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The Detection of Postpartum Depression among Japanese Mothers Using the Edinburgh Postpartum Depression Scale Partner (EPDS-P)
Hiroe YamamotoMari Ikeda
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2021 Volume 41 Pages 106-113

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Abstract

目的:産後うつ病をパートナーが評価するスクリーニング尺度EPDS-P日本語版を作成し,産後1か月時点の父親による母親の産後うつ病の兆候を検出しEPDS高得点者の発見につなげることができるか検討した.

方法:EPDS-P日本語版を作成し,1か月児健康診査を受診した健康な児を育てる夫婦147組を対象に,無記名自記式質問紙調査を実施した.

結果:母親のEPDSと父親のEPDS-Pの間にrs = 0.27の有意だが弱い相関が認められた(p < 0.01).EPDS-Pのクロンバックα係数は0.83であった.EPDSのカットオフ値(9点)を仮にEPDS-Pのカットオフ値とした時,EPDS陽性者の母親を検出する感度は50%,特異度は83%であった.母親のEPDSと父親のEPDS-Pの対応する項目1,3,7,8,9の5項目と産後うつ病の身体症状3項目(食欲の変化,睡眠の変化,易疲労性)に有意な相関が認められた.

結論:EPDS-Pを活用したパートナーによる産後うつ病の早期発見の可能性が示唆された.

Translated Abstract

Purpose: This study explored the possibility of early detection of postpartum depression by mothers’ partners.

Methods: The Edinburgh Postpartum Depression Scale Partner (EPDS-P) was translated into Japanese and back-translated by several bilingual translators and discussed with the original author to establish semantic equivalence. The participants were 147 couples whose infants had check-ups 1 month after delivery at a university hospital and an obstetrics clinic. The mother’s questionnaire consisted of the EPDS and questions about physical symptoms of postpartum depression. The partner’s questionnaire consisted of the Japanese version of the EPDS-P (EPDS-P-J) and questions about their perception of the mother’s physical symptoms.

Results: The average EPDS score of the women who participated was 4.4 (3.4), with a cut-off of 9 points at 12.2%. Analysis showed a positive correlation between mother’s EPDS score and partner’s EPDS-P-J score (rs = .27; p < .01). Cronbach’s α for the EPDS-P-J was 0.83, suggesting sufficient reliability. Unhappiness and crying, self-blame, unhappiness and difficulty falling asleep, sadness, and able to laugh showed significant correlations between EPDS and EPDS-P-J (rs = .37, rs = .29, rs = .20, rs = .20, rs = .19, p < .05, respectively). Physical symptoms of postpartum depression also showed a significant correlation. Partners rated the women’s symptoms more seriously than the women rated themselves.

Conclusion: The EPDS-P-J was found to a significant correlation with the mother’s EPDS. The results of this study suggest that partners can detect early postpartum depression in mothers.

Ⅰ. 緒言

厚労省研究班は,2016年までの2年間で102名の妊産婦が自殺をしたとの初めての調査結果を示した(森,2018).自殺の原因として母親のメンタルヘルスの問題があることが指摘されている.中でも産後うつ病は,気分の落ち込み(抑うつ)と興味の減退を主症状とし,その他の関連症状(食欲の変化,睡眠の変化,易疲労性,集中困難,精神運動性障害など)をいくつか有し,それが2週間以上持続し,重症化すると自殺企図などの症状が現れるもので,その発症時期は産後4週から1年の間であると定義されている(北村,2007).Tokumitsuらによるメタ解析で,日本人女性の産後1か月時点での産後うつ病の有病率は14.3%と報告されている(Tokumitsu et al., 2020).その影響は,母親自身の長期的なメンタルヘルスの問題だけでなく,子育てや乳幼児の発達にも長期的で深刻な影響を与えることから,その対応が急務となっている(Prenoveau et al., 2017Avan et al., 2010).

