Journal of Japan Academy of Nursing Science
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The Reason for Taking a Job and Turnover among Public Health Nurses on Remote Islands
Maki ChinenShinobu MakiuchiSumiko MiyazatoNaoki NagahamaMidori Kamizato
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2021 Volume 41 Pages 573-582

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Abstract

目的:小規模町村離島における保健師の離島への就職を決めた理由や辞めたいと思った出来事,離職の理由を明らかにする.

方法:小規模町村離島を離職した保健師と現職の保健師,計10人に半構造化面接を行い,質的記述的に分析した.

結果:離島での就職を決めた理由は【島の住環境や交通の便の良さ】【離島の生活や保健師活動への興味】等の7つのカテゴリで構成されていた.現職保健師の辞めたいと思った出来事は【改善が困難な業務の忙しさ】【家族のライフイベントを大切にした選択】等4つのカテゴリで構成されていた.保健師の辞めた理由は【島が閉鎖的で見られているような感じ】【自身や家族のライフイベントを大切にした選択】等6つのカテゴリで構成されていた.

結論:保健師が小規模町村離島に就職を決めた理由は,島の環境の良さや交通の便,島の保健活動への興味等であった.現職保健師の辞めたいと思った出来事,離職保健師の辞めた理由は,改善が困難な業務の忙しさ,離島の閉鎖的でプライバシーがない感じや自身や家族のライフイベントだった.

Translated Abstract

Purpose: This study aimed to clarify that taking a job and turnover reasons, the event that they want to resign their job among public health nurses on remote islands.

Method: The researcher qualitatively analyzed data generated through semi-structured formal interviews with 10 public health nurses who worked on or resigned from remote islands.

Results: Seven categories of the reason for taking a job on the island emerged from the interview data: [Comfortable living environment on the island and access conveniently], [Curiosity of living and public health nurses’ activity on an island] and others.

Four categories emerged as the event that public health nurses want to quit their job from the interview data: [Feel like jobs become chronic and no way to solve the problem], [Job busyness which hard to improve] and others.

Six categories emerged as the reason for resigning from their job from the interview data: [Island was an insular community and it felt uncomfortable due to somebody watching me all the time], [The choice which respected personal and family life event] and others.

Conclusion: The island environment, access conveniently, and interest in health activity on islands were the reason for taking a job. The events that public health nurses want to quit their job and the reasons they resigned were job busyness which hard to improve, closedness of island and no privacy, personal life event and family life event, and others.

Ⅰ. 緒言

全世界人口の43.85%は,へき地に住んでいる(World Bank, 2020).また,へき地の医療職はそうでない地域の2倍以上も不足しており(ILO, 2014),多くの国でへき地や遠隔地の看護職の確保・定着が課題となっている(Russell et al., 2017Norbye & Skaalvik, 2013Rawal et al., 2015Kulig et al., 2015WHO, 2020).

日本は,国土が6,847の島嶼で構成されており,本州・北海道・九州・四国・沖縄本島を除いた6,847のうち418が有人島であり,その中の305(73%)が,離島振興法や特別措置法などの法対象となっている離島である(国土交通省,2012).本州を含む5つの島に含まれる沖縄県は島嶼県であり,41市町村中,離島が15市町村(36.6%)そのうちの13町村(28.9%)は,人口規模が1万人未満の小規模町村(総務省,2008)の離島(以下,小規模町村離島とする)である.

海外と同様に日本でも,島嶼やへき地で働く看護職の確保については課題であることが報告されている(春山,2008稗圃・山﨑,2015戸田ら,2012中川・高瀬,2016).実際,沖縄県内の小規模町村離島では,地域保健法が施行された平成9(1997)年より,町村が確保した保健師が1~2人の体制で活動しているが,短期間で離職する者も少なくない.厚生労働省(2019)が実施した平成30(2018)年度保健師活動領域調査においても,人口1万人未満の沖縄県内の小規模町村離島に勤務する保健師の離職率は12.5%であり,全国(7.9%)や,全国の人口1万人未満の小規模町村(7.0%),沖縄県(6.0%)と比較すると,約2倍の離職率となっている.さらには,保健師の離職後の安定した人材確保も難しいことが多い(沖縄県,2018).

