2022 Volume 42 Pages 212-221
目的:三次救急初療に従事する救急看護師の急性心筋梗塞患者に対するヒューマンケアリングを基盤とした看護実践を明らかにする.
方法:質的記述的研究デザインを用いた.救急看護師5名に対し,Watson(2012/2014)のカリタスプロセスとTorres(1986/1992)が示したWatsonの解釈モデルの5つのグループを枠組みとした半構造化面接を実施した.
結果:救急看護師のヒューマンケアリングを基盤とした看護実践は60項目抽出され,21のカテゴリに分類された.救急看護師は,【ケアリングの科学を支える哲学的基盤】によって患者を全人的に捉え,人間的尊厳を守り,最大限の【ニーズの支援】をするヒューマンケアリングを実践していた.三次救急初療の特徴から,その実践には【患者との関係構築】,【看護過程の展開】,【形而上学的アプローチ】という工夫があった.
結論:救急看護師のケアリングは,一期一会の出会いの中で信頼関係を構築しながら,全人的ニーズを満たす実践であった.
Objective: To clarify emergency department nurses’ nursing practice for critically ill patients with acute myocardial infarction (AMI) based on Jean Watson’s Theory of Human Caring (1988/1992).
Method: This research used a qualitative descriptive study design. Semi-structured interviews were conducted with five emergency department nurses. The interviews used the Caritas process of the Human Caring Theory (Watson, 2012/2014) and the five groups of Watson’s explanatory models presented by Torres (1986/1992) as a framework.
Results: Emergency department nurses’ nursing practices based on the Human Caring Theory for critically ill patients with AMI were extracted 60 codes and classified into 21 categories. It was found that the nurses approach the patients holistically with a philosophical foundation that endorses the science of caring, protects human dignity, and practices human caring to maximize support for the patient’s greatest needs. Because of the specific characteristics of care, the practice is devised to build relationships with patients, develop nursing processes, and adopt a metaphysical approach.
Conclusion: The emergency department nurses’ nursing practice based on the Human Caring theory is provided by addressing their holistic needs, including saving the patient’s life whilst building a relationship of trust.
急性病態の患者を対応する救急医療において,三次救急医療は重症患者を対象とし,患者が救急搬送されて最初に医療を受ける場が救命救急センター初期治療室(以下,三次救急初療)である.三次救急初療を受ける患者(以下,三次救急患者)も,医学と医療システムの発展により救命が可能となった一方,回復後の患者の生活の質(Quality of Life:以下,QOL)の低さが問題となっている.交通事故で致死的な身体的外傷を負い,救急医療を受けた患者の事故後1か月の精神疾患有病率はうつ病17.8%,心的外傷後ストレス障害(Post-Traumatic Stress Disorder:以下,PTSD)6.8%,部分PTSD 17.8%(松岡・西,2006)であったことが報告されている.突然生命の危機的状況に置かれた三次救急患者は発症時点から全人的苦痛を抱え,それは回復後QOLにも影響を与える.早期から回復後QOLを見据えた全人的医療が必要である.佐々木(2005)は救急初療における重症外傷患者に対する看護師の役割について,「初期治療の緊迫した場面において看護師は,様々な処置の介助や調整機能を果たしながら,同時に,適時的に患者の心に留まったままの感情を引き出し,それらに反応して欲求を満たそうと意図的に関わることが非常に重要である」と述べている.三次救急初療は患者の救命が優先される場であるが,三次救急初療に従事する看護師(以下,救急看護師)には患者を全人的に捉えた専門職の関わりが求められ,その関わりが三次救急患者の回復後QOLの改善に繋がる.
Watson(1988/1992)は,「人間的尊厳を守り,高め,維持すること」を目的としたヒューマンケアリング理論を提唱する.また,Watson(2012/2014)は人間科学の視座から「アートとサイエンスとしての看護学」を示し,ヒューマンケアリングは患者と医療従事者が相互に影響しあい大いなる調和に進む.ヒューマンケアリング理論を基盤とし,三次救急患者の回復後QOLを見据えた三次救急初療を検討すると,人間的尊厳を守られながら,安全・安楽に適切な治療・処置を受け,救命されるという三次救急患者の全人的で最善のアウトカムを患者と医療従事者が共に達成しようとする過程であるといえる.しかし,三次救急初療に関する研究を概観すると,身体的ケア,精神的ケアのいずれかに着眼し,全人的医療について言及したものは少なく,ヒューマンケアリングを基盤とした救急看護師の看護実践は明らかとなっていない.
