Journal of Japan Academy of Nursing Science
Online ISSN : 2185-8888
Print ISSN : 0287-5330
ISSN-L : 0287-5330
Original Articles
Thoughts of Nurses who Acquired Nosocomial Coronavirus Disease 2019 in an Infectious Disease Ward in the Early Stage of an Outbreak in Japan and Were Able to Return to Work: Focus on the Thoughts They Had Before and after Their Infection Was Diagnosed
Noriko ShinkaiKayoko OhnishiHisako Yano
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2022 Volume 42 Pages 72-80

Details
Abstract

目的:新型コロナウイルス感染症に院内感染した看護師の支援と感染症看護に携わる看護師への事前・継続教育及び病院の管理体制に関する示唆を得るために,院内感染した看護師の感染前と感染判明後しばらくの間に抱いた思いを明らかにする.

方法:A病院の感染症病棟で院内感染し,職場復帰できた看護師8名に半構成的面接法によるインタビューを行い質的帰納的に分析した.

結果:感染する前は[未知の感染症の脅威への認識不足],[感染症病棟で働く不安と不満],判明直後は[感染のショックと不安],[自分を守りたい思い],判明後しばらくしてからは[看護師としての使命感と患者への自責の念],[感染判明のダメージからの立ち直り]の思いが抽出された.

結論:感染する前は現場の混乱が生じる中で不安と不満があった.判明直後はショックと不安の中看護師の使命感があり,他の陽性者と支え合った.感染拡大の認識を高く持つこと,感染予防教育,病院からの時宜を得た情報提供の重要性が示唆された.

Translated Abstract

Objective: To clarify the thoughts and feelings of nurses before and after acquiring nosocomial coronavirus disease 2019 (COVID-19) in order to support hospital-acquired nurses and to suggest how to provide prior and continuous education to nurses involved in infectious disease nursing.

Methods: Semi-structured interviews were conducted with eight nurses working on the infectious disease ward at Hospital A who were able to return to work after acquiring nosocomial COVID-19, and the data were then analyzed qualitatively and inductively.

Results: The extracted thoughts and feelings of nurses before infection included a “lack of awareness of threats to unknown infectious disease” and “anxiety and dissatisfaction about working in the infectious disease ward”, immediately after infection included “shock and anxiety about being infected” and “desire to protect themselves”, and at some time after infection included a “sense of mission as a nurse and remorse for patients” and “recovery from the damage caused by the infection”.

Conclusion: Before becoming infected, the nurses worked with anxiety and frustration as confusion arose in the hospital, and immediately after the discovery of their infection, they felt a sense of mission while dealing with shock and anxiety and supporting each other. These results suggest the importance of maintaining a high level of awareness regarding the spread of infection, education on infection prevention, and the timely provision of information.

Ⅰ. 緒言

Severe acute respiratory syndrome(SARS)などの感染症パンデミックは繰り返し生じており,感染症制御は極めて重要な課題である(WHO, 2003).2020年1月に日本で新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)患者が初めて報告された(厚生労働省,2020a).発生当初,有効な治療法や感染対策は確立されておらずワクチンも未開発であった(日本環境感染学会,2020).この感染症は想定をはるかに超えてパンデミックとなり,2020年4月に国内で初めて緊急事態宣言が発令され(首相官邸,2020),2021年10月現在,国内におけるCOVID-19感染者数は170万人を超えた(厚生労働省,2021).

COVID-19パンデミックは医療従事者のメンタルヘルスに大きく影響を及ぼした.Serrano et al.(2020)のレビューによれば,COVID-19パンデミックにある医療従事者は,不安や抑うつ,急性ストレス反応,燃え尽き症候群,PTSD症状,不眠などの精神症状が高い頻度で発生していた.中でも,直接COVID-19患者に対応する医療従事者はPTSD症状が強く心理的負担が大きいこと,特に女性や看護師への影響は大きく,メンタルヘルスのサポートの重要性が報告されている(Rossi et al., 2020).