産後うつ病をはじめとする産後のメンタルヘルスの問題は,早期発見,早期介入が重症化予防に有効であるが,気分の落ち込みや不眠などは多くの母親に見られることから,家族も含め普通のことと見逃されがちである.これに対し,2017年改正の産婦人科診療ガイドライン(日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会,2017)から産後うつ病に関する具体的な対策が盛り込まれ,スクリーニング法の一つとしてエジンバラ産後うつ病自己調査票(Edinburgh Postpartum Depression Scale,以下EPDS)を用いることが推奨されている.この尺度は,産後うつ病を診断するものではないが,10項目の簡便な自記式質問紙であり,岡野ら(1996)により,産後1か月時点で9点以上は産後うつ病の可能性が高いとするカットオフ値が示されていることから,現在多くの医療機関や保健機関で用いられている.しかし,EPDSは母親自身が回答することから,抑うつ症状が強く,回答そのものに負担を感じる場合や,育児に対する責任感や性格特性により助けを求めない母親からは,正しい回答を得られない可能性があり,得点と面接時の印象が異なる場合の解釈についての留意事項が示されている(日本産婦人科医会,2017).また,Okanoら(1998)は,産後うつ病の母親が医療機関を受診する割合が約10%であり,母親は自身のメンタルヘルスの不調に気づいても早期受診につながらない可能性を指摘している.これらのことから,家族が母親のメンタルヘルスの不調に気づき,受診につなげることは重要である.O’Haraら(Moran & O’Hara, 2006)は,EPDSの10項目をパートナーが採点できるように改変したEdinburgh Postpartum Depression Scale Partner(以下,EPDS-P)を開発し,生活を共にしているパートナーによる産後うつ病のモニタリング評価を提案した.

現在,核家族化が進み,子育ては夫婦で担うものという意識が高まっており,産後うつ病の問題は,母親だけでなく父親のメンタルヘルスにも多大な影響を与えることが先行研究で明らかとなっている(Goodman, 2004Cox, 2005).出産後の母親は,1か月健診後,3,4か月児健康診査まで医療者によるフォローアップはないことから,父親が母親のメンタルヘルスをモニタリング評価し,産後うつ病の兆候に気づくことは,産後うつ病の早期介入につながるとともに,家族機能の強化が期待できる.そこで,EPDS-P日本語版を作成し,父親による産後うつ病兆候の観察ツールとしての活用の可能性について検討した.

Ⅱ. 研究目的

産後うつ病をパートナーがモニタリング評価するスクリーニング尺度EPDS-P日本語版を作成し,産後1か月時点において,母親自身のEPDSの回答との関連から,父親による母親の産後うつ病の兆候を検出しEPDS高得点者の発見につなげることができるかを検討する.

Ⅲ. 研究方法

1. EPDS-P日本語版の作成

EPDS-Pは,EPDSの10項目をパートナーが採点できるように改変した産後うつ病のパートナー評価尺度である(Moran & O’Hara, 2006).EPDSは,産後うつ病の主症状である抑うつと興味の減退に関連した質問10項目4段階リッカートスケール(0点から3点)で構成され,9点以上は「産後うつ病疑い」と判断する(岡野ら,1996).EPDS-Pの質問項目および回答の選択肢は,EPDS項目と対応しており,EPDSと同様に合計点を算出する(高得点ほど抑うつ症状は強いことを意味する).本調査に先立ち,開発者に日本語版の開発許諾の手続きを行い,その後,EPDSの質問項目をふまえ,周産期メンタルヘルスの研究を行う研究者計3名と検討を行い,日本語版を作成した.また,育児経験を持つ夫婦3組にプレテストを行い,表現の確認を行った.その後,英語を母国語としている2名の職業翻訳家が逆翻訳を行い,原版との整合性を確認するとともに,日本語版の意味内容と原版と差異が認められないことを開発者に確認した.

2. 対象および調査方法

1) 対象

A県内の研究協力施設2施設(大学病院と産科クリニック)において,2017年4月から2018年6月に1か月児健康診査を受診した健康な児を育てている夫婦617組(初経産は問わない)を対象に,無記名自記式質問紙調査を実施した.健診時,研究者より研究の趣旨を書面及び口頭で説明し,同意が得られた母親もしくは夫婦に質問紙を配布し,自宅にて夫婦それぞれが回答後,個々に郵送で回収をした.夫婦の回答の正確性に配慮し,夫婦それぞれに研究説明書及び質問紙,返信用封筒をクリップ止めしたものを用意し,お互いの回答を閲覧しないことを研究説明書に明記した.なお,夫婦は返送封筒に記載した同一のIDで連結した.

