Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Nursing Practices of Visiting Nurses for Patients Receiving Forensic Outpatient Treatment under the Medical Treatment and Supervision Act: Investigation of Nursing Practice Items using the Delphi Method
Jun OkudaYoshimi Endo
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2022 Volume 42 Pages 401-411

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Abstract

目的:医療観察法通院処遇対象者への訪問看護における看護実践項目をデルファイ法によりコンセンサスを求めて,看護実践として活用できる項目を検討する.

方法:先行研究において明らかになった再他害行為に関連した支援の困難に対する工夫,社会復帰を地域生活において支援をする困難に対する工夫など5領域における42の看護実践項目案に対して,デルファイ法による質問紙調査を2回実施した.医療観察法通院処遇対象者への訪問看護において豊富な経験があると管理者が推薦した訪問看護師54人を対象とした.

結果:第1回調査は回収数28で,7項目が表現の修正,自由意見で1項目が追加となった.第2回調査は回収数24で,1項目が削除,1項目が表現の修正となった.最終的に42の看護実践項目のコンセンサスを得ることができた.

結論:訪問看護師がコンセンサスを得た看護実践項目を活用することで,医療観察法通院処遇対象者の訪問看護における困難感を軽減できる可能性につながる.

Translated Abstract

Purpose: This study uses the Delphi method to reach consensus and investigate the items that can be used in nursing practices of visiting nurses for patients receiving forensic outpatient treatment under the Medical Treatment and Supervision Act.

Method: Two questionnaire surveys were conducted using the Delphi method for the proposed 42 nursing practice items in five areas of devising measures to address difficulties in support related to aspects such as repeated harmful behavior and social reintegration into community life, as identified in previous studies. The subjects were 54 visiting nurses who had been recommended by their managers as having extensive visiting nursing experience with patients receiving forensic outpatient treatment under the Medical Treatment and Supervision Act.

Results: In the first survey, 28 responses were collected, the expressions for seven items were revised, and one item was added based on free opinion. In the second survey, 24 responses were collected, one item was deleted, and the expression for one item was revised. Eventually, consensus was reached for the proposed 42 nursing practice items.

Conclusion: Utilizing the nursing practice items for which consensus was reached will likely alleviate the perceived difficulties of visiting nurses for patients receiving forensic outpatient treatment under the Medical Treatment and Supervision Act.

Ⅰ. 緒言

司法精神医療における心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(以下,医療観察法とする)は,医療観察法対象者(以下,対象者とする)が再他害行為を起こさずに社会復帰することを目的としている(菊池ら,2011).対象者は原則18か月の入院処遇,36か月の通院処遇を受け,医療観察法の目的を達成できるように様々な職種より支援を受ける.

通院処遇において,対象者が受ける支援では訪問看護の利用率が最も高く,訪問看護師は他職種と連携しての訪問ではなく単独支援が最も多い(永田ら,2016).このような現状にもかかわらず,訪問看護師は対象者の観察や評価,再他害防止支援,社会復帰支援,司法の処遇制度に基づいた支援,多職種連携支援に困難を抱えていることが明らかにされている(奥田,2019).

したがって,これらの困難を解消できるように訪問看護師へのサポートが必要である.訪問看護師へのサポートとなる研究として,入院患者の攻撃のリスクアセスメント(Fluttert et al., 2013)や攻撃への対処(Maguire et al., 2014),再犯防止の治療的アプローチ(Askola et al., 2017)が明らかにされているが,患者の地域生活支援に関連したものではない.また,司法精神医療において看護実践基準が開発されている(Martin et al., 2012)が,看護師の役割を示したものであり,地域支援における個別の困難に対応したものではない.そのため,医療観察法の訪問看護における困難に全て対応できない.それゆえに訪問看護師は困難に対して,不確かなまま実践を行っている現状があると考えられる.

訪問看護師が抱える困難を解消するために看護実践上の工夫が明らかにされており(Okuda & Endo, 2022),本研究では看護実践上の工夫として示された看護実践内容を専門家集団によりコンセンサスを得て妥当性を高め,医療観察法通院処遇対象者の訪問看護の看護実践項目として活用できると考えた.したがって,医療観察法通院処遇対象者の訪問看護における看護実践項目をデルファイ法により検討することを研究目的とした.

Ⅱ. 方法

1. 研究デザイン

デルファイ法による量的記述研究である.デルファイ法は同じ専門家集団(以下,パネリストとする)に質問と回答のフィードバックを複数回実施し,パネリストの考えに基づいてコンセンサスを得る方法である(Hasson et al., 2000).

2. 研究参加者とその条件

精神障害のある外来通院患者数は2017年では389.1万人(内閣府,2021),に対し,通院処遇対象者は2016年から2020年の各年において500人台から600人台で推移しており(法務省,2017, 2018, 2019, 2020, 2021),訪問看護の対象となる人数は非常に少ない.そのため,多くの人数や長期間にわたり通院処遇対象者を担当した訪問看護師は非常に限定されると考えられ,通院処遇対象者への訪問看護経験期間や担当した人数,訪問看護の回数の設定は困難と考えられた.したがって,以下の1)~3)の条件を全て満たす訪問看護師を研究参加者とし,パネリストとした.1)現在,対象者の訪問看護を担当している,もしくは担当した経験がある.2)処遇制度に関連した会議(ケア会議,多職種チーム会議)に参加した経験がある.3)施設管理者の判断で,対象者への訪問看護において豊富な経験をしているとして推薦される訪問看護師である.