そこで,本研究は三次救急初療における急性心筋梗塞(Acute Myocardial Infarction:以下,AMI)患者の看護に焦点をあて,ヒューマンケアリングを基盤とした救急看護師の看護実践を明らかにする.AMI患者は回復後QOLの予後が悪く,国内で約15万人/年の罹患者がいる三次救急初療を必要とする重症患者である.河村・稲垣(2015)が初回AMIという体験を患者がどのように感じ,患者の意識がどのようなプロセスをたどっていくかという体験世界を明らかにした結果,最初の局面は「生の不確かさを感じ動揺する」であった.AMI患者は三次救急初療において意識が保たれている場合が多く,激しい胸痛や死の恐怖等の全人的苦痛を抱えている.三次救急初療におけるAMI患者に対するヒューマンケアリングを基盤とした救急看護師の看護実践を明らかにすることで,三次救急初療における全人的医療への示唆が得られると考える.
三次救急初療に従事する救急看護師のAMI患者に対するヒューマンケアリングを基盤とした看護実践を明らかにすること.
ヒューマンケアリング:Watson(1988/1992)が提唱する看護の倫理道徳的理念.その目的は,「患者が不健康・苦悩・痛み・存在の意味を見出せるように手を添えることによって,人間性・人の尊厳・統合性・全体性を守り,高め,保持すること」(Watson, 2012/2014)であり,患者-看護師間で間主観的(自我だけでなく他我をも前提にして成り立つ共同化された主観性)な流れが行きかう看護である.本研究では,人間的尊厳を守られながら,安全・安楽に適切な治療・処置を受けて救命されるという,三次救急患者の全人的で最善のアウトカムを患者と医療従事者が共に達成しようとする過程とする.
看護実践:日本看護協会(2007)は,「看護実践とは,看護職が対象に働きかける行為」と述べている.本研究では,「救急看護師が三次救急患者(家族を含めて)に働きかける行為」とする.
質的記述的研究デザイン
2. 研究参加者の選定A県下の無作為に抽出した三次救急医療施設の看護管理者に研究計画を説明し,研究協力を依頼した.研究協力の承諾が得られた4施設に本研究参加者の条件に適合すると考えられる看護師の選定を依頼し,5名から研究協力を得た.研究参加者の条件は,三次救急初療に5年以上従事し,AMI患者のケアの経験を有し,クリティカルケアとヒューマンケアリングについて語れる看護師とした.Benner(2001/2005)は初心者から達人までの道のりを5段階で示した技能習得モデルであるドレイファスモデルを看護に適用し,その4段階目を「中堅レベルの実践は通常,類似の科の患者を3~5年ほどケアしてきた看護師にみられる」,5段階目を「達人の判断はよりホリスティック(全人的)なのである」と述べていることから,本研究参加者の条件を上記のように設定した.
3. データ収集および分析方法Watson(2012/2014)がヒューマンケアリングの進め方を示したカリタスプロセスの10因子とTorres(1986/1992)が示したWatsonの解釈モデルを枠組みとした半構造化面接を行った.Torres(1986/1992)は,ケア因子(カリタスプロセスの前身)の「最初の三つの要因は,科学のための哲学的基盤となるものである」「10番目の要因はかなり哲学的で,痛みや死といった生活体験の知覚という観点から人々を理解しようとするものである」と説明し,解釈モデルとしてケア因子(カリタスプロセス)10項目を5つのグループに分けている.本研究ではこの解釈モデルを参考に,【ケアリングの科学を支える哲学的基盤】【患者との関係構築】【看護過程の展開】【ニーズの支援】【形而上学的アプローチ】の5グループを形成した(表1).
解釈モデル | カリタスプロセス番号 | カリタスプロセス |
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【ケアリングの科学を支える哲学的基盤】 | 1 | 自己と他者に対する愛情-優しさ/共感と冷静さの実践 |
2 | 心を込めてそこに存在していること;自分と他者が信念体系や主観的世界をもてるようにする | |
3 | 自分自身のスピリチュアルな実践を磨く;自分を超えて真正のトランスパーソナルな存在へ | |
【患者との関係構築】 | 4 | 愛情に満ちた信頼とケアリングの関係を維持する |
5 | 感情の表出を許容する;よく耳を傾け,“その人にとっての物語を理解する” | |
7 | ケアリングという文脈での真の教育-学習;ケアを受ける人が基準とする枠組みに留まる;健康-ヒーリング-ウェルネス・コーチングモデルへと移行する | |
【看護過程の展開】 | 6 | 自己というものを使いこなし,ケアリングプロセスを通して創造的な問題解決を探る;知ること/行動すること/であることというあらゆる方法を用いる;ヒューマンケアリング-ヒーリング過程と様態というアート性に関わる |
8 | すべてのレベルでの治癒環境を創造する;エネルギー・意識・全体性・美しさ・尊厳・平安について,身体的にも非身体的にも,行き届いた環境を整える | |
【ニーズの支援】 | 9 | 敬意をこめて,丁寧に,基本的なニーズを支援する.聖なる実践として,他者の具現化された魂に触れることに,意図的なケアリング意識を持つ.他者の生命力/生命エネルギー/生命の神秘と手を携えて仕事をする |
【形而上学的アプローチ】 | 10 | 人生の苦難・死・苦しみ・痛み・喜び・生活の変化すべてについて,スピリチュアルな・神秘的な・未知で実存的な次元に心を開き,注意を払う;“奇跡はありうる”.これが知識基盤と臨床能力の前提とされる |
Watson, J. (2012)/稲岡文昭・稲岡光子・戸村道子(2014):ワトソン看護論―ヒューマンケアリングの科学(第2版),医学書院,64.Torres, G. (1986)/横尾京子・田村やよひ・高田早苗(1992):看護理論と看護過程(第1版),医学書院,207.をもとに著者作成
面接内容は各カリタスプロセスの内容について,①三次救急初療・AMI患者の特徴を踏まえてどのように捉えているか,②具体的な実践例,③その実践の上で大切にしていること,について質問した.研究参加者の同意を得て録音した面接内容は逐語録に起こし,カリタスプロセスに基づきコード化した.それらを帰納的に分析し,類似性と相違性に沿ってカテゴリを形成した.逐語録を熟読し,意味内容に沿って分析できているかを常に確認しながら進め,分析の全過程で,クリティカルケア,ヒューマンケアリングに精通する研究者と検討を重ね,分析の厳密性,結果の信憑性の確保に努めた.
