Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Experiences of Mid-to-long-term Residents with Type 2 Diabetes in Japan: A Qualitative Interview-based Study
Rikako TachibanaKaori HatanakaNobuko KawaiHiromi KitamuraYasuko Shimizu
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2020 Volume 40 Pages 661-671

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Abstract

目的:日本で外来通院中の中長期在留者の2型糖尿病と共に生きる生活体験のあり様を明らかにする.

方法:2型糖尿病で外来通院中の中長期在留者6名に半構造化面接を実施した.1段階目として質的統合法(KJ法)を行った後,2段階目としてカテゴリ化を行った.

結果:1段階目の分析の結果,最終ラベルは39枚となった.2段階目の分析の結果,《日本で気づいた糖尿病の怖さ》《母国との比較で日本の医療を肯定した自己管理への取り組み》《医療者に頼らない自分での対処》《母国の食文化とは異なる日本での自己管理への取り組み》《その人なりの糖尿病との生活》《異国での糖尿病と暮らす戸惑いや不安》《外国人だからこそ感じる糖尿病治療への期待》の7つのカテゴリが明らかになった.

結論:中長期在留者の自己管理や糖尿病との生活には,母国とのギャップや日本の医療の捉え方が影響し,特有の困難や状況があると考えられた.文化背景に歩み寄り,多様性に配慮した支援の必要性が示唆された.

Translated Abstract

Aim: This study aims to clarify the experiences of mid-to-long-term residents of Japan with type 2 diabetes who were being followed up at a hospital.

Methods: A semi-structured interview was conducted among 6 mid-to-long-term residents with type 2 diabetes who were being followed up at a hospital in Japan. Their responses were analyzed using the KJ method, a qualitative synthesis method; then, the whole analysis was performed.

Results: Individual analysis of the responses of the 6 residents was conducted, and 39 concepts were derived. As a result of the whole analysis, 7 categories were extracted from the interview data: “the fear of diabetes observed in Japan,” “the self-management approach applied in Japanese medical care is better than their home country,” “the self-treatment method without medical staff reliance,” “the difference in the food culture between my home country and Japan in terms of its impact on self-management,” “my own life with diabetes,” “the fear and anxiety associated with living with diabetes in different countries,” and “the expectations of foreigners for diabetes treatment.”

Conclusions: The self-management of mid- to long-term residents and their lives with diabetes were affected by the cultural gap with respect to a participant’s home country and how Japanese medical care was implemented, indicating the presence of specific contributing factors and conditions. Therefore, the consideration of the need to address cultural diversity is recommended.

Ⅰ. はじめに

近年,在留外国人の数は増加傾向にある.中でも法務省で定められた在留管理制度の対象である中長期在留者は,外国籍のまま永住もしくは技能実習,留学等の在留資格を得て,3月を超え日本に滞在する外国人であり,2019年12月末2,620,636人と過去最高値を示し(法務省,2020)年々増加傾向にある.2018年の「出入国管理難民認定法改正」「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律制定」「留学生30万人計画」などをはじめ,日本に住む外国人の受け入れ制度の整備が進んでいることから,今後も中長期在留者数は増加することが予想される.

また,世界では約4億6300万人の成人(20~79歳)が糖尿病に罹患しており(International Diabetes Federation, 2019)今後も増加することが予想される.World Health Organization(2018)によると2016年において,低所得国以外の国では死因の上位10位以内に糖尿病があることが明らかとなっている.また,中国・韓国・フィリピン・ブラジル・ベトナム・ネパールは日本に住む中長期在留者の出身国の上位国であり,このことから中長期在留者は糖尿病罹患率が高い国々から来日していると考えられる.今後も中長期在留者数の増加が見込まれていることで,2型糖尿病の中長期在留者が日本に増加することが予想できる.また,先行研究から,生活習慣病に罹患している中長期在留者や(畔柳ら,2008浅山ら,2007),2型糖尿病に罹患している中長期在留者がいる現状は明らかとなっている(石原・落合,2014河野ら,2012).

2型糖尿病は食事や文化,環境の変化などに大きく影響を受ける疾患であり,中長期在留者の中には母国との大きな環境の変化に加え異文化ストレスを感じながら日本で生活している者もいる(歌川・丹野,2008).そのため,数ある疾患の中でも特に,2型糖尿病の中長期在留者特有のストレスや疾患との付き合い方があるのではないかと考えた.看護師はこのような中長期在留者特有の糖尿病と共に生きる生活の背景を理解した上で看護を提供する必要があると考える.そのためにはまず,2型糖尿病と共に日本で生活している外来通院中の中長期在留者に着目し,病院での医療体験だけでなく,日本で生活を営んでいる外国人として,糖尿病と共にどのように生活をしているのかを明らかにすることが重要であると考えた.

現在,多国籍多民族の人々が生活している米国では,2型糖尿病のLEP(Limited English Proficiency)患者と英語による受診に問題のない患者を比較し,検査数値の改善率等の違いを比較した調査研究が存在する(Alvidrez & Pérez-Stable, 2017Parker et al., 2017Fernandez et al., 2011).一方,日本国内の研究では,外国人患者の医療体験を明らかにした研究が徐々に出始めてはいるものの(寺岡・村中,2017),2型糖尿病の中長期在留者に焦点を当てた研究は症例報告か事例検討のみであり,どれも「言葉の壁をどう解消するか」に焦点が当たった文献であった(石原・落合,2014河野ら,2012).

