Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Concept Analysis of Coordination to Be Performed by Ward Nurses in Discharge Support
Kaori UshibaTomoko HayashiKazumi Imura
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2022 Volume 42 Pages 422-428

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Abstract

目的:退院支援における病棟看護師のコーディネーションの概念がどのような文脈で用いられ,どのような特徴をもっているのかを明らかにする.

方法:英文献13文献,和文献2文献を対象にRodgersの概念分析方法を用いた.

結果:属性は【ケアにつなぐために患者の意向をくみ取る】【患者・家族・多職種の仲をとりもつ】【関係職種間で目標・情報をつなぐ】【退院後の問題解決方法を捻出する】【退院後の環境を整える】【新たなシステムを取り入れる】が抽出された.本研究結果から,本概念の定義「退院支援チームにおいて,関係者と連携・協働しながら患者の意向をくみ取りその意向に添ったケアが行えるよう,関係職種間の情報や関係性をつなぐことである.そして,退院後に向けた視点をもち問題解決方法を思案し,患者が退院後も継続的に支援を受けられる環境を整え,退院支援システムをより現状にあったものへと調節することである」を導き出した.

Translated Abstract

Objective: We aimed to clarify how the concept of coordination was implemented by ward nurses in discharge support, and its characteristics.

Methods: Thirteen English and two Japanese research papers were reviewed using Rodgers’ concept analysis method.

Results: The following attributes were identified: [understanding patients’ intentions to provide care], [helping patients/families/professionals build good relationships], [promoting the sharing of goals/information among professionals involved], [resolving post-discharge problems], [organizing post-discharge environments], and [adopting new systems]. Based on the results, the concept of coordination may be defined as: “The discharge support teams connect information and relationships among professionals involved to provide care by understanding patients’ intentions. Furthermore, discharge support teams consider resolving problems with post-discharge support perspectives, organize environments for patients to continuously receive support after discharge, and adopt the discharge support system in accordance with the current situation”.

Ⅰ. 緒言

近年,地域包括ケアシステムの推進により,この一端を担う病院においては,関係機関や専門職間の協働による統合ケアを行なうことが求められている(副田,2017).そのため,病院では入院患者が次の療養場所へとスムーズに移行できるよう,切れ目のない支援を行うことが必要になっている(牛久保ら,2017).多くの病院では,入退院支援部門をつくり,そこに専従または専任看護師(以下,入退院支援部門看護師とする)や社会福祉士を配置し,患者の退院支援に関わる多職種が集まって退院支援チームとなり,病棟看護師もチームメンバーの一員となって活動している.そして,多職種チームメンバーが連携・協働しながら,継続的な医療やケアが必要な入院患者が在宅などでの療養にスムーズに移行できるように退院支援を行っている.

ところで,病院の入退院支援チームには入退院支援部門看護師と病棟看護師という2種類の看護師が所属している.入退院支援部門看護師は入退院支援チームの要であり,チーム全体をマネジメントする役割を担っている.一方,同じ看護師という職業であることから,病棟看護師との役割の混乱が指摘されている.入退院支援部門看護師を対象とした調査(木場・齋藤,2017)では,病棟看護師は積極的に退院支援に関わり,入退院支援部門看護師と協働して活動しているという報告がある一方,病棟看護師が退院支援に協力的ではなく丸投げしてくる感じがあること(長畑ら,2018)や,他職種に任せきりにしていること(牛久保ら,2017)が報告されている.そのため,病棟看護師に退院支援を意識づけられるよう退院支援に巻き込む必要があること(湯浅ら,2019)も示されている.このことから,病棟看護師には退院支援チームの中で入退院支援部門看護師とは異なる役割があることが推測される.Stefanacci(2013)高田(2015)は,病棟看護師は患者の希望や状況を把握しやすい立場にあることから,多職種チームをコーディネーションするという役割が期待されていることを報告している.

病棟看護師には,退院支援においてコーディネーションが期待されているが,コーディネーションという用語を使用した研究はあまり行われていない.これまでの日本の病棟看護師の退院支援に関する研究では(土田ら,2013湯浅ら,2019),退院支援・調整という用語が広く使用されてきた.しかし,最近になって大原ら(2019)が,高齢者ケアに関わる急性期病院の病棟あるいは外来で働く看護師のコーディネート機能を調査し,看護師が患者と多職種の間でケア継続やシステム環境へのつなぎ役としてコーディネーションを行なっていたことを示している.大原らの研究結果から看護師のコーディネーションは,患者への支援提供時の調整だけでなく,多職種のチーム内で行われる連携の中で行われるケア支援やシステム環境に関する広義な意味で使用されていると考えられる.

