Journal of Japan Academy of Nursing Science
Online ISSN : 2185-8888
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ISSN-L : 0287-5330
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How Head Nurses Are Involved and Creative—Making Effective Use of a Certified Nurse—
Shizuka AkimotoSachiko ShobuzawaNoriko Yamada
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2021 Volume 41 Pages 674-682

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Abstract

目的:病棟看護師長が,他病棟に勤務する兼任の認定看護師(Certified Nurse,以下,「CN」と略)を有効活用するために実行している関わり方や工夫を明らかにする.

方法:病棟に勤務する師長で経験年数5年以上,兼任のCNと働いた経験を有するもの.半構造化面接にて兼任のCNを活用するために「師長が実行している関わり方や工夫」について尋ね,質的記述的分析をした.

結果:10名の協力が得られた.師長は兼任のCNを有効活用するため【CNとのコミュニケーションの駆使】【CNとのメタ・コミュニケーションの駆使】を様々な場面で工夫する等,【CNの豊かな人間性を尊重】して信頼関係を築いていた.また,師長は【CNとスタッフの双方の円滑な関係構築】に配慮し,兼任のCNを病棟の研修会の講師としケアに介入させ【スタッフ自らがCNへ依頼をするための動機づけ】を行い,【CNの介入による高度な看護実践の定着】を意図した関わりをしていた.

Translated Abstract

Purpose: This study aimed to describe the management practices utilized by Japanese head nurses (HNs) to most effectively employ a kenmu (“joint assignment”) certified nurse (CN) while they were assigned to their wards.

Methods: Semi-structured interviews were conducted with 10 female head nurses with a minimum of five years of experience, regarding how they treated the CN and attempted to make the best managerial use of these individuals. The results showed that the HNs exercised their human relations skills and built relationships of trust by showing respect for the practical skills and humanity of the CNs, communicating with them fully, and making full use of meta-communication. Additionally, they took care that smooth relations existed between the staff and CN and motivated the nursing staff to ask the CN for help when required. HNs were also purposefully involved in finding ways to ensure that, through the interventions that the CN performed, the nursing staff learned more advanced nursing practices themselves. The study showed that HN managerial practices were the accumulation and demonstration of knowledge resulting from intentionally using the CN with the provision of the best possible patient care in mind.

Ⅰ. はじめに

超高齢少子化を背景に,感染症の蔓延により医療を取り巻く環境が目まぐるしく変化した.価値観の多様化と対立・医療技術の高度・複雑化するなか,看護領域では専門性の高い人材育成が必要とされている(荒木・溝上,2018).医療現場での看護師の役割や業務内容・責任の範囲を拡大し,医療の地域格差や深刻な人手不足を解消し業務の効率化を図る取り組みが続いている.

1987年に厚生省「看護制度検討会報告書(21世紀に向けての看護制度のあり方)」において,資格認定制度が提言されたことを受け日本看護協会は同年に委員会を設置し,資格認定制度の創設について検討を開始した.資格認定制度は制度別に,制度委員会,認定委員会,認定実行委員会を設置して運営してきた.1994年に専門看護師制度,次いで1995年に認定看護師制度が発足し,特定の看護分野における熟練した看護技術及び知識を用い,看護の対象へ水準の高い看護実践のできる認定看護師(Certified Nurse, 以下,「CN」と略)を育成し看護ケアの広がりと質の向上をはかり続けている.加えて,日本看護協会(2019)は認定看護師制度の再構築に伴い特定行為研修を教育に組み入れ,2021年度には現行のCNからの移行も含め,高度な看護を実践する能力を持つ新たなCNも誕生する予定である.

CNの登録者数は2010年7,364名から10年後の2020年は21,847名に増え(日本看護協会認定部,2020),熟練した看護技術と看護実践に基づくケアを提供している.

国外の状況を見ると,1899年にEthel Gordon Fenwickらによって,看護の水準を引き上げるためには看護教育を底上げし,その訓練の証拠として認定された資格を登録する必要がある(Bridges, 1967)との信念に基づき国際看護師協会(International Council of Nurses,以下,「ICN」と略)が創設された.ICNでは,看護を「あらゆる場であらゆる年代の個人および家族,集団,コミュニティを対象に,対象がどのような健康状態であっても,独自にまたは他と協働して行われるケアの総体である」と定義し,その対象を健康増進および疾病予防,病気や障害を有する人々あるいは死に臨む人々のケアが含まれるとした.さらに,アドボカシーや環境安全の促進,研究,教育,健康政策策定への参画,患者・保健医療システムのマネジメントへの参与等,看護が果たすべき重要な役割を定めた.1933年から1939年の間にICNの教育委員会は,大学院教育または基礎教育の調査を行い,カリキュラムの構築が主要な関心分野を特定した.

