Journal of Japan Academy of Nursing Science
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The Reliability and Validity of Japanese Version of Hospital Ethical Climate Survey
Ayaka OkumotoSatoko YoneyamaChiharu MiyataAyae Kinoshita
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2021 Volume 41 Pages 647-655

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Abstract

目的:倫理的風土を測定する尺度としてHospital Ethical Climate Survey(以下HECS)を翻訳,日本語版HECS(以下J-HECS(26))を作成,信頼性と妥当性の検討を行った.

方法:自記式質問紙調査を行った.対象は関西圏にある3大学病院の一般病棟に所属する看護職とした.

結果:2,168枚の質問紙を配布し,770枚を回収した(回収率35.5%).有効回答609部を解析対象とした.オリジナルと同じ26項目5因子構造にて確認的因子分析を行った結果,適合度はRMSEA = 0.09,CFI = 0.87,GFI = 0.82,AGFI = 0.78であった.クロンバックα係数は0.94と,高い信頼性が確認された.また尺度の平均得点は3.65点と対象者が倫理的風土を好ましいものとして認知していることが分かった.

結論:作成したJ-HECS(26)は,一定の信頼性と妥当性が得られ,今後組織の倫理的風土を高めるための教育や研修の効果を客観的に判断することへの貢献が期待される.

Translated Abstract

Hospital Ethical Climate Survey (HECS) was developed in the U.S. that measures ethical climate which is a type of work climate. The purpose of this study is to translate HECS into Japanese and evaluate the reliability and validity of the Japanese version of HECS (J-HECS (26)). The 770 of the nurses in three university hospitals in Japan participated in this cross-sectional study and 609 of them were analyzed. HECS, a self-administered questionnaire, was used to estimate the nurses’ perceptions of the hospital ethical climate. Descriptive statistics, confirmatory factor analysis (CFA), internal consistency, and correlation were used to analyze the data. CFA showed acceptable model fit: root-mean-square error of approximation (RMSEA) of 0.09, comparative fit index (CFI) of 0.87, and Goodness of Fit Index (GFI) of 0.82 and Adjusted Goodness of Fit Index (AGFI) of 0.78 and Akaike’s Information Criterion (AIC) of 1969.9. The overall Cronbach’s alpha coefficient was 0.94. The mean score of J-HECS (26) was 3.65, indicating that nurses in Japan perceive their ethical climate as favorable. This study shows that the J-HECS (26) is a reliable and valid instrument for measuring nurses’ perceptions of the ethical climate in hospitals of Japan.

Ⅰ. はじめに

臨床現場において看護師は様々な倫理的葛藤の場面に直面し,その度に倫理的判断や決断が求められている(小川ら,2014).倫理的問題は,選択を迫られ,答えが明確ではなく,選択肢が理想的でないときに生じるとされ(Ethical Issues in Nursing, 2020),価値観の対立によって認識される問題である.看護者が直面している倫理的な課題や問題は,一人だけあるいは看護師だけでは解決できないことが多く,倫理的行動をとることの困難さも提起されており(長谷川,2014),倫理的行動をとることができる組織の風土醸成が重要である.

倫理的風土は,組織風土の一つの形であるとされ(Suhonen et al., 2014),組織において何が正しい行動や,倫理的な問題にどのように取り組むかという認識を共有することであるとされている(Victor & Cullen, 1988).倫理的風土(ethical climate)には,moral climate,ethical work climate,ethical environment,ethical or moral culture等の表現があるが,これらは類似する語であるとOlsonは述べており,Lutzenもmoral climateと表現した研究で,Olsonが開発したHospital Ethical Climate Survey(以下HECS)を用いた研究を行っている(Lützen et al., 2010).

倫理的風土を測定するため,Victor & CullenのEthical Climate QuestionnaireやSchulteのEthical Climate Index,White & WallaceのIntegrity Auditなどの尺度が開発されてきたが,これらは対象が企業,大学として開発された経緯がある.ヘルスケア組織において看護師を対象とした倫理的風土を測定するため,OlsonによってHECSは開発された.Olsonの概念分析によると,倫理的風土とは,組織風土と同様に,共有された,または個人レベルでの認識であり,他の人々に影響を与える組織的な決定を推進する力としての役割や,比較的永続的ではあるが,リーダーシップなどによって変化する,静的ではない特性を持っているとされる.Olsonは倫理的風土を,「患者のケアに関する問題で意見が一致しない場合に,どのように対処するかについての看護師の認識」と定義し,Schneiderの組織風土と,Brownの組織における倫理的リフレクションの状態を概念枠組みとして,HECSを作成した.またOlsonは倫理的選択には,価値観や優先順位の対立がつきものであり,患者のケアに関する困難な問題や課題に対処する際には,関係者全員の価値観を考慮することが重要であると述べている.その上で看護師にとっての重要な人間関係である看護師同士(同僚)・上司・病院(病院の方針や理念などを通じた病院の価値観を通じた病院全体との関係)・医師・患者との関係性を5つの下位尺度とし,これらの関係性が,倫理的問題への対処に関する実践の認識へと影響しているとの考えを基にHECSは開発された(Olson, 1995).

