Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Home-visit Nurses’ Awareness of The Specified Medical Acts Training System in Home Care: A National Survey of Home-visit Nursing Stations
Masako TomitaChizuyo SatoHiroko SuzukiMurata KanakoMitue Watanabe
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2021 Volume 41 Pages 250-258

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Abstract

目的:訪問看護師が特定行為研修制度に対してどのように認識し,それらが研修受講希望に関連するかを明らかにする.

方法:全国訪問看護事業協会の正会員リストに登録している訪問看護ステーションに従事する看護師を対象に郵送による質問紙調査を行った.質問紙は,訪問看護ステーション1,000カ所に3,000名分を送付した.

結果:質問紙に回答した459名は,制度に対しある程度の関心はあるが,内容を理解している割合は高いとは言えず,受講希望は低かった.特定行為への期待と制度への関心が高いと必要性の認知が高く,懸念と抵抗感が高いと認知が低かった.また,必要性の認知の高さは受講希望の持ちやすさに関連が見られた.制度を導入する上での課題や受講する上での妨げがあるとする割合は高いが,それらと制度の必要性や受講希望との直接的な関連は認められなかった.

結論:在宅領域での特定行為研修受講者を増やすためには,本制度に関するさらなる啓蒙活動により制度の関心と必要性の認知を高め,懸念を出来る限り払拭し,同時に多くの訪問看護師が認識している課題に対する対応策を講じる必要性が示された.

Translated Abstract

Objectives: This study aimed to elucidate the awareness of home-visit nurses toward the specified medical acts system in home care and relationship with the desire to participate in a training program.

Methods: Questionnaires were mailed to 3,000 nurses working at 1,000 home-visit nursing stations that were registered as regular members of the National Association for Visiting Nurse Service.

Results: We collected and analyzed 459 questionnaire responses. Survey participants showed interest in a training system for specific medical acts performed in home care. However, only a small percentage of participants understood the system details. A few participants were interested in participating in a training program. When participants’ interest in and expectations for the training system were high, they perceived the system’s necessity highly. And when their uneasiness and resistance to the training system were high, their perceptions of the system’s necessity were low. Furthermore, their perception for the necessity of the training system was related to their desire to attend the training course.

A large percentage of participants felt that there were obstacles to participating in a training program and challenges that may arise when introducing the system. The obstacles and challenges identified were not directly related to the need for the system or the interest in participating in a training program.

Conclusion: To increase the number of participants in the specified medical acts training in home care, it is necessary to raise further awareness of the system, dispel their concerns as much as possible, and deal with the challenges experienced by many visiting nurses.

Ⅰ. 緒言

高齢化が急激に進む我が国では,第1次ベビーブーム世代が後期高齢者となる2025年をめどに,可能な限り住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう,地域包括ケアシステムの構築を推進している.医療や介護が必要になっても人々の尊厳を守り,地域での生活を維持させることや自宅で最期を迎えたいと願う人々をどう支えるかが,ますます重要な課題になっている.また人工呼吸器管理など高度な医療を行いながら地域で過ごす医療的ケア児が増加し,在宅医療における訪問看護の役割が高まっている.

このような状況の中で,在宅医療の推進に向けて2015年に看護師の特定行為研修制度が開始された.研修を修了した看護師は,医師の手順書に基づいて気管カニューレ交換などの特定行為を行うことができるようになり,医師の負担軽減とタイムリーな対応による医療の質の向上が期待されている.研修修了者は2019年10月現在1,685名であるが,厚生労働省が目指している10万人には全く及ばない.2019年度には制度改正により,研修内容の精錬化が図られ,講義や演習の時間数が減り,その分実習を行うことで補うこととなった(飯野,2019).また,領域別の実施頻度を想定し,在宅・慢性期領域では気管カニューレ交換や胃ろうボタンの交換,褥瘡における血流のない壊死組織の除去,脱水症状に対する輸液による補正などがパッケージ化された(習田,2019).さらにeラーニングの設置,事業主に対する人材開発支援助成金や受講生への教育訓練給付などを利用した研修費用の助成も進められている.