第12回ICN大会(オーストラリア国メルボルン市開催)では,ICN憲章の重要な前文に,「専門の看護師とは,看護学校で一般的な看護学を習得し,自国で看護を実践することを許可された看護師である.学習内容は健康増進および身体的および精神的双方のあらゆる形態の病気において,すべての年齢の人々をケアするために看護師が備えるべき実践が含まれる」と掲げている(International Council of Nurses,1961ストーリー).

国内では日本看護協会が質の高い看護人材を育成するための教育・資格・認証制度の構築に取り組んでいる.日本看護協会は2008年,米国のナース・プラクティショナー(看護に関する高度な思考力・判断力,実践力を備えた自律した看護師:Nurse Practitioner,以下,「NP」と略)教育を参考にNP教育課程を設置した.NP教育は,大学院修士課程に設置され,修了者は修得した知識や判断力を活かした看護実践を期待される.近年,看護師の裁量の拡大を目指し,日本看護系大学協議会,日本NP教育大学院協議会とともに「ナース・プラクティショナー(仮称)制度の構築の推進」を重点事業としている.他方,専門的な教育を受けたNP教育修了者・専門看護師・CNは,現在の保健師助産師看護師法のもとでは3者とも「看護師」であり,「傷病者若しくは褥婦に対する療養上の世話又は診療の補助」と,業務範囲が定められている.NPの資格があっても,診察や薬の処方,麻酔の実施を看護師の判断で,医師の指示なく行うことは許されていない.

筆者が勤務する地域では高度実践看護師教育課程を置く大学が少なく,資格取得のための実習受け入れ病院も乏しい.東京や大阪,福岡,札幌,仙台,名古屋等の都市部と大きな格差がある.そこで,本稿では,NP教育修了者,専門看護師,CN等,将来の看護資格制度の更なる発展を鑑み,看護基礎教育に上乗せした研修や教育課程を経て高い看護技術と知識を備えた看護師を総称し「高度な実践看護師」とする.NPや専門看護師の教育課程を持つ大学院がない地方では,高度な実践看護師は主にCNである.あくまでもCNは特定の看護分野における熟練した看護技術及び知識を用いて,あらゆる場で看護を必要とする対象に水準の高い看護実践のできる者と認定された看護師である.国家資格に上乗せした知識と技術を有すると認証された人材が,組織のなかでうまく機能していないことに直面したことが筆者の研究動機となった.これらの理由から,本稿ではCNに焦点をあて,CNを有効活用するために病棟看護師長(以下,「師長」と略)が実行している関わり方や工夫を探り,より優れた看護実践を引き出し,人材を活かす関わり方を探求する.

病院組織はCN活用方針の範囲で計画的に人材育成をし,有限な人材を有効活用している(廣瀬,2007神坂ら,2010).看護部長がCNを適正配置することで,人材を有効活用でき(福地本・篠木,2016),CNのキャリアパスの実態調査(野村ら,2019)では,CNが専従・専任の立場へ変わったことで職位もスタッフから主任,主任から看護師長へとキャリアアップしていた.つまり,看護部長がCNを適切な場所に配置をすることでCNが役割発揮できることが示された.

一方,病棟に配属されているCN(以下,「兼任のCN」と略)の働き方は,各所属の師長の采配に委ねられている.しかし,師長が兼任のCNをどのように活用し,病棟業務とCN活動との調整をどのように工面しているのかを明らかにした研究は見当たらなかった.

日本看護協会(2019)によれば,病院に勤務し病棟に配属されている兼任のCNは全体(18,685名)の43.8%を占め,兼任のCNの約6割がCN以外の業務に従事していた(須釜ら,2019).兼任のCNの立場では,「CNとしての活動よりも,スタッフ業務を優先せざるをえない」「活動時間が与えられてない・活動日が少ない」等,多忙な病棟業務によりCNとしての能力発揮をする時間がない.また,「他部署との連携・介入が困難」「指導したケアが継続・浸透されていかない」等,活動上の困難を抱く兼任のCNもいた(濱口ら,2010山田ら,2010山尾ら,2015).これらの先行研究から,兼任のCNは活動上の困難を抱え,CNとしての活動が十分に行えない課題が残存していると推測された.

