Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Literature Review on Insomnia in Patients with Coronary Artery Disease
Yukari TairaMidori Kamizato
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2021 Volume 41 Pages 382-390

Details
Abstract

目的:冠動脈疾患患者の不眠に関する研究動向を把握する.

方法:医学中央雑誌,PubMed,CINAHLを用いて2020年7月までに登録されている文献を検索した.

結果:文献は29件が抽出され,量的研究は27件,質的研究は2件であった.そのうち介入研究は6件,看護師による研究は14件.主観的な尺度を用いた有病率と関連要因の検討,客観的な方法を用いて睡眠パターン分析が行われていた.不眠は21~69%に見られ,女性・うつ等が関連し,患者は胸痛により眠気を消失する等の経験から安心感を得る等の工夫をしていた.看護支援は入院中の患者を対象とした研究が多く,リラクゼーションを活用した支援や教育が検討されていた.

結論:不眠に関連する要因,疾患特有の影響を考慮した支援を明らかにする必要がある.そのため,冠動脈疾患患者の不眠の定義を明確にし,退院後に必要な支援内容を検討することが必要である.

Translated Abstract

Objective: This study aimed to understand the trend of research on insomnia in patients with coronary artery disease.

Methods: We searched the literature registered in July 2020 using the web version of the Ichushi, PubMed, and CINAHL databases.

Results: A total of 31 documents were extracted; 29 and 2 were quantitative and qualitative studies, respectively. Of these, 6 were intervention studies; 14, nurse studies. Prevalence and related factors were examined using a subjective scale and sleep pattern analysis was performed using an objective method. Insomnia was seen in 21%–69% of patients and it was related to women and depression. The patients were devised to practice a sense of security from the experience of losing sleep because of chest pain. Nursing support has been mostly studied for hospitalized patients and support and education utilizing relaxation have been considered.

Conclusion: There is a need to explore specific support that considers factors related to insomnia and disease-specific effects. Therefore, it is necessary to clarify the definition of insomnia in patients with coronary artery disease and consider the steps to provide the necessary support after their discharge.

Ⅰ. 緒言

冠動脈疾患(coronary artery disease以下,CAD)は,急性心筋梗塞や不安定狭心症といった急性期からその後の慢性期および狭心症を含む一連の疾患である.CADを発症後は病態の進行を予防するための治療や生活が必要であり,その生活の一部である睡眠が障害されると様々な悪影響が生じる(井谷・兼坂,2015).睡眠障害は,不眠や過眠,睡眠関連呼吸障害群,ナルコレプシーなどを含む(岩下・伊藤,2018)広い概念である.そのうち,不眠は睡眠の質と量の両方を損なうことが問題とされており,CADの二次予防において重要である(Matsumoto & Kasai, 2017Edéll-Gustafsson & Hetta, 2001).CAD患者における不眠の有病率は61.1%と高く(Almamari et al., 2019),不眠に対する具体的な支援が必要とされている.CADの発症は組織の虚血・血栓が形成されやすい早朝の“魔の時間帯”に起きやすく(前村,2016),胸痛などの症状が睡眠を障害することが指摘されている(Siebmanns et al., 2020).これらから,不眠が生じる背景には様々な要因が関連していることが予測される.

そこで本研究は,CADを発症した患者の不眠に関連する国内外の文献を概観することを通して研究動向を把握し,CAD患者の不眠に対する看護支援への示唆を得ることを目的とした.

Ⅱ. 研究方法

文献は,医学中央雑誌,PubMed,CINAHLを用いて2020年7月時点までに登録されている文献を対象にした.キーワードと検索式は,国内文献は「冠動脈疾患OR急性冠症候群OR心筋梗塞」AND「不眠OR睡眠障害OR睡眠不足」とした.英語文献は“coronary artery disease OR coronary heart disease OR acute coronary syndrome OR myocardial infarction”AND“insomnia OR sleep disorders OR sleep disturbance OR poor sleep OR sleep loss”とした.