へき地の看護職を対象に実施された,海外の先行研究についてまとめた知念ら(2020)の文献検討では,組織へのコミットメントや仕事満足度,地域への適応,地域の環境,レジリエンス等の個人の特性,家族の要因が,離職や継続勤務につながる要因としてあげられていた.国内の先行研究では,離島やへき地で勤務する保健師の人材確保や離職に関する研究は限られている.

本研究の目的は,小規模町村離島に勤務する保健師や離職した保健師を対象に実施した調査から,離島への就職を決めた理由や辞めたいと思った出来事,離職の理由を明らかにし,離島に勤務する保健師の人材確保・定着の課題解決へ向けた一助とすることである.

Ⅱ. 研究方法

1. 研究デザイン

本研究は,インタビューデータを用いた質的記述的研究である.

2. 研究参加者の選定

研究参加者の選定は,機縁法を用いた.実習等をとおして,研究者が現在の小規模町村離島での勤務の状況を知っている保健師や,その保健師から紹介のあった保健師に対し,メールで連絡し返信のあった者を研究参加者とした.連絡を取った13人のうち返信があった10名に,研究者より,研究の趣旨,個人情報保護への配慮,研究結果の公表等を説明し同意を得た.研究参加者の内訳は,小規模町村離島を離職した保健師6人,小規模町村離島に10年以上継続勤務している保健師(以下,現職の保健師)4人の計10人である.

小規模町村離島の現職の保健師の勤務期間を10年以上とした理由は,沖縄県の統計より,小規模町村離島に勤務する保健師の多くが5年以内に離職していたことから,10年以上勤務している者は,その島に定着していると判断したためである.

また,本研究では,小規模町村離島への就職を決めた理由が,離職した保健師と現職の保健師で違いがあるのか,また,辞めたいと思った出来事や辞めた理由にも影響を与えるのか確認したいため,離職した保健師と現職の保健師,両方を研究参加者とした.

3. 調査期間

インタビュー調査期間は,2019年8月から11月である.

4. 調査方法と内容

調査方法は,インタビューガイドを用いた半構造化面接である.

研究参加者の勤務先や研究者の勤める大学等,参加者に選択してもらった場所でプライバシーが守れる部屋を確保し,インタビュー調査を実施した.

インタビューに先立ち,研究参加者の属性(年齢,性別,小規模町村離島に勤務したまたは勤務している年数,離職後の状況(離職者のみ))をフェイスシートに記入してもらった.インタビューでは,参加者全員に対し「離島に就職を決めた理由」,現職の保健師には「小規模町村離島を辞めたいと思った出来事」,離職した保健師には「小規模町村離島を辞めた理由」を尋ねた.

5. 分析方法

分析方法は,まずインタビューデータを逐語録に起こし,小規模町村離島に就職を決めた理由,辞めたいと思った出来事や辞めた理由に関連する発言を対象者ごとに抽出し,意味のあるまとまりごとに簡潔な文章でまとめコードとした.全体分析として,コードの共通点を比較することにより分類し,共通点を見出して命名しカテゴリ化した.また,分析の過程で,共同研究者によるピアレビューの機会を持つことで確実性を確保した.さらに,研究参加者に内容確認を依頼し,分析結果の信用性を確保した.

6. 倫理的配慮

本研究は,沖縄県立看護大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:19005).研究参加者及びその職場に,研究の概要,研究協力による利益や不利益,研究協力や途中辞退の自由,個人情報やプライバシーの保護,結果の公表について口頭ならびに書面で説明し同意を得た.半構造化面接は,所要時間を説明し業務に支障をきたさないよう配慮し,参加者の希望する場所と時間を指定してもらい,個室又はそれに準じる環境を準備した.

Ⅲ. 結果

1. 研究参加者の基本属性

研究参加者は10人で,うち9人が女性であり,年代は20代と40代が各4人,50代2人であった.小規模町村離島を離職した保健師が6人,現職の保健師が4人であった.離職した小規模町村離島での勤務年数は,1~8年と幅があり,平均すると3年であった(表1).また,離職後の状況は,他市町村へ保健師として就職した者が3人,別の小規模町村離島に保健師として就職した者が2人,訪問看護師に転職した者が1人であった.研究参加者の中には,小規模町村離島の保健師として複数回離職し,別の小規模町村離島へ再就職している者もいたが,対象が特定される恐れがあるため,研究参加者の概要には離職の回数などは明記せず,最近離職した小規模町村離島での勤務年数のみを記載した.インタビュー時間は総計470分であり,一人平均47分だった.

