2021 Volume 41 Pages 594-603
目的:日本語版Chronic Kidney Disease Self-Care scale(CKDSC)を作成し,異文化間妥当性,尺度としての1次元性を検討する.
方法:CKDSC(5因子16項目)の翻訳・逆翻訳を行い,日本語訳CKDSCを作成した.調査は保存期慢性腎臓病(CKD)患者を対象として実施した.解析には,確証的因子分析を用い,1次元性は2次因子モデルを構築し検討した.
結果:分析対象者は229名であった.日本語訳したCKDSCは,原版と同じ5因子斜交モデルが成り立った(CFI = .991, RMSEA = .047).2次因子モデルによる検討では,5因子15項目のモデルが1次元性を満たした(CFI = .993, RMSEA = .042).ω係数は.848(各因子.823~.941)であった.CKDステージ,栄養士からの療養指導の有無で「合計得点」に有意差を認めた.
結論:日本語版CKDSCは,保存期CKD患者のセルフケア行動を評価する尺度として,使用可能であることが示された.
Aim: To develop the Japanese version of the Chronic Kidney Disease Self-Care scale (CKDSC-J) for examining cross-cultural validity and evaluating self-care behavior as a secondary factor.
Methods: The CKDSC was first translated into Japanese using a 5-factor structured model with 16 items and then back-translated. Next, we conducted a survey for predialysis patients with chronic kidney disease (CKD) grade G3–G5. To verify the cross-cultural validity of the CKDSC, we performed a confirmatory factor analysis (CFA). We created a 5-factor secondary model of the primary self-care behavior evaluation scale (15 items; CKDSC-J), and examined internal consistency and the difference in CKDSC-J scores for CKD grade and nutritionist education.
Results: Participants comprised 229 predialysis patients. The CFA revealed that both the CKDSC (CFI = .991, RMSEA = .047) and the secondary model (CKDSC-J; CFI = .993, RMSEA = .042) fit the data well. Additionally, the internal consistency was high for the CKDSC-J at .848 and ranged from .823–.941 for the factors. The CKDSC-J score showed significant differences when compared with CKD grade and nutritionist education, which proved construct validity.
Conclusion: The findings suggest that the CKDSC-J can effectively evaluate daily self-care behavior among predialysis patients.
慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease,以下,CKD)は腎機能が低下し,慢性の経過を辿る疾患の総称である.CKDは重症化すると,透析や移植を必要とする末期腎不全(End-Stage Kidney Disease,以下,ESKD)に至る.透析や移植といった腎代替療法は,患者へ心理・経済的な負担を及ぼすだけでなく,医療費増大にも繋がる.わが国の新規透析導入患者数の伸びは近年鈍化しているものの(日本透析医学会,2019),世界的にESKD患者は増加しており,CKD進行抑制への取り組みは重要な課題の一つである.
CKDの重症度は5段階で評価され,腎機能が中等度以上に低下した状態から腎代替療法に至るまでのCKDステージG3~G5は保存期CKDと呼ばれ,G4,G5のステージにある患者はESKDへ進行するリスクが高いことが示されている(Nakayama et al., 2011).Imai et al.(2009)の調査によると,わが国のCKD有病者は成人人口の約13%を占め,その8割がG3の段階にあり,年齢とともにG4,G5の占める割合が高くなっている.わが国の超高齢化の状況を考えると,この報告はESKD患者の増加を懸念させる.またCKDの進行は,心血管疾患発症や心血管死亡リスクを高めることもわかっており,CKDの進行抑制・重症化予防への対応は急務である.なおCKDの進行を抑制し,重症化を予防するためには薬物療法の実施はもちろんであるが,服薬遵守,食事管理といった患者のセルフケア行動は欠かせない.CKD診療ガイドライン(日本腎臓学会編,2018)では,食事管理,運動,禁煙,血圧管理といった療養行動が推奨されている.しかし,一般的に慢性疾患を有する患者のセルフケア行動の遵守率は低く(World Health Organization, 2003),CKDにおいては自覚症状が乏しく,患者が療養行動を生活に取り入れることや継続することは容易ではない.患者はCKDとうまく付き合うことを望んでいるが,それには努力を要していることも報告されている(Donald et al., 2019).CKD進行抑制のためには,患者がセルフケア行動のいずれか1つに取り組めばよいと言うものではなく,包括的に実行していくことで進行抑制に寄与していくものと考える.医療者は,腎機能に応じた療養行動を促し,行動に関連する要因に働きかけ,患者がセルフケア行動を実践・継続できるように支援することが求められる.効果的な支援に繋げるためには,患者のセルフケア行動を把握し,その変化を捉えることのできる測定尺度は不可欠である.
