Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Original Articles
Burden and Manager’s Support Regarding the Traveling of Home Care Nurses and Their Intention to Remain Employed: A Cross-sectional Study
Yukari NagamiMahiro Fujisaki-Sueda-SakaiMaiko Noguchi-WatanabeNoriko Yamamoto-Mitani
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2021 Volume 41 Pages 122-131

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Abstract

目的:移動に対する負担感および管理者のサポートと訪問看護師の就業継続意向の関連を明らかにする.

方法:訪問看護管理者と訪問看護師に対し自記式質問紙調査を行い,就業継続意向を従属変数とするマルチレベル二項ロジスティック回帰分析を行った.

結果:管理者38名,看護師221名から有効回答を得た.就業継続意向がある者は151名(68.3%)であった.負担感は,非効率な訪問スケジュール(OR = 0.41, 95%CI: 0.22~0.78),管理者のサポートは,移動しやすい道のりの共有(OR = 2.49, 95%CI: 1.20~5.17),訪問間隔の確保(OR = 2.72, 95%CI: 1.19~6.21),移動時間の目安の提示(OR = 0.43, 95%CI: 0.21~0.92)が就業継続意向と関連した.

結論:移動に関する直接的な支援が就業継続支援に有用であることが示唆された.

Translated Abstract

Purpose: This study aims to examine the relationship between the work-related burden of traveling and the manager’s support for home care nurses and home care nurses’ intention to remain employed.

Methods: A self-administered questionnaire survey was conducted with homecare nurses and managers working at 103 home-nursing provider offices. A multilevel binomial logistic regression analysis was conducted with the intention to remain employed as the dependent variable.

Results: Responses from 38 managers and 221 home care nurses (effective response rate: 32.5%) were analyzed. The mean age of the home care nurses was 46.4 ± 7.9 years, 214 (96.8%) were female, and 151 (68.3%) had the intention to remain employed. The burden of traveling expressed as inefficient visit schedules (Odds Ratio(OR) = 0.41, 95% Confidence Interval(CI): 0.22–0.78), and managers’ support, expressed as sharing accessible routes to travel (OR = 2.49, 95% CI: 1.20–5.17), ensuring visit intervals (OR = 2.72, 95% CI: 1.19–6.21 ), and providing estimated travel time (OR = 0.43, 95% CI: 0.21–0.92), were associated with home care nurses’ intention to remain employed.

Conclusions: These results suggest that developing management support systems regarding the travel itself, such as ensuring intervals between visits, sharing accessible routes to travel, and providing an estimated travel time, may be useful for supporting home care nurses’ intention to remain employed.

Ⅰ. 緒言

近年,在院日数の短縮化によって,退院後にも医療的な処置や介入が必要な者が増加し,在宅医療の重要性が増してきている.訪問看護師は在宅医療の担い手として重要な役割を果たし,訪問看護事業所への看護師就職数は増加している(厚生労働省,2014).一方で,訪問看護師の離職率は約15%(日本看護協会,2011)と病院看護師の離職率約11%(日本看護協会,2018)より高く,多数の離職によって人員配置基準を満たせず,事業所を閉所せざるを得ない例が報告されている.訪問看護師を確保するためには,就業継続支援策の検討は焦眉の課題である.

訪問看護師の離職・就業継続に関しては,自身の就業継続意向が実際の就業継続に影響すると言われている(Ellenbecker et al., 2008).訪問看護師の就業継続意向に関する先行要因は,訪問看護師自身の要因として,年齢,訪問看護経験年数,扶養家族の有無が関連すると報告されている(Anthony & Milone-Nuzzo, 2005).また,事業所の要因としては,設置主体(秋葉ら,2017),看護師の人数(光本ら,2008)との関連が明らかになっている.その他にも,仕事満足度(Ellenbecker, 2004),やりがい(落合・郷間,2015)や働く喜び(御厩,2015),ワーク・ファミリー・コンフリクト(山口,2012),同僚間のインフォーマルコミュニケーション(御厩,2014)や管理者や同僚との会話の長さ(Noguchi-Watanabe et al., 2020)が就業継続意向の関連要因として報告されている.しかし,訪問看護職務の遂行には移動が必ず伴うが,移動と就業継続意向の関連は,未だ検討されていない.