長坂・百々(2011)や,福井(2009)のように研究参加者の国を絞り研究した文献もみられるが,日本に住む外国人患者の国や文化は様々であり,また,1つの国の中にも多様性は見られることから単一の文化として分類できるものではないと考える.そのため,国や文化を絞らず,体験の多様性を幅広い対象に調査をすることが,中長期在留者の2型糖尿病との生活体験のあり様を明らかにする上で重要であると考えた.

以上のことから,外来通院中の中長期在留者が日本で2型糖尿病と共により自分らしい生活が送れるよう支援するためには,まず多様な中長期在留者の日本での2型糖尿病との生活の様子や思いを把握する必要があると考えた.また,困難に着目されがちだが,中長期在留者特有の強みや体験があるのではないかと考え,本研究では外来通院中の中長期在留者を対象にインタビュー調査を実施し,日本での2型糖尿病と共に生きる生活体験のあり様を明らかにすることを目的に研究を行った.

Ⅱ. 目的

外来通院中の中長期在留者を対象にインタビュー調査を実施し,日本で2型糖尿病と共に生きる生活体験のあり様を明らかにすること.

Ⅲ. 方法

1. 研究デザイン

半構造化面接法による質的帰納的研究.

2. 用語の定義

日本語大辞典(2003)で生活は,「世の中に暮らしてゆくこと.また,その暮らし.」,体験は,「自分が実際に身をもって経験すること.」と解説されている.本研究においては,母国を離れ,異国である日本に住み生活しているという意味において,「生活」に着目したいと考えた.そして,その中で糖尿病とともに生きる体験を調査するため,「生活体験」という用語を用いることとした.

「生活体験」という用語を使用した先行研究は多数あった(森ら,2019白井・佐々木,2018平塚・梶谷,2015佐藤ら,2002)が,その意味内容は多数であり,明確に定義されていない場合も多かった.その中でも,「生活の中で,経験している出来事,行動,認識,感情などの総体」(平塚・梶谷,2015)「日常生活において自分自身が身をもって経験したこと」(佐藤ら,2002)といった定義を参考に,本研究においては以下の通り定義した.

生活体験:生活の中で身をもって経験したことであり,思いや感情を含むもの.

3. 研究参加者

インタビューで生活体験のあり様を明らかにするには2型糖尿病との生活を語れる罹病期間が必要だと考えた.また,日本での2型糖尿病との生活について明らかにするため,病院に定期受診し治療の継続をしており,今後も日本に住む予定がある中長期在留者がふさわしいと考えた.さらに,多様な生活体験を広く明らかにしたいため参加者の国を特定せず,日本語能力にも制限を設けないこととした.

研究参加者は研究協力の承諾が得られた特定機能病院(1施設)とクリニック(2施設)の糖尿病専門外来に通院中である中長期在留者で以下6項目の選定基準を満たす者とした.①20歳以上②今後1年以内の帰国予定がない③2型糖尿病と診断されてから1年以上経過④本人が希望する場合,母語通訳を研究者が用意でき,通訳を交えたインタビューを了承する者⑤約1時間の面接に耐えられる身体状態⑥文書により同意が得られる者.

4. データ収集期間

2018年5月~2018年9月.

5. 調査方法

1) 参加者の承諾を得るまでのプロセス

各協力施設の医師に選定条件を満たす研究参加者の候補のリストアップを依頼し,候補者の外来受診日に研究説明を行ってもらい了承を得た後,研究者に紹介してもらった.研究調査依頼書や同意書等は各候補者の母語に翻訳した資料も用意し文書と口頭で研究依頼を行い,書面にて同意を得た.通訳の希望があった場合は通訳を同伴した.

2) データ収集方法

データ収集は自記式の調査票と半構造化面接によって行った.データ収集は,各医療施設のプライバシーの守られる部屋で行った.

(1) 調査票

面接に先立って,参加者に調査票を記入してもらった.調査票は,年齢や国籍,滞在年数,糖尿病治療状況などの基礎情報に関する内容と,面接で生活体験を把握する前段階として仕事や家族構成,1日の生活の様子などを含むもので,10分程度で回答できるものとした.

(2) 半構造化面接

調査票にそって現在の生活の様子について補足・確認した後,「糖尿病だから生活で気を付けていることはなにか」「糖尿病がありながらの生活を送る上で困っていることやうまくできていることはなにか」「糖尿病に気を付けながらの日本での生活に対する思い」などインタビューガイドを用いて半構造化面接を実施した.

1回の面接時間は約1時間程度とし,追加の質問が必要となった場合は参加者の許可を得て2回目の面接を行った.面接内容は研究参加者の了承を得てICレコーダーに録音し,逐語録としたものをデータとした.

3) 通訳/翻訳について

研究協力依頼書や同意書,インタビューガイド等の資料は日本語を基とし,各参加者の母語に翻訳された資料を準備した.翻訳に関しては日本語検定1級をもつ各言語の母語話者に翻訳を依頼した後,別の母語話者によるダブルチェックを行った.通訳に関しては参加者の許可を得て通訳ボランティア経験を長年行っている者に依頼した.通訳者にも事前に研究の趣旨を説明した.

