2021 Volume 41 Pages 806-814
目的:中山間地域に暮らす人々の文化的価値観に着目した看護への示唆を得るため,Civic Pride(CP)尺度の関連要因を検討する.
方法:宮崎県椎葉村に在住する19歳以上の住民2,427人を対象とし,無記名自記式調査を行った.CP尺度,属性,地域活動への参加,地域のつながりおよび地域教育に対する意識を調査し,t 検定および重回帰分析に拠り分析した.
結果:890人から有効回答を得た(有効回答率36.7%).重回帰分析の結果,CP尺度得点は作業の助けあいや地域活動への積極的な参加および子どもへの地域教育との間に有意な正の相関がみられた(p < 0.05).
結論:CPと関連を示す項目は地域住民の文化的価値観を反映し,これらは地域に親和性の高いヘルスケアシステム構築の一助となり得ることから,CPは住民の健康評価を行う際に有益な情報となる可能性が示唆された.
Aims: To examine the factors related to Civic Pride (CP) scale to obtain suggestions for nursing focusing on cultural values of people living in rural mountainous communities.
Methods: The sample comprised 2,427 participants aged 19 years and above from Shiiba Village, Miyazaki Prefecture. We conducted an anonymous self-administered questionnaire survey. We collected data on Civic Pride scale, demographic characteristics, participate in community activities, social network and awareness of local education, and we used t test and multiple regression for analysis.
Results: Valid responses were obtained from 890 subjects (valid response rate, 36.7%). As a result of multiple regression analysis, CP scale score was significantly correlated with mutual aid, active participation in community activities and local education for children (p < 0.05).
Conclusion: These factors associated with CP reflect the cultural values of the people living there. And these elements can construct a health care system that is highly compatible with the local community, so CP is expected to be useful information when doing the health assessment for area population.
2019年4月1日現在,中山間地域が含まれる自治体1180市町村(中間農業地域と山間農業地域とで重複している市町村を除いた市町村数)のうち,817市町村は過疎地域に指定されている(農林水産省,2019).人口減少および少子高齢化に伴う課題が現実の問題となる中山間地域において,その暮らしは,都市部に比べ不便な点があるものの,住民同士の互助のもと,共に楽しみながら,昔からの伝統文化や生活様式を継承し,生きがいのある暮らしを作り出す地域活動が続けられている(日髙・今井,2021).
近年,地方創生・人口減少対策として,住民の市民としての誇り(シビックプライド:Civic Pride:以下CP)に着目したまちづくりが注目を集めている(牧瀬,2019).CPの概念は,市民感情の観点から「特定の場所に対する強いレベルの愛着や忠誠心,そしてそれに付随して,文化アイデンティティと所属の概念と結びついている」と整理されている(Collins, 2016).CPは,特定の集団の様々な特性や行動を意味する可能性があり,「誇りに思う」ことについて,その地域特有の文化的価値観(信念)によって形作られる(Smith, 1998;Dyson, 2006).Leiningerは,「人々の生活や考え方には常に文化の影響が存在する」とし,文化に特有なケアの価値観と慣習を重要な指標として用いる必要があることを示唆した(Leininger, 1991/1995).CP尺度は「地域愛着」,「持続願望」,「地域アイデンティティ」および「地域参画」の下位尺度から構成され(伊藤,2017),これらは人口減少が現実の問題となる中山間地域に暮らす人々の文化的価値観を反映する可能性がある.これまでCPの概念については,医療・保健・介護の分野で検証されたことはないが,下位概念である地域愛着は,看護学のみならず教育や環境心理学,都市計画等,様々な分野でも取り扱われている概念である.先行研究では,地域愛着の度合いは性別・年齢・仕事の有無等の個人属性要因(Hidalgo & Hernandez, 2001),居住年数,地域の人々との交流および健康関連QOL(高橋ら,2018)あるいは生活満足度(角田ら,2015)と関連することが報告されている.また地域アイデンティティは,年齢および居住年数(伊藤,2017)および地域教育効果(小谷・横松,2012)と関連することが報告されている.さらに過疎中山間地域において,地域アイデンティティは,職業,地域活動および住民のつながりと関連することが報告され,さらに地域への愛着・誇りがアイデンティティ形成に影響を及ぼすことが示唆されている(鄭ら,2012).
