Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Original Articles
Development of a Decision-making Scale to Measure Help-seeking by University Nursing Students in Relation to Clinical Instructors
Takahiro IgarashiMikako ArakidaMitsuko Sato
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2021 Volume 41 Pages 344-353

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Abstract

目的:看護大学生の臨地実習指導者に対する援助要請に関する尺度(以下,援助要請尺度)を開発し,その信頼性と妥当性を検証する.

方法:11都道府県の看護系大学の3,4年次生2,120名を対象とし,質問紙調査を2020年2月に実施した.質問項目は援助要請尺度案(40質問項目),属性,援助要請スタイル尺度であった.また,2大学の375名に再テストを実施した.

結果:808名(有効回答率38.1%)を分析対象とした.項目分析と因子分析により,2因子「非要請コストの自覚」と「被援助利益の自覚」8質問項目を抽出し,モデルの適合度を確認した.尺度全体と援助要請スタイル尺度との相関は回避型(r = –.257),自立型(r = .311)であった.クロンバックαはα = .836であった.また,再テストでは116名(有効回答率30.9%)を分析した.級内相関はr = .860であった.

結論:2因子の内容に基づき,尺度名を「看護大学生の臨地実習指導者に対する援助要請の意思決定尺度」に修正した.

Translated Abstract

Purpose: A scale to measure help-seeking engaged in by university nursing students in relation to clinical instructors (hereafter “help-seeking scale”) was developed and examined for reliability and validity.

Method: Questionnaires were administered to 2,120 third- and fourth-year students at nursing universities in 11 Japanese prefectures in February 2020. Questionnaire items included a proposed help-seeking scale (40 items), profiling questions, and a help-seeking style scale. In addition, retests were conducted with 375 students at two universities.

Results: A total of 808 students were analyzed (valid response rate: 38.1%). Item and factor analysis yielded two factors, “awareness of the costs of not seeking help” and “awareness of the benefits of receiving help,” and eight question items, and the fitness of the model was confirmed. The correlation coefficients between the overall scale and the help-seeking style scale were r = –.257 for avoidance style and r = .311 for independence style. Cronbach’s alpha (α) was .836. In addition, a total of 116 students were analyzed in the retests (valid response rate: 30.9%). The interclass correlation coefficient (r) was .860.

Conclusion: Based on the nature of the two factors, the name of the scale was revised to “Decision-making Scale to Measure Help-seeking by University Nursing Students in relation to Clinical Instructors.”

Ⅰ. 緒言

看護学実習という授業展開は,「知る」「わかる」段階から「使う」「実践できる」段階に到達させるための不可欠な過程であり(文部科学省,2002),体験を経験とする学習場面として重要である(杉森・舟島,2021).

看護学実習において,学生は解決困難な問題に直面すると,教員や臨地実習指導者などに援助や助言を求めることがある.こうした行為は,援助要請と呼ばれる.DePaulo(1983)は,援助要請を「個人が解決すべき問題を持っていること,他者が有する資源,労力,時間をかけてくれた場合におそらく軽減または解決される可能性がある種類のものであること,そして困窮している個人が他者に直接の助けを求めることが典型的な場合である」と定義している.中谷(1998)は,学業的援助要請を「学習において,困難に直面し,自分自身で解決が難しいと感じたとき,必要な援助を他者に求める行動」と定義している.

援助要請を実際に行うまでには必須の段階がある.大坊ら(1997)は,その段階について以下のとおり述べている.問題の存在に気づくことに始まり,問題の重要性,緊急性の検討,自己の問題の解決能力の検討,援助要請の意思決定,援助者の選定,援助要請の方略という各段階を経る.また,援助要請は,この生起過程の各段階において自己が決定を重ねることにより行動として生じることであり,必ずしも容易に生起するものではないとしている.援助要請の意思決定の中心的課題は,援助要請に係わるコストと利益の大きさに関する査定であるとしている.要請コストとは,援助要請して生じるコストであり,非要請コストとは,援助要請しないことで生じるコストである.被援助利益とは,援助を受けることの利益であり,非要請利益とは,援助要請を受けないことの利益である.援助要請が生起するのは,要請コストが被援助利益よりも小さく,非要請コストが非要請利益よりも大きいときであり,援助要請が生起しないのは要請コストが被援助利益よりも大きく,非要請コストが非要請利益よりも小さいときである.

援助要請が生起されなければ,問題は未解決のままになり,看護学実習においては学習の困難さや,患者の安全・安楽を阻害してしまい不利益につながる(大坊ら,1997).