2) 調査内容

母親に対しては,属性(年齢,初経産,家族形態,不妊治療の経験の有無,精神科既往歴)と,産後うつ病の兆候を測るためEPDSとPatient Health Questionaire-9日本語版(以下,PHQ-9)への回答を求めた.PHQ-9は,村松らが日本語版を作成し(村松,2014),うつ病性障害の症状レベルの重症度を測定する9項目4段階リッカートスケール(0点から3点)で得点が高いほど抑うつ症状が高いレベルであると評価する.国内外の先行研究で産後うつ病の評価に使用されていることから,今回,基準関連妥当性を確認するために用いた(清野ら,2014Gjerdingen et al., 2009).加えて,EPDSの項目にはない産後うつ病の身体症状3項目(食欲の変化,睡眠の変化,易疲労性)について,その自覚を5件法(4~0)で尋ねた.

父親に対しては,属性(年齢,精神科既往歴),EPDS-Pと産後うつ病身体症状3項目について母親がどのような様子かモニタリング評価を求めた.

3) 分析方法

母親のEPDS,PHQ-9,身体症状3項目と,父親が評価したEPDS-P,母親の身体症状3項目と属性について統計ソフトSPSS ver. 26を用いて,統計解析を行った.まず,母親のEPDS得点と父親が評価したEPDS-P得点の相関を確認した.また,EPDS-PとPHQ-9との相関により,基準関連妥当性を確認するとともに,EPDS-Pのクロンバックα係数を算出し,内的信頼性を検討した.加えて,EPDS9点以上の「産後うつ病疑い」群と陰性群の2群に分け,父親が評価したEPDS-P得点の差の検定と,EPDS9点以上の「産後うつ病疑い」の検出結果から感度と特異度を算出した.

次に,父親のモニタリング評価が母親の各回答をどの程度予測できるかを確認するために,母親のEPDS項目および身体症状3項目と対応する父親のEPDS-P項目および身体症状の項目毎の評価の一致度を相関により確認した.なお,今回使用した尺度はすべて順序尺度であり,非正規分布となることから,相関の確認ではSpearmanの順位相関係数の算出を行い,得点の差の検定では,Wilcoxonの符号化順位検定を用いた.

4) 倫理的配慮

本研究は,愛知医科大学病院倫理委員会の承認を受け実施した(承認番号2018-H146).対象者に対し,口頭および書面で研究目的等とともに,研究協力施設とは独立した研究であり,参加の自由意思,拒否の保障(調査開始後の拒否も可能),かつそのことによる不利益を被ることがないことを研究者から説明した.今回夫婦に調査を行っているが,お互いの回答を閲覧しないことを説明した.夫婦それぞれの無記名自記式調査票への回答をもって研究への参加の同意とみなした.

Ⅳ. 結果

1. 研究対象者の特徴

母親199名,父親148名から回答が得られ,有効回答率はそれぞれ32.3%,24.0%であった.夫婦の回答が得られた147組,有効回答率23.8%を分析対象とした.母親の年齢の平均(SD)は33.6(4.4)歳,父親は35.3(5.3)歳であった.初産の割合は52.7%,核家族世帯は93.2%であった.不妊治療の経験があるものは26.4%であり,精神科既往のある母親は29名20.0%,父親は13名8.8%であった.

2. 母親の産後うつ病兆候と父親による評価の関連

1) EPDSとEPDS-P日本語版の信頼性・妥当性

母親のEPDS得点の平均(SD)は,4.4(3.4)点であった.得点範囲は0点から16点で,「産後うつ病疑い」と判断されるスクリーニング陽性者(9点以上)は18名(12.2%)で,8点以下の陰性者は129名(87.8%)であった.EPDSのクロンバックα係数は0.81であった.PHQ-9得点の平均(SD)は3.3(4.1)点であり,軽度以上のうつ病症状がある(5点以上)と評価された母親は21.2%であった.父親が評価したEPDS-P得点の平均(SD)は5.7(4.4)点で,得点範囲は0点から21点であった.EPDS-Pのクロンバックα係数は0.83であった.

