2021 Volume 41 Pages 604-613
目的:術後補助療法としてホルモン療法を受ける乳がん患者の更年期症状に影響を及ぼす反すう傾向とソーシャルサポートの関係を明らかにし,看護の示唆を得る.
方法:拡張版反応スタイル尺度,更年期症状(簡略更年期指数:SMI),ソーシャルサポート尺度,個人属性について自記式質問紙を用いた横断的調査を実施した.
結果:2施設160名に調査票を配布し,回答を得た132名のうち分析可能な104名を対象とした(回収率82.5%,有効回答率78.8%).SMI得点は年齢群での差が認められた.両年齢群共に反すうのネガティブな内省と更年期症状に正の相関が認められた.54歳以下ではネガティブな内省によりソーシャルサポートの知覚の低下につながり,55歳以上では問題への直面化によりサポートを多く知覚することが示された.
結論:必要なサポートを提供することおよびソーシャルサポートが入手可能と認識できるような援助が必要である.サポート提供者の存在を確認するだけでなく,患者の年齢や反すうを考慮した支援を行う必要がある.
Purpose: This study aimed to determine the effects of the relationship between rumination patterns and social support on menopausal symptoms in breast cancer patients receiving adjuvant hormonal therapy.
Methods: The cross-sectional study included 160 patients aged 20 and above with breast cancer receiving adjuvant hormonal therapy, who visited one of the two hospitals identified for the study. Patients were divided into two groups based on their age: 54 years old or less and 55 years old or more. Rumination patterns (Expanded Response Styles Questionnaire), social support (Social Support Scale by Fukuoka, 2000), menopausal symptoms (simplified menopause index: SMI), and basic attributes were assessed using written questionnaires.
Results: The study reply rate was 82.5%, and the valid response rate was 78.8%. Mean differences of SMI scores were found between the age groups. Weak or moderate correlations were found between negative rumination and SMI in each age group using multiple group analysis. The results indicated that negative rumination decreased the perception of social support in the younger group. On the other hand, facing the fact of rumination was correlated with more social support in the older group.
Conclusion: Patients should be provided appropriate support based on age and rumination patterns and encouraged to receive social support. Confirmation of the availability of support for each patient is necessary.
国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」(最新がん統計)によると,我が国における乳がん患者は年々増加し,女性のがん罹患率の中で最も高く,多様な社会的役割を担うことの多い40代での罹患が多く占めている.病期が進んでいない場合は手術療法が標準治療であり,ホルモンレセプター陽性患者への術後5年間の補助ホルモン療法は,複数の臨床試験によって有効性が確立され,再発を予防する治療法の一つとして用いられている(日本乳癌学会,2019).ホルモン療法は閉経前後で使用する薬剤が異なるが,共通の副作用として更年期症状がみられ,ホットフラッシュ・発汗や肩こり・腰痛・手足の痛みなどの身体症状に加え,不眠・抑うつなどの精神症状もみられる.ホルモン療法を受ける患者の4人に1人の割合で要治療と考えられる状態にあるとされ(山本ら,2013),自然閉経を迎える更年期女性よりも症状が強いことが示されている(Mortimer & Behrendt, 2013).しかし,効果が示されているホルモン補充療法は,乳がん患者には推奨されず,保険が適応される有効な薬剤はない.術後補助療法としてのホルモン療法は,再発の予防が目的であり,効果が実感しづらい上に完全に再発を防止する保証はない.そのような状況で,患者は5~10年に及ぶ治療期間の間,副作用の影響を受けることになる.また,ホルモン療法は通常外来で行われており,在院時間が短い上に受診期間の間隔も長いため看護支援を行える場面は少ない.したがって,患者自身によるセルフマネジメントが必要となる.治療を中止する患者の46%が副作用症状を原因とすることが示されており(Kuba et al., 2016),更年期症状への看護支援が必要と考えられる.同じ治療内容・薬剤であっても更年期症状は同一ではなく個人差が大きい.日本産科婦人科学会(2013)は更年期症状について,主たる原因は卵巣機能の低下であり,これに加齢に伴う身体的変化,精神・心理的な要因,社会文化的な環境因子などが複合的に影響することにより症状が発現するとしている.また,心理療法によってホットフラッシュなどの症状が改善することや(Ayers et al., 2012),情緒的サポートを高めることが更年期症状の改善や心理的健康の向上につながる可能性も示されている(福田・水上,2019).これらは,ホルモン療法の更年期症状においても同様であると考えられ,心理特性を明らかにすることにより,看護の示唆を得ることができると考える.
