Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Hospitalization Experience of High-Risk Pregnant Women Transferred from Maternal Fetal Intensive Care Unit (MFICU) to Maternity Ward
Miki KuriyaNoriko Tabuchi
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2022 Volume 42 Pages 321-329

Details
Abstract

目的:MFICUから産科病棟に転棟したハイリスク妊婦の入院体験を明らかにする.

方法:MFICUに入室し産科病棟への転棟を経験した母親9名に半構成的面接を行ない質的記述的に分析した.

結果:MFICUから産科病棟に転棟したハイリスク妊婦の入院体験は,転棟前は【重症な状況に気持ちを整理できず気が休まらない】【カーテン越しに重症な同室妊婦を感じひっそりと過ごす】【看護スタッフに傍で見守られる安心感】【いつかくる転棟を念頭に置く】【病状改善の実感がないまま転棟に向けた感情の揺れ】【新しい環境へ身を置き順応できるかという不安】,転棟後は【看護スタッフを独占しないようにする遠慮】【MFICUと産科病棟の違いによる戸惑いと不安】【妊婦仲間の交流から生まれた仲間意識と支え合い】【看護スタッフとの信頼関係形成による気持ちの安定】で表された.

結論:MFICUから産科病棟への転棟を経験したハイリスク妊婦は,ストレスを増幅する体験をする一方で転棟を契機とし他者と関わることでの肯定的体験をしていた.

Translated Abstract

Objective: This study aimed to shed light on the hospitalization experience of high-risk pregnant women transferred from the MFICU to the maternity ward.

Method: Adopting qualitative and descriptive research design, we conducted semi-structured interviews with nine mothers admitted to the MFICU and then transferred to the maternity ward.

Results: The hospitalization experience of high-risk pregnant women transferred from the MFICU to the maternity ward before the transfer was described as follows: “unable to relax due to difficulty of sorting the mind out about the critical situation,” “perceiving critical pregnant women in the same room through the curtain and spending time quietly,” “feeling a sense of security with nursing staff watching over them by patient’s side,” “spending the time conscious of a transfer to maternity ward from MFICU that will come someday,” “emotional turmoil toward the transfer without feeling improvement in their condition,” and “anxiety about whether they can adapt to the new environment.” After being transferred to the maternity ward, their experience was expressed as follows: “refraining from monopolizing the nursing staff,” “confusion and anxiety due to the difference between the MFICU and the maternity ward,” “camaraderie and mutual support borne from interaction with fellow pregnant women,” and “stability of feelings due to the formation of trusting relationships with the nursing staff.”

Conclusion: High-risk pregnant women who transferred from the MFICU to the maternity ward had positive interaction experiences due to the transfer, despite increased stress.

Ⅰ. 緒言

母体胎児集中治療室(Maternal Fetal Intensive Care Unit:以下MFICUとする)は切迫早産,前期破水,妊娠高血圧症候群,前置胎盤,胎児発育不全や疾患をもったハイリスク妊婦の母体搬送や緊急入院が日常的にあり,3対1看護体制で高度専門的な医療を提供している.MFICUの病床数には限りがあり,母体搬送などで新たな入院の受け入れが必要な際には,ハイリスク妊婦は後方病床である一般産科病棟に転棟となる.転棟の対象は計14日間のハイリスク加算が切れた妊婦や比較的病状が安定している妊婦であり,主治医の許可により転棟する.しかしハイリスクな病状は変わらないが転棟を余儀なくされる妊婦もおり,転棟後に病状が悪化する場合もある.

ICUから外科病棟への患者の転棟体験では,転棟は突然起こり,不安や恐怖,無防備な状況だと感じている(Forsberg et al., 2011)ことが報告されているが,妊娠は子宮内で子を育み母親となる過程であり,ICU入室患者と患者特性が異なるため結果が異なる可能性がある.入院妊婦の特性として,ベッド上安静(Bed rest)の上,病院で過ごす妊婦は,ショック,心配,憂うつ,怒り,自責,孤独,気分変動といった感情を抱き(Gupton et al., 1997),妊娠が望んでいたような穏やかで喜びに満ちたものでなく,妊娠に対して自責の念や否定的な思いを抱いている(Rubarth et al., 2012)ことが明らかになっている.日本においてもMFICU入室患者はネガティブな感情尺度得点が高い(長濱ら,2007)と報告され,転棟はハイリスク妊婦にとってさらにストレスが加わる出来事だと推察される.臨床経験においてもハイリスク妊婦が転棟に戸惑う声と,一方で転棟後に他の入院妊婦と楽しそうに会話する場面もみうけられる.ハイリスク妊婦が転棟前にMFICUでどのように過ごし,転棟をどのように受け止めたのか,またその後の産科病棟での入院生活をどのように過ごしたかという入院体験全体は先行研究では明らかになっていない.

