Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Effects of Continuing Daily Multidisciplinary Conferences about Physical Restraints in the Psychiatric Ward of an Advanced Treatment Hospital—Reduction in the Physical Restraint Rate and Clarification of Participants’ Awareness—
Hiromi HattoriHarumi Katayama
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2021 Volume 41 Pages 866-875

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Abstract

目的:特定機能病院の精神科病床における身体拘束に関する毎日の多職種カンファレンスの継続による効果を,身体拘束率の低下および参加者の気づきという面から検証する.

方法:2018年から2020年にかけて患者の身体拘束について議論するための多職種カンファレンスを毎日実施した.月毎の身体拘束率の推移を2次曲線回帰分析で,転倒転落率等の要因間の関連は相関分析で,身体抑制認識尺度で測定した身体拘束の必要性認識度は年毎の分散分析で解析した.自由記述には質的記述的分析法を用いた.

結果:身体拘束率と身体抑制認識得点は有意に低下した.また身体拘束率と転倒転落率やThe Global Assessment of Functioning Scale(GAF)値との関連はなく,ナースコール呼び出し回数には正の相関がみられた.自由記述から【必要性の認識】【意識の変化】【効果と期待】【課題】が抽出された.

結論:本試みは懸念事項を発生させずに身体拘束の低減に寄与した.また4個の気づきからは成果と課題が明確となった.

Translated Abstract

Aim: To examine the effect of continuing daily multidisciplinary conferences about physical restraints on physical restraint rate and participants’ awareness in a psychiatric ward of an advanced treatment hospital.

Method: Daily multidisciplinary conferences were held to discuss physical restraint of patients during from 2018 to 2020. The monthly transition of the physical restraint rate is analyzed by quadratic curve regression analysis, the relationship between factors such as the fall rate is correlated analysis, and the degree of recognition of the necessity of physical restraint measured by the physical restraint recognition scale is analyzed by analysis of variance by years. The contents of free descriptions regarding participants’ recognition were analyzed qualitatively and descriptively.

Results: Physical restraint rate and physical restraint recognition score decreased significantly. However, there was no relationship between the physical restraint rate and the fall rate, and the Global Assessment of Functioning Scale (GAF). There was a positive correlation between the physical restraint rate and the number of nurse calls. From the free description, [recognition of necessity], [change in recognition], [effect and expectation], and [problems] were extracted.

Conclusion: Daily multidisciplinary conferences contributed to the reduction of physical restraint without raising any concerns. In addition, the results and issues were clarified from the four awareness.

Ⅰ. 緒言

本研究では精神科病床における身体的拘束に焦点を当てる.ただし精神科病床における身体的拘束とは,精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(以下,精神保健福祉法)に基づいて厚生労働大臣が定める行動制限つまり「衣類又は綿入り帯等を使用して,一時的に当該患者の身体を拘束し,その運動を抑制する行動の制限」のことである.本論文では以下,これを単に身体拘束と表記する.同法はこの制限を「代替方法が見出されるまでの間のやむを得ない処置として行われる行動の制限であり,できる限り早期に他の方法に切り替えるよう努めなければならない」としている.また,2004年の診療報酬改正では「医療保護入院等診療料」が新設され,多職種の構成員による「行動制限最小化委員会」の設置と,行動制限の現状と身体拘束の実施状況に関する台帳(法令で定める“一覧性のある台帳”,以下単に台帳と記す)の整備が規定され,入院患者の行動制限などの処遇を組織的に改善する施策が開始された.2005年の日本精神科看護技術協会の調査(早川,2009)では,約9割の精神科病院が行動制限最小化委員会を設置して活動している.

ところが,毎年6月30日付で厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部精神・障害保健課が実施している,精神保健医療福祉に関する全国調査である精神保健福祉資料(以下,630調査)によれば,調査を開始した2003年度と比べ,2018年度には身体拘束者数が約2.2倍に増えており,身体拘束率は1.55%から4.05%へ約2.6倍上昇している(加藤・長谷川,2020).また,身体拘束施行期間は,アメリカ合衆国のカリフォルニア州およびペンシルベニア州では月平均1~4時間,フィンランドでは9時間程度であるのに対し,日本では82時間であり諸外国と比べておよそ10倍の期間である(野田ら,2009).

日本におけるこのような背景として,人員配置の問題(野田ら,2014)や,世界保健機関(World Health Organization,以下,WHO)の精神保健ケアに関する基本文書「基本10原則」(木村,1998WHO,1996)などとの整合性を目指す法整備の遅れ(武田,2016)等が指摘されているが,抜本的な法改正には至っていない.

