Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Fall Prevention Support for Elderly Persons at Home Needing Preventive Nursing Care—Effect of Foot Massage on Foot Function—
Harumi Kohri
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2021 Volume 41 Pages 520-526

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Abstract

目的:立位バランスに必要な足底部の皮膚感覚と足趾力を高めるためのフットマッサージを介護予防の必要な在宅高齢者に行い,効果について検討した.

方法:デイサービスを利用する在宅高齢者11名に,フットマッサージを週2回,2ヵ月間行った.皮膚感覚はモノフィラメント,足趾力は足趾力測定器を用い,立位バランスは開眼片足立ち時間を測定し,前後比較分析を行った.

結果:2か月間で皮膚感覚は91%以上の閾値が低下し(p < 0.05),足趾力は全員が向上した(p < 0.05).開眼片足立ち時間も82%が延長した(p < 0.05).フットマッサージの揉みほぐしで感覚受容器の情報入力が改善し,足趾運動で足趾筋力が強化したことや,開眼片足立ち時間の延長によって立位バランスの改善が示唆された.

結論:介護予防の必要な在宅高齢者の転倒予防支援として,フットマッサージは有効となる可能性がある.

Translated Abstract

Purpose: The purpose of this study was to confirm the effect of foot massage to improve the skin sensation of the sole and the toe force necessary for standing balance for elderly persons living at home who need preventive nursing care.

Method: Foot massages were given twice per week for two months to 11 elderly persons at a day service. The skin sensation of the sole of the foot was measured using monofilament, and the toe force required for standing balance was measured using the grip force and time able to stand on one leg with eyes open, and a back-and-forth comparative analysis was performed.

Results: At the end of the two-month period, the sensation of the skin on the sole of the foot improved by more than 91% in all subjects (p < 0.05), and there was improvement in the toe force of all subjects (p < 0.05). Time standing on one leg with eyes open improved by 82% for all subjects as well (p < 0.05). Massage improved the sensory input of the skin, and the associated foot movement improved the strength of the toe muscles, while the length of standing time on one foot with eyes open increased, all of which help to maintain standing balance.

Conclusion: Foot massage may be effective as fall prevention support for elderly people in need of care prevention.

Ⅰ. 諸言

我が国の平成30年度の高齢者人口は総人口の28.1%と超高齢化が進み(国民衛生の動向,2019),要介護認定数も同様に年々増加,医療費と介護保険費用の増大が重要な社会問題であり,要介護状態にならない期間を伸ばすことが喫緊の課題となっている(内閣府,2018).特に高齢者の転倒・転落による骨折などの外傷は,要介護状態の悪化を加速させQOLの著しい低下をもたらすため,介護予防には転倒予防を意図した立位歩行能力の維持・向上が重要である.

転倒予防に関する先行研究(姫野ら,2004)で,介護予防の必要な在宅高齢者の90%以上が足に何らかの変調を有し,立位バランス能力の低下が転倒経験に繋がっていることから,在宅高齢者の多くが立位バランス能力向上に向けたフットケアを必要としていることを明らかにした.しかし,転倒予防支援として検証されているフットケア(姫野・小野,2010)は複合的な効果として考察され,構成する各ケア独自の効果について不明瞭であり,それぞれの効果を検証する必要がある.そこでまず,本研究では介護予防事業で実施が多いと報告される(水本ら,2017)フットマッサージに着目した.足底部の皮膚感覚受容器からの情報入力が立位バランス能力と関連が深い(建内・市橋,2008)ことや,足趾機能が立位バランス能力や移動能力に及ぼす要因である(新井ら,2011)ことが報告されていることから,立位バランス能力に必要な足底部の皮膚感覚と足趾力を高めるためのフットマッサージを介護予防の必要な在宅高齢者に行い,その効果を明らかにし,転倒予防支援としての有効性について検討することを目的とした.

Ⅱ. 研究方法

1. 対象

研究協力機関である施設のデイサービス利用者114人中,週2回利用する介護予防の必要な在宅高齢者で,①自立,もしくは要支援までの認定者である,②立位保持が可能である,③立位に著しく影響を及ぼす神経・骨・関節疾患に罹患中でない,④認知症の診断がない,この4つの条件を満たし,研究協力に対する同意が得られた13人を研究対象者とした.実施期間中に90歳の女性1人,男性1人が体調不良で離脱したため,残りの11人を分析対象者とした.

