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Process Underlying the Creation and Operation of a Hospital Admission System for Patients with COVID-19 from the Viewpoint of Nurse Managers
Yumiko Kuraoka
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2021 Volume 41 Pages 467-475

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Abstract

目的:看護師長の視点で,病院における新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)患者受け入れ体制の構築・運用プロセスを明らかにすることである.

方法:九州地方にあるCOVID-19患者を受け入れた病院に所属し,患者受け入れ体制の構築・運用に携わった,看護師長8名に半構成的面接を実施し,得られたデータを質的記述的に分析した.

結果:COVID-19感染流行期・第1波の際,看護師長は,病院の方針を受けて〔自部署での患者受け入れを受諾〕し,〔急ピッチでの患者受け入れ体制作り〕をした.第1波の沈静後は,〔COVID-19患者に提供する治療・看護の安定化〕を図り,第2波到来から2021年1月にかけて,〔感染再拡大から長期化への対応〕をしていた.

結論:今後の新興感染症流行時の医療提供体制の構築・運用に向けての示唆が得られた.

Translated Abstract

Purpose: This study aimed to clarify the process underlying the creation and operation of a hospital admission system for patients with coronavirus disease 2019 (COVID-19) from the perspective of nurse managers.

Methods: This qualitative descriptive study was conducted with eight nurse managers who were involved with the creation and operation of a hospital admission system for patients with COVID-19 in Kyushu region. Data were obtained through individual semi-structured interviews and then subjected to descriptive analysis.

Results: The admission system involved the following phases. During the first wave of the pandemic, (1) nurse managers decided to accept patients with COVID-19 in their own department, and (2) the nurse managers quickly created a COVID-19 patient admission system, (3) the hospital introduced a stabilized treatment and nursing system for patients with COVID-19, and (4) nurse managers struggled with the operation of a hospital admission system for patients with COVID-19 and coping with re-expansion and prolongation of infection.

Conclusion: These results provide insight into the process underlying the creation and operation of a hospital admission system for patients with COVID-19, and could help to facilitate the introduction of similar systems for emerging infectious diseases in the future.

Ⅰ. 緒言

2020年1月30日,WHOは中国湖北省武漢市における新型コロナウイルス関連肺炎の発生状況が,「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」に該当すると発表した.厚生労働省においては,新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)を感染症法に基づく指定感染症として指定するとともに,検疫法に基づく検疫感染症に指定した.また,3月に新型インフルエンザ等対策特別措置法が改正され,同法の対象に新型コロナウイルス感染症を追加する暫定措置が規定された.4月には,同法に基づく緊急事態宣言が発出された(厚生労働統計協会,2020).

わが国の医療機関では,2020年2月から本格的にCOVID-19患者の入院受け入れが始まった.看護管理者は,刻々と変化する状況の中で,組織としての最善の対応を意思決定し,患者受け入れ病床の準備,物品や人員の確保,業務マニュアルの整備などを行った.これまで,COVID-19患者を受け入れた施設の看護管理者から,それぞれの病院での,COVID-19患者の受け入れの経緯や対応,直面した課題等が報告されている(勝見・千葉,2020久米,2020).

一例として,第二種感染症指定医療機関の看護部長による報告(古林,2021)では,2020年2月から患者の受け入れを始め,それに伴い,COVID-19患者以外の患者の移動,スタッフの配置の変更,応援体制の強化,対策本部の設置,および,院内フェーズ表と事業継続計画(BCP)の作成等を行っていた.加えて,この間に,看護管理者は,看護師への聞き取りや不安へのケア,ならびに,異動の調整をしていた.

また,複数の病院が発表した新型コロナウイルス対応レポートを総括した報告では,看護管理者が直面した課題として,①看護職員の人員調整の必要性,具体的には,「感染防御のための業務量増加による相対的な人員不足」「人員確保の困難さ」「新型コロナウイルス対応のための人員配置の変更」,②診療資材の不足や施設使用の変更,具体的には,「個人防護具の不足と使いづらさ」「施設の使用方法や運用変更の必要性」,③接触を伴う看護ケアにおける困難,④職員のメンタルサポート,⑤倫理的なジレンマ,⑥新しく生じた業務と患者・他職種ができない業務が看護師に集中,が示されていた(鈴木,2020).