中山間地域のみならず,世界に先駆けて,超高齢・人口減少社会に直面するわが国の看護の目標は,単なる健康の維持,増進だけでなく,生きる希望や最期の瞬間までその人らしく生きることを支援することである(鈴木,2018).人々の生活や考え方には常に文化の影響が存在していることから(Leininger, 1991/1995),看護師がそれらの支援を行うためには,住民の暮らしや考え方の背景となっている文化的価値観の理解に努めていく必要がある.また安仁屋ら(2019)は,伝統文化を基盤とした地域力が独自性の高い地域ケアシステムづくりに寄与する可能性があることを示している.地域固有の伝統文化や生活様式が残る中山間地域において,CPの概念を用いて住民の文化的価値観を理解することは,集団のヘルスアセスメントをする上で有益な情報となる可能性がある.こうした背景をふまえ,本研究は,人口減少が進行する中山間地域に暮らす人々の文化的価値観に着目した看護への示唆を得るため,CP尺度の関連要因を検討することを目的とした.
宮崎県椎葉村を調査対象地とした.山地の多い宮崎県では,中山間地域が県土の約9割を占める.椎葉村もそこに含まれる一つの自治体であり,村内に10カ所ある自治公民館区(以下地区)はすべて山間部に点在している.2018年の椎葉村の人口は2,803人であり,高齢化率は40%であった(宮崎県,2021).椎葉村の2013年~2017年の合計特殊出生率は1.95(ベイズ推定値)と県内2位の高い値を維持する(厚生労働省,2020)ものの,椎葉村内には高校がなく,子どもは中学校を卒業すると進学のための離村を余儀なくされる.高校卒業後もそのまま都会に定住する傾向があるため再生産年齢層が減少し,それに伴い年々出生数は減少している.この地での暮らしの特徴を表す言葉として「かてーり」がある.「かてーり」とは椎葉村の方言で,助け合い・相互扶助を意味し,椎葉村は「かてーりの里」と称される(宮崎県椎葉村,n.d.).また椎葉村では,神楽(収穫への感謝と五穀豊穣の祈願を表現した舞を神に奉納する舞),臼太鼓踊あるいはひえつき節をはじめとする民謡,民話等,古くから伝わる慣習や伝統文化が大切に継承されている.それらの中でも神楽は,現在も村内26か所で継承されている年中行事である.
2. 調査対象および方法本研究は椎葉村全体の特性を抽出するため,椎葉村内全10地区に居住する19歳以上の男女全員(2,427人)を対象者とし,無記名自記式調査紙調査を実施した.研究趣旨,調査対象者,調査紙の配布および回収方法については,自治体と自治公民館区長(以下地区長)会にて説明を行い,協議を経て決定し,協力の同意を得た.無記名自記式調査紙は各地区長から下部組織である各組合長を通して各世帯に配布され,記入済の調査紙は各組合長により回収された.調査期間は2018年7月から8月であった.
3. 調査項目 1) CP尺度「住民の市民としての誇り」を測るCP尺度は地域愛着(7質問項目),持続願望(3質問項目),地域参画(6質問項目)および地域アイデンティティ(4質問項目)の下位尺度から構成される(伊藤,2017).これらの下位尺度は,以下のように定義される.
地域愛着(以下,愛着):人々と特定の地域を繋ぐ感情的な絆(Hidalgo & Hernandez, 2001).
持続願望:地域が変わらず持続してほしいとの願い(伊藤,2017).
地域参画(以下,参画):市民としての責任と役割の認識(伊藤,2017).
地域アイデンティティ(以下,アイデンティティ):個人の地域に対する帰属意識(伊藤,2017).
尺度の信頼性と妥当性は開発者により確認されており,同尺度および下位尺度のCronbach’s αは0.80~0.91を示す(伊藤,2017).尺度の回答は「そう思わない」(1点)から「そう思う」(5点)の5件法で問うた.伊藤(2017)の地域アイデンティティを問う項目の中で,「(市)の人」と表記されているものは,「(椎葉村)の人」と言葉を変え問うた.
