Journal of Japan Academy of Nursing Science
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A Discrepancy between Nurse Managers’ Intention and Staff Nurses’ Perception in Leadership that Promote Autonomy
Mayumi WatanabeMasako Kanai-Pak
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2021 Volume 41 Pages 192-200

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Abstract

目的:師長が意図するリーダーシップとスタッフ看護師が認識するリーダーシップがどのように関連するのかを明らかにする.

方法:師長自身及びスタッフ看護師が認識したリーダーシップを尋ねる無記名自記式質問紙を配布し,41部署の師長41人とスタッフ看護師592人のデータをマルチレベル共分散構造分析にて分析した.

結果:師長が意図したリーダーシップとスタッフ看護師が認識するリーダーシップの間には曲線関係があり,師長が意図したリーダーシップが中程度以上に高くなると,師長が認識するリーダーシップ得点が増加するほど,スタッフが認識するリーダーシップ得点は減少していた.

結論:師長が意図するリーダーシップとスタッフ看護師が認識するリーダーシップの間にはずれが存在し,このずれはリーダーシップの認識が中程度以上であると,師長が自分のリーダーシップが優れていると認識すればするほど大きくなる可能性が示唆された.

Translated Abstract

Objective: This study aims to clarify the degree of discrepancy between nurse managers’ intended leadership and staff nurses’ perceptions of leadership.

Methods: An anonymous self-administered questionnaire examining leadership recognized by nurse managers and staff nurses was distributed, and data from 41 nurse managers and 592 staff nurses in 41 wards were analyzed through a multi-level structural equation modeling analysis.

Results: There was a curvilinear relationship between nurse managers’ intended leadership and the perception of leadership by staff nurses. When the intended leadership score was higher than medium, the staff’s perception score decreased as the intended leadership score increased.

Conclusion: There is a discrepancy between nurse managers’ intended leadership and staff nurses’ leadership perception, suggesting that this gap may increase as the nurse manager perceives his or her leadership as superior, particularly when they recognize it as better than medium.

Ⅰ. 背景

良きリーダーシップは組織の力を飛躍的に伸ばす潜在力を秘めている.看護師においては,各部署のマネジメント主体である看護師長のリーダーシップが重要な鍵を握る.リーダーシップを学術的に定義すると,「集団に目標達成を促すよう影響を与える能力」である(ロビンス,2005/2009).管理者が必ずリーダーになるとは限らないが,看護師長には一般的にこの能力が期待されている.

現在に至るまで多種多様なリーダーシップスタイルが提唱されてきたが(Lee & Carpenter, 2018),近年注目されているのが部下の自律性に着目したリーダーシップである(Amundsen & Martinsen, 2014b).自律的であるとは,自己と一致した行動を取ることを指し,自由に行動することである(デシ・フラスト,1995/1999).人は自らの行動を外的な要因によって強制されるのではなく自分自身で選びたいと願う生来的な欲求を持つとされ,この欲求が満たされることで自発的に物事に取り組むようになる(Ryan & Deci, 2000).仕事を行う上でも自律的であることは意欲や成果に強く結びつくとされており,先行研究においては複数の仕事の特徴の中で,唯一自律性が客観的に測定されたパフォーマンスに有意な影響を及ぼしていたことが示されている(Humphrey et al., 2007).変化の激しい環境に身をおき,常に最先端の知識や技術の獲得を求められる看護師にとっても,自発性の源となる自律性の重要性が指摘されている(Mrayyan, 2004).仕事における自律性は権限と責任の拡大によってもたらされる要素が大きく,リーダーが有する公式・非公式な権限を部下に移譲することがリーダーシップの出発点となる(Amundsen & Martinsen, 2014b).しかし,リーダー自身が自分は権限を委譲した,と思っていたとしても,部下が同程度に自分は権限を委譲された,と認識するかどうかは確定的でない.リーダーシップ研究においては,リーダーが意図したリーダーシップと部下によって認識されたリーダーシップとの間にずれが存在しうることが注目を受け,研究されてきた(Lee & Carpenter, 2018).従来,同様の項目に対して異なる評価が存在することは測定誤差と見なされ,その誤差減少の方法論のみが研究対象とされてきた.しかし,リーダーシップにおける認識のずれに関しては,それがリーダーの自己認識の程度を示し,更にはリーダーシップの目標である従業員の意欲や成果の向上に深く関連する要因として捉えられている(Fleenor et al., 2010).