これらの課題に対応した看護部長は,「人員調整で細かな異動を繰り返したため,スタッフへの説明や日程調整,物品調達などの行程管理を丁寧に行った.さらに,専用病床で働くスタッフの労務や福利厚生について,現場の要望を聞きつつ病院と交渉し,防疫手当を付与することができた.COVID-19に対応するスタッフの選定に苦慮した」や「自身も感染するリスクを抱えながら,患者の対応に当たらなければならない看護師の感情の葛藤に対応するのに苦慮した.これまで経験したことのない感染症で,有効な薬もないまま恐怖感も大きかったが,感染症科や感染制御部の指導のもと,感染症を正しく理解すること,組織で職員を守ることを看護師に伝えた」など実践した内容について,質問紙調査で回答していた(『看護管理』編集室,2020).

このように,看護管理者は,手探りの状況下で,COVID-19患者の受け入れ体制を整え,COVID-19患者に最善の医療を提供することと,スタッフの安全を守ることの両立を目指し,奮闘してきたといえる.しかし,現時点において,看護管理者による実践報告は限られており,病院においてCOVID-19患者を受け入れたプロセスを体系的にまとめたものは見当たらない.また,これまでの報告は,病院のトップマネジャーである看護部長によるもの(若林,2020)が多い.

看護管理者の中でも医療機関の中間管理者である看護師長は,組織の中心的人物といえ,看護師長の行動は,看護師のパフォーマンスや患者アウトカムに影響を与えること(Shortell et al., 1994)が検証されている.そこで,本研究の研究者は,今後の新興感染症流行時の医療提供体制の構築に向けての示唆を得るために,部署の第一線の管理者としてCOVID-19患者の受け入れに携わった看護師長の視点で,COVID-19患者受け入れ体制の構築・運用プロセスについて明らかにする必要があると考えた.本研究における「看護師長の視点」とは,「看護師長の思考や判断に基づく行動」を指し,COVID-19患者の受け入れに携わった看護師長の思考や判断に基づく行動に焦点を当てた.

Ⅱ. 目的

看護師長の視点で,病院におけるCOVID-19患者受け入れ体制の構築・運用プロセスについて明らかにし,COVID-19の感染拡大状況と関連付けて体系的にまとめることである.

Ⅲ. 方法

1. 研究デザイン

本研究は,病院におけるCOVID-19患者受け入れ体制の構築・運用に着目し,これまで明らかにされてこなかった看護師長の視点からプロセスを記述するため,質的記述的研究デザインを選択した.

2. リクルート方法と研究対象

九州地方には,第二種感染症指定医療機関が92施設,新型コロナウイルス重点医療機関が160施設ある.このうち,機縁法にて7つの病院に研究協力を依頼し,5病院より協力が得られた.COVID-19患者受け入れ体制の構築・運用に携わった看護師長7名と看護副師長1名に,研究協力を依頼し全員から同意を得た.看護副師長1名の所属する部署は看護師長が配置されておらず,実質的に看護副師長が部署の責任者であったことから,看護師長と同等とみなした.

3. データ収集方法

研究者と研究対象者の1対1の対面での半構成的面接を,1人の研究対象者につき1回実施した.面接時間は約1時間とし,研究対象者の許可を得て,面接内容をICレコーダーに録音した.インタビュー内容は,2020年3月から2021年1月までについて,COVID-19患者を受け入れるまでの経緯,事前に準備したこと,COVID-19患者の受け入れが決定してからどのように体制を構築し,運用したか,であった.

4. データ収集期間

2021年1月~2021年3月であった.

5. 分析方法

萱間(2007)の分析方法を参考に,まず,患者受け入れ体制の構築・運用プロセスに関する部分を抽出し要約してコード化した.次に,各コードを比較検討し,類似した意味を持つものをまとめて抽象化したサブカテゴリー名をつけた.各サブカテゴリーを比較検討し,共通性を持つものをまとめて,さらに抽象化しカテゴリー化した.