訪問看護師の移動は,時間,交通状況,距離,訪問スケジュールを全て考慮しなければならず,負担を生じやすい(Martinson et al., 2002).次の訪問の約束時間に間に合わない焦りが報告され(吉田・古城,2015),この焦りは移動中の交通事故にも繋がるなど,訪問看護師の負担となっている(篠原・二階堂,2006).このように訪問看護師の移動に対する負担が指摘されているものの,その実態は明らかではなく,訪問看護師が認識する移動に対する負担感と就業継続意向との関連は明らかになっていない.

移動に対する負担感は,管理者のサポートによって軽減できる可能性が高い.訪問の時間や順番等は原則的には決まっているものの,時には,利用者のニーズや緊急度,および他職種の訪問時間の関係上,訪問先の優先順位を変更することもある(Irani et al., 2018).そのため,その突発的な変更も余儀なくされる訪問看護師の移動に対する管理者のサポートは重要である.管理者からのサポートが訪問看護師の就業継続意向を高めることが明らかになっているが(落合・郷間,2015),サポートは量よりもサポートの内容の影響が大きいという報告もある(仁科・谷垣,2009).したがって,移動に対するどのようなサポートが必要かつ効果的なのか,具体的に検討することで,訪問看護師確保において有益な知見が得ることができよう.

以上より,本研究は,訪問看護師の移動に対する負担感および管理者のサポートと訪問看護師の就業継続意向との関連を検討することを目的とした.

Ⅱ. 方法

1. 研究デザイン・研究対象者

郵送法を用いた自記式質問紙調査による横断的研究を実施した.A県看護協会から提供された訪問看護事業所一覧を基に,2018年5月に厚生労働省が提供する介護サービス情報公表システム「介護事業所・生活関連情報検索」を用いて,各事業所の管理者数と訪問看護師数を抽出した.その結果,A県内で稼働している全103ヵ所,管理者103名と訪問看護師681名を研究対象とした.各事業所あたりの対象人数は,管理者1名,訪問看護師2名~34名であった.

A県は,本州に位置し,大都市圏に隣接している.県南部は1年を通じ温暖であるが,県北部・北西部は一部豪雪地域も含まれる.県民の移動は車が主な手段となっている.

2. 調査手順

全103ヵ所の訪問看護事業所宛に,管理者と訪問看護師の人数分の研究説明書,質問紙,返信用封筒を管理者へ郵送し調査協力を求めた.管理者と訪問看護師は,研究説明書を読んだ上で,研究参加に同意する場合に質問紙を記入し,管理者・訪問看護師はそれぞれ個別に返送した.データ収集は,2018年5月~6月に実施した.

3. 調査項目

1) 訪問看護師の就業継続意向(回答者:訪問看護師)

先行研究(谷垣ら,2017Tourangeau et al., 2017)を参考に,「あなたは現在の事業所で働き続けたいと思いますか」と尋ね,「非常にそう思う」~「全くそう思わない」の5件法で回答を得た.

2) 訪問看護師の移動の特性

(1) 移動状況(回答者:訪問看護師)

一日当たりの訪問件数,一日当たりの合計訪問時間数,一件あたりの片道移動時間,主な移動手段,一日のうち移動に使っている時間割合を,訪問看護師に尋ねた.

(2) 移動に対する負担感(回答者:訪問看護師)

先行研究(Martinson et al., 2002篠原・二階堂,2006吉田・古城,2015)や5名の訪問看護師へのインタビューをもとに設問を作成した.その後,訪問看護を専門とする研究者と,調査内容と質問項目の整合性,質問の意図と質問文から読み取れる内容の適合性を確認し,妥当性を検討した.

訪問看護実践に伴う移動に対する負担感を訪問看護師に尋ねた.質問項目は,「天候によって移動が負担に感じる(天候の影響)」,「移動時に坂や階段などで体力を消耗する(体力の消耗)」,「移動に要する時間を予測しにくい(所要時間の予測困難)」,「移動時に交通事故が起きることが怖い(交通事故の怖さ)」,「訪問スケジュールが非効率だと感じる(非効率な訪問スケジュール)」,「訪問の移動手段が不適切だと感じる(不適切な移動手段)」,「直行直帰ができない(直行直帰不可)」,「次の訪問に間に合わない焦りを感じる(間に合わない焦り)」の8項目とした.各設問に対し「非常にそう思う」~「全くそう思わない」の5件法で回答を得た.