このように特定行為研修制度の活用を目指し受講しやすい環境を整えつつあるが,訪問看護ステーションで就業している研修修了者は94名である(厚生労働省,2019).これは全修了者の5.2%に当たり,就業している看護職に占める訪問看護師の割合と同程度であるが,在宅医療等を支える看護師を養成する制度創設の目的を考えると少ない.筆者らが行ったインタビュー調査では,在宅で特定行為を行うことのメリットだけでなく,訪問看護師の責任の重さや負担,研修期間や場所の問題などの課題もあげられた(渡部ら,2019).これまでに行われた意識調査でも責任の所在や危険性などがあげられている(畠山・増満,2015).また特定行為研修制度の開始時には,看護師がミニドクターになり,看護がなくなるという懸念も多く聞かれていた.その後研修修了者が実践を開始し,経験例が報告されるにつれ,看護の専門性を高め看護の質向上に貢献できるという意見が高まっている(安住,2019川村,2019).が,一般の訪問看護師が特定行為研修制度についてどのように考えているのか,受講者を増やすために何が求められるのか不明な点が多い.そこで,本研究では在宅での特定行為研修受講者が未だ少ない現時点において,訪問看護師が特定行為研修制度に対してどのように認識し,それらが研修受講希望に関連するかを明らかにすることを目的に実態調査を行った.

Ⅱ. 方法

1. 概念枠組み

本調査にあたり,訪問看護師8名を対象に特定行為研修制度に対するインタビュー調査を行った.その結果,コアカテゴリー【特定行為への期待】(以後【期待】と略す),【特定行為への懸念と抵抗感】(以後【懸念】と略す),【特定行為運用の課題】(以後【運用課題】と略す)が抽出された(佐藤ら,2020).また【特定行為研修受講の妨げ】(以後【受講の妨げ】と略す)となる課題も明らかになった(渡部ら,2019).これらから,研究の概念枠組みとして,訪問看護師は特定行為研修制度に対し期待している反面,懸念や運用課題を認識しており,それらと制度への関心や必要性の認知,受講する上で妨げとなる個々の問題が特定行為研修受講への希望に関連するであろうと考えた.

2. 用語の操作的定義

特定行為とは,看護師が手順書により行う診療の補助であり,実践的な理解力,思考力及び判断力並びに高度かつ専門的な知識及び技能が特に必要とされるものとして厚生労働省令で定められた38行為を示す.

特定行為研修とは,保健師助産師看護師法の一部改正により,手順書により特定行為を行う看護師に対し受講が義務づけられた「特定行為に係る看護師の研修制度」とする.

3. 調査項目

基本属性と特定行為に関する基本情報である医療処置,受講に関する項目,および特定行為研修の受講希望に関連すると考えた以下の項目を調査項目とした.

1)基本属性:性別,年齢,勤務形態,職位,訪問看護経験年数

2)医療処置:3か月以内に行った医療処置,在宅で医療処置を行うことの難しさ

3)特定行為研修の受講と制度に対する意識:特定行為研修の受講の有無,制度の認知度(よく・まあまあ・あまり・全く知らないの4段階),関心度(関心ある~関心ないの5段階),必要性の認知(感じる~感じないの5段階),研修の受講希望(希望する~希望しないの5段階および受講済み・受講中)

4)特定行為に対する認識:インタビュー調査の結果から抽出したカテゴリーを参考に特定行為への期待7項目,懸念5項目,運用課題5項目,受講の妨げ7項目,計24項目を作成し調査項目とした.回答は「そう思う」~「そう思わない」の5段階順序尺度とした.

4. 調査方法

全国訪問看護事業協会の正会員リスト(全国訪問看護事業協会,2019)に登録している訪問看護ステーションの中から対象を選定した.統計ソフトを用いて,都道府県別の訪問看護ステーション登録数に合わせて層別化無作為標本抽出を行った.抽出した訪問看護ステーション宛に質問紙を3部送付し,看護経験年数,勤務形態の条件は設けず,管理者1名とスタッフ看護師2名に回答を依頼した.質問紙は無記名とし,研究への参加については同意のチェック欄を設けて確認した.独立変数の数と回収率を考慮して,訪問看護ステーション1,000か所(3,000部)に質問紙を配布した.調査実施期間は2019年11月~12月であった.