本研究では,自らの病状と胎児の健全性への不安を抱え,MFICUから産科病棟に転棟となったハイリスク妊婦の入院体験を明らかにすることを目的とした.このようなハイリスク妊婦の入院体験を明らかにすることで,看護者としてハイリスク妊婦の体験を理解し,MFICUと産科病棟双方の療養環境の改善やハイリスク妊婦のQOLを高め,精神的ケアへとつなげることで臨床看護の発展に寄与できると考えた.

Ⅱ. 研究目的

MFICUから産科病棟に転棟したハイリスク妊婦の入院体験を明らかにする.

Ⅲ. 研究方法

1. 研究デザイン

本研究は質的記述的研究を選択した.MFICUから産科病棟に転棟したハイリスク妊婦の入院体験を妊婦の日常のことばで,ありのままの体験や意味をとらえ,理解することで看護実践に還元できると考えたためこの研究手法を用いた.

2. 用語の定義

ハイリスク妊婦とは切迫早産,前置胎盤,妊娠高血圧症候群,多胎妊娠,糖尿病などの合併症妊娠や胎児異常を伴い入院管理を必要とする妊婦とした.

3. 研究協力者の選定

X県の地域周産期母子医療センターであるA病院のMFICUに入室し,妊娠経過中に産科病棟への転棟を経験した産後の母親を選定した.

4. 調査期間

2013年3月~2013年8月

5. データ収集方法

A病院の看護部長に本研究の趣旨・研究方法を説明し,研究実施の承諾を得た.その後MFICU・産科病棟の看護師長より妊娠経過中にMFICUから産科病棟に転棟を経験した妊婦が出産した際に研究者への連絡を依頼した.研究協力者には本研究の趣旨について口頭と文書にて説明し研究協力を依頼した.出産が早産であった場合は,児の状態や本人の状態を考慮し,病棟師長と相談しながら説明時期を決めた.研究協力に同意が得られた場合はその際に面接時期を決定し,面接場所はプライバシーの保たれる院内の面談室や研究協力者の自宅など研究協力者の希望する場所とした.面接は半構成的面接とし,入院理由,治療内容,転棟と聞いた際の気持ちやその時の病状,MFICUから産科病棟に環境が変わったことで思ったことや感じたことなどを研究協力者の語りを遮らず自由に語れるように問いかけた.内容は許可を得て録音した.

6. データ分析方法

分析はグレッグら(2007)Holloway & Wheeler(1996/2011)Sandelowski(2000/2013)の文献を参考にした.まず録音した語りを反復して聞き研究協力者の視点に立って体験内容を把握した.つぎに逐語録を作成し入院体験を時系列に整理した後,意味のまとまり毎に切り取りコード化した.1事例毎に分析し,次の面接内容を検討し面接を重ねた.コードの相違点,共通点を検討しながらサブカテゴリー・カテゴリー化し概念の抽象度を上げていった.分析の期間中は,継続して生成されたコードを以前のコードと絶えず相互に比較し(継続比較法),結論を導きだした.分析の過程において母性・助産学分野研究者かつ質的記述的研究者よりスーパーバイズをうけ,研究協力者2名のメンバーチェッキングによって真実性の確保に努めた.

7. 倫理的配慮

研究協力者に自由意思による参加,途中での辞退が可能でそれにより不利益は生じないことを口頭と文章にて説明し書面での同意を得た.インタビューは産後の疲労感やマタニティブルー,授乳や搾乳など時間への配慮をし,負担が最小限となるよう配慮した.得られた個人情報は,匿名性の保持に留意した.本研究は金沢大学医学倫理審査委員会の承認を受け実施した(承認番号:431).

Ⅳ. 結果

1. 研究協力施設と研究協力者の概要

X県地域周産期母子医療センターであるA病院ではMFICUと産科病棟の看護単位は独立し,MFICUは3対1看護体制の3床,産科病棟は7対1看護体制の15床であった.MFICUは クリーンルームで一角にスタッフコーナーがあり,各ベッドがカーテンで仕切られたワンフロアーであった.MFICUと産科病棟は,看護スタッフの混合配置や定期的な配置交換は行っていなかった.研究協力者は9名で初産婦8名,経産婦1名であった.年齢は平均32歳(27~41歳),MFICU入室日数は平均20日(6~50日),研究協力者のすべてが他院からの母体搬送を含む緊急入院であった.産科病棟への転棟理由は,すべてが緊急入院の受け入れによるベッドコントロールによるものであった(表1).