HECSは諸外国において翻訳,妥当性が検証され,オリジナルである英語の他に2021年現在,スウェーデン語(Pergert et al., 2018),トルコ語(Bahcecik & Oztürk, 2003),ペルシャ語(Khalesi et al., 2014),韓国語(Hwang & Park, 2014),ギリシャ語(Charalambous et al., 2018)などに翻訳されている.そして,臨床の様々な場面において使用されつつあり,高齢者ケア(Suhonen et al., 2015)やICU(Hamric & Blackhall, 2007),精神科(Claeys et al., 2013)等の領域の使用においても妥当性が確保されている.先行研究によると,HECSのスコアは,職場満足度,道徳的困難感(Asgari et al., 2019Pauly et al., 2009),医療ミスや離職意図(Hwang & Park, 2014)などとの関連が報告され,倫理的風土と職場満足度は正の相関を示す一方で,倫理的風土と道徳的困難感の強さと頻度の間には負の相関があることが示されている.またHECSの下位尺度である“患者”で高い認識を持つ看護師は医療ミスが少なく,高い倫理的風土を認識する看護師は離職を意図していないことが報告されている(Hwang & Park, 2014).このようにHECSが示す倫理的風土は看護師の職場満足度や道徳的困難感,離職といった要因との関連が報告されている.

わが国でも,倫理的風土の変革を目指す取り組みが報告(中川,2011)されているが,倫理的風土を測定する尺度が広く用いられている状況はない.日本語版HECS(J-HECS)の開発によって倫理的風土を客観的に測定し,看護師の職場環境の向上,患者ケア向上の一端を担うことのできる可能性がある.近年,稲垣らによって発表されたJ-HECSは26項目ではなく,18項目での採択を行っている(稲垣ら,2020).本研究は26項目でのHECSの開発を目的とした研究であり,完全版26項目でのHECSを用いて,組織風土の一つである倫理的風土を測定することで,諸外国での結果との比較が容易になるメリットがあると考える.そのため今回,HECSのオリジナル版を元に完全版の日本語版倫理的風土尺度(J-HECS (26))を作成することを目的に,その信頼性と妥当性の検討を行った.

Ⅱ. 日本語版倫理的風土尺度の作成

HECSはOlsonによって米国で開発された,病院の看護師がどのように倫理的風土を認知しているかを測る尺度である.翻訳にあたり,原作者Olson氏より使用許諾,翻訳許諾を得た.筆者を含む日本人研究者3名でオリジナル版を翻訳し,内容の検討を行った.翻訳に関わっていないネイティブスピーカーである医学系翻訳業者1名に英語への逆翻訳を依頼した.逆翻訳された質問紙内容は,3名の研究者で検討を行った後,原作者へ原作と大きな違いがないか内容の確認を行った.内容の妥当性の検討のため,翻訳には関わっていない5人の看護師経験のある看護研究者に表現など内容の検討を依頼した.倫理的風土尺度及び本研究のJ-HECS(26)は26項目5つの下位因子で構成され,下位因子はそれぞれ患者(4項目),同僚(4項目),上司(6項目),病院(6項目),医師(6項目)となっている.各質問は1(ほとんどそうでない)から5(ほとんど当てはまる)の5段階リッカートスケールが用いられている.本研究で使用したJ-HECS(26)を表1に示す.