5. 分析方法

調査項目について記述統計量を算出した.特定行為に対する認識として期待7項目,懸念5項目,運用課題5項目,受講の妨げ7項目の計24項目については因子分析(プロマックス回転,主因子法)にて因子構造を確認の上使用した.特定行為研修の受講希望や必要性との関連性を分析するために,ピアソンの相関係数の算出とt検定を行った.特定行為研修受講希望は,「受講済み」「受講中」「希望する」「やや希望する」と「どちらとも言えない」「あまり希望しない」「希望しない」の2群に分けて比較した.受講希望への因果関係を示すためにこれらの変数を用いて共分散構造分析を行った.統計分析はIBM SPSS Ver26.およびAmos Ver4を使用し,有意水準を5%未満とした.

6. 倫理的配慮

研究の目的,参加は自由意思であり不参加による不利益はないこと,個人情報の保護,情報の保管と破棄について文書にて説明した.質問紙は匿名で行い,個別に郵送にて返送し,同意についてはチェック欄を設けて確認した.本研究は,昭和大学保健医療学研究科人を対象とする研究等に関する倫理委員会の承認を得た(承認番号490).

Ⅲ. 結果

訪問看護ステーション1,000か所(3,000部)の質問紙の内,468名から返送があり(回収率15.6%),その内研究参加の同意が得られなかった5名と質問紙の半数以上が無回答だった3名,看護師免許を持たない作業療法士1名を除外し,最終的に459名を対象とした.共分散構造分析においては,モデル適合度を算出するにはモデル内の変数に欠損値がないことが条件となるため,欠損値のない422名を対象とした.また,統計分析を行うにあたり,1-αを.05,検出力を80%,n = 422で効果量を計算したところ,Effect size = .057であり,効果量(R2)の基準.02~.13(小~中程度)の範囲であった(水本・竹内,2008).

1. 対象者の基本属性(表1-1)

対象者は女性437名(95%),常勤340名(74%),年齢は40歳代が多く191名(42%),職位はスタッフ298名(65%)だった.訪問看護経験年数は3~10年未満が合わせて163名(36%)だった.

表1  対象者の属性・医療処置・特定行為研修の受講と制度に対する意識 n = 459
1.対象者の属性 n (%) 2.医療処置 n (%) 3.特定行為研修の受講と制度に対する意識 n (%)
性別 男性 19 (4) 侵襲性のある医療処置の実施(3カ月以内) 特定行為研修の受講
女性 437 (95) 褥瘡処置 367 (80) 受講済み・受講中・受講予定 20 (4)
不明 3 (0.7) 末梢点滴 281 (61) 受講予定なし 429 (93)
膀胱留置カテーテル交換 277 (60) 不明 10 (2)
年齢 20~30歳代 82 (18) 採血 165 (36)
40歳代 191 (42) 経鼻胃管の挿入 68 (15) 特定行為研修制度の認知度
50歳代 141 (31) 胃ろう挿入部の処置 283 (62) よく・まあまあ知っている 272 (59)
60歳以上 32 (7) 気管切開部の処置 199 (43) あまり・全く知らない 174 (38)
不明 13 (3) 気管カニューレ交換 13 (3) 不明 13 (3)
勤務形態 常勤 340 (74) 在宅で医療処置を行うことの難しさ 特定行為研修制度に対する関心度
非常勤 40 (9) 感じる・やや感じる 302 (66) 関心ある・ややある 288 (63)
不明 79 (17) どちらともいえない 65 (14) どちらともいえない 115 (25)
感じない・あまり感じない 78 (17) 関心ない・あまりない 52 (11)
職位 スタッフ・主任 298 (65) 不明 14 (3) 不明 4 (0.9)
管理者 159 (35)
不明 2 (0.4) 高度な看護師の判断力や技術が必要である 看護師による特定行為の必要性を感じる
そう思う・まあまあそう思う 440 (96) 感じる・やや感じる 250 (54)
訪問看護経験年数 3年未満 100 (22) どちらともいえない 13 (3) どちらともいえない 145 (32)
3~5年未満 69 (15) 思わない 1 (0) 感じない・あまり感じない 61 (13)
5~10年未満 94 (21) 不明 5 (1) 不明 3 (0.7)
10~15年未満 60 (13)
15~20年未満 55 (12) 受講に値する看護実践能力が不足している 特定行為研修を受講希望
20年以上 51 (11) そう思う・まあまあそう思う 235 (51) 受講済み・希望する・やや希望する 130 (29)
不明 30 (7) どちらともいえない 122 (27) どちらともいえない 147 (32)
思わない・あまり思わない 95 (21) 希望しない・あまり希望しない 180 (39)
不明 7 (2) 不明 2 (0.4)