病棟スタッフ(以下,「スタッフ」と略)は,兼任のCNにタイムリーな依頼をしたいと思っても,兼任のCNが自部署の業務を担っていることから躊躇し,依頼できなかった体験をしていた(小暮ら,2006門倉,2018).

そこで,師長がどのように課題をとらえ,兼任のCNを「どのように有効活用しているか」,本研究では「師長の兼任のCNへの関わり」に着目し,組織が計画的に育成した高度な実践看護人材を有効活用するために,師長が兼任のCNをどのように活用し,病棟業務とCN活動との調整をどのようにしているのか,師長が実行している関わり方や工夫を明らかにする.これによって,師長が自分より学習している人材を有効活用するための実践への示唆を得たい.

Ⅱ. 研究方法

1. 調査期間とデザイン

2018年4月~2019年12月に質的記述的研究を実施した.

2. 研究対象と内容

対象者は病棟に勤務する師長として5年以上の経験を有するもの10名程度とした.看護部の教育担当者より,「兼任のCNと働いた経験がある師長」「そのCNが介入することで患者の治癒回復の促進につながった」「スタッフのケアに対する知識向上等の成功体験をもつ」これら3点に当てはまる師長を推薦していただいた.

データ収集は,1)~3)に示すインタビューガイドに基づき実施した.

1)研究対象者の属性(性別,年代,所属病棟,看護者としての経験年数,看護師長としての経験年数).

2)所属する病院の組織体制(病院の組織図での兼任のCNの位置付け).

3)兼任のCNを有効活用するために,師長が実行している関わり方や工夫.

3. データの分析方法と真実性・確証性の確保

インタビューデータを基に逐語録を作成した.方言は意味内容を保持し,標準語に修正した.その後,類似性や差異性に基づき分類し,帰納的に分析した.

分析の全過程において,質的研究者からスーパーバイズを受けた.また,研究対象者数人に逐語録からコードの抽出後,研究者の解釈がデータに忠実であるか(舟島,1999,pp. 151–152)を確認した.さらに,カテゴリ化したものを研究対象者数人に真実を示しているかを確認してもらい,真実性を確保した.

4. 倫理的配慮

研究対象者へ研究の目的と方法,研究参加は自由意思であり途中辞退が可能なこと,研究参加に伴う利益・不利益,匿名性の保持,研究成果の発表について文書及び口頭で説明した後,同意書への署名を以て研究参加の承諾を得た.

なお,本研究は日本赤十字秋田看護大学・日本赤十字秋田短期大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号30-109).

5. 用語の定義

「高度な実践看護師」とは,本稿では「看護基礎教育に上乗せした研修や教育課程を経て高い看護技術と知識を備えた看護師」で,NP教育修了者,専門看護師,CNなどを総称し,高度な実践看護師と定義する.

「兼任のCN」とは,専従のCNが看護部に配属されているのに対し,本稿では「病棟に配属され,病棟スタッフとしての役割と専門分野のCNとしての二つの役割を担うCN」と定義する.

Ⅲ. 結果

1. 対象者の概要(表1

地方都市にある300床以上の一般病院4か所に勤務する師長10名の研究参加が得られた.その内訳は,女性9名,男性1名であった.師長の年代は40歳代から50歳代,看護師経験年数は平均29年(SD ± 1.0),看護師長経験年数は平均6.4年(SD ± 2.2)であった.どの師長もCN,専門看護師,認定看護管理者の資格を有していなかった.

表1  対象者の概要
性別 年齢 看護師経験年数 看護師長経験年数 活用したCN
A 50歳代 30 5 感染管理,慢性呼吸器疾患看護
B 50歳代 30 5 脳卒中リハビリテーション看護
C 50歳代 30 5 皮膚・排泄ケア
D 50歳代 30 5 救急看護,認知症看護,皮膚・排泄ケア
E 40歳代 28 10 集中ケア,皮膚・排泄ケア
F 50歳代 28 8 認知症看護,慢性呼吸器疾患看護
G 50歳代 31 11 慢性呼吸器疾患看護
H 50歳代 30 5 緩和ケア,皮膚・排泄ケア
I 50歳代 28 5 皮膚・排泄ケア
J 50歳代 29 5 認知症看護

師長が関わりをもった兼任のCNは合計15名で,分野は皮膚・排泄ケア,認知症看護,慢性呼吸疾患看護,感染看護,緩和ケア,集中ケア,救急看護,脳卒中リハビリテーション看護の8分野であった.