4. データ収集期間2018年5月~8月
5. 倫理的配慮研究参加者に対し,研究目的と方法,研究協力・協力中断の自由,個人情報の保護等の内容を研究者が説明書を用いて口頭で説明し,書面にて同意を得た.
本研究は,日本赤十字豊田看護大学の研究倫理審査委員会の承認を得た.(承認番 号2903)
研究参加者は4施設5名であり,臨床経験年数は平均20.5年,三次救急初療経験年数は平均7.2年であった.面接は1人1回,平均77.8分であった.
2. 三次救急初療において救急看護師がAMI患者に対して実践するヒューマンケアリングを基盤とした看護実践救急看護師の語りを整理・分析した結果,救急看護師がAMI患者に対して実践するヒューマンケアリングを基盤とした看護実践は60項目抽出され,21のカテゴリを形成した(表2).解釈モデルのグループごとに結果を記す.以下,カテゴリを《 》,看護実践を[ ],研究参加者の語りを斜体,で示す.
カリタスプロセスNo. | 解釈モデル | カテゴリNo. | カテゴリ | 看護実践項目No | 救急看護師が実践するヒューマンケアリングを基盤とした看護実践 |
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1 | 【ケアリングの科学を支える哲学的基盤】 | 1 | 利他主義に価値を置いた看護実践 | 1 | 患者や家族の視点に立って関わっている |
2 | 患者にとってどのような姿が理想的なのか考えている | ||||
3 | 親切と平静さのバランスを保って患者に接している | ||||
2 | 利己主義にも価値を置いた看護実践 | 4 | 患者だけでなく,自分自身にも価値をおいて看護を実践している | ||
2 | 3 | 三次救急初療の場に全身全霊をこめて存在 | 5 | 三次救急初療という過酷な状況から逃げず,責任を持って患者と向き合っている | |
6 | 三次救急初療は一期一会であり,患者に最善を尽くすという看護師としての役割を果たすよう努めている | ||||
4 | 患者に信念と希望をもたらす存在 | 7 | 確かな情報を提供している | ||
8 | 患者に恐怖心を抱かせないように説明している | ||||
3 | 5 | 患者に対する感受性を高める | 9 | スピリチュアルな実践を磨くため,自己の看護実践を振り返り,看護を語っている | |
10 | 他者に対して敏感であるよう,患者の言葉を大切にし,目の前で起きることに注意を払っている | ||||
4 | 【患者との関係構築】 | 6 | 誠実で純粋な信頼される関わり | 11 | 患者の身体的症状を迅速に軽減し,治療効果を実感してもらっている |
12 | 高度な医療が提供できる病院(三次救急医療施設)で,最善の処置を行っていることを患者に伝えている | ||||
13 | 患者の思いに先回りして気づき,声をかけている | ||||
14 | 全力を尽くしているという姿勢を示している | ||||
15 | 患者に合ったコミュニケーション方法を適切に選択し,実践している | ||||
16 | 身だしなみを整え,看護師として相応しい外見にしている | ||||
7 | 患者の擁護者であることを示す | 17 | 患者に自分の名前を名乗り,担当者を明らかにしている | ||
18 | 患者の言葉を聞き逃さず,必ず反応している | ||||
19 | 患者の言葉を医療者や家族へ伝えている | ||||
20 | 患者の名前を呼んでいる | ||||
5 | 8 | 感情の表出を促進 | 21 | 患者の表情から感情を想像し,代弁している | |
22 | 否定的な感情(苦痛,恐怖など)を表出することを我慢しなくてよいことを伝えている | ||||
9 | 感情を受け止める | 23 | 患者の希望に応えられない場合にも,拒否するのではなく可能な限り代替案を提示している | ||
24 | 患者の苦痛な部分にタッチングしている | ||||
7 | 10 | 患者のニーズに沿った情報提供 | 31 | 医師の説明との整合性を保ちつつ,患者に予測される検査や治療を説明している | |
32 | 医師の説明を繰り返して,患者が理解しやすいよう説明している | ||||
33 | 患者の症状を軽減した上で,患者に情報を提供している | ||||
34 | 患者に不確実な情報を提供していない | ||||
35 | 現在,重症度・緊急度が高い状況であることを患者に説明している | ||||
11 | 患者の理解の確認 | 36 | 患者が疑問を持っていないか確認している | ||
6 | 【看護過程の展開】 | 12 | 患者を捉えるための学び | 25 | 日頃から,病態や治療計画に関する知識を蓄積している |