表1  研究参加者の概要
性別 年代 離職・現職 離職した小規模町村離島での
勤務年数
離職後の状況
A 女性 20代 離職 1 他市町村へ保健師として就職
B 女性 20代 離職 2 別の小規模町村離島に保健師として就職
C 男性 20代 離職 3 他市町村へ保健師として就職
D 女性 20代 離職 3 他市町村へ保健師として就職
E 女性 40代 離職 1 別の小規模町村離島に保健師として就職
F 女性 50代 離職 8 訪問看護師に転職
G 女性 40代 現職
H 女性 40代 現職
I 女性 40代 現職
J 女性 50代 現職

2. 分析結果

小規模町村離島に勤務する保健師が就職を決めた理由,現職の保健師が小規模町村離島を辞めたいと思った出来事,離職した保健師が小規模町村離島を辞めた理由について分析した結果,就職を決めた理由として16のサブカテゴリと7つのカテゴリ(表2),辞めたいと思った出来事では,9つのサブカテゴリと4つのカテゴリ(表3),辞めた理由では,15のサブカテゴリと6つのカテゴリ(表4)が抽出された.以下にカテゴリ及びサブカテゴリを順に取りあげて記述する.なお,カテゴリは【 】,サブカテゴリは〈 〉,インタビューで研究参加者から語られた内容を「 」,語りの補足は( )で示す.また,研究参加者の中には,複数回小規模町村離島を離職している者もいるため,最近離職した際の理由だけでなく,以前勤めていた小規模町村離島を離職した理由についても合わせて抽出し分析した.

表2  小規模町村離島に保健師として就職を決めた理由
カテゴリ サブカテゴリ コードの例
島の住環境や交通の便の良さ 島の環境が良かった 以前働いていた場所と似た環境や住民性の島
交通の便が良く,ある程度生活できる環境の島
本島からの近さや交通の便で島を選んだ 地元から近くアクセスも良い島
何かあったらすぐに帰れる島
保健師の住宅が確保されていた 保健師住宅があることは島を選択する要件として大きい
住む場所(駐在保健師の住宅)があった
保健師の確保に熱心な島 見学に行ったときに先輩や役場の人が自分のことを歓迎してくれた 自分を誘ってくれた保健師の先輩の言葉でその気になった
町村長や役場が保健師確保に熱心だった 町村長や役場が保健師確保に対して一生懸命だった
学校での離島保健師活動にふれる機会と教員からの推薦 学校の実習や講義などから離島保健師に興味を持った 大学の離島実習で離島を訪れ好印象だった
大学の講義からの離島への興味がわいた
学校や教員が離島での就職を勧めた ゼミの先生から離島での就職を提案された
保健師確保に熱心な離島への学校の推しがあった
離島の生活や保健師活動への興味 離島での住民の暮らしや保健活動に興味があった 保健師の仕事が全般的に体験できる離島での活動に期待した
人と人との関係の濃さに魅力を感じた
離島に関心があるときに募集を目にした 一番最初に目に入った募集の島に決めた
卒業時に募集のあった島から選んだ
実際に島に行くことで愛着や興味がわいた 同じ島を何度も訪れるほど好きだった
キャリア選択の
一つ
離島で保健師をしたいと思った 最初から離島の保健師を希望した
選択肢の中に,大きな自治体だけでなく離島もあった
年齢的なことから離島に行くことを決めた 離島に行くなら新卒の今しか行けないという気持ち
のんびりと仕事がしたかった 小さいところでのんびり仕事がしたかった
就業期限を決めて就職 数年のつもりで希望した 3年の予定で就職を決めた
離島で長く働く予定はなかった
離島就職への家族の容認と後押し 家族の反対・説得を経て就職を認めてくれた 離島へ就職することへの母親の反対を親せきが説得した
離島へ就職せず近くの市町村にしてはどうかと親に言われた
家族が背中を押してくれた 父親が,やりたいことをやったらいいと背中を押してくれた
親は,離島でも正規職員ならいいと背中を押してくれた