米国では,退院の準備段階における看護師の役割について,患者中心のコーディネーションとして,すべての看護師の中核的なコンピテンシーであると提言され(ANA, 2012),広く使用されている用語である.よって,この用語の使用については,海外文献を含めて検討を行なうことで,退院支援における病棟看護師のコーディネーションの概念がどのような文脈で用いられ,どのような特徴をもっているのかを明らかにできるのではないかと考える.病棟看護師のコーディネーションの概念が明らかになることにより,日本の退院支援における病棟看護師に求められるコーディネーション機能を示す指標になると考えられる.

そこで,本研究は退院支援における病棟看護師のコーディネーションの概念分析を行うことを目的とする.

Ⅱ. 研究方法

1. データ収集方法

文献の選択には,‘医中誌web版’,‘CiNii’と‘CINAHL’,‘PubMed’を使用し,検索期間は,2020年までの全期間とした.英文献は「coordination」,「care coordination」および「coordination of care」のそれぞれのキーワードに「discharge」「nurse」また,「transition」「continuum」のキーワードを加え,タイトルにそれらのキーワードが入っている論文に絞り込み,重複文献を除く104件がヒットした.国内文献は,「コーディネーション」「コーディネート」「看護師」のキーワードを組み合わせ,タイトルにそれらのキーワードが入っている原著文献に絞り込み,重複文献を除く110件がヒットした.それらの文献を精読し,病棟看護師のコーディネーションに関する内容が記述されているものを選択基準とした.その結果,病棟看護師ではない訪問看護師や入退院支援部門看護師が対象となっている文献,精神や小児といった特殊な分野の文献を除外し,英文献8件,和文献1件となった.さらに,ハンドサーチングにて英文献5件,和文献1件を追加した.最終的に国内外文献合わせて15文献を分析対象とし,概念分析を行った(表1).

表1  対象文献一覧
著者名 発行年 タイトル 投稿雑誌名,巻(号),頁
ANA Congress on Nursing Practice and Economics 2012 Care Coordination and Registered Nurses’ Essential Role ANA Board of Directors, 1–9.
Boccther, P. A., BA, L. V., Bsc, B. C., et al. 2020 Healthcare professionals providing care coordination to people living with multimorbidity: An interpretative phenomenological analysis Journal Clinical Nursing, 29, 2317–2328.
Charles, L., Jensen, L., Torti, M. I. J., et al. 2020 Improving transitions from acute care to home among complex older adult using the LACE Inddex and care coordination, BMJ Open Quality, 1–6.
Gow, P., Berg, S., Smith, D., et al. 1999 Care co-ordiation improves quality-of-care at South Auckand Health Journal Quality Practice, 19, 107–110.
Haas, S., Swan, A. B., Haynes, T. 2013 Developing Ambulatory Care Registered Nurse Competencies for Care Coordination and Transition Management Nursing Economics, 31(1), 44–49.
Hajewski, C., Shirey, R. M. 2014 Care Coordination A Model for the Acute Care Hospital Setting The Journal of Nursing Administration, 44(11), 577–585.
Hoyer, H. E., Brotman, J. D., Apfel, A., et al. 2017 Improving Outcomes After Hospitalization: A Prospective Observational Multicenter Evaluation of Care Coordination Strategies for Reducing 30-Day Readmissions to Maryland Hospitals Journal of General Internal Medicine, 33(5), 621–627.
Marek, D. K., Stetzer, F., Ryan, A. P., et al. 2013 Nurse Care Coordination and Technology Effects on Health Status of Frail Elderly via Enhanced Self-management of Medication: Randomized Clinical Trial to Test Efficacy Nurs Res, 62(4), 269–278.
Mason, B., Epiphaniou, E., Nanton, V., et al. 2013 Coordination of care for individuals with advanced progressive conditions: a multi-site ethnographic and serial interview study, British Journal of General Practice, 580–588.
大原裕子,河井伸子,黒田久美子,他 2019 高齢者ケアの継続に向けた急性期病院看護師のコーディネート機能(第1報:看護師の視点から) 日本看護科学学会誌,39, 202–210.
酒井久美子 2018 大学病院で退院調整に関わる病棟看護師の退院調整能力と看護ケア能力との関連 日本医療マネジメント学会雑誌,18(4), 238–241.
Tringali, A. C., Murrhy, H. T., Osevala, M. 2008 Clinical Nurse Specialist Practice in a Care Coordination Model Clinical Nurse Spesialist, 22(5), 231–239.
Weston, M. C., Yune, S., Bass, B. E., et al. 2017 A Concise Tool for Measuring Care Coordination from the Provider’s Perspective in the Hospital Setting Journal of Hospital Medicine, 12(10), 811–817.
Wong, N., Chua, J. T. S., Gao, F., et al. 2016 The effect of a nurse-led telephone-based care coordination program on the follow-up and control of cardiovascular risk factors in patients with coronary artery disease International Journal for Quality in Health Care, 28(6), 758–763.
Yatim, F., Cristofalo, P., Ferrua1, M., et al. 2017 Analysis of nurse navigators’ activities for hospital discharge coordination: a mixedmethod study for the case of cancer patients Support Care Cancer, 25, 863–868.