以上のことから,看護大学生の援助要請を客観的に査定し,自己の援助要請を確認できる尺度が必要となる.

先行研究を検討した結果,これまでわが国で援助要請について開発されてきた尺度は,大学生の援助要請自立型,援助要請過剰型,援助要請回避型という3つの援助要請スタイルを測定する尺度(永井,2013)や看護師の心理専門職に対する援助要請意図を測定する尺度(大畠,2010),大学生の友人に対する援助要請意識を測定する尺度(芥川・兒玉,2009),大学生の援助要請促進を測定する尺度(沖原・山本,2013)であった.これらのわが国で開発された尺度は,大学生や看護師の援助要請であり,看護学実習における看護大学生の援助要請に焦点を当てて把握する尺度は開発されていない.

これらを本研究の背景とし,看護大学生の実習指導者に対する援助要請の促進要因(五十嵐・佐藤,2019)を質的帰納的に解明した成果を基盤に看護大学生の臨地実習指導者に対する援助要請に関する尺度(以下,援助要請尺度)を開発し,妥当性と信頼性を検証することを本研究の目的とした.

Ⅱ. 用語の定義

臨地実習指導者(clinical instructors):看護師等養成所の運営に関する指導ガイドライン(看護行政研究会,2021)に規定されている「実習指導者となることのできる者は,担当する領域について相当の学識経験を有し,かつ,原則として厚生労働省若しくは都道府県が実施している実習指導者講習会又はこれに準ずるものが実施した研修を受けた者であること」を前提とし,看護系大学の実習施設で実習指導を任命され,病棟に配置された看護師とした.

Ⅲ. 研究方法

1. 研究対象者の条件

看護学実習は3年制の専門学校などでも行われるが,研究対象者は,看護系大学に在籍する3,4年次生とした.日本看護協会(2020)は,看護師基礎教育の4年制化の推進をしていること,また,大学による看護師養成機関が280養成機関を超え(文部科学省,2020),看護系大学における教育が広がっているという背景から,看護大学生を対象に援助要請に関する判断について探求する必要があると考えた.外国籍,留年経験者,浪人経験者および社会人経験者は,現役生に比べ,援助要請に影響するさまざまな経験をしていると考えられるため,質問項目に組み入れ,該当者は分析から除外した.

2. 質問項目の作成,尺度化

本研究の質問項目は,「看護大学生の実習指導者に対する援助要請の促進要因」(五十嵐・佐藤,2019)の質的帰納的研究結果を基盤とし,産出した全ての7カテゴリ,19サブカテゴリを網羅するよう1サブカテゴリから1つ以上の質問項目を作成した.また,質問項目の内容は,できるだけ単一の内容を問うように作成し,看護大学生の立場に立ち,平易な表現,具体的な表現,簡潔な表現を用い,40質問項目を作成した.リッカート法5件法を採用し,選択肢の表現は,現実の程度量表現用語用い(織田,1970),「そう思う(5点)」,「少しそう思う(4点)」,「どちらともいえない(3点)」,「あまりそう思わない(2点)」,「そう思わない(1点)」とした.作成した質問項目について,看護師免許を持つ看護学研究者22名,尺度活用者と同じ母集団の看護大学生10名から質問内容の妥当性,質問表現と質問項目数の適切性,測定用具として使いやすさなどへの意見や助言を得た.