2) 関連要因 (1) 対象者の基本属性年齢,性別,居住年数,家族構成(配偶者および子どもの有無,子ども数および同居人数),職業の有無および暮らしの困難感の有無について,質問紙を用いて問うた.これらの調査項目のうち家族構成については,椎葉村は地縁・血縁関係が強く家族関係がCPを検討する上で影響があることが考えられたため,調査項目に含めた.暮らしの困難感の有無については,先行研究において「愛着」との関係が報告されている「生活の満足感」(角田ら,2015)の項目を想定し,問うた.
(2) 地域活動への参加椎葉村においては,祭りなどのイベントや学校行事は,幅広い年代の住民が楽しみながら交流する場となっていることを日髙・今井(2021)が報告している.そのため,地域の「祭りやイベントへの積極的な参加」を問うた.また地域活動への参加頻度および参加意欲について,地域活動参加頻度は「参加しない」,「予定が合えば参加」,「仕事がない日は毎回参加」および「仕事を休んでも毎回参加」の4件,地域活動参加意欲は「参加したくない」,「誘われたからやむを得ず参加」,「皆が参加しているため参加」および「住民にとって当然のことだから参加」の4件法で問うた.これらの質問の順序性は,日常の当たり前の行為として相互扶助が地域に根付いている場所である対象地の地域特性をふまえ,事前の予備調査において住民に認識を確認し決定した.
(3) 地域のつながり地域での暮らしの中での挨拶など「日常的な近所づきあい」,「作業の助け合い」,「悩みごとの相談にのる」および「単身高齢者の世話」を近所や地域で行うことは大切かについて,「そう思わない」から「そう思う」までの5件法で問うた.これらの項目は,鄭ら(2012)が示したアイデンティティと過疎中山間地域におけるおつきあい行動の結果を参考に選定した.
また椎葉村において育児協力は昔からこの地の暮らしに根づく互助の一つであることが示されており(日髙・今井,2021),事前調査からも椎葉村では,家族のみならず地域住民からも子育て中に「何か困ったことがあれば,声をかけなさい」,「何かしようか?」と声がかけられ,必要時に子どもを預かってくれるあるいは面倒をみてくれるなどの協力が得られていることが確認できた.そのため,椎葉村で日常的に行われる子育てに関する助けあいすなわち育児協力に関する項目を「地域のつながり」に含めた.現在,育児中の者は「育児協力を受けている」,それ以外の者は「育児協力を行っている」といった意識を確認することを想定し,家族および地域住民による育児協力の有無について,「頻繁にある」,「たまにある」,「ほとんどない」および「ない」の4件法で問うた.
(4) 地域教育子どもへの地域教育に対する意識について,「学校での地域教育を要望」,「子どもへの地域の素晴らしさの伝達」ついて問い,項目の回答は「そう思わない」から「そう思う」までの5件法で問うた.これらの項目は,日髙・今井(2021)が示した中山間地域の社会文化的特徴の概念の一つである「子どもの頃からの地域教育」を参考に選定した.
4. 分析方法対象者の記述統計値(度数,平均値,標準偏差,範囲)を算出した.CP尺度の回答について統計処理を行い,Cronbach’s αを算出して,尺度の内的整合性(信頼性)を確認した.次に先行研究から選択した属性,地域活動への参加,地域のつながりおよび子どもへの地域教育に関する項目において,各変数間のCP尺度の合計得点および4つの下位尺度得点の平均値の差をt検定により検討した.その際,地域活動参加頻度および地域活動参加意欲の高低,地域のつながりは大切か否か,育児協力については,育児協力を実施している,あるいは育児協力を受けているか否か,子どもへの地域教育については,それを望むか否か,地域の素晴らしさを子どもへ伝えているか否かを,それぞれ2値化したうえで,各尺度得点の平均値の差を比較した.量的変数の場合は両者の間のPearsonの相関係数を算出した.加えて,以上の検定を行った全ての項目を独立変数,CP尺度得点を従属変数として,強制投入法による重回帰分析を行った.その際,対象者の年齢,性別,居住年数は,先行研究より「愛着」の交絡因子となることが予想され,調整する必要があることから,これらの変数も独立変数に含めた.独立変数のうち質的変数はダミー変数化し分析に用いた.独立変数間の多重共線性はVIF(Variance Inflation Factor:分散拡大要因)により確認し,基準は2未満とした.すべての統計処理にはSPSS Statistics Ver 23.0を使用し,有意水準は5%とした.