身体拘束の実施理由で最も多いのは「不穏」「多動」であり,次いで「躁状態」「転倒・転落防止」(長谷川,2016)だと言われ,日々変化する病状に対応する必要性が示唆される.そこで,中田ら(2019)は,身体拘束の低減を可能にした取り組みを報告しており,多職種で日常的に話し合うことの重要性を示している.また身体拘束を慣習化しないためには日々の丁寧なアセスメントやチーム内のコミュニケーションが重要であることや(Kontio et al., 2010),身体拘束をしないための代替案やケアについて議論する必要性(Akamine et al., 2003Flaherty & Little, 2011中田ら,2019)も強調されている.しかし,89.3%の病院では行動制限最小化委員会の開催頻度が「月に1回」だという回答(西池ら,2013)であったことからは,日常的に身体拘束等の行動制限の解除を議論・検討することが習慣化されているとは言い難い日本の現状が推測できる.このため,こうした現状を改善するための検討を重ね,入院患者の身体拘束の是非やケア方法に関して議論する多職種カンファレンスを日常的・継続的に実施したり,その取り組みの効果を検証した研究も,ほとんど報告されていない.

このことは筆者の所属する特定機能病院の精神科病棟においても例外ではなかったが,新たに2018年から参加型アクションリサーチ(筒井ら,2010)の手法を用いて,身体拘束に関する毎日の多職種カンファレンスを開始した.そして,日本における身体拘束低減への取り組みに向けた実践への一助となり得ると考え,その継続による成果を検証するためのデータを収集したので,本研究ではその検証結果を報告する.

Ⅱ. 目的

本研究の目的は,特定機能病院の精神科病床における身体拘束に関する毎日の多職種カンファレンスの継続による効果を,身体拘束率の低下および参加者の気づきという面から検証することである.

Ⅲ. 方法

1. 研究フィールドと研究デザイン

特定機能病院の精神神経科入院病棟を研究フィールドとした.同病棟に勤務する医療従事者のうち,精神科医師,看護師,公認心理士・臨床心理士,薬剤師,精神保健福祉士,作業療法士が参加して,参加型アクションリサーチ(Participatory Action Research,以下,PAR)の手法を用いた介入研究を実施した.収斂デザイン混合研究法(廣瀬,2019)により,単群試験と質的記述的研究デザインを用いた.PARの遂行は,Guidelines for Best Practices in the Reporting of Participatory Action Research(Smith et al., 2010)に準拠した.

2. 研究期間

2016年4月から2020年3月の48か月間であった.

3. PARの全体像

PARは図1のように進めた.研究フィールドとなった病床は,室外からのみ解錠できる隔離および身体拘束の処遇可能な隔離室を5室有する精神病床である.隔離室に入院した患者で隔離および身体拘束を実施している患者,および転倒・転落等のリスクが高い患者(身体拘束解除直後を含む)0~5名を,PAR実施中のカンファレンスの対象患者とした.

図1 

PARの全体像

この研究フィールドに所属する看護師がアクションリサーチャー(Action Researcher,以下,AR)となり,まずARは,2016年4月から2017年の準備期間に身体拘束低減を実現している施設を見学したり関連研修会へ参加したりする中で,研究フィールドにおける検討課題を以下のように整理した.すなわち,身体拘束等の行動制限に焦点をあてた多職種カンファレンスは形骸化しており十分に機能していないこと,身体拘束の代替案の検討がされず,看護の力が生かされていないこと,および身体拘束率が平均6.6%/年であること,であった.次に,検討課題の課題解決に向けて,ARが「説明」「取り組み」「評価」「分析と可視化」の流れからなるPARの実践計画を作成し,それを病棟責任者である精神科医師に提案し,協力を得た.そして,2018年5月から,身体拘束の是非やケア方法に関して議論するための多職種カンファレンス(以下,カンファレンス)を開始し,毎日平日の日勤帯に30分程度実施し,土・日曜日と休日は実施しないこととした.

カンファレンスの参加者はARの他,対象患者の主治医を含む医師のチーム,プライマリーか,その日の受け持ち看護師,公認心理士・臨床心理士,薬剤師,精神保健福祉士,作業療法士などで,医師は患者毎に入れ替わって参加した.カンファレンスのファシリテーターはその日の日勤リーダーの看護師が担当した.カンファレンスの内容は,身体拘束中の患者についてはその目的,治療方針,患者の様子,身体拘束の早期解除に向けた治療やケアについて話し合うこととした.カンファレンスに参加していない参加者も情報を共有するため,検討した内容をカルテにも記録した.評価項目の一部は月毎の数値を参加者と共有し,PARの評価と改善につなげることとした.

