Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Supporting Mutual Agreement among Family Members of Stroke Patients on Selecting the Place of Treatment after Acute Care and Related Factors
Kaori UchidaKiyoko Aoki
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2021 Volume 41 Pages 201-210

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Abstract

目的:急性期医療後の療養の場の選択における脳卒中患者と家族の合意形成に向けた支援の実態とその影響要因を明らかにする.

方法:脳卒中看護に携わる看護師を対象に質問紙調査を行った.因子分析にて質問項目の信頼性と妥当性を確認した後,重回帰分析にて影響要因との関連の検討を行った.

結果:有効回答756名を対象とした因子分析の結果,【最善の決定に向かえるように支える】,【具体策の検討を支える】,【状況の理解や問題意識の整理を支える】,【家族の意向や希望を支える】,【強みを活かした決定になるように支える】の5因子20項目が抽出された.重回帰分析の結果,合意形成支援に最も影響が強い要因は「看護師の自律性」であった.

結論:家族への合意形成支援には看護師の自律性が関与し,自主的・自立的な判断と適切な看護実践能力を高めていくと同時に,倫理的課題にチームで取り組んでいくことの重要性が示唆された.

Translated Abstract

Objective: This study aimed to clarify the actual support situations of mutual agreement among family members of stroke patients on selecting the place of treatment after acute care, and related factors.

Methods: A questionnaire was administered to nurses working in stroke care. The reliability and validity were examined using factor analysis, and associations with related factors using multiple regression analysis.

Results: We extracted 20 items and five factors through factor analysis of 756 valid answers. The factors are as follows: “support to move toward to the best decision”, “supporting the thinking of concrete ways”, “support their understanding of the situation and the organization of problem awareness”, “supporting family members’ wishes and hopes”, and “supporting decision making based on their strengths”. Multiple regression analysis identified, “professional autonomy in nursing” to be the most influential factor in supporting family members achieve mutual agreement.

Conclusion: “Professional autonomy in nursing” had greatest impact on supporting family members of stroke patients to achieve mutual agreement on selecting the place of treatment, indicating that it is necessary to improve independent judgment and appropriate nursing practices; these results suggest the importance of a team approach to ethical issues.

Ⅰ. 緒言

超高齢社会となったわが国では,医療や介護の提供体制を変化させ,施設完結医療から,住み慣れた地域での暮らしを推進・充実させる地域完結医療への移行が進められている.そのため,病院では在院日数の短縮化が進み,急性期病棟においても入院早期から退院に向けた取り組みや支援システムの整備が進められている.

このような社会状況の中にあっても,脳卒中患者の場合は発症が突然であり,且つ重大な機能障害を残すことが多く,長期にわたり症状管理やリハビリテーションを行っていく必要がある.そのため,患者と家族は明確な回復の見通しが立たない中でも新たな生活の構築に向け,急性期医療の受療期間から在宅を含めたその後の療養場所を決定することが求められる.

脳卒中患者と家族に対する退院支援に関する研究については,在宅療養を控えた患者と家族の体験に関する研究(梶谷ら,2004林,2011Olofsson et al., 2005)や,入院中の患者と家族のケアニーズに関する研究(梶谷・森山,2010千葉・高崎,1999Stein et al., 2003)などがあり,脳卒中患者や家族は自分たちに起こっていることの原因や解決策に関する情報を得て,自分たちにとって最善の決定を行いたいというケアニーズを持っていることが明らかになっている.そのため,看護者は患者や家族の望む暮らしに向けて,患者や家族の意思決定を尊重した支援が必要となる.しかし,脳卒中患者と家族の退院をめぐる意思決定では,退院後の療養の場の決定についての患者・家族・医療者間の意思のずれが課題となると指摘されている(影山・浅野,2015石渡ら,2006本道ら,1999).中でも,急性期治療後の療養生活の選択に向けて家族としての意思決定が必要とされていても,家族は患者が求める療養生活を共に歩むことを選択できず家族内で軋轢が生じている課題があるとされている(梶谷ら,2004).そのため急性期治療後の患者の療養生活について,患者と家族の双方にとって納得できる合意点を見出す支援が必要であると考える.

