Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Relations of Working Caregiver Work–family Conflicts to Assessment of Care Manager Support for Continued Employment and to Working Caregiver Characteristics
Kaori FukayamaAyumi Kono
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2022 Volume 42 Pages 31-39

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Abstract

目的:就労介護者の仕事と家庭役割間との葛藤とケアマネジャーによる就労継続支援の判断および就労介護者の特性との関連を明らかにする.

方法:対象者は,全国の居宅介護支援事業所を利用する就労介護者とその担当ケアマネジャー各3,000名とした.郵送で無記名自記式調査を実施し,各対象者 696名(有効回答率23.2%)を分析対象とした.就労介護者から,ワーク・ファミリー・コンフリクト(WIF・FIW)等を把握し,ケアマネジャーから,介護者の就労継続のための支援の判断等を把握した.

結果:就労介護者の平均年齢は57.2(SD8.8)歳で女性が79.3%であった.ロジスティク回帰分析の結果,ケアマネジャーが心理的支援の必要性が高いと判断している就労介護者はWIFが高かった.

結論:ケアマネジャーが心理的支援の必要性があると判断する就労介護者は,就労により家庭役割を遂行する上で葛藤を抱えていることが明らかになった.

Translated Abstract

Aim: This study was conducted to clarify relations of work–family conflicts of working caregivers to assessment of care manager support for continued employment and to the working caregiver characteristics.

Method: Study participants were 3,000 working caregivers nationwide who administer home care services, and their 3,000 care managers. An anonymous self-administered survey conducted by mail elicited data from 696 respondents (23.2% valid response rate). Survey questions for working caregivers included inquiries related to their sociodemographic characteristics and work-family conflicts as measured by the Work-Family Conflict Scales Japanese version. Regarding care managers, their sociodemographic characteristics and judgment of support for the caregiver to continue working were obtained.

Results: The mean age of these working caregivers, 79.3% of whom were women, was 57.2 years ± 8.8 years. Logistic regression analysis results indicated that working caregivers who were having psychological care needs assessed by their care managers tended to report worse living, longer working hours, worse subjective health, and a higher degree of conflict in working interference family issues (WIF).

Conclusions: Results indicated that working caregivers have psychological care needs and employment-related conflicts associated with fulfillment of their domestic roles.

Ⅰ. 緒言

わが国の少子高齢化に伴う諸問題への取り組みとして,「一億総活躍社会」の実現が掲げられている.その中で,人生100年時代を見据えた仕事と介護の両立が可能な働き方の普及促進を行い,「介護離職ゼロ」を目標としている(厚生労働省,2015).この背景には,年間約10万人いるとされる介護や看護のために離職する介護離職者(総務省,2017)が今後増加すれば,労働力不足の問題をより一層深刻化させ,経済成長を妨げることへの懸念がある.

就労しながら家族の介護をしている者(以下,就労介護者)は,40歳代から増え,50歳代後半でピークとなり(総務省,2017),キャリア形成の段階にある働き盛りの者である.就労介護者は,高齢者の要介護度や認知症状が重く,介護負担が重いほど就労時間の短縮や離職など就労を抑制する(大津,2013).また,介護者が一旦離職すると再就職できる者は半数に満たない(明治安田生活福祉研究所,2014)ため,介護離職者は,経済的不安から一人で介護を抱え込み,社会的に孤立しやすい(岸田,2014).特に低所得者は,年齢が高くなるとともに健康格差がより拡がり(Chandola et al., 2007),死亡率が増加(Pool et al., 2018)しやすい.このように離職による介護者の将来の心身の健康や人生への不利益は大きい.