(3) 移動に関する管理者のサポート(回答者:管理者)

訪問看護師の移動に対する管理者のサポートの実施状況は,管理者に尋ねた.質問項目は,「移動時に受ける天候の影響を軽減できるよう対策をしている(天候からの影響対策)」,「移動しやすい道のりを管理者とスタッフ間で共有している(移動しやすい道のりの共有)」,「移動に要する時間の目安がわかるようにしている(移動時間の目安の提示)」,「交通安全に関する指導をしている(交通安全の指導)」,「訪問が効率的になるよう訪問スケジュールを組むようにしている(効率的な訪問スケジュールの作成)」,「移動の交通手段を状況に合わせて変えることを許容する(交通手段変更の許容)」,「直行直帰を許容している(直行直帰の許容)」,「訪問間隔が空くようにしている(訪問間隔の確保)」の8項目とした.各設問に「必ずしている」~「全くしていない」の5件法で回答を得た.

3) 訪問看護師の特性(回答者:訪問看護師)

基本属性は,年齢,性別,看護師経験年数,訪問看護師経験年数,現職場経験年数,職位,昨年1年間の収入,現職場以外での仕事経験,保有資格を尋ねた.家庭状況は,配偶者の有無,子どもの有無を尋ねた.労働状況は,勤務形態,労働日数,有休休暇取得日数,勤務時間数,オンコール当番の日数を尋ねた.

4) 事業所の特性(回答者:管理者)

事業所属性は,常勤換算看護師数,開設主体を管理者に尋ねた.職場環境は, 職場環境の測定に用いられるPractice Environment Scale of the Nursing Work Index(PES-NWI)(Lake, 2002)の日本語版(緒方ら,2011)を用いた.PES-NWIは,病院看護師の看護実践環境項目であるため,開発者から許可を得て5つの下位尺度の中から訪問看護に関係する3つを選定し,一部文言を変更した.その後,訪問看護を専門とする研究者と質問項目の妥当性を確認し,『ケアの質を支える看護の基盤』10項目,『看護管理者の力量,リーダーシップ,看護師への支援(看護管理者の力量)』5項目,『人的資源の妥当性』4項目の計19項目とした.「非常にそう思う」~「全くそう思わない」の4件法で回答を得て,下位尺度ごとに事業所の平均値を算出した.本研究におけるCronbach’ αは,『ケアの質を支える看護の基盤』が0.77,『看護管理者の力量』が0.85,『人的資源の妥当性』が0.74であった.

4. 分析方法

まず,管理者の回答は,該当する訪問看護師のデータに連結し,各項目の記述統計を算出した.なお,次に,働き続けたいと「非常にそう思う」,「そう思う」を「就業継続意向あり群」,「どちらともいえない」,「そう思わない」,「全くそう思わない」を「就業継続意向なし群」とした.就業継続意向の有無との関連を二変量解析により検討した.移動の特性,訪問看護師の特性,事業所の特性について,χ2検定,独立したサンプルのt検定,Fisherの直接確率検定,Mann-WhitneyのU検定を用いて行った.最後に,級内相関係数を確認の上,訪問看護師の就業継続意向の有無を従属変数としたマルチレベル二項ロジスティック回帰分析を実施した.独立変数については,二変量解析で有意な関連のあった変数および先行研究で関連が指摘されている変数間の多重共線性を確認した上で,独立変数に投入する変数を選定し,強制投入した.調査結果の分析には,統計解析ソフトSPSS Ver. 25を用い,有意水準5%未満を有意差ありとした.

5. 倫理的配慮

研究対象者に対し,研究目的,研究の任意性,個人情報の保護等を明記した研究説明書を同封し,同意した場合のみ質問紙への回答を求めた.本研究は,東京大学医学部倫理委員会の承認を得た.(承認番号:11875)

Ⅲ. 結果

1. 応諾状況

管理者は,調査対象者103名中41名から回答を得た(回答率39.8%).そのうち,管理者の所属する事業所の看護師から1名も返信のない者3名を除き,38名を分析対象とした(有効回答率36.9%).看護師は,調査対象者681名中285名から回答を得た(回答率41.9%).そのうち,看護師の所属する事業所の管理者から返信がない者54名と就業継続意向について未回答の者10名の計64名を除き,221名を分析対象とした(有効回答率32.5%).

2. 記述統計

1) 訪問看護師と事業所の特性,就業継続意向(表1

訪問看護師の平均年齢は,46.4 ± 7.9歳,女性が214名(96.8%)であった.訪問看護師経験年数は7.1 ± 6.1年であり,44名(19.9%)が職位についていた.配偶者がいる者は176名(79.6%),子どもがいる者は183名(82.8%)であった.