病院の組織図上での兼任のCNの配置について,調査した全ての病院が看護部門内及び各病棟内に位置づけられていた.インタビューの時間は,ひとり一回ずつ,約30分から60分実施した(平均59分).

2. 師長の実践(表2

師長の実践は,116のコードから21のサブカテゴリが導かれ,【CNとのコミュニケーションの駆使】【CNとのメタ・コミュニケーションの駆使】【CNの豊かな人間性を尊重】【CNとスタッフの双方の円滑な関係構築】【スタッフ自らがCNへ依頼をするための動機づけ】【CNの介入による高度な看護実践の定着】の6つのカテゴリに集約された.

表2  病棟看護師長が認定看護師を有効活用するために実行している関わり方や工夫
カテゴリ サブカテゴリ(コード数)
CNとのコミュニケーションの駆使 事前の打ち合わせからコミュニケーションをはかり,スムーズな活動につなげる(3)
ラウンドを活用したコミュニケーション(4)
自然体で話し信頼関係をつくる(4)
自らすすんでCNへ声をかける(15)
率直に質問をする(3)
専門的な相手の力を引き出すコミュニケーションを工夫する(9)
CNとのメタ・コミュニケーションの駆使 活動に対する姿勢を感じとる(7)
勤務を予測し心くばりをする(6)
頃合いをみてCNに働きかける(7)
CNの豊かな人間性を尊重 専門的実践や人間性を認める(5)
CN介入によるケアの効果に一定の評価を与える(3)
OJT教育の指導効果を認める(4)
CNとスタッフの双方の円滑な関係構築 中立・公平に目を配り寛容に関わる(5)
双方の橋渡しをし関係を保つ(7)
スタッフ自らがCNへ依頼をするための動機づけ CN依頼のための思考や判断を促す(3)
主体的な行動を導く(4)
CNの活用をスムーズにするための段取り(6)
CNの介入による高度な看護実践の定着 CN介入により看護の専門的スキルを身につける(10)
CNを介入させることで専門的なケアを根付かせる(6)
スタッフのモチベーション向上につなげる(2)
リフレクションから重要な気付きを得る(3)

以下に,【 】はカテゴリ,〔 〕はサブカテゴリ,〈 〉はコードとし,分析結果を説明する.

1) 【CNとのコミュニケーションの駆使】

このカテゴリは,師長が兼任のCNに対し,状況を理解および判断をしながらタイムリーに連絡をとる,声をかける,などのコミュニケーションやラウンドを活用した非言語的コミュニケーションを用いることを意味する.〔事前の打ち合わせからコミュニケーションをはかり,スムーズな活動につなげる〕〔ラウンドを活用したコミュニケーション〕〔自然体で話し信頼関係をつくる〕〔自らすすんでCNへ声をかける〕〔率直に質問をする〕〔専門的な相手の力を引き出すコミュニケーションを工夫する〕の6つのサブカテゴリで構成された.

師長は,〈訪問前に電話で効率の良いコンタクトを重ねる〉,〈ラウンド時に気軽に声をかけ他の依頼をする〉等,兼任のCNとのコミュニケーションをとっていた.また,〈質問することで対話をはかる〉,自分からすすんで〈挨拶しコニュニケーションをはかる〉や,時には〈小さなことでも疑問を解決するために質問する〉等,兼任のCNとの会話を気軽にしていた.また,師長は〈CNが負担や悩みを抱えていることを察し話しをきく〉際に,〈専門的知識をもち立場のあるCNの背景を考慮し関わる〉といった配慮をしていた.加えて,〈悩みごとに対し解決につなげるアドバイスをする〉等,兼任のCNの専門的な力を引き出すためのコミュニケーションを駆使していた.

2) 【CNとのメタ・コミュニケーションの駆使】(表3

このカテゴリは,先の予測を立て推測,察知する特徴あるメタ・コミュニケーション,すなわち,感じとる,予測し心をくばる,頃合いをみるなど,師長が兼任のCNに対し,瞬時に背後にあるものやスタッフの様子をみて,これまでの経験から直観的に状況を理解・判断しながら関係を形成し,看護の目的を達成させるためのやり取りをすることを意味する.〔活動に対する姿勢を感じとる〕〔勤務を予測し心くばりをする〕〔頃合いをみてCNに働きかける〕の3つのサブカテゴリから構成されていた.