6. 倫理的配慮

本研究は著者が所属していた大学の観察研究倫理委員会による審査を受け,研究協力施設の承諾を得て実施した(承認番号:17418-3).参加者には研究参加の拒否や途中辞退の自由,プライバシーの保護,データの管理方法について文書を用いて口頭で説明し,書面による同意を得た.通訳者にも面接のとき知り得た参加者の個人情報や研究内容の漏洩や無断での使用を禁止することを条件とする誓約書を用意し,書面による同意を得た.

7. データの分析方法

本研究では生活体験のあり様を明らかにすることを目的とし2段階で分析を実施した.

1) 1段階目

1段階目の分析では,参加者の個々の生活体験を明らかにすることを目的に質的統合法(KJ法)(山浦,2012)を用いて分析を行った.先行研究より2型糖尿病の中長期在留者の生活体験は明らかになっておらず,各参加者の生活体験には多様な文化的背景が複雑に影響していると考えられる.また,あり様として様々な内容が含まれるインタビューを行っているため,多様な生活体験のあり様を根拠に基づき論理的に整理できる分析方法が必要であり,「バラバラな断片情報から,論理的な整合性をもった統一体として全体像を表すことができる」(山浦,2012)とされる質的統合法(KJ法)を用い,各参加者の生活体験の全体像を構造的に明らかにすることが適切だと考えた.

質的統合法(KJ法)では,参加者ごとの逐語録より元ラベルを作成し,グループ編成により導きだされた最終ラベルで空間配置した後,シンボルマークを抽出した.

2) 2段階目

2段階目の分析では,1段階目で得られた個別分析結果から個々の最終ラベルの内容を表したシンボルマークを類似性と相違性の観点から概観し,類似するものを集めカテゴリ化を行うことで個々の参加者の生活体験の多様性を踏まえた外国人患者の生活体験のあり様を示すこととした.

8. 研究の信頼性と真実性の確保

主に分析を行った研究者は,質的統合法(KJ法)の初心者研修を修了したうえで分析を開始した.また,分析の各段階で,質的統合法(KJ法)の指導者研修を修了した研究者が分析の妥当性を確認した.本研究は全過程において慢性疾患看護,並びに,質的研究を熟知した研究者からスーパーバイズを受けた.

Ⅳ. 結果

1. 参加者の概要

参加者は日本で2型糖尿病治療のため外来通院中である台湾やブラジル,カナダを母国とする20歳代~50歳代の中長期在留者6名で,通訳を介した者は1名いた(表1).

表1  参加者の属性
対象者 A氏 B氏 C氏 D氏 E氏 F氏
年齢 性別 20代 女性 50代 女性 50代 男性 50代 男性 40代 女性 50代 男性
国籍 台湾 フィリピン ブラジル ネパール ブラジル カナダ
同居している家族 独居 夫,義母,子1人の4人 妻と娘1人の3人 妻と子供3人の5人 独居 妻と子供2人の4人
職業 学生 主婦 自営 会社員 パート 自営
合計滞在年数 1年 34年 40年 25年 17年 23年
信仰している宗教 なし キリスト教 仏教 なし キリスト教 なし
糖尿病歴 1年 10~15年 19年 16年 24年 約20年
HbA1c 6.6% 不明 7.0% 6.5~7.0% 5.8% 不明
合併症の有無 なし なし 神経障害 なし 網膜症 なし
薬物療法の有無 内服 インスリン,内服 内服 内服 内服 不明
合計面接時間/回数 2時間3分/2回 1時間18分/1回 1時間3分/1回 1時間52分/2回 1時間25分/1回 59分/1回
通訳の有無 なし なし なし なし なし あり
元ラベル数 244枚 114枚 88枚 237枚 104枚 77枚

2. 分析結果

1段階目のKJ分析の結果得られた最終ラベルはA氏7枚,B氏6枚,C氏7枚,D氏7枚,E氏6枚,F氏6枚の計39枚となった.

その39枚の最終ラベルのシンボルマークを分類した結果から,中長期在留者が日本で2型糖尿病と共に生きる生活体験として,7つのカテゴリが得られた.各カテゴリに含まれるシンボルマークを表2に示した.