そのような状況の中,各地の医療機関では院内感染が多発し,多くの医療従事者が感染した(日本看護協会,2020).とりわけ,感染症病棟の看護師として日頃から感染対策の教育を受け,感染症患者の看護実践をしていたが,未曽有の事態のなかで院内感染した看護師の打撃は計り知れなかったと推察する.2009年に発生した新型インフルエンザA(H1N1)に感染した看護師6名へのインタビューでは,周囲へ感染を広げる不安や職場復帰後に関係者以外に感染したことが知られていて強い不快感があり,衝撃を受けている思いの受け止めや共感性態度の重要性,医療者間のリスクコミュニケーションの訓練を平時から取り組む必要性が示唆されていた(脇坂・西川,2017).COVID-19については,感染した医療従事者1名から体験を聞き取ったところ,未知な病気に対する不安や動揺,入院環境でのストレス反応として過緊張,易疲労感,周囲への感染拡大の懸念や自責感を強く感じていた.辛さを認め,表出できる心理的安全性の重要性と感染に伴う心理変化の周知,心理教育が有用な可能性を示唆していた(倉持ら,2020).これら感染した医療従事者の体験の調査はあるもののその数は極めて少ない.

COVID-19という未曽有の危機にさらされ,感染した看護師の体験を明らかにすることは,感染した看護師の支援とこれからも継続すると考えられるCOVID-19感染症看護に携わる看護師への事前・継続教育のあり方,そして病院の管理体制に関する示唆を得ることができると考えた.更に本研究の成果は別の感染症が発生した時の多様な不安を軽減するメンタル面のケアや心身の安全確保,そして危機管理体制を構築する上で活用することができると考えた.

Ⅱ. 研究目的

本研究の目的は,COVID-19に院内感染した看護師の支援と感染症看護に携わる看護師への事前・継続教育のあり方及び病院の管理体制に関する示唆を得るために,感染症病棟で院内感染した看護師のうち職場復帰できた看護師が感染する前と感染判明後しばらくの間に抱いた思いを明らかにすることである.

Ⅲ. 研究方法

1. 用語の定義

1)院内感染とは,A病院のCOVID-19患者を受け入れていた病棟(感染症病棟)に入院していた非感染患者に同感染症の感染が確認され,感染リスクのある患者と医療従事者にPCR(Polymerase Chain Reaction)検査を実施した結果,陽性が確認された者の同感染症クラスターとする.

2)思いとは,院内感染した看護師がその時に抱いた感情や考えとし,事実だが研究協力者の思いが隠れていると研究者が感じた語りも思いとした.

3)感染判明後しばらくの間とは,感染判明直後1~2週間程度とする.

2. 対象とデータ収集期間

A病院の感染症病棟で2020年3月からCOVID-19感染看護に従事し,同年4月にCOVID-19の院内感染が確認され,職場復帰できた看護師11名のうち,研究協力に同意が得られた8名である.データ収集期間は院内感染から5ヵ月が経過した同年9月である.

3. データ収集方法

半構成的面接法によるインタビューにてデータ収集を行った.質問項目は,COVID-19に感染した看護師の体験に焦点をあて,「感染する前に抱いた思い」,「感染が分かった時に抱いた思い」,「感染したと思い当たる場面」,「支援者」,「病院や上司,感染管理チームに対する思い」,「職場復帰の決断と復帰後の思い」などを盛り込んだインタビューガイドを作成した.

4. データ分析の手順

インタビューは研究協力者の承認を得てICレコーダーに録音し,逐語録とした.逐語録を繰り返し熟読し,コードからサブカテゴリ,カテゴリへと抽象度を高め質的帰納的に分析した.コードは簡略化した表現とはせず,逐語録を一意味内容ごとに区切ったものをそのままコードとした.なお,本研究では全てのコードから看護師が感染する前と感染判明後しばらくの間に抱いた思いに関する分析のみを報告する.分析のすべての過程において共同研究者間で検討を行い,信頼性と妥当性の確保に努めた.なお,発表に関して研究協力者に分析結果を見てもらい本内容で齟齬がないことを確認している.