3. 研究参加者のリクルート方法

パネリストから得られる評価は,その人の経験や知識に基づくためにパネリストの選択において,背景の違いのバランスをとる必要性がある(Hasson et al., 2000).経験や知識の違いは,研究参加者の所属背景に影響されると考えた.したがって,本研究では研究参加候補者を便宜的サンプリングとネットワークサンプリングの手法により訪問看護事業を展開している指定入院医療機関と訪問看護部門を有する指定入院医療機関ではない精神科病院,訪問看護ステーションを運営する医療関連企業を選択した.選択した施設の管理者に対象者の訪問看護の実施状況を尋ね,研究の趣旨を説明した.研究協力の同意を得られた施設は,指定入院医療機関が2施設,精神科病院1施設,医療関連企業が2社であった.各施設の管理者より,研究参加者の条件を満たす訪問看護師を紹介してもらい,その訪問看護師を研究参加候補者とした.

4. 調査方法

1) 看護実践項目案を評価するための質問紙の作成

Okuda & Endo(2022)は,14個の訪問看護師が抱く困難に対して看護実践上の工夫42項目を明らかにし,42項目の工夫をI.対象者に必要となる観察と評価の困難に対する工夫,II.再他害行為に関連した支援の困難に対する工夫,III.社会復帰を地域生活において支援をする困難に対する工夫,IV.処遇制度に基づいて支援をする困難に対する工夫,V.多職種連携支援体制において他職種と連携する困難に対する工夫の5領域に分類した.本研究では,これらの5領域と各領域に属する訪問看護師が抱く困難,それらの困難に対応する看護実践上の工夫を看護実践項目案として示し,質問紙として作成した.

2) 質問紙の回答方法

Masaki et al.(2017)の研究を参考に,評価内容は重要性,明瞭性,適切性のカテゴリーに分け,5段階のリッカートスケール(1=全くそう思わない~5=大変そう思う)を用いた.これらの3つの評価を行うことで,項目を削除したり,他の項目とまとめたり,項目の洗練化の必要性の判断ができる利点がある(Masaki et al., 2017).重要性は項目の必要・不必要を判断し,明瞭性は項目の表現が分かりやすいかを判断し,適切性は項目の内容が適切かどうかを判断した.4点以上の評価の場合,コンセンサスの判断基準とした.3点以下の場合,自由記述の欄に評価点の理由,項目の表現や内容を洗練化するための意見の回答を求めた.

3) 調査手順

デルファイ法は,質問紙を郵送し回答を重ねることでパネリストの回答率が低下する可能性がある(Polit & Beck, 2004/2010).先行研究(Masaki et al., 2017)では,1か月の調査期間でパネリストからの回収率の低下がなかった.したがって,本研究は質問紙調査を2020年9月から2020年10月に2回実施した.質問紙は研究参加候補者個人に直接郵送し,研究参加の同意を得られた訪問看護師から研究者に直接返送してもらった.

(1) 第1回調査

① 研究参加者の個人特性

研究参加者の個人特性として,年齢,性別,所属施設の経営母体,所属施設に指定入院医療機関の併設の有無,職位,看護師経験年数,精神科病棟勤務年数,精神科訪問看護経験年数,専門資格の有無,対象者の訪問看護を担当した人数,指定入院医療機関への勤務経験の有無についての回答を求めた.

② 質問紙による調査

第1回調査では看護実践項目案の明瞭性,適切性の評価から項目の表現の洗練化を目的とした.調査内容は以下とした.

・看護実践項目案に対する重要性,明瞭性,適切性の評価を求めた.

・3点以下には評価点の理由,内容や表現に対する意見と代替案を求めた.

・提示している看護実践項目案以外に必要な看護実践について意見を求めた.

(2) 第2回調査

第2回調査は第1回調査で洗練化された項目を含めた全ての項目の重要性,明瞭性,適切性を評価し,不必要な項目の削除と項目の表現の洗練化を目的とした.第1回調査のパネリスト全員の平均点と個別の点数をパネリストに提示した.第1回調査の結果を参考にして,第2回調査における看護実践項目案に対して重要性,明瞭性,適切性の評価を求め,3点以下の評価をした際には内容や表現に対する意見とその理由,代替案を求めた.

5. 分析方法

Masaki et al.(2017)は,Campbell et al.(2003)が推奨した回答者の80%の一致率および,項目の平均スコアに評価点の中央値をコンセンサスのカットオフスコアとすることを参考に,評価点を4あるいは5と回答したものが80%以上,かつ評価点の平均値が4.0以上とし,カットオフスコアを高い値に設定することは,より強いコンセンサスが得られたことを反映していると述べている.したがって,本研究では平均スコア4.0以上,かつ4点以上の評価をした回答者の80%以上の一致をコンセンサスの判断基準とした.

1) 第1回調査の分析方法

調査項目の各項目の評価の平均点と一致率を算出した.重要性の評価は,第1回調査では内容の洗練化を目的としたため,コンセンサスの基準が満たされなくても削除としなかった.明瞭性と適切性でコンセンサスの基準が満たされなかった場合は,自由記述の回答を参考に表現や内容の修正を行った.新たな看護実践項目案についての意見の記述があった場合は,その内容を吟味したうえで,採用・不採用の判断をした.採用の場合は第2回調査の質問紙に追加した.