認識のずれへの影響要因に関しては,リーダー側の要因として性別(男性の方が女性と比較して過大評価する傾向)や年齢(年齢が上がるほど過大評価する傾向)等の属性が影響することが指摘されている.リーダーの自己の過大評価に関しては種々のバイアスの影響が指摘されてきたが,このバイアスの程度はリーダーのメタ認知力や知性に影響を受ける.Fleenor et al.では,認識能力や知性が高いことは,過大評価を抑制する効果があることが示されている(Fleenor et al., 2010).リーダーシップの受け手側にも同様の影響要因が存在することが示されている(Fleenor et al., 2010).

リーダーと部下の認識のずれを検証したメタ研究においてはリーダーと部下の認識は有意に正に相関するものの,相関の程度は強くないことが示されている(Lee & Carpenter, 2018Sin et al., 2009).ある部署において師長がどれだけ情熱的にリーダーシップを発揮したとしても,それが意図したとおりにスタッフ看護師に認識されないまま「空回り」状態となっている部署も存在すると言うことである.リーダーと部下の認識のあり方に関しては,単純な直線関係ではなく,より複雑で曲線的な関係性があることが指摘されている(Fleenor et al., 2010).自律性をサポートするリーダーシップの認識の相違を検証した先行研究においても曲線的な関係性が検証・実証されているが,満足度やパフォーマンスとの関係性に主眼が置かれており,リーダーの認識がどのように部下の認識と関係するのかと言うことの詳細は検証されていない(Amundsen & Martinsen, 2014a).部下の自律を促進するリーダーシップに対する効果的な介入を目指す場合には,リーダーの認識の程度が部下の認識の程度とどのように関連するのか,と言うことを曲線的な関係性を踏まえて検証することは重要であると考えられる.

本研究の概念図を図1に示した.本研究の仮説は以下となる.スタッフ看護師が自律性を高めると,自発性が促進され意欲や成果に結びつく.スタッフ看護師の自律性には,スタッフ看護師自身が自分の部長の師長が自律を促進するリーダーシップを展開していると認識することが影響する.師長の自分は自律を促進するリーダーシップを展開していると言う認識は,スタッフの認識と関連はするものの両者の認識にはずれが存在する.このずれの程度はどのような状況下でも一定であるわけではなく,両者には曲線的な関係性が存在する.以上の仮説より,認識のずれの詳細を明らかにすることで師長が効果的に自律を促進するリーダーシップを展開するための介入方法を検討することが可能になると考えられる.従って,本研究では師長が意図するリーダーシップとスタッフ看護師が認識するリーダーシップがどのように関連するのかを明らかにすることを目的とする.

図1 

本研究の概念図

Ⅱ. 方法

研究デザインは横断的研究である.無記名自記式質問紙を10施設において配布した.この際,全部署において師長には師長用の質問紙,スタッフ看護師にはスタッフ看護師用の質問紙を配布し,同一部署内の師長とスタッフ看護師が紐づけられるようにした.10施設における合計83部署に在籍する1,615人のスタッフ看護師と83人の師長に質問紙を2016年2月から3月にかけて配布した.