4. データ収集

PAR参加者のうち,同意が得られた者のみを対象に2018年7月,2019年8月,2020年3月の3回無記名自記式質問紙調査を実施した.また,2016年4月から2020年3月の48か月間の台帳・日報(カンファレンス記録を含む)のうち,個人情報を含まない2次利用可能な情報から関連データを得た.

1) 質問紙

(1) 同意を得る手続き

質問紙には同意のためのチェックボックスを設け,白紙回答も可とし,鍵付きの回収箱への投函をもって同意とした.説明と配布はARが行い,回収箱の管理は研究実務者ではない事務員が行った.なお,調査のタイミングは1年に1回程度の頻度で,業務繁忙期などを除いて対象者の負担が最も少ない時期かつ,ARの分析の実現可能性を踏まえて設定した.

(2) 基本属性

参加者の職種,年齢,性別,当該部署における精神科経験年数,最終学歴,看護(ケア・医療)の倫理に関する講義の受講や研修会参加経験の有無とした.

(3) 身体抑制認識尺度Japanese Version of Physical Restraint Use Questionnaire(以下,J-PRUQ)(17項目)

J-PRUQは,身体拘束における必要性の認識を測定する目的で開発され,Akamine et al.(2003)によって日本語版の信頼性・妥当性が検証されている.誌上において公開されており,多職種に使用可能である.「全く必要でない」(1点)から「最も必要」(5点)の5件法で測定する.尺度合計は17~85点で,点数が高いほど一般的に身体拘束は必要と認識していることを示す.本研究では,身体拘束における参加者の認識を知る目的で用いた.

(4) 自由記述

「PARの取り組みについてどのように感じているか」を尋ねる設問を設けた.

(5) 身体拘束率

野田ら(2009)の算出方法に則り,台帳に基づき身体拘束率(1か月間の身体拘束を実施した延べ日数(人日)÷1か月の入院患者延べ日数(人日)×100,%)を月ごとに算出した.これには身体拘束を解除した日も含めた.

(6) 転倒率

身体拘束実施の理由として「転倒・転落防止」(長谷川,2016)が挙げられていることと,拘束を解除した結果,転倒が増える可能性についても検証するため,毎月の転倒率(期間中の入院患者の延べ人数に対する発生した転倒・転落の件数の割合)を算出した.

(7) The Global Assessment of Functioning Scale(以下,GAF)値

精神機能の重症度が身体拘束率に影響すると考えたため,精神機能の全体的評定尺度であり0~100点で評定し,点数が低いほど重篤な状態を示すGAF値30点以下の患者の割合(厚生労働省,2003)の月ごと平均値を算出した.

(8) ナースコール呼び出し回数

ナースコール回数が多いと業務が煩雑になると経験的に看護師が感じていることを踏まえ,身体拘束の多寡との関連を調べるため,ナースコール回数の月ごと合計数も算出した.

5. 分析方法

定量データについては単純集計ののち,J-PRUQ得点については2群の比較には対応の無いt-検定を,3群以上の比較には一元配置あるいは二元配置分散分析ののちBonferroniの多重比較検定を行った.直線回帰よりも説明率が高かったため2次曲線による単回帰分析を実施した.これ以外の要因間の関連の検討にはPearsonの相関係数ならびに重回帰分析を用いた.有意水準は0.05とした.以上の統計分析にはSPSS for Windows Ver. 25を用いた.

自由記述の内容については質的記述的分析法を用いて分析した.参加者がPARの取り組みについてどのように感じているかということに関する具体的な記述を抽出し,意味の分かる範囲で文章を単位として区切り,コード化した.コードを類似性と相違性から分類し,それぞれの集合体に含まれるコードを代表し得るように抽象化した名称を付与してこれをサブカテゴリとした.さらにその作業を繰り返し,抽象度を上げカテゴリ化した.

結果の厳密性を確保するため,筆頭著者の解釈に歪みや偏りがないかを質的研究の経験がある共著者と議論した.少人数の職種は個人が特定される可能性があるため,分析においては精神科医師,看護師以外はその他として一括した.