母親のEPDS得点およびPHQ-9得点と父親が評価したEPDS-P得点の相関を表1に示す.EPDS得点とEPDS-P得点の間にrs = 0.27の有意だが弱い相関が認められた(p < 0.01).同様にPHQ-9得点とEPDS-P得点の間にもrs = 0.23の有意だが弱い相関が認められた(p < 0.01).

表1  母親のEPDS得点及びPHQ-9得点と父親が評価したEPDS-P得点の相関(母親n = 147 父親n = 147)
母親のEPDS得点 父親のEPDS-P得点
母親のEPDS得点 .27**
母親のPHQ-9得点 .49**. .23**

Spearmanの順位相関係数rs,**:p < .01

EPDS9点以上のスクリーニング陽性者と陰性者に分けた結果,EPDS陽性者のEPDS-P得点の平均(SD)は9.4(5.6)点で,陰性者は5.1(4.0)点であり,陽性者のEPDS-P得点が陰性者より有意に高かった(p < 0.01).EPDS-P得点によるEPDS陽性者(9点以上)検出の感度と特異度を表2に示す.EPDSのカットオフ値であり,かつEPDS陽性者のEPDS-P平均値である9点を仮にカットオフ値とした場合,EPDS9点以上の母親を検出する感度は50%であった.

表2  EPDS-P得点によるEPDS陽性者(9点以上)検出の感度と特異度
EPDS-P得点によるカットオフ値 EPDS陽性者のEPDS-Pによる的中者数 EPDS陰性者のEPDS-Pによる的中者数 感度/特異度(%)
12点以上 5/18 6/129 28/95
11点以上 8/18 13/129 44/90
10点以上 8/18 18/129 44/86
9点以上 9/18 22/129 50/83
8点以上 10/18 35/129 56/73
7点以上 13/18 46/129 72/64
6点以上 14/18 62/129 78/52
5点以上 15/18 70/129 83/46
4点以上 15/18 83/129 83/36
3点以上 16/18 88/129 89/32
2点以上 17/18 99/129 94/23
1点以上 18/18 105/129 100/19

2) 父親による母親の産後うつ病兆候の評価の特徴

母親のEPDS各項目と対応するEPDS-P各項目及び,産後うつ病の身体症状

3項目の母親・父親の評価について表3に示す.

表3  母親のEPDS各項目得点と父親のEPDS-P各項目の得点及び,産後うつ病の身体症状3項目の母親・父親の得点
EPDS/EPDS-P項目 母親のEPDS 父親のEPDS-P 相関係数
M (SD) M (SD) rs1)
1.笑うこともできたし,物事の面白い面もわかった./私のパートナーは笑うことができたし,物事の面白い面もわかった. 0.1 (0.3) 0.2 (0.5) .19*
2.物事を楽しみにして待った./私のパートナーは物事を楽しみにしていると話していた. 0.1 (0.3) 0.2 (0.5) .10
3.物事がうまくいかない時,自分を不必要に責めた./彼女は,物事がうまくいかない時,彼女自身を不必要に責めた. 0.9 (0.9) 0.8 (0.8) .29**
4.はっきりした理由もないのに不安になったり,心配したりした./彼女は不安になったり,心配しているようだ. 0.7 (0.9) 1.1 (0.9) .08
5.はっきりした理由もないのに恐怖に襲われた./彼女は恐怖やパニックに襲われた. 0.5 (0.7) 0.5 (0.7) .02
6.することがたくさんあって,大変だった./彼女はすみやかにやるべきことをかたづけたり,うまくやることができなかった. 1.3 (0.8) 0.7 (0.8) .01
7.不幸な気分なので,眠りにくかった./彼女は眠るのが難しくなっている. 0.2 (0.5) 1.3 (1.1) .20*
8.悲しくなったり,惨めになったりした./彼女は,悲しくなったり,惨めになったりするようだ. 0.4 (0.6) 0.5 (0.7) .20*
9.不幸な気分だったので,泣いていた./彼女は泣いていた. 0.2 (0.5) 0.3 (0.6) .37**
10.自分自身を傷つけるという考えが浮かんできた./彼女は自分自身を傷つけるという考えを持っているようだ. 0.1 (0.4) 0.1 (0.4) .02
EPDS総点/EPDS-P総点 4.4 (3.4) 5.7 (4.4) .27**
《産後うつ病の身体症状》 母親 父親の評価
1.食事をとることができない./彼女は食事をとることができない. 1.3 (0.7) 1.3 (0.7) .24**
2.睡眠をとることができない./彼女は睡眠をとることができない. 2.0 (1.1) 2.6 (1.1) .33**
3.疲れている./彼女は疲れている. 2.7 (0.9) 2.8 (0.9) .37**