太字のコードは,離職した保健師の語りからのコード

表3  現職の保健師が小規模町村離島を辞めたいと思った出来事
カテゴリ サブカテゴリ コードの例
関係機関とのトラブル 島の関係機関とのトラブルがあった 島の関係機関とのトラブルがあった
仕事の慢性化や解決の見えない閉塞感 湧いてくる仕事に解決策も刺激もなく苦しくなる 解決できずに仕事が湧いてきて,離島で保健師をやっていることにつかれた
解決策や新しい情報も刺激もなく,働いていると苦しくなってきた
住民にとっても自分にとってもこのままでいいのか苦悩する 仕事をたくさんやっているが,ずっと変わらない気がする
やっていることが身にならず,住民のためになっているか疑問がでた
改善が困難な業務の忙しさ 忙しすぎて仕事自体が嫌になる 忙しすぎて仕事以外何もしていない感じがして辞めてやろうと思う
島の行事が多く土日も救護などでつぶれる
役職に就いても保健師業務が減るわけではない 役職についても,保健師の仕事は分担できずそのまま担当している
私の代わりをやってくれる人がいない
多忙な業務への改善を求めてもらちがあかない 上司に役場全体の事業の見直しを提案するが聞き届けられず,やる気がそがれる
町村長にも行革の直談判をしたが変わらない
家族のライフイベントを大切にした選択 子供が小さくて子育てと仕事の両立がむずかしい 子供が小さいときは,しょっちゅう休んで自分の仕事ができない
子供のことで仕事を休むため,みんなに迷惑がかかり何度も辞めたいと思う
子供の成長や進学で離職を考えた 島で働いていたら,子育てや進学が離職を考える大きなきっかけになる
子供が高校に行くときに島を出ようかと考える
本島にいる家族のために島を出ようと考えた 本島家族に介護が必要になったら離職を考える
表4  離職した保健師が小規模町村離島を辞めた理由
カテゴリ サブカテゴリ コードの例
島が閉鎖的で見張られているようで窮屈 住民が閉鎖的だった 住民が閉鎖的だった
見張られているような感じで窮屈だった いつでも一挙一動,見張られている感じで窮屈だった
職場の人間関係のトラブル 職場で嫌がらせや責められる等のトラブルがあった 同じ課内に合わない人がいて,苦しくなり辞めた
体調不良で仕事ができないことを責められた
他の職員から飲み会の席での嫌がらせがあった
上司との関係が悪く改善を要求しても変わらなかった 上司との関係が悪かった
上司が勤務継続の条件を一切守らなかった
多忙による体調不良 働きすぎで体調不良になり辞めざるをえなかった 土日も働き座っているのもしんどかった
辞めたくなかったが,体調が改善しないため退職に踏み切った
一人体制ゆえの成長の機会の得られにくさ 保健師一人だと研修に行きたくてもいけない 保健師一人体制で研修にもいけない
保健師の体制の課題は長年勤めても変わらないと感じた
常に力不足を感じていた 常に力不足を感じていた
家庭訪問などの技術的に不安な部分のフォローはなかった
ロールモデルがいない ロールモデルがないことが一番大きな理由
自分で決めた就業期限の到来 離島で働く期限を決めていた 3年を一区切りにしていた
結婚に関係なく3~5年で本島に戻っていた
自分の地元で保健師をしたいと思った 自分で決めていた節目に,地元で保健師を選択した
自身や家族のライフイベントを大切にした選択 結婚や妊活のため島を出ようと考えた 大学時代からの彼氏と結婚するため
子供が欲しいがなかなかできなかった
育児環境が十分でなく離職を考えた 保育園が島になかった
島内に頼る人がなく,育児をするうえで大変さを感じた
子供の成長や進学で離職を考えた 子供が島で中学を過ごす限界を感じた
子供の進学で島から異動してもいいと思う
家庭やパートナーのことを考えて島を出ようと考えた パートナーの仕事の都合で出ることを決めた
家族がバラバラになるため,家族のことを考えてもどらないといけないと感じた
本島にいる家族のために島を出ようと考えた 母親に戻ってくるよう言われていた

1) 小規模町村離島で保健師として就職を決めた理由

小規模町村離島で保健師として就職を決めた理由は,【島の住環境や交通の便の良さ】【保健師の確保に熱心な島】【学校での離島保健師活動にふれる機会と教員からの推薦】【離島の生活や保健師活動への興味】【キャリア選択の一つ】【就業期限を決めて就職】【離島就職への家族の容認と後押し】の7つのカテゴリで構成されていた(表2).表2の太字での記載は,離職保健師の語りからのコードである.6つのカテゴリに,離職保健師と現職の保健師のコードからなるサブカテゴリが含まれていた.