更年期症状と関係する可能性が考えられる心理特性の1つとして「反すう」がある.反すうとは,物事を何度も繰り返し考え続ける傾向であり,苦痛の症状とその原因や結果に反復的かつ受動的に焦点を当てること(Nolen-Hoeksema et al., 2008)とされている.大学生を対象とした多くの研究において,反すうは抑うつの規定因子であることが認められ,ソーシャルサポートが抑うつの緩衝要因である可能性も示されている(Nolen-Hoeksema & Davis, 1999).反すうには,「問題への直面化」と「ネガティブな内省」の2つの側面があるとされる(松本,2008).反すうは,がん診断という強いストレスに対しても同様の反応が示され,術前がん患者を対象とした調査では,反すうのうち「ネガティブな内省」は抑うつとの関連が認められ,反すうとソーシャルサポートに一定の関係があることや,2つの反すう傾向により異なるソーシャルサポートが必要とされている(近藤・大川,2020).また,反すうは,偏頭痛や心拍変動などの身体面にも影響し(Armin, 2016;Ann & Andreas, 2016),反すうと女性ホルモンであるエストラジオールが低い女性の負の感情との関連が報告されている(Bronwyn et al., 2018).更年期症状には,精神症状として憂うつ症状が含まれており,抑うつの規定因子とされる反すうとの関連が推測される.しかし,思考の傾向を示す反すうと,ホルモン療法の副作用症状である精神・身体症状を含めた具体的な症状とは同一のものではないと考えられる.したがって,更年期症状と2つの反すう傾向の関係,およびこれまでの研究において反すうの影響を軽減させる可能性が示されているソーシャルサポートとの関係を明らかにし,効果的な看護支援へと結びつく示唆を得ることが期待される.
術後補助療法としてのホルモン療法を受ける乳がん患者の更年期症状に影響を及ぼし得る反すう傾向とソーシャルサポートの関係を明らかにし,看護支援の示唆を得る.
乳がん患者の診療およびホルモン療法を行なっている施設のうち,調査の協力が得られた2施設で行った.対象者は乳がんの告知を受け,術後補助療法としてホルモン療法を受け,質問紙への自己記入が可能である20歳以上の女性とした.対象候補者が外来受診を終えたのち,主治医が倫理的配慮に基づき,口頭および書面で研究目的,研究内容,回収は郵送法で行うこと,質問紙の回収をもって同意とみなすこと,病院関係者は研究への参加の有無を知り得ないことを説明し,質問紙を手渡した.調査期間は2016年9月から2017年2月とした.
2. 調査方法無記名自記式質問紙調査とした.
3. 調査内容 1) 対象者の属性年齢,閉経状況,ホルモン療法開始時期,術式,抗癌剤治療の有無と実施時期,婚姻状況,子どもの人数・世代,就労状況,および情緒的・手段的サポート提供者を複数選択で調査した.
2) 更年期症状更年期症状は簡略更年期指数(小山,1993)10項目(Simplified Menopausal Index:SMI以下SMIとする)得点を用いて評価をする.SMIは信頼性および妥当性が検証され,広く公表されている尺度であり(小山・麻生,1992;小山,1998;遠藤ら,1996),その得点は日本人女性に特有な10項目の更年期症状(苦痛症状,憂うつ,代謝亢進症状)の程度を「無」「弱」「中」「強」の4段階で評価する.エストロゲンの数値を点数に反映するよう配点され,各評価結果の合計点を0~100点で数値化し,得点が高い程更年期症状が強いことを示す.本研究において51点以上は要治療の目安とされるため「要治療」と評価した.