1)Spearmanの順位相関係数 * p < .05 ** p < .01

EPDSと対応するEPDS-Pの項目ごとの評価の相関では,項目1「笑うこともできたし,物事の面白い面も分かった」,項目3「物事がうまくいかない時,自分を不必要にせめた」,項目7「不幸な気分なので,眠りにくかった」,項目8「悲しくなったり,惨めになったりした」,項目9「不幸な気分だったので,泣いていた」の5項目に有意な相関が認められた(順にrs = 0.19,rs = 0.29,rs = 0.20,rs = 0.20,rs = 0.37 p < 0.05).また,産後うつ病の身体症状3項目(食欲の変化,睡眠の変化,易疲労性)の母親の得点の平均(SD)はそれぞれ,1.3(0.7)点,2.0(1.1)点,2.7(0.9)点であった.父親が評価した母親の身体症状3項目の平均(SD)は,それぞれ1.3(0.7)点,2.6(1.1)点,2.8(0.9)点で,母親の得点と父親の評価は3項目すべてに有意な相関が認められた(順にrs = 0.24,rs = 0.33,rs = 0.37 p < 0.01).

Ⅴ. 考察

1. 母親の抑うつとEPDS-P日本語版の信頼性・妥当性

産後うつ病をパートナーが評価するスクリーニング尺度EPDS-P日本語版を作成し,産後1か月時点の父親による母親の産後うつ病の兆候を検出しEPDS高得点者の発見につなげることができるか評価した.有効回答が得られた147組は,初産婦が約半数で出産年齢平均が33.6(4.4)歳であった.2018年の第一子出産年齢平均は30.7歳,第二子,第三子出産年齢は32.7歳,33.7歳であることを考慮すると,今回の対象は概ね一般的な集団と考えられる(厚生労働省,2019).今回の調査結果で,産後1か月時の母親のEPDS陽性率は18名12.2%であった.この18名について精神医学的診断面接をおこなっていないため産後うつ病と診断することはできないが,「産後うつ病疑い」として早期介入が必要な対象ととらえることができる.日本における産後1か月時の産後うつ病は10~15%であること(岡野ら,1996)や,最近EPDSを使用した先行研究とほぼ同様の結果が得られた(塩谷・我部山,2018).

作成したEPDS-P日本語版10項目のクロンバックα係数は0.83であり,内的信頼性が確認された.EPDS-P日本語版の得点の平均(SD)は5.7(4.4)であった.原版EPDS-Pは産後2週間時と6週間時に調査を行っており,産後2週間時の平均が8.2(4.3),6週間時は7.4(5.0)であり,日本語版の方が低い評価となった(Moran & O’Hara, 2006).この背景として日本人の感情をあまり外に出さない性格といった文化的な影響が推察されるが,今後,サンプル数を増やし慎重に検討する必要があると考える.