5. 倫理的配慮

本研究の実施にあたっては,神戸市立医療センター中央市民病院の臨床研究倫理審査委員会で承認を得て開始した(審査番号k211019).研究協力者には,研究の目的,方法,研究協力は任意であり拒否可能なこと,公表の際は個人が特定できないように配慮することを口頭と文書で伝え同意を得た.なお,話し方の特徴が表れないように簡潔に表現し,各コードがどの協力者のものかを示さないようにするなどして匿名化の確保に細心の注意を払った.利益相反はない.

Ⅳ. 結果

1. 病院の概要

感染症病棟はこれまで結核など感染症患者を受け入れる病棟であった.COVID-19感染患者の受け入れ時は病棟内に同感染患者と非感染患者が入院し,個室ごとのゾーニングによる感染予防をしていたが,感染患者を担当する看護師と非感染患者を担当する看護師が接触する機会があった.

2. 協力者の概要

研究協力者は全員女性で,看護師経験2~18年,7名(88%)が一人暮らしであった.感染した看護師は1~4つの症状(発熱,咽頭痛,鼻汁,味覚・嗅覚障害,頭痛,倦怠感)を認めたが全員軽症のまま治癒した.症状が長引いて入院や療養施設の滞在が長くなった看護師はいなかったが,PCR検査がなかなか陰性化せずに退院できない看護師が複数名いた.就業停止期間は平均19日(最短12日~最長25日)であった.

3. 分析結果

インタビューは1回ずつ平均58分(53~72分)で行われた.全データ860コードのうち395コードを分析対象とし,そこから6コアカテゴリ,17カテゴリ,55サブカテゴリが抽出された(表1).以下にコアカテゴリごとにその内容を述べる.なおカテゴリを【 】,サブカテゴリを《 》,コードを〈 〉で表す.

表1  院内感染でCOVID-19に感染する前と感染判明後しばらくの間に抱いた思い
コアカテゴリ カテゴリ サブカテゴリ コード数
未知の感染症の脅威への認識不足 感染管理の組織的な活動はしていた 感染管理教育を受けていた 10
職業感染への意識はあった 8
COVID-19流行前は感染防御物品の不足は感じなかった 7
COVID-19は我がことではなかった COVID-19は怖いと思わなかった 13
自分が感染するとは思ってなかった 12
慣れが生じた 3
対策をしているので大丈夫と思っていた 2
感染症病棟で働く不安と不満 未知の感染症に対する現場の混乱が生じた 現場の不安や不満が上層部に伝わらなかった 26
病院の感染対策の方針が頻繁に変わった 13
重症度に合わせた人員配置でなく負担が大きかった 13
管理者から情報を伝達してほしかった 4
上層部に伝えることをあきらめていた 4
感染可能性に不安を感じていた 何が正解かわからず怖かった 22
自分もなるかもと不安になった 12
感染防御物品がなくなる恐怖を感じた 9
不合理な指示でも従うしかなかった 8
感染に備えていた 7
感染させる恐怖を感じながらやっていた 4
やるしかないと思っていた 4
家族に心配かけたくなかった 1
無理解な他病棟の看護師が疎ましかった COVID-19を担当することの大変さが理解されていなかった 3
感染に無頓着な他病棟の看護師に怒りを感じた 2
COVID-19を担当していることで避けられた 1
COVID-19病棟にいることを知られたくなかった 1
感染のショックと不安 感染判明でショックと不安に襲われた 陽性に驚き,ショックを受けた 15
感染した時の対応を考えていなかった 7
感染時の対応を病院が決めていなかった 5
不安になった 3
危険な仕事をしていたことに気づいた 2
周りの人のことが気がかりだった 感染して申し訳ないと感じた 11
家族,子供のことを心配した 8
自分を守りたい思い 感染判明は受入れ難かった COVID-19に感染したと認めたくなかった 3
陽性が判明しなければよかった 3
感染を非難されたくなかった 自分ひとりだけ感染だったらどうしよう 7
遊んで感染したと思われたくなかった 2
1号にならなくてよかった 1
病院の対応が不満だった 病院のせいで感染した 10
上司の対応が不満だった 7
精神科チームによる一律のサポートは要らなかった 4
看護師としての使命感と患者への自責の念 なぜ感染が拡大したかを考えた 私がうつしたか?と考えた 21
感染経路を推定した 19
対応が良ければ感染拡大防げたのではと考えた 6
もっと感染予防教育をしてほしかった 5
患者の死に責任を感じた 患者の死がショックだった 1
ケアの質が下がって胸が痛んだ 感染対策でケアの質が下がってもどかしかった 3
PPEが不足してケアを控えた 2
感染判明のダメージからの立ち直り 感染症病棟への支援はありがたかった 他病棟の看護師の大変さも理解できた 1
感染患者を担当する看護師へのフォローがあった 1
病院の対応は仕方なかった 病院の対応は仕方がなかった 6
陽性者でないとわからない思いがあった 陽性者と支えあった 22
限られた人にしか話せない 13
感染はとてもしんどいことだった 4
周囲の人に心配されるのも嫌だった 3
感染判明を冷静に受け止めた 感染しても何とかなると思った 6
感染は予想でき,やっぱりなと思った 5