1. 質問項目

1) リーダーシップ:

日本語版Nurse Manager Action Scale(Kanai-Pak, 2009Mrayyan, 2004)を使用した.使用に当たっては日本語版開発者の許可を得た.この尺度はスタッフ看護師の自律性を促す師長のリーダーシップ行動を測定するために開発され,11項目のリーダーシップ行動から構成される.日本語版は,日本の現状に合わないため2項目を除外した9項目を使用しており,質問項目の例としては「スタッフナースの自律的な意思決定を支援している」や「医師や患者,同僚との対立を解決するよう看護師を支援している」等がある.この尺度を使用した先行研究では,Nurse Manager Action Scaleの得点は看護師の自律性尺度の得点と有意な正の相関があったことが示されており(Mrayyan, 2004),この尺度で測定された師長のリーダーシップは看護師の自律性の促進に影響を及ぼすと考えられる.

師長用の質問紙では主語を「私は師長として」とし,スタッフ看護師用の質問紙では主語を「私の看護師長は」とした上で同一項目を尋ねた.9項目を合計した点数をリーダーシップ得点とした.全項目が5件法(1「全くない」から5「いつもそうである」)で測定されており,得点が高い程優れたリーダーシップを発揮していることを示している.師長用の質問紙で得られた得点は師長の「意図したリーダーシップ」として使用し,スタッフ看護師用の質問紙で得られた得点はスタッフ看護師が「認識したリーダーシップ」として使用した.

2) 属性項目

スタッフ看護師と師長の双方に性別,年齢,教育歴,経験年数,雇用形態,研修受講歴等を尋ねた.

2. 倫理的配慮

質問紙は無記名式であり,予め同封しておいた糊付けされた封筒に入れ,郵送法にて回収された.この研究は東京有明医療大学倫理審査委員会にて承認を受けている(承認番号:179).なお,本研究は無記名式ではあるものの,師長が所属する病院と部署名が明記された場合個人が特定される恐れが全く無いとは言えない.この危険性の回避のために,データ収集者(データセット作成者)とデータ分析者は完全に独立させた.更に,データセット作成時に病院名と部署名はIDを付与した上で削除し,データセットを分析する者が個人の特定が不可能な状態となるようにした.

3. 分析方法

本研究のデータは各部署内のスタッフ看護師の測定結果と各部署の師長が紐づけられる形となっており,データ構造としては個人レベルと部署レベルの2つのレベルにて構成されるマルチレベル構造となっている.したがって分析方法としてはマルチレベル共分散構造分析を使用し,分析ソフトはMplus version 8.2(Muthén & Muthén, 2012)を使用した.マルチレベル分析においては,ランダム切片を想定した.部署レベルの結果は,部署全体として師長のリーダーシップを共通してどのように捉えているのか,そしてその共通認識に師長の意図したリーダーシップがどのように関連しているのかを示す.一方で個人レベルの結果は,そのような部署全体の共通認識とは独立した個々のスタッフ看護師の特徴に由来する認識が何に影響されるのかを示す.師長の意図したリーダーシップは部署レベルの分散しか持たないため,部署レベルのみに投入した.

曲線関係を検証するための分析として,部署レベルのモデル推定式に「意図したリーダーシップ」の二乗項を投入することによって,「意図したリーダーシップ」と「認識されたリーダーシップ」との曲線的な関係の有無を検証できるようにした.曲線関係を想定した理由としては,リーダーとそれ以外の者との認識の相違に関するレビュー論文において,リーダーと部下の認識の関係性は複雑であり,単純な差を求めたりカテゴリー化したりするような分析ではなく,曲線関係を想定した多項式による回帰分析を推奨していることが挙げられる(Fleenor et al., 2010).曲線関係を検証するために二乗項を投入する際には多重共線性の影響を除外するために「意図したリーダーシップ」を全体平均で引いた上で二乗し,一乗項も同時投入してモデル推定式を作成した(Aiken & West, 1991).もし二乗項が統計的に有意であれば,直線的な比例関係ではないと判断する.