3) 反すう抑うつ気分に対する思考や行動を測定する拡張版反応スタイル尺度(松本,2008)30項目の下位項目のうち,反すうに関する13項目を用いた.この尺度は本邦の社会・文化的背景を考慮して作成され,信頼性および妥当性を有することが確認されている.これまで一面性で考えられていた反すうを2つの側面からとらえ,「ネガティブな内省」は7項目,「問題の直面化」6項目とした.回答の選択肢は「ほとんどない」「ときどきある」「しばしばある」「いつもある」の4件法とし,得点が高いほどそれぞれの反すう傾向が強いことを示す.また本研究では拡張版反応スタイル尺度の下位尺度のうち,反すうの測定に関係している項目のみ使用し,使用にあたり尺度開発者の承諾を得て使用した.
4) ソーシャルサポート日常生活において他者が援助的な行為をどの程度してくれると思うかという知覚されたサポートについて,因子分析により「助言・相談」「なぐさめ・はげまし」を情緒的・間接的サポート,「物資的援助」「行動的援助」を手段的・直接的サポートの2つに分類される4つのサポートを示し,反すうとの検討に用いられたことのある福岡のソーシャルサポート尺度を使用した(福岡,2000).この尺度は,4つのサポートについて「あてはまらない」「あまりあてはまらない」「どちらともいえない」「ややあてはまる」「あてはまる」の5件法で調査し,得点が高いほどソーシャルサポートを多く知覚していることを示している.使用にあたり尺度開発者の承諾を得て利用した.
4. 分析方法基本属性の記述統計と,各尺度の内的整合性についてクロンバックα係数を算出し確認した.本研究では,日本人女性の平均閉経年齢が約50歳であり,日本産婦人科学会の定義である閉経の前後5年の合計10年間を更年期とした.更年期前・中・後の3群で一元配置分散分析を行った結果,更年期前・中の参加者間ではSMI得点に差が認められなかったため,更年期前に当たる45歳未満と更年期にあたる45歳~54歳を合わせて54歳以下群,更年期後にあたる55歳以上を55歳以上群とした,2群での分析を行った.
年齢群別にピアソンの積率相関係数を算出した.サポート提供者の有無によるソーシャルサポート得点およびSMI得点を比較するためt検定を行なった.分析には統計ソフトSPSS Ver. 26を使用した.反すう傾向とソーシャルサポートがSMIに及ぼす効果を明らかにするため,SMI得点に差が認められた年齢群別での多母集団同時パス解析を行った.パス解析にはR Ver. 4.0.4を使用した.
5. 倫理的配慮名古屋大学大学院医学系研究科及び医学部附属病院生命倫理審査委員会の承認(16-125),および対象施設の倫理審査(A病院,承認番号161017)で承認を受け実施した.
2施設で160名に調査票を配布し,回答が得られた132名のうち欠測値が多く尺度得点の算出に支障をきたした28名を除外した104名を分析対象とした(回収率82.5%,有効回答率78.8%).対象者の概要を表1に示す.対象者の年齢は33~87歳で平均55.6歳(SD = 10.3)であった.婚姻状況は既婚者が82名(78.8%),就労状況では45名(43.3%)が無職/専業主婦であった.ホルモン療法の種類はLH-RHアゴニスト製剤を主としたホルモン療法を受ける者が47名(45.2%),アロマターゼ阻害薬を主としたホルモン療法が57名(54.8%),治療継続期間は1~117ヶ月であった.
n | % | |
---|---|---|
年代 30代 | 4 | 3.8 |
40代 | 25 | 24.0 |
50代 | 45 | 43.3 |
60代 | 17 | 16.3 |
70代 | 12 | 11.5 |
80代 | 1 | 1.0 |
婚姻状況 | ||
未婚 | 11 | 10.6 |
既婚 | 82 | 78.8 |
離死別 | 11 | 10.6 |
就労状況 | ||
無職/専業主婦 | 45 | 43.3 |
パート/アルバイト | 29 | 27.9 |
正社員 | 17 | 16.3 |
契約社員 | 5 | 4.8 |
自営業 | 5 | 4.8 |
その他 | 3 | 2.9 |
ホルモン療法の種類 | ||
LH-RHアゴニスト製剤が主 | 47 | 45.2 |
アロマターゼ阻害薬が主 | 57 | 54.8 |
ホルモン療法の継続期間 | ||
1年未満 | 17 | 16.3 |
2年未満 | 17 | 16.3 |
3年未満 | 21 | 20.2 |
4年未満 | 17 | 16.3 |
5年未満 | 14 | 13.5 |
5年以上 | 18 | 17.3 |
化学療法 | ||
あり | 34 | 32.7 |
なし | 70 | 67.3 |
各尺度の内的整合性について確認すると,クロンバックα係数はSMI得点が0.86,2つの反すう傾向の問題への直面化が0.86,ネガティブな内省が0.81,ソーシャルサポートが0.94と高い信頼性が示された.対象者全体での平均点は,反すうのうちネガティブな内省は12.4(SD = 4.0),問題への直面化は13.6(SD = 4.0)であった.ソーシャルサポートの平均点は47.1(SD = 11.8)で,下位尺度では情緒的サポートが22.5(SD = 7.2),手段的サポートが24.6(SD = 5.7)であった.SMI得点の平均点は34.9(SD = 23.7)であった.SMI得点,反すうのうちネガティブな内省およびソーシャルサポートの下位項目である情緒的サポートは,閉経前後による年齢群間の差が認められ,54歳以下群の得点が高いという結果であった(表2).また,SMI得点について,受診や治療が必要とされる51点以上の要治療の者は30名(28.8%),そのうちの23名(76.7%)が54歳以下という結果であった.治療継続期間および化学療法の有無によるSMI得点の差は認められなかった.