表1  日本語版倫理的風土尺度(J-HECS (26)) 以下の文は病院における様々な実践について述べたものです.あなたが経験した患者ケアの問題などについて思い浮かべながら,最も近い番号に〇をつけて下さい.
ほとんど当てはまる 当てはまる 時々当てはまる あまりそうでない ほとんどそうでない
1) 私の同僚は,患者ケアに関する私の心配を聞いてくれる 5 4 3 2 1
2) 患者は提供されるケアから何が期待できるのか知っている 5 4 3 2 1
3) 私が患者のケアの場面で,何がよくて何がよくないのか決められない時,師長(上司)は私を助けてくれる 5 4 3 2 1
4) 患者ケアの難しい問題や課題を解決するのに,病院の方針は,私を助けてくれる 5 4 3 2 1
5) 看護師と医師はお互い信頼しあっている 5 4 3 2 1
6) 看護師は患者ケアの問題や課題を解決するために必要な情報を入手することができる 5 4 3 2 1
7) 私の師長(上司)は患者ケアについての私の決定を支持してくれる 5 4 3 2 1
8) 病院の基本理念・方針は,看護師たちに共有されている 5 4 3 2 1
9) 医師は患者の治療決定について看護師の意見を聞く 5 4 3 2 1
10) 私の同僚は,患者の難しい問題や課題について私を助けてくれる 5 4 3 2 1
11) 看護師は患者ケアの問題や課題を解決するために必要な情報を使うことができる 5 4 3 2 1
12) 私の師長(上司)は患者ケアの問題や課題について,私の話を聞いてくれる 5 4 3 2 1
13) 行動方針を選択する際には,患者ケアの問題や課題に関与するすべての関係者の気持ちと価値観が考慮される 5 4 3 2 1
14) 私は,患者の治療決定プロセスに参加する 5 4 3 2 1
15) 私の師長(上司)は私が信頼できる人である 5 4 3 2 1
16) 意見の対立は避けられるのではなく,率直に話し合われている 5 4 3 2 1
17) 看護師と医師はたとえ何が患者にとって最良なのか意見が一致しなくとも,お互いの意見をそれぞれ尊重する 5 4 3 2 1
18) 私は有能な同僚と働いている 5 4 3 2 1
19) 患者の希望は尊重されている 5 4 3 2 1
20) 私の同僚が,患者ケアの場面で何がよくて何がよくないのか決められない時,師長(上司)が彼らを助けるのを見たことがある 5 4 3 2 1
21) 患者ケアの問題に対し,疑問を持ち,学びそして創造的な反応を探索する感性がある 5 4 3 2 1
22) 看護師と医師はお互い尊敬しあっている 5 4 3 2 1
23) 私の現場では,安全な患者ケアが提供されている 5 4 3 2 1
24) 私の師長(上司)は私が尊敬できる人である 5 4 3 2 1
25) 私は,私の現場で実践されるべきだと信じた通りに看護を実践することができる 5 4 3 2 1
26) この病院は,看護師を支援し,尊重している 5 4 3 2 1

Olsonの研究ではクロンバックα係数は0.91であり,下位尺度のクロンバックα係数は,同僚:0.73,患者:0.68,上司:0.81,病院:0.92,医師:0.77である

Ⅲ. 調査方法

1. 対象,調査方法

データ収集期間は,2019年11月から2020年1月であった.関西圏にある300床以上の病院に研究協力の依頼を行い,了承の得られた3つの大学病院の看護部長宛てに,無記名自記式質問紙を郵送し,対象者への配布を依頼した.回収は郵便および院内書留式にて行い,回答を以て,調査への同意が得られたこととした.

2. 調査内容

基本属性として,性別,年齢,婚姻状況,臨床経験年数,最終看護教育課程,臨床経験年数,役職,所属部署,看護倫理に関して研修や勉強会の受講経験の有無,その機会について質問した.

3. 分析方法

1) 項目分析

各項目の基本統計量,平均値±標準偏差,歪度尖度を算出した.また,I-T相関0.2以下,項目間相関0.7以上の項目がないか確認を行った.

2) 妥当性の検討

構成概念妥当性の検討のためにオリジナル版と同じ5因子構造を仮定し,5因子からそれぞれ該当する項目が影響を受け,すべての因子の共変関係は因子間相関を表した確認的因子分析モデルにてデータへの適合性を検討した.モデルの適合度は,root-mean-square error of approximation(RMSEA:平均二乗誤差平方根),comparative fit index(CFI:比較適合指標),and Goodness of Fit Index(GFI:適合度指標)and Adjusted Goodness of Fit Index(AGFI:修正適合度指標)and Akaike’s Information Criterion(AIC:赤池情報量基準)にて検討した.RMSEAは0.05以下で良好とされ,CFI,GFI.AGFIは1に近いほど当てはまりが良いとされる.また,AICはいくつかのモデルを比較する際,数値の小さいもののほうが良いとされる(小塩,2004).またサンプルサイズについて,Kaiser-Meyer-Olkin(KMO)およびBartlettの球面性検定を行った.KMOの標本妥当性の測度は1に近いほど適切であり,0.50以下は要注意とされ,Bartlettの球面性検定は検定統計量(カイ二乗値)が<0.05であれば問題がないとされる(小塩,2004)また,J-HECS(26)の下位因子毎の因子間相関の算出,信頼性の検討のため,クロンバックα係数の算出を行った.分析にはIBM SPSS Statistics version 23およびIBM SPSS Amos version 17を用いた.