患者の意思決定を支える看護には,患者の力を引き出す支援と,家族を対象とした支援が必要であるとされ(野嶋ら,2000),脳卒中患者の意思決定を支える看護では,決定への志向性を高める,決定の実行を支える,決定に伴う結果の評価を行うなどであり,意思決定のプロセスを支援している実態が明らかになっている(水澤ら,2011).しかし,脳卒中患者の家族を対象として,意思決定に向かう合意形成を支える研究については見当たらなかった.

そこで,本研究では,入院中の脳卒中看護に携わる看護師を対象に,脳卒中患者の家族に対して行う,急性期医療後の療養の場の選択における合意形成に向けた援助の実態とその影響要因を明らかにすることを目的とする.この結果は,脳卒中患者および家族が治療の場の選択に必要な合意形成をする上で,看護師の支援能力向上に活用できるものと期待できる.

Ⅱ. 操作的定義と研究の概念枠組み

1. 用語の操作的定義

1) 脳卒中患者

脳梗塞,脳出血,くも膜下出血を発症した患者

2) 家族

患者の同居者・近親者の他,強い感情的な絆・帰属意識によって結ばれた者等,退院後の療養の場の決定に影響を及ぼし合う2人以上の小集団とし,本研究では主として配偶者や子供,親,兄弟を指し,本人を含まないものとする.

3) 合意形成支援

本研究では,家族機能を高めることに焦点をあて,野嶋の定義(野嶋,2003)を参考に,療養の場を選択する際の合意形成支援を,“家族全体としてどのようにしていくのか,患者と家族が一つの方向性を見出し意思決定していくプロセスへの支援”とした.

2. 研究の概念枠組み

本研究では,急性期医療後の療養の場を選択する際,脳卒中患者の家族への合意形成支援を,退院に向けた意思決定支援のプロセスの一部と捉えた.患者と家族の療養の場の選択における葛藤に対処していくには,倫理的課題に気づく倫理的感受性を高めていく必要があり(福留,1999),それには研修や事例検討を通した教育や取組みが有効であることから(菅野ら,2014),影響要因として,合意形成支援に関する学習の有無や倫理的課題に関するカンファレンスの実施状況,倫理的課題に関する多職種との連携状況,医師が患者や家族に説明を行う際の同席状況をあげた.また,看護師の倫理的能力の促進にはロールモデルの活用が有効とされていることから(Davis et al., 2006/2008),倫理的調整を行う上の実践ロールモデルの有無を取り上げた.さらに,先行文献において,患者と家族の葛藤の解決を図る倫理調整のような卓越した看護実践は,看護職としての自律性を基盤として発揮されるものとされている(菊池,2013).このことから,家族への合意形成支援には,看護師個人の特性として看護師の自律性が関与すると考え,その測定には菊池らが開発した「看護師の自律性測定尺度(以下,看護師の自律性尺度)」(菊池・原田,1997a)を用いた.これらの要因を,看護師の「個人要因」と,看護師個人を取り巻く「環境要因」,普段行っている「看護実践状況」に分類し,本研究では図1のような概念枠組みを設定した(図1).

図1 

本研究の概念枠組み

Ⅲ. 研究方法

1. 研究デザイン

質問紙調査による関連探索型研究

2. 調査方法

1) 調査対象

無作為に抽出した日本脳卒中学会認定研修教育病院のうち,研究承諾が得られた各施設において,脳卒中患者の急性期医療に従事する看護師を対象とした.因子分析において必要なサンプル数は,一般的に項目数の5~10倍とされる.看護師からの回収率および欠損による有効回答率は,配布数の30%になることを想定して600名程度のサンプルサイズが必要と考えた.

2) 調査手順

平成27年5月~8月の期間に無作為に抽出した日本脳卒中学会認定研修教育病院の責任者宛てに文書にて本研究の協力を依頼した.対象施設の抽出は,施設からの研究承諾の回収率を30%,1施設あたりの協力者数を8~10名程度で想定して,250施設を対象とし,地域ごとに並べられたリストの中から等間隔抽出法を行った.研究承諾を得られた施設に勤務する病棟看護師に対して,看護部の責任者を通して依頼文及び自記式質問紙,個別返信用封筒を配布し,個別返信用封筒にて質問紙を回収した.