3. 第1調査及び第2調査の構成

両調査とも無記名自記式で実施した.第1調査は,尺度の構成概念妥当性,基準関連妥当性,内的整合性の検討を目的とし,郵送法により実施した.調査方法として,研究対象者の探索は,全国の看護系大学を記載する一般社団法人日本看護系大学協議会会員校一覧から国立大学,公立大学,私立大学それぞれ全体の25%程度を抽出の目安とし,国立大学11大学,公立大学11大学,私立大学28大学の計50大学を無作為抽出した.対象とした50大学の教育管理責任者に依頼状,質問紙などを郵送し,研究協力を依頼した.承諾を得た大学の教育管理責任者に対して,研究対象者の条件を満たす2,120名の看護大学生への配布を依頼し,同封の返信用封筒に入れて投函することをもって同意とみなすことを明記した.調査期間は,2020年2月3日から3月31日までであった.測定用具は,対象者の属性に関する質問と援助要請尺度,援助要請スタイル尺度(永井,2013)を用いた.援助要請スタイル尺度(永井,2013)は,困難を抱えても自身での問題解決を試み,どうしても解決が困難な場合に援助を要請する傾向である援助要請自立型,問題が深刻ではなく,本来なら自分自身で取り組むことが可能でも,安易に援助を要請する傾向である援助要請過剰型,問題の程度にかかわらず,一貫して援助を要請しない傾向である援助要請回避型のスタイルの違いを測定する尺度で信頼性と妥当性が確保されている.各5質問項目の計15質問項目,リッカート法7件法である.尺度の使用にあたって開発者から使用許諾を得,基準関連妥当性を検証するために使用した.対象者の属性として性別,年齢,学年,国籍,留年経験の有無,浪人経験の有無,社会人経験の有無,所属大学の設置主体,スクールカウンセラーへの相談経験の有無,医療施設でのアルバイト経験の有無,3年次,4年次に経験した実習を尋ねた.社会的スキルは「他者から報酬を受けるやり方で行動し,かつ,罰や無視を受けないように行動する能力」であり,援助の要請者が自ら望む援助を得るために獲得しておかなければならないものであるとされている(大坊ら,1997).スクールカウンセラーへの相談経験,医療施設でのアルバイト経験によって社会的スキルの影響する可能性があると考え,質問項目に追加した.分析は,援助要請尺度および対象者の属性について記述統計値(度数,範囲,平均,標準偏差)を算出した.項目分析として,援助要請尺度の各質問項目の天井効果と床効果の確認により,質問項目を選定した.最尤法によるプロマックス回転を用いた探索的因子分析を行い,固有値1以上の因子を抽出した.因子負荷量.3以上を示さなかった質問項目を削除した.探索的因子分析で得られた結果をもとに,共分散構造分析を用いた確証的因子分析を行い,Chi‐square value;(CMIN),Goodness of Fit Index(GFI),Adjusted Good of Fit Index(AGFI),Comparative Fit Index(CFI),Root Mean Square Error of Approximation(RMSEA),Akaike Information Criterion(AIC)を算出した.マン・ホイットニーのU検定,クラスカル・ウォリス検定を用い,援助要請尺度と対象者の属性(性別,年齢,学年,所属大学の設置主体,スクールカウンセラーへの相談経験の有無,医療施設でのアルバイト経験の有無,3年次,4年次に経験した実習)の関係を深索した.援助要請尺度の尺度全体,下位因子のクロンバックα信頼性係数,Item-Total(項目-全体)相関分析,項目間相関係数の算出した.援助要請尺度と援助要請スタイル尺度との関係性を検討するため,Pearsonの積率相関係数を算出した.IBM SPSS Statistics 27,IBM SPSS Amos 27を用いて分析を行った.有意水準を5%とした.

第2調査(再テスト法)は,尺度の再現性の検討を目的とし郵送法により実施した.測定用具は,対象者の属性に関する質問と援助要請尺度を用いた.調査方法として,研究対象者は共同研究者が所属する2大学に依頼し,協力を得た.2大学の教育管理責任者に依頼状,承諾書,意向調査書,倫理審査通知書,研究計画書,返信用封筒を用いて研究協力を依頼した.結果,2大学から研究協力の承諾を得た.2大学の教育管理責任者に対して,研究対象者の条件を満たす375名の看護大学生への説明文,質問紙(1回目),質問紙(2回目),返信用封筒の配布を依頼した.質問紙の表紙には,「2回目の回答は,1回目の回答から2週間あけ回答すること」,「質問紙に回答し,同封の返信用封筒に入れて投函することをもって同意とみなすこと」を明記した.調査期間は2020年2月3日から3月31日までであった.IBM SPSS Statistics 27,IBM SPSS Amos 27を用いて分析を行った.1回目と2回目の援助要請尺度の尺度全体,第1因子「非要請コストの自覚」,第2因子「被援助利益の自覚」の級内相関係数を算出した.

4. 倫理的配慮

研究参加に関する対象者の自己決定の権利,プライバシーを保障するため,返信用封筒を用いた無記名個別投函による回収とし,対象者の返信をもって同意とみなすことを明記した.研究協力は自由意志によるもので辞退しても対象者が不利益を受けることは一切ないことを明記した.

本研究は,国際医療福祉大学倫理審査委員会の承認(承認番号:19-Ig-100)を得て実施した.

