2021 Volume 41 Pages 623-629
目的:在宅医療提供体制が整った環境下における終末期がん患者の在宅看取りの関連要因を明らかにする.
方法:A法人の終末期がん患者の訪問診療記録を用いた後ろ向き調査を実施した.患者の年齢,性別,疾患名,主介護者の属性,在宅医療開始時の患者及び家族への病名告知と余命告知の有無,患者の在宅療養継続の希望,そして在宅医療開始後死亡までの期間を調査し,在宅看取りを従属変数としてロジスティック回帰分析を行った.
結果:分析対象933名.在宅看取りに関連したのは,在宅医療開始時の在宅療養継続への強い希望(オッズ比3.28 95%信頼区間2.30~4.68,p < .01)と,在宅医療開始後死亡までの期間が30日以内(オッズ比1.51 95%信頼区間1.13~2.03,p < .01)であった.
結論:在宅看取りの要因は,在宅療養継続の強い希望と,在宅医療開始後死亡までの期間が30日以内であった.
Objective: We sought to demonstrate the factors involved in the death at home of terminal cancer patients receiving home palliative care within a well-established home medical care system.
Methods: We conducted a retrospective study using home medical care records of deceased terminal cancer patients who had started receiving house calls by Corporation A, and who had also received home nursing care. Study variables were patient age, sex, disease name, primary carer attributes, whether or not patients and their family members had been informed of the patient’s disease and prognosis at commencement of house calls, whether or not patients wished to continue receiving home care, and time from commencement of house calls until death. After collecting the study data, we performed logistic regression analysis using death at home as the dependent variable.
Results: The study population consisted of 933 patients. Our analysis showed that factors enabling death at home were the patient’s wish to continue receiving home care at the commencement of house calls (odds ratio, 95% confidence interval: 3.28, 2.30–4.68, p < .01), and a ≤30-day time period from the commencement of house calls until death (odds ratio, 95% confidence interval: 1.51, 1.13–2.03, p < .01).
Conclusion: We found that the factors involved in the death at home of terminal cancer patients within a well-established home medical care system are the patient’s wish to continue receiving home care at the commencement of house calls, and a ≤ 30-day time period from the commencement of house calls until death.
日本は超高齢社会に入り,2042年には65歳以上の高齢者は3878万人に達する(内閣府,2013).それに伴い日本は多死社会となり,2040年には約170万人が亡くなる(厚生労働省,2016)と予測されている.日本人の死因の第1位はがん(厚生労働省,2019)であり,末期がんで最期を迎えたい場所を「自宅」と回答した人は58%(がん対策情報センター,2020)にのぼるが,末期がん患者の在宅看取りの割合は11.7%(e-Stat, 2017)と少ない.近年,在宅医療提供体制の整備が進められている中で,終末期がん患者の在宅看取り率の低さからその実現に困難があることがうかがえる.
終末期がん患者の在宅看取りの要因に関する先行研究では,在宅看取りを促進する患者要因として,オピオイドを使用していない(佐野ら,2019)こと,不安・抑うつがない(佐藤ら,2015)こと,訪問診療など在宅ケアを希望して受けている(Gomes & Higginson, 2006;Fukui et al., 2003)こと,訪問診療開始時の全身状態が不良である(橋本ら,2018;Gomes & Higginson, 2006)こと,亡くなる1週間前の全身状態が最も不良である(Fukui et al., 2003)こと,在宅療養期間中の入院歴がない(橋本ら,2018;Fukui et al., 2003)こと,在宅看取りの希望が明確である(佐藤ら,2015;Tang et al., 2008)ことが報告されている.また,家族要因においては,家族の介護が十分得られる(佐藤ら,2015;Gomes & Higginson, 2006)こと,介護者が女性である(佐野ら,2019)こと,医療者との信頼関係があった(佐野ら,2019)こと,家族の在宅看取りの意思がある(橋本ら,2018;東口ら,2012;Gomes & Higginson, 2006)ことが報告されており,その他の要因としては,在宅看取りを目的とした在宅療養期間の中央値が14日であった(佐野ら,2019)こと,緊急入院が可能であった(佐野ら,2019)ことなどが報告されている.つまり,在宅看取りの要因には,患者と家族共に在宅看取りへの強い意思があることを前提とし,疼痛緩和が図られ,緊急入院が可能な在宅医療提供体制が整っていること,長期間の家族介護を要さないことなど,患者と家族が安心して在宅療養が行えるような環境があることが促進要因となっているといえる.一方で,2006年に在宅療養支援診療所が創設され,在宅療養の推進に向けて在宅医療提供体制の整備がなされており,今後,在宅看取りを阻害する要因となっていた疼痛緩和や緊急入院の受け入れ体制などの在宅医療提供体制がさらに整っていくことが推察される.