今後,未婚率(内閣府,2019)や共働き世帯比率(内閣府,2020)の上昇から就労介護者は増加することが予測される.就労介護者の身体的・精神的負担の要因として,介護期間(Longacre et al., 2016)や介護時間(Trukeschitz et al., 2013)の延長,介護量の増加,就労時間の延長(Kenny et al., 2014),要介護者との同居(Duxbury et al., 2011)がある.このように就労介護者は多様な生活スタイルや価値観を持つため,その特性に応じた就労継続支援が必要である.また,就労介護者は,仕事役割と家庭役割とが相互にぶつかり合うことから発生する葛藤である“ワーク・ファミリー・コンフリクト(Work-Family Conflict: WFC)”を抱えている.WFCは,仕事と家庭の領域からの役割の負荷が相互に両立しない,役割間の葛藤の一形態として定義される(Greenhaus & Beutell, 1985).WFCには,概念的に異なる「仕事から家庭への葛藤(Work Interference Family: WIF)」と「家庭から仕事への葛藤(Family Interference Work: FIW)」として説明される(Duxbury et al., 1994).2つの概念は,異なる予測因子をもつことが示され,WIFは仕事のストレスやスケジュールの柔軟性などFIWよりも仕事領域と強く関連するが,FIWは主に子どもの数や家事に費やした時間など家庭領域と関連する(Byron, 2005).FIWが高い女性や介護責任のある女性は,離職のリスクが高いことが示され(Xue et al., 2020),女性には伝統的な性役割規範が根強いことがうかがえる.そのため,就労介護者が,自己の健康や人生を考慮した生活について選択できることが必要である.そして,就労介護者に適切な社会資源が提供され,意思決定支援されることによりWFCが緩和し,仕事と介護の両立につながると考える.

わが国の介護保険制度において,ケアマネジャーは対象者に適切な社会資源を調整する重要な役割を担っている.白澤(2018)は,ケアマネジメントにおける家族介護者の位置付けとして,家族介護者は社会資源として要介護者を支援するだけではなく支援対象者であると述べている.その中で,家族介護者の自己実現への支援の1つに,就労継続など社会活動等への参加が含まれることは当然とされている.著者らの先行研究(深山ら,2020)にて,ケアマネジャーは介護者の就労継続のための支援として,負担軽減支援,心理的支援,チーム間の関係調整,不在時の環境調整の4種類の支援を行っていることを示した.ケアマネジャーは基礎資格により医師との連携(鳴釜ら,2011)や訪問看護導入の判断(辻村ら,2014)に違いがあると指摘され,ケアマネジャー個人の資質によって不適切な判断や支援につながる可能性がある.一方で,ケアマネジャーの実践上の困難感を軽減するためには,多職種チーム間の専門職によるピアサポートが有効である(裴ら,2016).ケアマネジャーは,就労介護者の支援において訪問看護師等と多職種連携・協働を図りながら状況を判断し,WFCを踏まえたケアマネジメントを実践する必要がある.

そこで,本研究では,横断研究により,就労介護者の仕事と家庭役割間との葛藤とケアマネジャーによる就労継続支援の判断および就労介護者の特性との関連を明らかにする.本研究の成果として,就労介護者のWFC状況に応じた生活の実現に向けた支援について検討していくための知見を得ることができると考える.

Ⅱ. 研究方法

1. 対象者の選定

本研究の対象者は,居宅介護支援事業所を利用する就労介護者とその担当ケアマネジャーの各3,000名とした.居宅介護支援事業所の利用者および介護者を対象に郵送調査を実施した先行研究(白澤,2017)の郵送数および回収率を参照し,統計上必要な対象人数を決定した.具体的には,2018年11月末時点で,介護サービス情報公表システムにより検索した全国の居宅介護支援事業所40,794か所より,1事業所当たり全国平均である常勤換算2.9人(厚生労働省,2017)以上のケアマネジャー数の事業所を18,972か所抽出した.次に,各都道府県別の事業所数に応じて比例配分を行い,さらに無作為に3,000か所の居宅介護支援事業所を抽出した.