文献の選定条件はCADを発症した患者を対象としている,睡眠がCADによって影響を受けることを前提としている,日本語もしくは英語で書かれた文献とした.病態メカニズムに関する研究,睡眠関連呼吸障害を対象とする研究,入院による環境変化がもたらす影響のみを対象とした研究は除外とした.

抽出された文献は主に発表年,調査された国,研究デザイン,不眠の評価方法(時期・測定方法),介入方法,調査結果について整理した.その際,研究内容の意図を損なわないように留意し,文献の出典を明記した.

Ⅲ. 結果

1. 文献の概要

最初に抽出された文献は2,293件であり,選定条件に沿って除外し,ハンドサーチの2件を追加して最終的に29件とした(図1).文献の概要を表1表2に示す.発表年別では,2010年以降が22件と最近の10年間で増加傾向であった.すべて国外の文献であり,研究方法別にみると,量的研究は27件,質的研究は2件であった.観察研究は23件(表1),介入研究は6件であり(表2),看護師による研究は14件であった.研究対象者の診断名は主にCAD 13件,心筋梗塞7件,急性冠症候群5件であった(表1表2).先行研究において(El-Mokadem, 2003),睡眠障害は「不快感を引き起こしたり,個人の望ましいライフスタイルを妨害する睡眠の障害と患者が認識すること」(Carpenito, 1995)と定義されていた.

図1 

冠動脈疾患患者の不眠に関する文献選定のフローチャート

表1  冠動脈疾患患者の不眠に関する観察研究の概要
筆頭者
発表年/国
調査内容 デザイン 対象者 睡眠の評価方法
診断名 数(女性%) 平均年齢(SD) 測定方法 評価時の状況 評価時期
Kjellsdotter, A.* 2020/スウェーデン 自己申告による睡眠不足と眠気の悪循環行動,過覚醒行動特性,タイプD気質との関連を調査 量的/横断 CAD 859(36.4) 63.1(9.9) USIの一部,VCS-8,H-scale 外来 不明
Almamari, R.S.S.* 2019/オマーン オマーンにある特定病院の外来に通院する患者の睡眠の質とうつ病の有病率を調査 量的/横断 MI 180(31.7) 62.0(11.3) PSQI 外来 発症から1ヵ月以上
Juskiene, A. 2018/リトアニア 閉塞性睡眠時無呼吸症候群の有無に関わらず,タイプD気質の特徴と睡眠の質との関連を調査 量的/横断 CAD 879(25.0) 7.8(9.0) PSG,PSQI 外来 心臓リハビリ参加3日以内
Da Costa, D. 2017/カナダ 回復初期にある患者の不眠有病率,心筋梗塞後の不眠症に関連する因子を調査 量的/横断 MI 209(27.3) 64.8(11.7) ISI 外来 発症後4~6週
Yilmaz, S. 2016/トルコ 選択的CABG術後に狭心症の重症度が睡眠の質に与える影響 量的/横断 MI 52(30.7) 59.4(7.7) 
59.7(7.7)
PSQI 外来 手術後1ヵ月
Le Grande, M. R. 2016/豪州 睡眠障害の有病率を12ヵ月にわたって評価し,治療のアドヒアランス,自己効力感,不安,抑うつとの関係を評価 量的/縦断 AMI 134(16.0) 59.9(9.3) BDIの一部 入院から外来 発症後6週,4ヵ月,12ヵ月
Szymański, F. M. 2014/ポーランド 睡眠時間の臨床的特徴を調査.睡眠時間の全死因死亡率の上昇リスクとの関連 量的/縦断 MI 379(28.5) 59.4(10.6) 睡眠時間について電話インタビュー 入院から外来 退院前,3ヵ月,発症後3年
Alcántara, C. 2014/米国 発症1か月後における短時間睡眠を報告した患者と1日7時間以上の睡眠を報告した患者の1年後の再発・死亡のリスクを比較 量的/縦断 ACS 742(33.9) 64.6(11.0) 
62.3(11.6)
PSQI 外来 発症後1ヵ月
Fernandes, N. M. 2014/カナダ 睡眠障害の症状と心血管系の有害事象との関連 量的/縦断 CAD 388(不明) 66.0(11.0) 質問票(10項目の正誤) 外来 治療後1ヵ月,4年
Assari, S. 2013/イラン 患者の睡眠の質に及ぼす性と社会経済的特徴 量的/横断 CAD 717(35.0) 57.7(11.7) PSQI 外来 不明
Coryell, V. T. 2013/米国 患者における不眠の臨床的関係性 量的/横断 ACS 20(不明) 52.8(9.1) ISI,ESS,PSG 外来 退院後2~8週
Johansson, A.* 2013/スウェーデン 主観的に評価された睡眠とアクティグラフィーとの関連,睡眠の質を予測する因子 量的/横断 CAD 57(56.1) 男:64.3(9.3) 
女:63.1(7.9)
USI,ESS,睡眠日誌,アクティグラフィー 外来 不明