そこで本研究では,在宅医療提供体制が整った環境における終末期がん患者の在宅看取りの要因を分析することとした.在宅看取りを大きく阻害する在宅医療提供体制の要因を取り除いた環境において,在宅看取りの要因が明らかとなることは意義があると考えた.
在宅医療提供体制が整った環境において,在宅緩和ケアを受けた終末期がん患者の在宅看取りの関連要因を明らかにする.
終末期がん患者:がんが治癒不可能な状態で余命6ヶ月~1年以内と予測される患者.
在宅医療提供体制が整った環境:24時間体制での終末期がん患者の入院受け入れや症状緩和を図ることが可能な在宅医療の提供体制がある環境.
2010年4月~2017年3月にA法人の自宅訪問診療を開始し,かつ訪問看護を導入した終末期がん患者で,死亡転機となった者とした.ただし在宅医療開始から死亡までの期間が7日以内と1年以上,介護者のいない独居,施設等自宅以外に居住,介護保険サービスが利用できない40歳未満の患者を除外した.
A法人は,緩和ケア病棟,在宅緩和ケア充実診療所,機能強化型訪問看護ステーションを有し,24時間体制で麻薬の処方が可能な調剤薬局とチームを組んで在宅緩和ケアを提供している法人である.緩和ケア医による訪問診療が行われ,緩和ケア病棟と同等に症状緩和を在宅で行える環境であり,24時間体制でいつでも緩和ケア病棟への入院が可能である.対象者の訪問診療は,在宅緩和ケア充実診療所の医師が実施し,24時間対応体制のある訪問看護ステーションが関わっている.また患者の余命が日にち単位と予測される時期には必ず家族への余命告知と看取り場所の確認を行っている.
2. 調査方法研究者が,A法人の診療記録から対象となる患者の在宅医療開始時および死亡転帰の情報を収集した.
3. 調査内容患者の年齢,性別,疾患名,主介護者の性別,続柄,そして患者・家族それぞれへの病名告知・余命告知の有無について在宅医療開始時点での情報を得た.本研究の病名告知とは,原発部位及び転移などの名称と不治の病状説明をさし,余命告知とは,日にち単位,週単位などの表現や具体的な数値を用いた死亡までの残された期間の説明をさす.また,患者の療養継続希望場所については,在宅医療開始時点で自宅療養の継続の意向を確認した際に,「できる限り在宅での療養を継続していきたい」という在宅療養継続への強い希望があったものを「強い希望あり」,その時点では在宅療養を行うが,入院も視野にあり,今後の療養形態への意向が不明であったものを「不明」とした.看取り後に在宅医療開始から看取りまでの期間を算出し,看取り場所が自宅であったか,病院であったかについての情報を得た.
4. 調査期間2020年7月1日~2020年9月30日
5. 分析方法まず,死亡場所とその関連要因を単変量解析(χ2検定)で分析した.次に,死亡場所を従属変数,単変量解析で有意な関連を認めた変数を独立変数としてロジスティック回帰分析(強制投入)を実施した.有意確率は0.05未満とした.分析ソフトはSPSS ver. 26を用いた.
6. 倫理的配慮本研究の実施に際し,研究の目的を含む研究内容についての情報をA法人のホームページ及び外来で情報公開し,研究対象者または代諾者等が参加を拒否できる機会を保障した.また,対象施設の診療記録の管理責任者に研究の目的,趣旨,倫理的配慮等を文書を用いて説明し承諾を得た.本研究は,愛媛大学大学院医学系研究科看護学専攻研究倫理審査委員会の承認(承認番号:看2020-1)を受け実施した.
対象患者933名の診療記録データを分析対象とした.対象患者の特性は,男性535名(57.3%),女性398名(42.7%),年齢の平均は74.3歳(中央値76歳,範囲40~96歳),男性患者の平均年齢は75.0歳,女性患者の平均年齢は73.3歳であった.がんの原発部位は,最も多かったのが肝臓・胆嚢・膵臓が217名(23.3%),肺・胸部が202名(21.7%),胃・十二指腸が123名(13.2%)であった.在宅医療開始から看取りまでの平均日数は,64日(範囲7日~363日,中央値32日)であった.