2. 方法

1) 研究の流れ

研究期間は2019年8月5日(月)~2019年10月23日(水)である.

フットマッサージ開始2週間前に,デイサービスの玄関と施設内に公示文書を掲示し,対象者に個別同意説明を文章と口頭で行った.フットマッサージの実施は個々の利用日に合わせ週2回,合計16回行い,測定は開始前,7回後,終了後の合計3回行った.開始前の測定はフットマッサージ開始1週間前に実施し,7回後と終了後の測定は,フットマッサージ実施直後のバイアスを避けるために翌利用日とした.測定の実施はデイサービスでの入浴前行い,温度変化によるバイアスを最小限とした.

2) フットマッサージの構成内容および実施方法

フットマッサージの所要時間,構成内容について表1に示す.フットマッサージの内容は,足底部の皮膚感覚と足趾力を高めることを目的とし,足全体マッサージ,足の揉みほぐし,足趾体操の3つを片足7分前後,両足15分前後で実施する内容とした.フットマッサージの構成は一般社団法人日本フットケア協会が編集した「フットケアと足病変治療ガイドブック第3版(2018)」にあるセルフフットマッサージの内容を参考とし,決定した.

表1  フットマッサージの構成内容および実施方法
項目順 目的 内容(片足7分前後) 留意点
足全体
マッサージ
副交感神経の活性化による心のリラックス効果 自分の手にワセリンを指の関節1節分とり,両手で包み込むように温め,両手で利用者の足をくるみ,足先に皮膚が動く程度にゆっくりと上にひく 
×5回
片足ずつのため,マッサージしない方の足はバスタオルや掛けもので保護する 
潤滑剤を塗り,皮膚損傷リスクをさける
(30秒前後)
足の
揉みほぐし
揉みほぐしによる刺激で感覚受容器の活性化を図る 
血液循環の改善,筋肉や筋膜のコンディション調整
両手で足を包み,足の裏全体を拇指で押し,もみほぐす 圧のかけすぎによる皮下出血回避のため,対象者に常時圧力について確認を行いながら実施する
(1分前後)
足趾体操 足趾力の向上 
関節可動域の向上
足趾をつまみ,回転させたり,前後に開いたり左右に開いたりする 
足趾の間に研究者の手指を絡ませ握り,対象者の足趾で握り返してもらい,互いの力を抜く 
×5回 
足趾の間に研究者の手指を絡ませたまま,足趾全体を前後に屈曲,背屈させる 
×5回
皮膚への他動運動に伴う皮膚傷害や無理な可動を回避するため,研究者の爪は短く整え,常時声かけを行いながら痛みなどの有無を確認し,実施する
(3分前後)
足関節の関節可動域の向上 足趾の間に研究者の手指を絡ませ,踵部をささえ,グルグル回す 
右回し×5回 
左回し×5回
皮膚への他動運動に伴う皮膚傷害や無理な可動を回避するため,研究者の爪は短く整え,常時声かけを行いながら痛みなどの有無を確認し,実施する
(1分前後)
足の
揉みほぐし
揉みほぐしによる刺激で感覚受容器の活性化を図る 
血液循環の改善,筋肉や筋膜のコンディション調整
両手で足を包み,足の裏全体を拇指で押し,もみほぐす 
圧のかけすぎによる皮下出血回避のため,対象者に常時圧力について確認を行いながら実施する
(1分前後)
足全体
マッサージ
副交感神経の活性化による心のリラックス効果 自分の手にワセリンを指の関節1節分とり,両手で包み込むように温め,両手で利用者の足をくるみ,足先に皮膚が動く程度にゆっくりと上にひく 
×5回
実施最後に,転倒防止のため,ワセリンを拭き取る
(30秒前後)

実施は,対象者がソファに座り足台に両足を乗せる形で座位姿勢を保ち,研究者は対象者が楽な姿勢を保持できているかを確認し,片足ずつフットマッサージを行った.また,フットマッサージは研究者が一人で行い,手技の質を担保した.