カテゴリー化する過程で各サブカテゴリーに分類したコードは適切であったかと,各カテゴリーに分類したサブカテゴリーは適切であったかについてデータとの整合性を確認した.妥当性の確保のために,分析過程において,質的研究に精通した研究者によるピアスーパービジョンを受けた.また,全ての研究対象者に個別に,逐語録と分析結果について,確認を依頼した.

6. 倫理的配慮

本研究は,日本赤十字九州国際看護大学研究倫理審査委員会の承認を受けて実施した(承認番号:20-014).研究対象者に,研究参加の任意性と拒否・同意撤回の自由,研究参加による利益,不利益の軽減,個人情報とプライバシーの保護,研究目的に限ったデータの使用,データの保管と破棄,研究結果の公表について文書を用いて口頭で説明し,署名により研究参加の同意を得た.

Ⅳ. 結果

1. 研究対象者の属性

対象者の平均年齢は46.8 ± 4.2歳,看護師長7名の看護師長としての経験年数の平均は4.1 ± 3.4年であった.看護副師長1名の看護副師長としての経験年数は4年であった.性別は,女性5名,男性3名であった.

対象者の所属施設はいずれも九州地方にあり,病床数は約160~1,000床であり,5施設のうち1施設が感染症指定医療機関であった.自部署でCOVID-19患者を受け入れた者が7名,応援部署として看護師を派遣した者が1名であった.面接時間の平均は,64.5 ± 18.5分であった.

2. COVID-19患者受け入れ体制の構築・運用プロセス

COVID-19患者受け入れ体制の構築・運用プロセスを,COVID-19感染拡大状況と関連付け,3つの段階に分けて示す(表1).3つの段階とは,①第1波(2020年3月~2020年5月),②第1波の沈静(2020年6月)から2020年1月,③第2波(2020年9月)から2020年1月,である.

表1 

COVID-19患者受け入れ体制の構築・運用プロセス(2020年3月~2021年1月)

研究対象者が語った内容の分析結果を以下に示した.カテゴリーは【 】,サブカテゴリーは〔 〕,研究対象者の語りは「 」として示す.

1) COVID-19感染流行期・第1波(2020年3月~5月)

第1波の際,看護師長は,病院での方針を受けて【自部署での患者受け入れを受諾】をし,【急ピッチでの患者受け入れ体制作り】をしていた.

(1) 【自部署での患者受け入れを受諾】

看護師長は,所属施設が感染症指定医療機関または重点医療機関であるために,〔病院の方針として患者を受け入れることを通知される〕,〔患者受け入れ部署として選定され決定を受諾する〕という過程を経て,自部署での患者受け入れを決定していた.また,看護師長の担当部署が患者受け入れ病棟として選定された理由として,他患者への感染リスクを最小限にできる構造上のメリットがあることや人工呼吸器を装着した重症患者を担当できる看護師が配属されていることがあった.

(2) 【急ピッチでの患者受け入れ体制作り】

①〔早急に構造整備に取り掛かる〕

看護師長は,自部署での患者受け入れを決定するとほぼ同時に,〔早急に構造整備に取り掛かる〕ことをしていた.まず,看護師長は,その時点で入院しているCOVID-19患者以外の患者を他部署へ移動させ,部署外の患者や職員の立ち入りを防ぐ手立てをとり,さらに,部署内での感染拡大を防ぐためのゾーニングを指示した.これらを早急に進め,患者を受け入れる準備を整えた.

A氏:「4月からは(COVID-19患者を)受け入れるってことになったので,(その時点で)外科の患者さんがまだ入院されていたので,全部転棟させました.移した当日の午後にゾーニングをして,その翌日から患者さんを受け入れる.ちょっと急な感じだったんですよね」

②〔看護師に説明し準備段階の不安に対応する〕

看護師長は,看護部長からの説明の機会を設ける,もしくは,看護師長自身から部署の看護師に患者受け入れの説明をし,不安を抱く看護師の思いを聞き対応していた.看護師長は,看護師の中には,COVID-19患者を看護することを家族から反対された,などの理由で,異動や退職を申し出る者が数名程度いた,と語り,看護師の申し出を受け入れていた.

また,看護師は,COVID-19患者を看護することで,自身への感染のリスクが高まり,そこから,他部署の医療従事者や家族などに感染させる可能性について考え,日常生活上の心配事を抱えていた.具体的には,病院内の更衣室や職員食堂の利用の可否や,自宅とは別の宿泊場所の確保などについて悩んでおり,看護師長は相談に応じていた.