表1  研究協力者の概要
研究協力者 年齢 経妊経産 疾患名 MFICU入室時の妊娠週数 MFICU入室期間 入院日数(MFICU+産科病棟) 分娩週数 分娩方法 面接時期(産後日数)
A 27 1経妊0経産 切迫早産 骨盤位 30週4日 6日 46日 妊娠36週0日 帝王切開 27日
B 29 1経妊0経産 臍帯腫瘤 子宮筋腫合併 
切迫早産
25週1日 20日 98日 妊娠38週0日 帝王切開 85日
C 28 1経妊0経産 切迫早産 28週0日 37日 69日 妊娠36週6日 経膣分娩 141日
D 37 1経妊0経産 重症妊娠高血圧症候群 
胎児発育不全
30週4日 22日 35日 妊娠34週4日 帝王切開 42日
E 29 1経妊0経産 切迫早産 29週4日 14日 42日 妊娠34週4日 経膣分娩 30日
F 41 4経妊1経産 胎児不整脈 37週4日 9日 17日 妊娠38週1日 経膣分娩 82日
G 35 1経妊0経産 切迫早産 27週1日 50日 70日 妊娠37週4日 経膣分娩 30日
H 33 1経妊0経産 切迫早産 24週2日 17日 77日 妊娠34週1日 経膣分娩 63日
I 28 1経妊0経産 子宮頸管無力症 20週2日 8日 36日 妊娠24週4日 経膣分娩 63日

2. MFICUから産科病棟に転棟したハイリスク妊婦の入院体験

MFICUから産科病棟に転棟したハイリスク妊婦の入院体験は10のカテゴリ,28のサブカテゴリと185のコードで構成された.カテゴリを時系列に並び変え,MFICU入院中から転棟前,転棟後の入院体験を1)重症感漂うMFICUでの入院生活,2)突然の転棟の知らせによる守られた閉鎖的環境からの切り離し,3)MFICUと産科病棟の対比,4)他者と関わる事での肯定的体験の4つの局面に分けて示した(図1).カテゴリを【 】,サブカテゴリを《 》特に各カテゴリを象徴する語りを斜体で示した.( )内は,研究協力者を表す.

図1 

MFICUから産科病棟に転棟したハイリスク妊婦の入院体験

1) 重症感漂うMFICUでの入院生活

(1) 【重症な状況に気持ちを整理できず気が休まらない】

ハイリスク妊婦は,緊急入院となり「事が重大なことになっている」と《気が重くなり心落ち着かない》日々を過ごしていた.そしてMFICUの閉鎖的な構造や治療の一環である安静制限への圧迫感,医師や看護師による密な管理により,まさにMFICUである「ここに入るほど重症だったのか」と《特別な部屋に入る程重症な状況にある実感》が迫り来る体験であった.

《気が重くなり心落ち着かない》

MFICUにいた時は心が落ちつかない,気持ちがついてっていなかったので,そんな私悪いんかな?みたいな感じで,気持ちを整理する時間がなかった.(C)

《特別な部屋に入る程重症な状況にある実感》

日に日にあれ?私って重症? ICUって(名前が)つく.すごく厳重なところ.分からないまま車いすで入院したから,外の世界も分からなかったし,ギリギリ動いてもいいっていう感じなのかな?って思って.(H)

(2) 【カーテン越しに重症な同室妊婦を感じひっそりと過ごす】

MFICUはカーテンを開ければ同室妊婦と会話をできる環境にあった.しかしハイリスク妊婦は自分と胎児の置かれた状況に気持ちがついていかないことや,床上安静のため顔を見て話せないこと,尿道留置カテーテルが挿入されていることへの羞恥心から《気持ちの余裕がなく同室妊婦との関わりを避ける》ように過ごしていた.ハイリスク妊婦の多数が《重症な同室妊婦に話しかけてはいけない雰囲気の察し》があり,同室妊婦との交流を図れない状況にいた.