2. 分析方法

Rodgers(2000)の概念分析方法を用いた.この方法は,概念を時間と状況に応じて変化する発展的なものとして捉えており,概念が持つ特性を明らかにする方法である.そのため,社会背景により変化する退院支援での病院看護師のコーディネーションの概念分析に相応しいと考えた.コーディングシートを作成し,文献ごとにコーディネーションの定義,概念を構成する「属性」,概念に先行して生じる「先行要件」,概念が生じた結果としてもたらされる「帰結」に関する記述を抽出した.抽出した内容をコード化し,カテゴリ化した.それらの結果を踏まえて,本概念の定義を構築した.分析の妥当性に関しては,概念分析の経験のある教員からスーパーバイズを受け,分析内容の検討と修正を行った.

Ⅲ. 結果

分析対象となった15文献から得られた「退院支援における病棟看護師のコーディネーション」は,6つの属性,3つの先行要件,3つの帰結から構成された(図1).なお,コアカテゴリ《 》,カテゴリ【 】,下位カテゴリ[ ],コードは〈 〉で示した.

図1 

退院支援における病棟看護師のコーディネーションの概念モデル

1. 属性(表2

属性として6カテゴリから3コアカテゴリ《退院支援に向け関係者間をつなぐ》《力を合わせ最良の退院支援を病院内外関係者で整える》《関係職種で新たな退院支援システムを調節する》が抽出された.

表2  退院支援における病棟看護師のコーディネーションの属性
カテゴリー サブカテゴリー 文献
ケアにつなぐために患者の意向をくみ取る 患者の望みを察する Haas et al.(2013);大原ら(2019)
患者の意向を反映する Hoyer et al.(2017);Weston et al.(2017);Hajewski et al.(2014);Haas et al.(2013)
患者の自己管理の継続を支える Hoyer et al.(2017);Haas et al.(2013);Boccther et al.(2020)
患者・家族・多職種の仲をとりもつ 多職種が連携し繋がる Weston et al.(2017);Haas et al.(2013)
患者・家族と多職種が繋がる Weston et al.(2017)
関係職種間で目標・情報をつなぐ 関係者間の情報のやりとり Hajewski et al.(2014);Mason et al.(2013);Haas et al.(2013);Gow et al.(1999)
患者,専門職への情報伝達・提供 Weston et al.(2017);Yatim et al.(2017);酒井(2018);27;大原ら(2019);Gow et al.(1999)
退院後の問題解決方法を捻出する 患者・家族に退院に必要な方法を提案,提供する Hoyer et al.(2017);Weston et al.(2017);Yatim et al.(2017);Marek et al.(2013);Haas et al.(2013)
退院後に予測される問題について対策を考える 酒井(2018);大原ら(2019);Gow et al.(1999)
退院後の環境を整える 移行の促進を手助けする Yatim et al.(2017);Wong et al.(2016);Haas et al.(2013);Gow et al.(1999)
プライマリーへの情報の引き継ぎを行う Hoyer et al.(2017);Gow et al.(1999)
資源へリンクする Hoyer et al.(2017);酒井(2018);Haas et al.(2013);大原ら(2019)
患者・家族とフォローアップについて話合う Hoyer et al.(2017);Wong et al.(2016)
患者・家族のモニタリングを継続する Yatim et al.(2017);Wong et al.(2016);Marek et al.(2013);Haas et al.(2013)
新たなシステムを取り入れる 新たなシステムを取り入れる Haas et al.(2013);大原ら(2019)