表2  全体分析結果
カテゴリ 個別分析最終ラベル
日本で気づいた糖尿病の怖さ 【日本での診断により糖尿病の怖さを知れ,今は早期発見できてよかったという思い】(A氏)
【自覚症状がなく仕事も忙しいことで糖尿病との向き合いは二の次】(C氏)
【甘く見ていたが症状が出てやっと気づいた恐ろしさ】(C氏)
【ネパールで受けた合併症の印象から糖尿病診断時に受けたショックと将来への不安】(D氏)
【診断当初は怖さを知らず過ごしていたが,説明を受け失明して初めて糖尿病と向き合えた】(E氏)
母国との比較で日本の医療を肯定した自己管理への取り組み 【台湾と比較し思う日本の医療への満足感と父を反面教師に糖尿病に向き合う覚悟】(A氏)
【母国と比べて自身の受けている日本の医療の充実さを実感】(B氏)
【好きな日本で信頼できる医療を受けて糖尿病と適切に付き合っていくしかないという思い】(C氏)
【信頼できる日本の医療のもと合併症回避のために戦いたい】(D氏)
医療者に頼らない自分での対処 【国ごとの違いから時折浮かぶ治療の心配や疑問はあるが医師に聞くほどでもない】(A氏)
【日本の環境は整っているのに良くならないのは自分の問題】(D氏)
【内服の飲み忘れがあっても検査値は悪くないし,医療者から何も言われないので心配ない】(E氏)
【自分のすべきことは自分で母語の情報を調べ結論を出している】(F氏)
【日本の医療スタッフは多忙そうで印象は悪いが郷に入れば郷に従う】(F氏)
母国の食文化とは異なる日本での自己管理への取り組み 【信頼できる人からのアドバイスを取り入れ自分なりに自己管理し,後のことは後で考えよう】(A氏)
【仕事をし,ブラジル料理も時には楽しみつつ,やっと始めた健康を意識した生活】(C氏)
【両国の良い情報を活かし自分なりに楽しく取り組みたい】(D氏)
【母国の食文化が懐かしくなじみがあり食事療法が上手く実行できない】(D氏)
【帰国時の母国での治療と比べ言葉の壁はあっても日本の環境は糖尿病と生活しやすい】(E氏)
その人なりの糖尿病との生活 【忙しさや不便さがあっても糖尿病を気にしすぎずに送る日本での生活】(A氏)
【医療者や娘に言われる生活上の制限に対するストレス】(B氏)
【外国人特有のストレスもある日本の生活の中で果たしている主婦業】(B氏)
【合併症への不安から医療者のアドバイスを受け自分なりに自己管理を実施】(B氏)
【わからないこともあるが糖尿病を気にしすぎずに夫に支えられ送る幸せで普通な生活】(B氏)
【まだ現役だし,子供のためにも健康に気を付け今の自分らしい糖尿病との生活で長生きしたい】(C氏)
【今は健診は受けていないが糖尿病だけの問題なのでHbA1cを抑えていきたい】(C氏)
【食事の改善で検査値も良くなり運動も始めたので,1年後には薬を減らせればと思う】(E氏)
【頑張りが続かず病状が悪くても症状のない今の状況に認識が変えられない】(F氏)
【子供の健康も意識しつつ妻の協力も得てできる範囲の自己管理を実行】(F氏)
【病気を意識しすぎず,自分で病気と生活のバランスを取り生活を送ることが大切】(F氏)
異国での糖尿病と暮らす戸惑いや不安 【台湾と違う病気への反応に戸惑い,日本人の友人には糖尿病を隠しごまかす】(A氏)
【台湾人の家族や友人に糖尿病の相談はしない】(A氏)
【今は大丈夫だが,親戚のいない日本で払拭できない合併症への不安】(E氏)
【周りの糖尿病患者を案じ自己管理の必要性を伝えたいが聞いてもらえない】(E氏)
外国人だからこそ感じる糖尿病治療への期待 【言葉の面で病気をより理解できる医療環境に期待】(B氏)
【言葉の壁がある外国人が糖尿病を自覚し闘える環境の整備への期待】(C氏)
【外国人にもわかる説明と一緒に戦ってくれる人の存在が大切】(D氏)
【自身の経験からも言葉の壁を越えてわかりやすい説明や体験談を楽しく学べる場が欲しい】(E氏)
【言葉がわからない異国での,生活上の様々なストレスを理解し考慮してほしい】(F氏)

各カテゴリの内容を説明する(《 》はカテゴリ,【 】はシンボルマークを示す).また各カテゴリの最後にrawデータの一部も記載した.rawデータは斜字とし,抜粋したことにより意味が分かりにくくなった部分に関しては研究者の補足を( )として加えた.

1) 《日本で気づいた糖尿病の怖さ》

このカテゴリには,【日本での診断により糖尿病の怖さを知れ,今は早期発見できてよかったという思い】や【診断当初は怖さを知らず過ごしていたが,説明を受け失明して初めて糖尿病と向き合えた】などが分類された.

これは,日本で糖尿病と診断され,日本の医療者から糖尿病の説明を受けたことで糖尿病の怖さに気づいたり,日本の生活の中で糖尿病の症状が出現し,初めて糖尿病の怖さに気づいたという内容であった.

「でも,多分,もしそのままずっと台湾にいると,自分が(糖尿病だと)思うとしても人間ドックとか病院には行かないと思いますね.…(日本の学校健診で発見できてよかった?)そうですね.それは思ってました.」「(足の神経障害の話を聞いてどう思った?)それだけきくと怖いなと思っちゃいました.」(A氏)

「(内服を勝手にやめて)1年後にまぁ,酷いことになっちゃって,HbA1cが13か14まであがっちゃったんですね.まぁひょっとして,もうこれでまぁあの,薬なくてもやってけれるかなって自分で勝手に判断してね.これでもう2度とこういうことをしてはいけないなとわかったんです.」(C氏)

2) 《母国との比較で日本の医療を肯定した自己管理への取り組み》

このカテゴリには,【母国と比べて自身の受けている日本の医療の充実さを実感】や【信頼できる日本の医療のもと合併症回避のために戦いたい】などが分類された.