3. 調査内容

1) 看護師の個人要因

基本属性として,年齢,臨床経験年数,看護の最終教育機関,職位,専門看護師または認定看護師の資格,所属部署を尋ねた.その他,合意形成支援の学習状況および看護師の自律性尺度47項目(菊池・原田,1997a)について尋ねた.この尺度は,「認知能力」「実践能力」「具体的判断能力」「抽象的判断能力」「自立的判断能力」の下位尺度で構成される.「認知能力」とは,現在の患者の状況をどれだけ正確に知覚し理解できるのかという力,「実践能力」とは,判断した看護方法を主体的に実行し,的確に成し遂げる行動,「具体的判断能力」とは,訴えや症状など患者が示す具体的な手がかりを基に対処方法を的確に判断できる力,「抽象的判断能力」とは患者の気分や感情,不安などの心理的状況を察知し,理論を基にそれに応じた看護方法を組み立てる力,「自立的判断能力」とは,他の看護師に依存することなく自ら独自に必要な看護方法を考察する力としている.菊池らによる各因子のCronbach α係数は.93~.79,5つの因子の累積寄与率は47.0%であり,尺度の信頼性と妥当性が確認されている.

2) 環境要因

病院の病床数,退院支援部署の有無,病棟の平均在院日数,患者の病期(急性期・機能回復期・維持期・その他)について尋ねた.また,倫理的調整を行う上の実践ロールモデルの有無について尋ねた.

3) 看護の実践状況

患者や家族に関する倫理的な課題について,カンファレンスの実施状況および多職種との連携状況について尋ねた.また,医師が患者や家族に病状や今後の方針などの説明を行う際の同席状況について尋ねた.回答は5段階で評価し,実施している順に5~1点として点数化した.

4) 病棟看護師による脳卒中患者の家族に対する合意形成支援に関する項目

家族への合意形成支援の項目には,倫理的意思決定を促進するSavageモデル(アメリカリハビリテーション看護師協会,2000/2006)および家族の合意形成を支えるケアガイドライン「意思決定を支える5つのステップ」(野嶋,2003)を参考に自作式の質問23項目を作成した.ケアガイドラインには,①状況意識・問題意識を支える援助,②方向性を見出すことを支える援助,③具体策の検討を支える援助,④最善の決定に向かえるように支える援助,⑤決定や合意の内容を強化する援助が含まれる.回答は4段階で評価し,実施の高い順に4~1点として点数化し,得点が高いほど家族への合意形成支援を実施していることを示す.

質問項目の内容的妥当性の確認として,5年以上の看護経験者で脳卒中看護の経験を持つ看護師3名および複数の研究者らで,家族の合意形成を支えるケアガイドライン(野嶋,2003)との整合性について検討し,修正した.

4. 分析方法

1) 記述統計

対象の属性と実態把握のために個人要因,環境要因,看護実践状況の記述統計を行った.

2) 質問項目の信頼性・妥当性の検討

脳卒中患者の家族への合意形成支援に関する23項目について信頼性と妥当性の検討を行った.各項目の記述統計を算出後,天井・フロア効果について回答分布の偏りについて検討し,さらに一貫性を測定する手段としてI-T相関を確認し,項目の信頼性を低下させる基準として.3未満を削除対象とした.その後,探索的因子分析にて家族の合意形成を支えるケアガイドラインと比較し因子構造の検討を行った.信頼性の検討には,Cronbachのα係数を算出した.

3) 家族への合意形成支援の影響要因の検討

影響要因の検討のため,因子分析にて抽出された項目の総得点および各因子と,対象者の背景との関連についてMann-Whitney U検定,Kruskal Wallis H検定を行った.総得点に有意差があった調査項目を独立変数,家族への合意形成支援の総得点および各因子得点を従属変数とした強制投入法による重回帰分析を行った.分析はSPSS ver. 25を使用し有意水準p < .05とした.