※COVID-19:新型コロナウイルス感染症,PPE:personal protective equipment,個人防護具

1) 未知の感染症の脅威への認識不足

このコアカテゴリには55コード,7サブカテゴリ,2カテゴリがあった.

【感染管理の組織的な活動はしていた】には,これまで《感染管理教育を受けていた》,《職業感染の意識はあった》,《COVID-19流行前は感染防御物品の不足は感じなかった》など,病院の感染管理に肯定的な思いがあった.

【COVID-19は我がことではなかった】では,《自分が感染するとは思ってなかった》や,《対策をしているので大丈夫と思っていた》,《COVID-19は怖いと思わなかった》,そして《慣れが生じた》で構成されていた.

2) 感染症病棟で働く不安と不満

このコアカテゴリには134コード,17サブカテゴリ,3カテゴリがあった.

まず,【未知の感染症に対する現場の混乱が生じた】には,〈どんどん患者が増えてきたら,個室で部屋をつくって,室外で帽子とマスクと手袋とかを替えるっていうふうに変わって(略)〉などを含む《病院の感染対策の方針が頻繁に変わった》があった.《現場の不安や不満が上層部に伝わらなかった》,《重症度に合わせた人員配置でなく負担が大きかった》,《管理者から情報を伝達してほしかった》と感じ,《上層部に伝えることをあきらめていた》語りもあった.

次いで,【感染可能性に不安を感じていた】があった.《何が正解か分からず怖かった》には,〈(病室内に置いている)聴診器にしても,みんなが(使用するのは)気持ち悪いって言っているけれど実際使っていたし.そういうのどうかなみたいなのはやっぱり未知のもの過ぎて〉などが含まれていた.また,《不合理な指示でも従うしかなかった》ために,〈(病棟に陽性患者と一般患者が混在していたため)昨日は陽性患者さんを受け持っていたのに,今日はまた一般患者さんを受け持っていたから,もし(自分が)感染していたら絶対うつすだろうなって(略)〉など《感染させる恐怖を感じながらやっていた》.更に〈患者さんが触っているかもしれない所(病室内)で防護具を脱ぐことにすごく不安はありました〉など《自分もなるかもと不安になった》や,《やるしかないと思っていた》,《感染防御物品がなくなる恐怖を感じた》 ,《感染に備えていた》など恐怖と不安を持ちながら働いていた.《家族に心配かけたくなかった》と感じながら働く看護師もいた.