表1  訪問看護師の就業継続意向の有無による訪問看護師の特性・事業所の特性の比較(N = 221)
n(%)/mean ± SD 意向あり群(n = 151) 意向なし群(n = 70) p
【訪問看護師の特性】
〈基本属性〉
年齢 (歳) 46.4 ± 7.9 46.5 ± 7.9 46.2 ± 8.2 .84 b)
性別 男性 3(1.4) 3(2.0) 0(0.0) .23 a)
女性 214(96.8) 145(96.0) 69(98.6)
看護師経験年数 (年) 20.9 ± 8.4 20.7 ± 8.2 21.4 ± 8.9 .55 b)
訪問看護経験年数 (年) 7.1 ± 6.1 7.6 ± 6.5 6 ± 5.2 .07 b)
現職場経験年数 (年) 5.6 ± 5.3 5.6 ± 5.2 5.7 ± 5.5 .93 b)
職位 職位あり 44(19.9) 37(24.5) 7(10.0) .01 a)
それ以外 171(77.4) 110(72.8) 61(87.1)
昨年1年間の収入 300万円未満 92(41.6) 57(37.7) 35(50.0) .10 a)
400万円未満 48(21.7) 38(25.2) 10(14.3)
500万円未満 41(18.6) 26(17.2) 15(21.4)
600万円未満 17(7.7) 11(7.3) 6(8.6)
700万円未満 9(4.1) 9(6.0) 0(0.0)
700万円以上 4(1.8) 3(2.0) 1(1.4)
現職場以外での仕事経験1) 他の訪問看護事業所 40(18.1) 29(19.2) 11(15.7) .48 a)
病院 207(93.7) 142(94.0) 65(92.9) .22 c)
その他 70(31.7) 51(33.8) 19(27.1) .27 a)
なし 1(0.5) 0(0.0) 1(14.3) .32 c)
保有資格1) 准看護師 24(10.9) 17(11.3) 7(10.0) .76 a)
看護師 213(96.4) 145(96.0) 68(97.1) .96 a)
保健師 8(3.6) 5(3.3) 3(4.3) .71 c)
助産師 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0)
認定・専門看護師 4(1.8) 3(2.0) 1(1.4) .76 c)
ケアマネージャー 27(12.2) 20(13.2) 7(10.0) .47 a)
〈家庭状況〉
配偶者の有無 あり 176(79.6) 125(82.8) 51(72.9) .02 a)
子どもの有無 あり 183(82.8) 131(86.8) 52(74.3) .01 a)
〈労働状況〉
勤務形態 常勤 131(59.3) 91(60.3) 40(57.1) .58 a)
非常勤 85(38.5) 56(37.1) 29(41.4)
労働日数 (日/月) 19.8 ± 3.9 20.0 ± 3.9 19.3 ± 3.9 .27 b)
有休休暇取得日数 (日/年) 10.5 ± 6.1 10.6 ± 6.4 10.3 ± 5.4 .68 b)
勤務時間数 (時間/日) 7.6 ± 1.7 7.7 ± 1.8 7.3 ± 1.3 .07 b)
オンコール当番の日数 (日/月) 5.2 ± 5.0 5.1 ± 4.9 5.3 ± 5.3 .79 b)
〈就業継続意向〉
現在の事業所で働き続けたい思うか 非常にそう思う 42(19.0)
そう思う 109(49.3)
どちらとも言えない 52(23.5)
そう思わない 13(5.9)
全くそう思わない 5(2.3)
【事業所の特性】
〈事業所属性〉
常勤換算看護師数 (人) 8.7 ± 3.9 8.9 ± 3.9 8.4 ± 3.9 .41 b)
開設主体 医療法人 78(35.3) 49(32.5) 29(32.5) .19 a)
それ以外 143(64.7) 102(67.5) 41(67.5)
〈職場環境〉
ケアの質を支える看護の基盤 (点) 2.8 ± 0.4 2.9 ± 0.3 2.5 ± 0.3 <.01 b)
看護管理者の力量 (点) 3.1 ± 0.5 3.3 ± 0.4 2.9 ± 0.4 <.01 b)
人的資源の妥当性 (点) 2.7 ± 0.5 2.8 ± 0.4 2.5 ± 0.4 <.01 b)
総合得点 (点) 2.9 ± 0.4 3 ± 0.3 2.7 ± 0.3 <.01 b)

Note:欠損値は除く.