26 | 看護実践経験の積み重ねや他看護師への教育により,患者のニーズを捉える視点を身につけている | ||||
27 | 職務や倫理教育の中で倫理的価値観を養うよう努めている | ||||
13 | 科学的根拠に基づく看護実践 | 28 | 救急隊からの事前情報から来院する患者が急性心筋梗塞患者であることを予測し,患者到着前から治療計画に則って準備をしている | ||
29 | 処置をしながら患者の情報を収集している | ||||
30 | 刻々と変化する患者の状況を捉えて,ニーズを把握して優先順位を考えている | ||||
8 | 14 | 外的な治癒環境の創造 | 37 | 医療機器のアラームを適切に設定している | |
38 | 室温を調整している | ||||
39 | 処置を行うための広いスペースを確保し,検査・治療がスムーズに行える動線を整えている | ||||
40 | 患者の羞恥心への配慮を忘れず,カーテンやつい立を使用して環境を整えている | ||||
15 | トランスパーソナルな環境の創造 | 41 | 看護師自身が環境の一部であることを認識し,患者が安心できる雰囲気づくりをしている | ||
42 | 診断に集中して患者の思いを置き去りにしないようにしている | ||||
16 | ヒューマンケアリングを実践するチームの構築 | 43 | 治療に関連する部署と日頃から交流を持ち,連携がとれる体制を整えている | ||
44 | チーム全体で救命という全人的医療が実践できるための役割分担(チーム構成)ができている | ||||
45 | 患者や様々な職種を仲介している | ||||
46 | 治療に関わる医療者と対等に話し合える人間関係を構築している | ||||
9 | 【ニーズの支援】 | 17 | 生存のニーズの支援 | 47 | 患者の最大のニーズである生存のニーズを捉え,対応している |
48 | 患者の痛みや呼吸苦という身体的ニーズを捉え,対応している | ||||
49 | 医師の診断・治療が速やかに行えるよう,患者の安全と安静を保っている | ||||
18 | 精神的/社会的/スピリチュアルニーズの支援 | 50 | 患者が家族など他者との関係が保てるように援助している | ||
51 | インフォームドコンセントの上で,患者の意思を確認している | ||||
52 | 患者の「心身共に元気に戻りたい」という思いを認識している | ||||
19 | 患者家族のニーズの支援 | 53 | 患者の命の保証と今後の予測という患者家族のニーズを捉え,対応している | ||
54 | 患者家族の情報を積極的に収集している | ||||
10 | 【形而上学的アプローチ】 | 20 | 自己の存在が揺らいでいる患者を理解しようと努める | 55 | 「自分の存在が揺らぐ」という経験を受け止められていないという患者の状況を理解している |
56 | 患者は死の恐怖を感じているということを認識している | ||||
21 | 患者の存在を支えるケアをする | 57 | 目に見えないやり取りの中で,患者と相互に関係しながら看護していると実感している | ||
58 | 患者からの返答が難しい状況においても,一方的にでもコミュニケーションをとろうと努めている | ||||
59 | アイコンタクトやタッチングにより,看護師が側にいることを患者に認識できるようにしている | ||||
60 | 患者が未来を予測できないという不安を持っていることを捉え,未来が予測できるよう援助している |
カリタスプロセス1は,人間性と利他主義の価値と,心の静寂さを持って看護実践することであり,2つのカテゴリで構成された.「患者さんによくなってほしいとか笑顔が見たいとか.そのために勉強もするし,全力で治療とか手伝わさせてもらったり.」等の語りから,[患者や家族の視点に立って関わっている]という自己(看護師)よりも他者(患者)の利益を優先した《利他主義に価値を置いた看護実践》をしていた.また,「結局やったことで自分が満足するっていうのをわかってやっていると思う.」等の語りから,[患者だけでなく,自分自身にも価値をおいて看護を実践している]という《利己主義にも価値を置いた看護実践》をしていた.
カリタスプロセス2は,看護師が心をこめてそこに存在し,患者が信頼と希望を持てるように関わる看護実践であり,2つのカテゴリで構成された.「目の前にいる人にとにかくちゃんと向き合う,それが第一.逃げないというか.」等の語りから,[三次救急初療という過酷な状況から逃げず,責任を持って患者と向き合っている]と《三次救急初療の場に全身全霊をこめて存在》しており,「不確かな情報はかえって混乱をもたらしてしまうこともあると思います.」等の語りから,[確かな情報を提供している]と《患者に信念と希望をもたらす存在》であろうとする救急看護師としての職務への姿勢があった.