2. 医療処置の実施(表1

3か月以内の医療処置の実施率は,褥瘡処置80%,末梢点滴61%,膀胱留置カテーテル交換60%が多く,実施の有無によって受講希望に差はなかったが,褥瘡や胃ろう挿入部の処置は,実施している方が必要性の認知が低かった.302名(66%)が在宅で医療処置を行うことの難しさを感じる・やや感じると回答し,受講に値する看護実践能力が不足しているとそう思う・まあまあそう思うと回答した者は235名(51%)であった.

3. 特定行為研修の受講と制度に対する意識(表1-3)

特定行為研修受講については,受講済み5名,受講中5名,受講予定あり10名,受講予定なし429名(93%)だった.特定行為研修制度の認知度は,よく知っている・まあまあ知っている272名(59%),特定行為研修制度に対する関心度は,関心ある・ややある288名(63%),特定行為研修制度に対する必要性の認識は,感じる・やや感じるが250名(54%),受講希望は,受講済み・受講中・希望する・やや希望するが130名(29%)だった.

4. 特定行為に対する認識(表2

1) 特定行為への期待

「医師の負担が軽減できる」に334名(74%),「タイムリーな医療処置により回復効果がある」に333名(74%),「在宅医療体制の充足に貢献できる」に320名(71%)が「そう思う」「ややそう思う」と回答した.