(1) 島の住環境や交通の便の良さ

3つのサブカテゴリ〈島の環境が良かった〉〈本島からの近さや交通の便で島を選んだ〉〈保健師の住宅が確保されていた〉で構成されていた.

(2) 保健師の確保に熱心な島

2つのサブカテゴリ〈見学に行ったときに先輩や役場の人が自分のことを歓迎してくれた〉〈町村長や役場が保健師確保に熱心だった〉で構成されていた.このカテゴリは,現職の保健師の語りのみで構成されていた.「一緒にやろうって言ってくれた先輩(保健師)の声も大きかった」(J保健師).

(3) 学校での離島保健師活動にふれる機会と教員からの推薦

2つのサブカテゴリ〈学校の実習や講義などから離島保健師に興味を持った〉〈学校や教員が離島での就職を勧めた〉で構成されていた.「大学がK県っていう離島が多い所の県立大学だったので,離島実習とかも結構あったし…」(D保健師).

(4) 離島の生活や保健師活動への興味

3つのサブカテゴリ〈離島での住民の暮らしや保健活動に興味があった〉〈離島に関心があるときに募集を目にした〉〈実際に島に行くことで愛着や興味がわいた〉で構成されていた.「保健師をしたくて(離島だと保健師の仕事が)全体的に見れるというか」(G保健師).

(5) キャリア選択の一つ

3つのサブカテゴリ〈離島で保健師をしたいと思った〉〈年齢的なことから離島に行くことを決めた〉〈のんびりと仕事がしたかった〉で構成されていた.「島に行くなら多分新卒でしか行けないかなっていう気持ちが自分の中にもあって…」(G保健師).

(6) 就業期限を決めて就職

1つのサブカテゴリ〈数年のつもりで希望した〉で構成されていた.

(7) 離島就職への家族の容認と後押し

2つのサブカテゴリ〈家族の反対・説得を経て就職を認めてくれた〉〈家族が背中を押してくれた〉で構成されていた.「(母は反対していたが,父に相談した時に)そんなに長い期間じゃないって思ったら,その期間できることを,やりたいことやったらいいんじゃないかっていう話をしてくれて,(背中を)押してくれた」(D保健師).

2) 現職の保健師が小規模町村離島を辞めたいと思った出来事

現職の保健師が小規模町村離島を辞めたいと思った出来事は,【関係機関とのトラブル】【仕事の慢性化や解決の見えない閉塞感】【改善が困難な業務の忙しさ】【家族のライフイベントを大切にした選択】の4つのカテゴリで構成されていた(表3).

(1) 関係機関とのトラブル

1つのサブカテゴリ〈島の関係機関とのトラブルがあった〉で構成されていた.

(2) 仕事の慢性化や解決の見えない閉塞感

2つのサブカテゴリ〈湧いてくる仕事に解決策も刺激もなく苦しくなる〉〈住民にとっても自分にとってもこのままでいいのか苦悩する〉で構成されていた.「長年やってきて初めて全然解決できずに,どんどん仕事が湧いてくる状況になったときに,もう疲れた,保健師疲れた,何やってるんだろうって.」(J保健師).

(3) 改善困難な業務の忙しさ

3つのサブカテゴリ〈忙しすぎて仕事自体が嫌になる〉〈役職に就いても保健師業務が減るわけではない〉〈多忙な業務への改善を求めてもらちがあかない〉から構成されていた.「(自分が役職に就いたので)今,保健師(自分)がやってる仕事は誰がやるのってなったときに,(島に保健師が2人しかいないから)分担できないよねってなって,結局そのままなんですよ.」(I保健師)

(4) 家族のライフイベントを大切にした選択

3つのサブカテゴリ〈子供が小さくて子育てと仕事の両立がむずかしい〉〈子供の成長や進学で離職を考えた〉〈本島にいる家族のために島を出ようと考えた〉から構成されていた.「多分ここ(離島)で働いてたら,子育て,進学っていうことがとても大きい,きっかけになると思うんだよね.」(J保健師).