《気持ちの余裕がなく同室妊婦との関わりを避ける》

他の人と話しようとか思わなかった.自分がずっとベッドで寝ていて,どんな人がいるかもわからなかった.…しゃべる余裕がないっていうのもあるし,バルン(尿道留置カテーテル)入れて恥ずかしいってのいうのもあって.(C)

《重症な同室妊婦に話しかけてはいけない雰囲気の察し》

みんな割とカーテン閉めているし,私だけ開けてもっていうのはあった.〇〇さん(同室妊婦)もひどそうだった.カーテン越しになんとなく感じるものはありました.(カーテン越しに)何かを察するっていうのはあって.(E)

(3) 【看護スタッフに傍で見守られる安心感】

ハイリスク妊婦はMFICUの閉鎖的な構造や管理の中でMFICUの重症感を感じながらも《スタッフが傍にいてすぐに対応してもらえる事への安心感》や看護スタッフの《丁寧で親密な看護への安心感》を抱いていた.閉鎖的な空間の中でも【看護スタッフに傍で見守られる安心感】を感じていた.

《スタッフが傍にいてすぐに対応してもらえる事への安心感》

頻繁に看護師さん来てくれるし,それはそれで結構よかった.手厚くみてもらったなと思う.(E)

《丁寧で親密な看護への安心感》

バタバタしていても,気持ちの面で丁寧にしてくれているのが分かる.(G)

(4) 【いつかくる転棟を念頭に置く】

MFICUに新たに重症な患者が入院となれば,状態が落ち着いている患者から順次産科病棟へ転棟となることを事前に説明される妊婦もいたが,それらの妊婦は同室妊婦と自身の病状や安静度を比較しながら《次は自分だという転棟への心構え》をしていた.また重症な管理を必要とするMFICUに入ったものの,自身の病状を落ち着いていると捉えていた妊婦は,症状や副作用に苦しむ同室妊婦を目の当たりにし,自身がさほど苦しんでいないことから《重症な管理を必要とするMFICUにいることの申し訳なさ》を感じていた.

《次は自分だという転棟への心構え》

この部屋から次に出るのはたぶん自分だと思っていました.この中ではたぶん自分だろうって.心構えはしていました.(C)

《重症な管理を必要とするMFICUにいることの申し訳なさ》

MFICUのスタッフって,頻繁にみにきてくれるじゃないですか.私って体が楽だったので,ここにいていいのか?っていう気持ちがありましたね.(D)

2) 突然の転棟の知らせによる守られた閉鎖的環境からの切り離し

(1) 【病状改善の実感がないまま転棟に向けた感情の揺れ】

ハイリスク妊婦の転棟に向けた意識の有無に関わらず,転棟の知らせは突然医師より伝えられる.ハイリスク妊婦は転棟の知らせに「そこまで(病状が)重くなくなった….自分であんまり実感なかった感じ.」と《実感が伴わない病状の安定化の意識》を持ち,「MFICUの中で一番軽症だったのか」と《ベッドを譲らなければいけない立場の認識》を抱いていた.「MFICUからようやく出られる」と《重症感漂うMFICUから転棟できる喜び》を抱き転棟を前向きな出来事としてとらえる妊婦もいたが,「どうして重症だったはずの自分が転棟なのか」と《転棟を受け止められない困惑感》を抱き,病状改善の実感が伴わず転棟を余儀なくされる妊婦もいた.このように転棟という出来事は【病状改善の実感がないまま転棟に向けた感情の揺れ】があり,ハイリスク妊婦が自分の思っていた病状とMFICUから転棟可能だという病状をすりあわせる上で,それぞれの置かれた状況により肯定的にも否定的にも捉えうる体験であった.

《実感が伴わない病状の安定化の意識》

そこまで(病状が)重くなくなったとすごく思いました.(MFICU入室患者の)3人の中で一番軽かったんだと思った.MFICUに先に入った人よりも,私の方が先に出られるんだ.自分であんまり(病状改善の)実感なかった感じ.(A)

《ベッドを譲らなければいけない立場の認識》

子宮の頸管の長さは短かったし,点滴も減って(減量して)いなかったので,病状的にはどうだったんだろう?正直,自分が一番軽いのかな?って感じはありました.自分が一番軽いし,譲らなきゃいけない立場なんだろうな.(C)

《重症感漂うMFICUから転棟できる喜び》

お部屋から出られないよっていうのが,悪い言葉かもしれないけど,監禁とか刑務所みたいな感覚があって.でも次の病棟へ行くときは,なんか体に羽が生えたみたいな.うれしかったね.(F)