5. 倫理的配慮調査は無記名で行い,質問紙調査の回答をもって研究協力への同意とみなした.さらに研究実施に際して,椎葉村村長および椎葉村役場担当職員に対して研究目的,意義および内容について説明を行い,自治体名を含む研究結果を公表することの承諾を得た.本研究は東京医療保健大学ヒトに関する研究倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:29-23).
890部の質問票がCP尺度20の質問項目全てについて回答が記入されており,これらを有効回答とし(有効回答率36.7%),分析に供した.
1. 対象者の基本的属性(表1,2)対象者の概要を表1に示す.平均年齢は58.3(±16.1)歳,65歳以上が約4割を占め,性別は男性50.6%,女性45.8%であった.平均居住年数は49.5±(22.9)年であり,居住年数が20年以上の人が約9割であった.約9割に同居者がおり,配偶者がいる人が約7割,子どもがいる人が約8割であった.また就業中の人は約8割であり,約7割の人が現在の暮らしに困難感は感じないと回答した.地域活動への参加頻度は,「予定があえば参加する」と回答した人が約6割であり,約2割の人が「仕事を休んでも参加する」と回答した.地域活動の参加意欲は,約5割の人が「住民にとって当然のことだから参加する」と回答した.また「日常的な近所づきあい」,「作業の助けあい」,「悩みごとの相談にのる」および「単身高齢者の世話」といった地域のつながりを問う項目は,8割以上の人が地域の暮らしにおいて大切であると回答した(表2).
項目 | mean(SD) | n(%) | |
---|---|---|---|
年齢 | 64歳未満 | 58.3(16.1) | 529(62.2) |
65歳以上 | 322(37.8) | ||
性別 | 男性 | 450(50.6) | |
女性 | 408(45.8) | ||
居住年数 | 20年未満 | 49.5(22.9) | 108(12.7) |
20年以上 | 743(87.3) | ||
配偶者あり | 613(72.5) | ||
子どもあり | 653(81.5) | ||
子ども数 | 2.6(0.9) | ||
同居者あり | 769(89.8) | ||
同居者数 | 3.2(1.7) | ||
職業あり | 631(76.8) | ||
暮らしの困難感あり | 189(25.2) | ||
地域活動参加頻度 | 参加しない | 40(4.8) | |
予定があえば参加する | 480(57.8) | ||
仕事がない日は毎回参加する | 150(18.1) | ||
仕事を休んでも毎回参加する | 160(19.3) | ||
地域活動参加意欲 | 参加したくない | 38(5.1) | |
誘われたからやむを得ず参加している | 58(7.8) | ||
皆が参加しているので参加する | 240(32.3) | ||
住民にとって当然のことだから参加する | 406(54.7) |
SD = Standard Deviation
各変数によるCP尺度得点の比較
CP尺度合計得点のCronbach α係数は0.888,「愛着」では0.743,「持続願望」では0.807,「参画」では0.616,「アイデンティティ」では0.798であった.
3. CP尺度と各変数との関連 1) 各変数によるCP尺度得点の比較(表2)CP尺度合計得点および下位尺度得点の合計得点および平均値を表2示す.下位尺度の合計得点(±標準偏差,最小値~最大値)は,「愛着」25.6(±4.7,7~35),「持続願望」12.4(±2.7,3~15),「参画」20.5(±3.7,6~30)および「アイデンティティ」13.6(±3.8,4~20)であり,各下位尺度の平均値は「持続願望」4.1(±0.9,1~5)が最も高く,次いで「愛着」3.7(±0.7,1~5),「参画」3.4(±0.6,1~5),「アイデンティティ」3.4(±0.9,1~5)の順であった.CP尺度の合計得点では,配偶者がいる(p < 0.05),暮らしに困難感がない(p < 0.001),地域活動の参加頻度および参加意欲の高い(p < 0.001),地域の人とのつながりが大切(いずれもp < 0.001あるいはp < 0.05),子どもへの地域教育に対して積極的(p < 0.001)と回答した人の得点が有意に高かった.これらのうち,配偶者の有無および地域住民の育児協力の有無の項目においては,有意差がみられない下位尺度もみられたが,それ以外は,合計得点とほぼ同様の関連性がみられた.また,CP尺度の合計得点では有意差がみられなかった職業の有無は,「愛着」のみで有意差がみられ,職業なしの得点が有意に高かった(p < 0.05).