5. 倫理的配慮

本研究は,順天堂大学大学院医療看護学研究科研究等倫理委員会の承認を得た(順看倫第26-M8).その後,対象施設の責任者宛てに文書にて本研究の協力を依頼し,研究承諾を得られた施設に勤務する病棟看護師に対して調査を行った.研究への同意は,看護部責任者に対しては同意書の返信,研究対象となる病棟看護師に対しては無記名の調査用紙の返信をもって同意とした.

Ⅳ. 結果

1. 対象者の特性

無作為に抽出した日本脳卒中学会認定研修教育病院のうち,調査協力の同意が得られた86施設の看護師1,756名に調査を依頼し,795名から回答を得た(回収率45.2%).そのうち,合意形成支援項目に欠損が認められる等の39名を除いた756名(有効回答率43.0%)を分析した.

対象者の平均年齢は,34.1[SD 9.1]歳,看護経験の平均年数は11.3[SD 8.5]年であった.平均病床数は461.8[SD 263.6]床,所属病棟の平均在院日数は19.7[SD 16.5]日であった.

2. 脳卒中患者の家族への合意形成支援項目に関する信頼性と妥当性の検討

脳卒中患者の家族への合意形成支援に関する23項目の得点分布では,天井効果,フロア効果を示す項目はなく,I-T相関においても削除の対象となる項目はなかった(表1).そのため,23項目すべてを分析対象とし,探索的因子分析を行った.

表1  脳卒中患者の家族への合意形成支援項目 n = 756
家族への合意形成支援(23項目) 平均値 I-T相関
項目全体 67.54 ± 12.5
 1 家族が取り組まなければならない課題に気付けるようにする 2.95 ± .67 .724**
 2 家族の意見や考えのずれや対立が明らかになるよう,家族員それぞれの意見や考えを傾聴する 2.98 ± .69 .696**
 3 家族の意見や考えを要約したり整理したりする 3.02 ± .67 .749**
 4 専門的立場から取り組まなければならない課題の優先度を示す 2.94 ± .71 .759**
 5 家族の意向や希望を確認する 3.40 ± .60 .592**
 6 家族内の勢力関係や,それぞれの気持ちを推し量りながら,可能な合意点がどこにあるかを探る 2.81 ± .70 .757**
 7 今後の見通しに沿った家族の持っている力を見極める 2.91 ± .70 .767**
 8 家族にとって最も望ましいと思われる方向性を提示する 2.99 ± .68 .758**
 9 具体的な例をあげたり,写真や映像などを用いたり,実際に体験させたりすることで,現実的にイメージできるようにする 2.27 ± .89 .585**
10 家族の理解度に合わせて,説明したり,質問に答える 3.28 ± .64 .650**
11 いくつかの選択肢の利点や必要性,リスクを理解した上で検討できるように働きかける 2.92 ± .71 .817**
12 専門的な立場から今後の見通しを伝え,長期的な視点で検討できるように働きかける 2.87 ± .72 .817**
13 問題解決のための方法を提示する 2.91 ± .70 .808**
14 家族が問題解決の方法を理解できるように働きかける 2.96 ± .69 .828**
15 家族員が重要な役割を担っていることを意識できるように働きかける 2.85 ± .73 .829**
16 自分たちで決めることが重要であると意識できるように働きかける 2.87 ± .76 .802**
17 決定へと進めるように話し合いの流れを作っていく 2.90 ± .76 .797**
18 家族の状況に合わせて,段階的に進める 2.98 ± .71 .805**
19 家族が迷っているときは,家族の意向や意見を受け入れ,時機を待つ 3.05 ± .68 .757**
20 問題解決のために,家族の協力や情報の共有,交流が必要であることを伝える 2.94 ± .73 .810**
21 家族の協力態勢を作れるように働きかける 2.87 ± .76 .822**
22 具体的に家族で決めようとしている意向や姿勢を支える 2.99 ± .70 .810**
23 話し合いの過程を振り返り要約して確認する 2.88 ± .77 .813**

** p < 0.01

家族への合意形成支援項目の作成にあたっては,家族の合意形成を支えるケアガイドラインの5段階(野嶋,2003)を参考にしていることから,因子構造は5因子を想定して,主因子法,プロマックス回転を用いて分析を行った.因子負荷量が.4未満の2項目(項目4,9)を削除し,さらに他の因子に.3以上負荷している1項目(項目15)を削除して,5因子20項目の質問項目を用いた(表2).