項目数 | n = 104 全体(SD) |
n = 55 54歳以下 |
n = 49 55歳以上 |
p | |
---|---|---|---|---|---|
SMI | 10 | 34.9(23.7) | 44.3(22.6) | 24.2(20.3) | <0.01 |
問題への直面化 | 6 | 13.6(4.0) | 14.0(3.6) | 13.1(4.3) | 0.23 |
ネガティブな内省 | 7 | 12.4(4.0) | 13.2(4.0) | 11.5(3.7) | 0.03 |
ソーシャルサポート | 12 | 47.1(11.8) | 49.1(12.3) | 44.9(10.9) | 0.07 |
情緒的サポート | 6 | 22.5(7.2) | 24.2(7.2) | 20.6(6.8) | 0.01 |
なぐさめ・はげまし | 3 | 11.6(3.5) | 12.3(3.4) | 10.9(3.5) | 0.05 |
アドバイス・助言 | 3 | 11.1(3.8) | 11.9(3.7) | 10.3(3.8) | 0.03 |
手段的サポート | 6 | 24.6(5.7) | 25.1(6.2) | 24.1(5.2) | 0.39 |
金銭・物資的支援 | 3 | 12.3(3.1) | 12.5(3.4) | 12.0(2.7) | 0.37 |
具体的行動 | 3 | 12.4(3.2) | 12.6(3.3) | 12.1(3.1) | 0.50 |
結果を表3に示す.反すう傾向と54歳以下および55歳以上群別での2つの反すう傾向と,ソーシャルサポート得点,更年期症状の相関係数を算出した.54歳以下および55歳以上の両群ともネガティブな内省は,SMI得点との正の相関が認められた(r = .37, r = .34).SMIの症状では,両年齢群共に精神神経系の症状である「怒りやすく,すぐイライラする」(r = .30, r = .46),「くよくよしたり,憂うつになることがある」(r = .51, r = .53)のように正の相関がみられ,55歳以上群のみ「寝つきが悪い,または眠りが浅い」の正の相関も認められた(r = .28).身体的な苦痛症状では,両年齢群において「頭痛,めまい,吐き気がよくある」と正の相関が認められた(r = .29, r = .29).54歳以下群では「腰や手足が冷えやすい」(r = .36),「肩こり,腰痛,手足の痛みがある」(r = .29),55歳以上群では「疲れやすい」の症状と正の相関がみられた(r = .36).代謝亢進症状は,両年齢群共に相関はみられなかった.