G氏「(看護師の)抵抗,強かったですね.うちの部署が病院の中で選ばれて.なので,スタッフからしたら,“なんで私たちが(COVID-19患者の受け入れを)せんといかん?”となるんじゃないですか.(看護師の)イエス,ノーを,もう聞くこともできなかった,“やってくれますか?”っていうのを.とりあえず,“やるしかないんだよね”っていう.(中略)(看護師から)“これはどうしたらいいんですか?じゃあ,こうなったときはどうすればいいですか?”って,もちろん,いろいろ考えてくれることはありがたいんですが.病院としても決まってないことを決めながら,一つずつ解決じゃないけど,対応していくしかなかったんで,4月が,一番つらかったですね」

③〔COVID-19患者を担当する看護師を選定し配置する〕

看護師長は,部署でCOVID-19患者を受け入れることを看護師に説明した後に,看護師の力量を見極めながら,担当者を決定していた.その際,妊婦や持病がある者など感染するリスクや重症化するリスクが高い看護師を担当から外していた.また,担当から外れて自責の念を抱く看護師に対して,話を聞くなどのサポートしていた.

④〔短期間でのマニュアル整備とPPE着脱訓練をする〕

看護師長は,部署でCOVID-19患者を受け入れることが決定してから,早急に,各学会が公表しているガイドラインなどを参考に,マニュアルの整備とPPE着脱訓練をしていた.その際,院内の感染管理や集中ケア分野の認定看護師のサポートを受けていた.看護師長の中には,COVID-19患者の入院があっという間に決まり,マニュアル作成が間に合わなかった,と語る者もいた.

⑤〔看護師の宿泊場所を確保する〕

看護師長は,部署の看護師が,自身を介して家族に感染が及ぶことを恐れて,自費で宿泊場所の確保や車中泊をしていることを病院幹部に伝え,近隣のホテルや看護師寮といった宿泊場所の確保をしていた.

2) 第1波沈静(2020年6月)~2021年1月

第1波が沈静してから,看護師長は,【COVID-19患者に提供する治療・看護の安定化】を図った.

①〔幹部・関係者会議での情報共有と要望伝達をする〕

看護師長の所属施設では,看護師長を含む関係者や病院幹部を交えた対策会議が開催されていた.ここで,COVID-19患者の治療・看護に関連する情報共有がなされ,看護師長は,看護に必要な物品等を要望し,確保していた.

②〔病床数の増減やゾーニングの変更を決定する〕

看護師長は,日々,刻々と変化するCOVID-19患者数の増減に合わせて,利用病床の拡大や縮小,それに伴うゾーニングや共同浴室等の変更を決定し,その都度,部署の看護師に伝達していた.

③〔陰圧等の設備工事や備品整備を要望する〕

看護師長は,第1波到来時にはできなかった陰圧等の設備工事や,COVID-19患者の病室に持ち込むパソコン等の備品の購入,冷蔵保管庫の設置等を要望し,整備していた.

④〔看護師の患者のQOLを重視した看護を肯定的に評価する〕

看護師長は,看護師が,患者が家族と面会できない状況を改善すべく,窓越しやiPad等を利用して家族との非接触の面会を実施したことや,病室に患者の家族の写真を飾ったり音楽を流したりすることで患者にとって快適な環境を作り出したことを認め,肯定的な評価を返していた.

⑤〔看護師が抱く無力感や軋轢に対応する〕

看護師長は,看護師が,COVID-19患者に対して感染対策のために通常の看護ができずに無力感を抱くことや,感染対策をめぐって看護師間に軋轢が生じたことがあったと語っており,それらに対応していた.具体的には,死亡した患者に対して,看護師が,通常の患者と同様の看取りのケアや家族との面会を実現できなかったことを悔い,遺体を納体袋におさめることに罪悪感をおぼえた時に,看護師の気持ちを共有し,ともに泣いていた.また,PPEの着脱動作が未熟な看護師を攻撃する看護師がおり,間に入っていさめることがあったと語っていた.