しかし,CKD患者のセルフケア行動を評価する標準化された測定尺度は未だ存在しない.近年,観察研究や介入研究において,疾患特異的な尺度が使用される傾向にあるが,信頼性,妥当性の検討が十分でないままに作成された指標を用いている報告もある.介入研究における介入プログラムは,服薬遵守,食事管理,運動,禁煙,血圧管理などの要素で構成されているものの(Walker et al., 2014;Pagels et al., 2015;Nguyen et al., 2018),用いられている測定尺度はそれら要素を包括的に評価する尺度ではない.これは,結果の内的妥当性,予測力を低下させることに繋がる.梶原・森本(2020)は,CKD患者のセルフケア行動における測定尺度を用いた文献をレビューし,尺度の評価から,既存の尺度の中ではChronic Kidney Self-Care scale(以下,CKDSC)が最もCKD進行抑制に資するセルフケア行動を把握することが可能な尺度であると報告している.
CKDSCは,人口100万人あたりのESKD患者数が世界で最も多い台湾で開発された(王 et al., 2016).服薬遵守,食事管理,運動,禁煙,血圧測定の5因子から成り,ガイドラインで推奨されている行動を網羅し,内的一貫性に加え,確証的因子分析による構造的妥当性が確認された尺度である.しかし,CKDSCは国外での使用報告がない.また,因子構造は斜交モデルで確認されており,合計得点算出における統計学的妥当性を保証する1次元性の確認はされていない.CKD患者を対象とした介入研究では,統計学的妥当性は検討されていないものの尺度の合計得点が算出され,用いられてきた経緯がある.5因子をセルフケア行動として合計得点で評価できることは,5因子の変化に加え,セルフケア行動としての変化や他の要因との関係について検討することが容易となる.CKDSCによって結果の比較,知見が蓄積されることは,より効果的な介入プログラムの開発にもつながり,患者のセルフケア行動の促進,継続に寄与することが期待される.臨床実践においても,信頼性および妥当性のある尺度で患者のセルフケア行動を把握し,その変化を捉えることが可能となることは有益である.
本研究では,わが国の保存期CKD患者におけるCKDSCの異文化間妥当性を検討すること,CKDSCがCKDの進行抑制のためのセルフケア行動として1次元で評価できる尺度であるのかを検討することを目的とする.
セルフケア行動:本研究では,“疾患の安定化,進行・増悪を抑制する”というアウトカムに向けて保存期CKD患者が日常生活の中で取り組む療養行動をセルフケア行動とした.具体的には服薬遵守,食事管理,運動,禁煙,自己血圧測定といったCKDの進行・重症化を予防する取り組みを指す.
CKDSCの翻訳にあたっては,項目的同等性,意味的同等性について検討を行った(木原ら,2016).項目的同等性は,個々の質問項目が対象集団に適切かの検討を意味する.CKDSCは食事管理の項目を例に挙げると,“I always eat adequate amount of food based on health professionals recommendation”のように台湾特有の文化が反映されている項目はない.服薬遵守,運動,禁煙,血圧測定の個々の質問項目についても同様に確認をした.意味的同等性は,各文化間で質問項目の意味が等しいか検討することを意味する.本研究では,CKDSC翻訳後に逆翻訳を行い,作成者に確認を得ることで確認した.具体的な翻訳の手順は,まず,作成者に対し日本語への翻訳と調査での使用を申請し許可を得た.CKDSCの原版は中国語であるが(王 et al., 2016),作成者により英語訳(Wang et al., 2019)がされている.英語版の翻訳は英語教育に携わる日本人の大学教員1名,米国への留学経験がある英語教員1名,英語圏で学位を取得しかつ英語圏での看護師としての臨床経験がある日本人看護研究者1名にて翻訳を別々に行った後,研究者2名と翻訳に携わった日本人看護研究者を加えて3名で3つの日本語訳を統合した.原版である中国語版の翻訳は,看護師として臨床経験のある中国人大学院生1名と翻訳業者に依頼した.2言語の日本語訳に意味内容に相違がないかを確認し日本語訳を作成した.日本語訳した尺度は翻訳業者にて日本語から英語への逆翻訳を行い,原版尺度の作成者に内容および表現の違いがないかの検討の依頼をした.原版と意味が等しいことを確認してもらい,CKDSC日本語版の尺度を完成させた.また,50歳代と80歳代の保存期CKD患者2名に協力依頼をし,事前テストを実施し,回答のしにくさや文章のわかりにくさがないことを確認した.