表2  特定行為研修制度に対する訪問看護師の意識と認識および受講希望への関連 n = 459
そう思う
ややそう思う
全体 特定行為研修の受講希望 受講希望・必要性との相関
受講希望あり 受講希望なし t検定 受講希望 必要性
n (%) n 平均値 SD n 平均値 SD n 平均値 SD t値 p r r
1.特定行為研修の受講と制度に対する意識
特定行為研修の受講を希望する 130 (28) 457 2.8 ± 1.2
看護師による特定行為の必要性を感じる 250 (55) 456 3.5 ± 1.0 128 4.1 ± 0.7 326 3.3 ± 0.9 9.7 <.001 .485 ***
特定行為研修制度に対して関心がある 288 (63) 455 3.7 ± 1.0 127 4.4 ± 0.6 326 3.4 ± 0.9 13.0 <.001 .584 *** .722 ***
在宅で医療処置を行うことに難しさを感じる 302 (68) 445 3.6 ± 0.9 126 3.5 ± 1.0 317 3.6 ± 0.9 –0.7 .461 –.026 n.s .031 n.s
2.特定行為研修制度に対する.訪問看護師の認識
【特定行為への期待】
Q1 医師の負担を軽減できる 334 (74) 452 4.0 ± 0.9 128 4.1 ± 0.8 324 3.9 ± 0.9 2.7 .007 .159 ** .275 ***
Q2 利用者・家族の負担を軽減できる 294 (65) 451 3.8 ± 0.9 128 4.0 ± 0.9 323 3.7 ± 0.9 2.4 .015 .163 ** .346 ***
Q3 タイムリーな医療処置により回復効果がある 333 (74) 451 4.0 ± 0.8 127 4.1 ± 0.8 324 3.9 ± 0.8 2.7 .007 .132 ** .334 ***
Q4 医療処置に伴う訪問調整業務を減らすことができる 176 (39) 451 3.3 ± 1.0 127 3.4 ± 1.0 324 3.3 ± 0.9 1.8 .079 .156 ** .255 ***
Q5 必要性の高い医行為が実施できる 294 (65) 451 3.8 ± 0.9 128 4.1 ± 0.8 323 3.6 ± 0.9 5.3 <.001 .236 *** .418 ***
Q6 看護の質向上に貢献できる 271 (60) 452 3.7 ± 0.9 128 4.0 ± 0.9 324 3.6 ± 0.9 4.7 <.001 .245 ** .470 ***
Q7 在宅医療体制の充足に貢献できる 320 (71) 451 3.9 ± 0.9 128 4.1 ± 0.8 323 3.8 ± 0.9 3.7 <.001 .196 ** .425 ***
【特定行為への懸念と抵抗感】
Q8 現状の医療体制で十分だと思う 108 (24) 451 3.0 ± 0.9 128 2.8 ± 1.0 323 3.1 ± 0.9 –3.1 .001 –.147 ** –.332 ***
Q9 特定行為は,看護師の役割を越えていると思う 167 (37) 452 3.2 ± 1.0 128 2.8 ± 0.9 324 3.3 ± 1.0 –5.2 <.001 –.261 *** –.501 ***
Q10 制度の導入に抵抗感がある 140 (31) 451 3.1 ± 1.1 127 2.7 ± 1.0 324 3.2 ± 1.1 –4.0 <.001 –.245 *** –.569 ***
Q11 本来の訪問看護ケアの質が低下すると思う 50 (11) 451 2.5 ± 1.0 128 2.2 ± 0.9 323 2.6 ± 0.9 –4.1 <.001 –.158 ** –.422 ***
Q12 特定行為より地域医療体制の底上げが優先だと思う 252 (56) 451 3.7 ± 1.0 128 3.5 ± 1.0 323 3.8 ± 1.0 –3.3 .001 –.223 *** –.413 ***
【特定行為運用の課題】
Q13 高度な看護師の判断力や技術力が必要である 440 (97) 452 4.7 ± 0.5 127 4.7 ± 0.5 325 4.7 ± 0.5 –0.1 .934 –.034 n.s –.043 n.s
Q14 特定行為を行う看護師の業務量が増える 355 (79) 452 4.2 ± 0.9 127 4.1 ± 0.9 325 4.2 ± 0.9 –0.9 .364 –.044 n.s –.125 **
Q15 特定行為を行う看護師の責任が重くなる 400 (88) 452 4.5 ± 0.8 127 4.4 ± 0.8 325 4.5 ± 0.8 –1.4 .157 –.090 n.s –.145 **
Q16 リスクや安全管理の問題がある 408 (90) 451 4.5 ± 0.7 127 4.5 ± 0.7 324 4.5 ± 0.7 0.3 .763 –.033 n.s –.175 **
Q17 主治医との連絡・意思疎通に課題がある 362 (80) 452 4.2 ± 0.9 127 4.2 ± 0.9 325 4.2 ± 0.9 0.0 .998 –.061 n.s –.140 **
【特定行為研修 受講の妨げ】
Q18 研修場所が遠方である 313 (69) 452 4.0 ± 1.2 130 3.9 ± 1.3 322 4.0 ± 1.1 –0.5 .582 .037 n.s –.028 n.s
Q19 研修期間が長期にわたる 390 (86) 451 4.4 ± 0.8 129 4.3 ± 0.9 322 4.5 ± 0.8 –2.0 .027 –.064 n.s –.059 n.s
Q20 受講費用が高い 373 (83) 450 4.4 ± 0.9 130 4.5 ± 0.9 320 4.4 ± 0.9 1.0 .307 .061 n.s –.039 n.s
Q21 所属機関の承認が得られない 162 (36) 451 3.1 ± 1.2 130 3.1 ± 1.3 321 3.2 ± 1.2 –0.6 .559 .016 n.s –.031 n.s
Q22 同僚の理解が得られない 111 (25) 450 2.8 ± 1.2 130 2.7 ± 1.3 320 2.8 ± 1.1 –0.5 .591 .013 n.s –.069 n.s
Q23 受講と家庭の両立が難しい 289 (64) 449 3.8 ± 1.3 129 3.7 ± 1.3 320 3.8 ± 1.3 –1.1 .253 –.033 n.s –.131 **
Q24 研修期間中の収入の保障が得られない 308 (68) 452 3.9 ± 1.2 130 4.0 ± 1.3 322 3.9 ± 1.2 0.4 .722 .070 n.s –.053 n.s

注1)看護師による特定行為に対する認識 1=そう思わない 2=あまり思わない 3=どちらとも言えない 4=ややそう思う 5=そう思う

注2)特定行為研修の受講希望 1=希望しない 2=あまり希望しない 3=どちらとも言えない 4=やや希望する 5=希望する/受講済み(2群の分類「希望する」=4~5,「希望しない」=1~3)