これは,母国の医療状況と比較し日本の医療が進んでいて,治療内容の説明もより丁寧であることなどを理由に信頼が厚く,その中で糖尿病治療に取り組もうとする内容であった.

「私の妹今糖尿病なんだけど,今もフィリピンにいるけど,同じ糖尿病でも先生から糖尿病の食べ物の話とかないみたいで.薬だけもらってくる.それでなんとか自分で気をつけなさいとか.これ食べ物だめとかアドバイスするとかないみたいだな.」(B氏)

「薬面ではその日本の医療制度がすごく高いので,先生からいただいてる治療については全く心配はないですね.納得して.3か月に1回受診するのはネパールではそんなにないですね.何かあったときだけ行く.そういう健康診断制度もないし,ネパールの場合はね.なんかあったら行って治療するというね.私は健康診断もしてて.3か月に1回診てもらってるので非常に予防できてるという風に理解しているんですね.薬飲んで,できるだけ運動して,薬飲んでやってるというね.」(D氏)

3) 《医療者に頼らない自分での対処》

このカテゴリには,【国ごとの違いから時折浮かぶ治療の心配や疑問はあるが医師に聞くほどでもない】(A氏)や【自分のすべきことは自分で母語の情報を調べ結論を出している】(F氏)などが分類された.

これは,日本の医療を信頼していることから,糖尿病の症状の改善がみられないのは自分の責任だという考えをもち医療者に頼っていない状況や,日本の医療に不満があることで医療者に頼っていないといった内容であった.

「一番大きな糖尿病なった理由は自分だったと私は感じてるんですね.会社でも(時間を)作ろうと思ったら誰でも作れるね.自分の時間のタイムマネジメントが出来てないことは,自分は一番の理由かなと思いますね.この(日本の環境)せいでこうなったとは私は思ってないね.」「(先生にはちゃんと診てもらってるから)誰というより,自分のせいでできてない運動食事コントロールできればだいぶ良いですから.やればできるという.」(D氏)

「私がすべきこと何かについては自分でネットで情報を調べている.一つのサイトだけじゃなくてあってることも間違ってることもあるから,色んなサイトから総合的に自分なりに結論を出してる.」「(日本の医師に自分の健康について質問することはない?)日本の医者が忙しいのはわかってるからね.それ(自分のことを聞くの)は難しいよ.診察はまるで工場の一種みたいだよね.」(F氏)

4) 《母国の食文化とは異なる日本での自己管理への取り組み》

このカテゴリには,【ブラジル料理も適度な量にし,やっと食事・運動・内服・休息を自己管理した健康を意識した生活をしている】や【母国の食文化が懐かしくなじみがあり食事療法を上手く実行できない】などが分類された.

これは,日本で食事療法を実践する上で,母国の食事との違いを感じつつも日本食に満足して食事管理を行っている状況や,母国の食事を調整しながら上手く取り入れている状況がみられた.また,両国の食文化を取り入れている状況がある一方で母国の食文化による影響で日本の食事療法に苦戦している状況もあり,母国の食文化とは異なる日本での様々な自己管理の取り組みへの様子がみられた.

「ヘルシーな食事は日本の方がとりやすい,行きやすい,安い.(食事面でコントロールしやすい?)便利.」(E氏)

「量は節度をもってブラジル料理はね,どうしてもやっぱり文化ですからね,そういう文化を完全に捨てるわけではなくて,上手く付き合っていかなければいけないと思うんですね.」(C氏)

「(栄養士に説明された食材は普段の食べ物と一致してた?)ネパールは魚はそんなに食べない,内陸の国ですから.妻も魚料理は苦手,どちらかというと鶏肉,豚,牛肉とか.魚はちょっとくらい.私は好きですけど,妻が魚は苦手.魚料理は少ないなと思いますね.あまり(妻が魚)好きじゃないので,魚はあんまり買ってないていう.」(D氏)

5) 《その人なりの糖尿病との生活》

このカテゴリには,【忙しさや不便さがあっても糖尿病を気にしすぎずに送る日本での生活】,【外国人特有のストレスもある日本の生活の中で果たしている主婦業】や【病気を意識しすぎず,自分で病気と生活のバランスを取り生活を送ることが大切】などが分類された.

これは,それぞれの糖尿病との生活の中での苦労や自己管理の目標を設定している様子など,その人なりの糖尿病との生活のあり様が語られた内容であった.