CABG:coronary artery bypass grafting,CAD:coronary artery disease,MI:myocardial infarction,AMI:acute myocardial infarction,ACS:acute coronary syndrome

尺度名略・検査名略:尺度名(Rang/A cut-off score)・検査名

USI:Uppsala Sleep Inventory(>3),VCS-8:Vicious Cycle of Sleeplessness Scale(0–32),H-scale:Hyperarousal Behavioral Trait Scale(0–78),PSQI:Pittsburgh Sleep Quality Index(0–21/≧6),PSG:Polysomnography,ISI:Insomnia Severity Index(0–28/≧10),BDI:Beck Depression Inventory(0–63),ESS:Epworth Sleepiness Scale(0–24/≧10–11)

* 看護師による研究

上段は心筋梗塞発症から時間経過が少ない患者群/下段は心筋梗塞発症から時間が経過した患者群

上段は睡眠時間が良好な患者群/下段は睡眠時間が不良な患者群

表1  つづき
筆頭者
発表年/国
調査内容 デザイン 対象者 睡眠の評価方法
診断名 数(女性%) 平均年齢(SD) 測定方法 評価時の状況 評価時期
Johansson, A.* 2012/スウェーデン 患者が睡眠を促進するために用いているセルフケア戦略 質的/内容分析 CAD 20(45) Range 
男:32~79 
女:40~70
インタビュー 外来 不明
Johansson, A.* 2011/スウェーデン 患者の不眠症,睡眠の質,睡眠効率,全般的な覚醒度,疾患別および健康関連QOLの男女差を一般集団と比較 量的/縦断 CAD 880(36.8) 男:63.1(10.0) 
女:63.2(9.7)
USI,ESS,VCS-8,H-scale 外来 基点(時期は不明),調査から1年後
Schiza, S. E. 2010/ギリシャ CCUを退室し,入院している患者の夜間の睡眠を評価し,疾患プロセスとの関連性を評価 量的/縦断 ACS 22(22.7) 58.0(12.0) PSG,ESS 入院から外来 発症後3日,1ヵ月,6ヵ月
Johansson, I. 2010/スウェーデン 発症後4ヵ月間の睡眠障害,疲労,不安,うつ病との関連 量的/縦断 MI 204(30) 64.0(10.0) KSQの一部 入院から外来 発症後1週間,
4ヵ月
Caska, C. M. 2009/米国 怒りの表現が患者の睡眠の質に与える影響 量的/横断 CAD 1020(18) 67.0(10.0) 
65.0(12.0)
PSQI,CHSの一部 外来 不明
Johansson, A.* 2007/スウェーデン 患者が退院後に認識している睡眠の休息,活動,健康への影響 質的/現象学 CAD 34(47) Range 
男:32~88 
女:40~77
インタビュー 外来 不明
BaHammam, A. 2006/サウジアラビア 周囲の環境因子に関係なく発症により引き起こされる可能性のある睡眠構造の変化 量的/縦断 AMI 20(10) 51.1(1.7) PSG 入院から外来 発症3日以内,
6ヵ月
Edéll-Gustafsson, U.* 2006/スウェーデン 安定した疾病状況にある男女に知覚された睡眠の質,不眠行動,熟練感,自尊心,抑うつ,QOL,および睡眠不足の影響 量的/横断 CCS 135(34.8) 62.4 USI,ESS,VCS-8,RSLS,BNSQの一部 外来 検査前
El-Mokadem* 2003/米国 発症6週間後における疲労,うつ,睡眠障害の関係 量的/縦断 MI 51(不明) 54.0 VAS 入院から外来 入院後3日,退院後2週,6週
Edéll-Gustafsson, U. M.* 2002/スウェーデン CABG予定患者の睡眠の質,認知不安,睡眠障害が健康,昼間の機能,生活の質に及ぼす影響 量的/横断 CAD 44(0) 61.3(5.4) USI,PSG 外来 手術前
Edéll-Gustafsson, U. M.* 2001/スウェーデン 治療1年後における睡眠の質と不安,抑うつ,精神生理学的な睡眠障害の症状,睡眠不足による日中の機能障害,QOLとの関連 量的/横断 CCS 92(23.9) 男:60.4(6.7) 
女:62.7(5.7)
USI 外来 治療1年後