2) 第2回調査の分析方法

各調査項目の評価の平均点と一致率を算出した.重要性の評価でコンセンサスの基準が満たされなかった場合は,その項目を削除した.重要性の評価で判断基準が満たされても,明瞭性と適切性の評価でコンセンサスの判断基準が満たされなかった場合は,自由記述の回答を参考に項目の表現や内容の修正を行った.

6. 倫理的配慮

研究参加候補者には,研究の目的,デルファイ法の手法の説明,調査方法の手順の説明,研究参加は自由であること,研究参加に同意をしても途中で辞退できること,研究参加に不同意であっても不利益を受けないこと,研究結果の公表時には個人が特定できないことを研究説明書にて説明し,書面で同意を得た.本研究は奈良県立医科大学医の倫理審査委員会の承認(番号:1977)を受けて実施した.

Ⅲ. 結果

1. 回収率とパネリストの特性

研究参加候補者は54名であり,第1回調査では質問紙54部を郵送し,回収数は30部,回収率は55.6%であった.無回答が1部,研究参加の同意を示すチェックボックスにチェックが無いものが1部あったため無効とし,有効回答数は28部とした.第2回調査では,第1回調査で協力を得られた28人のパネリストに質問紙を郵送した.回収数は24部,回収率は85.7%,有効回答数は24部であった.第1回調査と第2回調査のパネリストの属性を表1に示した.

表1  パネリストの概要
第1回調査n = 28 第2回調査n = 24
n % n %
年齢(歳)
30未満 3 10.7 3 12.5
30~39 5 17.9 2 8.3
40~49 12 42.9 11 45.8
50以上 8 28.6 8 33.3
性別
男性 15 53.6 12 50.0
女性 13 46.4 12 50.0
所属施設の経営母体
病院 5 17.9 5 20.8
企業 23 82.1 19 79.2
所属施設に指定入院医療機関の併設
あり 5 17.9 5 20.8
なし 23 82.1 19 79.2
職位
管理職 19 67.9 18 75.0
スタッフ 9 32.1 6 25.0
看護師経験年数(年)
10未満 7 25.0 5 20.8
10~19 9 32.1 7 29.2
20~29 8 28.6 8 33.3
30以上 4 14.3 4 16.7
精神科病棟勤務年数(年)
10未満 14 50 11 45.8
10~19 11 39.3 10 41.7
20~29 3 10.7 3 12.5
精神科訪問看護経験年数(年)
5未満 12 42.9 10 41.7
5~9 14 50 12 50.0
10~14 2 7.1 2 8.3
専門資格
精神科認定看護師 2 7.1 2 8.3
専門看護師(精神看護) 1 3.6 1 4.2
通院処遇対象者の訪問看護を担当した人数
2~3 25 89.3 21 87.5
4~5 2 7.1 2 8.3
6以上 1 3.6 1 4.2
指定入院医療機関への勤務経験
あり 4 14.3 4 16.7
なし 24 85.7 20 83.3

2. デルファイ法調査の結果

第1,2回調査のデルファイ法による調査結果を表2に示した.