2. 調査票の配布と回収

2019年8月~11月に郵送による無記名自記式質問紙調査を行った.3,000か所の居宅介護支援事業所の管理者宛に研究依頼文書と質問紙を送付した.就労介護者は,管理者がケアマネジャーとして担当する要介護者の主介護者で,氏名が五十音順で最も早い者を1名選定し,研究依頼文書および質問紙を担当ケアマネジャーから手渡してもらうことを依頼した.就労介護者とその担当ケアマネジャーのデータがマッチングできるよう質問紙を送付する際に返信用封筒に同一IDを割り付け管理した.回収された質問紙は,就労介護者が765名(25.5%)で,ケアマネジャーが863名(28.8%)であった.その中から,両対象者から質問紙が回収された各696名(有効回答率23.2%)を分析対象とした.

3. 調査内容

1) 就労介護者に対する調査項目

(1) 就労介護者の基本属性

就労介護者の基本属性として,その個人特性,就労特性,家庭特性を把握した.個人特性として,年齢,性別,婚姻状況(配偶者またはパートナーの有無),最終学歴(選択肢から1つ選択してもらい,「中等教育以下」「高等教育以上」の2カテゴリに分類),要介護者との続柄(選択肢から1つ選択してもらい,「配偶者」「子ども」「義理の子ども」「その他」の4カテゴリに分類),要介護者の住居との距離(選択肢から1つ選択してもらい,「同居」「30分未満」「30分以上」の3カテゴリに分類),主観的健康観,暮らし向きなどを把握した.このうち主観的健康観は「良い」「悪い」,暮らし向きは「良い」「苦しい」の2択にて把握した.

就労特性として,就労形態(選択肢から1つ選択してもらい,「常勤」「非常勤」「自営業」「その他」の4カテゴリに分類),1日当たりの労働時間などを把握した.

家庭特性として,1日あたりの介護時間,介護・家事・子どもの世話への各負担感などを把握した.このうち,介護・家事・子どもの世話への各負担感は,「負担がある」「負担がない」の2択にて把握した.

(2) 就労介護者の仕事と家庭役割間の葛藤

就労介護者の仕事と家庭役割間の葛藤として,WFCを把握した.WFCは,Carlson et al.(2000)が開発し,信頼性と妥当性が検証されているワーク・ファミリー・コンフリクト尺度(Work-Family Conflict Scale: WFCS)の日本語版(渡井ら,2006)にて測定した.WFCSは,2つの下位尺度で構成され,「仕事から家庭への葛藤(WIF)」が9項目,「家庭から仕事への葛藤(FIW)」が9項目の計18項目にて構成される.WIF・FIWは規定要因と影響要因が異なる関連性をもつため,それぞれ別に分析することが妥当とされている(Tammy et al., 2000).各質問項目は,「全く当てはまらない(1点)」から「全くそのとおりである(5点)」の5件法で回答を求めた.WIF・FIWの得点の算出方法は,各9項目の得点を加算し,項目数で除した数値を各得点とした.WIF・FIWの各得点範囲は1~5点であり,得点が高いほど,WIF・FIWはそれぞれ葛藤が高いことを示す.

WFCS(渡井ら,2006)の開発時のα係数は,WIFが0.81,FIWが0.77である.本研究におけるα係数は,WIFが0.87,FIWが0.88であり,尺度の内的整合性は十分であることを確認した.

2) 担当ケアマネジャーに対する調査項目

(1) ケアマネジャーの基本属性

ケアマネジャーの基本属性として,年齢,性別,就労形態(常勤または非常勤),主たる基礎資格(ケアマネジャーとして有している基礎資格の中で,最も基本にして仕事をしている資格について選択肢から1つ選択してもらい,「看護職」「介護・福祉職」「その他」の3カテゴリに分類),経験年数,所属事務所の設置状況(他施設・他機関に併設している事業所または独立型事業所)などを把握した.

(2) 要介護者の家庭特性

要介護者の家庭特性として,要介護者の年齢,性別,要介護度,認知症高齢者の自立度(厚生労働省,2006)などを担当ケアマネジャーから把握した.