表3  カテゴリの一例【CNとのメタ・コミュニケーションの駆使】
サブカテゴリ コード 素データ
活動に対する姿勢を感じとる 感じの良いタイムリーな介入について敬意を払う 自分でわかることだったらいくらでもいつでも呼んでくれれば勉強会をやりますよって自分から気持ちよく声をかけてくれるんですもの. A43-2
患者を今みてほしいということがある時に非常に腰を軽くして,いいよいいよって患者に介入してくれているので大変助かっています. E78-3
介入後の患者の状況確認にきたCNに気がつく 昨日ニップついた人を今朝深夜あけだけど昨日CNが自分でフィッテェングして調整していったんだけど,実際夜つけてみて今朝どうだったのかっていうのを確認のために来てくれたのに気がついていました. A55-1
いつでも相談に応じるというCNの雰囲気をとらえる 毎回きちっとCNが顏を見せて声をかけてくれるから~いつだって相談できるんだよねっていうフインキを醸し出しているんだと思う. A50
活動の意欲や意志のあらわれを察知する 自分の活動をこういうふうに活動してますよってちゃんと相手に言葉で伝えたり,行動でしめしているのがわかります. A51
顔を見せることを心得ている ラウンド以外に患者さんがいなくても来てくれるからね.必ずラウンドの有無に関わらず顔をだしに来ますものね. A47
他職種とのコミュニケーションから患者の情報収集を事前にとる姿勢を認識する CNは医師とのコミュニケーションがとれているので前もって患者の情報も入っているんですもんね. A38
勤務を予測し心くばりをする 勤務形態を推測し,常に配慮をしながら判断して依頼をする でもCNがその依頼した時に勤務の都合で来れなかったりする時もあるので でもまあ患者さんの状態に合わせて本当に必要であればCNに電話しますね. H10
忙しさを考慮し事前に物品を準備する おぜん立てでもないけどCNが来たらすぐに処置ができるように必要なものを準備をするなどの配慮はしておきます. C46-1
兼務への負担軽減のために忙しい時は断るようにと常々伝える 彼女にはあまり忙しい時は依頼を断ってね,専従もいるし,彼女は兼務になっているので,忙しい時は自分から断るようにいつも話しています. E81-2
CN介入後は,直接専用電話で連絡する 最初その方々は緩和ケアチームに介入しているんであれば後はダイレクトに電話をします. H31
直接会いに行く 電話でやりとりやプラスCNに直接会いに行ったり…4,5回ぐらい会ったかなぁ~. E5-1
CNの勤務に合わせ講義の日程調整をする なかなかスケジュール調整が上手くいかなかったりして そこらへんは難儀してCNに合わせ講義の日程を調整しました. E1-3
頃合いをみてCNに働きかける ラウンドに来たときチャンスを見て質問する CNがラウンドにきたとき,みはからって聞いたりする時があります. I31-1
依頼以外の患者についてタイミングをみて相談する この人昨日から器械をつけだしたんだけど,ちょっとラウンドのあとでみてもらってもいいですか?って言えますもんね. A37
ラウンドのその足で他の患者について相談する この人がHOT導入しようとしてちょっと困ってとか なにかしらあれば,ラウンドのついでに,そういう情報提供して相談をすることはしますけど. A5-2
ラウンド前,スタッフに声はかけたりして,今日CNが来るんだったら隣の患者さんも相談してみたらって,ラウンドのときCNに声をかけて相談したりしていますね. D25-1
すれ違いざまに他の患者について相談する すれ違ったときに,こういう人がいるので,あとで相談にのってもらっていいですか?とかはあるけど~. A34-2
訪問に来たらすぐに依頼をする目的で機会をうかがう わあ認定看護師が来た!という感じでCNが来るのをみていて,CNが来たらすぐに依頼をお願いします. H19-1
帰り際に労いの言葉を伝え余韻を残し次回の依頼につなぐ 助かりました,また何かあったらよろしくお願いしますって,次の依頼を気持ち良く引き受けてもらうための言葉かけをCNに残しておいて~そんな感じの関わり方かな~. C39-3