3) フットマッサージの評価項目と測定方法および評価基準

(1) 足部機能評価

① 足底部の皮膚感覚

客観的な足底部の感覚閾値を測定するため,体性感覚の評価として非侵襲で知覚障害の評価に広く用いられるモノフィラメント(セメスワインスタインモノフィラメント,酒井医療株式会社)を使用した.測定は集中力が必要となるため,施設のホールから離れた静かな場所で行い,対象者は椅子に着座し,足台の上に両足を伸ばした姿勢をとってもらった.まず対象者の手の甲にフィラメントを押し当て,痛みのない事とフィラメントの感覚を理解してもらった上で目を閉じてもらい,測定を実施した.感覚閾値を示すフィラメントの号数は6段階(2.83, 3.61, 4.31, 4.56, 5.07, 6.65)あり,小さいフィラメント号数から開始する.測定ポイントは左右の足3箇所(拇指・足底前部・踵)で測定し,主要評価箇所はメカノレセプター(感覚受容器)の多い拇指とした.研究者は測定するポイントを押さえる前に「ハイ」と声をかけ,測定ポイントを不規則に押さえた.研究者はフィラメントを1.5秒かけて測定部に直角に押し当てて戻し,対象者に感じた時に一度返事をしてもらい,どの場所に触れたかを答えてもらった.押し当てる回数を4.31以下の号数は3回まで,4.56以上の号数は1回までとし,最初に触感覚と触知場所の回答が合致した号数を採用した.採用した号数は固定された数値のため,サイズの小さい方から順番づけし(2.83 = 1, 3.61 = 2, 4.31 = 3, 4.56 = 4, 5.07 = 5, 6.65 = 6),1を触覚正常,2を触覚低下,3を防御知覚低下,4と5を防御知覚脱失,6を測定不能と数値を置き換え分析することで評価し易くした.よって,番号が低くなるほど感覚閾値が低下した,すなわち感覚機能が改善したと判定した.

② 足趾力

足趾力評価は,立位バランス保持に重要な下肢筋力の指標とされる足趾把持力とし,足趾力測定器(日伸産業株式会社)を用いた.研究者は対象者が足趾力測定器の上に片足を乗せ,膝と足首が直角になるように椅子に座っている事を確認し,足趾力測定器の測定用つまみ部分を拇指と第2趾で挟んでもらうよう説明した.またその際に痛みがないことを確認し,対象者に2本の足趾でじゃんけんのグーをつくるようにつまみ部分を挟み込み,力を入れてもらうよう促した.また実施の際は呼吸を止めないよう,また踵を浮かさないように指示した.測定は左右2回ずつ行い,それぞれ良い方の数値を採用した.足趾把持力の正常値は男性3.0 kg以上,女性2.5 kg以上で,それ以下は転倒リスクが高まる(山下ら,2008)とされる.足趾把持力は,値が上昇するほど改善したと判定した.

(2) 立位バランス能力評価

立位バランス評価の中で,簡便な開眼片足立ち時間を実施した.開眼片足立ち時間は,開眼の状態で片足5 cm程度あげている時間を測定する.開始前に対象者のあげやすい足で2回測定し,良い方の数値を採用した.開始前の測定時にあげた足で7回後,終了後の測定も実施した.1秒以内で瞬時にバランスを崩す者は測定不能者とし,0秒とした.開眼片足立ち時間は,簡便な立位バランスの評価で5秒以内が転倒ハイリスク者とされている(Vellas et al., 1977).開眼片足立ち時間が延長するほど改善したと判定した.

3. 分析方法

足底部の皮膚感覚閾値,足趾把持力,開眼片足立ち時間について,開始前,7回後,終了後の3群に分け比較した.分析はFriedman検定(Bonferroni調整有意確率)を行い,順位付け平均ランク数値で表記し,すべてにおいて有意水準は両側5%とした.データの分析は,IBM SPSS Statistics Ver. 26を用いた.

Ⅲ. 倫理的配慮

対象者に研究計画書及び同意説明文書を用いて個別に文書及び口頭による十分な説明を行い,自由意思による同意を文書で取得した.本研究は宮崎大学医学部医の倫理委員会の承認を得て実施した.(承認番号O-05040)

Ⅳ. 結果

1. 対象の基本的特性と健康状態

対象者の平均年齢は,86.9 ± 7.3歳(70.2~93.9歳),男性1人(9%),女性10人(91%).うち,90歳前半が4人(36%)であった.要支援・要介護区分では,事業対象者が5人(45%),要支援2が6人(55%)であった.歩行状態は,独歩1人(9%),シルバーカー3人(27%),杖歩行7人(64%)であったが,いずれも補助的に使用しており,過去1年以内に転倒歴のある対象者は5人(45%)であった.糖尿病の治療中で,神経障害の可能性のある対象者が3人(27%),膝変形性関節症の対象者が2人(18%),ADLに関連のある既往歴で脳梗塞が2人(18%),大腿骨折でプレート固定術を受けている対象者が1人(9%)いたが,いずれも立位に問題はなかった.