6. 倫理的配慮

PARの開始時には参加者に対して目的,実践内容,調査内容等を含めて必要事項のインフォームドコンセントの手続きをとった.人事異動で新たに配属されたスタッフにも随時,同様の手続きをとった.質問紙調査を依頼した各職務の責任者と参加者に研究の意義と目的,方法,倫理的配慮に関する必要事項を説明した文書を付帯した.ARが研究参加者と同一の職場であることを踏まえ,質問紙の回収について強制性が働かない様,特に注意深く配慮した.

台帳と日報(カンファレンス記録を含む)のうち,個人情報を含まないデータの2次利用を含め,浜松医科大学臨床研究倫理委員会による承認を事前に得て本研究を実施した(承認番号:18-079,19-112,19-325).

Ⅳ. 結果

1. 多職種カンファレンス取り組みの計画の変更点

当初は休日には実施しない計画であったが,PAR開始後の最初の休日に参加者が自主的に実施したことから,全員の合意の下,土・日や祝日を含めた毎日の実施に変更した.またカンファレンスでは,身体拘束を解除した後の評価や身体拘束が切迫している重症患者や転倒・転落のハイリスク患者の身体拘束の回避に向けても話し合う必要があるとの提案を受け,計画を変更した(図1).

2. 研究参加者の基本属性

質問紙を配布した1回目(2018年)は対象者60名の内57部を回収(回収率95%,有効回答率95%),2回目(2019年)は対象者60名の内55部を回収(回収率92%,有効回答率98%),3回目(2020年)は対象者60名の内42部を回収(回収率70%,有効回答率は98%)した.対象者の背景を表1に示す.この病院では人事異動が定期的に行われ,研究期間中ではPAR参加者が年間で1~15名の新採用者や経験豊富な職員の入れ替わりがあった.また看護師には精神科専門看護師はおらず,精神科経験年数が3年未満の割合は63%であった.

表1  対象者の背景
項目 2018年(n = 57) 2019年(n = 55) 2020年(n = 42)
n % n % n %
性別
女性 39 68.4 35 63.6 27 64.3
男性 18 31.6 20 36.4 15 35.7
年齢
20歳代 33 57.9 22 40.0 16 38.1
30歳代 14 24.6 17 30.9 11 26.2
40歳代 9 15.8 10 18.2 11 26.2
50歳以上 1 1.8 6 10.9 4 9.5
職種
医師 15 26.3 13 23.6 8 19.0
看護師 22 38.6 21 38.2 20 47.6
その他の職種 20 35.1 21 38.2 14 33.3
精神科経験年数
平均±標準偏差(年) 6.6 ± 6.3 9.4 ± 7.6 9.1 ± 8.3
1~3年目 25 43.9 18 32.7 15 35.7
4~9年目 16 28.1 13 23.6 11 26.2
10年目以上 16 28.1 24 43.6 16 38.1
最終学歴
専門学校・短期大学 9 15.8 9 16.4 8 19.0
大学 29 50.9 26 47.3 20 47.6
大学院 18 31.6 20 36.4 14 33.3
不明 1 1.8
ケア・医療倫理に関する学習経験
参加有り 21 36.8 21 38.2 25 59.5
参加無し 31 54.4 33 60.0 11 26.2
不明 5 8.8 1 1.8 6 14.3

3. 参加者の身体抑制認識

J-PRUQ得点(図2)は,全職種で2018年には44.7 ± 14.1であったが,2020年には37.2 ± 13.0となり,有意に低下した.年度×職種の二元配置分散分析を実施した結果,年度と職種の効果がともに有意であり,交互作用はなかった.年度ごとに職種の差を一元配置分散分析で検討した結果,2018年では,医師は看護師より有意に高く,その他の職種も看護師より有意に高かったが,2019年と2020年では職種間の有意差は縮小した.職種ごとに年度間の推移を見ると,どの職種でも有意に低下していた.

図2 

職種別のJ-PRUQ得点の経年変化

4. 身体拘束率および関連要因

1) 身体拘束率

目的変数を身体拘束率とした月ごとの48か月間における経時的変化を2次曲線単回帰分析により検証したところ(図3),身体拘束率は有意に減少していた(p < .001,R2 = .424).

図3 

48か月間の身体拘束率の変化

2) 身体拘束率と転倒率との関連

48か月間の月ごとの身体拘束率と転倒率には相関は無かった(r = .242,p = .097).

3) 身体拘束率とナースコール呼び出し回数との関連

2016年度には平均7,942回/月であったナースコール呼び出し回数は,2017年度には5,272回/月,2018年度には3,783回/月,2019年度には3,242回/月へ減少した(p < .001).48か月間の月ごとの身体拘束率とナースコール呼び出し回数には,正の相関がみられた(r = .646, p < .001).