表2  デルファイ法による調査結果
領域 NO. 看護実践項目案 重要性 明瞭性 適切性
平均点 一致率(%) 平均点 一致率(%) 平均点 一致率(%)
1回目 2回目 1回目 2回目 1回目 2回目 1回目 2回目 1回目 2回目 1回目 2回目
I.対象者に必要となる観察と評価の困難に対する看護実践項目  1 対象者の言葉と実際の行動との相違を観察したり,その相違を問いかけたりする 4.6 4.5 96.4 95.8 4.3 4.3 89.3 91.7 4.3 4.3 82.1 91.7
 2 看護師一人による評価だけでなく,他の専門職種を含めた支援者全ての評価を統合させる 4.8 4.8 96.4 100.0 4.5 4.5 96.4 95.8 4.7 4.6 96.4 100.0
 3 自宅では本心に基づいた言動が表出されやすいことから,自宅生活での変化をより注意深く観察・評価する 4.5 4.6 92.9 100.0 4.2 4.4 85.7 100.0 4.4 4.5 89.3 91.7
 4 対象者が看護師を信頼できると本心で語るようになると考えることから,対象者に信頼される関係性づくりに努める 4.8 4.8 100.0 100.0 4.5 4.5 92.9 91.7 4.5 4.6 92.9 95.8
 5 対象者の診断名にとらわれずに,対象者特有の症状や言動,思考,感情表出を考慮して観察をする 4.8 4.7 100.0 95.8 4.5 4.4 96.4 91.7 4.5 4.6 96.4 95.8
 6*2 病識のない対象者の場合,病気に関連した話をすると訪問看護を拒否されるため,病気には触れずに対象者特有の言動の内容や変化を評価する 3.9 4.4 82.1 95.8 3.8 4.1 75.0 87.5 3.8 4.2 78.6 87.5
 7 対象行為につながる症状による影響は生活に現れやすいことから,対象者特有の生活内容や生活の変化を観察する 4.6 4.7 100.0 100.0 4.4 4.4 100.0 100.0 4.5 4.6 100.0 100.0
*1 対象者の話で本心か判別がつかない内容には,期間(数週間から数か月)をおいて同じ内容を質問し,その回答に変化が無いかを評価する 4.5 95.8 4.4 95.8 4.3 87.5
II.再他害行為に関連した支援の困難に対する看護実践項目  8*2 他害行為やその時の症状について訪問時に聴くことを訪問看護導入前に説明し約束する 4.8 4.3 82.1 83.3 3.8 4.1 75.0 87.5 4.0 4.3 75.0 87.5
 9*2 対象行為の振り返りは,看護師に限らず,対象者に話をしやすい支援者を選択してもらい,担当者を決める 3.9 4.3 78.6 95.8 4.0 4.2 82.1 95.8 4.0 4.2 78.6 91.7
10 看護師は症状や再他害行為のリスクを評価し,その評価を伝えて,再他害行為を防止する支援者であることを理解してもらうように関わる 4.6 4.4 96.4 95.8 4.3 4.3 92.9 95.8 4.5 4.4 96.4 95.8
11 対象者が自ら対象行為について語るときをきっかけにして,対象行為の振り返りを行う 4.5 4.5 92.9 100.0 4.4 4.5 92.9 95.8 4.5 4.5 92.9 100.0
12 対象行為自体に焦点を当てず,精神症状が要因であることを理解してもらうように振り返りをする 4.3 4.3 82.1 95.8 4.3 4.2 85.7 91.7 4.3 4.2 82.1 91.7
13*3 入院処遇中に受けた内省プログラムを思い出してもらい,内省プログラムを継続するように関わる 4.1 4.3 85.7 91.7 4.2 4.2 85.7 91.7 4.1 3.9 82.1 87.5
14 対象行為の振り返りは高い頻度で行うと負担となることから,対象行為に至った時期や支援計画を見直す時期を利用する 4.4 4.3 100.0 100.0 4.3 4.3 100.0 100.0 4.4 4.2 100.0 100.0
15 他害行為への思いを直接聴くと負担になるため,段階的に核心に触れていくような聴き方をする 4.2 4.3 82.1 87.5 4.0 4.0 89.3 87.5 4.1 4.1 85.7 83.3
16*2 病識のない対象者には,疾病教育用のテキストを利用して疾病の勉強を行うとともに内省の促しを行う 3.9 4.0 75.0 83.3 4.0 4.0 82.1 91.7 3.9 4.0 71.4 87.5
17 対象者への恐怖心があるとき,訪問看護では対象者を刺激しないような環境をつくり,即座に離れられるような位置で関わるようにする 4.4 4.5 92.9 95.8 4.3 4.4 92.9 95.8 4.3 4.4 82.1 91.7
18 症状の経過や対象者の性質を理解すると対象者への恐怖心を軽減できることから,訪問看護導入前にそれらの情報を収集する 4.6 4.7 92.9 95.8 4.3 4.4 85.7 95.8 4.5 4.5 89.3 95.8
19 訪問時に対象者への恐怖心を感じたときには,看護師同士で思いを話し合い,感じた気持ちを受け止め合う 4.6 4.9 96.4 100.0 4.5 4.7 96.4 100.0 4.7 4.8 96.4 100.0
III.社会復帰を地域生活において支援をする困難に対する看護実践項目 20 入院医療機関で作成されるクライシスプランは,外泊訓練で試験的に使用してもらい,地域生活に適用できるように修正を依頼する 4.5 4.6 96.4 95.8 4.4 4.5 92.9 95.8 4.5 4.7 96.4 95.8