厚生労働省監修,介護予防テキストの転倒チェックシートにある服薬による転倒リスク(血圧薬,睡眠薬,精神安定剤いずれかを服用)に当てはまる対象者は10人(91%)で,内服薬を5種類以上服用している対象者は,8人(73%)であった.

2. 足部機能と立位バランス能力の経時的変化

各測定項目の3時点での測定値を表2,各測定項目の経時的変化を表3に示し,結果を説明する.

表2  3時点における各項目の測定値 n = 11
対象者
番号
拇指底面感覚(右) 拇指底面感覚(左) 足趾把持力(右):kg 足趾把持力(左):kg 開眼片足立ち時間:秒
開始前 7回後 終了後 開始前 7回後 終了後 開始前 7回後 終了後 開始前 7回後 終了後 開始前 7回後 終了後
1 5 5 4 4 4 3 3.0 2.3 2.4 2.7 2.0 3.5 .0 3.2 2.8
2 3 3 3 2 3 2 .9 2.0 2.0 .2 .6 .8 .0 1.5 2.3
3 3 2 1 2 2 1 1.6 4.4 4.4 .5 2.8 4.4 52.9 28.9 29.8
4 4 3 3 6 5 3 1.2 1.8 2.5 .5 .3 1.2 .0 2.6 1.7
5 5 4 2 5 3 2 1.4 2.9 3.3 .9 1.3 2.0 2.4 5.0 2.5
6 4 2 1 3 2 1 .5 .3 3.1 .3 .2 0.7 .0 1.8 1.9
7 4 4 3 4 4 3 1.8 1.4 4.0 1.9 1.8 4.0 .0 2.9 2.1
8 3 3 3 3 3 3 .8 1.1 2.0 0.8 .6 1.4 3.2 2.3 2.9
9 2 2 1 6 2 1 1.3 2.3 3.2 1.2 2.5 2.6 .0 2.6 2.6
10 1 2 2 1 2 1 3.3 3.3 4.3 3.1 3.3 3.7 .0 1.5 1.7
11 4 3 2 4 3 3 1.7 2.0 2.6 1.7 1.9 1.9 .0 1.3 2.2
Mean ± SD 3.5 ± 1.2 3.0 ± 1.0 2.3 ± 1.0 3.6 ± 1.6 3.0 ± 1.0 2.1 ± .9 1.6 ± .9 2.2 ± 1.1 3.1 ± .9 1.3 ± 1.0 1.6 ± 1.1 2.4 ± 1.3 5.3 ± 15.8 4.9 ± 8.0 4.8 ± 8.3
表3 

3時点における各項目の経時的変化の分析

 n = 11

1) 足部機能の変化

(1) 足底部の皮膚感覚閾値の変化

測定した3ヶ所の足底部の皮膚感覚閾値は,開始前に防御知覚低下及び防御知覚脱失の状態であったが,全測定部位が終了後には触覚低下及び触覚正常となった.主要評価項目とした拇指足底部(以下足底部を省略)の皮膚感覚について以下に詳しく結果を述べる.右拇指は,開始前の触覚正常が1人(9%)であったが終了後に3人(27%)となった.左拇指は,開始前の触覚正常が1人(9%)であったが,終了後には4人(36%)となった.開始前と比べ終了後に感覚閾値が維持及び低下を示したのは,右拇指で10人(91%),左拇指で12人(100%)であった.Friedman検定による開始前,7回後,終了後の3群比較で有意差がみられたのは,右拇指で開始前と終了後(p = .023),左拇指で開始前と終了後(p = .009),7回後と終了後(p = .043)であった.

(2) 足趾把持力の変化

足趾把持力値は,左右とも開始前と比べ終了後に12人(100%)の足趾把持力値が向上した.うち男性1人の左右の足趾把持力値は,向上したが男性の正常値3.0 kg以下であった.残りの女性10人の右足趾把持力値で開始前に女性の正常値2.5 kg以上を示していたのは2人(20%)で,終了後は8人(80%)に増えた.同様に女性の左足趾把持力値で開始前に正常値以上を示したのは2人(20%)で,終了後は5人(50%)に増えた.Friedman検定による開始前,7回後,終了後の3群比較で有意差がみられたのは,右足趾把持力値で開始前と終了後(p = .003),7回後と終了後(p = .043),左足趾把持力値で開始前と終了後(p = .001),7回後と終了後(p = .004)であった.