(3) 介護者の就労継続支援の必要性の判断

ケアマネジャーによる介護者の就労継続支援の必要性の判断として,担当するケアマネジャーが介護者の就労継続のための支援について必要性をどの程度判断しているかを把握した.ケアマネジャーによる介護者の就労継続のための支援として,先行研究(深山ら,2020)で示された4種類の支援「負担軽減支援」「心理的支援」「チーム間の関係調整」「不在時の環境調整」について,必要性が「とても高い」「まあまあ高い」「あまり高くない」「低い」の4件法で回答を求めた.

4. 分析方法

独立変数は,ケアマネジャーによる介護者の就労継続支援の必要性の判断および就労介護者の個人特性,就労特性,家庭特性とし,従属変数は就労介護者のWFCとし,関連性を検討した.分析方法として,まず,就労介護者のWFCの下位尺度であるWIFとFIWは,正規性を確認し,それぞれ平均値をカットオフ値として高群/低群に分類した.ケアマネジャーによる4種類の支援の必要性は,4選択肢への回答の分布を確認し,「とても高い」「まあまあ高い」を必要あり群,「あまり高くない」「低い」を必要なし群の2群に分類した.

次に,多変量ロジスティクス回帰分析にて強制投入法を用いて,WIFまたはFIWに対するケアマネジャーによる就労継続のための支援の必要性に関するオッズ比(OR)および95%信頼区間(95%CI)を算出した.調整変数を検討する際に,WIF・FIWの群別に就労介護者の個人特性,就労特性,家庭特性,要介護者の家庭特性の各変数との単変量ロジスティク回帰分析を行った.その結果,有意な関連のあった就労介護者の個人特性(年齢,性別,婚姻状況,最終学歴,要介護者との続柄,主観的健康観,暮らし向き),就労特性(就業形態,1日当たりの労働時間),家庭特性(要介護者の年齢,性別,認知症高齢者の自立度(厚生労働省,2006))を調整変数として投入することとした.なお,年齢や労働時間は連続変数として取り扱い,カテゴリ変数は性別(女性0,男性1),婚姻状況(あり0,なし1),要介護者との続柄(配偶者0,子ども1,義理の子ども2),主観的健康感(良い0,悪い1),暮らし向き(良い0,苦しい1),就業形態(常勤0,非常勤1,自営業2),認知症高齢者の自立度(自立0,ランクI1,ランクII2,ランクIII3,ランクIV4,ランクM5)とダミー化した値を用いた.多重共線性を回避するため,従属変数の変数間の相関が0.7以下であることを確認した.統計解析はSPSS Ver. 26を使用し,有意水準は5%未満とした.

5. 倫理的配慮

各対象者に対し,文書にて研究の目的や趣旨,倫理的配慮等を説明した.研究への協力は自由意思に基づき,質問紙の冒頭に研究への同意についてチェックを入れてもらった上で回答を求めた.就労介護者には,ケアマネジャーから研究依頼文書および質問紙を手渡す際に,ケアマネジャーが要介護者の個人情報にかかわる家庭特性の事項について回答することを説明してもらい,同意が得られた場合のみ受け取ってもらった.なお,本研究は,大阪市立大学大学院看護学研究科倫理委員会の承認を受け,実施した(承認番号2019-1-1).

Ⅲ. 結果

1. 就労介護者の基本属性およびワーク・ファミリー・コンフリクト,ケアマネジャーの基本属性

就労介護者の平均年齢は57.2(Standard Deviation: SD8.8)歳で,女性が552名(79.3%)であり,要介護者との続柄は子どもが444名(63.8%)で,同居している者が504名(72.4%)であった.主観的健康観が良い者は539名(77.4%)で,暮らし向きが良いと考えている者は468名(67.2%)であった.

就労特性として,就労形態は常勤327名(47.0%)であり,労働時間の中央値は8.0時間/日であった.家庭特性として,介護への負担感がある者は571名(82.0%),家事への負担感がある者は540名(77.6%),子どもの世話への負担感がある者は107名(15.4%)であった.また,要介護者の平均年齢は83.1(SD8.8)歳で,女性が480名(69.0%)であった.