表2  探索的因子分析の結果 n = 756
家族への合意形成支援項目(Cronbach α = .97) 因子負荷量 共通性 得点平均値[SD]
第1因子 第2因子 第3因子 第4因子 第5因子
第1因子:最善の決定に向かえるように支える(α = .94) 2.93[.74]
18 家族の状況に合わせて,段階的に進める .854 –.083 –.144 .216 .059 .764
20 問題解決のために,家族の協力や情報の共有,交流が必要であることを伝える .820 –.018 .003 –.000 .047 .712
19 家族が迷っているときは,家族の意向や意見を受け入れ,時機を待つ .774 –.121 –.043 .213 .029 .656
22 具体的に家族で決めようとしている意向や姿勢を支える .737 .181 –.005 .014 –.070 .709
21 家族の協力態勢を作れるように働きかける .731 .133 .152 –.175 –.006 .742
17 決定へと進めるように話し合いの流れを作っていく .594 .152 .076 –.040 .060 .649
23 話し合いの過程を振り返り要約して確認する .583 .230 .232 –.048 –.138 .696
16 自分たちで決めることが重要であると認識できるように働きかける .475 .196 .128 –.099 .136 .640
第2因子:具体策の検討を支える(α = .91) 2.91[.71]
13 問題解決のための方法を提示する .107 .864 –.044 –.018 –.049 .762
14 家族が問題解決の方法を理解できるように働きかける .050 .644 .103 .087 .042 .728
12 専門的な立場から今後の見通しを伝え,長期的な視点で検討できるように働きかける .166 .561 –.001 .016 .143 .687
11 いくつかの選択肢の利点や必要性,リスクを理解した上で検討できるように働きかける .142 .512 .032 .089 .132 .679
第3因子:状況の理解や問題意識の整理を支える(α = .81) 2.98[.68]
 2 家族の意見や考えのずれや対立が明らかになるよう,家族員それぞれの意見や考えを傾聴する .009 –.050 .752 .076 .039 .628
 3 家族の意見や考えを要約したり整理したりする .024 .081 .683 .198 –.086 .682
 1 家族が取り組まなければならない課題に気付けるようにする .063 .093 .397 .067 .205 .536
第4因子:家族の意向や希望を支える(α = .71) 3.34[.62]
 5 家族の意向や希望を確認する .024 –.088 .259 .650 –.022 .583
10 家族の理解度に合わせて,説明したり,質問に答える .021 .287 –.038 .541 .027 .567
第5因子:強みを活かした決定になるように支える(α = .84) 2.91[.70]
 7 今後の見通しに沿った家族の持っている力を見極める –.002 .074 –.023 .017 .817 .753
 6 家族内の勢力関係や,それぞれの気持ちを推し量りながら,可能な合意点がどこにあるかを探る .119 –.100 .372 –.084 .541 .664
 8 家族にとって最も望ましいと思われる方向性を提示する .098 .294 –.044 .083 .420 .601

主因子法,プロマックス回転

下位項目の特性から,第1因子を【最善の決定に向かえるように支える】,第2因子を【具体策の検討を支える】,第3因子を【状況の理解や問題意識の整理を支える】,第4因子を【家族の意向や希望を支える】,第5因子を【強みを活かした決定になるように支える】と命名し,家族の合意形成を支えるケアガイドライン(野嶋,2003)と同様の因子構造が確認できた.項目全体のCronbach α係数は.97であり,各因子については,第1因子から順に,α = .94,.91,.81,.71,.84であった.以上より,脳卒中患者の家族への合意形成支援の5因子20項目は,信頼性と構成概念妥当性を備え,因子毎に得点を合計して分析可能と判断した.