D氏「納体袋に患者さんを納めないといけない場面があって,ちょうど看護師2人と私と3人で行ったんですけど,そういう今までにない死後処置で,すごく切なくて,私たち3人とも泣いたんですよね.患者さんを目の前にして,申し訳ないねって言いながら.そういう今までにない看護技術というか,そういったところで,いろいろ思いというか,スタッフと共に感じる部分があったり,共感できる部分があったり.(スタッフに)どう声掛けをしたらいいんだろうとか,一緒になって泣いていいんだろうかとか,そう思いながら」

3) 第2波到来(2020年9月)~2021年1月

①〔看護師の負担軽減のために勤務体制を工夫する〕

看護師長は,COVID-19患者への看護が長期化してきたため,部署の看護師の負担を軽減するために,様々な勤務体制の工夫を講じていた.具体的には,他部署からの応援体制を整えることや,部署内でのオンコール体制の導入などの工夫をしていた.

E氏「患者さんが増えてきたこともあって,一般病棟からの支援ナースを看護部長が聞いてくれるという.元救急病棟で働いてたスタッフとかですね.夜勤だけとかいうスタッフもいるんですけど.一般病棟から来てくれて.すごく助かってます.一般(病棟)からのスタッフは,5人ぐらいは固定で来てくれる.元ICUでの経験があったり,救急病棟での経験がある人はCOVID(患者の担当)に.(中略)助かってます.ちょっとでもいいからですね.いや,本当です」

②〔他職種に対して協力や業務分担を要請する〕

看護師長は,COVID-19患者の治療・看護において,他職種との協働がうまくいかず,看護師に負担がかかっていることを問題視し,他職種に改善を求めていた.具体的には,患者の状態把握や治療方針の決定等で医師と情報共有ができない,検査の実施や検体の運搬等で検査技師や看護補助者の協力が得られないなどがあり,看護師長はそれぞれの職種と交渉していた.

D氏「病棟師長としては,みんな(看護師)が先回りして情報を(医師に)伝えてる.次にこういう処置が行われるっていう段階を踏んで,いろんな準備をしている(ことを認識している).だけど先生が追い付いてないってときに,一番困って,そこは看護部長,院長に発信をして,院長から,その先生に指導をしてもらいながら.COVIDの患者さんに対するカンファレンスが,医局で行われていないのかっていうのを確認して,“してください”ってお願いして.実際やってもらって,チームでこうしよう,ああしようって進めてもらったってところが(あった)」

③〔看護師のメンタルサポート体制を整備する〕

看護師長の所属施設では,COVID-19患者を担当する医療者向けのメンタルサポート体制を整備していた.看護師長は,部署の看護師がメンタルに不調をきたしていないか気にかけ,ストレスを受け止めていた.また,看護師に産業医等からのメンタルサポートを受けるよう促していた.

Ⅴ. 考察

本研究では,2020年3月から2021年1月の病院におけるCOVID-19患者受け入れ体制の構築・運用プロセスについて着目し,COVID-19感染拡大状況と関連付けて,看護師長の視点から明らかにした.まず,第1波の際には,看護師長は,病院の方針を受けて〔自部署での患者受け入れを受諾〕し,〔急ピッチでの患者受け入れ体制作り〕をした.第1波の沈静後は,〔COVID-19患者に提供する治療・看護の安定化〕を図り,第2波到来から2021年1月にかけて,〔感染再拡大から長期化への対応〕をしていた.これら一連のプロセスは,これまで明らかにされてこなかったことであり,本研究から得られた新たな知見である.さらに,病院におけるCOVID-19患者受け入れ体制の構築・運用プロセスの特徴と新興感染症流行時の医療提供体制の構築・運用に向けて得られた示唆について考察する.

1. 病院におけるCOVID-19患者受け入れ体制の構築・運用プロセスの特徴

まず,本研究の結果を,新型コロナウイルス感染症対応マニュアルを参考に考察する.感染症対応マニュアルでは,患者からの感染/患者間の感染への対策として,①適切にゾーニングと確定患者・疑い患者のコホーティングを行う,②適切に個人防護具を装着する,③疑い患者に対して,「陽性患者かもしれない」という心構えをもつ,という3つのポイント(漆畑,2021)を示していた.さらに,重症陽性病棟では,常にPPEを着用したスタッフが常駐する必要があり,レッドゾーンでの長時間の活動を避けるために,十分な人数のスタッフでローテーションを組んで休憩することが重要,と指摘していた.