21 地域生活での支援内容を決めるために,入院時の外泊訓練中に地域生活で必要となる能力や問題への対処方法を評価する 4.6 4.7 100.0 95.8 4.5 4.5 96.4 95.8 4.5 4.5 96.4 95.8
22 入院医療機関からの情報や支援計画が生活支援に活用できないとき,現状の生活能力を評価して必要となる支援を計画していく 4.6 4.8 100.0 100.0 4.5 4.4 96.4 100.0 4.7 4.6 100.0 100.0
23 生活能力の向上や病状の安定に伴い,処遇実施計画の内容を段階的に対象者自身で決めていくことができるように支援をする 4.5 4.6 92.9 100.0 4.4 4.5 89.3 100.0 4.5 4.5 92.9 100.0
24 意欲を尊重した支援を導入できるように支援体制や支援内容を調整する 4.6 4.7 96.4 100.0 4.4 4.6 96.4 100.0 4.6 4.7 96.4 100.0
25*2 自宅外の生活に興味を持ってもらい活動範囲の拡大を目指した支援を行う 4.4 4.8 85.7 100.0 4.1 4.6 78.6 100.0 4.3 4.8 82.1 100.0
26 社会復帰に向けて無理な行動や疲労感の有無を振り返ることを促し,自覚してもらうように支援する 4.5 4.5 96.4 100.0 4.0 4.5 96.4 100.0 4.3 4.5 96.4 100.0
27 生活上の意欲を維持できるように,対象者を肯定し,生活を維持しようとする気持ちを認める 4.6 4.8 100.0 100.0 4.3 4.5 96.4 100.0 4.5 4.7 92.9 100.0
28 対象者の自立を妨げるような家族の場合,その関係性で成立してきた経緯があるために,対象者を含めた家族単位で支援をする 4.4 4.6 85.7 100.0 4.1 4.5 82.1 95.8 4.2 4.5 82.1 100.0
29*2 対象者の自立を妨げるような家族と対象者に軋轢がある場合,互いに伝えられなかったことを伝えられるように両者に支援をする 4.3 4.5 85.7 100.0 4.1 4.5 78.6 100.0 4.3 4.5 82.1 100.0
30*2 (家族や他者との関わり方を学ぶために)相性に関わらず多くの支援者と関わる機会を設けるようにする 4.1 3.9 82.1 83.3 4.0 3.9 82.1 87.5 3.9 3.9 78.6 83.3
31 家族や他者に伝えられないことがあった場合,伝え方をともに考えて,コミュニケーションスキルの向上を図る 4.5 4.4 100.0 100.0 4.3 4.3 92.9 100.0 4.4 4.4 96.4 100.0
IV.処遇制度に基づいて支援をする困難に対する看護実践項目 32 処遇制度について受けた説明を振り返ってもらい,自己で承諾をした経緯を思い出してもらう 4.1 4.3 85.7 91.7 4.3 4.3 89.3 91.7 4.2 4.3 85.7 91.7
33 処遇が開始されたときの思いと現状の思いとは異なると考えることから,現状への思いや処遇を受け入れられない理由を聴く 4.6 4.4 100.0 95.8 4.4 4.3 96.4 95.8 4.5 4.3 100.0 95.8
34 看護師は監視をするのではなく対象者を支える存在であり,支援者として信頼される関係づくりをする 4.9 4.8 100.0 95.8 4.7 4.8 100.0 95.8 4.8 4.8 100.0 95.8
35 状態悪化時に処遇制度では対応できない場合,他に利用できる制度を活用する 4.4 4.6 92.9 95.8 4.3 4.5 92.9 95.8 4.5 4.5 96.4 95.8
36 多職種間で役割分担がある中,看護師判断で柔軟に対応できるように対応方法を前もって決めておく 4.2 4.3 82.1 91.7 4.1 4.2 85.7 91.7 4.1 4.3 82.1 87.5
V.多職種連携支援体制において他職種と連携する困難に対する看護実践項目 37 他職種に看護師の見解が伝わるようするために,他職種の支援の基本となる考え方(専門性)をふまえた表現に変えて伝えるようにする 4.5 4.4 96.4 91.7 4.4 4.3 96.4 95.8 4.5 4.4 96.4 91.7
38 専門性の違いにより支援の視点が異なることから,他職種とは異なる視点で意見をしていることを伝わるようにする 4.4 4.3 89.3 91.7 4.3 4.2 89.3 91.7 4.3 4.2 89.3 91.7
39 看護師の意見が反対された場合,専門性により意見の相違があると考えることから,支援者間の意見の合致ができるように意見の擦り合わせをする 4.6 4.7 96.4 100.0 4.5 4.4 92.9 100.0 4.6 4.6 92.9 100.0
40 他職種との協働支援をする際,支援の方向性の統一を図るために互いの職種の支援目的を共有する 4.8 4.7 96.4 95.8 4.6 4.6 100.0 95.8 4.7 4.8 96.4 95.8
41 対象者の状態悪化時に多職種連携で早急に対応するために,各職種の役割を共通認識しておく 4.8 4.7 96.4 100.0 4.7 4.7 96.4 100.0 4.8 4.7 96.4 100.0
42 多職種間での情報共有をスムーズにするために,電子カルテ,メールシステム,パソコンアプリを活用する 4.4 4.4 92.9 95.8 4.4 4.3 89.3 95.8 4.4 4.3 85.7 95.8