QOL:Quality of Life,CCU:coronary care unit,CABG:coronary artery bypass grafting,CAD:coronary artery disease,ACS:acute coronary syndrome,MI:myocardial infarction,AMI:acute myocardial infarction,CCS:chronic coronary syndrome

尺度名略・検査名略:尺度名(Rang/A cut-off score)・検査名

USI:Uppsala Sleep Inventory(>3),ESS:Epworth Sleepiness Scale(0–24/≧10–11),VCS-8:Vicious Cycle of Sleeplessness Scale(0–32),H-scale:Hyperarousal Behavioral Trait Scale(0–78),PSG:Polysomnography,KSQ:Karolinska Sleep Questionnaire,PSQI:Pittsburgh Sleep Quality Index(0–21/≧6),CHS:Cardiovascular Health Study,RSLS:Reaction to Sleep loss Scale,BNSQ:Basic Nordic Sleep Questionnaire,VAS:Visual Analog Sleep(0–700)

* 看護師による研究

睡眠障害の定義としてCarpenito(1995)による「睡眠障害は不快感を引き起こしたり,個人の望ましいライフスタイルを妨害する睡眠の障害と患者が認識すること」を引用

上段は睡眠時間が良好な患者群/下段は睡眠時間が不良な患者群

表2  冠動脈疾患患者の不眠に対する介入研究の概要
筆頭者
発表年/国
調査内容(研究デザイン) 対象者 介入内容 睡眠の評価方法 介入効果
条件 数(介入/対照)
年齢(SD)
介入群 対照群 介入期間/評価時期 測定方法 評価時の状況
Javaheri, S. 2020/米国 Webベース認知行動療法がCADに与える影響(RCT) 不眠症状が3ヵ月以上持続,ISIスコア10点以上 29(15/14) 
71.6(9.5)
Webベース認知行動療法プログラムと一般的な睡眠教育 一般的な睡眠教育のみのプログラム 開始から6週間/開始時,6週間後 ISI 
ESS
外来 軽減§
Ghadicolaei, H. T.* 2019/イラン CCUにおけるACS患者の睡眠の質に対する就寝前の足浴の効果(RCT) 膝下領域の創傷がない,介入4時間前に麻薬投与がない等 120(60/60) 
不明
膝下までの足浴(41度,20分間) なし 入院2~4日間/入院翌日・5日目の朝 SMHSQ 入院 軽減
Ghaeli, P. 2018/イラン PCI後のMI患者における不安・不眠管理におけるメラトニンとオキゼパムの効果(RCT) 抗精神病薬,覚醒剤等の使用歴がある,β遮断薬を投与されていない等 40(20/20) 
58.3(11.4) 
58.4(11.8)
毎晩10時にメラトニン3 mg投与 毎晩10時にオキゼパム10 mg投与 退院するまで毎日/入院翌日から退院するまで毎日 GSQS 入院 メラトニン優位
Rahmani, A.* 2016/イラン ACS患者の睡眠の質に対するフットマッサージ,足浴,組み合わせの効果(non-RCT) 皮膚疾患,糖尿病・神経障害,膝下に創傷がない,過去12時間以内の鎮痛剤または全身麻酔の使用がない等 140(35名ずつ4群) 
61.2(11.6)
