2021 Volume 41 Pages 395-404
目的:きょうだいが小児集中治療室(以下PICU)に入院中の子どもに面会する場で,医療者はきょうだいと両親の状況をどのように捉え,きょうだいをどう支援しようとするのかを明らかにする.
方法:PICU入院児ときょうだいの面会場面,15場面の観察と,看護師9名,Child Life Specialist 5名,PICU専従保育士1名の計15名へのインタビューを行い,グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析した.
結果:医療者による【きょうだいの居場所をつくる】《きょうだいと入院児をつなぐ》《きょうだいと両親をつなぐ》という働きかけが適切に行われ,《両親によるきょうだいとの体験の共有》が行われることで,《きょうだいと入院児を含めた家族の一体感》が生じていた.
結論:面会の場が,《きょうだいと入院児を含めた家族の一体感》のある場となることが望ましく,そのためには,医療者が【きょうだいの居場所をつくる】という働きかけを行った上で,両親が適切にきょうだいと体験を共有できるように支援することが重要である.
Purpose: To identify the processes by which medical personnel can support siblings visiting children hospitalized in pediatric intensive care units (PICUs).
Method: We observed 15 visitations by siblings and conducted semi-structured interviews with 15 medical personnel (9 nurses, 5 child life specialists, and 1 childcare worker). The observational and interview data were analyzed using a grounded theory approach.
Results: The medical personnel supported siblings and parents by [making a place for siblings], <connecting siblings with the hospitalized child>, and <connecting siblings with their parents>. If the parents were able to <share experiences with the siblings>, the siblings, parents, and the hospitalized child experienced <a sense of family unity>.
Conclusion: For siblings to experience <a sense of family unity> when visiting a child hospitalized in a PICU, it is important for medical personnel to strive to [make a place for siblings] and support <parents’ sharing experiences with the siblings>.
子どもの入院によって,そのきょうだいもストレスや不安を感じ,情緒や行動に様々な問題が生じることが知られている(新家・藤原,2007).きょうだいの面会は,入院児が感染するリスクや,きょうだいの恐怖や不安を増加させることへの懸念などの理由で制限されてきたが,入院児のきょうだいへの支援として,1980年代から面会制限の緩和が検討されるようになった(Poster & Betz, 1987).
その後,NICU(新生児集中治療室)において,きょうだいの面会によって入院児の感染徴候は増加しなかったことが報告され(Solheim & Spellacy, 1988),くわえて,一般病棟やNICUにおいて,面会によりきょうだいに恐怖や不安の出現はなく,面会前よりも情緒や行動の問題が改善したことが報告された(Oehler & Vileisis, 1990).その一方で,一般病棟入院児のきょうだい45人を対象とした調査で,面会の頻度が多いほどきょうだいのストレスの度合が高まるという報告(Simon, 1993)もあるが,いずれの研究においても,面会の場で何が起きていて,どのようにきょうだいを支援していたのかは明らかにされてこなかった.
一般病棟やNICUだけでなく,重症な子どもが入室するPICU(小児集中治療室)においても,面会制限の緩和が取り組まれている(Meert et al., 2013).PICUは,経過や診療科,年齢の異なる多様な子どもが入室し,くわえて,きょうだいにとって一般病棟よりも特殊な環境である可能性が高い.したがって,PICUという場は,入院児と面会する場で何が起きていて,どうきょうだいを支援しているのかを検討する上で,幅広いデータが収集できる可能性があると考えた.
PICUで入院児にきょうだいが面会する場面の観察データと,両親へのインタビューデータの分析から,面会したきょうだいに,入院児の状況を理解し,入院児を思いやる言動が増えるなどの変化があり,両親と看護師が協働して,きょうだいが面会の場の主役となるように働きかけることが重要であることを既に報告したが(西名・戈木クレイグヒル,2017),この研究では,看護師が,きょうだいや両親の様子をどう捉えていたのかは明らかでなかった.さらに,保育士やChild Life Specialist(CLS)といった専門職も入院児とその家族に関わる施設も増えており,それぞれが子どもや両親をどう捉えて,どのような意図で支援しているのかという知見も重要である.
そこで本研究では,きょうだいがPICU入院児と面会する場に関わる種々の専門職(以下,本稿では医療者と総称する)が,きょうだいと両親の状況をどのように捉えて,きょうだいをどう支援しようとしているのかを明らかにする.
PICUを有する施設の施設長へ研究協力依頼を行い,施設の倫理審査委員会の承認を得た2施設で行った.①PICU入院児と面会する15歳以下のきょうだい,②PICUに入院中の子ども,③PICU入院児ときょうだいの面会に立ち会う両親と医療者,以上に該当する人について,協力依頼が可能だとPICU看護師長が判断した人に説明文書を渡してもらい,説明を聞いても良いと了解した人に説明し,同意を得た上で対象とした.