問題への直面化 1 |
ネガティブな内省 2 |
ソーシャルサポート合計 3 |
情緒的サポート 4 |
手段的サポート 5 |
||
---|---|---|---|---|---|---|
1 問題への直面化 | 54歳以下 | |||||
55歳以上 | ||||||
2 ネガティブな内省 | 54歳以下 | .30* | ||||
55歳以上 | .59** | |||||
3 ソーシャルサポート合計 | 54歳以下 | –.02 | –.18 | |||
55歳以上 | .31* | .07 | ||||
4 情緒的サポート | 54歳以下 | –.01 | –.23 | .94** | ||
55歳以上 | .25 | .03 | .90** | |||
5 手段的サポート | 54歳以下 | –.02 | –.10 | .94** | .77** | |
55歳以上 | .28 | –.10 | .88** | .62** | ||
6 SMI合計得点 | 54歳以下 | –.04 | .37** | –.28* | –.31* | –.23 |
55歳以上 | .33* | .34* | .07 | .21 | –.07 | |
7 顔がほてる | 54歳以下 | –.05 | .10 | –.06 | –.15 | .02 |
55歳以上 | .14 | .05 | .32* | .42** | .15 | |
8 汗をかきやすい | 54歳以下 | .00 | .00 | –.09 | –.15 | –.06 |
55歳以上 | .27 | .06 | .25 | .44** | .01 | |
9 腰や手足が冷えやすい | 54歳以下 | .04 | .36** | –.18 | –.12 | –.16 |
55歳以上 | .15 | .18 | –.05 | .08 | –.17 | |
10 息切れ・動機がする | 54歳以下 | .05 | .22 | –.17 | –.17 | –.15 |
55歳以上 | .22 | .24 | .02 | .07 | –.02 | |
11 寝つきが悪い,また眠りが浅い | 54歳以下 | .01 | .22 | –.34* | –.16 | –.29* |
55歳以上 | .15 | .28* | –.12 | .00 | –.21 | |
12 怒りやすく,すぐイライラする | 54歳以下 | –.11 | .30* | –.27* | –.36** | –.24 |
55歳以上 | .38** | .46** | .05 | .11 | .00 | |
13 くよくよしたり,憂うつになることがある | 54歳以下 | –.08 | .51** | –.27* | –.25 | –.26 |
55歳以上 | .36* | .53** | .04 | .06 | .04 | |
14 頭痛,めまい,吐き気がよくある | 54歳以下 | –.11 | .29* | –.16 | –.18 | –.14 |
55歳以上 | .23 | .29* | –.08 | –.02 | –.12 | |
15 疲れやすい | 54歳以下 | –.23 | .14 | –.14 | –.19 | –.06 |
55歳以上 | .31* | .36* | –.02 | .02 | –.02 | |
16 肩こり,腰痛,手足の痛みがある | 54歳以下 | .12 | .29* | .03 | .05 | –.02 |
55歳以上 | .15 | .00 | .15 | .26 | .05 |
n = 104,* p < 0.05,** p < 0.01
一方,反すうの問題への直面化とSMI合計得点について,54歳以下群は相関が認められなかったが,55歳以上群ではSMI得点(r = .33),および下位項目のうち精神神経系症状の「怒りやすくすぐイライラする」(r = .38),「くよくよしたり,憂うつになることがある」(r = .36),「疲れやすい」(r = .31)のように正の相関が認められた.またネガティブな内省とソーシャルサポートには,有意な相関はみられなかったが,問題への直面化とソーシャルサポートは,55歳以上群において正の相関が認められた.
SMI得点とソーシャルサポート得点との相関では,54歳以下群においてソーシャルサポート合計得点およびその下位項目である情緒的サポート,手段的サポートとSMI得点の症状と負の相関が示され,情緒的サポートとSMI得点(r = –.31),SMIの症状では「怒りやすくすぐイライラする」(r = –.36),手段的サポートと「寝つきが悪い,または眠りが浅い」(r = –.29)が有意であった.しかし,55歳以上群は,情緒的サポートと代謝亢進症状である「顔がほてる」(r = .42),「汗をかきやすい」(r = .44)のように正の相関が示されたが,手段的サポートは無相関であり,2つの年齢群により異なる相関が示された.
4. サポート提供者によるソーシャルサポート得点とSMI得点ソーシャルサポートの提供者について,情緒的サポートでは配偶者66名(63.5%),友人56名(53.8%),子ども42名(40.4%)の順に,ありと選択した者が多かった.手段的サポートでは配偶者66名(63.5%),親42名(40.4%),子ども36名(34.6%)を選択した者が多く,情緒的サポートおよび手段的サポートともに配偶者がサポート提供者として最も多く選択されていた.しかし,情緒的なサポートについて親または友人をサポート提供者として選択した場合にのみ情緒的サポート得点が高く,手段的なサポート提供者では,親を選択した場合に手段的サポートの得点が高いという結果であった(表4).そして,手段的サポート提供者に友人を選択している場合にのみSMI得点が有意に低いという結果であった.