Ⅳ. 結果

1. 第1調査

11都道府県17大学(国立大学1校,公立大学1校,私立大学15校)の看護大学生2,120名に質問紙を配布した結果,回収数は960名(回収率45.2%)であり,このうち外国籍(5名),留年経験者(42名),浪人経験者(23名),社会人経験者(11名)と重複回答,無回答を除外し,全質問項目に回答のあった808名を有効回答(有効回答率38.1%)とした.

対象者の属性(表1)の結果,回答者の性別は,男性78名(9.7%)女性730名(90.3%)であった.年齢は,20歳31名(3.8%),21歳351名(43.4%),22歳426名(52.7%)であった.スクールカウンセラーへの相談経験の有無は,有51名(6.3%),無757名(93.7%)であった.医療施設でのアルバイト経験の有無は,有57名(7.1%),無751名(92.9%)であった.

表1  第1調査,第2調査の対象者の属性
第1調査
N = 808
第2調査
N = 116
n % n %
性別
男性 78 9.7 0 0
女性 730 90.3 116 100
年齢
20歳 31 3.8 7 6
21歳 351 43.4 54 46.6
22歳 426 52.7 55 47.4
学年
3学年 336 41.6 54 46.6
4学年 472 58.4 62 53.4
所属大学の設置主体
国立大学 21 2.6 0 0
公立大学 7 0.9 0 0
私立大学 780 96.5 116 100
スクールカウンセラーへの相談経験の有無
51 6.3 16 13.8
757 93.7 100 86.2
医療施設でのアルバイト経験の有無
57 7.1 12 10.3
751 92.9 104 89.7
3年次,4年次に経験した実習
成人看護学実習 805 99.6 116 100
老年看護学実習 766 94.8 112 96.6
小児看護学実習 770 95.3 107 92.2
母性看護学実習 758 93.8 116 100
精神看護学実習 770 95.3 113 97.4
在宅看護学実習 676 83.7 89 76.7
地域看護学実習 250 30.9 29 25
その他の実習 72 8.9 11 9.5

項目分析(表2)の結果,各質問項目の度数分布は,全質問項目が1から5点の範囲に分布していた.1質問項目あたりの平均得点と標準偏差を用い,天井効果,床効果の確認をした.その結果,28質問項目が天井効果を示したため削除し,12質問項目を探索的因子分析の対象とした.