師長が兼任のCNの〔活動に対する姿勢を感じとる〕サブカテゴリから,兼任のCNの活動に常時〈感じの良いタイムリーな介入について敬意を払う〉と共に,〈介入後の患者の状況確認にきたCNに気がつく〉等,兼任のCNの活動をきちんと認識し,CN活動の姿勢を心にとどめていた.また,〔勤務を予測し心くばりをする〕のサブカテゴリから師長は兼任のCNの勤務について〈勤務形態を推測し,常に配慮をしながら判断して依頼をする〉〈忙しさを考慮し事前に物品を準備する〉や〈兼務への負担軽減のために“忙しい時は断るように”と常々伝える〉よう心をくばり,兼任のCNの負担を軽減するための配慮をしていた.さらに,〔頃合いをみてCNに働きかける〕のサブカテゴリから師長は兼任のCNが〈ラウンドに来たときチャンスを見て質問する〉や〈依頼以外の患者についてタイミングをみて相談する〉,〈ラウンドのその足で他の患者について相談する〉など,兼任のCNに対し機会をうかがい,タイミングをはかり質問や相談をするというメタ・コミュニケーションをさりげなく,かつ,堪能に用いていた.

3) 【CNの豊かな人間性を尊重】

このカテゴリは,師長が兼任のCNに対し病棟兼務をしながら,可能な限り他病棟からの依頼を快く受け,対応する兼任のCNの人間性を認め,現場に即した指導の効果に基づき兼任のCNの実践を評価していることを意味する.〔専門的実践や人間性を認める〕〔CN介入によるケアの効果に一定の評価を与える〕〔OJT教育の指導効果を認める〕の3つのサブカテゴリで構成された.

師長は,兼任のCNに対して〈人間性を認める〉など信頼をよせていた.また,師長は〈患者の回復過程を目の当たりにしCN介入による実践を評価する〉,〈現場レベルに合わせたOJT指導を評価する〉など,専門的な介入や実践について評価していた.

4) 【CNとスタッフの双方の円滑な関係構築】

このカテゴリは,師長が兼任のCNとスタッフとの関係を次へ繋ぐために公平な態度で接し,双方の仲介をする等の関わりをしていたことを意味する.〔中立・公平に目を配り寛容に関わる〕〔双方の橋渡しをし関係を保つ〕の2つのサブカテゴリで構成されていた.

師長は,〈師長として心に余裕をもってCNの話しをきく〉や〈現場レベルでの話し合いはCNとスタッフに行わせ師長は入らない〉など,兼任のCNとスタッフに対し中立,公平な態度で接し,いつも病棟全体を俯瞰し,心に余裕をもち関わっていた.また,〈言いづらいスタッフの立場を配慮し直接CNに連絡する〉や〈CNとスタッフをつなぐため1回は仲介する〉等,双方の関係を取り持つような橋渡し役を担う姿も見られた.

5) 【スタッフ自らがCNへ依頼をするための動機づけ】

このカテゴリは,師長が兼任のCNを介入させることをきっかけとし,スタッフ自身が主体的に判断し自律を促すような働きかけをしていたことを示している.〔CN依頼のための思考や判断を促す〕〔主体的な行動を導く〕〔CNの活用をスムーズにするための段取り〕の3つのサブカテゴリで構成された.

師長は兼任のCN依頼へのきっかけとして,スタッフに対し〈CN依頼への判断や行動への誘因となる助言をする〉ことや〈CNの具体的指導の成果をきっかけとし以降スタッフが主体的に依頼をする〉等,スタッフにCN活用を意識させるための働きかけをしていた.また,師長は〈CNとスタッフの情報交換が有意義になることを意図し事前にスタッフに具体的なことを指示する〉等,スタッフ主導で段取りをするよう促していた.師長は兼任のCNが訪問時,すぐに兼任のCNが来たことをスタッフに知らせ,かつ,兼任のCNがスムーズに活動出来るようにするため,意図的にスタッフを巻き込んで情報を整理させ,効率よく兼任のCNとの情報交換ができるよう,事前の準備を兼ねスタッフに働きかけていた.

6) 【CNの介入による高度な看護実践の定着】

このカテゴリは,まず,師長が兼任のCNを介入させることでスタッフが専門的な知識を取得する.次に,スタッフが兼任のCNから学んだことを活かした実践を積み重ね,ケアの統一,及び,病棟内に浸透させ,ケアの質向上と定着をはかることを意味する.〔CN介入により看護の専門的スキルを身につける〕〔CNを介入させることで専門的なケアを根付かせる〕〔スタッフのモチベーション向上につなげる〕〔リフレクションから重要な気付きを得る〕の4つのサブカテゴリで構成された.