情緒的サポート提供者 | 選択 | n | 情緒的サポート平均点 | SD | p | SMI平均点 | SD | p | 手段的サポート提供者 | 選択 | n | 手段的サポート平均点 | SD | p | SMI平均点 | SD | p | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
配偶者 | あり | 66 | 22.7 | 6.6 | 0.69 | 36.6 | 24.5 | 0.35 | 配偶者 | あり | 66 | 25.0 | 5.2 | 0.33 | 35.2 | 20.8 | 0.87 | |
なし | 38 | 22.1 | 8.2 | 32.0 | 22.2 | なし | 38 | 23.9 | 6.6 | 34.4 | 25.3 | |||||||
親 | あり | 34 | 24.8 | 5.5 | <0.01 | 38.6 | 23.2 | 0.27 | 親 | あり | 42 | 26.0 | 4.9 | 0.04 | 21.8 | 21.8 | 0.30 | |
なし | 70 | 21.4 | 7.6 | 33.1 | 23.8 | なし | 62 | 23.6 | 6.0 | 24.8 | 24.8 | |||||||
子ども | あり | 42 | 23.3 | 7.0 | 0.36 | 31.0 | 22.8 | 0.17 | 子ども | あり | 36 | 25.4 | 5.4 | 0.31 | 29.4 | 21.6 | 0.08 | |
なし | 62 | 22.0 | 7.3 | 37.5 | 24.1 | なし | 68 | 24.2 | 5.9 | 37.9 | 24.3 | |||||||
兄弟姉妹 | あり | 38 | 23.8 | 6.4 | 0.14 | 38.5 | 22.8 | 0.24 | 兄弟姉妹 | あり | 25 | 26.2 | 4.1 | 0.11 | 32.6 | 23.5 | 0.57 | |
なし | 66 | 21.7 | 7.5 | 32.8 | 24.1 | なし | 79 | 24.1 | 6.1 | 35.7 | 23.8 | |||||||
義親 | あり | 5 | 26.8 | 4.9 | 0.17 | 21.0 | 21.0 | 0.85 | 義親 | あり | 13 | 26.3 | 4.2 | 0.25 | 40.6 | 19.2 | 0.36 | |
なし | 99 | 22.3 | 7.2 | 23.9 | 23.9 | なし | 91 | 24.4 | 5.9 | 34.1 | 24.2 | |||||||
友人 | あり | 56 | 25.1 | 5.5 | <0.01 | 32.2 | 21.6 | 0.21 | 友人 | あり | 10 | 25.0 | 4.9 | 0.82 | 20.9 | 20.8 | 0.05 | |
なし | 48 | 19.5 | 7.8 | 38.0 | 25.8 | なし | 94 | 24.6 | 5.8 | 36.4 | 23.6 |
2つの反すう傾向がソーシャルサポートおよびSMIに及ぼす効果,ソーシャルサポートがSMIに及ぼす効果を明らかにするため,閉経前後の年齢群別に多母集団同時パス解析を行った.すべてのパス間の比較を行うため,2つの反すう傾向(ネガティブな内省,問題への直面化)からソーシャルサポートへのパス,SMIへのパス,ソーシャルサポートからSMIへのパスに加えて2つの反すう傾向の間に相関を設定し,飽和モデルとした(図1).非標準化解において,ネガティブな内省からSMIへのパスは,55歳以上群(b = 1.27)より54歳以下群(b = 1.62)の方が大きく,問題への直面化からSMIへのパスは54歳以下群では負の影響を示し(b = –.53),55歳以上群では正の影響と異なる影響が示された(b = .53).ネガティブな内省からソーシャルサポートへのパスは,55歳以上群(b = –.55)より54歳以下群(b = –.66)の方が負の影響が大きかった.問題への直面化からソーシャルサポートへのパスは,54歳以下群(b = .09)よりも55歳以上群(b = .62)の方で影響が大きいという結果であった.両群ともにネガティブな内省からSMIへの直接効果が示されると共に,ソーシャルサポートの知覚を低下させることも確認された.ネガティブな内省からSMIへのソーシャルサポートを介した間接効果は認められなかったが,54歳以下群においてはソーシャルサポートからSMIへの直接効果が認められた.2つの反すう傾向によるSMIおよびソーシャルサポートへの直接効果は年齢群による違いが認められた.