「学校のストレスや空腹で集中できないのも困るという理由から,砂糖制限やダイエットも今は一生懸命ではなく,糖尿病だからといって生活で気にしていることはあまりない.」「日本の保険や制度,糖尿病の詳しい数値などわからないこともあるが糖尿病にも慣れ十分幸せなので,糖尿病を気にしすぎず今の普通の暮らしを続けていきたい.」(A氏)

「(医師からこれは良いダメ,良くなってる悪くなってると言われるのはストレスということ?)そうそう.でも,本当はいいと思うよ.これが先生の仕事,先生もよく(糖尿病のこと)知ってるから.だけど,人間だから.(嫌になることも)あるある.」「普通で,生活がやりたいです.普通で今の.(糖尿病を)気にしないで,いつも考えるだったらもうもっと病気になる.だから普通で今の生活で,続けます.そのくらいかな.」(B氏)

「自分次第.悪くなるのも自分次第.カナダでもロシアでも日本でも中国でも関係ない.私が変わらないといけない.私がすべきことは,自分のストレスを管理することだと思う,もっと賢くならないと.」「誰も糖尿病を好きじゃないし,自分で自分を糖尿病患者だと思い知るレッテルもはりたくないと思うし,糖尿病も健康問題のラベルの一つだと思っている.その人なりにできることを努力するものだと思う.」(F氏)

6) 《異国での糖尿病と暮らす戸惑いや不安》

このカテゴリには,【台湾と違う病気への反応に戸惑い,日本人の友人には糖尿病を隠しごまかす】や【今は大丈夫だが,親戚のいない日本で払拭できない合併症への不安】などが分類された.

これは,母国とは違う日本人の病気への反応に戸惑いがある中での生活や,母国の人や外国人同士でも糖尿病について相談できていない様子,また,親戚など頼れる人が身近にいないことによる不安を抱きながら生活しているという内容であった.

「なんか,普通に,たぶん,民族性にもよるんですけども,母国にいた時はみんな結構,何か,自分が何かの病気があるというのは普通にしゃべってるんですよ.例えば,私,こういうのあるから,こういうの気を付けてほしいなとか.普通に堂々としてるんで.」「でもなぜか,(日本の)周りの雰囲気だと,(病気を)気にしなきゃいけないなぁになったのは,それはちょっと戸惑うんですね.」(A氏)

「たまにさっき申し上げた通りに,年取ったらどうしようという風な.割とあるんですけども.親戚も(日本)ここでないし,一人で何かあったらどうしようかという,そう考えるとちょっと心配.まぁ,毎日考えてもないし,時々それちょっと怖いかなとそれ感じる.」(D氏)

7) 《外国人だからこそ感じる糖尿病治療への期待》

このカテゴリには,【言葉の壁がある外国人が糖尿病を自覚し闘える環境の整備への期待】や【言葉がわからない異国での,生活上の様々なストレスを理解し考慮してほしい】などが分類された.

これは,言葉に加えて中長期在留者が糖尿病について気づき理解できる環境や支援を期待する内容が含まれた.また,中長期在留者が感じる日本での生活上のストレスについて理解してほしいという内容であった.

「多分日本人でも難しいと思うんですよね,糖尿病という病気.(外国人が)あまり真剣に取り組まないのは,それ(糖尿病がどういう病気か)すらがわからないからだと思うんです.言葉がわからなくて,日本で病気にかかって,私みたいに糖尿病という病気を最初は全く考えなかった人間にとってはわからないんですよ,糖尿病という病気はね.」(C氏)

「(診断時病院から説明がなかったのは)外国人だからどうせ分らないと思ったかもしれないね.」(E氏)

「『〇〇レベルが上がる,どうしてだろう?薬を処方しているはずだから数値は下がっているはずなのになぁ.』『あー,ビールを飲みすぎたり,脂肪の多い物を沢山食べたの?なんでそんなことをしたの?あなたは治療中なのに.』これは(日本の)医療従事者と患者の間でのお決まりの会話.赤ちゃん扱いして手取り足取りするんではなく,一人の人として,大人としてかかわってほしい.」(F氏)

Ⅴ. 考察

1. 母国と比較し日本の医療を捉えた上での自己管理

《日本で気づいた糖尿病の怖さ》,《母国との比較で日本の医療を肯定した自己管理への取り組み》のカテゴリの根底には日本の医療に良い印象を持っている様子が伺えた.先行研究では外国人患者が日本の医療に対し抱く思いを「『先進国』と『発展途上国』を意味するものではなく医療に限定した範型(prototype)」として,母国の経済発展による判断ではなく患者の思考の種類で「医療先進国型」と「医療発展途上国型」の2つに分類している(長坂・百々,2011).本研究の全体分析で得られた《母国との比較で日本の医療を肯定した自己管理への取り組み》に含まれる内容はどれも長坂・百々(2011)の「①日本の医療への称賛」または「②自国の医療への消極的言及」に当てはまり,「医療発展途上国型」の考えに分類できる.このような「医療発展途上国型」の考えを持つ中長期在留者は,母国の医療水準や母国での悪い医療体験と比較し日本の医療を高く評価しており,母国の糖尿病患者とは違い自分は日本で良い医療を受けられているという考え方がみられた.また,本研究ではこの医療発展途上国型の思考が糖尿病への向き合いや自己管理への取り組みといった自己管理に前向きに取り組む要因となっていることが示唆された.