2) 立位バランスの特徴と変化

(1) 開眼片足立ち時間の変化

開眼片足立ち時間は,開始前と比べ終了後に9人(82%)の開眼片足立ち時間が延長した.開始前に開眼片足立ち時間0秒が8人(73%)を占めたが,12人(100%)が7回後,終了後共に開眼片足立ちができるようになった.開始前から終了後まで10人(91%)の開眼片足立ち時間が5秒以下であった.Friedman検定による開始前,7回後,終了後の3群比較で有意差がみられたのは,開始前と終了後(p = .032)であった.

Ⅴ. 考察

1. 対象の特徴と健康状態

本研究の対象者の平均年齢は高く(90歳前半が全体の1/3),過去1年以内の転倒歴のある者が46%と半数近くを占め,杖やシルバーカーを補助的に使用している者が全体の91%を占めていた.高齢者は加齢に伴う姿勢の変化や身体的な衰えにより転倒しやすくなり,過去に転倒歴がある者は再転倒のリスクが高くなること(眞野,1999)や,杖やシルバーカーの使用者は,使用しない者と比べ転倒リスクが2倍になる(泉,2009)ことが明らかにされている.これらから,本研究の対象者は転倒しやすく,転倒リスクが高いことが伺えた.さらに対象者は複数の病歴を抱え,73%が5種類以上の多剤服用であった.薬剤数が5種類以上の服薬は転倒のリスクが服薬のないものに比べ4.5倍(小島,2018)と示されていることや,服薬内容では降圧剤による起立性低血圧や睡眠薬によるふらつきなどが易転倒を誘発することが考えられる.本研究の対象者は多剤服薬であったことや服薬の内容からも,ふらつきやつまずきを生じ,立位バランスが崩れやすい状況にあると考えられた.

これらより本研究の対象者は,加齢に伴う生理的な立位バランス能力の低下以外に,疾患や服薬などでも立位バランスを崩しやすい状態にあり,要介護にならないための転倒予防支援が必要であると考えられた.

2. フットマッサージによる直接的効果

1) 足部機能に及ぼす効果

本研究のフットマッサージは,足全体マッサージ,足の揉みほぐし,足趾体操の3つの内容で構成した.

足底部の皮膚感覚の改善を目的としたフットマッサージの構成内容は,足の揉みほぐしである.足の揉みほぐしは,足底部に配置する感覚受容器の多い部位を中心とし,足全体に研究者の拇指で指圧を加える1分前後の動作を構成の中に組み込んだ.フットマッサージ開始前の感覚閾値は対象者の測定部位すべてにおいて,防御知覚低下及び防御知覚脱失の状態を示した.これは皮膚において物理的,機械的に刺激を感知する触覚,圧覚の感覚受容器の触覚小体の数が老化と共に減少し,感受性が鈍くなっていることが推測され,危険に対して高齢者が無防備になっていることが考えられる.しかし,フットマッサージ終了後に測定部位すべての平均が,感覚閾値の低下及び正常の状態にまで改善した.本研究では特にバランス能力において感覚受容器が集中し,大きな圧がかかる拇指底面を主要評価としたが,左右の拇指いずれも開始前と比べ終了後に感覚閾値の平均が低下し,有意差がみられた.3時点の変化においても,左右の拇指共に8割以上の感覚閾値が低下し,触覚正常に改善した者が増えたことから,足の揉みほぐしによる皮膚への刺激で残された感覚受容器の感受性が賦活化され,感覚伝達入力が高まったことが考えられた.

足趾力の改善を目的としたフットマッサージの構成内容は,足趾体操である.足趾体操の実際は,主任究者の手指を対象者の足指に組み合せ,対象者の足の指で主任研究者の手指を握り返してもらう自動運動や主任研究者が行う足趾の曲げ伸ばしなど,4分程の運動を組み込んだ.新井ら(2011)は,加齢に伴い足趾把持力が大きく低下することを明らかにしているが,本研究の対象者も開始前は足趾把持力の低下が認められていた.しかし,フットマッサージ終了後には両足趾ともに足趾把持力が正常値以上になる者が増え,左右いずれも開始前から終了後に有意差がみられたことから,加齢による足趾力の低下は,足趾体操で改善されることが考えられた.足趾力の評価とした足趾把持力は,姿勢保持や前傾姿勢の安定性で必要とされるため,改善すれば地面を掴むような足趾の動作が踏みとどまる力として転倒回避に役立つ可能性が考えられる.また要介護高齢女性の足部は,柔軟性が高いほど足把持力が強いこと(安田・村田,2010)が明らかにされていることから,本研究のマッサージの揉みほぐしが皮膚や筋肉の柔軟性を高め,足趾把持力の向上に寄与したのではないかと考える.