注3)t検定(等分散が仮定できなかった場合はWelchのt検定)

注5)ピアソンの相関係数(r) *** p < .001 ** p < .01 * p < .05 n.sは有意差なし

2) 特定行為への懸念と抵抗感

「特定行為より地域医療体制の底上げが優先だと思う」252名(56%),「特定行為は看護師の役割を超えていると思う」167名(37%),「本来の訪問看護ケアの質が低下すると思う」50名(11%)が「そう思う」「ややそう思う」と回答した.

3) 特定行為運用の課題

「リスクや安全管理の問題がある」に408名(90%),「特定看護師の責任が重くなる」に400名(88%)が「そう思う」「ややそう思う」と回答した.

4) 特定行為研修の受講の妨げ

「研修期間が長期にわたる」390名(86%),「受講費用が高い」373名(83%)が「そう思う」「ややそう思う」と回答した.

5) 特定行為研修の受講希望に対する関連要因(表2

受講希望の有無別に平均値を比較したところ,特定行為の必要性と制度に対する関心,期待は7項目中6項目,懸念は5項目全てに有意な差があり,医療処置を行うことの難しさ,運用の課題5項目と受講の妨げ7項目は「研修期間が長期にわたる」以外,有意な差はなかった.医療処置の実施の有無と受講希望にも有意な差はなかった.訪問看護経験年数など基本属性による有意な差もなかった.受講希望につながる因果関係を共分散構造分析にて検証した結果,「必要性の高い医行為が実施できる」,「看護の質向上に貢献できる」などの期待7項目(標準化係数=.206),「特定行為は看護師の役割を超えていると思う」,「制度の導入に抵抗感がある」などの懸念5項目(–.309),制度への関心(.491)が必要性の認知に影響し,必要性の認知が受講希望に関連(.495)していた(図1).受講希望への標準化総合効果は,特定行為の必要性の認知が.495,制度への関心が.243,期待が.102,懸念が–.153だった.

図1 

特定行為研修の受講希望に対する訪問看護師の認識(共分散構造分析)

Ⅳ. 考察

特定行為研修制度が開始された2015年から,現在5年目が経過している.訪問看護師の研修修了生は未だわずかであるが,研修に対し「関心ある・ややある」と回答した本研究の対象者は63%,その認知度については「よく知っている・まあまあ知っている」が59%であり,高いとは言えない状況だった.関心はあるものの詳しく理解できていない者も多いと考えられる.

訪問看護白書によると,在宅で医療処置を必要とする療養者が増加し,医療処置の実施率が上がっている(日本訪問看護財団,2019).本研究でも褥瘡処置や胃瘻のケア,膀胱留置カテーテルや末梢点滴の実施割合が6割を超え,在宅での医療ニーズの高まりが伺える.在宅で安全に医療処置を行うには,医療と生活の両面を考慮しながらケアを提供しなければならない.本研究では,医療処置の困難さの内容は調査していないが,在宅で医療処置を行うことの難しさを7割弱の対象者が感じていた.在宅ケアの特徴による困難さに加え,一人で訪問することが多い訪問看護師の医療処置に対するアセスメントや技術力に不安や限界を感じていることも考えられる.常時医療者がそばにいない在宅では,正確なアセスメントと次の訪問までの予測が重要である.研修修了者からは,特に研修の科目に含まれる臨床推論が現場で役立ち,他の看護師への波及効果も期待されると報告されている(中島,2019).医行為を行う上では,指示に対し医師と的確な意見交換ができる能力を獲得できることも大きなメリットである(春山,2020).

特定行為研修制度は,在宅医療の充実と在宅療養を支える看護師を養成することが目的の一つであるが,本研究では,訪問看護師である対象者の受講意欲の低さが明らかになった.本研究の対象者459名の内,受講済みまたは受講中・受講予定者はわずか20名と少ない.そこで今後受講者を増やしていくために,受講希望に関連する要因の分析を行ったところ,受講希望に最も関連する要因は制度への関心と特定行為の必要性の認知であった.また「期待」と「懸念」は負の相関があり,後者の方が必要性の認知への影響がやや強かった.