1)複数回答 a)カイ二乗検定,b)独立したサンプルのt検定,c)Fisherの直接確率検定

常勤換算看護師数は,8.7 ± 3.9人であった.開設主体は,医療法人が35.3%,それ以外が64.7%であった.職場環境では,『ケアの質を支える看護の基盤』が2.8 ± 0.4点,『看護管理者の力量』が3.1 ± 0.5点,『人的資源の妥当性』が2.7 ± 0.5点であった.

就業継続意向については,就業継続意向あり151名(68.3%)であった.その内訳は,現在の事業所で働き続けたいと「非常にそう思う」42名(19.0%),「そう思う」109名(49.3%)であった.

2) 訪問看護師の移動の特性(表2

移動状況は,訪問件数は1日4.2 ± 0.8件で,合計4.5 ± 4.2時間訪問していた.訪問への片道移動時間は15.4 ± 6.6分であった.主な移動手段は,車が210名(95.0%)と最も多く,自転車は5名(2.3%),徒歩は2名(0.9%)で,電車やバス,バイクを主な移動手段として使う者はいなかった.1日の仕事のうち14.9 ± 6.3%を移動に使っていた.

表2  訪問看護師の就業継続意向の有無による移動の特性の比較(N = 221)
n(%)/mean ± SD 意向あり群(n = 151) 意向なし群(n = 70) p
【移動の特性】
〈移動状況〉
訪問件数 (件/日) 4.2 ± 0.8 4.2 ± 0.8 4.2 ± 0.8 .85 b)
合計訪問時間数 (時間/日) 4.5 ± 4.2 4.8 ± 5.0 4.1 ± 0.9 .26 b)
片道移動時間 (分/件) 15.4 ± 6.6 15.2 ± 6.0 15.9 ± 7.9 .50 b)
主な移動手段 徒歩 2(0.9) 1(0.7) 1(1.4) .77 d)
自転車 5(2.3) 3(2.0) 2(2.9)
バイク 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0)
210(95.0) 145(96.0) 65(92.9)
電車/バス 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0)
一日のうち移動に使っている割合 (%) 14.9 ± 6.3 14.9 ± 6.3 14.9 ± 6.9 .99 b)
〈移動に対する負担感〉
天候の影響 思う 153(69.2) 97(64.2) 56(55.7) .02 a)
体力の消耗 思う 70(31.7) 40(26.5) 30(42.9) .02 a)
所要時間の予測困難 思う 78(35.3) 47(31.1) 31(44.3) .06 a)
交通事故の怖さ 思う 153(69.2) 100(66.2) 53(75.7) .16 a)
非効率な訪問スケジュール 思う 140(63.3) 84(55.6) 56(80.0) .01 a)
不適切な移動手段 思う 34(15.4) 17(11.3) 17(24.3) .01 a)
直行直帰不可 思う 120(54.3) 81(54.0) 39(55.7) .81 a)
間に合わない焦り 思う 177(80.1) 118(78.1) 59(84.3) .29 a)
〈移動に対するサポート〉
天候からの影響対策 している 108(48.9) 76(50.3) 32(45.7) .52 a)
移動しやすい道のりの共有 している 154(69.7) 111(73.5) 43(61.4) .19 a)
移動時間の目安の提示 している 117(52.9) 76(50.3) 41(58.6) .25 a)
交通安全の指導 している 132(59.7) 95(62.9) 37(52.9) .16 a)
効率的な訪問スケジュールの作成 している 166(75.1) 110(72.8) 56(80.0) .25 a)
交通手段変更の許容 している 97(43.9) 61(40.4) 36(51.4) .12 a)
直行直帰の許容 している 72(32.6) 45(29.8) 27(38.6) .20 a)
訪問間隔の確保 している 54(24.4) 43(28.5) 11(15.7) .04 a)

Note:欠損値は除く.

a)カイ二乗検定,b)独立したサンプルのt検定,c)Fisherの直接確率検定,d)Mann-WhitneyのU検定

仕事上の移動に対し過半数以上の者が負担感を感じていた項目は,「天候の影響」153名(69.2%),「交通事故の怖さ」153名(69.2%),「非効率な訪問スケジュール」140名(63.3%),「直行直帰不可」120名(54.3%),「間に合わない焦り」177名(80.1%)であった.過半数以上の看護師に管理者がサポートをしていた項目は,「移動しやすい道のりの共有」154名(69.7%),「移動時間の目安の提示」117名(52.9%),「交通安全の指導」132名(59.7%),「効率的な訪問スケジュールの作成」166名(75.1%)であった.