《転棟を受け止められない困惑感》

あの中(MFICU)で私が一番重病やったはずなのに.バーって,一瞬の間に(産科病棟に)運ばれていったから,何が起こったのか分からなかった.やっと慣れたのにお部屋出るって,まだ27週で,出産まで,36週まで耐えていかなきゃいけないのに「私,どこに連れて行かれる?」心の準備もできてなくて,分からない個室運ばれて.入院した時みたいに全部受け入れられなくて.また自分を責めて(流涙)(H)

(2) 【新しい環境へ身を置き順応できるかという不安】

転棟しても妊娠継続への管理が必要な病状の中,すべての妊婦に共通して《転棟後にも変わらない治療や看護を受けられるのかという不安》,《慣れ親しんだ環境や人間関係が変わる事への戸惑い》といった【新しい環境へ身を置き順応できるかという不安】を抱いていた.MFICUでの守られた環境に安心感を抱いていたハイリスク妊婦にとって,想像のつかない場所である産科病棟への転棟を告げられたことは不安を増す体験であった.

《転棟後にも変わらない治療や看護を受けられるのかという不安》

看護師さんが頻繁にきてくれたので,やっと安心していたのに.移動になると思って大丈夫かなとか,ちゃんと先生見てくれるかな?とか.(C)

《慣れ親しんだ環境や人間関係が変わることへの戸惑い》

私は正直,MFICUにいたかった.やっぱり慣れた所にいたかったし,看護師さんも優しいし.1からまた関係を築く,そこがストレスでした.(I)

3) MFICUと産科病棟の対比

(1) 【看護スタッフを独占しないようにする遠慮】

MFICUから産科病棟の個室や多床室へ転棟となったハイリスク妊婦はナースコールの音や足音など《看護スタッフの動きや音から忙しさを察した上での我慢》があった.また《こんな事で呼んでいいのかというナースコールを押す事のためらい》があり,スタッフを呼びたくてもナースコールを押せずに看護者の反応を気にしながら過ごし,ナースコールを押せない代わりに《看護スタッフに話しかける機会のうかがい》をし,看護スタッフを独占しないように遠慮しながら過ごしていた.

《看護スタッフの動きや音から忙しさを察した上での我慢》

モニター(分娩監視装置)を運ぶカラカラカラーって音とそれに合わせて看護師さんも走っているって思ったら,忙しいな,我慢できるなら,我慢すればいいわって.(H)

《こんな事で呼んでいいのかというナースコールを押す事のためらい》

こうやって(ナースコールを)握るけど,押す時にすごくためらうっていうか.(看護スタッフが)大部屋4人と個室何個か担当しとると思ったら,自分の中のモノサシとして,こんなことで呼んでいいのかなとか…やっぱ押す時ためらう.点滴痛いし,お腹はりだしとるし,あともう1個,何かそろったら(ナースコール)押していいかな?って.(H)

《看護スタッフに話しかける機会のうかがい》

他の人の用事の時に来た時に呼んでみたり,1日1回はモニター(分娩監視装置)あるから,その時に言おう!とか,点滴なくなる時に言おうとか.(C)

(2) 【MFICUと産科病棟の違いによる戸惑いと不安】

MFICUでは24時間スタッフが常駐し,頻回に状態を観察してくれることへの安心感を抱いていたハイリスク妊婦は産科病棟に移り看護スタッフが傍にいない環境となり,《自分が呼ばないと看護スタッフが傍にいない不安》を抱いていた.この不安は個室環境では同室妊婦もいないため特に強く語られていた.また《ここちよい看護ケアが継続されていないことによる戸惑い》を抱き,看護スタッフを待ちながら《自分の存在を忘れられているのではないかという不安》を感じ,《果たして転棟してよかったのかという辛苦》があった.このように,【MFICUと産科病棟の違いによる戸惑いと不安】が渦巻いていた.