就労介護者のWFC得点では,WIF得点は2.8(SD0.7)点,FIW得点は2.5(SD0.7)点であった.

ケアマネジャーの平均年齢は51.5(SD8.5)歳で,女性が553名(79.5%)であった.主たる基礎資格は,介護・福祉職が551名(79.2%)であり,ケアマネジャーとしての平均経験年数は10.7(SD5.1)年であった(表1).

表1  就労介護者の基本属性およびワーク・ファミリー・コンフリクト,ケアマネジャーの基本属性 N = 696
n(%) 平均(SD) 中央値(IQR)
就労介護者
個人特性
年齢(歳) 57.2(8.8)
性別 男性 140(20.1)
女性 552(79.3)
欠測値 4(0.6)
婚姻状況 配偶者またはパートナーあり 450(64.7)
なし 242(34.8)
欠測値 4(0.6)
最終学歴 中等教育以下 300(43.1)
高等教育以上 391(56.2)
欠測値 5(0.7)
要介護者との続柄 配偶者 79(11.4)
子ども 444(63.8)
義理の子ども 129(18.5)
その他 32(4.6)
欠測値 12(1.7)
要介護者の居住地との距離 同居 504(72.4)
30分未満 128(18.4)
30分以上 51(7.3)
欠測値 13(1.9)
主観的健康観 良い 539(77.4)
悪い 144(20.7)
欠測値 13(1.9)
暮らし向き 良い 468(67.2)
苦しい 211(30.3)
欠測値 17(2.4)
就労特性
就業形態 常勤 327(47.0)
非常勤 209(30.0)
自営業 72(10.3)
その他 69(9.9)
欠測値 19(2.7)
1日当たりの労働時間(時間) 8.0(6~8)
家庭特性
1日当たりの介護時間 2.0(1~5)
介護の負担感 あり 571(82.0)
なし 115(16.5)
欠測値 10(1.4)
家事の負担感 あり 540(77.6)
なし 150(21.6)
欠測値 6(0.9)
子どもの世話の負担感 あり 107(15.4)
なし 74(10.6)
欠測値 515(74.0)
要介護者の年齢(歳) 83.1(8.8)
要介護者の性別 男性 212(30.5)
女性 480(69.0)
欠測値 4(0.6)
要介護度 要介護1 202(29.0)
要介護2 185(26.6)
要介護3 146(21.0)
要介護4 80(11.5)
要介護5 74(10.6)
欠測値 9(1.3)
ワーク・ファミリー・コンフリクト(WFC)
仕事から家庭への葛藤(WIF) 2.8(0.7)
家庭から仕事への葛藤(FIW) 2.5(0.7)
ケアマネジャー
年齢(歳) 51.5(8.5)
性別 男性 143(20.5)
女性 553(79.5)
就業形態 常勤 687(98.7)
非常勤 8(1.1)
欠測値 1(0.1)
主たる基礎資格
看護職 96(13.8)
介護・福祉職 551(79.2)
その他 31(4.5)
欠測値 18(2.6)
ケアマネジャー経験年数(年) 10.7(5.1)
所属事業所の設置状況
併設型 524(75.3)
独立型 167(24.0)
欠測値 5(0.4)

SD:標準偏差 IQR:四分位範囲

欠測値は,未回答を示す.

2. 就労介護者のWIF(仕事から家庭への葛藤)におけるケアマネジャーの就労継続支援の判断および就労介護者の特性への関連因子

就労介護者のWIFとケアマネジャーによる就労継続支援の必要性の判断および就労介護者の特性との関連性についてロジスティク回帰分析で検証した結果,ケアマネジャーが心理的支援の必要性が高いと判断している就労介護者は,心理的支援の必要性が低いと判断している者に比べてWIFが高かった(OR = 2.44, 95%CI = 1.33~4.48).そして,要介護者との続柄が子ども(OR = 2.86, 95%CI = 1.06~7.70)や義理の子ども(OR = 2.89, 95%CI = 1.01~8.32)である者は配偶者である者と比べてWIFが高かった.主観的健康観が悪い者は良い者と比べてWIFが高く(OR = 3.54, 95%CI = 2.00~6.28),暮らし向きが苦しい者は良い者と比べてWIFが高く(OR = 2.21, 95%CI = 1.36~3.57),労働時間が長い者ほどWIFが高かった(OR = 1.35, 95%CI = 1.16~1.56)(表2).