2. 調査対象対象は,A大学病院の腎臓内科へ外来通院中,もしくは当該病棟へ入院中の患者で,以下の基準をすべて満たす者とした.①腎機能低下をもたらしている原疾患が慢性的な経過を辿ることが臨床的に予測される者,②腎臓の機能がCKDステージG3以上(推算糸球体濾過量:Estimated glomerular filtration rate,eGFR = 60 ml/分/1.73 m2未満)に相当する者,③20歳以上の者.除外基準としては,①腎代替療法を導入している者,②認知機能の低下等で自記式質問紙調査票への回答が困難な者,③併存症が治療の主体になっている者,④免疫抑制剤の使用等,薬物治療が治療の主体になっている者とした.サンプルサイズについては,分析において確証的因子分析を用いることを考慮し,COnsensus-based Standards for the selection of health Measurement INstruments;COSMIN(以下,COSMIN)を参考にした.COSMINでは,構造的妥当性を検討する場合,項目数 × 7かつ100以上のサンプル数が理想的とされている(Mokkink et al., 2018).また,村上(2006)は,ランダム誤差が減少する200名が最低でも必要としている.このことから本研究では,分析に必要なサンプルサイズを200名とし,郵送法での回収率を60~70%と見込み280名を目標とした.
3. 調査方法研究者が,データ収集期間に腎臓内科外来を受診した患者もしくは入院している患者のうち調査対象に該当し,主治医の了解を得た者に調査依頼を行った.参加の意思表明のあった者に,無記名の自記式質問紙調査票を配布し,留置法で郵送による回収を依頼した.入院中の患者に対しては,研究者が回収を行った.調査期間は令和元年6月~10月末であった.
4. 調査内容調査内容はCKDSCの項目について尋ねた.CKDSCは「内服管理(5項目)」「食事習慣(4項目)」「運動習慣(3項目)」「喫煙習慣(2項目)」「自己血圧測定(2項目)」の5因子で構成され,最近3か月間その項目の行動を「いつも(している)」から「全くしない」の5件法で尋ね,回答する尺度となっている.得点が高いほどセルフケア行動を行っていることを示す.
背景因子としては,性別,年齢,同居の有無,就労の有無,医学的要因に関する項目として診断名,併存症,罹患期間,eGFR,Body Mass Index(BMI),腎臓病に対する療養指導・教育経験の有無と療養指導を行った職種を調査した.診断名,併存症,eGFRについては診療録から情報を得た.
5. 倫理的配慮本研究は岡山大学臨床研究審査専門委員会において承認を受けて行った(承認番号:研1905-023).対象者には,研究の目的と意義,方法,診療録での情報の閲覧,個人情報の保護等について文書および口頭で説明した.外来通院中の患者に対しては1か月の調査票への記載の期間を設け,調査票の返送を依頼し,入院中の患者に対しては1~2週間の調査票への記載の期間を設け,対象者への負担に配慮した.調査への協力は自由意思に基づき,回答しなくても不利益を被ることはないことを説明した.研究の同意については調査票に同意欄を設け,同意が確認できた者を研究対象者とした.
6. 分析方法まずCKDSCに関する項目の回答分布を示し,セルフケア行動の特徴および項目の回答に対する偏りを確認した.その後,異文化間妥当性の検討,CKDSC日本語版における1次元性,信頼性の検討,既知集団を用いた妥当性の検討を行った.