3. 二変量解析

1) 就業継続意向の有無による訪問看護師特性と事業所特性の比較(表1

「就業継続意向あり」群で,管理的な職位についている者,配偶者がいる者,子どものいる者が有意に多かった.職場環境では,PES-NWIの下位尺度『ケアの質を支える看護の基盤』,『看護管理者の力量』,『人的資源の妥当性』の全てにおいて,「就業継続意向あり」群で,有意に得点が高かった.

2) 就業継続意向の有無による訪問看護師の移動特性の比較(表2

移動状況では,いずれの項目においても,就業継続意向の有無による差がなかった.移動に対する負担感では,「就業継続意向なし」群で,「体力の消耗」,「非効率な訪問スケジュール」,「不適切な移動手段」を感じている者が有意に多かった.一方,「天候の影響」は「就業継続意向あり」群で感じている者が有意に多かった.移動に対するサポートでは,「就業継続意向あり」群で,「訪問間隔の確保」がされている者が有意に多かった.

4. マルチレベル二項ロジスティック回帰分析(表3

表3に示す独立変数を強制投入し,就業継続意向を従属変数としたマルチレベル二項ロジスティック回帰分析を実施した.訪問看護師の移動に対する負担感については,非効率な訪問スケジュール(Odds Ratio (OR) = 0.41, 95%Confidence Interval (CI): 0.22~0.78)だと思う方が,有意に就業継続意向を持つものが少なかった.管理者のサポートについては,移動しやすい道のりの共有(OR = 2.49, 95%CI: 1.20~5.17),訪問間隔の確保がされている(OR = 2.72, 95%CI: 1.19~6.21)場合に有意に就業継続意向を持つものが多かった.一方で,移動時間の目安が提示されている(OR = 0.43, 95%CI: 0.21~0.92)者の方が,有意に就業継続意向を持たなかった.管理的な職位についている者,子どもがいる者,PES-NWIの下位尺度『ケアの質を支える看護の基盤』の高い事業所に属する者の方が,有意に就業継続意向を持っていた.

表3  訪問看護師の就業継続意向の有無を従属変数とした マルチレベル二項ロジスティック回帰分析(N = 221)
調整オッズ比 95%信頼区間上限~下限 p
【訪問看護師の特性】
〈基本属性〉
訪問看護経験年数 1.02 (0.97~1.08) .47
職位ありa) 3.61 (1.58~8.24) .01
〈家庭状況〉
子どもありb) 3.00 (1.09~8.23) .03
【事業所の特性】
〈事業所属性〉
常勤換算看護師数 1.08 (0.97~1.22) .17
開設主体 医療法人c) 0.57 (0.30~1.09) .09
〈職場環境〉
ケアの質を支える看護の基盤 4.79 (1.02~22.39) .04
【移動の特性】
〈移動状況〉
訪問件数 1.15 (0.78~1.72) .48
片道移動時間 0.99 (0.93~1.05) .66
〈移動に対する負担感〉
体力の消耗d) 0.72 (0.30~1.73) .46
所要時間の予測困難d) 0.83 (0.42~1.64) .59
非効率な訪問スケジュールd) 0.41 (0.22~0.78) .01
間に合わない焦りd) 0.74 (0.23~2.45) .62
〈移動に対するサポート〉
移動しやすい道のりの共有e) 2.49 (1.20~5.17) .02
移動時間の目安の提示e) 0.43 (0.21~0.92) .03
効率的な訪問スケジュールの作成e) 1.23 (0.51~2.96) .64
訪問間隔の確保e) 2.72 (1.19~6.21) .02

Note:「就業継続意向あり」=1,「就業継続意向なし」=0.

Reference:a)職位なし b)子どもなし c)医療法人以外 d)思わない e)していない

Ⅳ. 考察

本研究では,訪問看護師の移動状況は就業継続意向に関連は見られなかったものの,移動に対する負担感および管理者からの移動に対するサポートが訪問看護師の就業継続意向に関連していた.訪問先で看護を提供する訪問看護師に必須の「移動」に焦点を当てた先行研究は見当たらず,本研究は,訪問看護師の就業継続意向に関連する移動に対するサポートの具体的内容を示し,訪問看護管理者の実践へ貴重な示唆が得られたと考えられる.