表2  就労介護者の仕事と家庭役割間の葛藤とケアマネジャーによる就労継続支援の判断および就労介護者の特性との関連 N = 696
独立変数 WIF OR(95%CI) FIW OR(95%CI)
ケアマネジャーによる就労継続支援の必要性の判断
負担軽減支援 低群 1.00 1.00
高群 1.24(0.64~2.42) 1.41(0.76~2.60)
心理的支援 低群 1.00 1.00
高群 2.44(1.33~4.48)** 1.44(0.82~2.53)
チーム間の関係調整 低群 1.00 1.00
高群 1.12(0.70~1.81) 1.05(0.68~1.63)
不在時の環境調整 低群 1.00 1.00
高群 0.81(0.50~1.30) 1.03(0.67~1.59)
就労介護者の個人特性
年齢 0.99(0.96~1.02) 1.00(0.97~1.02)
性別 女性 1.00 1.00
男性 1.28(0.74~2.23) 1.19(0.72~1.97)
婚姻状況 結婚orパートナーあり 1.00 1.00
なし 0.71(0.44~1.15) 1.31(0.83~2.04)
要介護者との続柄
配偶者 1.00 1.00
子ども 2.86(1.06~7.70)* 1.11(0.46~2.71)
義理の子ども 2.89(1.01~8.32)* 1.30(0.50~3.38)
主観的健康観 良い 1.00 1.00
悪い 3.54(2.00~6.28)** 2.14(1.31~3.51)**
暮らし向き 良い 1.00 1.00
苦しい 2.21(1.36~3.57)** 1.53(0.99~2.37)
就労介護者の就労特性
就業形態
常勤 1.00 1.00
非常勤 0.68(0.38~1.22) 1.01(0.59~1.74)
自営業 0.72(0.34~1.54) 1.54(0.76~3.11)
1日当たりの労働時間 1.35(1.16~1.56)** 1.16(1.02~1.32)*
就労介護者の家庭特性
要介護者の年齢 1.01(0.98~1.04) 1.01(0.98~1.04)
要介護者の性別
女性 1.00 1.00
男性 1.23(0.75~2.00) 1.35(0.86~2.12)
要介護者の認知症高齢者の自立度
自立 1.00 1.00
ランクI 0.97(0.42~2.23) 0.93(0.42~2.05)
ランクII 1.04(0.46~2.34) 0.76(0.35~1.64)
ランクIII 1.51(0.65~3.55) 1.11(0.50~2.48)
ランクIV 0.88(0.32~2.39) 1.24(0.48~3.15)
ランクM 6.57(0.57~76.4) 4.73(0.43~52.3)
モデルの要約
–2対数尤度 561.23 634.46
Cox-Snell R2乗,Nagelkerke R2乗 .216,.288 .094,.126
Hosmer-Lemeshow検定
χ2乗検定,自由度,有意確率 6.408,8,.602 11.060,8,.198

※ロジスティック回帰分析:仕事から家庭への葛藤(WIF)は,スコアの平均値2.8をカットオフとして,低群/高群に分類した.家庭から仕事への葛藤(FIW)は,スコアの平均値2.5をカットオフとして,低群/高群に分類した.