A群:両足のツボマッサージ10分実施,B群:半座位で10分間の足浴を実施(足首10 cm上までの湯,40°C),C群:A群+B群実施 D群:介入なし 入院2~3日目の夜まで継続/入院3・4日目午前8時 VSH 入院 軽減
Wang, L. N.* 2014/中国 CAD患者に生理学的指標を用いた支援によるリラクゼーションを獲得するための教育を実施する最適なタイミング(non-RCT) 入院4日目にPSQIスコア7点以上である 128(32名ずつ4群) 
58.3(10.6)
標準ケア+リラクゼーションプログラム.看護師による交感神経を緩和する教育支援(朝群,夜群,朝・夜群の3群) 睡眠衛生教育,室温調整,騒音・光対策を含む標準的な睡眠ケア 入院4~9日間/入院4・10日目 PSQI 入院 軽減,朝夜群が最も効果的
Johansson, A.* 2014/スウェーデン CAD患者の睡眠活動におけるセルフケアを促進するための個別化プログラムの有効性(RCT) USIで睡眠時間が少ない,睡眠の質が悪い(スコア4以上),冠動脈インターベンション3~7週後 47(24/23) 
64(10) 
62(11.5)
看護師主導の個別教育プログラム.看護師による個別の睡眠分析,目標設定.パンフレット提供,睡眠衛生教育,リラクゼーションプログラムとフィジカルトレーニング,電話サポート 睡眠とストレスに関するパンフレット,看護師による電話サポート 1度に実施,期間は患者のニーズによって調整/介入前と介入3~4ヵ月後 USI,ESS,アクティグラフィー,睡眠日誌 外来 改善

CCU:coronary care unit,ACS:acute coronary syndrome,PCI:percutaneous coronary intervention,MI:myocardial infarction,CAD:coronary artery disease

尺度名略・検査名略:尺度名(Rang/A cut-off score)・検査名

ISI:Insomnia Severity Index(0–28/≧10),PSQI:Pittsburgh Sleep Quality Index(0–21/≧6),USI:Uppsala Sleep Inventory(>3),ESS:Epworth Sleepiness Scale(0–24/≧10–11),SMHSQ:St Mary’s Hospital Sleep Questionnaire,GSQS:Groningen Sleep Quality Score(0–14/≧6),VSH:Veran Snyder-Halpern subjective sleep questionnaire(1–1500)

* 看護師による研究

上段がオキゼパム内服群/下段がメラトニン内服群

上段が介入群/下段が対照群

§ 不眠症の重症度は軽減したが介入群と対照群に有意差なし

重度の睡眠障害を持つ患者の重症度は軽減したが中程度の患者には変化なし

2. 睡眠の評価方法

1) 測定方法

主に使用されていた主観的な尺度は,過去1ヵ月における睡眠の質とその質を評価するPittsburgh Sleep Quality Indexが7件,過去1ヵ月における日常的な睡眠と健康知覚を測定するUppsala Sleep Inventoryが7件,日常生活における活動の中で経験する眠気を評価するEpworth Sleepiness Scaleが7件,過去2週間における不眠症の重症度を評価するInsomnia Severity Indexが3件であった.客観的な睡眠の評価としては,ポリソムノグラフィーが5件,アクティグラフィーと睡眠日誌はそれぞれ2件であった(表1表2).