1. 本研究の結果と全国データとの比較

訪問看護師のうち,約7割が就業継続意向をもっており,先行研究と大きな相違は見られなかった(御厩,2016谷垣ら,2017).研究参加事業所の開設主体や参加者の性別割合・平均年齢・平均訪問看護経験年数は全国調査(日本看護協会,2015)の値と近似していた.一方で,常勤換算看護師数(平均8.7人)は全国平均5.0人(厚生労働省,2018)と比べると多いことより,比較的規模の大きい訪問看護ステーションが対象となったと解釈できる.

移動状況に関しては,訪問件数は全国の訪問看護師の調査(小川・山崎,2013)では一日に4件前後と報告されており,本研究の平均4.2件と近似していた.また,片道移動時間については,先行研究で報告された総移動時間と訪問件数から算出すると概ね10~15分程度と推定され(永田ら,2013),本研究の移動時間とほぼ同程度と考えられた.

2. 移動に関する変数の記述統計について

本研究では,訪問看護師の移動状況自体は就業継続意向との関連は見られなかった.先行研究でも,訪問看護師の一日の総移動距離(Tourangeau et al., 2017)や量的労働負荷など実質的な仕事の負荷量単独では離職への影響は少ないことが報告されている(Chiu et al., 2009).したがって,本研究の結果からも,移動にまつわる実質的な負荷だけでは,就業継続意向に直接は関係しないことが示された.

3. 移動に対する負担感と訪問看護師の就業継続意向との関連

移動に対する負担感においては,非効率な訪問スケジュールだと思う者の方が,就業継続意向を持ちにくかった.非効率な訪問スケジュールとは,距離の遠い利用者への訪問後に,また元の利用者宅近くへ訪問すること等を意味する.看護師自身が柔軟にスケジュールを組めることは,訪問看護師の就業継続意向に関係する要因として質的研究でも指摘されているが(Tourangeau et al., 2014),本邦では,利用者への訪問時間・曜日を予め決められたスケジュールのもと訪問することが一般的である.管理者も訪問看護師の移動の負担を考慮し,効率的な訪問スケジュールの組み立てに関する課題意識を有している(李錦ら,2016).また,訪問看護事業所の直接ケア以外のアクシデントで最も多いのが訪問スケジュールに関するミスであるとの報告もある(東本,2017).今後,利用者のニーズや緊急性も踏まえた効率的な訪問スケジュール作成の工夫が求められよう.

4. 移動に対する管理者のサポートと訪問看護師の就業継続意向との関連

訪問看護師の就業継続意向に関連する,移動に対する管理者のサポートは三つあった.まず一つは,移動しやすい道のりの共有であった.訪問看護師は訪問時間には到着している必要があるため,利便性のある移動経路を設定することが重要である(楢原ら,2010).しかし,移動には,信号,渋滞,坂や階段などが伴い,移動の経験を重ねなければ知りえない経路もある.また,緊急訪問も多く(森田,2013),主担当ではない利用者宅へ臨機応変に訪問する必要も時には生じる.そのため,利用者宅の移動をスムーズに行えるよう,事業所全体で移動しやすい道のりを共有することが,働きやすさに繋がり,就業継続意向に関連したと考えられる.

次に,訪問間隔の確保が,訪問看護師の就業継続意向に関連していた.訪問間隔が短いと,訪問時間内に仕事を完了させ,短時間で次の訪問先へ移動する必要性が高くなる.先行研究では,訪問時間内に仕事を完了するプレッシャーを訪問看護師が頻繁に感じていることが報告されていることから(Naruse et al., 2012),移動においても時間に追われている可能性が高いことが推察される.

また,訪問看護師が行う業務には,利用者宅に滞在しケアを提供する「直接業務」と,利用者宅以外で記録や調整・電話相談に応じる等の「間接業務」があり(桒原ら,2012),勤務後の労働時間外に「間接業務」に多くの時間を費やしていることも明らかになっている(日本看護協会,2015).訪問間隔の確保によって,情報共有などの利用者の状態変化に合わせた迅速な対応が可能となり,提供する訪問看護の質にも影響を及ぼすことが考えられる.質の高い看護の提供は,訪問看護師の就業継続意向に関連することが多くの研究で指摘されている(Tourangeau et al., 2017).そのため,十分な訪問間隔を有することは重要であると言えよう.