2) インタビュー法PICUで面会するきょうだいと関わった経験をもつ医療者を対象とした.観察を行っている施設以外のデータも収集するために,観察は前提とせず,①きょうだいの面会場面で観察対象となった人,②学会等でPICUで面会したきょうだいに関する報告を行っていた人,③インタビュー協力者からの紹介,という3つの方法で候補者を選定した.選定した候補者に,研究への協力を依頼し,本人の同意と所属施設の責任者の許可を得た上で対象とした.
2. データ収集方法2014年3月~10月,および2019年1月~4月に,PICUできょうだいが面会する場面を観察した.研究協力者の言動や反応の変化に留意し,研究協力者の行動や表情,視線,発言内容や声の大きさ,トーンなどの情報を記述した.相互作用を把握するために,観察した言動の意図や理由の解釈も詳細に記述する必要があるが,解釈の偏りを避けるために,可能な場合には,観察中の言動の意図や理由について,観察当日~1か月以内に,協力者に口頭で確認した.
2017年3月~2019年8月に,きょうだいと関わった経験をもつ医療者に半構成的なインタビューを行った.具体的な事例のエピソードを話してもらい,「その時のきょうだいの様子をどう感じたか?」「なぜそう関わろうと考えたのか?」などの質問でその内容を掘り下げ,きょうだいや両親の様子をどう捉えていたか,どのような意図で,どう関わったのかについての情報を得た.
3. 分析方法データ分析には,リサーチ・クエスチョンを踏まえ,相互作用によって生じる変化のプロセスを現象として把握するグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)を使用した(戈木クレイグヒル,2016).GTAは,多様なプロセスを幅広く把握する研究法であり,多様な子どもが入室するPICUで,複数の職種からデータを収集することが,より多くのプロセスの把握につながる点でも本研究に適している.なお,2014年の観察データの分析から,既に1つの現象を報告したが(西名・戈木クレイグヒル,2017),本稿で示すのは,さらにデータ収集と分析を重ねて把握した,既報とは異なる現象である.
分析は次の手順で行った.1)テクストの作成,2)テクストの読み込み,3)テクストの切片化:文脈に縛られずに分析するためにテクストを内容ごとに細かく切片化した.4)概念の抽出:切片ごとにプロパティとディメンションという,抽象度の低い概念を抽出した.その切片を表す概念名としてラベル名をつけた後,類似するラベルを集め,より抽象度の高いカテゴリー名をつけた.5)アキシャル・コーディング:プロパティとディメンションを用いてカテゴリー同士を関連づけ,各データに照らし合わせながら現象を把握し,カテゴリー関連図を作成した.6)現象の統合:観察とインタビューのテクストは別々に作成し,テクストごとに5)までの分析を行った上で,同じ現象に関するカテゴリー関連図を統合した.なお,データ分析が1つ終わるごとに,次にどのような場面を観察するのか,またはどんな人にどのような質問をするのかを検討し,データ収集を行った.また,以上の過程において,GTAに精通する研究者やPICUをよく知る看護師との検討会を定期的にもち,複数の第三者のチェックを受けた.
4. 倫理的配慮本研究は,慶應義塾大学看護医療学部の倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号:257).対象となる医療者と両親に,研究の目的,方法,参加の自由,同意を撤回する権利の保証,不利益の排除,プライバシーの保護,結果の発表方法について,口頭と書面で説明し同意書への署名によって同意を得た.入院児ときょうだいには,両親の意向を確認し,年齢や体調に配慮して説明した.
国内の2施設で,8事例,15場面の観察を行った.インタビューは,6施設で,看護師9名,CLS 5名,保育士1名の計15名に行った.観察事例の一覧と,インタビュー協力者と語られた主な事例を表1,表2に示す.なお,収集した全ての事例においてきょうだいの面会は原則的に制限されており,入院の長期化や終末期への移行,両親の要望などの理由で特例として認められていた.