しかし一方で,本研究では《医療者に頼らない自分での対処》には日本の医療を信頼しているからこそD氏のように自己管理ができないのは自分のせいだと感じている患者もいれば,A氏やE氏のように日本で医療を受けているから疑問や不安に思うことがあっても大丈夫だと思い医療者に聞かないで自己判断に頼る患者がいることも明らかとなった.日本の医療に不満があるという背景から日本の医療者に頼らず内服トラブルが起きたり,よくわからないまま医療を受けているF氏のケースも明らかになったことから,医療発展途上国型,医療先進国型のどちらの思考でも《医療者に頼らない自分での対処》がなされる可能性が考えられる.寺岡・村中(2017)の研究でも明らかになっているように,患者の日本の医療に対する捉え方は様々である.患者の治療に対する姿勢や普段の自己管理に関しアセスメントを行う際,また,患者との関係構築を行う上で,患者が日本の医療をどのように捉えているのかを把握することは重要だ.その際,本研究で明らかとなったように,患者が日本と母国の医療を比較しているということから,母国での医療や健康教育,医療体験について尋ねることが重要だろう.また,参加者が疑問点を医療者に頼らず,自身で母語や日本語でネット検索し情報を取り入れている状況からも,自己管理方法や不安や疑問はないか等医療者側から尋ね,現在行っている自己管理を把握した上で支援する必要があると考える.

2. 母国の食文化も踏まえたより良い食事療法の開発の必要性

《母国の食文化とは異なる日本での自己管理への取り組み》にみられるように日本での食事療法は母国の食事内容と違いがあると感じながらも,工夫をしながら食事療法に取り組んでいる姿がみられた.その中でD氏のように,魚を食べない文化の患者に対し,魚は良いと栄養指導が行われたことで食事療法への難しさを感じている患者もいることが明らかである.先行研究でも文化が健康食に影響があると述べられている文献がある(Jager et al., 2019).中長期在留者が食事療法として取り入れる食材や料理は様々であることが予想でき,本研究からは中長期在留者にとって日本式の栄養指導だけでは,食事療法に対する困難が生まれる可能性が示唆された.

また,C氏のように中長期在留者は母国の食事文化も取り入れつつ食事療法を行っていることも明らかであり,日本人患者に比べより豊富な食事内容による食事療法を実践している可能性も考えられる.Kishimoto & Noda(2016)の症例報告では,訪日外国人として日本にセカンドオピニオンに来た1型糖尿病のロシア人に対する食事指導の際に,患者が普段食べているロシア料理を写真で見せてもらうことで医療者側が食事内容を具体的に把握でき,その食事に合わせた食事指導を行ったことが減量に繋がったと述べられていた.以上のことから,食事が治療に大きく影響がある中長期在留者に対しては,日本式の食事指導のみでなく,患者の母国の食文化や今現在行っている食生活を具体的に把握し,それに合わせて食事指導内容に柔軟に変更することが重要だと考える.

3. 日本での生活における戸惑いや不安の背景を知り支援する必要性

《その人なりの糖尿病との生活》からは,中長期在留者が日本での今の生活を大切にしながら糖尿病と共に生活している様子が明らかとなり,参加者の生活体験のあり様の多様性が示された.これらの体験は「外国人患者」や「国」で分類できるものではなく個別性のあるものだと考えられる.日本に来てストレスや文化の違いによる戸惑いもある中で(歌川・丹野,2008),学校に通ったり,主婦や仕事をするなど,各々の日本での生活スタイルができていた.糖尿病患者である前に,中長期在留者として少しずつ積み上げられた今の日本での生活を維持したいという考え方がベースにあるのではないだろうか.看護師は,中長期在留者には日本での「今の生活」があるということを理解し,その生活が崩れないような糖尿病との過ごし方についてアドバイスを行う必要があると考える.

《異国で糖尿病と暮らす戸惑いや不安》では,結果で述べたように,A氏から日本人の病気の捉え方と母国の病気の捉え方が違うことでの戸惑いが,D氏からは親戚のいない日本での糖尿病との将来に対する不安がみられた.言葉や食事,宗教といった文化は先行研究でもよく注目されているため文化の違いとして想像しやすいが,本研究では家族形態や病気の捉え方といった文化の違いも2型糖尿病との日本での生きにくさに繋がる可能性が明らかになった.

家族形態に関して,日本では核家族化が進んでおり1世帯の人数も減少傾向にある(厚生労働省,2019).しかし,東南アジアをはじめとした国々では大家族で生活が送られている国もあり(日本経済新聞,2013),このような国ごとの世帯状況の違いが背景にある可能性もある.その一方で,病気の捉え方に関して,《異国での糖尿病と暮らす戸惑いや不安》に示されている,「糖尿病と打ち明けた時の周りの反応に戸惑いを覚える」「糖尿病であることで将来への不安を感じる」といったことは,日本人にも起こりうることで中長期在留者のみが経験すると断言できるものではないとも言える.しかし,東南アジアの移民の糖尿病のセルフマネジメントに関するレビューで,民族の考え方や習慣はセルフマネジメントに影響する要因の一つであることが明らかにされており(Park et al., 2016),文化や習慣の違う国での糖尿病との生活にはギャップも少なからずあることが予測できる.このことからも,日本人と同じような悩みと捉えるのではなく,中長期在留者の戸惑いや不安の背景には,母国と日本の生活や価値観の違いに伴うギャップが影響している可能性に注意を払うことが重要だと考える.それぞれの生活体験に寄り添い,その人の文化的背景に配慮した支援が必要である.