カリタスプロセス3は,自己(看護師)と他者(患者)に対して敏感であることであり,1つのカテゴリで構成された.「実践して,それを振り返って,みんなにたたいてもらうことかな.」等の語りから,救急看護師は[スピリチュアルな実践を磨くため,自己の看護実践を振り返り,看護を語っている]という《患者に対する感受性を高める》自己研鑽をしていた.
2) 【患者との関係構築】(カリタスプロセス4.5.7)カリタスプロセス4は,信頼に基づいたケアリング関係を築く看護実践であり,2つのカテゴリで構成された.患者が最善の治療を受けていることを体感できるよう,「今ちょっと脈乱れてるけど大丈夫だよ.機械ついてるから,不整脈が起きても薬使えるんだよとか.」等の語りから,[患者の身体的症状を迅速に軽減し,治療効果を実感してもらっている]という看護師の能力を示す《誠実で純粋な信頼される関わり》をし,「名乗って,自分がどういう人間なのか言って.」等の語りから,初対面の患者との信頼とケアリングの関係を維持するために[患者に自分の名前を名乗り,担当者を明らかにしている]という《患者の擁護者であることを示す》関わりをしていた.
カリタスプロセス5は,患者が肯定的・否定的感情全てを表現できるよう支える看護実践であり,2つのカテゴリで構成された.「痛い,怖いって言わせる.言ってもいいんだよって.パニックになってもいいしそれが普通のことだから.」等の語りから,苦痛や恐怖の感情表出が困難な患者の言葉にならない感情を汲み取るために[患者の表情から感情を想像し,代弁している]と《感情の表出を促進》し,「痛い方はさすってみたり,痛いね痛いねっていう感じで心がけてますね.」等の語りから,患者の感情に寄り添うために[患者の苦痛な部分にタッチングしている]という《感情を受け止める》関わりをしていた.
カリタスプロセス7は,ケアリングの関係性において教育-学習を行う看護実践であり,2つのカテゴリで構成された.「点滴入ってるから手を動かさないで,心電図とってるから今ちょっと我慢してねとか.」等の語りから,検査や治療が急がれる状況においても患者へ正しい情報を提供するために[医師の説明との整合性を保ちつつ,患者に予測される検査や治療を説明している]という《患者のニーズに沿った情報提供》をし,「何かわからないことありますか,は短時間でも聞いてました.」等の語りから,双方向の情報のやり取りというケアリングの文脈での教育のために[患者が疑問を持っていないか確認している]という《患者の理解の確認》をする関わりをしていた.
3) 【看護過程の展開】(カリタスプロセス6.8)カリタスプロセス6は,問題解決の方法を創造的に作りだす看護実践であり,2つのカテゴリで構成された.「医師に言われたからやったっていうことだけは避けたいと思いました.医師と同じ,病態とかは少し劣るにしても,いろいろ学習をした上でそれを理解して初めて,看護師はこれやるっていうふうに思えたらいいなってずっと思ってきた.」等の語りから,[日頃から,病態や治療計画に関する知識を蓄積している]だけでなく[看護実践経験の積み重ねや他看護師への教育により,患者のニーズを捉える視点を身につけている]という看護実践力の向上のための《患者を捉えるための学び》をしていた.そして,「本当は患者のQOLが一番の目的.その中に小さな目標がたくさんあって.身体的苦痛を取る,スピリチュアルケアをする,の幾つかの中で緊急かつ重要なのはやはりここっていう.チームでやる以上,ここをシャープ1にしていたから.」等の語りから,[刻々と変化する患者の状況を捉えて,ニーズを把握して優先順位を考えている]という《科学的根拠に基づく看護実践》をしていた.
カリタスプロセス8は,ヒーリングスペースを創造する看護実践であり,3つのカテゴリで構成された.「大きな声でしゃべらない,無駄話しないとか.アラームがむやみに鳴らないよう設定を考えてる.」等の語りから,[医療機器のアラームを適切に設定している]という患者を取り巻く《外的な治癒環境の創造》をし,「(容姿の乱れが)自信のなさの表れだったりする.その患者さんとは一期一会だから,看護師として相応しい外見にしている.」等の語りから,[看護師自身が環境の一部であることを認識し,患者が安心できる雰囲気づくりをしている]と,看護師と患者は相互に影響しあっていることを認識し,《トランスパーソナルな環境の創造》をしていた.また,「部署会議で医師も看護師もそろって.インシデント報告よりも,何かセンターで問題はないかっていう話し合いが結構ありました.」等の語りから,患者に関わる多職種も環境と捉え,[治療に関連する部署と日頃から交流を持ち,連携がとれる体制を整えている]という《ヒューマンケアリングを実践するチームの構築》をしていた.