2) 評価時の状況・評価時期

入院患者の睡眠を評価した研究は4件,外来患者を評価した研究は19件,両方を評価していたのは6件であった.評価時期は,発症・治療・入院から経過した日数,退院から経過した日数,その他に分類された.観察研究では,多くの研究が発症・治療・入院を基点としており,3日以内の評価3件,1週間後1件,1ヵ月後4件,1ヵ月以降3件,4ヵ月後2件,6ヵ月後2件,12ヵ月後2件,3年後と4年後が各1件であった(表1).介入研究では,介入時と介入終了後に評価していた.Johansson et al.(2014)のみ介入時と介入3~4ヵ月後に評価していた(表2).

3. 観察研究からみる冠動脈疾患患者の不眠

1) 不眠の有病率と睡眠パターン

不眠は患者の21~69%に見られ(Kjellsdotter et al., 2020Almamari et al., 2019Da Costa et al., 2017Le Grande et al., 2016Johansson et al., 2010Edéll-Gustafsson, 2002),女性は不眠の重症度が高い傾向にあった(Johansson et al., 2011).

CADを発症した患者は,入眠開始と維持が困難となり,覚醒の増加,睡眠効率の低下,レム睡眠の減少が見られた(Coryell et al., 2013Johansson et al., 2011Schiza et al., 2010BaHammam, 2006).これらの変化は,1ヵ月では回復せず,6ヵ月の時点で回復していた(Schiza et al., 2010).

2) 不眠に関連した要因

不眠に関連する要因として,性別では女性が多く報告されていた(Kjellsdotter et al., 2020Alcántara et al., 2014Assari et al., 2013Johansson et al., 20112010Caska et al., 2009Edéll-Gustafsson et al., 2006Edéll-Gustafsson & Hetta, 2001).身体的要因は,高いBMI(Almamari et al., 2019Szymański et al., 2014Fernandes et al., 2014Johansson et al., 2013),疲労(Johansson et al., 2010El-Mokadem, 2003Edéll-Gustafsson & Hetta, 2001),心筋梗塞/狭心症の重症度(Da Costa et al., 2017Yilmaz et al., 2016),睡眠薬の使用(Da Costa et al., 2017Alcántara et al., 2014),集中治療室の長期滞在期間(Yilmaz et al., 2016)等が関連していた.心理的要因としてうつとの関連が複数の研究で述べられており(Da Costa et al., 2017Alcántara et al., 2014Caska et al., 2009Edéll-Gustafsson et al., 2006El-Mokadem, 2003),ネガティブな感情も睡眠に関連していた(Kjellsdotter et al., 2020Juskiene et al., 2018).また,配偶者の有無(Caska et al., 2009)や低所得,低い教育歴(Assari et al., 2013)といった社会的要因も関連していた.

3) 睡眠に関する体験とセルフケア

質的研究からCAD患者の睡眠に関する体験とセルフケアが明らかになった.患者は,睡眠を仕事より優先する場合もあれば,仕事のために睡眠時間を削ることもあった.また,胸痛により眠気が消失する体験をしていた.さらに,入眠前と夜間覚醒時には健康・仕事・人間関係などについて考え,考え始めると集中して深みにはまってしまう体験をし,不安・恐怖・悲しみなどが生じ,無力感から死への恐怖へ至ることもあった(Johansson et al., 2007).

患者は,睡眠を促進するためのセルフケアとして途中覚醒時には散歩をする,犬と一緒に寝ることで安心感を得る,身体症状を緩和するために水分摂取する等を行っていた.加えて,周りの人のいびきや照明,睡眠時の姿勢,コーヒーやアルコールの摂取,日中の活動に注意を払い,睡眠環境を整えようとしていた(Johansson et al., 2012).

4) 不眠がもたらす悪影響

治療4年後の患者における死亡・心筋梗塞・血行再建が必要な患者は26%であり,睡眠障害の症状の数と関連がみられていた(Fernandes et al., 2014).また,退院して3か月後の睡眠時間が7~8時間の患者における3年後の死亡率は1.9%であるのに対し,6時間以下の患者は13.9%と高かった(Szymański et al., 2014).