師長と部下の認識における調整変数として,部署レベルにおいては師長の性別,年齢,及び認定看護管理者教育課程の受講歴を選択した.この理由として,先行研究にてリーダーと部下との認識のずれには,リーダーの年齢と性別及び認識能力が影響することが示されていることがある(Fleenor et al., 2010).師長の認識能力は学習が多いほど高まることが予想されるが,特にリーダーシップに対する認識能力には管理者研修受講の有無が影響すると考えられる.このため,リーダーシップに関する認識能力を測定する代替指標変数として,認定看護管理者教育課程のセカンドレベル受講の有無を使用した.本来であれば認定看護管理者教育課程の最高レベルであるサードレベルを変数として使用するのが好ましいと考えられるが,本研究対象者でサードレベル受講者は皆無であったためセカンドレベル受講有無を使用した.個人レベルにおいては,スタッフ看護師の性別,年齢,教育歴を調整変数として投入した.

本研究のスタッフ看護師においては,複数部署に配属される者は存在せず,従ってデータ重複もなかった.

欠損値はEM法(expectation-maximization technique)によって処理した.

Ⅲ. 結果

スタッフ看護師は1,615人中886人(54.9%)から回答があった.配布した83部署のうち師長から回答があったのは54部署(65.1%)であった.師長から回答のあった54部署のうち,回答が5人以下であった部署を除外したところ,41部署(6施設)が抽出された.この41部署で回答があったスタッフ看護師は592人であった.この41部署592人を分析対象とした.

表1に部署,師長,そしてスタッフ看護師の特徴及びリーダーシップ得点を示した.部署の内80%以上が急性期病棟によって占められていた.師長の95%は女性であり,平均年齢は46.3歳であった.師長経験年数の平均は約7年であった.スタッフ看護師は93%が女性であり,平均年齢は33.3歳であった.ほとんどの看護師がフルタイム勤務であった.師長が意図したリーダーシップの平均点はスタッフが認識したリーダーシップよりも2点(8%)以上高かった.

表1  部署,師長,スタッフ看護師の特徴及びリーダーシップ得点
平均 標準偏差 N %
部署(N = 41)
部署タイプ(N = 41)
急性期病棟 34 82.9%
回復期リハビリテーション病棟 1 2.4%
外来 3 7.3%
中央手術室 1 2.4%
認知症病棟 2 4.9%
師長(N = 41)
年齢(N = 40,欠損割合2.4%) 46.3 6.1
看護師経験年数(N = 41) 23.7 5.7
師長経験年数(N = 41) 7.0 4.7
性別(N = 41)
女性 39 95.1%
男性 2 4.9%
認定看護管理者教育課程受講(N = 40)
ファーストレベル 32 78.0%
セカンドレベル 8 19.5%
サードレベル 0 0.0%
不明 1 2.4%
自律性を促進するリーダーシップ(N = 38,欠損割合7.3%) 31.7 4.6
スタッフ看護師(N = 592)
年齢(N = 586,欠損割合1.0%) 33.3 8.9
経験年数(N = 588,欠損割合0.6%) 9.8 8.0
性別(N = 590)
女性 555 93.8%
男性 35 5.9%
不明 2 0.3%
教育歴(N = 577)
専門学校 480 81.1%
短期大学 39 6.6%
大学・大学院 58 9.8%
不明 15 2.5%
雇用形態(N = 590)
フルタイム 546 92.2%
パートタイム 44 7.4%
不明 2 0.3%
自律性を促進するリーダーシップ(N = 592) 29.1 3.5

図2には,意図したリーダーシップと認識されたリーダーシップの関係を示すマルチレベル共分散構造分析の結果を示した.適合度は良好であった(CFI:1.00;TLI:1.00;RMSEA:0.000;SRMR(部署レベル):0.009).部署レベルにおいてはスタッフが認識したリーダーシップには,意図したリーダーシップの二乗項のみが有意な負の影響を示し,一乗項は有意ではなかった.これは,この両者の関係としては,直線的な関係ではなく曲線的な関係性があることを示している(Aiken & West, 1991).個人レベルにおいては,スタッフの性別と年齢が認識されたリーダーシップに有意な影響を及ぼしていた.スタッフが男性であるとリーダーシップを高く評価する傾向があり,スタッフの年齢が高くなるほどリーダーシップを低く評価する傾向が示された.