3. 脳卒中患者の家族への合意形成支援の実態と影響要因

脳卒中患者の家族への合意形成支援の実態を質問紙の得点からみると,平均得点が最も高かったのは第4因子【家族の意向や希望を支える】3.34[SD .62]点であった.続いて,第3因子【状況の理解や問題意識の整理を支える】2.98[SD .68]点,第1因子【最善の決定に向かえるように支える】2.93[SD .74]点,第2因子【具体策の検討を支える】2.91[SD .71]点,第5因子【強みを活かした決定になるように支える】2.91[SD .70]点の順となっていた.

脳卒中患者の家族への合意形成支援に影響する要因を検討するにあたり,個人要因と環境要因についてMann-WhitneyのU検定,Kruskal Wallis H検定を行った(表3).家族への合意形成支援総得点について有意差(p < .05)があった項目は,個人要因の「看護経験年数」「最終教育機関」「職位」「資格」「家族への合意形成支援の学習」「看護師の自律性尺度」と,環境要因の「退院支援部署」「倫理的調整上の実践ロールモデル」,看護実践状況の「カンファレンスの実施」「多職種との連携」「医師説明時の同席」の11項目であった.この11変数を独立変数,家族への合意形成支援の総得点を従属変数として,強制投入法による重回帰分析を行った(表4).有意水準p < .05を満たしたのは,個人要因の「家族への合意形成支援の学習」(β = .10),「看護師の自律性尺度」(β = .48),環境要因の「退院支援部署」(β = –.10),看護実践状況の「カンファレンスの実施」(β = .11),「医師説明時の同席」(β = .07)の5変数であった.重相関係数Rは.58,調整済み決定係数R2は.32であった.

表3  家族への合意形成支援と対象背景との比較
対象背景 n 家族への合意形成支援
総得点 総得点 第1因子 第2因子 第3因子 第4因子 第5因子
最善の決定に向かえるように支える 具体策の検討を支える 状況の理解や問題意識の整理を支える 家族の意向や希望を支える 強みを活かした決定になるように支える
平均値 標準偏差
個人要因
看護経験年数
n = 731)
10年未満 388 40.1 7.7 .00** .00** .00** .00** .00** .00**
10年以上 343 42.5 8.0
最終教育機関
n = 751)
大学・大学院 138 39.9 7.9 .04* .02* .04* .41 .46 .12
大学・大学院以外 613 41.5 7.9
職位
n = 756)
師長・主任 151 44.2 7.4 .00** .00** .00** .00** .00** .00**
スタッフ 605 40.5 7.8
資格(専門・認定看護師)
n = 731)
有り 24 44.3 8.0 .03* .04* .09 .02* .05* .07
無し 707 41.1 7.8
所属病棟
n = 752)
脳神経(外科・内科) 509 41.1 7.7 .40 .40 .83 .18 .91 .23
脳神経以外 243 41.4 8.3
家族への合意形成支援の学習(n = 755) 有り 211 43.9 7.7 .00** .00** .00** .00** .00** .00**
無し 544 40.2 7.7
看護師の自律性尺度
n = 756)
平均値165.8未満 355 37.9 7.2 .00** .00** .00** .00** .00** .00**
平均値165.8以上 401 44.2 7.3
環境要因
病院の病床数
n = 714)
500床未満 421 41.5 8.1 .25 .10 .26 .78 .71 .18
500床以上 293 41.1 7.7
退院支援部署
n = 738)
有り 674 41.0 7.9 .02* .02* .05* .23 .09 .02*
無し 64 43.0 7.1
病棟の平均在院日数
n = 606)
20日未満 392 41.6 8.2 .13 .11 .41 .10 .10 .27
20日以上 214 42.1 7.2
患者の病期
n = 742)
急性期 687 41.1 7.9 .66 .44 .83 .80 .93 .16
急性期以外 55 41.8 7.4
倫理的調整上の実践ロールモデル(n = 754) 有り 391 41.9 7.4 .02* .06 .01* .07 .11 .10
無し 363 40.5 8.3
看護実践状況
カンファレンスの実施
n = 753)
積極的に行っている 244 43.4 7.9 .00** .00** .00** .00** .00* .00**
時々行っている 351 40.8 7.4
どちらともいえない 72 38.4 8.4
あまり行っていない 68 39.5 8.0
全く行っていない 18 38.6 7.8
多職種との連携
n = 750)
積極的に連携している 327 42.6 8.0 .00** .00* .00** .01* .00** .00**
時々連携している 268 40.6 7.6
どちらともいえない 92 39.7 7.7
あまり連携していない 50 40.0 8.3
全く連携していない 13 37.6 6.5
医師説明時の同席
n = 756)
積極的に同席している 269 43.1 7.5 .00** .00** .00** .00* .00** .01*
時々同席している 309 40.7 7.7
どちらともいえない 49 39.9 8.5
あまり同席していない 86 39.3 8.1
全く同席していない 43 38.9 8.6