一方で,当初の仮説に反し,移動時間の目安を提示している方が,訪問看護師の就業継続意向を持ちにくかった.移動時間の目安を事業所が提示することは,看護師が一日の動き方を決めることに役立つと思われたが,一方的な提示が自律性を阻害すると訪問看護師が受け取った可能性がある.自律性の高さが就業継続意向の高さに関連することが報告されており(Ellenbecker & Byleckie, 2005),移動時間やその使い方は看護師の自律性に委ねることが有用である可能性が高い.

5. 訪問看護師特性と就業継続意向との関連

管理的な職位についている者の方が就業継続意向を有していた.一般的に,職位が高いほど仕事の裁量度は高まると言われている.裁量と就業継続意向との関連は報告があり(Ellenbecker & Byleckie, 2005),本研究においても,管理的な職位であることによる裁量権の高さが,就業継続意向があることと関連したと推察される.また,子どもがいる者の方が,有意に就業継続意向があり,子どもの有無は離職・就業継続の関連要因であるという先行研究の知見と相違は見られなかった(Stewart et al., 2011).

6. 事業所特性と就業継続意向との関連

事業所特性は,職場環境を測定するPESの下位尺度『ケアの質を支える看護の基盤』の得点が高い事業所に属する者の方が,就業継続意向があった.『ケアの質を支える看護の基盤』では,スタッフ教育やケアの質を保証する仕組など,利用者に質の高い看護を提供するために必要な体制を示している.先行研究では,訪問看護師が働き続けるためには,研修などの教育体制が十分であること(川野ら,2011),利用者のケアについて話し合う機会があること(谷垣ら,2017)が重要であることが指摘されている.したがって,訪問看護師の就業継続のためにも,訪問看護師への教育・ケアの共有の場の設定等ケアの質の向上に向けた取り組みを行う必要性が示唆された.

7. 本研究の限界

一点目は,一般化可能性である.本研究で得られたデータは,訪問看護師特性・事業所特性は全国データと比べて大きな偏りはなかったものの,訪問への移動手段は車が大部分を占めていた.都市部の訪問看護事業所では車以外の移動手段を使用しているところも多く,本研究の結果が当てはまらない可能性がある.今後は,多様な移動手段の影響を検討する必要がある.また,回収率は約4割であり,高いとは言い難い.質問票に回答があった対象者は,本テーマに関心を比較的高く持つ集団だと考えられる.そのため,移動に対する問題意識を有し,管理者によって実施されているサポートが実態よりも多い可能性がある.このような限界はあるものの,回収率を高めるため,県内で組織化されている訪問看護事業所の会へ直接出向き協力を依頼し,リマインドの送付を行うなど,一般化可能性を高める工夫を可能な限り実施した.二点目は,訪問看護師の移動に対する負担感および管理者のサポートを,独自に作成した項目で調査したことである.項目の作成にあたり慎重に情報収集と確認を行ったが,今後も信頼性・妥当性の確認を継続することが望まれる.三点目は,就業継続意向に関連を示すと報告されている仕事満足度について,検討に含められなかったことである,現時点では,日本で使用可能な訪問看護師の仕事満足度尺度が存在しない.今後,訪問看護師の仕事満足度を測る尺度を開発し,仕事満足度も含めて,就業継続意向及び実際の就業継続との関係を検証する必要がある.四点目は,横断研究でありその後の経時的な変化が明らかではないことである.本研究は,訪問看護師の就業継続意向に着目した.よって,意向があることが必ず就業継続行動に至るかどうかは確証できない.訪問看護師の就業継続に関する研究は,今後経時的調査が必須である.

Ⅴ. 結論

訪問看護師の就業継続支援には,訪問間隔の確保,移動しやすい道のりの共有や移動時間の目安の提示など,移動そのものへの管理者のサポート体制の整備が有用である可能性が示唆された.

謝辞:本研究は,日本学術振興会の平成28~30年度科学研究費助成基金若手(B)訪問看護師の離職減を目指した発展的コミュニケーション促進プログラムの開発と試行(研究代表者:野口麻衣子,JSPS16K20970),公益財団法人フランスベッド・メディカル ホームケア研究・助成財団の平成30年度研究助成(研究代表者:永見悠加里),を受けて実施した.本研究に御協力いただきました研究対象施設の管理者様,訪問看護師様に深く御礼申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:筆頭著者 YNは研究の着想および,研究デザインと実施,分析,論文草稿の作成;MFSS及びMNWは,研究デザインと分析,論文草稿の洗練のための助言;NYM は原稿への示唆および研究プロセス全体への助言.すべての著者は最終原稿を確認し,承認した.

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