2) CP尺度得点と各変数の相関係数(表3)CP尺度合計得点と年齢(p < 0.001),居住年数(p < 0.001),子ども数(p < 0.05)および同居者数(p < 0.05)との間には,いずれも有意な正の相関関係がみられた.また年齢と居住年数においては,全ての下位尺度得点との間にいずれも有意な正の相関関係がみられた.
項目 | シビックプライド合計得点 | 愛着 | 持続願望 | 参画 | アイデンティティ | |
---|---|---|---|---|---|---|
n | r | r | r | r | r | |
年齢 | 851 | 0.235** | 0.232** | 0.110** | 0.120** | 0.282** |
居住年数 | 851 | 0.241** | 0.231** | 0.124* | 0.114** | 0.300** |
子ども数 | 642 | 0.132* | 0.133* | 0.076 | 0.035 | 0.166** |
同居者数 | 857 | 0.074* | 0.049 | 0.076* | 0.054 | 0.073* |
Pearsonの相関係数 * p < .05,** p < .001
重回帰分析を実施した結果,居住年数と地域の暮らしの中で「悩みごとの相談にのるは大切か」を問うた変数のVIF値が2を超えたため,独立変数から除外し,改めて重回帰分析を実施した.
シビックプライド尺度全体 | 愛着 | 持続願望 | 参画 | アイデンティティ | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
β | t | β | t | β | t | β | t | β | t | |
【基本属性関連要因】 | ||||||||||
年齢 | .129 | 1.319 | .056 | 0.526 | .119 | –0.081 | .147 | 1.244 | .101 | 0.861 |
性別(男性=1) | –.018 | –.344 | .035 | .630 | –.005 | .130 | –.073 | –1.178 | –.024 | –.389 |
居住年数 | .066 | .743 | .080 | 0.840 | .013 | .300 | –.055 | –.514 | .131 | 1.236 |
配偶者(あり=1) | .060 | 1.172 | .009 | .160 | .017 | .305 | .140 | 2.264* | .031 | .513 |
子ども数 | –.008 | –.152 | .003 | .059 | –.124 | –2.046* | –.013 | –.191 | .062 | .951 |
同居者数 | .066 | 1.143 | .086 | 1.372 | .095 | 1.465 | .012 | .177 | .020 | .294 |
職業(あり=1) | .080 | 1.483 | .013 | .221 | .147 | 2.431* | .007 | .114 | .107 | 1.665 |
暮らしの困難感(あり=1) | –.025 | –.491 | –.153 | –2.799* | .059 | 1.045 | .035 | .567 | .030 | .494 |
【地域活動・つながり・教育関連要因】 | ||||||||||
地域活動参加頻度(高い=1) | .038 | .727 | .065 | 1.154 | –.018 | –.310 | .065 | 1.023 | –.006 | –.095 |
地域活動参加意欲(高い=1) | .221 | 4.081** | .278 | 4.754** | .234 | 3.879** | .130 | 1.981* | .057 | .881 |
祭りやイベントへの参加(積極的=1) | .150 | 2.606** | .039 | .617 | .111 | 1.713 | .150 | 2.143* | .181 | 2.625* |
日常的な近所づきあい(大事=1) | –.050 | –.796 | –.144 | –2.102* | –.023 | –.327 | .046 | .597 | –.007 | –.092 |
作業の助けあい(大事=1) | .146 | 2.330* | .170 | 2.509* | .084 | 1.197 | .096 | 1.257 | .090 | 1.197 |
単身高齢者の世話(大事=1) | .047 | .769 | .047 | .714 | .074 | 1.096 | –.014 | –0.185 | .042 | .582 |
家族の育児協力(あり=1) | –.033 | –.592 | –.032 | –.530 | –.131 | –2.127* | .075 | 1.122 | –.033 | –.509 |
地域住民の育児協力(あり=1) | .090 | 1.701 | .086 | 1.491 | .129 | 2.178* | .027 | .414 | .054 | .846 |