多母集団パスモデル
ホルモン療法による更年期症状を調査した研究におけるSMIでは,閉経前後での差は認められないことが示されている(山本ら,2015;城丸ら,2005).しかし,本研究では自然閉経と同様に年齢群によるSMI得点の差が認められる結果となった.結果の相違について,先行研究では,使用薬剤もしくはホルモン療法開始前の閉経の有無により閉経前後が定義されている.したがって,平均閉経年齢による年齢群で閉経を定義している本研究の結果とは単純に比較はできないが,閉経前後での差が認められないことを示した研究では,調査人数が少なかったため,閉経前患者の方が平均点が高いことや,症状が強く現れやすい傾向は示されていたが有意差は得られなかった可能性が考えられる.本研究の54歳以下群のSMI得点は44.31 ± 22.6であり,自然閉経時のSMI得点で最も高いことが示された50~54歳の34.3 ± 18.6(森,1998)よりさらに高値であった.また要治療とされる者は約3割認められた.ホルモン療法を中止する患者の46%が副作用症状を原因とされており(Kuba et al., 2016),治療継続のためにも症状軽減に向けた支援が必要であることを示した結果と考えられる.
2. 2つの反すう傾向と更年期症状の関係反すうのうちネガティブな内省は更年期症状と相関がみられ,抑うつ症状が含まれる精神神経症状以外の「頭痛,めまい,吐き気がよくある」や,年齢群により異なるものの「腰や手足が冷えやすい」「肩こり,腰痛,手足の痛みがある」「疲れやすい」といった身体的な苦痛症状との関連も認められた.反すうは生理心理学モデルにおいて心血管,免疫,内分泌系,内臓神経系の生理的な反応を引き起こすことも報告されており(Brosschot et al., 2006),ホルモン療法による更年期症状にも影響を与える心理特性の1つであると考えられる.一方,代謝亢進症状との相関は認められなかった.代謝亢進症状であるホットフラッシュは更年期症状として典型的な症状である.しかし自然閉経時の更年期症状では,日本人女性において欧米人よりも出現率が低いことが指摘されている(Melby, 2005).ホルモン療法においても同様の傾向である可能性が考えられ,更年期症状を強く感じやすくなるネガティブな内省と代謝亢進症状との関係が明らかにされなかった可能性が推測される.
3. 年齢群別の反すう傾向・ソーシャルサポート・更年期症状の関係結果3および結果5で示した通り,反すうのうちネガティブな内省の者は更年期症状が強くなることが両年齢群に認められた.閉経前である54歳以下群の方が,ネガティブな内省が更年期症状に及ぼす影響は大きく,ソーシャルサポートが低くなりやすいことが示された.ネガティブな内省の者へのソーシャルサポートによる更年期症状への緩衝効果は認められなかった.しかし,54歳以下群のソーシャルサポートは負の相関係数および負のパス係数が示され,更年期症状を低減させる効果が認められた.したがって,54歳以下群のネガティブな内省では,必要としているソーシャルサポートが得られないことによって更年期症状が強くなる可能性がある.閉経前の者では,ホルモン療法によって初めて更年期症状を体験する.そのため,54歳以下群では自ら他者に必要なサポートを希求することが困難となり,ネガティブな内省により原因や結果を受動的に考え続けてしまうと考えられる.