2群間:Mann-WhitneyのU検定,3群以上:Kruskal Wallis検定 * p < 0.05,** p < 0.01

表4  家族への合意形成支援の影響要因 n = 678
対象背景 家族への合意形成支援
総得点 第1因子
最善の決定に向かえるように支える
第2因子
具体策の検討を支える
第3因子
状況の理解や問題意識の整理を支える
第4因子
家族の意向や希望を支える
第5因子
強みを活かした決定になるように支える
β p β p β p β p β p β p
個人要因
看護経験年数 –.02 .71 –.02 .59 –.02 .63 –.00 .98 –.04 .32 .03 .55
最終教育機関a .05 .14 .07 .06 .05 .11 .02 .60 –.00 .92 .02 .50
職位b .03 .43 .05 .25 .02 .58 .00 .99 .06 .17 –.01 .80
資格(専門・認定看護師)c .01 .83 .01 .74 .03 .45 –.02 .55 –.01 .71 .00 .93
家族への合意形成支援の学習d .10 .00** .09 .01* .10 .00** .09 .01* .06 .10 .09 .01**
看護師の自律性尺度 .48 .00*** .42 .00*** .46 .00*** .42 .00*** .42 .00*** .45 .00***
環境要因
退院支援部署e –.10 .00** –.09 .01** –.10 .00** –.05 .13 –.07 .05 –.11 .00**
倫理的調整上の実践ロールモデルf .03 .41 .02 .55 .05 .17 .01 .70 .02 .67 .02 .58
看護実践状況
カンファレンスの実施g .11 .00** .12 .00** .11 .01** .08 .06 –.01 .77 .11 .01**
多職種との連携h .04 .28 –.00 .96 .06 .15 .04 .39 .12 .00** .06 .11
医師説明時の同席i .07 .03* .09 .01* .06 .06 .04 .26 .08 .02* .02 .54
R .58 .52 .55 .49 .49 .53
R2 .32 .25 .30 .22 .23 .27

強制投入法による重回帰分析 * p < .05 ** p < .01 *** p < .001

a:大学・大学院=1,大学・大学院以外=2

b:スタッフ=1,主任・副師長=2,師長=3

c:資格なし=1,資格あり=2

d:学習なし=1,学習あり=2

e:なし=1,あり=2

f:なし=1,あり=2

g:「全く行っていない」=1から「積極的に行っている」=5まで

h:「全く連携していない」=1から「積極的に連携している」=5まで

i:「全く同席していない」=1から「積極的に同席している」=5まで

Ⅴ. 考察

1. 対象の看護師および病院の特性

本研究の対象者について全国の平均割合と比較すると(厚生労働省,2014),看護師の平均年齢はほぼ同様であり,一般的な対象群であると考えられた.所属する施設の病床数や患者の病期,平均在院日数から,対象者は,比較的大規模な施設で急性期医療の受療患者をケアしている看護職者であると言えた.