4. 倫理的配慮

所属する京都大学大学院医の倫理委員会(承認番号R0850)及び協力病院1施設の看護部倫理委員会の承認を得て実施した.また,質問紙には研究の目的,勤務先と研究が無関係であること,回答の有無によって回答者に利益不利益が生じないこと,無記名で実施し,番号にて管理を行う性質上,質問紙の返却が難しいこと,結果の公表の可能性について記載した説明文を添付し,自由意思にて回答を依頼した.また回答を以て同意を得たこととし,実施した.

Ⅳ. 結果

1. 個人属性

600~1,100病床を有する3つの大学病院に対し,2,168枚の質問紙を配布し,770枚を回収した(回収率35.5%).尺度部分に欠損値のあった回答用紙を除外し,609部を解析対象とした.回答者は44名(7.2%)が男性,565名(92.8%)が女性であった.平均年齢は31.4歳,平均の臨床経験年数は8.4年であった.師長・副師長・係長などの管理職が74名,スタッフ534名,その他1名であった.また基礎看護教育課程は,167名(27.4%)が看護専門学校,50名(8.2%)が短大系,370(60.8%)が看護系大学,20名(3.3%)が大学院系であった.432名(70.9%)は,倫理についての勉強会や講習などの参加経験があった(表2).

表2  対象者の属性(n = 609)
平均値±標準偏差 最小値~最大値
年齢 31.4 ± 8.4 20~60
臨床経験年数 8.4 ± 8.0 1~39
J-HECS(26) 94.8 ± 14.8 47~130
n %
病院
1 413 67.8
2 131 21.5
3 65 10.7
性別
男性 44 7.2
女性 565 92.8
資格
看護師 564 92.6
助産師 29 4.8
認定看護師 10 1.6
専門看護師 4 0.7
職位
スタッフ 534 87.7
師長・副師長・係長 74 12.2
その他 1 0.2
病棟
外科 201 33
内科 174 28.6
外科内科混合 69 11.3
ICU/CCU 36 5.9
NICU 28 4.6
小児科 19 3.1
産科 22 3.6
手術 16 2.6
精神科 15 2.5
救急 12 2
SCU 7 1.1
その他 7 1.1
教育課程
専門学校 167 27.4
短大 50 8.2
大学 370 60.8
大学院 20 3.3
倫理教育受講歴の有無
あり 432 70.9
なし 176 28.9
倫理教育の種類(複数回答可)
院内勉強会あり 253 41.5
なし 356 58.5
院内研修あり 271 44.5
なし 338 55.5
院外研修あり 96 15.8
なし 513 84.2
学会あり 54 8.9
なし 555 91.1
その他あり 9 1.5
なし 600 98.5

* 無回答があり,合計が609とならない項目がある

2. 項目分析

全26項目について床効果・天井効果の算出を行った.その結果,床効果において削除対象となる1.0以下の項目はなかった.天井効果において「1.私の同僚は,患者ケアに関する私の心配を聞いてくれる」が削除基準の5.0以上に該当した.さらにI-T相関分析の結果,相関係数の基準値が0.20以下の項目はなかった.項目間相関では,8項目(3, 5, 7, 12, 15, 20, 24)が相関係数0.7を超えていたが,全て内容の異なる項目なので残すこととした.歪度尤度については絶対値2.0未満であることを確認した.

3. J-HECS(26)の妥当性の検討

5因子からそれぞれ該当する項目が影響を受け,すべての因子の共変関係は因子間相関を表した確認的因子分析モデルにて適合性を検討した(図1).J-HECS(26)への適合度はやや低いが許容できる結果を示した(X2(df) = 1572.88(289), p < 0.001; X2/df = 5.44; RMSEA = 0.09, CFI = 0.87, GFI = 0.82, AGFI = 0.78, AIC = 1969.88).また各因子間のパス係数および各因子から観測変数の各項目へのパス係数は,統計学的にいずれも有意であった(p < 0.001).KMOの標本妥当性の測度は0.938,Bartlettの球面性検定はp < 0.001であった.下位因子における因子間相関は0.40~0.76であった.