# | 面会したきょうだい | 入院児の年齢・性別 | 入院児の診断名 | 観察時の状況 | 病床 |
---|---|---|---|---|---|
1 | 兄(3歳) 兄(5歳) |
1歳・女児(A) | 左心低形成症候群 | 入室26日目・術後12日目 | オープンフロア |
2 | 姉(4歳) | 8か月・女児(B) | 生体肝移植後 | 入室192日目・術後16日目 | |
3 | 兄(6歳) | 2歳・女児(C) | 溶血性尿毒症症候群 | 入室10日目・内科的治療中 呼吸器使用中 | |
4 | 兄(9歳) 兄(11歳) |
2歳・男児(D) | 三尖弁閉鎖症 大動脈縮窄症 |
入室88日目・術後5日目 | |
5 | 姉(2歳) | 0歳・女児(E) | 両大血管右室起始症 | 入室17日目・術後12日目 呼吸器使用中 (入院児年齢:日齢29日) | |
入室77日目・手術前 呼吸器使用中 (入院児年齢:2か月28日) | |||||
入室101日目・内科的治療中 呼吸器使用中 (入院児年齢:3か月20日) | |||||
入室113日目・終末期 呼吸器使用中 (入院児年齢:4か月3日) |
個室 | ||||
6 | 兄(3歳) 姉(7歳) |
11か月・女児(F) | 気管狭窄症 | 入室30日目・術前管理中 呼吸器使用中 | |
7 | 兄(3歳) | 1歳・女児(G) | 感染性脳症 | 入室7日目・終末期 呼吸器使用中 (同日に2場面観察) | |
入室12日目・終末期 呼吸器使用中 (同日に2場面観察) | |||||
8 | 兄(6歳) | 4歳・男児(H) | 心筋症 | 入室19日目・終末期 呼吸器使用中 (同日に2場面観察) |
・#5,7,8は複数回観察(#5:4場面,#7:4場面,#8:2場面).
・#7,8は医療者へのインタビューデータも収集した.その他は観察データのみ.
・オープンフロアとは,見通しの良いフロアに複数のベッドが並ぶ病床である.隣り合うベッドの間は開閉可能なカーテンで仕切られている.
# | 職種 | 経験年数 | 事例を経験してからの期間 | 面会したきょうだい | 入院児の年齢・性別 | 入院児の診断名 |
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① | 看護師 | 2年 | 2か月 | 兄(2歳) | 10か月・女児(I) | 溺水 |
② | 看護師 | 3年 | 5日 | 兄(11歳) | 8歳・男児(J) | 脳腫瘍 |
③ | 看護師 | 7年 | 0日 | |||
④ | 看護師 | 10年 | 5か月 | 兄(15歳) | 13歳・女児(K) | 脳血管異常 |
⑤ | 看護師 | 13年 | 40日 | 姉(5歳) 兄(8歳) |
1歳・男児(L) | ネフローゼ症候群 |
⑥ | 看護師 | 14年 | 10か月 | 兄(3歳) 兄(5歳) |
2か月・女児(M) | 心停止 蘇生後 |
⑦ | 看護師 | 15年 | 11日 | 妹(7歳) | 10歳・男児(N) | 骨肉腫 肺転移 |
⑧ | 看護師 | 27年 | 6か月 | 兄(5歳) 姉(8歳) |
1歳・女児(O) | 誤嚥による窒息 |
⑨ | CLS | 3年 | 17か月 | 兄(11歳) | 8歳・男児(P) | 脳出血 |
⑩ | CLS | 6年 | 22か月 | 弟(2歳) 弟(5歳) |
8歳・男児(Q) | 脳出血 |
⑪ | CLS | 7年 | 12か月 | 弟(8歳) 妹(10歳) |
12歳・男児(R) | 感染性脳症 |
⑫ | CLS | 10年 | 30日 | 姉(12歳) | 9歳・男児(S) | 交通外傷 |
⑬ | CLS | 8年 | 20日 | 兄(3歳) | 1歳・女児(G) | 感染性脳症 |
⑭ | 保育士 | 9年 | 47日 | |||
⑮ | 看護師 | 6年 | 0日 | 兄(6歳) | 4歳・男児(H) | 心筋症 |
・#⑤以外はすべて終末期,挿管管理で意識がない状態だった.
・#⑤,⑦はオープンフロア病床での面会,その他は個室での面会.
・#⑬,⑭,⑮は観察データも収集した.その他はインタビューデータのみ.
本研究の結果,【きょうだいの居場所をつくる】という現象が明らかになった.以下,本現象と,現象を構成するカテゴリーについて示す.本稿では,現象の中心となるカテゴリーを【 】,その他のカテゴリーを《 》で表記した.
1) 【きょうだいの居場所をつくる】という現象のカテゴリー関連図【きょうだいの居場所をつくる】という現象に関わる14のカテゴリーの関連を図1に示す.異なる帰結に至る多様なプロセスに最も関係するカテゴリーである【きょうだいの居場所をつくる】を現象名とした.なお,GTAで捉えるプロセスは相互作用によるもので,その場で生じている事象が登場人物にとってどのような意味をもつかに留意して分析する必要がある(戈木クレイグヒル,2016).分析はきょうだいの年齢や面会した環境や時期なども考慮して行ったが,例えば,医療者はそのきょうだいなりの理解度を推察し,年齢に関わらず,医療者が推察した理解度がプロセスに影響していたし,終末期であるからといって必ず同じプロセスを辿るわけではなく,きょうだいの年齢や病床環境,入院児の重症度などが,関連図に示すプロセスを直接変化させることはなかった.