2. 脳卒中患者の家族への合意形成支援の実態

家族への合意形成支援の項目のうち,最も平均値が高かったのは,第4因子【家族の意向や希望を支える】であった.第4因子には,「家族の意向や希望を確認する」「家族の理解度に合わせて,説明したり,質問に答える」が含まれ,このことから多くの看護師が家族の気持ちを尊重した援助を行っていると思われた.療養の場を選択する際の脳卒中患者の家族への合意形成支援について,看護師は患者や家族の意向や希望を重要視して,状況の理解や問題意識の整理をし,最善の決定に向かえるように具体策の検討を行い,家族の強みを活かした決定になるように支えていることが示唆された.

3. 脳卒中患者の家族への合意形成支援に影響する要因

重回帰分析の結果,脳卒中患者の家族への合意形成支援には「看護師の自律性」が最も影響していることが示唆された.看護師が職務上の自律性を持つということは,高度な専門技術に裏づけられた自主的・主体的な判断と適切な看護実践という,看護活動における専門的な能力の発揮を意味する(菊池・原田,1997b).専門職としての自律性が高い看護師は,療養の場の選択においても患者と家族の状況を自主的・主体的に捉えて判断し,合意形成に向けて適切な支援を行っている傾向にあると言える.看護師の自律性の下位尺度には,患者の状況を正確に捉える力や,患者の発言等から心理状況を察知してそれに対する対処を判断する力,また,判断した看護方法を主体的に実行し,成し遂げる力が含まれる.医療者の倫理的感受性の概念には倫理的課題に気づく力だけでなく,それに立ち向かう行動力も含まれるとされていることからも(青柳,2016),倫理的判断を必要とする家族への合意形成支援には,患者と家族の状況を的確に捉え,さらにそこから適切な支援を実践していく力が重要となると考える.

また,看護師の自律性には,職場環境などの外的要因が関与していることが確認されている(菊池,1999).倫理的カンファレンスを実施しているチームは合意形成支援を行っている傾向があると同時に,チームで話し合う職場環境があるとも言え,そのことが看護師の自律性を高める外的要因として実践力を高めているとも考えられた.家族への合意形成支援の影響要因には「カンファレンスの実施」や「医師説明時の同席」も含まれた.このことから,同様に,患者と家族の状況を捉える機会を持つことや,そこから適切な看護に繋げるという,倫理的課題へのチームでの取り組み姿勢も関与しているものと考えられた.

これらのことから,家族への合意形成支援には看護師の自律性が関与し,看護師個人の自主的・自立的な判断と適切な看護実践を高めていくと同時に,倫理的課題にチームで取り組んでいくことの重要性が示唆された.

Ⅵ. 研究の限界と今後の課題

本研究の対象者は,日本脳卒中学会認定研修教育病院に所属する施設に勤務する看護職者からの回答であり,回収率が予想より高かったことからも,合意形成支援の実態は,比較的,合意形成支援に対する関心や意欲が高い看護師からの回答であることが推測される.しかし,急性期医療を担当する看護職の家族への合意形成支援の実態と影響要因について提示できたものと考える.今後は,合意形成支援は倫理的判断を必要とする看護実践であることから,臨床場面におけるジレンマや事例検討の経験を合わせて検討していく必要があると考える.

Ⅶ. 結論

1.療養の場を選択する際の脳卒中患者の家族への合意形成支援の実態は,患者や家族の意向や希望を重要視して,状況の理解や問題意識の整理をし,具体策の検討を行い,家族の強みを活かして最善の決定に向かえるように支援していた.

2.家族への合意形成支援に最も影響していたのは看護師の専門的な能力の発揮を表す「看護師の自律性」であった.看護師個人の自主的・自立的な判断と適切な看護実践能力を高めていくと同時に,倫理的課題にチームで取り組んでいくことの重要性が示唆された.

付記:本研究は順天堂大学大学院医療看護学研究科修士論文の一部に加筆修正を加えたものであり,第10回日本慢性看護学会学術集会にて一部発表した.

謝辞:本研究の質問紙調査の実施にあたり,調査協力に御尽力頂いた施設の責任者ならびに看護部長の皆様に心よりお礼申し上げます.また,多忙な業務の中,質問紙の回答・回収にご協力頂きました看護師の皆様に心よりお礼申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:KUは研究の着想から原稿作成のプロセス全体に貢献,KAは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

文献
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