対象患者の死亡転帰は,在宅看取り597名(64.0%),病院看取り336名(36.0%)であった.在宅医療開始時の家族への病名告知は929名(99.6%)に実施されており,余命告知は641名(68.7%)に行われていた.本人への病名告知は836名(89.6%)に実施されており,余命告知では199名(21.3%)であった.在宅医療開始時に在宅療養継続の希望は,「強い希望あり」266名(28.5%),「不明」は667名(71.5%)であった.「強い希望あり」と答えた者のうち在宅看取りは219名(82.3%),「不明」であった者のうち在宅看取りは378名(56.7%)であった.主介護者は,配偶者568名(60.9%),女性介護者743名(79.6%)であった.在宅医療開始後死亡までの期間は,30日以内は367名(39.3%)であった.在宅医療開始後死亡までの期間を細分化して看取りの割合を分析すると30日以降に在宅看取り率の低下が確認されたことから,本研究では30日以内と31日以上で区分し,看取りの関連要因として分析に用いることとした(表1).
全対象者 | (%) | 在宅看取り | (%) | 病院看取り | (%) | χ2値 | P値(Peason) | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
n = 933 | (100) | n = 597 | (64.0) | n = 336 | (36.0) | ||||
年齢 | 平均 | 74.3 | 73.2 | 74.7 | ― | .57 | |||
範囲 | (40~96) | (Mann-Whitney U検定) | |||||||
中央値 | 76 | ||||||||
在宅医療開始後死亡までの日数 | 平均値 | 64 | 55.7 | 78.9 | ― | <.001 | |||
範囲 | (7~363) | (8~363) | (8~357) | (Mann-Whitney U検定) | |||||
中央値 | 32 | 34 | 51 | ||||||
最頻値 | 8 | ||||||||
31日以上 | 566 | (60.7) | 334 | (59.0) | 232 | (69.0) | 15.47 | <.001 | |
30日以内 | 367 | (39.3) | 263 | (71.7) | 104 | (31.0) | |||
性別 | 男 | 535 | (57.3) | 360 | (67.3) | 175 | (32.7) | 5.94 | .02 |
女 | 398 | (42.7) | 237 | (59.5) | 161 | (40.5) | |||
がん病名 | 胃・十二指腸 | 123 | (13.2) | 79 | (64.2) | 44 | (35.8) | 1.60 | .66 |
肺・胸部 | 202 | (21.7) | 123 | (60.9) | 79 | (39.1) | |||
肝・胆・膵 | 217 | (23.3) | 145 | (66.8) | 72 | (33.2) | |||
その他 | 391 | (41.9) | 250 | (63.9) | 141 | (36.1) | |||
家族への病名告知 | なし | 4 | (0.4) | 1 | (25.0) | 3 | (75.0) | 2.65 | .10 |
あり | 929 | (99.6) | 596 | (64.2) | 333 | (35.8) | |||
家族への余命告知 | なし | 292 | (31.3) | 174 | (59.6) | 120 | (40.4) | 3.57 | .06 |
あり | 641 | (68.7) | 423 | (66.0) | 228 | (34.0) | |||
本人への病名告知 | なし | 97 | (10.4) | 67 | (69.1) | 30 | (30.9) | 1.22 | .27 |
あり | 836 | (89.6) | 530 | (63.4) | 306 | (36.6) | |||
本人への余命告知 | なし | 734 | (78.7) | 469 | (63.9) | 265 | (36.1) | 0.01 | .91 |
あり | 199 | (21.3) | 128 | (64.3) | 71 | (35.7) | |||
在宅療養継続の希望 | 不明 | 667 | (71.5) | 378 | (56.7) | 289 | (43.3) | 54.33 | <.001 |
強い希望あり | 266 | (28.5) | 219 | (82.3) | 47 | (17.7) | |||
主介護者(配偶者) | 配偶者以外 | 365 | (39.1) | 223 | (61.1) | 142 | (38.9) | 2.18 | .14 |
配偶者 | 568 | (60.9) | 374 | (65.8) | 194 | (34.2) | |||
主介護者(男女) | 男 | 190 | (20.4) | 106 | (55.8) | 84 | (44.2) | 6.96 | .008 |
女 | 743 | (79.6) | 491 | (66.1) | 252 | (33.9) |
看取り場所との関連要因の分析結果は表1に示した.患者の性別では,女性より男性の方が有意に在宅看取りが多く(p = .02),在宅療養継続の希望では,「強い希望あり」は「不明」であった患者より在宅看取りが有意に多かった(p < .001).また在宅医療開始後死亡までの期間は,31日以上より30日以下の方が在宅看取りは有意に多かった(p < .001).主介護者においては配偶者であること(p = .14)は関連せず,女性であること(p = .008)が在宅看取りに有意な関連を認めた.本人への病名告知(p = .27)と余命告知(p = .91)及び家族への病名告知(p = .10)では看取り場所との関連は認められなかったが,家族への余命告知では,家族への余命告知がある方が在宅看取りがやや多い傾向が認められた(p = .06).