1) CKDSCの異文化間妥当性についての検討CKDSCの日本語版が原版の尺度と同様の因子構造であるか,因子モデルの側面からみた妥当性を検討した.推定法にはロバスト重み付き最小二乗法(weighted least squares with mean and variance adjusted test statistic;以下,WLSMV)を用いた.原版では推定法に最尤法を用いているが,本研究ではよりデータに適した推定法として正規性が成立していなくても正確な推定結果をもたらすとされているロバスト推定法を用いた(伊藤ら,2018).原版CKDSCが斜交モデルで開発されていることから斜交モデルを構築して確証的因子分析を行い,適合度指標を算出した.モデルにデータが適合しているかどうかの判定には,比較適合度指標Comparative Fit Index(以下,CFI)およびRoot Mean Square Error of Approximation(以下,RMSEA)を用い,CFI > 0.95,RMSEA < 0.06の値をモデルの受容の目安とした.係数は5%水準で有意と判断した.
2) CKDSC日本語版2次因子モデルの信頼性・妥当性の検討CKDSC日本語版の1次元性を確認するために,5因子を1次因子,セルフケア行動を2次因子とした高次モデルを措定し,確証的因子分析を用いてモデルが成り立つかを検討した.推定法はWLSMVとし,適合度指標を算出した.CFI > 0.95,RMSEA < 0.06の値をモデルの受容の目安とした.係数は5%水準で有意と判断した.信頼性については,内的一貫性について確認を行い,CKDSC日本語版の各因子と合計得点のω係数を算出した.ω係数は因子分析モデルにおける因子負荷量と誤差分散から算出され,サンプル数が確保できている場合,Cronbach’s α係数よりも正確に内的一貫性を示す指標とされている(岡田,2015).
3) 既知集団を用いた妥当性の検討保存期CKD患者のセルフケア行動の評価において,基準関連妥当性を検討するgold standardとなる指標は見当たらない.そこで本研究においては,重症度,療養指導の有無といった既知集団を用い,群間に得点差があるかで妥当性を確認した.重症度はeGFRを用いたCKDステージ分類4群とし,CKDSC合計得点と各因子得点を算出して一元配置分散分析を用い,Tukey法による多重比較を行った.療養指導の有無については,2群間でCKDSC合計得点と各因子得点を算出し,t検定を用いて比較を行った.
分析には,IBM SPSS Statistics ver. 26とM-plus ver. 8,ω係数の算出にはHAD15.0(清水,2016)を用いた.
配布した調査票は275部であり,外来通院中の患者231部,入院中の患者13部,合計244部を回収した(回収率88.7%).分析対象者は,CKDSCに欠損のあった13名,療養指導の有無の無回答者,調査依頼当日のeGFRの未測定者を除いた229名であった(有効回答率83.3%).分析対象者の背景は表1に示した.性別は,男性が148名(64.6%),平均年齢は65.1 ± 12.6歳であった.eGFRは45以上が69名(30.1%),30~45未満が63名(27.5%),15~30未満が64名(27.9%),15未満が33名(14.4%)であり,腎臓病に対する療養指導の経験は9割以上の者にあった.
対象者(N = 229) | ||||
---|---|---|---|---|
N | (%) | |||
性別 | 男性 | 148 | (64.6) | |
女性 | 81 | (35.4) | ||
年齢(歳) | Mean ± SD | 65.1 ± 12.6 | ||
BMI(kg/m2) | Mean ± SD | 23.6 ± 4.1 | ||
eGFR(ml/分/1.73 m2) | Mean ± SD | 33.8 ± 15.7 | ||
eGFR grade分類 (ml/分/1.73 m2) |
45以上† | 69 | (30.1) | |
30~45未満 | 63 | (27.5) | ||
15~30未満 | 64 | (27.9) | ||
15未満 | 33 | (14.4) | ||
併存症‡ | 高血圧症 | 179 | (78.2) | |
高脂血症 | 121 | (52.8) | ||
高尿酸血症/痛風 | 107 | (46.7) | ||
糖尿病 | 73 | (31.9) | ||
心疾患 | 43 | (18.8) | ||
罹患期間 | 1年未満 | 26 | (11.4) | |
1~5年未満 | 80 | (34.9) | ||
5~10年未満 | 50 | (21.8) | ||
10~15年未満 | 21 | (9.2) | ||
15~20年未満 | 13 | (5.7) | ||
20年以上 | 39 | (17.0) | ||
療養指導の経験 療養指導を行った者 (複数回答) |
あり | 213 | (93.0) | |
医師 | 191 | (83.4) | ||
栄養士 | 133 | (58.1) | ||
看護師 | 46 | (20.1) | ||
同居の有無 | 同居あり | 192 | (83.8) | |
同居なし | 36 | (15.7) | ||
無回答 | 1 | (0.4) | ||
就労の有無 | 就労あり | 109 | (47.6) | |
就労なし | 112 | (48.9) | ||
無回答 | 8 | (3.5) |
†:調査依頼当日のeGFRで分類;調査前のeGFRは60 ml/分/1.73 m2未満であったが,調査依頼当日のeGFRは60 ml/分/1.73 m2以上であった7名を含む
‡:複数の併存症を有する患者も含む
回答分布を表2に示した.内服管理,喫煙習慣の項目において,「いつも」もしくは「全くしない」に80%を超える回答があり,回答に対する偏りがみられた.自己血圧測定においては,“自分の血圧を測定する”(item 10)では「いつも」が4割以上の回答であったが,“体調がすぐれないときには,血圧測定の回数を増やす”(item 11)では「全くしない」の回答が約3割で最も多かった.