*1 第1回調査の自由記述により新たに設定した項目.そのため,1回目の平均点,一致率はなし.

*2 第1回調査の自由記述の意見により表現を修正した項目

*3 第2回調査の自由記述の意見により表現を修正した項目

1) 第1回調査の結果

42の看護実践項目案のうち35項目がコンセンサスを得られた.NO. 6,8は明瞭性,適切性の評価でコンセンサスを得られなかった.NO. 25,29は明瞭性でコンセンサスを得られなかった.NO. 9,16,30は適切性でコンセンサスを得られなかった.コンセンサスを得られなかった7項目は,自由記述の意見をもとに修正をした.自由意見の主な内容と修正前と修正後の項目を表3に示した.また,最後の質問として,提示している看護実践項目案以外に必要となる看護実践を求めた.その結果,I.対象者に必要となる観察と評価の困難に対する看護実践項目案にある「通院処遇対象者の言動が本心であるかどうか,その本質を見極める難しさ」に意見があった.その意見を参考に,あらたに「対象者の話で本心か判別がつかない内容には,期間(数週間から数か月)をおいて同じ内容を質問し,その回答に変化が無いかを評価する」を作成した.

表3  第1回調査の自由記述と修正前後の看護実践項目
領域 NO. 自由記述の主な意見 修正前後の看護実践項目
I 6 直接的な言葉ではなく病気について聴くことは必要,病気については段階的に聴いていく 修正前 病識のない対象者の場合,病気に関連した話をすると訪問看護を拒否されるため,病気には触れずに対象者特有の言動の内容や変化を評価する
修正後 病識のない対象者の場合,訪問看護の導入時は病気に触れずに病歴との現状比較や特有の言動を評価し,状態に応じて段階的に触れていくようにする
II 8 症状モニタリング表を使用して症状を聴くようにする,医療観察法の目的として聴くようにする 修正前 他害行為やその時の症状について訪問時に聴くことを訪問看護導入前に説明し約束する
修正後 他害行為やその時の症状について自覚症状と関連させて聴くことは,訪問看護の目的の1つであるということを訪問看護導入前に説明する
9 対象行為の振り返りは関係性構築が必要,関係性を築くことが重要 修正前 対象行為の振り返りは,看護師に限らず,対象者に話をしやすい支援者を選択してもらい,担当者を決める
修正後 対象者と関係性を構築できない場合,対象行為の振り返りは話をしやすい専門職者を選んでもらい,振り返りの機会を設定する
16 疾病教育が必要かどうかを確認する必要がある,対象者が主体的に取り組める内容であることが必要 修正前 病識のない対象者には,疾病教育用のテキストを利用して疾病の勉強を行うとともに内省の促しを行う
修正後 病識のない対象者には疾病教育用テキストの活用で疾病教育に抵抗が少なくなる場合もあるため,主体的に取り組めるときは疾病教育を行うとともに内省を促す
III 25 自宅での安定か,活動範囲拡大を目指す時期かを見極める必要がある,具体的にどのような支援をするのかが分からない 修正前 自宅外の生活に興味を持ってもらい活動範囲の拡大を目指した支援を行う
修正後 外出意欲があるが1人で活動できない対象者には,適切な時期を見極めた上で,活動範囲の拡大を目的に同伴外出の支援を提案したり実践したりする
29 家族関係の調整が必要で対象者に利点がある場合は必要,伝えかたなのか伝えられない関係性なのかが分かりにくい 修正前 対象者の自立を妨げるような家族と対象者に軋轢がある場合,互いに伝えられなかったことを伝えられるように両者に支援をする
修正後 家族との軋轢の解消が対象者の自立促進につながる場合は,両者が伝えられなかったことの内容を整理したり,伝えるツールを提供したりする
30 段階的にしていくことが必要,多くの支援者との関わりが良いとは言えない,様々な個々の相性の違いは他者との関わりにおいて重要 修正前 (家族や他者との関わり方を学ぶために)相性に関わらず多くの支援者と関わる機会を設けるようにする
修正後 相性が合わない家族や他者との関わりを学ぶために,対象者の経過に応じて,様々な支援者と関わる機会を設け,相性の合わない人との関わりを学んでもらう

2) 第2回調査の結果

第1回調査の自由意見から新設した看護実践項目案1項目を加えて,43項目の調査をした.結果,42項目が重要性のコンセンサスを得ることができた.第2回調査結果によりパネリストによる意見の集約ができたと判断したため,42項目を必要な項目として採用した.

NO. 30は重要性でコンセンサスを得ることができなかったため削除とした.自由意見の主なものとして,「不必要な関わりで負担になる」,「支援者が多いことが良いとは限らない」があった.NO. 13は適切性のコンセンサスが得られなかったため,自由意見をもとに修正した.自由意見の主なものとして,「入院中のプログラムに陰性感情がある場合もあるので慎重に行う必要がある」,「自宅で内省プログラムを実施することが適切かを判断する」があった.修正をしたNO. 13を含めた42の看護実践項目を採用した(表4).