《自分が呼ばないと看護スタッフが傍にいない不安》

いつもMFICUは常に誰かがいたじゃないですか.いないっていうのは,不安に思いましたね.(G)

《ここちよい看護ケアが継続されていないことによる戸惑い》

1からじゃないですか.(保清の方法や食事のセッティングなど身の回りのことを)説明して.毎回説明して.何で分からないんだろう.申し送りされてないのかなって正直思った.ほんとずっと毎回言って….(I)

《自分の存在が忘れられているのではないかという不安》

私の存在気づいてないって.もう1回ナースコール押せば良いのに,もう1回押すとクレーマーになりそうやし,もう30分待ってみようかなって.(H)

《果たして転棟してよかったのかという辛苦》

落ち着いているって思ってここに来たのに.状態悪くなって子宮のその長さ(頸管長)が短くなったのに,大丈夫なんかな?って思いましたね.私このままずっとここ(産科病棟)なのかな?大丈夫なのかな?(I)

4) 他者と関わることでの肯定的な体験

(1) 【妊婦仲間の交流から生まれた仲間意識と支え合い】

産科病棟の多床室に転棟となった妊婦は開け放たれた環境と,同室妊婦が話しかけてきたことで《周囲の明るい雰囲気と同室妊婦との打解け》と同じ状況に置かれた《同室妊婦との会話による気持ちの安定》を感じていた.また,《同室妊婦との治療経過や育児の情報交換》をすることで「未来に希望を持つ」妊婦もいた.さらに《妊婦同士の仲間意識と絆形成》に至る妊婦もおり,【妊婦仲間の交流から生まれた仲間意識と支え合い】があった.

《周囲の明るい雰囲気と同室妊婦との打解け》

廊下もみえるし,ほんと閉め切られてない感じやから,気持ち的にオープンになったっていうのはある.(E)

《同室妊婦との会話による気持ちの安定》

みんなとしゃべるようになったら,10日間心の中でわだかまり…ちょっと(気持ちが)違う所へいっていた私が,帰って来た感じがあって,みんなとお昼食べる時もわいわいわいって感じで過ごしていたら,今まで苦痛やったことが,大部屋にきてあか抜けたみたいな感じで.(H)

《同室妊婦の治療経過や育児の情報交換》

色々インターネットとかで調べたりするけど,それより人から聞く方が,真実味がある気がして.(G)

何週ころに点滴外れる,廊下に出てよくなるとか(を同室妊婦から聞き)未来に希望を持つ,今の状態がずっと続く訳じゃないっていうのを見ていて.(E)

《妊婦同士の仲間意識と絆形成》

みんな元気に自分のお腹におる子を元気に産むっていう目標は一緒だから,(診察後)何グラムあった?先生なんて言っていた?とか聞けるのが,自分1人辛いわけじゃないって思って.みんな繋がっている,もう絆できているよね!病院っていうことを忘れさせてくれる.(H)

(2) 【看護スタッフとの信頼関係形成による気持ちの安定】

ハイリスク妊婦は,日々の優しい声掛けや副作用の励ましなどの《看護スタッフの優しい気遣いによる嬉しさ》を感じ,《時間を割き話を聞きにくる看護スタッフによる支え》によって気持ちが安定していった.【看護スタッフとの信頼関係形成による気持ちの安定】は転棟先での肯定的な体験であった.

《看護スタッフの優しい気遣いによる嬉しさ》

ここのみなさんほんと優しいですよね.接してくれる時に,話し方とかもそうだし,結構気遣ってくれる.(E)

《時間を割き話を聞きにくる看護スタッフによる支え》

悩んでいることを30分でも時間かけて聞いてくれて,あ!話してもいい,聞いてくれるって思って.納得できない面とか助けてもらえたかなって.やっぱり1人じゃなかった,ここの看護師さんやったし私は頑張れたんやって.(H)

Ⅴ. 考察

1. 転棟可能な事実と改善の実感のない病状とのすりあわせ

急な母体搬送や緊急入院によって転棟せざるを得ない状況では,必ずしも本人が感じる自身の病状の安定と,転棟のタイミングが一致していなかった.ベッドコントールのため,転棟と告げられ【病状改善の実感がないまま転棟に向けた感情の揺れ】があり,妊婦は転棟可能な事実と改善の実感のない病状をすりあわせ,転棟に向けての気持ちを切り替えようとしていた.ハイリスク妊婦が自身でとらえていた病状と転棟可能だという事実をすりあわせる上で,それぞれの置かれた状況により,肯定的にも否定的にも捉えうる体験であった.Forsberg et al.(2011)は ICUからの転棟体験において,転棟に関する事前の,そして最新の情報提供の重要性を示唆している.一方で産科領域は,周手術期と違い,妊娠経過に関しての見通しは医療者としても立ちにくく,転棟を計画的かつ具体的に伝えることは難しい.さらに大月ら(2012)も述べているように,病状は妊婦が自覚できない検査データで判断されることも多く,妊婦自身にとっても見通しが立ちにくい状態にある.転棟に際しハイリスク妊婦が自らの病状を自覚しにくいという特性を理解し,転棟に際して転棟可能な自身の状態をどのように受け止めているか把握することは,転棟後のハイリスク妊婦を支援する上で重要だといえる.その上で転棟を前向きにとらえることができた妊婦には,今までの妊娠継続に関する努力を労い,転棟後の入院生活もさらに前向きに捉える事が出来るような支援が必要である.一方で転棟を受け止められず困惑している妊婦には,転棟への受け止めを確認し理解した上で,患者の思いに寄り添えるように転棟後の看護へつなげていくことが必要だと考える.

