医師)は家族,娘さんにとって点滴をして,寝てて,何もしゃべらなくても生きてること,息してること自体が(生きていることなので),死が十分受け入れられない状況であれば,ある程度点滴したりとか,できる限りその医療で命を少しでも延ばしてあげれば,その間にその人はその姿みて,いろいろ思うじゃないですか,家族として.その時間を作ってあげるのも重要じゃないか』
『こっち(看護師)の意見ばっかり通すわけにはいかないから,家族の意向も聞いてあげないといかん.最終的にはもう終末期だし(家族の)意向(を)聞こうっていう風になる』
『いろんな家族の死生観みたいなものがあって,その看取るときの準備のためにやってるみたいなこともありますね.後々,点滴しなかったらよかった,何か食べさせてあげたらよかった,とか心残りがないようにしてあげたいな』
『食事が入らない,胃瘻もされない,点滴で(末梢血管から栄養を)摂って,もう血管がボロボロになった,それでも点滴してほしいですかって(家族に)聞いて,じゃあしてほしいって言われたらそういう人だけは500(ml)ぐらい(皮下注)を1日.少しずつ枯れて行くっていう感じの看取り』
・患者の苦痛緩和より家族の意向を優先することにより,家族が患者の死を受け入れる準備ができるようにする 〈患者の死を受け入れるための時間的猶予を設けるための介入〉

3) 〈ケアや看取りに対する家族の評価によりEOLC実践における家族支援を評価する〉(表5

以上のようにEOLC実践は,病棟の医療チームから看護実践に対する承認や理解を得て,家族が患者の死を受け入れる準備を整えてから進められていた.そうして行ったEOLC実践に対して,次のような観点から評価していた.すなわち,家族との話し合いの機会を多く持つことで家族と密な信頼関係を築けたこと,またそれにより家族からEOLCに対する理解や協力が得られたこと,家族が患者の死を受け入れる準備が整えられたことで,〈EOLCを家族とともに実践すること〉ができたことである.また,家族にとって後悔の少ない看取りができたと看護師が感じられることは肯定的に評価していた一方で,看護師が家族に対して定期的な来院の提案を試みるも実現せず,患者の状態を家族と共有することができなかったこと,またそのために治療方針やケアについて家族と話し合う時間を十分に持てなかったこと,家族が患者の死を受け入れる準備を進めるための支援を十分に行えなかったことなど,〈EOLCを家族とともに実践すること〉ができなかったことに対しては否定的な評価をしていた.

表5  EOLC実践における家族支援に対する評価
データ 評価指標(サブカテゴリー) 評価(カテゴリー)
『家族さんと密に信頼関係を築けたケースではいい看護を提供できましたし,協力も得られた,というのが大きかったので,やっぱり患者さん来た時に(家族にも)しっかり話したり声掛けしたりするんが一番いいんかなぁと』
『やっぱり主役は本人と家族で私たちは,あ,おったかな,くらいでいいかなと思って.看護師さんのおかげやで,とかっていわれるのうれしいですけど…』
・看護師が患者と家族が主体となるような家族との信頼関係を築けた 〈肯定的に評価したこと〉
『家族さん的にはお母さんのみとのやりとりで最期を迎えて,お別れもできて,ずっと寝っぱなしの状態で別れるんじゃなくて,ていうのができたんかな,とか』
『患者さんと家族,本人を裏で操作するじゃないけど支えて,いい看取りってどんなもんかわからないですけど,なるべく後悔の少ないような,絶対後悔はあると思うんでね,どんな看取りしてもそれがなるべく少ない方向にもっていく,それも目立たないように』
『やれることはやったかな,ということで家族さんは納得されていた』
・家族にとって後悔の少ない看取りができた
『1週間に1回でいいから見舞いに来てくださいって,でもだんだん遠のきましたね,来られなくなりました.本当それでよかったんだろうか,本当に胃瘻この人のために作って良かったんかな,って話は出ました』
『普段しょっちゅう来られていろいろ話されてる家族さん同士であれば私たちも入っていきやすいけれど,なかなか来られなかったりとかする患者さんに対しては,もうそこまで踏み込んだらいけないのかな,っていうのは考えますね』
・看護師が家族と話し合える時間を十分にとれなかった 〈否定的に評価したこと〉

明確な意思表示ができない終末期高齢者に対する病院でのEOLC実践における家族支援のプロセスとは,家族が患者の死を受け入れられるよう準備を整えること,そのうえで看護師が家族と共にEOLCを実践することであった.またそのプロセスは,EOLC実践としてのケアや看取りに対する家族の評価をもって省察されていた.

Ⅳ. 考察

本研究で明らかになった入院中の明確な意思表示ができない終末期高齢者に対するEOLC実践における家族支援のプロセスは,患者や病院の特性によらず,主体的な経験として看護師に語られたプロセスである.その特徴と意義を,1)病院におけるEOLC実践と,2)看護師による家族がもつ価値観に対する働きかけの観点から考察する.