3) 離職した保健師が小規模町村離島を辞めた理由

離職した保健師が小規模町村離島を辞めた理由は,【島が閉鎖的で見張られているようで窮屈】【職場の人間関係のトラブル】【多忙による体調不良】【一人体制ゆえの成長の機会の得られにくさ】【自分で決めた就業期限の到来】【自身や家族のライフイベントを大切にした選択】の6つのカテゴリで構成されていた(表4).また,【自身や家族のライフイベントを大切にした選択】というカテゴリは,表3の現職の保健師が小規模町村離島を辞めたいと思った出来事と共通していた.

(1) 島が閉鎖的で見張られているようで窮屈

2つのサブカテゴリ〈住民が閉鎖的だった〉〈見張られているような感じで窮屈だった〉から構成されていた.

(2) 職場の人間関係のトラブル

2つのサブカテゴリ〈職場で嫌がらせや責められる等のトラブルがあった〉〈上司との関係が悪く改善を要求しても変わらなかった〉から構成されていた.「(上司との関係が悪く,町村長と話して継続のための条件をのむということで島に残ったが)実際,1年間の間,その出した条件を一切,何も(守ってくれない),というところで.」(F保健師).

(3) 多忙による体調不良

1つのサブカテゴリ,〈働きすぎで体調不良になり辞めざるをえなかった〉で構成されていた.

(4) 一人体制ゆえの成長の機会の得られにくさ

3つのサブカテゴリ〈保健師一人だと研修に行きたくてもいけない〉〈常に力不足を感じていた〉〈ロールモデルがいない〉で構成されていた.「(家庭訪問などの)技術的に不安がある部分に対してのフォローみたいなところは,(中略)なかったのかなとは思います」(D保健師)「(島を)離れたいって思ったのはやっぱり.ロールモデルがないからっていうところが一番大きかった.」(B保健師)

(5) 自分で決めた就業期限の到来

2つのサブカテゴリ〈離島で働く期限を決めていた〉〈自分の地元で保健師をしたいと思った〉から構成されていた.

(6) 自分や家族のライフイベントを大切にした選択

5つのサブカテゴリ〈結婚や妊活のため島を出ようと考えた〉〈育児環境が十分でなく離職を考えた〉〈子供の成長や進学で離職を考えた〉〈家庭やパートナーのことを考えて島を出ようと考えた〉〈本島にいる家族のために島を出ようと考えた〉から構成されていた.また,〈子供の成長や進学で離職を考えた〉〈本島にいる家族のために島を出ようと考えた〉という2つのサブカテゴリは,表3の現職の保健師が小規模町村離島を辞めたいと思った出来事の【家族のライフイベントを大切にした選択】のサブカテゴリと共通していた.

Ⅳ. 考察

1. 小規模町村離島保健師として就職を決めた理由

小規模町村離島の保健師として就職を決めた理由のほとんどのカテゴリで,離職保健師と現職の保健師の間での偏りは見られなかったことから,離職保健師も現職の保健師も就職を決めた理由での大きな違いはないと考える.一方,保健師確保への熱心さは,現職保健師のみの語りから見られており,保健師の定着に影響を与える可能性がある.

研究参加者は,離島を訪れる機会や学校の講義ならびに離島実習の体験を通して,離島での住民の暮らしや保健活動への興味を持ち,就職につながったことが考えられた.春山(2008)の東京都の小規模町村離島保健師への調査報告でも,島で働く動機として「地域に密着した保健師活動や地域医療への関心」が最も多かった.同様に,日本の小規模島嶼のへき地診療所に勤務する看護師への調査報告(森ら,2012)でも,「その地域での看護実践への興味」や「島嶼での生活の興味」が就職の理由としてあがっていた.このことから,小規模町村離島で展開されている保健師らしい地域に密着した活動が,人材確保での強みとなると考える.