本研究においても,看護師長は,患者が利用する病床のゾーニングを行い,確定・疑い患者のコホーティングをして隔離を行うとともに,看護師にPPEを装着させることで,患者から医療者への感染や患者間の感染を防いでいた.また,〔看護師の負担軽減のための勤務体制を工夫する〕として,他部署からの応援も得ながら,看護師がCOVID-19患者の看護から外れることができるよう調整していた.このことから,本研究の看護師長は,感染症対応マニュアルに沿った適切な対応をしていたと考えられる.

次に,看護師長が,COVID-19患者を看護する看護師の心身の負担を危惧し,感染再拡大や長期化による看護師のストレスを受け止めていた点に着目する.災害は「自然災害」と「人為災害」に分類され,COVID-19は,「自然災害」の中の「生物学系(疫病,SARS,新型インフルエンザなど)」(國井,2012)に分類できる.COVID-19の感染拡大を災害と捉えて,看護師のストレスについて考察する.

災害医療において,被災地で援助者として働く医療者は,被災者同様に大きなストレスにさらされており,「隠れた被災者」といわれている(前田,2013).具体的には,睡眠・食事・トイレ・入浴など生活条件が十分に確保されない「基礎的(生活)ストレス」,終わりの見えない援助活動による無力感や自己効力感の低下,罪悪感を抱くといった「累積的ストレス」,生命の危機を伴うような重大な出来事にさらされたり,目の当たりにしたりすることでの「危機的(トラウマ的)ストレス」を体験する,と指摘されている.本研究においても,COVID-19患者を担当する看護師は,自らの感染の可能性という危険を伴う業務に就き,心身ともに非常に過酷な状況での活動を求められ,被災地で援助者として働く医療者と同様のストレスを抱えていた,と考えられる.

そして,このように大きなストレスを抱えて働く看護師を,COVID-19患者の受け入れ体制を構築し運用するプロセスの中で,看護師長は支えようとしていた.具体的には,〔看護師のメンタルサポート体制を整備する〕〔看護師が抱く無力感や軋轢に対応する〕ことを行っていた.看護師長は,怒涛の体制構築の中で,看護師の要望を聞き取り,看護師の心身のコンディションを常に気にかけ,可能な限り対応していたと考えられる.この点についても,被災地で働く医療者自身のストレスマネジメント(前田,2013)を参考に,支援の工夫や方法について考えてみたい.

医療者のストレスマネジメント(前田,2013)として,救援に行く前には,①自身の役割の明確化,②無事に行って無事に帰ることを大前提とし,過度な期待や義務を自身に課すことは避ける,救援活動中は,①少しでも休息をとり,可能な限り笑ったり泣いたりする機会をつくる.常に,二人組のバディシステムを活用し,仲間の助言や気遣いを互いに受け入れ合うよう努力する,②自分にも他人にも寛容になる,救援活動後は,①体験をまとめる,②体験を語る,被災地から帰還後のデブリーフィングが有効であるため,積極的に機会を利用するとよい,とある.さらに,これらの方法は,スタッフを被災地に送り出す管理者も心がける必要があるとされている.COVID-19患者の受け入れ体制を待ったなしで構築するプロセスの中では,実現が難しい内容もあるが,COVID-19患者を担当する看護師が少しでも休息をとれるよう調整することや,ひと段落したタイミングで体験をまとめたり語り合ったりすること,を取り入れることは可能であると考える.

続いて,COVID-19患者を受け入れるという組織の決断に従い,患者受け入れ体制の構築や運用に携わった看護師長の葛藤について考察する.本研究では,第1波の際,看護師長は,〔看護師に説明し準備段階の不安を受け止める〕ことをしており,その中で,COVID-19患者の受け入れに抵抗を示す看護師を説得したことや,病院としての方針が定まっていない中で,様々な質問に対応したことを挙げて,2020年の4月が「一番つらかった」と語っていた.