【きょうだいの居場所をつくる】という現象に関連するカテゴリー関連図
PICU入院児と面会する場で,《きょうだいが入院児への関わり》をもつ場合には,医療者は《両親がきょうだいに関わる余裕を査定》し,余裕があると査定すれば,《きょうだいの入院児に関する理解を推察》した.きょうだいが状況を理解していると推察でき,《両親によるきょうだいとの体験の共有》が適切であれば,《きょうだいと入院児を含めた家族の一体感》に至った.きょうだいが状況を理解できていないと推察した場合には,医療者は《両親の意向を把握》し,両親がきょうだいとの闘病体験の共有を望めば,医療者が《きょうだいと両親をつなぐ》ことで,《きょうだいと入院児を含めた家族の一体感》に至った.
《きょうだいが入院児に関わる》ことができなければ,医療者は《きょうだいの気持ちを推察》し,両親との関わりが必要だと考えれば《両親がきょうだいに関わる余裕を査定》して,両親に余裕がなければ【きょうだいの居場所をつくる】必要があった.また,《きょうだいの気持ちを推察》し,安心できる環境が必要だと考える場合,《両親の意向が把握》できなかったり,両親がきょうだいに無理をさせたくない場合,医療者が《きょうだいと両親をつなぐ》ことより両親と入院児の時間を優先する場合,《両親によるきょうだいとの体験の共有》が適切ではない場合にも【きょうだいの居場所をつくる】必要があった.
医療者は,【きょうだいの居場所をつくる】という働きかけを行い,《きょうだいの入院児に関する言動》を捉えて,《きょうだいと入院児をつなげ》ようとし,《入院児に関する言動》はみられないものの,《きょうだいの気持ちが表出》されれば《きょうだいと両親をつなげ》ようとした.いずれの場合も,その結果,《両親によるきょうだいとの体験の共有》が適切に行われれば,《きょうだいと入院児を含めた家族の一体感》が生じていた.また,《きょうだいの気持ちの表出》はないが,楽しそうに遊んだり,何をするかを自分で選んで過ごす場合には,《居場所のあるきょうだい》という帰結に至った.しかし,一連の働きかけが適切に行われなければ,《居心地が悪そうなきょうだい》に至っていた.
3) 各カテゴリーの説明 (1) 【きょうだいの居場所をつくる】【きょうだいの居場所をつくる】とは,PICUという非日常的な場で,医療者が,きょうだいの言動を肯定し,きょうだいがどうしたいかを尊重しながら,きょうだいの日常に近づけようとすることで,きょうだいが安心して過ごすことのできる場をつくる働きかけである.
きょうだいも大切にしてもらってるっていう気持ちを,なんか分かって欲しいなって.(中略)ご両親とおじいちゃんおばあちゃんの視線は,Mちゃんに向いていたんですね.そんな時でもきょうだいに目を向けてる大人がいるんだよって.[#⑥,M(2か月)の兄(3歳,5歳)と関わった看護師]
Mちゃんは,突然の心停止で緊急入院した.兄たちが面会した場は,Mちゃんが入院している個室の中,両親や祖父母もいる環境で,兄たちの居場所となる空間や人員は確保されているようにも思われる.しかしこの看護師は,両親や祖父母に,兄たちのことを考える余裕がないと感じ,その場に,兄たちに目を向けて関わる大人が必要だと考えて,兄たちのそばを離れずに関わり,兄たちが,安心してMちゃんや両親たちと同じ場に居ることができるようにした.
ところで,きょうだいに関わる余裕のない両親がいる一方で,両親は積極的にきょうだいに関わるものの,きょうだいが応えようとしない場合もある.
楽しそうな雰囲気がある中で,おいでって色んな人が(ベッドサイドに)誘う.親も誘うし,看護師さんも誘ってくる.それでも応えられないのは,やっぱり応えるタイミングにお兄ちゃんがいないからだと思うんですよね.(中略)一緒に座って絵を描いている私まで,お兄ちゃんに一緒に行こうよって言ってしまったら,お兄ちゃんの行きたくない気持ちを肯定する大人がいなくなってしまう.[#⑬,G(1歳)の兄(3歳)と関わったCLS]
このように,入院児から離れていたいきょうだいの気持ちや,入院児に目を向けることでのつらさといった感情も大切だと考える医療者は少なくなかった.PICUの外にきょうだいが過ごせる場所がある場合には,入院児のそばを離れるという選択肢を示して,きょうだいがどうしたいかを尊重する医療者もいた.