1) 退院支援に向け関係者間をつなぐ

《退院支援に向け関係者間をつなぐ》は,【ケアにつなぐために患者の意向をくみ取る】【患者・家族・多職種の仲をとりもつ】【関係職種間で目標・情報をつなぐ】の3つのカテゴリから構成される.このコアカテゴリは,患者への退院支援に向けて招集した患者,家族,他の職種がチームとして活動できるように,病棟看護師が,間に入って関係者間に情報をつなぎ,さらに互いの関係性を深めている.これは,病棟看護師がコーディネーションを用いてチームとして活動できるように退院支援に関わる関係者の関係性をつないでいることを示している.

【ケアにつなぐために患者の意向をくみ取る】は,[患者の望みを察する][患者の意向を反映する][患者の自己管理の継続を支える]の3つのサブカテゴリから構成され,患者の思いを患者との相互のやりとりを通して察知し,多職種とのケア支援につなげていくために患者の意向をくみ取ることを示している.【患者・家族・多職種の仲をとりもつ】は,[多職種が連携し繋がる][患者・家族と多職種が繋がる]の2つのサブカテゴリから構成され,患者の退院支援に関わる関係職種が一つのチームとして成り立つよう互いの間の関係をよくすることを示している.【関係職種間で目標・情報をつなぐ】は,[関係者間の情報のやりとり][患者,専門職への情報伝達・提供]の2つのサブカテゴリから構成され,退院支援における関係者の間でチームとして目標を共有できるよう互いの情報を結びつけることを示している.

2) 力を合わせ最良の退院支援を病院内外関係者で整える

《力を合わせ最良の退院支援を病院内外関係者で整える》は,【退院後の問題解決方法を捻出する】【退院後の環境を整える】の2つのカテゴリから構成される.このコアカテゴリでは,患者・家族,多職種が一つのチームとして,退院後の生活で生じうる問題解決や環境を整えるために,チームが行なえる最良の支援を整えていくための病棟看護師のコーディネーションを示している.

【退院後の問題解決方法を捻出する】は,[患者・家族に退院に必要な方法を提案,提供する][退院後に予測される問題について対策を考える]の2つから構成され,退院に向けて予測できる課題に対してチームメンバーの関係職種が解決方法を持ち寄り,より良い解決方法を思案することを示している.【退院後の環境を整える】は[移行の促進を手助けする][プライマリーへの情報の引き継ぎを行う][資源へリンクする][患者・家族とフォローアップについて話し合う][患者・家族のモニタリングを継続する]の5つから構成されている.ここでは,退院後を予測し,患者・家族が自宅で療養継続するために必要となる社会資源や,フォローアップに適した環境になるよう多職種のチームメンバーを調節することを示している.

3) 関係職種で新たな退院支援システムを調節する

《関係職種で新たな退院支援システムを調節する》は,【新たなシステムを取り入れる】の1つが含まれ,それは[新たなシステムを取り入れる]の1つサブカテゴリから構成される.このコアカテゴリは,退院支援を終えた院内外の多職種が支援を振り返り,既存の退院支援システムに縛られずに課題を抽出することで,現状に合ったシステムへと調節していくための病棟看護師のコーディネーションを示している.[新たなシステムを取り入れる]には,〈適切なコンテンツの開発と使用(Haas et al., 2013)〉〈伝達をスムーズにするための手段やルートの構築(大原ら,2019)〉という新しい方策が示されていた.

4) 「属性」の段階

属性では,【ケアにつなぐために患者の意向をくみ取る】【患者・家族・多職種の仲をとりもつ】【関係職種間で目標・情報をつなぐ】というチームとして成立していくよう準備をしている《退院支援に向け関係者間をつなぐ》から,退院後の予測した視点を持ちチーム内で【退院後の問題解決方法を捻出する】,病院外の退院後の関係者をつなぎ【退院後の環境を整える】という患者への支援を行う《力を合わせ最良の退院支援を病院内外関係者で整える》ことが含まれていた.そして,チーム活動後に組織の既存の退院支援システムをさらに活動しやすいものへと変えようと【新たなシステムを取り入れる】という《関係職種で新たな退院支援システムを調節する》へと発展することが含まれていた.