在宅看取りの独立した要因を明らかにするために,ロジスティック回帰分析(強制投入)を実施した.変数には,2変数間の関連を認めた性別,在宅療養継続の希望,在宅医療開始後死亡までの期間,介護者の性別に,本研究において関連の検証をする必要があると考えた家族への余命告知の項目を加えた.その結果,関連したのは在宅療養の継続を強く希望していること(オッズ比3.28 95%信頼区間2.30~4.68,p < .01),在宅医療開始後死亡までの期間30日以内(オッズ比1.51 95%信頼区間1.13~2.03,p < .01)であった.HosmerとLemeshowの検定は0.30(p≧.05),モデル係数のオムニバス検定<.001,判別的中率は66.1%であった(表2).
オッズ比の95%信頼区間 | ||||
---|---|---|---|---|
オッズ比 | 下限 | 上限 | P値 | |
患者は男性 | 1.13 | .818 | 1.56 | .46 |
主介護者は男性 | .735 | .449 | 1.09 | .12 |
家族への余命告知なし | .872 | .647 | 1.17 | .37 |
在宅療養継続の強い希望 | 3.28 | 2.30 | 4.68 | <0.001 |
在宅医療開始後死亡まで 30日以内 | 1.51 | 1.13 | 2.03 | .006 |
HosmerとLemeshowの検定:.30(p≧.05),モデル係数のオムニバス検定:<.001,判別的中率66.1%
看取り場所:(0「自宅」,1「病院」),性別:(0「男」,1「女」),介護者(0「男」,1「女」),家族への余命告知:(0「なし」,1「あり」),在宅療養継続の希望:(0「強い希望あり」,1「不明」),在宅医療開始後死亡までの日数:(0「30日以内」,1 「31日以上」)
従来の研究において,在宅看取りの阻害要因として疼痛緩和や緊急入院などの医療体制の不十分さが挙げられていたが,昨今では医療体制の整備された環境が実現しつつあることから,本研究では在宅医療提供体制の整った環境における在宅看取りの要因に着目して研究を行なった.その結果,在宅看取りには在宅療養の継続を強く希望していることと,在宅医療開始後死亡までの期間が30日以内であることが関連した.在宅医療提供体制が整った環境下では,在宅医療開始時に在宅療養継続の強い希望が在宅看取りに重要であり,在宅医療開始から31日を超える長期の在宅療養生活が在宅看取りを困難にしていた.
本研究の対象者の在宅看取り率は64.0%であり,全国の末期がん患者の在宅看取り率11.7%(e-Stat, 2017)に比べて高率であった.橋本ら(2015)は,在宅看取りの実績がある在宅療養支援診療所が訪問診療を行った結果,在宅看取り率は80%以上であったと報告している.Gomes & Higginson(2006)もまた,集中的な在宅ケアを受けることと在宅看取りには関連があると述べている.これらのことから,24時間体制での在宅医療提供体制そのものが在宅看取りの大きな要因となっていたと考えられる.