また,医療者は,敢えて入院児に関する話をせずに,きょうだい自身の生活や日常について話したり,ベッドサイドできょうだいが遊んだり,宿題をすることができる環境をつくって,きょうだいの日常に近づけることでも,きょうだいが安心して過ごすことができるように働きかけていた.
(2) 《きょうだいの気持ちの推察》医療者は,きょうだいが置かれている状況を様々な視点から考え,きょうだいの気持ちを推察していた.例えば,面会に連れて来られたものの,病室の隅で動けなくなっていた3歳と5歳の兄と関わった看護師(#⑥)は,夜間に急に連れて来られた兄たちにとって,病室の環境は「おそろしい部屋」かもしれないと推測し,安心できる環境が必要だと考え,遊び相手になることから始めた.
医療者は,入院児ときょうだいの関係からもきょうだいの気持ちを推察した.ベッドから離れて過ごしていたH君(4歳)の兄(6歳)と関わった看護師(#⑮)は,母親から,普段はH君が兄にちょっかいを出して遊び,兄の方から関わることは少なかったと聞き,急に普段と違う関わり方はできない兄の気持ちを推察した.また,両親が入院児の状況を受け止められず,終末期であることを伝えられていない11歳の兄と関わった看護師(#②)は,兄が涙を流す両親に戸惑い,疎外感を感じていると推察し,両親との関わりが必要だと考えていた.
(3) 《両親がきょうだいに関わる余裕の査定》医療者は,面会中の両親の,入院児やきょうだいとの関わり方や,入院児やきょうだいに関する言動から,両親の心境を推察し,両親がきょうだいに関わる余裕があるかを査定した.例えば,感染性脳症で入院したR君(12歳)の父親と関わったCLS(#⑪)は,「お父さんが自分を責めているような状況だったので,なかなかきょうだいに向けてそういう気持ち,頭がいってないんだろうなって」と話し,父親に,きょうだいのことを考える余裕がないと考えて関わっていた.
(4) 《きょうだいの入院児に関する理解の推察》医療者は,きょうだいが入院児の状況を理解できているかを推察しようとした.そのために,入院児の経過や両親からの説明の状況,面会時の言動などから,きょうだいが入院児の状況を知る機会が十分であるかや,入院児の状況に対する戸惑いの程度を推察した.終末期にあったGちゃん(1歳)の兄(3歳)と関わった保育士(#⑭)は,ベッドから離れて過ごすことの多い兄について,「気になるけど行けない」という戸惑いを感じている状況で,それは,普段と両親やGちゃんの様子が違う理由が理解できず,「意味が分からない」ためだと推察していた.しかし,両親から「お別れが,もうすぐなんだよ.」という話を聞いた翌日に,両親と一緒にGちゃんと関わるようになった姿を見て,兄なりに納得することができたのだと推察した.医療者は,状況の正確な理解だけでなく,きょうだいなりに理解し,戸惑いが小さいことも重視していた.
(5) 《両親の意向の把握》きょうだいが入院児の状況を理解できずに戸惑っていると推察される場合には,入院児の状況を共有するためには両親の意向を把握する必要があると,インタビューを行った全ての医療者が考えていた.きょうだいとの闘病体験の共有を望み,入院児の状況を伝えることや,きょうだいと一緒に何ができるかを考える両親もいれば,きょうだいに無理をさせたくないと考える両親もいた.
(6) 《きょうだいと両親をつなぐ》《きょうだいと両親をつなぐ》とは,医療者が,両親にきょうだいの様子を共有し,きょうだいと入院児のつながりを見えやすくして,きょうだいに入院児の状況を伝える方法をサポートしたり,きょうだいと一緒にできることの提案をすることで,きょうだいとの闘病体験の共有を支援する働きかけである.
終末期にあったQ君(8歳)の弟(5歳)は,CLS(#⑩)との関わりの中で,「ママはずっと泣いてばっかなんだよ.死んでいるからもうずっと泣いてばっかなんじゃないかな.」と話したという.CLSは,5歳の弟なりに状況を理解していることを両親に伝え,母親と相談しながら,Q君の状況を伝えるための絵本を作成して,弟との闘病体験の共有を支援した.
(7) 《きょうだいと入院児をつなぐ》《きょうだいと入院児をつなぐ》とは,医療者が,きょうだいと入院児のつながりを察知して,きょうだいの言動を意味づけながら,きょうだいのタイミングに合わせて,きょうだいと入院児をつなげようとする働きかけである.