1) 病院におけるEOLC実践の特徴

看護師は,患者の状況を病棟の医療チーム内の看護師や家族と確かめ合いながら,患者のQOLを尊重したEOLC実践を行っていた.こうした実践は「看護師は患者が必要としているものを自らの身体をもって察してケアする」という坂田(2015)の言説や,「安楽に」「苦痛を与えない」という看護の視点(公益社団法人日本看護協会,2016)を支持する実践と言える.本研究における看護実践の語りでは,同僚看護師とのコンセンサスに関する語りが多く含まれており,EOLC実践に対する「確からしさ」や「肯定感」をもつためには,同僚看護師の承認・理解を得ることを通じたコンセンサスの獲得が看護実践を進める上での必要条件であり,かつ実践を進める上での強みとなっていることが明らかとなった.一方,医師とのカンファレンスについての語りはほとんど見られなかった.これは医師の人数が少ないことや,必ずしも医師が患者の経過をよく理解しているとは限らないことが関係していると考えられる.

2) 病棟看護師による家族が持つ価値観に対する働きかけ

小野の報告(2007)では,訪問看護師は,患者に対するケアだけではなく,家族に対する情緒的支援にも価値をおき,家族と「情緒的一体感」をもつことをやりがいとしている.本研究でも,看護師は,家族とのface-to-faceのコミュニケーションの時間を多くとることで,患者の状態に対する家族の反応に共感したり,EOLC実践に対する理解を直に得ることで家族との信頼関係を構築しようとしていた.家族との関係性を重要視しているのは先行研究と同様の結果であった.本研究で特徴的であったのは,医療や患者のいのちに対する家族が持つ価値観に対して看護師が主体的に働きかけを行い,患者を中心として家族とともにEOLC実践を進めようとしていたことである.このように,看護師は,家族に寄り添い支えながら,家族の意思決定を支援する(園田・石垣,2009)だけではなく,「治療」や「延命」を重視する病院という臨床現場にありながらも,家族が患者の死を受け入れる準備を進めることができるよう家族を支援していた.堀内(2006)は,高齢者ケアの本質は,「高齢者が死に近い状態にあるとき,その人が最期までその人らしく生き,最期を迎えてもらえるようなケアであり,残された人が,高齢者の最期を受け入れてその後の人生を前向きに生きていけるようなケア」であるとし,家族に対するケアの重要性について述べている.これらが示すように,患者だけでなく家族もケアの対象として評価されることは日本独特の文化的背景による影響(児玉ら,2007)も大きいと考えられる.本研究では,看護師は家族全体が患者の死を受け入れる準備ができるように家族が持つ価値観に働きかけていた.また,家族が患者のケアや看取りに対して肯定感や満足感を感じることができたことを,家族支援について省察する際に重要な手がかりとしており,家族支援を重視してEOLCが実践されていることが明らかとなった.

すなわち,病院における看護師のEOLC実践とは,患者が苦痛なくその人らしくいのちを全うできるよう支援することであり,そのために,看護師は患者と家族それぞれの苦痛や不安等を把握し,治療優先からEOLC実践への転換,展開ができるように家族の価値観に主体的に働きかけ,家族の意思決定を支えていた.つまり,一看護師として家族の価値観へ働きかけ,共有するプロセスと捉えることができよう.

本研究の限界と課題として,EOLC実践は,看護師への聞き取りから捉えられたものであり,当の家族自身による評価を用いていない点が挙げられる.しかし,実践の数に比して,学術的には焦点が当てられてこなかった市中病院における終末期高齢者に対するEOLC実践として非常に有用な知見であると考える.

Ⅴ. 結語

本研究では,入院中の明確な意思表示のできない終末期高齢者に対するEOLC実践における家族支援のプロセスを明らかにした.本研究の知見は,延命や積極的治療を志向しやすい病院において,より良い看取りを見据えたEOLC実践における看護職の役割を明らかにすることができたと考える.

付記:本調査は平成25年度大阪大学萌芽的挑戦研究事業ならびに平成26年度科学研究費(挑戦的萌芽研究「終末期高齢者における死を否定しない医療への転換に関する研究」研究代表者:伊藤美樹子)の助成を受けて実施した研究の一部である.

謝辞:本研究を行うにあたり,お忙しい中インタビューにご協力いただいた関係医療機関の医療スタッフの皆様,本インタビュー調査にご尽力いただいた城本友恵氏,大達亮氏,玉木朋子氏,また,執筆にあたりご助言いただきました祖父江友孝先生,喜多村祐里先生に心より感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:MY及びMIは研究の着想,データ分析の実施,原稿の作成を行った.MIはデータ管理,原稿への示唆及び研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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