図2 

意図したリーダーシップと認識されたリーダーシップの関係

※パス係数は標準化係数を示す.直線は有意なパス,点線のパスは有意でなかったパスを示す.有意なパス係数の下には( )内に95%信頼区間を示した.

図3には,意図したリーダーシップと認識されたリーダーシップがどのような曲線関係にあるのかを,マルチレベル共分散構造分析にて算出されたモデル式を使用して推定したものを示した.意図したリーダーシップが低度から中程度である場合は,意図したリーダーシップが増加するほど認識されたリーダーシップも増加していたが,それ以降は意図したリーダーシップが増加するほど認識されたリーダーシップが減少すると言う負の関係性になることが示された.感度分析として,各施設における師長とスタッフ看護師のリーダーシップの認識の関係性を検証したが,3部署以上(曲線関係が成立する最低数)が存在する施設においては,本研究の結果と同様の曲線関係が認められた.

図3 

意図したリーダーシップと認識されたリーダーシップの曲線関係の詳細

リーダーシップ尺度のクロンバックαは意図したリーダーシップが0.81,認識されたリーダーシップが0.84であった.

Ⅳ. 考察

本研究では,師長が意図したリーダーシップとスタッフ看護師が認識するリーダーシップとの関係性を検証した.結果として,この両者の間には曲線関係が認められた.以下で詳細を示す.

まずは,師長が回答した自らが意図したリーダーシップの平均値は,スタッフ看護師が回答した認識されたリーダーシップの平均値より8%程度高く,師長は自らのリーダーシップを認識されているより高く評価する傾向があり,ずれが存在することが示唆された.これは,そもそも人間は自己認識の際に過大評価へのバイアスがかかりやすい(Podsakoff et al., 2003)ことや,リーダーのパーソナリティー等(McKee et al., 2018)が影響することがあると考えられる.このずれの程度がどのような状況下で強くなるのかと言うと,分析の結果では,師長が自らのリーダーシップを低度から中程度であると評価する場合は,師長とスタッフ看護師の認識の程度は同様の傾向を示すことが示唆された.すなわち,師長が自分のリーダーシップが向上していると認識すれば,スタッフ看護師も同様にリーダーシップの向上を認めていることになる.しかし,師長が自らのリーダーシップを中程度以上だと評価する場合,意図したリーダーシップが向上したと師長が評価すればするほど,スタッフ看護師はリーダーシップを低く評価し,ずれが拡大していることが示された.従って,師長が自らのリーダーシップが「非常に高い」と評価している場合,むしろスタッフ看護師はそのリーダーシップをかなり低く評価している可能性が高いことが示された.

これはなぜなのだろうか.一つには,自らを比較的低く評価している師長の方が謙虚であり,自分の限界と他者の強みを正確に把握している可能性が高いことが考えられる(Owens et al., 2013).一方で自分に対して高すぎる評価を行う者はそもそも自己認識能力に欠け,それがリーダーシップ能力の低下ももたらす可能性がある.先行研究においても,自らのリーダーシップを過大評価するリーダーは,過小評価する者と比べてリーダーシップが劣ることが示されている(Amundsen & Martinsen, 2014b).