No | 質問項目 | 回答肢 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
全くしない | まれに | 時々 | しばしば | いつも | ||
内服管理 | ||||||
12 | 処方された薬の服用時間を変更するR | 169(73.8) | 35(15.3) | 18(7.9) | 5(2.2) | 2(0.9) |
13 | 自分の判断で薬の服用をやめるR | 200(87.3) | 21(9.2) | 6(2.6) | 1(0.4) | 1(0.4) |
14 | 薬を飲んだり,飲まなかったりするR | 160(69.9) | 52(22.7) | 10(4.4) | 5(2.2) | 2(0.9) |
15 | 処方された薬の内服回数を自分の判断で減らすR | 209(91.3) | 15(6.6) | 3(1.3) | 1(0.4) | 1(0.4) |
16 | 処方された薬の一回量を自分の判断で減らすR | 210(91.7) | 15(6.6) | 2(0.9) | 1(0.4) | 1(0.4) |
食事習慣 | ||||||
1 | 食事をする際には,たんぱく制限など腎臓病の制限食の決まりに従う | 33(14.4) | 33(14.4) | 63(27.5) | 64(27.9) | 36(15.7) |
2 | 医療専門家から勧められている量の食事を食べる | 49(20.1) | 39(17.0) | 54(23.6) | 60(26.2) | 30(13.1) |
3 | 食べ物の摂取量をコントロールする | 21(9.2) | 28(12.2) | 68(29.7) | 61(26.6) | 51(22.3) |
4 | 休暇や外食であっても,腎臓病の飲食の制限を守る | 45(19.7) | 39(17.0) | 58(25.3) | 58(25.3) | 29(12.7) |
運動習慣 | ||||||
5 | 定期的な運動習慣(少なくとも1週間に3回以上,1回30分以上の運動)を維持する(家の中での活動や仕事での活動を含まない) | 66(28.8) | 48(21.0) | 41(17.9) | 40(17.5) | 34(14.8) |
6 | 運動をしたくないと思ったときでも,腎臓病の状態を維持するために体力づくりを心がける | 51(22.3) | 51(22.3) | 52(22.7) | 43(18.8) | 32(14.0) |
7 | 忙しくても,からだを動かす時間をつくるように心がける | 40(17.5) | 54(23.6) | 52(22.7) | 44(19.2) | 39(17.0) |
喫煙習慣 | ||||||
8 | 毎日禁煙をする | 33(14.4) | 4(1.7) | 1(0.4) | 1(0.4) | 190(83.0) |
9 | 周囲にタバコを吸う人がいても,自制して喫煙をしない | 28(12.2) | 5(2.2) | 3(1.3) | 3(1.3) | 190(83.0) |
自己血圧測定 | ||||||
10 | 自分の血圧を測定(チェック)する | 13(5.7) | 19(8.3) | 49(21.4) | 48(21.0) | 100(43.7) |
11 | 体調がすぐれないときには,血圧測定の回数を増やす | 68(29.7) | 43(18.8) | 56(24.5) | 27(11.8) | 35(15.3) |
R=逆転項目 N(%)
斜交モデルを構築して検討した結果は図1に示した.モデル適合度はCFI = .991,RMSEA = .047であり,受容できる目安を満たす値であった.「食事習慣」と「運動習慣」「自己血圧測定」,「運動習慣」と「自己血圧測定」は,.427,.453,.344と中程度の相関を示すパス係数値であった.