4) 【ニーズの支援】(カリタスプロセス9)カリタスプロセス9は,患者ニーズを支援する看護実践であり,3つのカテゴリで構成された.「三次救急に来る心筋梗塞はかなり重症で緊急性の高い人なので,患者さんがどれぐらい望んでいるかはわかんないですけど,基本的には生命危機の回避が最も重要だと思います.」等の語りから,救急看護師は[患者の最大のニーズである生存のニーズを捉え,対応している]という,生命の危機に瀕する三次救急患者の《生存のニーズの支援》をしていた.また,「患者さんの不安と言ってしまうとそれまでですけど,自分の命が危ないかもっていう思いをもっていらっしゃることを,わかっておかないといけないと思ってます.」等の語りから,[患者の「心身共に元気に戻りたい」という思いを認識している]という《精神的/社会的/スピリチュアルニーズの支援》をしていた.また,「家族が求めているのは患者さんの命の保証だった.どれぐらい時間がかかるとか,カテになるとある程度の時間は予想つくから.今こういう状態で入りましたよって感じで伝えて.」等の語りから,患者のニーズを家族も踏まえて捉え,[患者の命の保証と今後の予測という患者家族のニーズを捉え,対応している]という《患者家族のニーズの支援》もしていた.
5) 【形而上学的アプローチ】(カリタスプロセス10)カリタスプロセス10は,神秘的な出来事や不可解な側面にも関心を寄せる看護実践であり,2つのカテゴリで構成された.「死の淵に一回立ったとか,否定しないほうがいいかなって経験的に思います.そういう事実もあるって受け止めることは大事かなって.」等の語りから,[患者は死の恐怖を感じているということを認識している]という患者の置かれたスピリチュアルな状況も理解しようとする《自己の存在が揺らいでいる患者を理解しようと努める》患者との向き合い方をしていた.また,「握手する,握り返す.アイコンタクトもそうだろうし,目に見えないやり取り.何となく達成感がある.その何となくっていう部分ってことでしょうね.」等の語りから,[目に見えないやり取りの中で,患者と相互に関係しながら看護していると実感している]等,自己の存在が揺らぐ《患者の存在を支えるケアをする》看護実践をしていた.
救急看護師は,自他共に尊重する人道的価値観を基盤として《利他主義に価値を置いた看護実践》,かつ,《利己主義にも価値を持った看護実践》を行っていた.また,患者に最善を尽くすため三次救急初療という過酷な場から逃げず《三次救急初療の場に全身全霊をこめて存在》し,突然心身共に危機的状況に置かれた《患者に信念と希望をもたらす存在》であろうとする救急看護師の責任や役割の自覚を持っていた.そして,自己研鑽により《患者に対する感受性を高める》よう努めていた.Watson(2012/2014)は「看護におけるヒューマンケアリングは,単なる情緒・気づかい・心構え・人のために貢献したいという願望ではない」と,専門的知識や技術,相手をケアするという強い意志が必要であると述べている.救急看護師は,患者も自身も尊重する価値観や心身を通い合わせたケアをしようとする強い意志,【ケアリングの科学を支える哲学的基盤】を持つことでヒューマンケアリングの実践を可能にしていると考える.
また,救急看護師は患者の《生存のニーズの支援》をするため,医師が速やかに診断治療を行えるよう配慮し,患者の疼痛等の身体的ニーズを捉えて対応していた.そして,「心身共に元気に戻りたい」という患者の思いを認識して《精神的/社会的/スピリチュアルニーズの支援》をし,《患者家族のニーズの支援》も患者のニーズであると捉え,患者の全人的なニーズを支援していた.大﨑・大川(2019)が人工呼吸器装着患者に対する集中治療室(ICU)看護師のケアリング行動を調査した結果,「ICU看護師は,自らの言葉で直接的に訴えることができない人工呼吸器装着患者に,常にあらゆるニーズが存在していることを認識しており,それらが意図をもった一つひとつのケアリング行動につながっている」と述べている.救急看護師も,治療が優先され,苦痛により自らの言葉でニーズを発し辛い環境にある患者の全人的ニーズを認識していた.同じクリティカルケアに従事するICU看護師と同様,患者がもつあらゆるニーズを捉え,患者のニーズを最大限に支援するヒューマンケアリングを実践していた.
救急看護師の看護実践は,一期一会の出会いの中で信頼関係を構築しながら,生存という患者の最大のニーズを含めた全人的ニーズを満たす実践であると言える.救急看護師は,【ケアリングの科学を支える哲学的基盤】により患者を全人的に捉え,人間的尊厳を守り,生存という患者の最大のニーズを踏まえて最大限の【ニーズの支援】をするヒューマンケアリングを実践していると考える.