学校での地域教育(望む=1) | .197 | 3.665** | .215 | 3.684** | .203 | 3.380** | .175 | 2.673* | .044 | .690 |
地域の素晴らしさ(子どもへ伝えている=1) | .261 | 4.846** | .188 | 3.223** | .205 | 3.404** | .153 | 2.342* | .264 | 4.093** |
F = 12.554 | p < .001 | F = 9.037 | p < .001 | F = 7.766 | p < .001 | F = 4.870 | p < .001 | F = 5.375 | p < .001 | |
R = .724 | R = .665 | R = .637 | R = .547 | R = .566 | ||||||
調整済みR2 = .483 | 調整済みR2 = .393 | 調整済みR2 = .353 | 調整済みR2 = .238 | 調整済みR2 = .261 |
強制投入法法,β=標準偏回帰係数,R=重相関係数,R2=決定係数,* p < .05,** p < .001
CP尺度合計得点は,「地域活動への参加意欲」(β = 0.221, p < 0.001),「祭りやイベントへの積極的な参加」(β = 0.150, p < 0.001),「地域での作業の助けあい」(β = 0.146, p < 0.05),「学校での地域教育を要望」β = 0.197, p < 0.001),「子どもへの地域の素晴らしさの伝達」(β = 0.261, p < 0.001)の各変数との間に有意な正の相関がみられた(調整済みR2 = 0.483,F = 12.554,p < 0.001).
2) CP下位尺度に関連する要因各下位尺度のいずれとも正の相関がみられた要因は,「子どもへの地域の素晴らしさの伝達」であった.その他の要因について,「愛着」では,「地域活動の参加意欲」,「日常的な近所づきあい」,「地域での作業の助けあい」および「学校での地域教育を要望」の各変数との間に有意な正の相関がみられ,「暮らしの困難感」との間に有意な負の相関がみられた.「持続願望」では,「職業」,「地域活動の参加意欲」,「地域住民の育児協力」および「学校での地域教育を要望」の各変数との間に有意な正の相関が,「子ども数」および「家族の育児協力」の各変数との間に有意な負の相関がみられた.「アイデンティティ」は「祭りやイベントへの積極的な参加」の各変数との間に有意な正の相関がみられた.各下位尺度の重回帰分析における決定係数は,「愛着」が最も高く(調整済みR2 = 0.393,F = 9.037,p < 0.001),「参画」が最も低かった(調整済みR2 = 0.238,F = 4.870,p < 0.001).
対象者の約4割が,地域活動の参加頻度について,「仕事を休んでも毎回参加する」あるいは「仕事がない日は毎回参加する」と回答した.参加意欲については,約5割の人が「住民にとって当然のことだから参加する」と回答した.2010年に内閣府が行った国民生活選好度調査(内閣府,2010)において,地区での地域活動分野別にみた参加経験者の割合(調査対象者比)が最も高いのは「文化,スポーツ」および「まちづくり」であったが,どの活動も参加者は全体の1割に達していない.これらのことから椎葉村では,地域活動の参加に村民が積極的であり,さらに主体的な参画の意識が強いと考えられる.また「日常的な近所づきあい」,「作業の助けあい」,「悩みごとの相談にのる」および「単身高齢者の世話」といった地域のつながりを問う項目において,8割以上の人が地域の暮らしにおいて大切であると回答した.これらの結果は,人口減少社会に直面する中山間地域において,人々の暮らしに必要なものとして地域のつながりが存在することを示唆している.
2. 椎葉村に暮らす人々のCPの関連要因重回帰分析により,椎葉村におけるCPは,「祭りやイベントへの積極的な参加」,「地域活動への参加意欲」,「地域での作業の助けあい」,「学校での地域教育を要望」および「子どもへの地域の素晴らしさの伝達」との関連がみられた.「祭りやイベントへの積極的な参加」は,下位尺度である「参画」および「アイデンティティ」との間にも関連がみられた.中山間地域の社会文化的特性として,「地域資産の継承」があることが報告されており(日髙・今井,2021),地域で継承される神楽などの祭りの継承へ参加することはこの地で暮らす人々のCPの意識に影響を与える可能性がある.今回CPとの間に関連がみられた項目の中でも,「地域活動への参加意欲」と「子どもへの地域教育」の影響度が大きく,下位尺度である「愛着」,「持続願望」および「参画」との間にも関連がみられた.地域に対する愛着形成には,地域環境や社会的環境に対する肯定的な評価が大きな影響を与えることが報告されている(引地ら,2009).これらのことから,本研究における集団のCPの意識には,地域のつながりや地域活動への積極的な参加および地域の素晴らしさを次世代に伝えるといった地域に対する思いが影響していることが考えられる.