CKDSCの確証的因子分析の結果:斜交モデル(N = 229)
5因子16項目の2次因子モデルを措定し,確証的因子分析を行った結果,モデルの適合度はCFI = .991,RMSEA = .045であり,受容できる目安を満たしたが,「セルフケア行動」から「内服管理」へのパス係数が統計学的に有意な値でなかった(p = .105).修正指標や項目の負荷量に基づき,モデルの修正を試みたがパス係数は改善されず,有意とならなかった.item 15,16の観測変数間の相関が.844であったことから,項目の意味内容を検討し,1項目を削除して代表させることにした.item 15を削除し,5因子15項目で確証的因子分析を行ったところ,「セルフケア行動」から「内服管理」へのパス係数は統計学的に有意な値を示した(p = .047).モデルの適合度はCFI = .993,RMSEA = .042であり,CFI,RMSEAはモデルを受容できる目安を満たす値であった(図2).そこで,修正した5因子15項目から成るCKDSCを最終的なCKDSC日本語版とした.内的一貫性については,CKDSC日本語版15項目の尺度全体のω係数は.848であり,下位因子において.823~.941の値であった.
CKDSC2次因子モデル:15項目(N = 229)
CKDステージ(eGFR)分類の4群間において,「CKDSC合計得点」は【eGFR = 15未満】群が【eGFR = 45以上】群,【eGFR = 30~45未満】群よりも有意に高く(それぞれp = .009,p = .033),【eGFR = 15~30未満】群より高い傾向を示した(p = .059)(表3).療養指導の有無に関しては,栄養士からの指導の有無の2群間で「CKDSC合計得点」は,【(指導)あり】群が【(指導)なし】群より有意に平均値が高かった(p = .049)(表4).
CKDSC(15項目)の合計得点と各因子の得点 | eGFR分類 | F値 | 多重比較 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
45以上a 平均値 ± SD |
30~45未満b 平均値 ± SD |
15~30未満c 平均値 ± SD |
15未満d 平均値 ± SD |
|||
CKDSC合計得点 | 53.7 ± 9.2 | 54.4 ± 8.9 | 54.8 ± 8.8 | 59.7 ± 9.1 | 3.61 | d > ab*,c† |
内服管理 | 18.9 ± 1.7 | 18.8 ± 1.7 | 18.9 ± 1.5 | 18.9 ± 2.9 | 0.06 | n/s |
食事習慣 | 11.9 ± 4.4 | 11.9 ± 4.4 | 12.4 ± 4.2 | 14.9 ± 4.3 | 4.31 | d > abc* |
運動習慣 | 7.8 ± 3.7 | 8.7 ± 3.8 | 8.4 ± 3.4 | 9.4 ± 4.3 | 1.51 | n/s |
喫煙習慣 | 8.9 ± 2.6 | 8.7 ± 2.8 | 8.6 ± 2.8 | 9.1 ± 2.4 | 0.41 | n/s |
自己血圧測定 | 6.2 ± 2.2 | 6.4 ± 2.2 | 6.6 ± 2.3 | 7.3 ± 2.0 | 1.91 | d > a† |
注)Tukeyの多重比較:* p < .05,† p < .10
CKDSC(15項目)の合計得点と各因子の得点 | 医師からの指導 | 看護師からの指導 | 栄養士からの指導 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
あり(n = 191) | なし(n = 38) | t値 | あり(n = 46) | なし(n = 183) | t値 | あり(n = 133) | なし(n = 96) | t値 | |