【無理解な他病棟の看護師が疎ましかった】は,《感染に無頓着な他の病棟の看護師に怒りを感じた》,《COVID-19を担当することの大変さが理解されていなかった》と感じていた.1コードで構成される《COVID-19を担当していることで避けられた》は,〈(略)陽性患者を対応しているっていうだけでしたが,同じエレベーター使いたくないみたいな話をまた聞きしたり(略)〉と,《COVID-19病棟にいることを知られたくなかった》と語った.

3) 感染のショックと不安

このコアカテゴリには51コード,7サブカテゴリ,2カテゴリがあった.

【感染判明でショックと不安に襲われた】には,〈いざ自分が微熱出たってなった時にどうしたらいいかとか全然自分は知らなくて(略)〉などから構成される《感染した時の対応を考えていなかった》や,《感染時の対応を病院が決めていなかった》があった.〈全く予期していなくてまさかと思った〉など《陽性に驚き,ショックを受けた》,《危険な仕事をしていたことに気づいた》,《不安になった》などショックと不安に襲われていた.

【周りの人のことが気がかりだった】には,《家族,子供のことを心配した》,家族や同僚に《感染して申し訳ないと感じた》があった.

4) 自分を守りたい思い

このコアカテゴリには37コード,8サブカテゴリ,3カテゴリがあった.

【感染判明は受け入れ難かった】には,《COVID-19に感染したと認めたくなかった》や,〈症状ほとんどなかったし,このまま何事もなかったまま経過できて終われば,本当にコロナじゃなかったのだなって〉などから成る《陽性が判明しなければよかった》があった.

【感染を非難されたくなかった】では,《1号にならなくてよかった》や,《自分ひとりだけ感染だったらどうしよう》という思い,そして《遊んで感染したと思われたくなかった》など自分を守りたい思いがあった.

【病院の対応が不満だった】には,《上司の対応が不満だった》,《病院のせいで感染した》,そして《精神科チームによる一律のサポートはいらなかった》など病院の対応を責める思いがあった.

5) 看護師としての使命感と患者への自責の念

このコアカテゴリには57コード,7サブカテゴリ,3カテゴリがあった.

【なぜ感染が拡大したかを考えた】は,全ての看護師が《私がうつしたか?と考え(た)》,《患者の死がショックだった》と【患者の死に責任を感じ(た)】自責の念を抱えていた.《対応が良ければ感染拡大は防げたのではと考えた》,《もっと感染予防教育をして欲しかった》など病院を責める思いがある一方で,使命感として《感染経路を推定(した)》している姿があった.

【ケアの質が下がって胸が痛んだ】は,《個人防護具(personal protective equipment,以下PPE)が不足してケアを控えた》という自責の念や,《感染対策でケアの質が下がってもどかしかった》という使命感があった.

6) 感染判明のダメージからの立ち直り

このコアカテゴリには61コード,9サブカテゴリ,4カテゴリがあった.

【感染症病棟への支援はありがたかった】では,《他病棟の看護師の大変さも理解できた》と相手の気持ちを理解し,リエゾンナースに対する感謝の言葉を示す《感染患者を担当する看護師へのフォローがあった》と話した.

【病院の対応は仕方がなかった】には,〈(略)初めてコロナの患者さんがきて,多分,探り探りだなっていうのが,私達ももちろんですし,師長さんから聞く上の話もそうだったので,本当に探り探りでやっていたのだなっていうので,そこまで責める気持ちとかはないです〉などの《病院の対応は仕方がなかった》があった.

【陽性者でないと分からない思いがあった】には,〈本当の気持ちは陽性の人にしか言えなかった(略)ちゃんと聞いてくれたりやり取りしたので,自分の中では救われた〉など《陽性者と支え合った》こと,《限られた人にしか話せない》,《感染はとてもしんどいことだった》,そして《周囲の人に心配されるのも嫌だった》という思いを抱いていた.

【感染判明を冷静に受け止めた】には,《感染も予想でき,やっぱりなと思った》や《感染しても何とかなると思った》と感じていた.