一方で,下位尺度である「愛着」のみ,「暮らしに困難感がない」ことと関連がみられた.地域への愛着は健康関連QOLとの関連が報告(高橋ら,2018)されている.本研究では,健康関連指標との関連性については検討していないが,椎葉村において,地域に対する「愛着」がもてないことは,健康問題との関連性において,介在要因として関与する可能性がある.
3. 地域の文化的価値観に対する理解と看護実践への活用本研究の結果から,椎葉村で暮らす人々の文化的価値観として,互助などの地域のつながりを大切にし,地域活動への参加意欲および子どもへ地域文化を伝えようとする意識が高いことが示唆された.社会とのつながりは,喫煙,飲酒,運動不足などの生活習慣と比べ,長寿への影響が強く(Holt-Lunstad et al., 2010),認知症(Kuiper & Zuidersma, 2015)や心疾患および脳卒中発症のリスクを下げる(Valtora et al., 2016)との報告もある.したがって,本研究の対象集団がもつ社会参加および社会的関与を大切とする文化的価値観は,集団の健康に良い影響を及ぼしている可能性がある.また,子どもへの読み聞かせといった世代間交流ボランティアへ継続的に参加する高齢者は主観的健康観が向上し(Fujiwara et al., 2009),受け手である子どもにとっては高齢者に対し肯定的な情緒的イメージが向上する効果のあること(藤原ら,2007)が報告されている.椎葉村の住民の「子どもに地域の素晴らしさを伝えたい」という文化的価値観は,少子高齢化・人口減少に直面する中山間地域で暮らす人々の地域のつながりを促進していただけでなく,その地に暮らす人々の健康に良い効果を及ぼしていたと考えられる.以上のことから,CPと関連を示す項目は,地域住民の文化的価値観を反映しており,それを理解することは,この地に暮らす人々ヘルスアセスメントの一助となる可能性がある.さらに集団の文化的価値観を保健福祉事業に積極的に組み込んでいくことで,地域に親和性の高いヘルスケアシステム構築となり得ることから,CPは地域住民の健康評価を行う際に有益な情報となる可能性が示唆された.
4. 研究の限界と今後の課題CP尺度合計得点および他の下位尺度得点に比べ,「参画」のCronbach’s α係数は0.616と低値であった.そのため,尺度の信頼性は十分とはいえず,課題が残る.また本研究の結果は中山間地域に指定される多くの地域の中の一地域で得られた結果である.さらに,本研究ではCPと健康との関連について検証しておらず,地域の文化的価値観を理解することに留まる.今後は人口減少が進行する地域に暮らす人々の文化的価値観と健康との関連について,定量的,定性的に検証していくことが必要である.
椎葉村に暮らす人々のCPは,地域での作業の助けあい,祭りなど地域活動への積極的な参加および子どもへの地域教育の意識との関連が確認された.これらの要素は,この地域に暮らす人々の文化的価値観を反映し,それらをヘルスケアプログラムに組み込むことにより,地域に親和性の高いケアシステム構築となり得ることから,CPは地域住民の健康評価を行う際に有益な情報となる可能性が示唆された.
付記:本研究は,東京医療保健大学大学院看護学研究科に提出した博士論文の一部に加筆・修正を加えたものである.
謝辞:本調査に参加いただいた椎葉村民の皆様に心より感謝申し上げます.また調査研究を実施するにあたり,前椎葉村村長椎葉晃充さんをはじめ椎葉村役場の皆様方にご支援いただき,とりわけ甲斐万寿也さんをはじめ地域振興課の皆様には多大な協力および貴重なご助言を頂きました.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:MHは研究の着想およびデザイン貢献,統計解析の実施および原稿作成;HIは原稿への示唆および研究全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.