看護師による特定行為の必要性を感じる,やや感じると回答した者の割合は半数強であり,対象者は特定行為研修に対する期待または懸念があり,多くの対象者はリスクや看護師の責任など運用課題や研修が長期など受講の妨げを感じていた.「タイムリーな医療処置により回復効果がある」は7割,「利用者・家族の負担を軽減できる」,「必要性の高い医行為ができる」と6割以上が考えており,訪問看護師の特定行為を行うことへの期待感が伺える.日々訪問看護を展開する中では,脱水やカテーテルが抜けたときなどタイムリーに医行為を行いたい状況が発生する.緊急受診や入院が必要となり,本人・家族への負担がかかることも多い.それを回避したいと思う訪問看護師も多いであろう.欧米では,医師の指示を受けずに一定レベルの診断や治療,処方などを行うことができるAPN(advanced practice nurses)が,在宅の場において開業医と同等の評価を受け(Mark & Patel, 2019),ケアの質の向上(Swan et al., 2015Kelley et al. 2020),や再入院率,救急受診の低下(Christina et al., 2016Masha et al., 2017Osakwe et al., 2020)に貢献できることが報告されている.日本における特定行為研修を修了した看護師は,医師の手順書に基づいて行うものであり,現時点では診断や処方を行うことはできないが,高度実践看護師の養成が大学院で行われ,高度な知識と技術を持ち,研究や指導力も併せ持つ訪問看護師が育成されることが期待される(安西,2020).

特定行為研修への懸念として,「制度に抵抗感がある」にそう思う・ややそう思うと回答した割合は31%,「特定行為は,看護師の役割を越えていると思う」は37%と比較的低かったものの,必要性との相関係数は期待の項目より高かった.特定行為研修が開始される時点では,多くの議論がなされ,看護の専門性が失われ医師の業務を肩代わりすることになり看護師不足が深刻になるとの意見も多く聞かれた.確かに,医行為のみを担当し医師のアシスタント的な業務が中心になる場合も考えられる.しかし,在宅では特定行為のみを行う状況はあり得ない.日ごろから在宅療養を継続するために予防的ケアや社会資源の導入を行い,特定行為が必要な状況になったとしても療養者と家族の価値観を考慮しながら,治療と生活の両面からアプローチしている.医療スタッフが常駐する病院内での治療と違い,在宅では治療を日々の生活の中にどう取り入れるかが鍵になる.むしろ特定行為の前後に提供する個々の生活に合わせたケアが重要であり,一連のケアの中に特定行為が組み込まれる.これまでカニューレ交換や胃瘻ボタンの交換などケアの一部だけを医師が行っていたが,特定行為研修修了者であれば,生活の視点で予防から実施後の流れを途切れさせることなく全てをスムーズに行える.これまでの看護に特定行為を加えることで在宅医療を受ける療養者の生活を安定させる看護師としての役割をより果たしやすくなると考える.修了者による実践の報告も増えてきており(日本看護協会,2020),制度への抵抗感を弱めることにつながると期待する.

訪問看護師が安全に医行為を施行できれば,本人家族にとっても利益をもたらすと考えられる一方で,対象者は多くの課題があると指摘している.特定行為を行う看護師の業務量が増え,リスクや安全管理の問題があり責任が重いと約8割から9割の者が考えていた.ただし,これらの課題と必要性との相関は低く(r = –.125~–.175),受講希望の有無による有意な差もなかった.課題があるから制度は必要ないとは捉えてはいない.特定行為に対し関心や必要性は感じていても未だ認知度が高いとは言えない現状では,不明な点が多く不安だと考える訪問看護師が多いのではないだろうか.制度の周知や,研修修了者からの実践例の報告により,わからないという不安を排除し,運用課題への取り組みを推進していく必要がある.

また受講の妨げとなる受講費用が高い,研修期間が長期にわたると8割以上が指摘している.2019年度の改正では共通科目の時間数の軽減やパッケージ化,eラーニング,研修機関の増加など受講しやすい環境整備を進めている.今後は,これらの受講のしやすさに加えて研修の評価,報酬など経済的な保障や医療事故防止と対応,特定行為に関する診療報酬上の評価,修了者の処遇(春山,2020)など,これから充実させていかなければならない問題が多く存在する.