4) GAF値の推移

48か月間の月ごとのGAF値は変化が無かった(p = .059).

5. 自由記述

回収した延べ154名中74名(48.1%)に何らかの自由記述が見られた.全ての記述から136コード,4カテゴリ,13サブカテゴリが抽出された(表2).以下,カテゴリを【 】,サブカテゴリを[ ],代表的なコードを「 」で示す.

表2  取り組みに関する気づき
カテゴリ サブカテゴリ 代表的な記述(記載された年) 記述数(計136)
必要性の認識 拘束低減の取り組みは必要・大切 患者の尊厳を守るためにも身体拘束低減は必要なことだと思っている(2018,看護師).データからも少しずつ身体拘束の割合が減少しきているため,不要な拘束をなくすためにも引き続き取り組みは継続していくことが大事である(2018,医師).世代を問わず身体拘束の低減を図ることが大切だと思う(2020,医師). 29
適切な拘束実施の必要性 治療上やむを得ず身体拘束を行うケースもあるが,それをなるべく少なくすることで患者にかかる負担苦痛を少しでも減らす(2018,看護師).不必要な拘束(QOLやADLの低下を伴う)は減らすべきと考えている(2019,その他). 21
拘束の必要性を多職種で話し合うことの重要性 患者さんにとって本当に必要かどうか多職種で話し合い最終判断として実施することが必要(2018,その他).スタッフ,他患者本人の安全のためにも抑制の解放にはカンファレンスによる慎重な検討が必要だと思う(2019,看護師). 10
拘束が看護業務に与える悪影響 不要な拘束はQOLの低下や患者の気持ち,気力の低下につながる(2018,その他).意にそぐわない拘束によりナースコールが増え,看護師の感情のコントロールが難しくなる(2020,看護師). 8
患者の利益を優先したケアの提供 なるべく患者に日常生活に近い状態で治療にあたってもらう方が良いが,拘束のリスクと拘束をしないことの安全性を考えることが難しい(2018,その他).患者様本人の利益につながる身体拘束になればよいと感じる(2018,看護師). 3
意識の変化 拘束低減に対する認識の変化 拘束をしないリスクもあるがするリスクもしっかり考えたい(2018,看護師).20年前の当然が今の非常識となっていることも多いことを実感することが多い(2020,医師). 14
拘束低減に対する前向きな思い 必要性をクリアに議論できるようになってよかった(2018,医師).日々のカンファレンスで拘束の必要性や拘束を検討して時間開放が増えるようにDrに報告していきたい(2019,看護師). 9
効果と期待 取り組みによる治療・ケアへのメリット 抑制の有無にかかわらず看護の可能性や質の向上につながっていた.看護師が看護について考えるいい機会になっている(2018,看護師).できるだけ拘束をしないほうが患者のコンプライアンスもよいと感じる(2020,その他). 11
拘束低減を図るためのケアの工夫 身体拘束をしなくてすむ方法は何かないか考えながら仕事するようにしている(2019,看護師).付き添いや見守ることで患者が安心して治療を受けられるようにしたいと思う(2020,医師). 9
取り組みに対する成功体験ややりがい 多職種で情報共有やカンファレンスを重ね実践が成功した時には大きな喜びややりがいを感じる(2019,看護師).スタッフ全体で意識を共にし同じ方向に取り組むことで充実感がアップした(2020,看護師). 4
本研究への期待 このような研究はとても意義がある.アンケートに回答する際に自らの態度を振り返ることが出来たと思う(2019,医師).ラポール形成等のためにも非常に重要な取り組みと思うため,こうした研究によってエビデンスが蓄積されることが望ましいと考える(2020,医師). 4
課題 取り組みに関連した疑問や葛藤 不要な拘束は減らし早期解除を目指すべきだと思っているが,拘束しなければ患者やスタッフの安全を守ることが出来ず患者が適切な治療やケアが受けられない場合があり難しさを感じている(2018,看護師).身体拘束を見送りになった患者がマンパワーの少ない日に拘束されることもあった(2020,看護師). 9
取り組みに関連した学習ニーズ 個々の症例について的確な知識がないと身体的拘束の低減にはつながらないと思う.低減のための具体的な工夫を教わる機会が欲しい(2018,医師).どのようなことが身体抑制にあたるのか,詳しく理解できていない部分があるのできちんと理解できるように努めていきたい(2019,その他). 5

取り組み=身体拘束に関する毎日の多職種カンファレンスの継続

【必要性の認識】は71コードであり,[拘束低減の取り組みは必要・大切]などが含まれた.【意識の変化】は23コードであり,[拘束低減に対する認識の変化]などが含まれた.【効果と期待】は28コードであり,[取り組みによる治療・ケアへのメリット]などが含まれた.【課題】は14コードであり,[取り組みに関連した疑問や葛藤]などが含まれた.