以上の結果を踏まえて,スタッフ看護師の自律を促進するためのリーダーシップを展開するための現場における応用を以下の様に提案したい.まず,リーダーシップ評価全般の問題として,病院において「リーダーシップ評価」を行う際に師長だけに自らのリーダーシップのあり方を尋ねるだけでは不十分であると考えられる.師長が自分のリーダーシップは素晴らしいのだと強い自信を持っている場合,それは安心材料ではなくむしろ危険信号である可能性が高い.近年,上司,同僚,部下など複数の周囲の人物から評価を行う360°評価が注目を受けているが(Eckert et al., 2010),本研究の結果もその必要性を裏付けている.このような評価を本格的に導入するための人的・経済的負担は多大であるが,その努力がもたらす効果は大きいと考えられる.

スタッフ看護師の自律性の向上を目的とする場合,介入対象となるのはスタッフ看護師のリーダーシップ評価が低い師長,すなわち,自らのリーダーシップを低く評価している師長と高く評価している師長のいずれもが該当する.前者に関しては自己評価は比較的正確であり,改善の必要性は認めていると予想される.だが,自分のリーダーシップに自信が持てず,効果的でないリーダーシップ方法を採用している可能性が高い.このため,このような師長へのフィードバック方法に関しては,自信が持てるような方法で具体的な介入方法を提示することが好ましい.後者に関しては,自己認識能力が比較的低く改善の必要性も理解していない可能性が高い.従ってフィードバック方法としては,まずはスタッフとの認識のずれを理解してもらうことから始まり,改善の必要性を認識できるよう促すことが好ましいと考えられる.いずれの場合においても,スタッフの評価が低いと言うネガティブな状況と直面せざるを得ないため,フィードバック方法には細心の注意が必要である.否定的なフィードバックを受けた者は,そのフィードバック自体を否定する傾向が強く,その結果改善も見られないことも多い(Audia & Locke, 2003).否定的なフィードバックは感情を害し,自尊心が損なわれる可能性が高いことが示されており(Ilies et al., 2007),この結果改善への意欲が削がれてしまう危険性がある.先行研究では,能力は向上できると言う信念が高まるように働きかけることが,否定的なフィードバックにおいてその後の改善行動に影響したことを示している(Hu et al., 2016).従って,師長に介入する場合はずれを非難するような評価的・批判的態度ではなく,共にその結果を冷静に解釈し,どのように修正していくかを考えるような支援的態度でフィードバックを行うことが必要である.組織的には,そのような人物を師長の教育者として配置する等の対策が効果的であると考えられる.

本研究の限界としては,横断的研究であるために因果関係の方向性が確定的ではないことが挙げられる.本研究では師長が意図したリーダーシップが部下の認識に影響を与えると言う方向性を仮定したが,部下が認識したリーダーシップが部署の一つの雰囲気として醸成され,それが師長自身,及び発信するリーダーシップに影響する可能性は否定しきれない.今後縦断的研究による検証が必要と考えられる.もう一つの限界としては,本研究は「リーダーシップ」の測定を師長とスタッフ看護師の主観に頼るアンケートを使用していることである.機器等を使用した客観的方法が使用できれば,本研究で明らかになった「ずれ」に対してもまた異なる見解が出る可能性がある.

Ⅴ. 結論

師長が意図するリーダーシップとスタッフ看護師が認識するリーダーシップの間にはずれが存在することが示された.師長が自分のリーダーシップを低度から中程度に評価している場合はずれが少ない一方で,師長が自分のリーダーシップを中間程度以上に評価している場合,その評価が高いほどスタッフ看護師はそのリーダーシップを低く評価する可能性が示唆された.師長が自分のリーダーシップは素晴らしいのだと強い自信を持っている場合,それは安心材料ではなくむしろ危険信号である可能性が高い.病院でリーダーシップ評価を行う場合には,師長以外の者からも情報を得る必要性がある.また,支援的態度で師長へのフィードバックを行える人材の配置等を検討する必要がある.

謝辞:お忙しい中,調査にご協力いただきました看護職の方々にお礼を申し上げます.

著者資格:MWおよびMKは研究の着想およびデザインに貢献;MKはデータの入手;MWは統計解析の実施および草稿の作成;MKは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

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