図1 

J-HECS(26)の確認的因子分析の結果

4. J-HECS(26)の信頼性の検討

クロンバックα係数は0.94であり,下位因子は0.67~0.95であった(表3).

表3  信頼性の検討
クロンバックα係数
因子 J-HECS(26) HECS*
上司 0.95 0.92
医師 0.85 0.81
病院 0.81 0.77
患者 0.67 0.68
同僚 0.78 0.73
26項目全体 0.94 0.91

* Olsonの研究(Olson, 1995

5. 倫理的風土尺度の得点について

26項目の平均得点は3.65(±0.57)点であった.また下位因子毎の平均得点は上司:3.75,医師:3.30,病院:3.49,患者:3.80,同僚:4.08であった(表4).

表4  J-HECS(26)(省略版)の得点(n = 609)
平均値±標準偏差 最小値~最大値
上司 3.75 ± 0.98 1.00~5.00
15)私の師長は信頼できる人である 3.84 ± 1.13
24)私の師長は尊敬できる人である 3.76 ± 1.15
12)私の師長は私の話を聞いてくれる 3.76 ± 1.09
3)師長は私を助けてくれる 3.73 ± 1.11
20)師長が同僚を助けるのを見たことがある 3.62 ± 1.11
7)私の師長は私の決定を支持してくれる 3.79 ± 0.97
医師 3.30 ± 0.69 1.00~5.00
9)医師は看護師の意見を聞く 3.17 ± 0.98
22)看護師と医師は尊敬しあっている 3.17 ± 0.96
17)看護師と医師はお互いの意見をそれぞれ尊重する 3.31 ± 0.91
5)看護師と医師は信頼しあっている 3.29 ± 0.85
26)この病院は,看護師を支援し,尊重している 3.37 ± 0.91
14)私は,患者の治療決定プロセスに参加する 3.50 ± 0.90
病院 3.49 ± 0.60 1.67~5.00
4)病院の方針は,私を助けてくれる 3.10 ± 0.91
25)私は,信じた通りに看護を実践することができる 3.61 ± 0.76
16)意見の対立は率直に話し合われている 3.49 ± 0.86
21)疑問を持ち,学び創造的な反応を探索する感性がある 3.60 ± 0.77
13)行動方針を選択する際,すべての関係者の気持ちと価値観が考慮される 3.48 ± 0.83
8)病院の基本理念・方針は,共有されている 3.68 ± 0.94
患者 3.80 ± 0.50 2.00~5.00
19)患者の希望は尊重されている 3.81 ± 0.75
6)看護師は必要な情報を入手することができる 4.00 ± 0.65
11)看護師は必要な情報を使うことができる 4.03 ± 0.64
2)患者は何が期待できるのか知っている 3.37 ± 0.80
同僚 4.08 ± 0.61 2.00~5.00
10)私の同僚は,私を助けてくれる 4.11 ± 0.78
1)私の同僚は,私の心配を聞いてくれる 4.27 ± 0.81
18)私は有能な同僚と働いている 4.00 ± 0.81
23)私の現場では,安全な患者ケアが提供されている 3.94 ± 0.74
26項目全体 3.65 ± 0.57 1.81~5.00

Ⅴ. 考察

本研究は26項目でのJ-HECS(26)の信頼性及び妥当性を検討することを目的として行われた.確認的因子分析の結果,J-HECS(26)はやや低いが許容できる適合度を示し,因子的妥当性が得られたと考える.またクロンバックα係数については0.94と,Olsonの研究結果の0.91(Olson, 1995)や,ベルギーの0.92(Claeys et al., 2013),キプロスの0.93(Charalambous et al., 2018),ギリシャの0.94(Charalambous et al., 2018),ペルシャの0.94(Khalesi et al., 2014),韓国の0.95(Hwang & Park, 2014)といった他国の先行研究の結果と匹敵する数値であった.また,因子内相関についても一定のまとまりを示す結果であった.日本においては稲垣らが2020年に同じOlsonの尺度の翻訳を行い,その際26項目では十分な適合度が得られず,18項目での採択(クロンバックα係数0.94)を行っている.稲垣らの研究では,対象病院が180~500床の中規模病院であり,回答者は師長等の病棟管理者を含んでいなかった.今回の調査では協力病院が600~1,100床と大規模病院であり,有効回答部数が609部であった.またオリジナル版と同じ師長等の病棟管理者を含んでおり,精神科やNICU,救急など幅広い病棟からの回答があったことが違いであったと考察する.サンプルサイズに関してはKMOおよびBartlettの検定によって因子分析の適用に妥当であることが示されており,大学病院で勤務する看護師への使用の可能性が示されたと考える.また,日本語訳については,稲垣らの研究と比較し,全く同じ訳であるものや,現場と病棟,有能と優秀など翻訳や文章表現の違いはあるものの質問の意図としては同じだと考えられるものなどであった.本研究では逆翻訳ののち,原作者に内容の確認を行っており,J-HECS(26)としての使用に大きな問題はないと考えられる.