一方,54歳以下群の問題への直面化においては更年期症状が弱くなる傾向が認められた.しかし55歳以上群では,問題への直面化の者の方が更年期症状が強くなることが示され,全ての人において問題への直面化によって更年期症状が軽減されるという結論には至らなかった.また,相関分析の結果から,55歳以上群では情緒的サポートにより更年期症状が強くなることが認められた.問題への直面化について,松本(2008)は,どうしたら改善できるかを考えるなど積極的問題解決スタイルと関連し,現状を改善しようとする働きかけと報告している.55歳以上の問題への直面化の者では,更年期症状を体験した者が多いと考えられる.過去の経験を活かし,症状軽減に向けた対処行動を能動的に行おうとした結果,自分だけではコントロール不可能な更年期症状を改善する方法として,コーピングの1つである「ソーシャルサポートを求めること」(任,2009)により症状のセルフマネジメントにつなげていると考えられる.中村・浦光(1999)は,サポートの期待と受容の交互作用効果を調査し,サポート期待が低いにもかかわらず受容が多い場合に,期待が高いにもかかわらず受容は少なかったという場合よりも不適応が高いあるいは自尊心が低いという現象が見られたことを報告している.更年期症状に対して,本人が期待するサポートより提供されるサポートが多い場合や,本人が必要としないサポートは,負担になる可能性がある.55歳以上の問題への直面化の者では,更年期症状に対し,自ら症状軽減に向けて対処しようと考えている状況であり,余剰な情緒的サポートにより更年期症状が強くなった可能性がある.
また,ソーシャルサポートについて,情緒的・手段的サポート共に提供者として配偶者が最も多く選択されていた.しかし,ソーシャルサポート得点には結びついていなかった.術前から術後1年の成人期初発乳がん患者の精神的QOL(Quality of Life)において,配偶者あり群に比べて配偶者なし群の方がQOL得点が高いこと(岩崎ら,2010)や,男性より女性の方が高いレベルの支援を配偶者から望んでおり,サポートにずれがあることが示されている(Yan & Brant, 2001).配偶者をサポート提供者として選択していても,本人が期待するサポートが配偶者から入手可能と認識できておらず,配偶者の存在があることが必ずしも症状軽減のために有効なサポートに結びつかない可能性がある.したがって,サポートが入手可能であるという知覚につながる友人や親といったサポート提供者の存在がない場合には,本人が期待するソーシャルサポートが得られず,更年期症状の自覚も強くなることが考えられる.また,情緒的・手段的サポート共にサポート提供者に友人がいる場合にはサポートを多く知覚できている.したがって,家族以外のサポート提供者である医療者の支援が効果を示す可能性があり,特に54歳以下のネガティブな内省傾向の者に対しては,本人が望むサポートの充足状況を理解し,医療者が配偶者も含めて支援を提供できるよう働きかけを行う必要がある.
本研究の対象者はA県2施設で術後ホルモン療法を受ける患者に限定されている.自記式質問紙であるため,正確な病期の回答は困難であり病期による影響は考慮できていない.治療には多種類の薬剤が使用されており使用薬剤の種類が症状に影響を及ぼしていた可能性がある.また,副作用症状により治療を中断した患者は調査できていない.化学療法を受けた対象が含まれているため,有害反応による症状を有していた可能性がある.
人に好ましくない様々な反応をもたらす心理特性とされる反すうのネガティブな内省について,サポートや経験,状況により変化する可能性があることが明らかになった.今後は背景要因を明らかにするため対象を広め,さらに詳細に調査し,具体的な支援方法の検討を行うことが課題である.
更年期症状の得点は年齢群により差が認められた.反すうのうちネガティブな内省の者は精神症状および身体症状を含む更年期症状と関係し,更年期症状が強くなることが示された.55歳以上の者では問題への直面化によりソーシャルサポートを多く知覚することが認められた.しかし,54歳以下の者ではネガティブな内省が,ソーシャルサポートの知覚の低下につながることが認められたため,必要なソーシャルサポートを提供することに加えてソーシャルサポートが入手可能であると認識できるような援助が必要となる.サポートの提供者の存在を確認するだけではなく,患者の年齢やそれぞれの反すう傾向を考慮した適切なサポートが得られるような支援を行う必要がある.
付記:本論文の一部は第33~35回日本がん看護学会学術集会で発表した.
謝辞:本研究にご協力いただきました対象者の皆様,調査にご協力いただきました医師,看護師,スタッフの皆様に感謝申し上げます.論文作成にあたり貴重なご助言をいただきました名古屋大学大学院教育発達科学研究科博士後期課程,藤野真行様に感謝申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:MKは研究の着想,デザイン,データ収集,統計解析,論文執筆の全研究のプロセス全体に貢献した.AOは研究の着想,デザイン,データの入手,原稿への示唆,研究プロセス全体への助言を行った.HIは統計解析の実施,解釈,原稿への示唆に貢献した.TUおよびKAは研究のデザイン,原稿への示唆,研究のプロセスへ全体の助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.