Ⅴ. 考察

本調査で看護師が感染する前と感染判明後しばらくの間に抱いた思いを分析した結果,図1のプロセスを見出せた.

図1 

COVID-19に感染する前と感染判明後に抱いた思い:コアカテゴリ関連図(は因果関係,は対立概念)

1. 感染した看護師のショックと不安

感染した看護師は,感染判明でショックと不安に襲われた.そのような思いにさせた要因の一つは,感染する前の【COVID-19は我がことではなかった】思いに起因している.2020年1月に日本ではCOVID-19の1例目が発生し,徐々に感染者数の増加を認めたが,症状は風邪や季節性インフルエンザと似通っており,軽症例や無症状病原体保有者も多かった(環境感染学会,2020).実際,感染症病棟に入院してくる患者も比較的軽症者が多く,《COVID-19は怖いと思わなかった》や,《対策をしているので大丈夫と(思っていた)》感じ,院内感染が発生して自分が感染することを想定していなかったと捉えることができる.まさか自分がという思いが感染判明後のショックと不安につながった.

2つ目の要因は,【未知の感染症に対する現場の混乱が生じた】ことに起因する.2020年4月は日本で初めて緊急事態宣言が発令され,日本中が混乱している時期であった.感染症病棟へも入院患者が急増してくる一方で,《病院の感染対策の方針が頻繁に変わった》こと,未知な感染症で対策も分からず《何が正解か分からず怖かった》ことで病棟は大きく混乱していた.そして《現場の不安や不満が上層部に伝わらなかった》ことから不満やストレスを強く感じ,「院内感染」という想定外の出来事により感染判明後のショックと不安につながったと推察する.

スタッフの知りたい情報を提供することは不安の軽減につながることが強調されている(日本赤十字,2020).A病院は院内感染が発生した時は日夜全力を尽くして対応していたことは間違いない.看護師一人ひとりの不安や不満に対応できる時間や人員の確保は困難かもしれないが,病院からの時宜を得た情報提供や管理者が巡回などを行い,現場を体感し俯瞰的な視点で問題点を捉えること,そして完璧な情報でなくとも進捗状況を伝えることは重要である.

3つ目の要因は,PPEの不足があったことである.この時期は世界中でPPEが不足する事態が発生し報道でも大きく取り沙汰されていた.国内でもPPEは不足し,厚生労働省から異例とも言えるPPEの例外的な使用方法が発表された(厚生労働省,2020b).パンデミック下における医療従事者はPPEが不足し恐怖を感じながら従事しており(Muller et al., 2020),本結果からも《感染防御物品がなくなる恐怖を感じ(た)》ながら従事していたことが明らかとなった.医療現場におけるPPEは命を守る上で不可欠な物であり,不足することは決してあってはならない.感染症パンデミック時の物流・保管システムの見直しや非常時のPPE再生技術の検討などが求められている.

そして最後の要因は差別を引き起こす疾患だということである.《COVID-19を担当していることで避けられた》経験があり,病院内でも差別的な対応が少なからずあった.COVID-19に関する差別や偏見を受けた経験は医療従事者の疲労感や燃え尽き症候群と関連があることが報告されている(Ramaci et al., 2020).多くの看護師は【陽性者でないと分からない思いがあった】と感じており,差別・偏見の思いに苦しんだと推察する.感染者への差別偏見や院内感染を起こした医療機関を責める風潮があることは極めて大きな社会問題であり,本人を苦しめその後の立ち直る過程に大きく影響し得るため,解決すべき重要課題である.