これらの特定行為研修制度を運用する上での課題や,研修期間と費用の問題など受講の妨げは,受講希望や必要性の認知と有意な関連性は認められなかった.受講希望に関連があったのは,特定行為の必要性の認知と関心,特定行為への期待,もしくは懸念と抵抗感であった.看護の質向上や在宅医療体制充足への期待は特定行為研修の必要性の認識を強める一方で,特定行為は看護師の役割を超えるなど制度の運用に対する抵抗感は,それを阻害する.認知度が高いとは言えない現状において,今後受講者を増やすためには,第一に特定行為によって訪問看護の質が向上し,利用者家族に利益をもたらすと,まず訪問看護師が思えるかがポイントになる.実践事例を積み上げ,特定行為が訪問看護の質の向上や在宅医療の発展に向けて期待できるものであることを報告し,制度への関心と必要性の認知を高め,看護の質が低下する懸念や抵抗感を出来る限り払拭していくことが重要である.その上で在宅領域において特定行為を浸透させていくには,受講希望の有無とは関連がなかったものの,多くの対象者が感じていたリスクや安全管理の問題,看護師の責任,主治医との連携など運用上の課題(酒井,2017),研修が長期にわたることや受講費用の高さに対しても対応する必要がある.

ナースプラクティショナー(NP)は米国やカナダでは1960年代に発足し,オーストラリアでは2000年に承認され,英国やフランスなど多くの国々でその定義や役割が模索されてきた(Carryer et al., 2007).日本と同様に医師不足や高齢化,医療費の高騰を背景に設立されたが,当初は医師との診療の重複や収入への影響,安全性などが問われていた.しかし教育体制を整え実践モデルを確立し,質の高いケアの効果を示すことで評価され,法的裏付けや制度の改正,看護師の満足度と定着率の向上につながったことが報告されている(Fougère et al., 2016Han, 2018MacLellan et al., 2015Newhouse et al., 2011).日本ではまだ開始したばかりの制度であるが,諸外国の動向を踏まえ,制度の評価と実践を積み重ねていく必要がある.

Ⅴ. 研究の限界と今後の展望

本研究の対象者は459名であるが回収率は低く,結果を一般化するには限界がある.ある程度の関心を持った人が回答した可能性もあり,実際にはもっと研修に対する関心度や認知度は低いとも考えられる.在宅領域での研修修了者が増えていかない現時点では,研修修了者からの実践報告を受け,個々が訪問看護の質を高めていくうえで有効な研修であるかを見極めていくべきである.その上で特定行為を行う場合の課題や受講の妨げについての対応策,修了生へのサポートを国としても講じていかなければならない.

Ⅵ. 結論

全国の訪問看護師459名を対象とした特定行為研修制度に関する質問紙調査により,以下のことが明らかになった.

1.対象者は特定行為研修制度に対する関心はあるが,内容を理解している割合は高いとは言えず,受講を予定しているものは非常に少なかった.

2.特定行為研修制度への期待は6割前後,懸念や抵抗感は3割前後の対象者にあり,特定行為研修制度を運用する上での課題や,研修期間や場所,費用など受講の妨げがあるとする者の割合は8割前後と高かった.

3.特定行為への期待と特定行為研修制度への関心が高いと必要性の認知が高く,懸念と抵抗感が高いと認知が低かった.また,必要性の認知の高さは受講希望の持ちやすさに関連が見られた.特定行為研修制度を運用する上での課題や,受講する上での妨げは受講希望との直接的な関連は認められなかった.以上から,在宅領域で特定行為研修の受講者を増やし,制度を発展させていくためには,さらなる本制度に関する啓蒙活動と課題に対する対応策を講じる必要があることが示された.

謝辞:本研究に協力してくださった訪問看護師の皆様に心より感謝申し上げます.本研究は科学研究費(17K12515)の助成を受けて行いました.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない

著者資格:MTとCSが研究の着想および計画し,研究の枠組みと質問項目の設定は全員で行った.MTが統計解析と論文作成を行い,CS,HS,KM,MWが助言した.すべての著者は最終原稿を読み承認した.

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