師長は,〈適切な処置方法を受けることで次から実践できる〉〈勉強会に参加することで知識の取得につなげる〉や,〈CNを介入させることで専門的知識を取得しケアの統一化をはかる〉〈緊急時に専門的技術や指導を受けることでケアが行きわたる〉等,兼任のCNを介入させてスタッフに専門的看護ケアのスキルを身につけさせ,病棟内のスタッフ全体に質の高いケアを浸透させていた.また,兼任のCNが患者に介入することで〈患者の回復過程を目の当たりにしモチベーションアップにつなげる〉ことや兼任のCNとスタッフが一緒に〈急変時の振り返りをきっかけに「看護の本質(急変前の観察の大切さ)」に気づかせる〉貴重な機会にもなっていた.兼任のCNとの振り返り(リフレクション)を通じて看護の本質に気づかせる,経験を積ませスキルの高い看護実践につなげる等,師長は病棟全体のケアの質向上を促し,高度な看護実践を浸透させるため兼任のCNを介入させていた.

Ⅳ. 考察

兼任のCNを活用するための師長の関わり方や工夫について考察し,さらに優れた看護実践者である師長としての特徴的な二点について考察する.

1. 師長が実行している兼任のCNへの関わり方や工夫(表2より)

看護実践の組織化の基準2-4(日本看護協会,2016)に,「看護管理者は,看護実践に必要な資源管理を行う」と掲げられているが,それには看護管理者(師長)が人的資源を活用することも含まれている.

本研究において,師長が兼任のCNを有効活用するための具体的な関わり方や工夫が明らかになった.まず,師長は【CNとのコミュニケーションの駆使】や【CNとのメタ・コミュニケーションの駆使】から【CNの豊かな人間性を尊重】し,師長と兼任のCNの信頼関係を築くための関わり方をしていた.Katz(1955)は,管理職の仕事を支えるスキルとして,ヒューマンスキル(対人関係能力)の重要性を指摘している.ヒューマンスキルとは「部下・同僚・上司と協力しながら仕事をする能力であり,コミュニケーション,動機づけ,育成に関するスキルを含む」(松尾,2013).師長の兼任のCNへの関わりは,直接言葉かけをする言語的コニュニケーションや,身体動作や空間の行動を用いる等の非言語的コミュニケーション(大坊,2000)を駆使し,他病棟に勤務する兼任のCNへの配慮を行動で示すものであった.

次に,師長は兼任のCNとスタッフに対し,橋渡しや客観的に見守りをし【CNとスタッフの双方の円滑な関係構築】を促す関わりをしていた.つまり,師長は公平性に配慮し,橋渡し役となることで二者間の関係性を繋ぐとともに,より良い関係になるよう導いていた.このような師長の関わりについて原田(2011)は,「次回のより良質な関わりにつなげ,継続性を重視した関わりの実践」であると説いている.また,師長はスタッフに兼任のCN活用を意識させる声かけや,兼任のCNのラウンド前,意図的にスタッフを巻き込んでの事前準備を働きかけ,【スタッフ自らがCNへ依頼をするための動機づけ】になるような関わり方や工夫をしていた.加えて師長は,スタッフに対し【CNの介入による高度な看護実践の定着】を図るための工夫をしていた.このように師長が他病棟に勤務する兼任のCNを有効活用するために実行している関わり方や工夫が本研究により明らかになった.

2. メタ・コミュニケーションを駆使した師長の工夫(表3より)

メタ・コミュニケーションとは,〔活動に対する姿勢を感じとる〕〔勤務を予測し心くばりをする〕〔頃合いをみてCNに働きかける〕等,予測を立て推測し察知する対人関係を特徴としている.師長による「感じとる」「予測し心をくばる」や「頃合いをみる」行為は,大坊(2000)が示すメタ・コミュニケーションに通じる.大坊(2000)は,「基本となるのは,『人』に敏感になり,脈絡を考えながら相手が表現している以上の意味を,そして先の予測を立て,察することである」と説いている.このように師長は,瞬時にその場の空気を読み取り,これまでの経験から直観的に状況をキャッチし,兼任のCNに働きかけていた.例えば師長は,兼任のCNとの直接的なコンタクトがなくても,介入後の患者の状況を確認に来ている兼任のCNの様子に気づいていた.また,師長はラウンドで兼任のCNが病棟に来た時,質問や相談を行うタイミングをよく見極めて兼任のCNに声掛けをしていた.メタ・コミュニケーションを駆使すること,すなわち,「感じとる」「予測し心をくばる」「頃合いをみる」行為は,経験豊富で感性豊かな師長だからこそできる熟練したスキルと言える.