2. 看護師としての使命感

感染した看護師は,院内感染の《感染経路を推定し(た)》,【なぜ感染が拡大したかを考え(た)】ていた.また,《感染防御物品がなくなる恐怖を感じ(た)》ながら,《自分もなるかもと不安に(なった)》なる恐怖の中,覚悟を持って《やるしかない(と思っていた)》と看護し続けていた.更にそのような状況でも,《感染対策でケアの質が下がってもどかしかった》と語り,看護師としての使命感を持っていた.2009年に発生した新型インフルエンザ流行の医療従事者に与えた精神的影響のアンケート調査(今井ら,2010)においても,濃厚に患者に接触した医療従事者は仕事上の負担や不安を感じ,心身が疲弊しながらも使命感を持ち勤務していたことを報告し,本研究結果と類似していた.看護師のこういった思いを汲み取り,労うことは必要なことだろう.加えて,看護師の体験を今後の再発防止に活かすことも重要である.

3. 看護師の支えになったもの

看護師は,《感染はとてもしんどいことだった》と体験を語り,陽性になったことは《限られた人にしか話せ(ない)》ず,感染が分かった時は感染のショックと不安,【感染判明は受入れ難かった】,【感染を非難されたくない】思いが交差していた.感染という辛い体験と,自分自身を守りたい思いの中,《陽性者と支え合った》.COVID-19に感染した医療従事者に聞き取りをした報告(倉持ら,2020)では,申し訳なさや自責感が強かったと述べており,本結果と同様であった.陽性者が支え合えたことは,感染判明のダメージから立ち直る手助けになっていたが,感染者が自責の念を抱くことがないように声掛けは必要である.また,陽性者で支え合えたサポートと同様のサポートが病院のシステムとして存在することが必要であろう.全く責められることなく,感染したことで感じる思いを表出できる場や人材の確保が課題である.

Ⅵ. 看護の示唆

今後,新規の感染症が流行するリスクはゼロではない.そのためには個人と組織の双方が感染症拡大の認識を高く持つこと,PPEの備蓄を含めた危機管理体制を構築すること,感染者が自責の念を抱くことがないような声掛け,陽性者と支え合えたのと同様のサポートシステムの構築,感染者が思いを表出できる場と人材の確保,そして看護師への繰り返しの感染予防教育の重要性が示唆された.病院からの時宜を得た情報提供,管理者が巡回等を行うことで現場を体感し,俯瞰的な視点で問題を捉えることも看護師の支えになると考える.

Ⅶ. 研究の限界と今後の課題

調査を実施した2020年9月は感染対策が十分に確立されておらず,メンタルサポートや危険手当など看護師を支援する体制も少ない中であった.加えて1施設のデータであることから一般化には限界がある.また,対象人数が少なく調査時期は感染5ヵ月後に実施したため,その後に後遺症の発生や健康に何らかの影響を及ぼしている可能性がある.しかし今回,感染の初期である第一波到来時にCOVID-19の院内感染で感染した看護師の体験に焦点をあてた調査を実施した.このような報告は極めて少なく,今回の未曽有の体験の語りは,感染した看護師への支援と,今後の感染症発生における感染予防教育や組織の危機管理体制の構築を考える上で大きな意義があると考える.今後は,異なった環境で院内感染した看護師の体験や,感染症対応をした看護師体験を聞き,改善につなげることが課題である.

Ⅷ. 結論

1.感染する前は,COVID-19は我がことではなかったと捉えていた.

2.入院患者の急増と未知な感染症に対して現場は混乱し,感染可能性に不安を感じていた.

3.自分が感染したことにショックと不安に襲われる中,感染判明を受け入れたくない思いと病院を責める思いがある一方で,感染を冷静に受け止め,看護師としての使命感があった.

4.感染判明のダメージからの立ち直りは他の陽性者と支え合ったことが有効だった.

謝辞:ご自身の辛い体験を話してくださった看護師の方々に心より感謝申し上げます.

利益相反:利益相反はなし.

著者資格:NS は,研究の着想から原稿執筆までの全過程を実施した.KOは,データ分析を中心に研究の全過程において助言・示唆を行った.HYは,感染予防看護学の視点から研究の全過程において助言・示唆をした.両著者は最終原稿を読み承認した.

文献
 
© 2022 Japan Academy of Nursing Science
feedback
Top