OR:オッズ比,95%CI:95%信頼区間,* p < .05,**p < .01

3. 就労介護者のFIW(家庭から仕事への葛藤)におけるケアマネジャーによる就労継続支援の必要性の判断および就労介護者の特性への関連因子

就労介護者のFIWとケアマネジャーによる就労継続支援の必要性の判断および就労介護者の特性との関連について,ロジスティク回帰分析で検証した結果,FIWとケアマネジャーによる就労継続支援の必要性の判断との関連はみられなかった.そして,主観的健康観が悪い者は良い者と比べてFIWが高く(OR = 2.14, 95%CI = 1.31~3.51),労働時間が長い者ほどFIWが高かった(OR = 1.16, 95%CI = 1.02~1.32)(表2).

Ⅳ. 考察

1. 対象者の仕事と家庭役割間の葛藤の特徴

本研究において,就労介護者の仕事と家庭役割間の葛藤であるWIF得点は2.8(SD0.7)点,FIW得点は2.5(SD0.7)点であり,WIF得点の方が高かった.中小企業の労働者(熊谷・五十嵐,2020)や中壮年期にある者(熊谷ら,2013),看護師(Yamaguchi et al., 2016)を対象とした先行研究では,WIF 2.6~3.2点,FIW 2.2~2.4点と,本研究と同様にFIWよりWIFが高いことを示している.この背景には,仕事と家庭の役割をもつ者は,社会的な役割を遂行することを優先しているためにFIWよりもWIFの方が高くなりやすいことが考えられる.

2. 就労介護者の仕事と家庭役割間の葛藤とケアマネジャーによる就労継続支援の判断および就労介護者の特性との関連

本研究では,就労介護者の仕事と家庭役割間の葛藤を意味するWFCとケアマネジャーによる就労継続支援の判断および就労介護者の個人特性,就労特性,家庭特性との関連を検証した.

まず,就労介護者のWIFとケアマネジャーによる就労継続支援の判断および就労介護者の各特性との関連を検証した結果,ケアマネジャーが心理的支援の必要性が高いと判断している就労介護者は,WIFが高かった.WIFが高いほど蓄積疲労度,抑うつ度は高くなり(熊谷ら,2013),本研究の結果からケアマネジャーは就労介護者のWIFを低減するために,心理状態を把握し,支援の必要性を判断している可能性が示唆された.また,就労介護者は,要介護者との続柄が子どもや義理の子どもであり,主観的健康観が悪く,暮らし向きが苦しく,労働時間が長いほどWIFが高かった.親を介護する子どもは時間の経過とともに否定的な関係性になる傾向があり(Kim et al., 2017),仕事役割を遂行しながら介護を行うことは要介護者との関係性の悪化など家庭役割への葛藤を生じる可能性があり,WIFは高くなると考える.主観的健康感とWIFとの関連において,本研究の結果は,先行研究(熊谷・五十嵐,2020)の結果を支持するものであった.そして,ケアマネジャー等の支援者が,就労介護者の主観的健康観を把握することで,WIFの予測の指標になると考える.さらに,就労介護者の労働時間が長いほどWIFが高くなることを示した結果は,先行研究(熊谷・五十嵐,2020)と一致している.休暇の取得や残業などに関する労働時間管理の柔軟性が高いほどWIFを低減する(熊谷ら,2013)ため,就労介護者は柔軟性が高い就労環境によりWIFを低減できる可能性がある.

次に,就労介護者のFIWとケアマネジャーによる就労継続支援の判断および就労介護者の各特性との関連を検証した結果,有意な関連はみられなかった.この理由として,ケアマネジャーは,就労介護者が家庭役割を遂行するための仕事役割への影響の有無や程度,支援の必要性について,日常生活の様子からは判断しづらい可能性があると考える.ただ,本研究の結果より,労働時間が長いとFIWは増大しており,労働時間が長い就労介護者は介護役割が仕事役割を遂行するうえで影響がある可能性がある.今後,介護役割が就労継続に与える影響について多角的に明らかにする必要がある.また,本研究では,就労介護者は,主観的健康観が悪く,労働時間が長いほどFIWが高いことが示された.就労者は家庭での不安や緊張,疲労などがみられると抑うつ傾向が高まる(鈴木・松岡,2012)とされ,先行研究(熊谷・五十嵐,2020)と同様に主観的健康観が悪い者は良い者と比べて,FIWが低かった.そして,ケアマネジャー等の支援者が,就労介護者の主観的健康観を把握することもまた,FIWの予測の指標になると考える.