緊張した様子で面会していた15歳の兄と関わった看護師(#④)は,入院児の体位交換を行った際に,兄から「それってなんでやってるんですか?」と質問された.兄の様子を「勇気を振り絞った感じ」と捉えた看護師は,質問に答えた上で,「そうやって気づいてくれたのって,すごく大事なことだから」と伝え,何でも質問して良いと保証した.その後,兄からは入院児に関する質問や,「涙が出てる」といった入院児を気遣う言動が増え,看護師は,兄の言動に合わせて,「涙拭いてあげて」と促し,入院児と関わる機会をつくったと話した.
(8) 《両親によるきょうだいとの体験の共有》《両親によるきょうだいとの体験の共有》とは,両親が,きょうだいに配慮しながら,入院児との関わりを促し,入院児の状況や両親の気持ち,入院児と関わる時間を共有することで,きょうだいと闘病体験を共有する関わりである.
13:23 母親は椅子に座り,兄(6歳)を膝の上に座らせて,「Cちゃん頑張ってるよ」「Cちゃんね,ずっとこうやって寝てるの」と,穏やかな口調で話し,無言で俯く兄の緊張を和らげようとしているようである.(中略)
13:25 母親は,ベッド柵に貼られている,兄が書いた手紙の方を見て,「ほら,〇〇(兄の名前)が書いたやつ貼ってくれてるよ」と言って兄の顔を覗きこむ.兄の手紙を話題にし,兄もこの場の参加者の一人として接しているように見える.[#3,C(2歳)と兄(6歳)の面会場面]
両親たちは,時に医療者に支援されながら,入院児の状況や自分の気持ちを伝え,一緒に入院児と関わることで,きょうだいと体験を共有しようとした.
(9) 《きょうだいの入院児への関わり》きょうだいの年齢や入院児の状態に関わらず,入院児のそばに居て,声をかけて触れたり,積極的に入院児のケアに参加するきょうだいがいる一方で,慣れない環境の中で興奮してふざけて動き回るきょうだいや,緊張した様子でベッドサイドに近づくことのできないきょうだいもいた.
(10) 《きょうだいの入院児に関する言動》面会中に入院児から離れて過ごすきょうだいに,医療者と関わる中で,自分から入院児への関心を示し,入院児のことを話題にする,入院児に関する疑問を表出する,入院児の様子を気にかけるなどの言動が見られることがあった.面会時に,落ち着きなく動き回るきょうだいたち(2歳,5歳)が,「身の置き所がなくって,すごく苦しそう」に見えたCLS(#⑩)は,きょうだいが落ち着いて「没頭できる」遊びを提供して関わり,その中で,きょうだいの方から入院児について話すようになったと語った.5歳の弟は,「お兄ちゃんはもう動かないの?」とCLSへ質問したが,これは,両親には伝えていないものだった.
(11) 《きょうだいの気持ちの表出》医療者との関わりの中で,自分も病気になることへの不安や,自分も一緒に経験した事故に対する怖さ,普段と様子の違う両親への気遣いや,両親にかまってもらいたい気持ちなど,自分が抱いている気持ちを伝えるきょうだいがいた.一方,気持ちを表出することのないきょうだいもいたが,楽しそうに遊んでいたり,何をするかを自分で選んで自由に過ごすきょうだいと,口数が少なく,落ち着かない様子で,無理をしているように見えるきょうだいがいた.
(12) 《きょうだいと入院児を含めた家族の一体感》《きょうだいと入院児を含めた家族の一体感》とは,きょうだいと両親が一緒に入院児を囲み,入院児へのケアを行ったり,入院児の話をしながら過ごす様子から,きょうだいを含めた家族に一体感が感じられる状況である.
普通の家族ってこんな感じだよなって思うぐらいの.PICU内で異様な環境,空間ではありますけど,普通に笑い声が聞こえてみたり.(中略)お兄ちゃんが妹さんの部屋から写真をもってくると「こんなのあったよ」とか,「懐かしいね」みたいな.[#④,K(13歳)の兄(15歳)と関わった看護師]
Kちゃんの兄は15歳で,面会を通して兄なりに状況を理解し,つらすぎてKちゃんの部屋に入れない母親の代わりに,Kちゃんが好きだったものや写真をもってくるという役割を自分から買って出る中で,一体感が芽生えていた.
一方で,きょうだいが幼い場合にも,一体感のある状況はつくられていた.