表2  看護大学生の臨地実習指導者に対する援助要請を表すカテゴリ,サブカテゴリからの質問項目と項目得点
カテゴリ サブカテゴリ 質問項目 平均値 標準偏差 天井効果 床効果
知識と体験から自信があるとき 学修の積み重ねがある 1.患者の疾病や看護について,自分で学習したが,それでも疑問が残るとき 4.07 0.91 4.99 3.16
2.実習指導者に聞きたいことを自分がうまく説明できると思うとき 3.41 1.06 4.47 2.35
実習や病院に慣れ,指導者のことも分かる 3.病院や実習に慣れ,実習指導者との関係性ができてきたと思うとき 3.74 0.99 4.73 2.74
自分から行動しないと変わらないと思うとき 分からないことは聞く機会を逃さない 4.今,聞いておかないと,後では聞けないと思うとき 4.12 0.86 4.98 3.26
5.聞いておかなければ,実習の目標が達成できないと思うとき 4.07 0.91 4.98 3.16
6.自分が主体的に取り組まなければ,課題が解決しないと思うとき 4.10 0.85 4.95 3.25
7.自分一人の努力では実習に関する課題が達成できないと思うとき 4.10 0.84 4.94 3.25
8.考えをまとめるための実習指導者の客観的な意見がほしいと思うとき 3.87 0.99 4.85 2.88
患者に影響すると感じるとき 患者に対する不利益の回避 9.相談をしないことで,患者に不利益を与えてしまうかもしれないと思うとき 4.32 0.86 5.18 3.45
患者の状態悪化が想定される 10.患者にとって重大な事態であると思うとき 4.68 0.63 5.31 4.05
11.患者にとって緊急性がある状態と思うとき 4.74 0.59 5.33 4.15
患者が優先と考える 12.自分の負担よりも患者の利益を優先させることが重要だと思うとき 4.39 0.81 5.20 3.59
13.患者の全体像の把握ができていないと思うとき 4.01 0.87 4.88 3.14
実習指導者から接近してきてくれる 実習指導者から気にかけ,声をかけてくれる 14.実習指導者から積極的に声を掛けてきてくれると思うとき 4.18 0.90 5.08 3.28
15.実習指導者から「分からないところはないか」と聞いてくれるとき 4.23 0.93 5.16 3.30
実習指導者が話しを聞いてくれる 16.実習指導者が学生の考え方・価値観を大切にしようとしてくれると思うとき 4.31 0.83 5.14 3.48
実習指導者が受け入れてくれている 17.実習指導者が個別指導の時間をとってくれるとき 4.30 0.85 5.14 3.45
18.前向きな気持ちになるように実習指導者は指導をしてくれると思うとき 4.31 0.83 5.15 3.48
実習指導者は問題解決能力がある 実習指導者が答えに導いてくれている 19.実習指導者が答えに導く指導をしてくれると思うとき 4.32 0.80 5.12 3.52
20.実習指導者はあなたが主体的に問題が解決できるように指導してくれると思うとき 4.25 0.83 5.08 3.43
21.実習指導者は問題解決方法を知っていると思うとき 4.04 0.91 4.94 3.13
22.実習指導者が質問の意図を把握して指導してくれると思うとき 4.26 0.80 5.06 3.46
実習指導者の学生に合わせた助言 23.実習指導者が分かりやすく指導をしてくれると思うとき 4.33 0.78 5.12 3.55
24.あなたの理解度・受容度に応じた指導をしてくれると思うとき 4.34 0.78 5.12 3.56
25.実習指導者があなたの能力に合わせた質問をしてくれると思うとき 4.21 0.85 5.06 3.36
実習指導者は幅広い知識がある 26.実習指導者が根拠を基に教えてくれると思うとき 4.35 0.79 5.15 3.56
実習指導者はタイムリーに情報をくれる 27.実習指導者が良いタイミングで指導をしてくれると思うとき 4.25 0.84 5.08 3.41
実習指導者から尊重されている プライバシーを守ってくれる 28.あなたが質問することを実習指導者が推奨していると思うとき 4.04 0.92 4.97 3.12
29.学生の専用の控室があるとき 3.66 1.13 4.79 2.53
実習指導者は穏やかな表情で安心感がある 30.質問すれば実習指導者は手を止めて聞いてくれると思うとき 4.15 0.96 5.11 3.20
31.実習指導者が良いところは褒めてくれると思うとき 4.21 0.94 5.15 3.27
実習指導者が学生の立場になって考えてくれると感じる 32.実習指導者があなたの立場に立った発言をしてくれると思うとき 4.28 0.85 5.13 3.43
33.実習指導者が共に考えてくれると思うとき 4.43 0.79 5.22 3.64
実習指導者が褒めてくれる 34.学生に対して実習指導者がねぎらいの言葉をかけてくれるとき 4.25 0.92 5.17 3.33
35.実習指導者はあなたが実施したことに対してフィードバックしてくれていると思うとき 4.31 0.81 5.13 3.50
実習指導者から優しくされている 36.実習指導者が優しく指導をしてくれると思うとき 4.31 0.88 5.19 3.43
実習環境が良い 看護実践しやすい雰囲気を感じる 37.病棟スタッフと実習指導者との連携がとれていると思うとき 4.19 0.90 5.09 3.29
38.実習指導者が学生担当として専属で指導してくれるとき 4.14 0.92 5.07 3.22
39.状況報告の時間をつくってくれるとき 4.27 0.84 5.11 3.43
40.実習指導者はあなたが落ち着いて指導を受けられるように配慮してくれると思うとき 4.33 0.83 5.16 3.50