2. MFICUから産科病棟に転棟したハイリスク妊婦への看護支援のあり方

MFICUで【看護スタッフに傍で見守られる安心感】を抱き,守られた環境にいたハイリスク妊婦は転棟後に【看護スタッフを独占しないようにする遠慮】や【MFICUと産科病棟の違いによる戸惑いと不安】を抱いていた.転棟し,看護体制への変化やケア体制の変化に戸惑いながら,療養環境にスタッフが常にいないことで看護スタッフの動きも分からず,見えないことでより忙しさを感じ,不安感や孤独感を増強させていたと考えられる.

鈴木ら(2017)はMFICUから一般病棟へ転出した切迫早産妊婦が新たな集団生活に適応するまでの気持ちとして,スタッフへの気遣いを報告している.本研究での新たな知見として,ハイリスク妊婦には【看護スタッフを独占しないようにする遠慮】があり,その遠慮とは看護スタッフのみならず同室妊婦の状況までも察した遠慮であったことが明らかとなった.妊婦はMFICUでの状況と産科病棟の状況を対比させながら,ナースコールの音やスタッフの足音,スタッフの1人あたりの担当患者の数の違いを察して,産科病棟のスタッフを独占しないように,ナースコールを押すことをためらい,我慢しながら待ち続け,看護スタッフに話しかける機会をうかがうように過ごしていた.

産科病棟に転棟となったハイリスク妊婦の多くが,引き続き安静治療や注意深い観察が必要となることが多かった.そのため看護体制や環境の変化によって【看護スタッフを独占しないようにする遠慮】や【MFICUと産科病棟の違いによる戸惑いと不安】を抱き,状況を察しながら遠慮する患者心理を理解し,看護者の方からの細やかな気づかいとMFICUと産科病棟での継続支援を強化していく必要性が示唆された.具体的には,転棟に際して妊婦や胎児の身体や精神的側面に加え,保清ケアや日常的な生活への援助も統一できるようにMFICUと産科病棟の情報共有,継続看護の強化の必要性が示唆された.Klaus et al.(1985/2012)が妊娠期間中にいろいろなストレスによって母親が誰の愛も受けず支援のない状態になると,子どもを受け入れる準備が遅れたり,絆が後退してしまうと述べているように,妊娠期間は,母親となる過程で重要な期間であり,ハイリスク妊婦が「大切にされる感覚」を抱けるような継続的支援を得ることは産後の育児に向けても重要だと考える.ハイリスク妊婦が「大切にされている感覚」を抱けるよう,妊婦の訴えに耳を傾け理解してくれる存在がいることを知らせ,検温の際や訪室時の細やかな声かけが必要であると考える.

3. 転棟を契機とした同室妊婦との新たな関係性の築き

MFICUで過ごす妊婦は【重症な状況に気持ちを整理できず気が休まらない】状態にあり,自身の状況が落ち着いて同室妊婦の存在に気持ちを向ける事ができたとしても【カーテン越しに重症な同室妊婦を感じひっそりと過ごす】ことで同室妊婦の状態をも気遣って過ごしていた.MFICUでは交流の有無に関わらず,MFICU入室妊婦が同室妊婦やその児を心配し,その存在により恐怖心を緩和し,状態変化や出産への覚悟を固めていくといった肯定的側面も持ち合わせていた(林ら,2013)が,本研究の結果よりMFICUにおいて同室妊婦同士の交流が持ちにくい要因が,その重症感漂う環境にあったのではないかと推察された.