Benner(2005)は,実践的知識の中にある「鑑識眼」を「直観的認識能力」(Benner, 2005, p. 4)と述べ,微妙な変調を見抜く洞察力や触感などの違いを直観的に認識し,その違いが重要な意味を持つのか判断する力と論じている.また,「触った感じ」の違いを判断するときは,無意識に行っているとも説明している.本稿における師長のメタ・コミュニケーションを駆使した熟練したスキルは,師長の五感の活用と直観的認識が融合し日々の看護に活かされており,Benner(2005)のいう「鑑識眼」に共通していると考える.

3. 兼任のCN活用により高度な看護実践の定着を促進させる関わり

師長はスタッフがより高度な看護実践力を身につけるために,まず兼任のCNに講師を依頼し,スタッフに「知識」と「スキル」を習得させ,ケア後の成果へ繋げていた.例えば,師長E氏は教育目的に合わせてOJT(On-the-Job Training)とOff-JT(Off-the-Job Training)(井部,2019)を選択し,職場における判断力とそれに基づく主体的な行動をスタッフが実行できるように様々な学びの機会を提示していた.次に,病棟内の課題を見出し,解決につなげるために兼任のCNを介入させ,スタッフのリフレクションを促していた.これはDonald(1983)の「行為についてのリフレクション(reflection-on-action)」と一致する.同様に陣田(2019)は,「実践,行動のあとでその意味を考えていく方法,つまり『振り返りである』」と主張し,それはBenner et al.(2012)のいう「行動しつつ考えること」に通じる.師長は,スタッフが実際に行った行為について,日を改め兼任のCNを介入させ,スタッフに振り返りをさせる(内省や意味づけする)ことで,兼任のCNやスタッフらへ,ケアの本質や重要な特徴に気づかせるような関わりをしていた.松尾(2018)は,人材育成の重要性について,「指導者が部下・後輩の『経験から学ぶ能力』を高める」ことにあると述べている.また,経験から学ぶ能力の要素としては,メンバーと共に「振り返り」(リフレクション)と他者(CN)とのつながりであり,2つの要素は本質的で深いフィードバックをもらえるような発展的なネットワークを築く(松尾,2018)とされ,本調査でも兼任のCNやスタッフの成長を後押ししていたと考える.加えて,師長は兼任のCNを介入させることで,スタッフ自身が高度なスキルを身につけ,ケアを主体的に統一化された実践につなげていた.つまり,師長は専門的知識をもつ兼任のCNから知識や技術を取得し,スタッフにも実践させることで病棟全体のケアの質を向上させ,質の高いケアが病棟へ深く根を下ろすことを意図した実践を展開していた.

Ⅴ. 研究の限界と今後の課題

本研究は,CNや専門看護師,認定看護管理者等の資格をもたない師長10名の語りを分析したものであり,ロールモデルが乏しい環境下で,高度急性期から在宅医療まで,患者の状態に応じた適切な医療を効果的かつ効率的に提供する体制を整備する過程にある,地方都市の師長の看護実践に限局された結果である.この点は限界であると同時に大都市圏と地方の高度実践看護人材の偏在の課題にも繋がると考えた.全国の多様な部門,及び高度実践看護の有資格者である看護師長を対象としていないため,今後は高度な看護専門資格を有する看護師長の人材活用について調べ,看護の魅力を伝えていきたい.

付記:本研究は,日本赤十字秋田看護大学大学院修士課程に提出した修士論文に加筆・修正を加えたものである.

謝辞:本研究にご協力いただきました施設の看護管理者の皆様ならびに研究に参加いただきました看護師長の皆様に深くお礼申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:SAは,研究の着想およびデザイン,データ分析,論文執筆の全てを実施した.SSは,データ分析と助言を行った.NYは,研究の全プロセスにおいて,助言を行った.すべての著者は,最終原稿を読み,承認した.

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