※カテゴリーとサブカテゴリーは「看護大学生の実習指導者に対する援助要請の促進要因(五十嵐・佐藤,2019)」の研究によるものである

構成概念妥当性および内的整合性(表3)(図1)の結果,12質問項目を探索的因子分析した結果,因子負荷量が低い2質問項目を削除し,10質問項目となり,3因子が抽出された.第1因子は,4質問項目から構成され,援助要請しないことで生じるコストの自覚に関する内容であり,「非要請コストの自覚」と命名した.第2因子は,4質問項目から構成され,援助を受けることの利益の自覚に関する内容であり,「被援助利益の自覚」と命名した.第3因子は,2質問項目から構成され,援助要請の方略が見つかるときの内容であり,「援助要請の方略の存在」と命名した.探索的因子分析で得られた10質問項目のうち,クロンバックα信頼性係数が.649であった第3因子「援助要請の方略の存在」は内的整合性が低く信頼性が十分ではないことから除外し,2因子8質問項目で確証的因子分析を行った.尺度の各因子のクロンバックα信頼性係数は,第1因子「非要請コストの自覚」(α = .846),第2因子「被援助利益の自覚」(α = .702),8質問項目のクロンバックα信頼性係数は(α = .836)であった.尺度のItem-Total(項目-全体)相関分析は,第1因子「非要請コストの自覚」(r = .595~.702),第2因子「被援助利益の自覚」(r = .708~.763)であった.確証的因子分析による適合度は,CMIN = .000,GFI = .983,AGFI = .966,CFI = .983,RMSEA = .051,AIC = 92.028であった.援助要請尺度の尺度全体と対象者の属性の関係をマン・ホイットニーのU検定,クラスカル・ウォリス検定により深索した結果,性別(p = .970),年齢(p = .664),学年(p = .965),所属大学の設置主体(p = .259),スクールカウンセラーへの相談経験の有無(p = .903),医療施設でのアルバイト経験の有無(p = .992),3年次,4年次に経験した実習(成人看護学実習(p = .786),老年看護学実習(p = .195),小児看護学実習(p = 0.37),母性看護学実習(p = .729),精神看護学実習(p = .950),在宅看護学実習(p = .092),地域看護学実習(p = .784)で有意差はなかった.

表3  看護大学生の臨地実習指導者に対する援助要請に関する尺度の探索的因子分析
質問項目 第1因子 第2因子 第3因子 I-T相関
第1因子:非要請コストの自覚(4項目)α = .846
6.自分が主体的に取り組まなければ,課題が解決しないと思うとき .904 .739**
5.聞いておかなければ,実習の目標が達成できないと思うとき .804 .732**
7.自分一人の努力では実習に関する課題が達成できないと思うとき .677 .763**
4.今,聞いておかないと,後では聞けないと思うとき .544 .708**
第2因子:被援助利益の自覚(4項目)α = .702
21.実習指導者は問題解決方法を知っていると思うとき .702 .608**
13.患者の全体像の把握ができていないと思うとき .564 .629**
28.あなたが質問することを実習指導者が推奨していると思うとき .557 .702**
8.考えをまとめるための実習指導者の客観的な意見がほしいと思うとき .549 .595**
第3因子:援助要請の方略の存在(2項目)α = .649
3.病院や実習に慣れ,実習指導者との関係性ができてきたと思うとき .722
2.実習指導者に聞きたいことを自分がうまく説明できると思うとき .648

因子抽出法:最尤法,プロマックス回転

因子間相関:Pearsonの積率相関係数の算出

** p < 0.01

2因子8質問項目(第1因子~第2因子):α = .836

3因子10質問項目(第1因子~第3因子):α = .822

図1 

看護大学生の臨地実習指導者に対する援助要請に関する尺度の確証的因子分析

基準関連妥当性(表4)の結果,援助要請尺度と援助要請スタイル尺度をPearsonの積率相関係数で分析した結果,援助要請尺度の尺度全体と援助要請スタイル尺度の回避型(r = –.257),自立型(r = .311),第1因子「非要請コストの自覚」と回避型(r = –.229),自立型(r = .322),第2因子「被援助利益の自覚」と回避型(r = –.225),自立型(r = .223)であった.

表4  看護大学生の臨地実習指導者に対する援助要請に関する尺度と援助要請スタイル尺度の相関
援助要請スタイル尺度 看護大学生の臨地実習指導者に対する援助要請に関する尺度
第1因子 第2因子 尺度全体
過剰型 .094** .174** .151**
回避型 –.229** –.225** –.257**
自立型 .322** .223** .311**
尺度全体 .108** .119** .129**

Pearsonの積率相関係数

** p < 0.01

援助要請自立型:困難を抱えても自身での問題解決を試み,どうしても解決が困難な場合に援助を要請する傾向

援助要請過剰型:問題が深刻でなく,本来なら自分自身で取り組むことが可能でも,安易に援助を要請する傾向

援助要請回避型:問題の程度にかかわらず,一貫して援助を要請しない傾向

2. 第2調査

2大学の看護大学生375名に質問紙を配布した結果,回収数は121部(回収率32.2%)であり,このうち有効回答116名(有効回答率30.9%)とした.