2. 三次救急初療でヒューマンケアリングを実践する救急看護師の工夫AMIは早期再灌流療法が生命予後に大きく関与するため,迅速な対応が求められる.また,三次救急初療は重症患者が最初に医療を受ける場であり,AMI患者は経験したことのない胸痛から死の恐怖や不安が大きい.そのような三次救急初療におけるAMI患者に対するヒューマンケアリングの実践は専門性が高く,救急看護師は【患者との関係構築】,【看護過程の展開】,【形而上学的アプローチ】という工夫をしていた.
第一に,【患者との関係構築】の方法である.救急看護師は,初対面の患者との信頼とケアリングの関係を維持するために,患者の心身の状態を速やかに把握し対応するという看護師の能力を示す《誠実で純粋な信頼される関わり》や,自分が担当者であることを明らかにし,患者を名前で呼ぶ等,《患者の擁護者であることを示す》関わりをしていた.また,苦痛や恐怖の感情の表出が困難な患者の感情を汲み取るために《感情の表出を促進》し,患者の感情に寄り添うために《感情を受け止める》関わりをしていた.そして,限られた時間の中でも患者へ正しく情報を伝える《患者のニーズに沿った情報提供》だけでなく,《患者の理解の確認》をする関わりをしていた.
患者-医療従事者の関係構築は非常に重要であるが時間を要する.大﨑・大川(2019)は,ICU看護師の人工呼吸器装着患者に対する「やり取りし続け現状認識を助ける」ケアリング実践を明らかにしている.しかし,三次救急初療において救急看護師が患者と過ごす時間は限られ,時間をかけて関わり続けることは困難である.Watson(1988/1992)はヒューマンケアリングにおける間主観的な患者-看護師の関係を「トランスパーソナルなケアという関係」と呼んでいる.患者と看護師がお互いを理解しようとすることでスピリチュアルな一体感が生まれ,お互いの自己・時間・空間・生活史を超える.Watson(2012/2014)は,この関係に必要な一条件として「患者の感情や内面の状態を実感し,正確に感知できる看護師の能力」を挙げる.これは,「瞬時にさえ,患者を‘見’,スピリットとスピリットでつながろうと努力すること.行為・言葉・振る舞い・認知・ボディランゲージ・感情・思考・感覚・直観などを通して,看護師が信頼できる存在となり,心を開き,心して気を配ることで実現できる.」と,看護師の努力により患者-看護師の関係構築は瞬時に行えると考えられている.救急看護師は患者と初めて対面した際に自分の名前や看護師であることを伝え,処置をしながら声をかけ,患者の症状や思いを速やかに把握して対応することで患者からの信頼を得ようとしており,救命優先の中でタイミングや方法を工夫し,患者との関係構築の看護実践をしていた.救急看護師は,一期一会の短時間でも患者と同じ時間を共有することでトランスパーソナルケアリングの関係を構築するヒューマンケアリングを実践していたと考える.
第二に,【看護過程の展開】の方法である.救急看護師は高度な医療を迅速に患者に提供するため,日頃から病態や治療計画に関する知識を蓄積し,他看護師への教育の中から患者のニーズを捉える視点を身につけ,職務や倫理教育の中で倫理的価値観を養うという《患者を捉えるための学び》を心がけて看護実践力を向上し,《科学的根拠に基づく看護実践》に努めていた.また,患者を取り巻く三次救急初療という環境を全てのレベルで整えることがヒューマンケアリングに求められる.音・室温等を患者が不快に感じない環境整備だけでなく,患者が迅速に適切な医療を受けられるための医療従事者が動きやすい環境の創造,治療が優先される中で蔑ろにされがちな患者のプライバシーの配慮等,患者を取り巻く《外的な治癒環境の創造》をし,看護師自身も環境の一部であると認識して医療従事者として相応しい身なりや言葉遣いをし,五感を駆使して患者との信頼関係を構築しようと工夫する等,患者と看護師は相互に影響しあっていることを認識した《トランスパーソナルな環境の創造》をすることも救急看護師の役割である.そして,協働する多職種と《ヒューマンケアリングを実践するチームの構築》をするという取り組みが挙がった.創造的に問題解決の方法を作りだす看護実践のための自己研鑽が,専門性の高い三次救急初療におけるヒューマンケアリング実践を可能にしている.そして,Watson(1999/2005)は「トランスパーソナルな看護の中で,看護師はヒーリングスペースを創造するのに決定的役割を演じる必要があろう」と述べ,三次救急患者を取り巻くヒーリングスペースの創造にも救急看護師が重要な役割を果たす.救急看護師は,目に見える外的環境だけでなく,患者と医療従事者が共有するトランスパーソナルな環境も創造していると考える.また,多職種が即席のチームとして患者に関わることも三次救急初療の特徴であり,患者対応の場だけでなく,日頃から積極的にコミュニケーションをとり,急時に良好なチームダイナミクスを発揮できる環境を創造しようと工夫していた.患者と関わる時間が短い三次救急初療において救急看護師だけで全人的医療を行うことは難しく,チーム全体で全人的医療を実践するための役割分担も重要である.