表4  コンセンサスが得られた看護実践項目
領域 困難の内容 看護実践項目
I.対象者に必要となる観察と評価の困難に対する看護実践項目 対象者の言動が本心であるかどうか,その本質を見極める難しさ 対象者の言葉と実際の行動との相違を観察したり,その相違を問いかけたりする
看護師一人による評価だけでなく,他の専門職種を含めた支援者全ての評価を統合させる
自宅では本心に基づいた言動が表出されやすいことから,自宅生活での変化をより注意深く観察・評価する
対象者が看護師を信頼できると本心で語るようになると考えることから,対象者に信頼される関係性づくりに努める
対象者の話で本心か判別がつかない内容には,期間(数週間から数か月)をおいて同じ内容を質問し,その回答に変化が無いかを評価する
精神科訪問看護の基本的な観察以外に必要となる観察の難しさ 対象者の診断名にとらわれずに,対象者特有の症状や言動,思考,感情表出を考慮して観察をする
病識のない対象者の場合,訪問看護の導入時は病気に触れずに病歴との現状比較や特有の言動を評価し,状態に応じて段階的に触れていくようにする
対象行為につながる症状による影響は生活に現れやすいことから,対象者特有の生活内容や生活の変化を観察する
II.再他害行為に関連した支援の困難に対する看護実践項目 起こした対象行為に対する捉え方を聴く難しさ 他害行為やその時の症状について自覚症状と関連させて聴くことは,訪問看護の目的の1つであるということを訪問看護導入前に説明する
対象者と関係性を構築できない場合,対象行為の振り返りは話をしやすい専門職者を選んでもらい,振り返りの機会を設定する
看護師は症状や再他害行為のリスクを評価し,その評価を伝えて,再他害行為を防止する支援者であることを理解してもらうように関わる
再他害行為を予防するために内省を促し,考え方を変えていく支援の難しさ 対象者が自ら対象行為について語るときをきっかけにして,対象行為の振り返りを行う
対象行為自体に焦点を当てず,精神症状が要因であることを理解してもらうように振り返りをする
入院中に受けた内省プログラムの活用が適切と判断できる対象者の場合,内省を促す手段として,内省プログラムの内容を思い出してもらうように関わる
対象行為の振り返りは高い頻度で行うと負担となることから,対象行為に至った時期や支援計画を見直す時期を利用する
他害行為への思いを直接聴くと負担になるため,段階的に核心に触れていくような聴き方をする
病識のない対象者には疾病教育用テキストの活用で疾病教育に抵抗が少なくなる場合もあるため,主体的に取り組めるときは疾病教育を行うとともに内省を促す
対象行為を起こした対象者への恐怖心により生じる関わりの難しさ 対象者への恐怖心があるとき,訪問看護では対象者を刺激しないような環境をつくり,即座に離れられるような位置で関わるようにする
症状の経過や対象者の性質を理解すると対象者への恐怖心を軽減できることから,訪問看護導入前にそれらの情報を収集する
訪問時に対象者への恐怖心を感じたときには,看護師同士で思いを話し合い,感じた気持ちを受け止め合う
III.社会復帰を地域生活において支援をする困難に対する看護実践項目 入院医療機関からの地域生活に適応しない情報や支援計画の活用の難しさ 入院医療機関で作成されるクライシスプランは,外泊訓練で試験的に使用してもらい,地域生活に適用できるように修正を依頼する
地域生活での支援内容を決めるために,入院時の外泊訓練中に地域生活で必要となる能力や問題への対処方法を評価する
入院医療機関からの情報や支援計画が生活支援に活用できないとき,現状の生活能力を評価して必要となる支援を計画していく
生活能力の向上や病状の安定に伴い,処遇実施計画の内容を段階的に対象者自身で決めていくことができるように支援をする
地域生活での自立を目指す支援提供の難しさ 意欲を尊重した支援を導入できるように支援体制や支援内容を調整する
外出意欲があるが1人で活動できない対象者には,適切な時期を見極めた上で,活動範囲の拡大を目的に同伴外出の支援を提案したり実践したりする
社会復帰に向けて無理な行動や疲労感の有無を振り返ることを促し,自覚してもらうように支援する
生活上の意欲を維持できるように,対象者を肯定し,生活を維持しようとする気持ちを認めて支援者として認められるように関わる
対象者と家族の培ってきた関わり方を変える支援の難しさ 対象者の自立を妨げるような家族の場合,その関係性で成立してきた経緯があるために,対象者を含めた家族単位で支援をする
家族との軋轢の解消が対象者の自立促進につながる場合は,両者が伝えられなかったことの内容を整理したり,伝えるツールを提供したりする
家族や他者に伝えられないことがあった場合,伝え方をともに考えて,コミュニケーションスキルの向上を図る
IV.処遇制度に基づいて支援をする困難に対する看護実践項目 処遇制度上の支援内容に理解が得られず,その支援を理解してもらう難しさ 処遇制度について受けた説明を振り返ってもらい,自己で承諾をした経緯を思い出してもらう
処遇が開始されたときの思いと現状の思いとは異なると考えることから,現状への思いや処遇を受け入れられない理由を聴く
看護師は監視をするのではなく対象者を支える存在であり,支援者として信頼される関係づくりをする
処遇実施計画では対応できない支援を提供していく難しさ 状態悪化時に処遇制度では対応できない場合,他に利用できる制度を活用する
多職種連携支援体制により役割分担があるため,訪問看護師判断による柔軟な対応の難しさ 多職種間で役割分担がある中,看護師判断で柔軟に対応できるように対応方法を前もって決めておく
V.多職種連携支援体制において他職種と連携する困難に対する看護実践項目 他職種に訪問看護師が意見することや意見を組み入れてもらう難しさ 他職種に看護師の見解が伝わるようするために,他職種の支援の基本となる考え方(専門性)をふまえた表現に変えて伝えるようにする
専門性の違いにより支援の視点が異なることから,他職種とは異なる視点で意見をしていることを伝わるようにする
看護師の意見が反対された場合,専門性により意見の相違があると考えることから,支援者間の意見の合致ができるように意見の擦り合わせをする
他職種と協働して支援を行う難しさ 他職種との協働支援をする際,支援の方向性の統一を図るために互いの職種の支援目的を共有する
対象者の状態悪化時に多職種連携で早急に対応するために,各職種の役割を共通認識しておく
多職種間で情報交換をする連携の難しさ 多職種間での情報共有をスムーズにするために,電子カルテ,メールシステム,パソコンアプリを活用する

Ⅳ. 考察

ここでは看護実践項目が属する5つの領域ごとに考察を述べる.

1. 対象者に必要となる観察と評価の困難に対する看護実践項目

対象者の言動が本心であるかどうか,その本質を見極める難しさに対して,5個の看護実践項目案全てがコンセンサスを得ることができた.患者が看護師に本心を隠すと再犯につながるリスクがある(Riordan et al., 2005).また,攻撃性の早期サインのアセスメントツールが開発されており,他者との表面的な関りの得点が高いときには攻撃性が高まっている(Fluttert et al., 2013)ことから,他害行為を防止するには対象者の本心を見極められることが訪問看護師には必要になる.しかし,日本では対象者の本心を見極める難しさがあり(奥田,2019),このアセスメントツール(Fluttert et al., 2013)では本心の見極め方までは示されていない.したがって,これらの項目は実践場面に即した具体的な実践内容を示すことができると考えられる.

2. 再他害行為に関連した支援の困難に対する看護実践項目

再他害行為を予防するために内省を促し,考え方を変えていく支援の難しさに対する看護実践項目案6個全てがコンセンサスを得ることができた.内省は患者が罪悪感を持つと怒りを抑制できるために攻撃のリスクを減少でき(Stuewig et al., 2010),患者が犯罪行為に影響を及ぼした理由に現実的な理解を深めれば再犯リスクを減少できる(Ferrito et al., 2012).しかし,これらの研究には対象者への内省の促し方までは示されていない.本研究において内省の促し方にコンセンサスを得ることができた点は,先行研究と比較して,より実践的なサポートを訪問看護師に提供できると考えられる.