対象者の属性(表1)の結果,回答者の性別は,女性116名(100%)であった.年齢は,20歳7名(6%),21歳54名(46.6%),22歳55名(47.4%)であった.学年は,3学年54名(46.6%),4学年62名(53.4%)であった.所属大学の設置主体は,私立大学116名(100%)であった.スクールカウンセラーへの相談経験の有無は,有16名(13.8%),無100名(86.2%)であった.医療施設でのアルバイト経験の有無は,有12名(10.3%),無104名(89.7%)であった.3年次,4年次に経験した実習は,成人看護学実習116名(100%),老年看護学実習112名(96.6%),小児看護学実習107名(92.2%),母性看護学実習116名(100%),精神看護学実習113名(97.4%),在宅看護学実習89名(76.7%),地域看護学実習29名(25%),その他の実習11名(9.5%)であった.

再現性(表5)の結果,1回目と2回目の援助要請尺度の級内相関係数は尺度全体(r = .860),第1因子「非要請コストの自覚」(r = .823),第2因子「被援助利益の自覚」(r = .781)であった.

表5  看護大学生の臨地実習指導者に対する援助要請に関する尺度の級内相関係数
95%信頼区間
相関係数 下限 上限
第1因子 .823 .754 .874
第2因子 .781 .699 .843
尺度全体 .860 .803 .901

Ⅴ. 考察

1. 援助要請の意思決定尺度の構成要素

看護大学生の臨地実習指導者に対する援助要請を構成する2因子として,「非要請コストの自覚」と「被援助利益の自覚」が抽出された.非要請コストとは,重要な問題,緊急な問題を未解決のままにしておくことがもたらす犠牲や損失,困難さのことであり,被援助利益とは,問題が解決されるなどのような,援助を要請することによって得る肯定的な結果のことである(大坊ら,1997).非要請コスト,被援助利益は大きいほど援助要請しやすくなる(大坊ら,1997).

本研究で得られた「非要請コストの自覚」と「被援助利益の自覚」の2因子は,大坊ら(1997)が示した援助要請の生起過程(問題の存在に気づく,援助要請の意思決定,援助者の選定,援助要請の方略)のすべての過程ではなく,コストと利益に関して査定する援助要請の意思決定の段階であることから,本尺度を看護大学生の臨地実習指導者に対する援助要請の意思決定尺度(以下,援助要請の意思決定尺度)と名称を修正した.本尺度は,看護大学生の実習指導者に対する援助要請の意思決定を評価できる尺度であることが考えられた.

2. 援助要請の意思決定尺度の妥当性と信頼性

1) 妥当性

内容的妥当性については,看護師免許を持つ看護学研究者22名,尺度活用者と同じ母集団の看護大学生10名から質問内容の妥当性,質問表現と質問項目数の適切性,尺度として使いやすさなどへの意見や助言を得たことにより,回答が可能である尺度案に精度を上げた.本尺度案は,多くの質問項目から天井効果が確認されたため,「看護大学生の実習指導者に対する援助要請の促進要因」(五十嵐・佐藤,2019)の産出した7カテゴリ,19サブカテゴリを網羅できていなかったが,探索的因子分析により,2因子8質問項目が抽出できた.

構成概念妥当性については,確証的因子分析の結果,2因子8質問項目は,RMSEAが.1未満であり,GFI,AGFI,CFIが.95以上であることから,尺度の質問項目の適合度が許容範囲であると判断した.

基準関連妥当性については,援助要請の意思決定尺度と援助要請スタイル尺度の尺度全体と各因子をPearsonの積率相関係数で分析した結果,援助要請の意思決定尺度全体,第1因子「非要請コストの自覚」,第2因子「被援助利益の自覚」と援助要請スタイル尺度の回避型との間には弱い負の相関が認められた.また,援助要請の意思決定尺度の尺度全体,第1因子「非要請コストの自覚」,第2因子「被援助利益の自覚」と援助要請スタイル尺度の自立型との間には弱い正の相関が認められたが,十分な基準関連妥当性の確保には至っていないと考えられる.援助要請スタイル尺度は援助要請者自身を測定する尺度であるが,援助要請の意思決定尺度は援助要請者である看護大学生自身だけではなく,臨地実習指導者(援助者)を含めた援助要請の生起のしやすさを査定しているため,弱い相関にとどまったと考えられる.本尺度は援助要請をする意思決定を測定しているため,一貫して援助を要請しない傾向の回避型とは負の相関,問題解決を試みる傾向の自立型や過剰型とは正の相関が出たと考えられる.

援助要請とスクールカウンセラーへの相談経験の有無,医療施設でのアルバイト経験の有無の有意差が出ると考えたが,本尺度は援助要請の生起過程の段階で援助要請の方略ではなく,援助要請の意思決定の段階であるため,有意差がなかったと考えられる.