平均値 ± SD | 平均値 ± SD | 平均値 ± SD | 平均値 ± SD | 平均値 ± SD | 平均値 ± SD | ||||
CKDSC合計得点 | 55.3 ± 8.7 | 54.0 ± 11.3 | –0.83 | 56.0 ± 7.9 | 54.8 ± 9.4 | –0.77 | 56.1 ± 8.6 | 53.7 ± 9.7 | –1.98* |
内服管理 | 18.8 ± 2.0 | 19.3 ± 1.2 | 1.60 | 19.1 ± 1.4 | 18.8 ± 2.0 | –0.96 | 18.9 ± 2.0 | 18.9 ± 1.9 | 0.06 |
食事習慣 | 12.6 ± 4.2 | 11.7 ± 5.5 | –1.15 | 13.2 ± 4.0 | 12.3 ± 4.5 | –1.22 | 13.2 ± 4.1 | 11.4 ± 4.7 | –3.16* |
運動習慣 | 8.6 ± 3.8 | 7.6 ± 3.6 | –1.50 | 8.7 ± 3.5 | 8.4 ± 3.8 | –0.45 | 8.4 ± 3.7 | 8.5 ± 3.8 | 0.20 |
喫煙習慣 | 8.7 ± 2.7 | 8.9 ± 2.6 | 0.40 | 8.9 ± 2.6 | 8.7 ± 2.7 | –0.30 | 8.8 ± 2.6 | 8.7 ± 2.8 | –0.27 |
自己血圧測定 | 6.6 ± 2.2 | 6.4 ± 2.4 | –0.49 | 6.2 ± 2.1 | 6.6 ± 2.2 | 1.22 | 6.8 ± 2.2 | 6.2 ± 2.1 | –2.00* |
注)t検定:* p < .05
CKDのセルフケア行動を評価するCKDSCが,わが国の保存期CKD患者において使用可能か,日本語版を作成して,計量学的特性から異文化間妥当性の検討を行った.また,高次モデルを措定した1次元性の確認から合計得点算出における保証を行い,CKDSC日本語版の信頼性,妥当性を明らかにした.
1. CKDSCの異文化間妥当性分析対象者は,eGFR grade分類で30 ml/分/1.73 m2未満の者が4割程度と腎機能がより高度に低下した者が多かったが,通院中のCKD患者における各ステージの割合を示したNakayama et al.(2010)の報告と類似した割合であった.分析対象者はわが国の保存期CKD患者を概ね反映した集団ではないかと考える.
CKDSCに対して回収した調査票のうち欠損があったのは13名であり,項目内容に対して回答のしにくさといった問題はなく,内容的に妥当であったと考える.また本研究における回答の偏りは,原版CKDSCの項目得点(Wang et al., 2019)から同様の傾向を示しており,これは原版と日本語版で特性が類似していることを示す結果と考える.
CKDSCについて原版尺度と同様の因子構造であるか,斜交モデルで検討を行った結果では,適合度指標の値からCKDSC日本語版はデータとの当てはまりがよく,わが国の保存期CKD患者においてもモデルが成立した.各因子間のパス係数値に関しては,「食事習慣」と「運動習慣」の値は類似していたが,原版では「食事習慣」と「自己血圧測定」,「運動習慣」と「自己血圧測定」には中等度の関係は示されておらず異なっていた.本研究では,回答に正規性が成立していない場合より正確な推定結果をもたらすとされるWLSMVを用いており,用いた推定法の違いがパス係数値に違いをもたらしたものと考える.また,本研究ではCKDステージG 1,G2の早期腎症患者を対象としておらず,セルフケア行動がより求められる保存期CKD患者を対象とした.このことが「食事習慣」と「自己血圧測定」,「運動習慣」と「自己血圧測定」において原版とのパス係数値に違いを生じさせた可能性がある.ただし,5因子での構造的妥当性は確認されており,異なる文化でもCKDSCは妥当性をもつ尺度と判断された.