3. 看護実践への示唆

本研究では,ケアマネジャーが心理的支援の必要性が高いと判断している就労介護者は,WIFが高くなる傾向があることが示された.このことから,支援者は,就労介護者の状態から心理的支援の必要性を判断し,WIFの緩和を実施する必要があることが示唆される.また,本研究の結果から,就労介護者の主観的健康観を把握することで,WFCへの介入の必要性について判断する指標になる可能性が示唆された.地域包括ケアの枠組みにおいて,訪問看護師がもつ実践能力のうち根幹をなす能力として,実践の場が生活の場であることから主体性や個別性を活かした利用者・家族支援を提供する能力があると示されている(片平・植村,2021).そのため,訪問看護師は,要介護者や日常生活の様子から就労介護者の健康状態を把握し,心理的支援の必要性について判断することが重要となる.就労介護者の心身の健康を維持できるよう支援することが多様な背景や価値観をもつ就労介護者の仕事と介護の両立を促進すると考える.そして,訪問看護師は医療者が不在である生活の場での実践において,制度等の社会資源の活用と連携(片平・植村,2021)も求められる.就労介護者の心理的支援において,就労介護者の表情や言動を観察することは重要であるが,日常的に不在の就労介護者との面会は難しい.そのため,ケアマネジャーが実施するモニタリングの機会を利用するなど連携・協働を図りながらケアマネジメントすることが必要となる.また,他の関係職種にも心理的支援の必要性を共有することで,より意図的に就労介護者のWFCを踏まえた心理的支援を促進することができると考える.

本研究において,労働時間など柔軟性の高い職場環境がWFCを緩和させることが示唆されたが,ケアマネジャーが直接,就労介護者の職場環境についてマネジメントを行い介入することは難しいと推測される.そのため,産業保健活動において,労働者に対して家族の介護が必要になる前に,健康を維持しながら仕事と介護を両立するために必要な知識や支援の仕組みについて周知する.そして,雇用者に対してWFCを抱える就労介護者への支援の必要性について理解を促す働きかけが必要であると考える.

4. 限界と強み

本研究の限界として,第1に本研究は横断的研究であり,ケアマネジャーによる判断と支援,就労介護者の状況には時間差が生じるため,変数間の因果関係は明らかにはできない.そのため,縦断的にデータを蓄積し,就労介護者の状況に応じたケアマネジャーの判断や支援への影響を検証する必要がある.第2に本研究の対象となった就労介護者をケアマネジャーが選択しており,各ケアマネジャーが担当するすべての就労介護者のデータを収集していないことが限界として挙げられる.第3に有効回答率が低く応答バイアスがあり一般化には限界がある.

このような限界はあるが本研究の強みとして,全国の居宅介護支援事業所から各都道府県の事業者数に応じて比例配分してデータを収集していることから一般化が図りやすいと考える.そして,本研究は就労介護者とその担当ケアマネジャーのデータをマッチングしていることから,より精密にケアマネジャーの支援の判断とWIF・FIWとの関連を検討できている可能性がある.本研究の成果は,就労介護者の介護離職を予防していくためのWFC状況を踏まえたケアマネジメントや支援者のチームづくりにおいて必要な知見として活用できると考える.

謝辞:本研究の実施にあたり,調査に参加してくださったケアマネジャーの皆さま,就労介護者の皆さまに,心より御礼申し上げます.本研究は,日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究(C)課題番号17K12473)を受け,実施した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:Fは研究の着想からデータ収集,統計解析の実施,原稿の作成までの研究全体を実施した.Kは研究全体への助言を実施した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

文献
 
© 2022 Japan Academy of Nursing Science
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