2) 信頼性

内的整合性については,援助要請の意思決定尺度のItem-Total(項目-全体)相関分析は,8質問項目の中に相関係数が.4以下となる尺度の一貫性を損なう質問項目はみられなかった.援助要請の意思決定尺度のクロンバックα信頼性係数は,信頼性の基準の.7以上であることから尺度全体,下位尺度ともに内的整合性による信頼性を確保していると考えられる.

再現性については,第2調査による1回目と2回目の援助要請の意思決定尺度の級内相関係数は,信頼性係数の条件の.7以上であることから尺度全体,下位尺度ともに再現性による信頼性を確保していることが考えられる.第2調査によるデータは,女性,私立大学の割合が100%であったが,第1調査では尺度の総得点,各因子の得点ともに,性別間および所属大学の設置主体間で得点に有意差は認められなかったことより,再現性を計測するデータの信頼性を損なう影響はないと考えられる.

3. 援助要請の意思決定尺度の活用

本研究で開発した援助要請の意思決定尺度は,看護大学生の実習指導者に対する援助要請の意思決定を評価するために活用する尺度である.測定結果は,自己評価後に質問項目の得点に着目することにより,低い評価の項目や得点の傾向を確認し,看護大学生は自己の問題の明確化や目標の設定ができる.また,臨床実習指導者に看護学実習開始前に情報を提供することにより,看護大学生の評価結果を踏まえた看護大学生とのコミュニケーション,看護技術における指導,実習に臨む態度に関する面接指導,学生カンファレンス指導の方法などを検討できる.第1因子である「非要請コストの自覚」が低値であれば,危険予知訓練(KYT)やヒヤリ・ハット事例を用いた分析学修などを行い,第2因子である「被援助利益の自覚」が低値であれば実習オリエンテーションで看護学実習における看護大学生の援助要請成功体験や援助要請することのメリットを共有することなどにより援助要請の生起がしやすくなると考えられる.

4. 本研究の限界と今後の課題

本研究は,外国籍,留年経験者,浪人経験者および社会人経験者である研究対象者を分析から除外した.したがって,本研究で開発された尺度は,日本国籍の現役生に対して使用する尺度であり,すべての看護大学生に使用できる尺度ではないことが本研究の限界である.したがって,外国籍,留年経験者,浪人経験者および社会人経験者が活用できる尺度としての検証を行うことが今後の課題である.また,援助要請スタイル尺度との弱い相関から基準関連妥当性を明確に示すことができなかったのが本研究の限界であり,他の質問項目との比較検討する必要があることが今後の課題である.

援助要請尺度案40質問項目のうち天井効果により28質問項目を削除し,探索的因子分析により2質問項目を削除,内的整合性の確認により第3因子「援助要請の方略の存在」の2質問項目を削除したことにより,2因子8質問項目となった.これらは,質問項目作成の基盤とした「看護大学生の実習指導者に対する援助要請の促進要因」(五十嵐・佐藤,2019)のすべてのサブカテゴリが網羅されていない.しかしながら,援助要請の生起過程は当事者自身の問題評価とそれを援助する他者の存在という要素があって生じるものであり,看護大学生自身が援助要請をするに値する問題と判断し,援助要請するかと意思決定する重要な過程を評価するものといえる.

Ⅵ. 結論

本研究は,援助要請に関連した尺度の開発を目指したが,項目分析と探索的因子分析により,「非要請コストの自覚」と「被援助利益の自覚」の2因子8質問項目を抽出された内容に基づき,尺度名を「看護大学生の臨地実習指導者に対する援助要請の意思決定尺度」に修正した.

本尺度の妥当性は,確証的因子分析により,モデルの適合度を確認し,構成概念妥当性が認められた.

本尺度の信頼性は,Item-Total(項目-全体)相関分析,尺度全体と各因子におけるクロンバックα信頼性係数から内的整合性が認められた.また,再テストの級内相関により再現性を確保していること考えられる.

以上により,本尺度の一定の妥当性,信頼性が確保されていることが確認できた.

謝辞:本研究はJSPS科研費JP20K19006の助成を受けたものである.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:TIは研究の着想およびデザインの選択,データの収集・解析・解釈,草稿の作成に貢献;MAは研究の着想およびデザインの選択,データの収集・解析・解釈,原稿への示唆および研究プロセス全体への助言に貢献;MSはデータの収集・解析・解釈,原稿への示唆に貢献;すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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