また,足底部の皮膚感覚と足趾把持力に共通して有意差が得られたのは開始前と終了後であり,共に効果をだすには週2回,16回の継続実施が有効であることが明らかとなった.

2) 立位バランスに及ぼす効果

本研究では,転倒予防支援としての有効性を検討するために,開眼片足立ち時間を測定した.高齢者の年齢階級別の体力測定の先行研究(木村ら,1989)では,開眼片足立ち時間は年齢とともに短縮し,80歳では男女共に平均が3秒前後である.本研究でも80歳以上が9人(91%)を占め,そのうち開始前の開眼片足立ち時間測定不能者が8人(73%)いたことから,加齢により立位バランスが低下していることが考えられる.しかし,本研究の開眼片足立ち時間は開始前に比べ,終了後に開眼片足立ち時間の延長を示した対象者が9人(82%)を占め,開眼片足立ち時間の経時的変化において開始前から終了後に有意差がみられた.これと同時に,足部機能に及ぼす効果も開始前から終了後に得られたことから,フットマッサージの足部機能に及ぼす効果が立位バランスの改善に繋がっていることが考えられた.井原ら(1997)は,足趾訓練で足握力が改善するだけでなく,感覚受容器が賦活し,静的バランスを改善させたことを報告している.本研究のフットマッサージも,足趾運動による足趾力の改善だけでなく,足趾運動の刺激で感覚受容器の感受性が賦活化され,感覚伝達入力が改善したことが,立位バランスの改善に繋がったと考える.

開眼片足立ち時間は5秒以内が転倒ハイリスク者とされるが,本研究の対象者10人(91%)は開始前から終了後までいずれも5秒以下であり,転倒ハイリスク者であることには変わりない.しかし,本研究のフットマッサージが立位バランスに及ぼした効果は,足底部の感覚伝達入力と足趾力を向上させただけでなく,皮膚や筋肉の柔軟性を改善させたことが,地面を確実に捉えふんばる力に繋がったと考える.

3. 介護予防の必要な在宅高齢者への転倒予防支援にむけたフットマッサージの有効性

転倒予防は超高齢社会の大きな課題であり,予防的観点からエビデンスのあるケアが必要とされている.介護予防の必要な在宅高齢者に皮膚感覚と足趾力向上を目的としたフットマッサージを実施することで,立位バランスに関連する足部機能が整い,より効果的な転倒予防支援となる可能性が示唆された.フットマッサージは看護において生理的効果だけでなく,より強い心理的効果があることが明らかにされている(鬼頭ら,2014).本研究でも「気持ちが上向きになった」「歩くのに自信がついた」など,意欲の向上と取れる言葉が聞かれたことから,コミュニケーションやタッチングが相乗的な効果をもたらしたことも考えられ,フットマッサージの実施が立位バランスの維持向上だけでなく,在宅高齢者の自立した生活の維持や,意欲を支えるケアに繋がることも期待される.

Ⅵ. 本研究の限界と今後の課題

本研究は1施設に行った結果であり,介護予防の必要な在宅高齢者のうち,デイサービスに通所する認知症のない超高年齢層に偏った.介護予防の必要な在宅高齢者のうち,歩行可能な認知症高齢者は除外されているため,結果の一般化には限界があると考える.

今後他施設での様々な対象に向けた検証を行い,フットケアを構成する項目それぞれの転倒予防効果を明らかにしていくことや,因果関係についても検証していくことが課題である.

付記:本稿は,研究者の修士論文に加筆・修正を加えたものであり,本稿の一部を第40回日本看護科学学会学術集会において発表した.

謝辞:本研究にご協力いただきました対象者の皆様,研究協力施設の皆様に心よりお礼申し上げます.また本研究において,ご教授いただきました宮崎大学地域・精神看護学講座の先生方に感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

文献
 
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