10:00 両親と一緒に,跳ねるような足取りでEちゃんの個室へと向かう姉(2歳)に,看護師たちが「〇〇ちゃん(姉の名前)きたの~.こんにちわ~」と声をかけると,姉は笑顔で看護師たちに手を振っている.(中略)
10:06 父親が,壁際のテーブルで両親と姉,Eちゃんの4人で撮った写真が貼られた台紙を色紙で飾り付けている.看護師が「すごく良い感じに仕上がってますね」と声をかけると,父親は笑顔で頷き,Eちゃんのそばで姉の相手をしていた母親が「そうなんです.なんか,いい写真が撮れたんで」と明るく笑顔で話す.[#5,E(4か月3日)と姉(2歳)の面会場面]
Eちゃんは生後1度も自宅に帰ることなく,この観察の1週間後に亡くなった.姉は,Eちゃんの生後29日目に初めて面会し,終末期へと移行する以前に,6回の面会が重ねられていた.最初は緊張していたPICUの環境や医療者にも慣れ,Eちゃんと一緒に笑顔で写真を撮ることもできた.両親がEちゃんと姉の双方に和やかに関わる様子は,自然な家族の姿のように観察された.
(13) 《居場所のあるきょうだい》《居場所のあるきょうだい》とは,医療者が,きょうだいに関心を向けて関わることで,きょうだいは入院児と直接関わりをもたないものの,目に見えて緊張や不安を感じることなく,入院児と同じ場に居ることができる状況である.
お兄ちゃんがすっごい大きい声で手を振って,「また後でね.」って言われたんですよ.(中略)後でまたここに帰ってくるよ,じゃあね,みたいな感じだったから,あぁ,彼の中でここが安心できる場所になって,また来るねになったんだなって.[#⑭,G(1歳)の兄(3歳)と関わった保育士]
Gちゃんの両親は,3歳の兄も一緒にGちゃんと関わって欲しいと望んでいたものの,兄はそれに応えられずにいた.Gちゃんと関わる両親の代わりに,看護師やCLS,保育士が遊び相手となり,兄が自由に過ごせる環境が確保されたことで,面会の場は,兄にとって居心地の悪い場ではないように見えた.
交通外傷で入室したS君(9歳)の姉(12歳)と関わったCLS(#⑫)は,姉がよくS君と観ていたというアニメのDVDをベッドサイドで観ることができるようにした.すると,数日後に姉から,「あのポケモンがあって,すごく部屋に居やすくなりました」と言われたという.CLSは,「何かやんなきゃいけないのかなっていう気に,特に大きい子はなっちゃうかもしれない」と話し,きょうだいが入院児のために何かをしなければとばかり感じないように,日常に近い環境をつくることは大切で,それが居やすい場につながったと考えていた.
(14) 《居心地が悪そうなきょうだい》面会の場で,適切な働きかけが行われない場合には,きょうだいに,緊張した様子で過ごす,苛立つ,退屈そうにする,面会の場を離れたがるといった様子が見られ,面会の場は,きょうだいにとって居心地の悪い場となっていた.
PICU入院児と面会する場を,きょうだいにとって《居心地が悪そうな》場としないためには,医療者の【きょうだいの居場所をつくる】という働きかけが重要であった.また,両親も適切に支援することで,PICUの特殊な環境であっても,《きょうだいと入院児を含めた家族の一体感》がある場となっていた.本研究における家族とは,きょうだいと入院児,両親である.両親以外の家族が加わることの違いについて,今後の検討が必要であるが,ここでは,本研究で把握した《家族の一体感》のある場となることの意味について考えたい.
きょうだいに生じる情緒や行動の問題に,入院児の状況に関する説明が影響を及ぼすが(新家・藤原,2007),PICU入院児の両親はきょうだいへの伝え方に悩み,説明を差し控えることも少なくないといわれている(Kleiber et al., 1995).したがって,本研究の対象となった医療者が,両親の状況に目を向けながら,《きょうだいと両親をつなぐ》働きかけの中で,きょうだいに入院児の状況を伝えることをサポートしていた点は重要である.くわえて,《きょうだいと両親をつなぐ》という働きかけは,ただ医療者がきょうだいに説明することで状況を共有するだけではなく,両親と一緒にきょうだいへ情報を伝えることや,両親がきょうだいと一緒にできることの提案を含めた,両親ときょうだいの闘病体験の共有を支援するものであった.小児がんの子どものきょうだいへの説明に関する文献レビューでは,「情報提供」だけでなく,両親との「情報共有」による両親からのサポート感や一体感が,きょうだいが状況に適応するために重要であることが指摘されている(佐藤・上別府,2009).これは,本研究で把握した《きょうだいと両親をつなぐ》という,両親ときょうだいとの闘病体験の共有を支援する働きかけによって,《きょうだいと入院児を含めた家族の一体感》に至るプロセスが,PICUへの子どもの入院という家族の状況への適応を支援できる可能性を示唆しており,入院児のきょうだいを支援する上で重要だと考える.