2. CKDSC日本語版の1次元性,信頼性・妥当性2次因子モデルの検討において,5因子16項目で「セルフケア行動」から「内服管理」へのパス係数値は有意でなかった.項目間に強い相関関係がある場合,モデルが適合していれば,項目を削除しても構成概念に大きな影響はないとされている(南風原,2002).item 15,16は“自分の判断で服用を減らす”項目である.item 16は“薬の一回量を減らす”であり,item 15の“服薬回数を減らす”よりも高次の判断を伴う内服管理と考えられる.服薬アドヒアランスの尺度としては,Morisky Medication Adherence Scaleが知られているが,この項目と照らしても“服用回数を減らす”といった項目を削除することで「服薬遵守」の評価に影響はないものと考えられ,本研究では1項目を削除してモデルの修正を試みた.5因子15項目のモデルにおいては,適合度指標を受容する目安を満たし,2次因子から1次因子へのパス係数値は全て有意であり,構造的妥当性が示された.これは尺度としての1次元性を示す結果であり,セルフケア行動として合計得点を算出することを統計学的に保証したことを意味する.さらに,ω係数は合計得点,各因子ともに.8以上であり,これは尺度としての内的一貫性を示す結果であり,15項目から成るCKDSC日本語版の信頼性・妥当性が確認された.既知集団を用いた検討においては,合計得点でG5とその他の群の間に違いを認めた.原版を用いたWang et al.(2019)の報告では,ステージが進行した群で「食事習慣」の得点は高いものの「合計得点」においては得点に違いを認めていない.これは「運動習慣」「自己血圧測定」での得点に本研究結果と異なる傾向があり,「合計得点」における結果の違いにつながっているものと考える.本研究の結果は,CKD進行に伴い患者がセルフケア行動に取り組んでいることを示しているが,この結果については慎重に解釈する必要があるだろう.ただし,療養指導の有無においては,栄養士の指導で,食事習慣に得点差があり合計得点にも違いを示していた.これは療養指導などの介入において,CKDSC日本語版がセルフケア行動の違いを判定できる可能性を示唆するものである.
3. CKDSCの有用性CKD患者のセルフケア行動に関する研究は,介入研究が行われる一方で,関連因子を探索・特定する観察研究に再び焦点があたっている(梶原・森本,2020).これは,CKD患者のセルフケア行動を網羅的に評価できる信頼性,妥当性を備えた指標が確立していないことで,結果の不安定さにつながっていたことが影響していると考える.例えば,Chronic Kidney Disease Self-Management instrument(CKD-SM)は最も多くの文献で用いられ,介入研究にも使用されている尺度である.しかし,禁煙,血圧測定の項目を含んでおらず,介入によるセルフケア行動の変化を包括的に評価できるとは言い難い.Lin et al.(2013)が5週間のセルフケア行動における教育介入を行った報告では,客観的指標であるeGFRは12か月後においても介入群で安定していたがCKD-SMの総合得点には統計学的な違いを認めていない.これはこの尺度の反応性の悪さを示している.CKDSCは,ガイドラインで推奨されている行動を網羅した尺度であり,介入による変化や効果をより適切に評価できる可能性を有している.
モニタリングは気づきを促し,患者が実践する疾患特有のマネジメントを促進するとされる(Wilde & Garvin, 2007;Richard & Shea, 2011).本研究では,体調がすぐれないとき血圧測定の回数を増やすことを行っていない者が3割いることも明らかになった.高血圧はCKDの病態進行を表すサインであり,身体状況を捉える行動として血圧測定を患者が取り入れられるよう支援していくことの必要性も示唆される.このように,CKDSC日本語版によってセルフケア行動の特徴を評価できることは,CKD患者の実践状況を具体的に把握でき,焦点化した支援につなげることを可能とする.ただし,本研究においては3か月ごとに通院する患者も対象としており短い間隔で2回の調査を設定することができず,再検査法による信頼性の確認は行えていない.また,CKDSCの5因子については関連が強いとは言えず,CKDの進行抑制,重症化の予防にとって,より寄与する因子や項目の重み付けなどを検討することも今後の課題である.
本研究ではCKDSCの構造的妥当性を検討し,異文化間妥当性が確認された.また高次モデルを措定して検討した結果,5因子15項目で日本語版CKDSCの1次元性が示された.内的一貫性,既知集団を用いた妥当性も認められ,作成した日本語版CKDSCは,保存期CKD患者におけるセルフケア行動を評価する尺度として,その活用が期待される.一方で,日本語版CKDSCがセルフケア行動の変化を評価しうるか,反応性については今後の検討が必要である.
付記:本研究は,岡山大学大学院保健学研究科博士前期課程に提出した修士論文に加筆・修正を加えたものである.また,本論文の一部は,第40回日本看護科学学会学術集会において発表した.
謝辞:本研究にご参加いただきました患者の皆様ならびにご協力いただきましたA大学病院の腎臓内科の先生方に深くお礼申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:YKは,研究の着想およびデザイン,データ収集,データ分析,論文執筆の全てを実施した.MMは,研究の全プロセスにおいて助言を行った.すべての著者は,最終原稿を読み,承認した.