4. 介入研究からみる不眠を改善する治療・支援

治療に関しては,入院患者に投薬の効果を測定する研究(Ghaeli et al., 2018)と退院後の患者に6週間のWebベース認知行動療法を実施した研究(Javaheri et al., 2020)が行われていた.看護師主導による介入研究4件のすべてがリラクゼーションを活用していた.入院中の患者を対象に足浴を用いた介入が2件(Ghadicolaei et al., 2019Rahmani et al., 2016)あり,他の2件は教育的介入であった(Johansson et al., 2014Wang et al., 2014).そのうち1件のみが退院した患者を対象としていた(Johansson et al., 2014).

また,介入研究のうち睡眠衛生教育を実施していたのは3件あり,すべて個別対応を行い,不眠を軽減する効果を得ていた(Javaheri et al., 2020Johansson et al., 2014Wang et al., 2014).

Ⅴ. 考察

CAD患者の不眠は,量的研究が主に行われ,主観的な尺度を用いた有病率や関連要因の検討,ポリソムノグラフィーなどの客観的な方法を用いた睡眠パターン分析が行われていた.不眠との関連要因として複数の研究で報告されていたのは,女性,うつであった.日本人女性は,高齢で発症し,症状が非典型的で受診・治療が遅れ,重症度が高い傾向が指摘されている(日本循環器学会ら,2019).狭心症の重症度も不眠の関連要因として報告されていることから,日本人女性においても不眠の有病率が高い可能性があると考える.そのため,女性患者の睡眠についてより関心を寄せていく必要がある.また,CAD患者はうつを併発しやすい(日本循環器学会ら,2019)ことも指摘されており,不眠はうつ症状の一つであることをふまえた支援が必要だと考えられる.

また,行われていた介入研究は認知行動療法および薬物療法の導入,看護師によるリラクゼーションの活用・教育的介入であった.看護師主導の支援は入院中の患者を対象とした研究が主であり,退院後の支援についてはJohansson et al.(2014)の研究のみであった.CADは,疾患の特性から救命に焦点が置かれやすいために入院中の患者への支援が中心になったと考える.しかしながら,CADは再発リスクがあるため退院後も看護師主導のサポーティブな支援が必要(Johansson et al., 2012)であり,教育的介入を含めた研究の蓄積が必要だと考えられた.

さらに,不眠を評価する方法や時期は様々であり,特に評価時期は多様であった.Javaheri & Redline(2017)は,CAD患者を対象とした研究では不眠症の定義や測定方法に大きなばらつきがあることによって,ハイリスクグループの特定に至らないことを指摘している.効果的な支援を提供していくためにもCAD患者の不眠に関する統一した見解が必要だと考えられた.また,CAD患者は睡眠環境を整える努力をしつつも胸痛により眠気が消失し,死への恐怖を感じている(Johansson et al., 20122007)ことが明らかになった.がん患者の不眠の先行要件として癌性疼痛や腹水などが報告されている(前村,2019)ことから,疾患の特性が患者の不眠に影響を与えていると考えられる.したがって,CAD患者の不眠について疾患特有の影響を考慮した支援が必要であり,そのためにはCAD患者の不眠について定義を明確にする必要性がある.

Ⅵ. 結論

CAD患者の不眠に関する研究は,不眠の有病率と睡眠パターン,関連要因を明らかにする研究が多く,看護支援としてリラクゼーションの活用や教育的介入が検討されていた.また,不眠に女性,うつ等の関連する要因や疾患の特性による影響を受けていることから,それらに考慮した看護が必要である.そのためには,CAD患者の不眠の定義を明確にし,そのうえで退院後の外来における継続支援の具体的な内容を検討していく必要がある.

付記:本論文の一部は,第40回日本看護科学学術集会において発表した.

著者資格:Y.Tは論文の着想から原稿作成に至るプロセスに貢献;M.Kは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

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