WHOの提言(WHO, 2010)やKulig et al.(2015)の報告では,へき地や遠隔地での人材確保・定着のために,学部でのへき地や遠隔地の保健医療活動に関する教育・トレーニング,へき地のニードに合った教育カリキュラムの提供,奨学金の提供,就職に際する経済的なインセンティブ(家や車の提供等)を提言している.

また,日本看護協会(2019)の「自治体における保健師の人材確保モデル開発事業報告書」でも,都道府県,市町村,保健師養成機関が協働して人材確保に取り組める環境づくりが必要であると提言している.

保健師養成機関は,講義やイベントを使った離島やへき地での保健師活動の紹介,離島やへき地の就職情報の提供ができる.都道府県や離島・へき地市町村は,実習の受け入れやインターンシップ制度,地域出身者の推薦入学制度,離島やへき地の自治体への就職に紐づいた奨学金等,人材確保に向けた制度の整備が可能だと考える.

地方での人材確保が厳しい北海道では,YouTubeや「北海道医療人材確保ポータルサイト」等ウェブを活用した人材確保の広報を行っている(日本看護協会,2019).今後はネットやSNS等,若者にも届く広報の方法も検討する必要がある.

2. 現職の保健師が小規模町村離島を辞めたいと思った出来事

現職保健師が小規模町村離島を辞めたいと思った出来事の結果から,小規模町村離島特有の業務形態や島での継続勤務で出てくる困難さが見える.小規模町村離島では,保健師の2人配置が多く,保健師が確保できない場合は一人で業務をこなしている(沖縄県,2018).日本看護協会の報告(日本看護協会健康政策部,2014)によると,平成23(2011)年12月現在で103事業に市町村保健師は関わっている.小規模町村離島では保健師2人でその事業をこなし,それに加え,島の行事の多さや〈役職についても保健師業務は減らない〉状況が続き,追加で保健師を確保しようにも難しく,業務への改善を上司へ求めてもらちがあかない現状がある.現職保健師のこのような状況は,離職保健師が辞めた理由の職場の人間関係トラブルや多忙による体調不良につながりかねない.保健師の人材確保ももちろん必要だが,勝又(2010)も指摘しているような地域課題に見合った業務のスリム化,役場全体での島の行事を含めた業務量の見直しや業務委託等の実施方法の検討を行うことで改善される状況もあると考える.

また,研究参加者の現職保健師達は皆,保健師のキャリアラダーIVレベルの統括的な役割を担える保健師達であり,その能力向上のためにはOJTだけでなく,Off-JTやジョブ・ローテーションなどが必要とされている(厚生労働省,2016).例えば,子供の進学等の機会に,小規模町村離島の保健師と県保健師の人事交流ができる仕組みを都道府県で作れると,離島と県双方の人材育成につながると考える.加えて,ICTを活用した研修については,WHO(2020)の提言や豪州で行われている遠隔地で働く看護職の支援(CRANAplus, 2021)でも報告されており,離島やへき地にいても研修が受けられるよう,研修方法の検討が必要である.

3. 離職保健師が小規模町村離島を辞めた理由

小規模町村離島を辞めた理由の【島が閉鎖的で見張られているようで窮屈】というカテゴリは,離島やへき地に特有の理由だと考える.Bushy(Molinari & Bushy, 2012)は,へき地での生活の特徴として,インフォーマルな社会的・専門的な交流,匿名性がなくなる,地元の人々との住民としての交流をあげている.離島やへき地などの狭い世界での就業継続には,匿名性がない状況を克服できるかどうかが重要になる.

保健師の離職の理由にある【職場の人間関係のトラブル】や【多忙による体調不良】などのバーンアウトは,井口(2014)浜端ら(2013)も行政保健師の離職及び看護職の転職の要因として報告している.離島やへき地では,保健師も狭いコミュニティの一員であり,プライベートで関係者とまったく顔を合わさないことは困難なため,その状況はさらに厳しいと考えられる.

また本研究では,小規模町村離島に一人で勤務している保健師の語りから成長の機会を得る大変さが抽出されていた.加えて,家庭訪問などの技術的な部分の支援も必要としていることが明らかになった.成長の機会の有無が離職に影響することは,井口(2016)の行政保健師を対象とした研究や,海外のへき地で働く保健師や看護師を対象とした研究(Roberge, 2009Sellers et al., 2019Cosgrave et al., 2018)からも報告されている.