母親のEPDSとEPDS-Pとの相関を確認したところ,相関係数0.27と弱い相関が認められた.基準関連妥当性を検証するため,PHQ-9とEPDSおよびEPDS-Pの相関係数を確認したところ,それぞれrs = 0.49,rs = 0.23と有意だが弱い相関が認められた.しかし,先行研究では,EPDSとEPDS-Pの相関係数は産後2週間時,6週間時ともに0.51であり,本結果は先行研究より相関が低かった.米国に比べ,日本の父親の育児・家事関連時間が約半分と少ないことが指摘されており(内閣府,2016),父親が母親の育児・家事の様子を観察する機会が少ないことが本結果に影響をしている可能性が推察されることから,夫婦の関係性や関わる時間などをふまえた更なる考察が必要である.

EPDS-P得点によるEPDS陽性者(9点以上)検出の感度と特異度を算出した結果,EPDSのカットオフ値であり,かつEPDS陽性者のEPDS-P平均値である9点を仮にEPDS-Pのカットオフ値とした場合の,EPDS9点以上の母親を検出する感度は50%,特異度83%と感度が低い結果となった.スクリーニングツールとして感度を80%以上にあげるため,カットオフ値を仮に5点とした場合は特異度が46%と低下し,今回の結果からは,産後うつ病のスクリーニングツールとしての正確性は低かった.本調査では産後うつ病の診断を行っておらず,EPDSのカットオフ値に基づいた分析を行った.EPDS-Pによる母親の産後うつ病兆候のスクリーニングの目的は,支援が必要な母親の早期発見であることから,産後うつ病の診断とEPDS-P得点との検討を行い,EPDS-Pによる産後うつ病スクリーニングとしての正確性を示すことが急務と考える.

2. 父親による母親の産後うつ病兆候の評価と看護介入

EPDS-Pの各項目について,EPDSとの関連を検討した結果,項目1「笑うこともできたし,物事の面白い面も分かった」,項目3「物事がうまくいかない時,自分を不必要にせめた」,項目7「不幸な気分なので,眠りにくかった」,項目8「悲しくなったり,惨めになったりした」,項目9「不幸な気分だったので,泣いていた」の5項目に有意な相関が認められた.この結果から,項目1「笑うこと」,項目3「自責感」,項目7「眠りにくさ」,項目8「悲観」,項目9「落涙」は,父親が注目することで母親のEPDS得点を予測でき,産後うつ病の早期発見につながる可能性が示唆された.一方で,項目4「不安」,項目5「恐怖」,項目6「対処能力」といった母親の不安項目について,父親は気づきにくいことが明らかとなった.妻が産後うつ病を発症した時の夫の体験についての先行研究(山本,2014)で,「産後うつ病は知っているが,妻の様子がいつもと違うと違和感をもちつつも,妻が産後うつ病だとは思わなかった」という夫の語りにあるように,父親が母親の産後うつ病の兆候に気づき,受診につなげることは難しいとされてきた.しかし,一緒に生活する中で母親の心理状況は気づきにくいものの,産後うつ病の兆候の一部を気づくことができていることが示唆された.また,産後うつ病の身体症状3項目(食欲の変化,睡眠の変化,易疲労性)の母親の回答と父親による評価は,すべての項目について中程度の相関が認められたことから,父親が母親の産後うつ病の身体症状に注目することの重要性が示唆された.

近年,母親のメンタルヘルスの問題が注目され,産後うつ病の情報提供はなされるようになった.また,日本では父親の育児参加が推し進められているが,平成28年の内閣府調査(内閣府,2016)の6歳未満の子どもをもつ男性の家事・育児関連時間は母親の約18%程度で我が国は先進国の中で最低の水準であることが指摘されており,母親のメンタルヘルスの変化を父親が気づくことは難しい.本研究結果より,EPDS-P日本語版を産後うつ病のスクリーニング尺度として活用するには正確性の課題があるものの,母親の回答と相関が認められた項目について,母親の身近で生活をしている父親が気づくことができる産後うつ病の兆候として父親に知識提供を行い,注意深く観察することを伝えることで,本人の訴えだけに頼らない産後うつ病を早期発見できる可能性が示唆された.また,父親がEPDS-Pを用いることで,産後うつ病に関する適切な情報提供と疾患の理解につながり,家族の強化が期待できることが示唆された.