Ⅴ. 考察

1. 身体拘束率と関連要因

J-PRUQ得点が全職種で低下したことから,参加者全体において身体拘束の必要性に関する認識が変化したことがわかる.これと並行して身体拘束率も低下したが,この間GAFの平均値には変化がなかった.したがって,重症の患者が減ったために身体拘束率が低下したわけではなく,個別の事例についてのカンファレンスの実践により“転倒・転落などのリスクを防ぐ目的で身体拘束を選択する機会”が減ったのだろうと推測できる.また,身体拘束率とナースコール呼び出し回数に正の相関がみられ,身体拘束率の低下に並行してナースコールは減少していた.つまり,身体拘束をしないケアは,患者がナースコールで看護師の対応を要請する機会を減らす可能性があることが示唆された.

2. PARの取り組みがもたらした気づき

自由記述から得られた4カテゴリを以下4個の気づきと呼び,考察する.

参加者は[拘束低減の取り組みは必要・大切][拘束の必要性を多職種で話し合うことの重要性]等を感じていることから,【必要性の認識】という気づきが得られた.また,[拘束低減に対する認識の変化][拘束低減に対する前向きな思い]から,身体拘束を減らす取り組みを前向きに捉える【意識の変化】の気づきを得ていた.さらに,【効果と期待】の気づきでは,[拘束低減を図るためのケアの工夫]について,看護師は身体拘束をしないために看護で何ができるかを自発的に考える機会を得ていたと考えられた.【課題】では,患者の突然の暴力的な行動への対応やマンパワー不足に対する困難感の記述があり,PARの取り組みの過程における課題に気づくことができ,改善につながった.

3. 身体拘束の低減に向けたカンファレンスの実践への提言

秋山ら(2018)は,その人らしい人生を送ることへの支援を目的とした精神医療を進めようとするならば,そういった支援は精神科医だけでは実現できないと述べている.中田ら(2019)の報告でも,看護師だけが縛らない意識を持ったとしても,指示を出す医師との連携がうまくいかなければ事態は変わらないと述べていることから,本研究においても,身体拘束の低減を実現するためには多職種の協働が不可欠であることが示された.なお,本研究の参加者の特性は,精神科単科の病院とは異なり,定期的な人事異動がある中で十分に経験を積むことができない環境であった.ゆえに,毎日の継続的なカンファレンスが有効に機能したのではないかと考える.

本研究の取り組み期間において身体拘束が低減したが,患者の精神症状によってやむを得ない場合による身体拘束回避・解除が難しい局面にこそ,毎日話し合う習慣を浸透させ,繰り返し議論することが重要であり,基本10原則の実行に向けた対策へ繋がると考える.今後この取り組みが形骸化せず,患者の自由を損なうことなく精神医療が提供されるよう実践の継続が望まれる.

4. 研究の限界と今後の課題

1)一特定機能病院の精神科病棟を対象にした研究であり,他の環境では患者や施設の特性,また身体拘束の理由が異なる可能性があるため,一般化には限界がある.

2)本研究での試みを他施設でも実践し,効果を検証することが今後の課題である.

Ⅵ. 結論

特定機能病院の精神科病床における身体拘束に関する毎日の多職種カンファレンスの継続によって,身体拘束率と身体拘束の必要性に対する認識が低下した.一方,懸念された転落・転倒率の増加はなかった.4個の気づきからは,PAR遂行中の成果や課題も具体的に明らかとなった.

付記:本稿は,令和2年度浜松医科大学大学院医学系研究科修士課程(看護学専攻)に提出した修士論文を一部加筆・修正したものである.

謝辞:本研究を実施するにあたり,研究へご協力いただきました皆様,ならびに浜松医科大学医学系研究科基礎看護学領域メンバーの皆様に心より感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反はない.

著者資格:HHは研究の着想およびデザイン,統計解析の実施および草稿の作成すべてに貢献した.HKは原稿への示唆および研究のプロセス全体への助言に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み承認した.

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