看護管理者が直面する倫理的課題をナラティヴに取り上げた文献(倉岡,2013)では,新興の強毒性の感染症が流行し,患者を受け入れることになった感染症病棟の看護師長が抱く倫理的葛藤を,「組織の使命を果たすこと」と「スタッフの安全を守ること」の対立として示した.ここでは,看護師長が,感染症指定医療機関の管理者として,感染症法で指定された疾患の患者を受け入れなければならないという思いと,感染した場合,看護師の生命に危険が及びかねない強毒性の感染症患者の看護から看護師を外してやりたいという思いの中で揺れ動く様子が描かれており,本研究のCOVID-19患者受け入れ体制の構築や運用に携わった看護師長にも同様の葛藤が生じていたと考えられる.今後,このような葛藤を抱く看護師長への支援の必要性が示唆された.

2. 新興感染症流行時の医療提供体制の構築・運用に向けての示唆

グローバル化が進む現代において,今後もCOVID-19のような新興感染症の流行に直面する可能性は高い.本研究の結果より,新興感染症流行時の医療提供体制の構築・運用に向けて示唆を得た.

まず,病院としてCOVID-19患者の受け入れを決定した後に,ヒト,モノ,カネといった資源を投入し,早急に患者受け入れ体制を構築する必要がある.特に,院内感染を防ぐための構造整備やマニュアルの整備,第一線に立つ看護師への説明と配置が急がれる.また,看護管理者は,看護師の不安を受け止め,職務に専念できるようにサポートすることが重要であり,例として,自分を介して家族に感染を広げたくないという看護師の思いを受け止め,宿泊場所の確保をすることが挙げられる.これらは,感染拡大の緊迫した状況の中,できるだけ速やかに実行しなければならない.そのため,平時から備えることが重要であると考える.

例として,災害時の業務継続計画であるBCP(Business Continuity Plan: BCP)(中島,2019)の立案が挙げられる.BCPの目的は,「不測の事態」に対する具体的な被害想定と重要業務を絞り込み,必要な措置を行うための「備え」を策定し,組織構築や再編および職員教育をすることにある.実際,COVID-19患者を受け入れた病院の看護管理者から,2020年4月にBCPの作成に取り掛かったところ,病院のとるべき行動をブラッシュアップさせ,「患者を守る,スタッフを守る,病院を守る」という視点に立ち戻り,最善の方法を可視化できるツールになった,との報告(古林,2021)があった.今回のCOVID-19患者の受け入れプロセスを教訓にBCPを作成することで,将来の新興感染症流行時に,役立てることができると考える.

次に,感染拡大の沈静化の時期に差し掛かったら,初期に構築した体制を見直し,修正や改善をしていく必要がある.具体的には,院内の会議で,患者の受け入れ状況を共有し,必要な設備工事や物品の調達等を進めていくことが挙げられる.また,看護管理者は,看護師が抱える感染症患者の看護特有の困難さを理解し支援するとともに,看護師の創意工夫に対して肯定的に評価することが求められるだろう.

最後に,感染の収束がみられず再拡大や長期化した場合には,看護管理者は,心身の疲労を蓄積させる看護師の負担を軽減するために,勤務体制の工夫やメンタルサポート体制の整備,さらには,他職種への協力要請を行っていくことが重要と考える.

3. 本研究の限界と今後の課題

本研究の対象者は,九州地方にある5施設に所属する看護師長8名と限定されたこと,また,抽出した各カテゴリーやサブカテゴリーは,看護師長8名全てに共通した内容ではないことから,結果の網羅性には限界がある.さらに,本研究では,研究協力施設の確保を優先したために,研究対象者の所属施設の病床規模にばらつきが生じた.そのため,病床規模の違いが,本研究の分析結果に影響を及ぼした可能性は否めない.

今後の課題として,研究対象者数を増やすことや量的手法を用いることで,結果の網羅性を高める必要がある.加えて,病床規模数等の研究対象者の属性の差異がCOVID-19患者受け入れ体制の構築・運用プロセスに与える影響,また,第4波以降の医療機関におけるCOVID-19患者受け入れ体制を調査することで,本研究を発展させていく必要がある.

謝辞:本研究にご協力いただきました看護師長の皆様に心より感謝いたします.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

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