また,両親の不安などの心理的な状態も,きょうだいに生じる問題に影響を及ぼすことが知られているが(Simon, 1993;新家・藤原,2007),一般病棟において,入院児ときょうだいが面会したことで,母親が前向きな気持ちになったり,きょうだいと状況が共有しやすくなったと感じていたという報告がある(平田・前田,2017).PICU入院児にきょうだいが面会する場で,《家族の一体感》のある体験をすることは,両親にもポジティブな影響を及ぼす可能性があり,結果的に,きょうだいにとってもより望ましい状況につながる可能性がある.
2. 【きょうだいの居場所をつくる】という働きかけ先述の通り,《きょうだいと入院児を含めた家族の一体感》のある場となることは重要である.しかし,必ずしもそこに至ることができる家族ばかりではないし,きょうだいにとってそれが強要されるものとならないような配慮は必要であろう.入院児と面会するきょうだいに医療者が行っていた【きょうだいの居場所をつくる】という働きかけは,きょうだい自身が面会の場での過ごし方を選択し,自分の意思や気持ちを表出しやすい状況をつくるものであった.
小児がんの子どものきょうだいは,入院児や家族を支えたい気持ちがある一方で,両親の対応の変化による入院児への嫉妬や家族から取り残された感覚を抱くと報告されており(Havermans & Eiser, 1994),今回の観察データでも,入院児と両親の様子を気にしながらも近づくことのできないきょうだいの姿があった.医療者が意識していたかどうかに関わらず,【きょうだいの居場所をつくる】ことで,結果的に,きょうだいのネガティブな感情や葛藤が受け入れられる環境をつくったことも,《居場所のあるきょうだい》につながった一因だと思われた.《家族の一体感》には至らずとも,きょうだいが安心して家族と同じ場に居る《居場所のあるきょうだい》という状況を確保し,子どもの入院に伴う家族の体験に,きょうだいが参加する機会をつくることの意味は大きいと考える.
それでは,【きょうだいの居場所をつくる】ために,どのような環境を整える必要があるのか.今回の調査では,看護師やCLS,保育士らが協力して支援している事例が多かった.看護師は,入院児の状態や両親から得たきょうだいの情報を共有する上で重要な役割を担った.CLSはきょうだいの発達段階に合わせた対応を助言し,その知識を活かして関わっていたし,子どもにとってより身近な存在である保育士の関わりは,きょうだいが安心できる環境につながっていた.多職種が連携できる環境は,入院児の状況に合わせて,より適切にきょうだいを支援できる可能性があり,重要である.一方,複数の医療者が協力することで,両親や入院児への対応を行いながら,常に誰かがきょうだいと関わることのできる環境がつくられていた点にも注目したい.これは,複数の看護師の協力によって行われる場合もあった.CLSや保育士との協力が可能な施設ばかりではないが,きょうだいへの対応を両親だけに委ねずに,複数の医療者が連携することで,【きょうだいの居場所をつくる】ことは重要であろう.
また,きょうだいが過ごす「場所」の選択肢があることも重要である.小児がんの子どもが入院する84施設のうち,院内にきょうだいが待機できる場所があるのは39.3%であったという報告もあり(竹内ら,2019),施設環境の改善は課題である.しかし,本研究に協力した医療者は,面談室での遊びや敷地内の散歩など,利用可能な環境を活用してきょうだいと関わっていた.医療者とのやりとりの中で,きょうだいが両親にも話していなかった気持ちを伝えたり,きょうだいなりのきっかけを得て,自分から入院児のもとへ行く場合もあったことを考えれば,病院環境の中で,きょうだいが過ごせる場所や,過ごし方の選択肢を増やすことは重要である.さらにいえば,面会に来るということ自体も,きょうだいに選択の余地が必要であろう.国内27施設のPICUを対象とした調査では,終末期にきょうだいの面会を許可していたのは23施設であった(Seino et al., 2019).終末期でさえ面会ができないきょうだいがいることにくわえて,終末期に限って面会が許可されることで,きょうだいが,面会に行かざるを得ない状況におかれる可能性に注意する必要がある.面会の場を,きょうだいにとって居心地の悪い場としないためには,きょうだいにより開かれた面会制度によって,「行かない」という選択肢も保証されている環境で,きょうだいの意思で面会が行われることが重要であると考える.
3. 本研究の限界本研究結果は,面会場面の観察と,医療者へのインタビューに基づくもので,きょうだいの主観的なデータは含まれていない.また,両親の視点からも,きょうだいが面会する体験や,医療者の支援について検討する必要がある.
謝辞:本研究に快くご協力をいただきました,すべての研究協力者の皆さま,ならびに協力施設の皆さまに心より御礼申し上げます.なお,本研究は科学研究費補助金基盤研究C(20K10920)の助成を受けて行った.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:RNは研究の着想から最終原稿まで,研究プロセス全体に貢献,SSは研究デザインから最終原稿まで,研究プロセス全体への助言.MIはデータ収集および分析に貢献.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.