在宅看取りを実現する要因として,本人の在宅看取りの意思の重要性は多くの先行研究において報告されている.本研究においても在宅療養継続への強い希望と在宅看取りと関連が認められ,本人の意思は重要であるといえる.ただし,本研究の対象者の意思決定は,在宅医療開始時の在宅療養継続への意思であり,在宅看取りの明確な意思決定にまで至っていなかった.在宅療養を継続したいという希望によって在宅看取りが実現した背景には,24時間体制での入院受け入れ体制があったことが考えられる.榎本ら(2019)が,24時間体制での入院受け入れの確約は,患者や家族の精神的負担の軽減につながり,在宅療養の継続を促進すると述べている.いつでも入院が可能な環境が,その時その時での希望する療養場所の保証となるため,明確な在宅看取りの意思決定がなくても在宅生活継続の延長線上で自然と在宅での看取りが実現したと解釈することもできる.本研究では,いつでも緩和ケア病棟への入院が可能な体制のもと,緩和ケア医による訪問診療や看取り経験のある訪問看護ステーションからの訪問看護が行われ,麻薬の処方が可能な調剤薬局とチームを組んで24時間体制での在宅緩和ケアを提供していた.つまり,在宅医療提供体制の整った環境によって在宅療養生活の継続を阻害する要因が取り除かれたため,その生活を継続していく中で在宅看取りの意思が固まり,結果的に在宅で最期を迎えることになったのではないかと考えられた.
また,本研究の結果,在宅医療開始後死亡までの期間が30日以内であることが在宅看取りに関連し,31日以上では病院での看取りが多い結果となった.在宅緩和ケアを受けた終末期がん患者の入院の理由に,患者の身体的問題と同程度で家族の精神的・身体的問題があった(橋本ら,2015)ことが明らかになっている.本研究では,介護者の性別や属性と在宅看取りの関連は認められなかったことから,在宅医療開始後の療養が長期に及ぶと,介護者の性別や属性に関係なく介護負担の課題が大きくなるのではないかと推察される.また,長江ら(2000)は,在宅看取りをする終末期がん患者の家族に対する訪問看護師の実践内容を明らかにし,訪問看護師は,家族の今までの生活を維持できるように働きかけていたと述べている.このことから,患者の病状悪化への対応や在宅医療の導入によって,仕事の継続や睡眠時間,趣味に費やす時間など,介護者の日常生活の変化が長期間持続することで,在宅療養の継続を困難にしたとも推察される.
これらのことから,終末期がん患者の在宅看取りには,24時間の入院受け入れを含めた在宅医療提供体制において,在宅療養継続の強い希望があることが重要であり,在宅医療開始から31日を超えた長期の在宅療養生活となる場合には,介護者への日常生活への影響を最小限にするなどの在宅療養継続への支援の必要性が示唆された.在宅看取りは,在宅での生活や看取りの過程に安心が得られなければ実現しない.在宅緩和ケアを受けていて病院での看取りとなった理由として,患者の疼痛,呼吸困難,倦怠感などの身体的問題があった(榎本ら,2019;橋本ら,2015)と報告されているように,整った在宅医療提供体制や患者と家族の強い在宅療養への意思があったとしても,患者の苦痛や不安を取り除く症状緩和の技術が提供されなければ入院の選択をせざるを得なくなる.また家族を含めた患者の日常生活支援が不十分であれば,療養場所の希望や実際の看取りの場に大きく影響する.今後,終末期がん患者の在宅看取りに必要な医療環境,在宅で提供すべき医療やケアの内容についての検証を行い,どのような医療やケアの内容が在宅看取りの実現に関連するのかを明らかにしていく必要があると考える.
本研究のデータは,1つの法人によるデータであり,後ろ向き調査のため限られた変数での分析結果である.多様な環境,多様な地域性を含んでおらず一般化に課題がある.しかし,先行研究に比べてデータ数が十分に確保できたこと,24時間体制での緩和ケア病棟への入院受け入れ体制,緩和ケア医による訪問診療,調剤薬局による麻薬対応,在宅での看取り経験のある訪問看護ステーションの関わりがある環境下での在宅看取りの要因を探索したことは意義があると考える.
本研究の結果,在宅医療提供体制が整った環境において,在宅療養継続への強い希望,在宅医療開始後死亡までの期間が30日以内であることが在宅看取りに関連することが明らかになった.在宅医療開始後の在宅療養生活が長期化しても,在宅療養の継続を希望し続けられるような支援の必要性が示唆された.
謝辞:本研究にご協力いただきました患者,家族,関係機関の皆様に深く感謝いたします.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:MY,MH,KSは研究の着想および研究デザインとデータ作成,分析,論文執筆に貢献.AK,AFは,原稿への示唆及び研究プロセス全体への助言.全ての著者は最終原稿を確認して承認した.