2. 先行要件

先行要件として3カテゴリ【複雑な状況下で問題を有する患者の退院場面】【多職種と共に介入する場面】【サービス提供者間の情報交換・情報共有ができていない状況】を抽出した.

【複雑な状況下で問題を有する患者の退院支援場面】は,[病態的に複雑な患者に介入する],[臨床状態・社会的状況の複雑さを持つ対象が介護を必要とする][自己管理に問題のある患者を対象]から構成された.病態や社会的に複雑な状況をもつ患者の退院支援場面が先行要件として示された.【多職種と共に介入する場面】は,[多職種と共に介入を行う]から構成され,退院支援において看護師だけではなく多くの職種が介入する場面が先行要件として示された.【サービス提供者間の情報交換・情報共有ができていない状況】は,[サービス提供者間の情報交換に問題が生じている][専門職種間で情報共有に一貫性がない]から構成され,退院支援に関わる関係職種間の中で情報交換や情報共有が上手くいっていない状況下が先行要件として示された.

3. 帰結

帰結として3カテゴリ【在宅療養継続につながる効果】【患者の健康面への効果】【看護ケア能力の向上】を抽出した.

【在宅療養継続につながる効果】 は,[再入院率低下][入院期間短縮]から構成され,病院での治療よりも,住み慣れた自宅での療養生活を送ることができるといった結果が帰結として示された.【患者の健康面への効果】は,[健康状態改善]から構成され,患者の健康状態がより良い方向へと向かう結果が帰結として示された.【看護ケア能力の向上】は,[看護ケア能力の向上]から構成され,看護師の患者への看護ケア実践能力を高める結果が帰結として示された.

Ⅳ. 考察

1. 退院支援における病棟看護師のコーディネーションの構造

本研究では,属性として6つのカテゴリが抽出された.これらの属性から,退院支援における病棟看護師のコーディネーションの概念は,3つのコアカテゴリ《退院支援に向け関係者間をつなぐ》《力を合わせ最良の退院支援を病院内外関係者で整える》《関係職種で新たな退院支援システムを調節する》があることが示された.

まず,【ケアにつなぐために患者の意向をくみ取る】【関係者間で目標・情報をつなぐ】【患者・家族・多職種の仲をとりもつ】の3つのカテゴリは《退院支援に向け関係者間をつなぐ》というコーディネーションを示していた.これは,病棟看護師がバラバラな存在であった患者・家族や医療職をチームとして機能させていくための準備段階を示し,病棟看護師が患者と家族間や患者,家族と多職種との間で情報をつなぎ,関係性をとりもつ仲介というコーディネーション機能を示している.日本では,退院支援に関わる多職種は,患者個々に必要な関係職種が退院支援の度に招集される.よって,対象とする患者ごとに医療チームが無数に存在し,チーム形成の初期段階は対人関係の確立がチームメンバーのタスクとなっている(草野,2007).そのため,医療チームに関わる病棟看護師がチーム形成の早い段階で,多職種の間で仲介というコーディネーション機能が発揮できれば,チーム内の関係確立に貢献できると考える.

次に,【退院後の問題解決方法を捻出する】【退院後の環境を整える】の2つのカテゴリは《力を合わせ最良の退院支援を病院内外関係者で整える》というコーディネーション機能を示していた.これはチームとして1つの目標が定まり,その目標を達成するために生じる退院後の課題に対して,チーム内の関係職種が解決方法を持ち寄り,チームが目標に向かって退院支援が行なえるようより良い解決方法を思案し,整えることを示している.このような解決策を多職種間で整えていくには,病棟看護師が在宅での生活を見据えた視点をもっていることが不可欠であると考える.

しかし,先行研究では病棟看護師は在宅療養上の生活問題への対処が不十分であること(斎藤ら,2010),在宅療養の環境や社会資源など今後を予測した対応の実施が4割以下と少ないこと(近藤ら,2016)が報告されており,病棟看護師が在宅の視点をもつことは難しいことが示唆されている.病棟看護師が在宅療養を十分にイメージできないことは,整えるというコーディネーション機能を発揮することは難しいと考えられ,日本の病棟看護師の退院支援における課題の一つであると考えられる.