3. 本研究の限界と今後の課題

今回は母親の抑うつをEPDS-P日本語版を用いて父親が評価すること試みた.出産後,父親は直接医療者が関わることはなく,父親を対象とした調査が難しく,夫婦のペアデータを用いた研究はほとんどなされてこなかった.子育てを夫婦で担うという意識が一般化しつつある中,夫婦ペアの今回の調査は,意義があると考える.しかし,有効回収率は23.8%と低く,研究協力が得られた父親は,比較的母親のメンタルヘルスに対する意識が高いことが予測され,一般化は難しいと考える.今後,父親の調査対象を広げ,回収率を上げて分析することが必要と考える.今回,EPDSとEPDS-Pの相関は低く,母親のEPDSが高いにも関わらず父親が評価したEPDS-P得点が1,2点と低い事例が認められた.先行研究において,父親の産後うつ病の有病率が8.4%程度であること(Cameron et al., 2016)や,パートナーである母親が産後うつ病を発症した男性の24%から50%が産後うつ病を発症する(Goodman, 2004)こと,夫婦間の抑うつは互いに影響しあう(Vismara et al., 2016)ことが指摘されている.今回の父親によるモニタリング評価に,父親自身のメンタルヘルスが影響し適切な回答につながらなかった可能性も考えられる.本研究では,父親のメンタルヘルスとの検討ができていないことから,父親の情報を踏まえEPDS-Pの産後うつ病兆候の検出の正確性を検証することが必要と考える.

本調査では産後うつ病の診断を行っておらず,EPDSのカットオフ値に基づいた分析を行った.EPDS-Pによる母親の産後うつ病兆候のスクリーニングの目的は,支援が必要な母親の早期発見であることから,今後,父親によるEPDS-P得点とともに,精神医学的診断面接による母親の産後うつ病の診断を実施し,EPDS-Pによる産後うつ病スクリーニングとしての正確性を示すことが急務と考える.

Ⅵ. 結語

本研究は,産後うつ病をパートナーである父親が評価するスクリーニング尺度EPDS-P日本語版を作成し,産後1か月時点の父親による母親の産後うつ病の兆候を検出しEPDS高得点者の発見につなげることができるか検討した.この結果,EPDS-P日本語版の内的信頼性が確認され,母親のEPDS得点との弱いが有意な相関が認められた.EPDS-P得点によるEPDS陽性者(9点以上)検出の感度と特異度を算出した結果,産後うつ病のスクリーニング尺度として活用するには正確性に課題が残った.今後,産後うつ病の診断や父親のメンタルヘルスとの関連を踏まえた検討が必要である.

しかし,項目別では,項目1「笑うこと」,項目3「自責感」,項目7「眠りにくさ」,項目8「悲観」,項目9「落涙」は,母親のEPDS評価との相関が認められた.また,産後うつ病の身体症状3項目(食欲の変化,睡眠の変化,易疲労性)はすべての項目で母親の回答との相関が認められ,EPDS-Pの項目を母親の身近で生活をしている父親が気づくことができる産後うつ病の兆候として父親に知識提供を行い,注意深く観察することを伝えることで,本人の訴えだけに頼らない産後うつ病を早期発見できる可能性が示唆された.

付記:本研究は,40rd International Marcé Society for Perinatal Mental Healthにて発表し,これに一部加筆修正を加えたものである.

謝辞:本研究にご協力いただきました研究参加者の皆様,ならびに産科医師,助産師の皆様に心より感謝申し上げます.また,本研究の計画・分析にあたり,多くのご助言をいただきました名古屋大学心の発達支援研究実践センター金子一史教授に厚く御礼申し上げます.なお,本研究は2016年度JSPS科学研究費基盤研究16K12092(代表者 山本弘江)の助成を受けて実施した研究の一部である.

利益相反:本研究における利益相反はない.

著者資格:HYは研究の着想およびデザイン,データ収集,分析,解釈,草稿の作成に貢献;MIはEPDS-P日本語版の作成,研究の分析,研究プロセス全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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