第三に,【形而上学的アプローチ】である.形而上学とは存在そのものを問う学問であり,実際に見たり確かめたりすることができない事物の本質や存在を探究する.救急看護師は,突如危機的状況に置かれて死の恐怖を感じている患者のスピリチュアルな状況も理解しようとする《自己の存在が揺らいでいる患者を理解しようと努める》関わりの重要性を捉えていた.また,タッチングやアイコンタクト等の非言語コミュニケーションを活用し,患者からの反応は得られずともコミュニケーションをとるように努めることが,目に見えないやり取りの中で患者と看護師が相互に関係し,自己の存在が揺らぐ《患者の存在を支えるケアをする》ヒューマンケアリングとなっていた.Watson(2012/2014)は,「従来の科学/医学モデルに合わせた一連の行動ではなく,スピリチュアルな次元を有する,人間同士のケアリングプロセスとしての看護を打ち立てる」ために形而上学的な文脈の中に看護を置くことを提唱する.三次救急患者は死に直面しているという突然の現実を受け止められずに混乱し,苦痛や意識障害により自分の思いを発することが出来ない状況であることも多い.患者のそのような状況を理解し,積極的にその思いを感じ取ろうとする救急看護師の姿勢が三次救急初療におけるヒューマンケアリングの実践には重要である.
3. 救急看護師教育への示唆三次救急初療におけるヒューマンケアリング実践は専門性が高い.熟練看護師の思考や実践を看護教育に取り入れることで,新人看護師にも専門性の高いヒューマンケアリング実践が可能となり,救急医療の質を向上させると考える.
基礎看護教育においてもケアリング教育が重要視され,臨床現場においてはその場の特殊性を踏まえた継続的なケアリング教育が求められる.がん患者のケアを担う看護師のケアリング行動の実践に影響する要因を明らかにした重久(2012)は,「ケアリング行動の実践を促進するには,ケアリング行動の重要性を認識させ,日々の看護実践の中でケアリング行動を実践するための支援と,看護師の自律性を構成する「認知能力」,「実践能力」などに着目した教育を行う必要がある」と述べている.ケアリング行動の重要性の認識を促進するためには,ヒューマンケアリング実践の哲学的基盤を身に着ける必要がある.倫理道徳的価値観,救急看護師の責任や役割の自覚,他者に対する高い感受性は一朝一夕に習得できるものではなく,自己の看護観をチームで語り,共有できる場を定期的に設ける必要がある.この場に三次救急初療に関わる全ての職種の参加も求め,チームでヒューマンケアリングを実践するという共通認識を持ち,お互いの役割を明確にすることも重要である.そして,ヒューマンケアリングの実践には看護師としての高い自律性が不可欠であり,救急看護師も豊富な知識と熟練した技術をもって看護実践能力を磨くことが重要である.熟練看護師が患者とトランスパーソナルケアリングの関係を構築するために活用していたタイミングや方法,看護師としての立ち振る舞いを日頃の実践から見て学び,自身の日々の看護実践や他の医療従事者の実践をお互いにフィードバックし合いながら学び,身につけていく職場環境づくりも必要である.
また,重久(2012)は「ケアリングとなるかかわりのモデリングを示し,それぞれの看護師がケアリング行動の実践の成果を認識できるようにすることや何がケアリングかというケアの意味を学ぶことができるような関わりが大切である」と述べている.本研究で明らかとなった60項目の救急看護師が実践するヒューマンケアリングを基盤とした看護実践はその一助となると考える.
本研究の限界として,研究対象を特定の地域の救急看護師とした点が挙げられる.地域や個人,疾患の特殊性が現れた可能性があり,今後調査地域や対象疾患を拡大して,データの蓄積を図る必要がある.
三次救急初療に従事する救急看護師のAMI患者に対するヒューマンケアリングを基盤とした看護実践を明らかにするため,救急看護師5名に対し半構造化面接を実施した.救急看護師のAMI患者に対するヒューマンケアリングを基盤とした看護実践は60項目抽出され,21のカテゴリに分類された.救急看護師は,【ケアリングの科学を支える哲学的基盤】によって患者を全人的に捉え,人間的尊厳を守り,生存という患者の最大のニーズを踏まえて最大限の【ニーズの支援】をするヒューマンケアリングを実践していた.三次救急初療の特徴から,その実践には,【患者との関係構築】,【看護過程の展開】,【形而上学的アプローチ】という工夫があった.救急看護師がAMI患者に対して実践するケアリングは,一期一会の出会いの中で信頼関係を構築しながら,生存という患者の最大のニーズを含めた全人的ニーズを満たす実践であった.
付記:本論文の一部は,第39回日本看護科学学会学術集会にて発表した.
謝辞:本研究に快く参加して頂きました救急看護師,三次救急医療施設看護管理者様には心より御礼申し上げます.なお,本研究はJSPS科研費JP17K17455の助成を受け実施した.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:AHは研究の着想,データ収集と分析,および草稿の作成,MKはデータ分析,草稿への助言により貢献.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.