MFICUにおいて《スタッフが傍にいてすぐに対応してもらえる事への安心感》,《丁寧で親密な看護への安心感》で表されるように高度な医療や手厚い看護を提供できる環境は妊婦の安心感へとつながっていた.ICUでは患者は安全性を感じ,スタッフの近さとすぐに助けを得られる事で穏やかでいられる(Forsberg et al., 2011)ことが明らかとなっており,本研究とも共通している.他者と一から関係を築くことは不安を伴うものであり,MFICUという同じ空間で傍にいる看護スタッフのケアや精神的なサポートを得ることで,不安の対処としての精神的なニーズが満たされた状態であったため同室妊婦との交流を積極的に望まなかったのではないかとも推察された.

MFICUでは上述のとおりに交流がもちにくい環境にあったが,転棟を契機として同室妊婦との新たな関係性を築くようになっていた.転棟先の産科病棟での人間関係に不安を抱いていたが,産科病棟ではカーテンが開けられ同室妊婦同士が会話していることから明るさを感じ,《妊婦同士の仲間意識と絆形成》に至る妊婦もおり,転棟体験の肯定的側面も見いだしていた.同室妊婦は入院を肯定的に考える原動力となりうる(臼井ら,2008)と述べており,転棟後のストレスを緩和する助けになったとも考えられる.Natori & Shimada(2006)の報告では,ハイリスク妊婦は自身の正常な妊娠を望んでいた中で入院となり,胎児や自身に不安や抑制感,役割喪失感を感じながらも非病人感も持っていたと報告しており,ハイリスク妊婦にとって【妊婦仲間の交流から生まれた仲間意識と支え合い】は,自身を「非病人」として捉える事ができる時間であったと考えられ,肯定的な感情を抱いたと考えられる.またRubin(1984/1997)によると妊娠は,心理・社会的母親になること,および子どもを受け入れるための準備期間である.専門家や同じ状況を経験している他の女性,うまく乗り越えたモデルのやり方や習慣をそのまま真似たり模写したりすることは,不安な時期に妊娠の経過の予測のための指針となる.本研究においても《同室妊婦の治療経過や育児の情報交換》をし,同じ境遇に置かれた妊婦同士での入院体験を語り合うことで,妊娠期間を心理社会的により良く過ごすことができ,入院生活を肯定的に考えることができたのではないかと推察される.ハイリスク妊婦にとって入院は,妊娠を継続するためのものであると同時に,胎児を育み,母親になるための大切な期間と環境である.同室妊婦との相互作用を通してハイリスク妊婦が自身の妊婦としての正常な側面に気づき,妊婦同士が支えあえるような支援方法の検討の必要性が示唆された.

本研究では個室に転棟となった妊婦がいたが《自分が呼ばないと看護スタッフが傍にいない不安》を強く訴えていた.MFICUから個室に転棟となった妊婦は,上記のような肯定的な体験はしにくいと考えられるため,孤独感を抱かないように,患者看護師間の信頼関係の構築に努めなければならないと考える.

Ⅵ. 本研究の限界と今後の課題

本研究の研究参加者は,倫理的配慮により出産後に入院体験を振りかえる形でのインタビューであったこと,また一地域の一施設のMFICUからの転棟体験であり,一般化するには限界がある.今後は今回研究で明らかとなったことを基に具体的支援内容を探りその効果を検討していく必要がある.

Ⅶ. 結論

MFICUから産科病棟に転棟したハイリスク妊婦の入院体験は,転棟前は【重症な状況に気持ちを整理できず気が休まらない】【カーテン越しに重症な同室妊婦を感じひっそりと過ごす】【看護スタッフに傍で見守られる安心感】【いつかくる転棟を念頭に置く】【病状改善の実感がないまま転棟に向けた感情の揺れ】【新しい環境へ身を置き順応できるかという不安】で表された.転棟後は【看護スタッフを独占しないようにする遠慮】【MFICUと産科病棟の違いによる戸惑いと不安】【妊婦仲間の交流から生まれた仲間意識と支え合い】【看護スタッフとの信頼関係形成による気持ちの安定】で表された.

謝辞:今後の看護がよりよくなるようにと快く研究にご協力いただいた研究協力者の皆様には心から感謝いたします.また研究協力施設の看護部長,及び看護師長の皆様には,研究に対するご理解とご配慮を頂きましたことに,深く感謝申し上げます.そして本研究をご指導,ご助言くださいました元金沢大学 島田啓子教授,金沢大学の先生方に感謝いたします.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:MKは研究の着想から原稿執筆までの全過程を実施した.NTは研究の全過程において助言・示唆をした.両著者は最終原稿を読み,承認した.

付記:本研究は,金沢大学大学院医薬保健学総合研究科に提出した修士論文に加筆・修正を加えたものである.

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