離島やへき地の保健師に対する支援として,沖縄県の県保健所と県看護協会との連携した支援(永山,2020日本看護協会,2020)や,市町村合併が進んでいない奈良県での,山間町村の新任保健師への在宅保健師会を活用した家庭訪問のトレーナー派遣(日本看護協会,2019)などが報告されている.今後は,都道府県と看護協会だけでなく,保健師養成機関等も含めた支援体制の構築や,現場のニーズを反映した支援内容の検討が必要である.合わせて,小規模町村離島保健師が,研修へ参加しやすいように,平良ら(2020)の報告している「しまナース」(離島診療所の看護師が研修や家庭の事情で島を留守にする際に代替看護師として業務支援を行う)のような支援体制の検討も必要である.

4. 保健師が小規模町村離島に就職を決めた理由,辞めたいと思った出来事と辞めた理由の関連

小規模町村離島に保健師として就職を決めた理由と離職保健師が辞めた理由では,いずれも「離島での就業期限」に関するカテゴリが見られた.この結果は,退職の時期がある程度予測できるということであり,戦略的に人材確保計画を立てることができるということである.人材確保計画は,日本看護協会(2020)の「自治体保健師の人材確保ガイド」でも策定が推奨されており,小規模町村離島でも先を見据えて計画し県や保健師養成機関と情報共有することで,学生のリクルートにつながる可能性がある.

また,現職保健師の辞めたいと思った出来事と離職保健師の辞めた理由でみられた自分や家族のライフイベントを大切にした選択には,育児環境や育児サポート,子供の進学,家族の就職や希望を反映したサブカテゴリが存在していた.先行研究でも,Roberge(2009)が,夫の仕事の有無や子供の学校等といった家族のニーズ,家族からのコミットメントがへき地での看護師や保健師の離職に関連していると報告している.研究参加者の住む小規模町村離島は,島内に高校がなく,また島から高校に通うこともできないため,子供たちは16歳になると島を出て本島の高校へと進学する.育児支援体制や高校がない小規模町村離島に勤務する保健師には,子供の成長や進学が離職を決定する大きな理由になり得ると考えられた.

Ⅴ. 本研究の限界と課題

本研究では,研究者が知っている保健師を調査対象として依頼した.小規模町村離島を離職した保健師に離職の理由を尋ねるというデリケートなインタビューは,研究者と参加者がすでに既知であり,信頼関係ができていたから可能だったと考える.一方で,森ら(2012)の報告では回答者の約半数が「島の出身」であったが,研究参加者では,島出身者はいなかった.今後は島の出身も含めた対象者の選定が必要である.また,辞めたくなるような状況の中,辞めずに在職している保健師の継続理由についても,今後さらに詳しく研究していく必要がある.

Ⅵ. 結論

小規模町村離島の保健師が島で就職することを選択した理由は,島の環境や住民,役場への印象がよく,島での暮らしや保健師活動に興味があり,就職活動の際に募集が目に入ったことなどであった.また,現職保健師も離職保健師も就職を決めた理由に大きな違いはなかった.

現職保健師の辞めたいと思った出来事は,仕事の慢性化や解決の見えない閉塞感,改善が困難な業務の忙しさ等,離島特有の業務形態や継続勤務することで出てくる困難に関することであった.保健師が離職した理由であがった【島が閉鎖的で見られているような感じ】は,離島やへき地特有の理由だと考える.

離職保健師の辞めた理由と現職の保健師の辞めたいと思った出来事の両方で見られた,自身や家族のライフイベントを大切にした選択は,離職を決める大きな要因だと考えられた.

謝辞:本研究にご協力いただきました小規模町村離島に勤務している保健師の皆さま,小規模町村離島を離職された保健師の皆さま,保健師へのインタビューにご配慮いただいた役場の皆さまに深くお礼を申しあげます.また,本研究は,2019年度の公益信託 宇流麻学術研究助成基金の研究助成,ならびにJSPS科研費 JP20K10668を受け実施致しました.謹んで感謝申し上げます

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:MCは,研究の着想及びデザイン,データ収集,データ分析,論文執筆のすべてを実施した.SM,NN,SM,MKは,ピアレビューでの分析への助言や原稿への示唆を行った.すべての著者は,最終原稿を読み,承認した.

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