近年になって,病院において退院前訪問や退院後訪問などの加算がとれるようになり,病棟看護師は訪問看護師と同行訪問を徐々に実施するようになってきた.その結果,訪問看護師との同行訪問によって病棟看護師が療養者の生活を知る機会が増え,退院後の生活を見据えた支援が行えるようになったこと(辻村ら,2017)が報告されている.さらに,訪問看護や在宅ケア研修を受講することにより在宅支援の視点を持てるようになる可能性(近藤ら,2021)も報告されている.

今後,日本の入退院支援部門看護師と退院支援における多職種チームの中で病棟看護師に期待されるコーディネーション機能を果たしていくためには,先行研究で示されたような病棟看護師の在宅視点が持てるような訪問看護師との協働や教育的な取り組みが必要であると考えられる.このように病棟看護師が在宅の視点をもってコーディネーション機能を働かせることができれば,病棟看護師が退院支援に対して自ずと主体的に参加することとなり,病棟に入院する患者に対する退院支援の質的向上につながることが期待できる.

最後に,【新たなシステムを取り入れる】のカテゴリは,《関係職種で新たな退院支援システムを調節する》のコーディネーション機能を示していた.これは,患者への退院支援を完了した多職種チームが支援の振り返りを行い,既存の退院支援システムに縛られずに課題を抽出することで,現状を踏まえてより良い退院支援システムへと調節していくことを示している.多職種チームで実施した退院支援を振り返るには,退院後の患者情報が必要となるが,病棟看護師の退院支援の振り返りにおいて,退院後の患者情報を得る手段がなく退院支援の振り返りができないという報告(川嶋ら,2015)がある.しかし,別の調査(宮下ら,2018)では,病棟看護師は訪問看護師から退院後の患者の情報提供を受けるといった新たな方法を導き出し,退院支援の振り返りを行なえるようになったことが報告されていた.これらのことは,病棟看護師が退院後の情報を得る手段がないという現状の課題に対して,院外の関係職種から情報提供を受けるという新しい方策を既存のシステムに取り入れ,より良いシステムになるように調整していることを示唆している.

一方,入退院支援部門看護師の活動に関する研究(石橋ら,2019)では,退院支援の現状分析という振り返りによって,地域連携システム構築へとつなげていることが報告されており,入退院支援部門看護師の活動はシステム構築につながっていることが示されている.しかしながら,身近に起こっている現場の課題から退院支援システムをより良いものにしていくには,入退院支援部門看護師の活動の中でのシステム構築に任せきりにするのではなく,患者の近くで多職種と関わる機会の多い病棟看護師が自身の役割として認識することが必要だと考えられる.

本研究では,退院支援における病棟看護師のコーディネーションという概念を分析し,《退院支援に向け関係者間をつなぐ》《力を合わせ最良の退院支援を病院内外関係者で整える》《関係職種で新たな退院支援システムを調節する》という広義な意味を含んでいる概念であることが示された.

概念分析から抽出された属性を検討した結果,概念の定義として「退院支援チームにおいて,関係者と連携・協働しながら患者の意向をくみ取りその意向に添ったケアが行えるよう,関係職種間の情報や関係性をつなぐことである.そして,退院後に向けた視点をもち問題解決方法を思案し,患者が退院後も継続的に支援を受けられる環境を整え,退院支援システムをより現状にあったものへと調節することである」を導き出した.

2. 本研究の限界と課題

本概念分析は,英文献13文献,和文献2文献を使用しており,主に海外の文献での概念の使用から導かれた成果という限界があり,日本での退院支援に適応するかについては,引き続き検討が必要である.今後は,本研究で示された属性を基に,病棟看護師が退院支援においてどのようにコーディネーションを行っているのかについて調査を行い,本研究の概念をより精錬させていくことが必要だと考える.

謝辞:本研究は,鈴鹿医療科学大学の令和3年度看護学部研究助成を得て実施した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:UKは研究の着想,デザイン,文献収集,分析・解釈,論文作成の全ての研究プロセスを主導し執筆した.HTとIKは研究プロセスへの助言,分析・解釈と考察,論文作成に関与した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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