しかし,内省を促すことにより犯罪に向き合うことで患者は精神症状を悪化させる可能性がある(Rask & Levander, 2001Turkington & Siddle, 2000).ただし,患者の安全を保障することで犯罪への洞察を高めることができる(Green et al., 2011).「対象行為の振り返りは高い頻度で行うと負担となることから,対象行為に至った時期や支援計画を見直す時期を利用する」について,対象行為に至った日にちの周辺は自らの内省が深化しやすい(厚生労働科学研究分担研究班,2009)ことから,内省の促しを導入しやすいタイミングを考慮していると考えられる.また,「対象行為の振り返りは高い頻度で行うと負担となることから,対象行為に至った時期や支援計画を見直す時期を利用する」や「他害行為への思いを直接聴くと負担になるため,段階的に核心に触れていくような聴き方をする」は,対象者への負担を考慮した方法であった.したがって,これらの看護実践項目案は,安全を考慮した方法と判断されたことから,コンセンサスを得ることができたと考えられる.

3. 社会復帰を地域生活において支援をする困難に対する看護実践項目

対象者の地域生活での自立を目指す支援提供の難しさに対する看護実践項目案4個全てがコンセンサスを得ることができた.4項目の中には「社会復帰に向けて無理な行動や疲労感の有無を振り返ることを促し,自覚してもらうように支援する」があった.司法精神医療の対象となる患者は社会生活における問題を過小評価する傾向にあり,患者の自立には自己の振り返りと気づきが必要であると報告されている(Carroll et al., 2004).このように,対象者に自覚を促す支援の考え方がパネリストに支持されたと考えられる.

一方,対象者と家族の培ってきた関わり方を変える支援の難しさに対して,「相性が合わない家族や他者との関わりを学ぶために,対象者の経過に応じて,様々な支援者と関わる機会を設け,相性の合わない人との関わりを学んでもらう」は第2回調査でも重要性のコンセンサスを得ることができず削除となった.パネリストから,不必要な関わりで負担になるなどの意見があった.地域で生活する精神障害者は,対人関係において健常者に気遣いや嫌悪感があると報告されている(坂井・水野,2011).パネリストは対象者も同様に支援者への気遣いや嫌悪感がある場合があると捉えていたと考え,相性の合わない他者との関わりは対象者にとって負担になると考えたと推察される.

4. 処遇制度に基づいて支援をする困難に対する看護実践項目

この領域の看護実践項目案の全てが,第1,2回調査ともに修正が無くコンセンサスを得ることができた.処遇制度に基づく支援計画には対象者が再他害行為を起こさないための計画が包含されている.看護師は公共の安全のために監視を優先する傾向にある(Coffey, 2012)が,本研究では処遇制度上の支援内容に理解が得られない対象者に対して,「看護師は監視するのではなく対象者を支える存在であり,支援者として信頼される関係づくりをする」項目があった.患者は看護師に監視されているように感じると不信感を抱くと報告されている(Riordan et al., 2005).訪問看護師が対象者に不信感を抱かれると,処遇制度に基づく支援計画を看護師が実践しても受け入れられないと考えられる.したがって,この看護実践項目案は対象者への監視に傾かないように導いていることからコンセンサスを得ることができたと考えられる.

5. 多職種連携支援体制において他職種と連携する困難に対する看護実践項目

この領域の看護実践項目案の全てが,第1回,2回調査ともに修正の必要が無くコンセンサスを得ることができた.看護実践項目案には「他職種に看護師の見解が伝わるようするために,他職種の支援の基本となる考え方(専門性)をふまえた表現に変えて伝えるようにする」や「専門性の違いにより支援の視点が異なることから,他職種とは異なる視点で意見をしていることを伝わるようにする」があった.司法精神医療の多職種チームメンバーの各専門職者は,専門性の違いによって患者に対する見解が異なることを理解していたと報告されている(Haines et al., 2018).訪問看護師が他職種の専門性を理解し,その専門性をふまえて他職種に伝える視点が考慮されていたことからコンセンサスを得ることができたと考えられる.ただし,この項目を活用するには訪問看護師は協働する専門職の専門性の理解が求められる.

Ⅴ. 研究の限界と今後の課題

本研究のパネリストは,一般精神科訪問看護の訪問看護師と比較して経験年数が十分とは言えず,デルファイ法による評価の妥当性には限界がある.これは通院処遇対象者自体が少ないことから,訪問看護を経験する機会が得られにくい現状のためであったと考える.このような限界があるとはいえ,本研究でコンセンサスの得られた看護実践項目は,困難を抱えている医療観察法通院処遇対象者への訪問看護において,活用できる看護実践項目を提示できたと考える.今後,通院処遇対象者の訪問看護経験を訪問看護師が積み重ねることによって,より妥当性の高い看護実践項目の評価が可能になると考えられる.

付記:本研究はJSPS科研費 JP20K10735の助成を受けたものである.

謝辞:本研究にご参加いただきました訪問看護師の皆様に心より感謝申し上げます.ご指導いただきました大阪大学大学院の清水安子教授,大手前大学国際看護学部の河井伸子教授に深く感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:OJは研究の着想およびデザイン,データ収集,分析,原稿の作成まで研究全体に貢献した.EYは研究のデザイン,分析,原稿への示唆に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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