今回モデルの適合度はOlsonのHECSよりも低いが,一定の信頼性,妥当性が確保され,日本語版として使用できるものであると考える.オリジナル版と同様の26項目5因子構造での採用を行うことで,他国との比較検討が容易であるというメリットがある.実際に,他国の結果と比較してみると,本研究においてのJ-HECS(26)の平均得点は3.65点であり,HECSを用いた先行研究のキプロス3.53点(Constantina et al., 2018),ギリシャ3.67点(Constantina et al., 2018),ペルシャ2.75点(Khalesi et al., 2014),韓国3.5点(Hwang & Park, 2014)と比較すると相対的に高い数値であった.このことは日本の看護師が倫理的風土をよいものとして認知して働いていることを意味すると考えられる.また,下位尺度別では,同僚が4.08点と最も高く,医師が3.30点と最も低かった.医師との関係については他の国においても低い傾向がみられ,日本においても似た傾向が示された.先行研究においては,倫理的環境と医師との協働関係に中程度の正の相関があること(Hamric & Blackhall, 2007)や,倫理的風土を良好にとらえるためにはチームとして働くことが重要(Silen et al., 2012)と報告されている.HECSは同僚,上司,病院,医師,患者との関係性から構築されており,患者のために互いの意見を尊重した話し合いを行い,組織内での認識を共有することでHECSの示す倫理的風土を向上させることができるのではないかと考える.

倫理的風土は看護師の労働環境に大きく関係し,倫理的ストレス,職場満足度やコミットメントにおいても重要な役割を果たしている(Abou, 2017Ulrich et al., 2007).加えて,病院の倫理的風土は道徳的感受性と中程度の正の相関があることが報告され,病院の倫理的風土が道徳的感受性と実践を導き,看護師の意思決定に影響を与えている可能性があり,専門的な看護実践を確実にするために倫理的風土を作り出すことが必要だと述べられている(Cerit & Ozveren, 2019)また,ポジティブな倫理的風土を促進する要因についてインタビューした調査では,患者を思いやったケアを行うこと,支援したり,支援されたりすること,問題に対しての情報へのニーズを満たすこと,チームとして働くこと,行動の基準を設定することが挙げられている(Silen et al., 2012).このように倫理的風土は看護師の労働環境のみならず,道徳的感受性,そしてケアの質にも影響を与えることが示唆されている.そのため,本研究の結果は,組織の倫理的風土を高めるための教育や研修の効果を客観的に判断することに貢献することが期待されると考える.

Ⅵ. 研究の課題

本研究においては,オリジナル版と同じ26項目での日本語版倫理的風土尺度の使用の可能性が示された.日本語版倫理的風土尺度の先行研究と比較し,日本語訳が違うことが結果に影響した可能性があるが,その詳細については比較検討に限界があり,本研究における限界であると考える.また,本研究において基準関連妥当性の検討が行われておらず,今後検討の余地が残っている.今後の課題は,基準関連妥当性の検討を進めるとともに,J-HECS(26)を活用し,臨床看護師の倫理的風土を高める研究を行うことで看護ケアの質の向上に貢献することである.

付記:本論文の一部は第40回日本看護科学学会学術集会において発表した.

謝辞:本研究に関し,ご協力を賜った病院の方々,アンケート調査へご協力を頂いた看護職の皆様,山路ふみこ様に心よりの感謝を申し上げます.

本研究は京都大学運営費(教育研究経費)および,公益信託山路ふみ子専門看護教育研究助成基金より助成を受けた.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:OAは研究の着想およびデザイン,データ収集・分析,原稿の作成までの研究プロセス全体;MCおよびKAは分析,解釈,研究プロセス全体への助言;YSは統計解析,解釈の助言に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

文献
 
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