4. 言葉の壁を越えて糖尿病を適切な知識と共に自分のこととして捉えられる支援

《外国人だからこそ感じる糖尿病治療への期待》では,医療者への希望の1つとして中長期在留者が糖尿病の知識や合併症の怖さを理解できる工夫が必要だということが明らかになった.

先行研究にて,「漢字が多用されていた,薬の表示が読めない,専門用語がわからない」(渡邉ら,2017村上ら,2015百々・長坂,2013榊原ら,2007浅山ら,2007),「医師の説明がわからない,医師とコミュニケーションがとれない」(渡邉ら,2017百々・長坂,2013Mwakatobe et al., 2004浅山ら,2007)といった,読み書き/会話における言葉の壁が理由で起こった医療者とのコミュニケーションエラーや,易しい言葉で話してほしい,通訳の導入等を用いて説明内容を理解できるようにしてほしいといった,言葉の壁に対する対策を求める声が上がっている(福井,2009浅山ら,2007).本研究でも言葉の壁により治療内容の理解が難しいことから,中長期在留者にもわかりやすい医療環境の整備への要望が示された.先行研究にて,日本に10年以上住んでおり,日本語での日常会話に問題はなかった患者へ既存の日本語パンフレットを渡したが,細かな説明が伝わらなかったケースがみられた(石原・落合,2014).このことから,言葉の壁は日本に住んでいる年数や日本語の会話レベルに関係なく起こりうることがわかる.また,会話ができても読み書きは難しい中長期在留者も多く,こういった言葉の壁に対しては先行研究にて,ジェスチャーや言語カードの作成,筆談,通訳の介入,写真・パンフレットの使用が有効とされている(中川・多久和,2012川村,2010中村ら,2009城ヶ端ら,2008村上ら,2007長谷川ら,2002).各患者の読み書き/会話のレベルを見極め適当な対策を取るべきだ.言葉の壁に対しては,岡村(2020)も述べているように,診断当初やIC時など,確実に患者に理解してもらうべき場面では,医療通訳を介して患者のアドヒアランスを向上させることが重要だと考える.

また,福井(2009)浅山ら(2007)が述べているように言葉への対策も重要ではあるが,本研究ではC氏D氏E氏のように日本語での医療に不自由を感じていない方からも中長期在留者に対しての工夫が大事であるという結果が明らかになった.中長期在留者が,糖尿病がどういう病気なのかを真に理解でき,合併症の怖さを実感できる,伝え方の方法/工夫が大切だということが言えるだろう.

Ⅵ. 研究の限界と強み

本研究の研究参加者は6名だった.国籍にばらつきは見られたものの,この6名の体験だけでは2型糖尿病の中長期在留者の生活体験のあり様を網羅することは難しいと考える.より多国籍かつ様々な生活背景を持つ中長期在留者を対象とする必要がある.また,母国での医療環境や健康教育の違いも日本での体験に大きく影響があることも考えられた.今後の研究では,この点も加味して研究参加者の選定を行う必要があるだろう.

通訳を介してのインタビューでは,通訳の意訳により,質問内容や語りに歪みが生じた可能性を否定できず,母語ではない日本語を用いた語りで自身の考えや思いをより適切に深く語ることは難しいと考える.しかし,研究全体を通して,外国人研究に精通した共同研究者から専門的視点からアドバイスをもらい意見を反映したこと,また,通訳翻訳などの最大限対策を行ったことはこの研究の強みだ.また,外国人患者を研究参加者として実際の声を聴いた研究は渡邉ら(2017)寺岡・村中(2017)など数件しかなく,これらは参加者の言語が限定されている.本研究はそのような制限を設けないことで,より広く2型糖尿病をもつ中長期在留者の生活体験を明らかにすることができたと考える.

Ⅶ. 結論

日本で外来通院中の中長期在留者の2型糖尿病と共に生きる生活体験のあり様を明らかにすることを目的に,6名の中長期在留者の2型糖尿病患者に対し半構造化面接を実施した結果,《日本で気づいた糖尿病の怖さ》《母国との比較で日本の医療を肯定した自己管理への取り組み》《医療者に頼らない自分での対処》《母国の食文化とは異なる日本での自己管理への取り組み》《その人なりの糖尿病との生活》《異国での糖尿病と暮らす戸惑いや不安》《外国人だからこそ感じる糖尿病治療への期待》の7つのカテゴリが明らかになった.中長期在留者の自己管理や糖尿病との生活には,母国とのギャップや日本の医療の捉え方が影響し,特有の困難や状況があると考えられた.その人が大事にしている日本での生活を理解し,文化背景に歩み寄った多様性に配慮した支援の必要性や,糖尿病や合併症の怖さを真に理解してもらえる伝え方の工夫が重要だということが考えられた.

付記:本研究は,著者が当時所属の大学院に提出した修士論文に加筆・修正を加えたものである.

謝辞:本研究にご協力いただきました研究参加者の皆様,対象施設のスタッフの皆様,通訳翻訳にご協力いただいた留学生の皆様に心より感謝申し上げます.

利益相反の有無:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:SY,KN,HKの3名は,研究の着想や研究計画をはじめデータ分析や草稿への示唆及び全体への助言に貢献した.KHは研究の着想,研究計画に対する助言に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み承認した.

文献
 
© 2020 Japan Academy of Nursing Science
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