2022 Volume 42 Pages 679-687
目的:本研究は,化学療法を受ける白血病患者の睡眠を客観的指標で評価し,化学療法開始後の夜間と日中の客観的睡眠指標の関係を明らかにすることを目的とした.
方法:研究参加者は入院中の白血病患者9名(男性5名,女性4名),平均年齢63.7 ± 9.2(47~76)歳であった.客観的睡眠指標として小型3軸加速度計を用い,化学療法開始後の16日間の夜間の睡眠指標および日中の睡眠の総和(nap)を評価した.
結果:夜間の睡眠指標と日中のnapの平均±SDは,総睡眠時間385.5 ± 65.8分,入眠潜時10.6 ± 5.3分,中途覚醒時間76.9 ± 40.3分,覚醒回数8.2 ± 3.7回,睡眠効率80.3 ± 9.7%,日中のnapは379.3 ± 163.2分であった.日中のnapと総睡眠時間および睡眠効率には正の有意な相関関係が認められた.
考察:化学療法中の白血病患者は平均6時間以上のnapが生じていたが,napと睡眠効率の関係からnapは必ずしも夜間睡眠に悪影響を与えていない可能性が示唆された.
Purpose: The purpose of this study was to evaluate objective measures of sleep in leukemia patients undergoing chemotherapy and to determine the relationship between nighttime and daytime objective sleep measures.
Methods: The study participants were nine leukemia patients hospitalized for chemotherapy (five males, four females), with a mean age of 63.7 ± 9.2 (47–76) years. They were evaluated with objective nighttime sleep variables and the sum of daytime sleep (nap) for 16 days after the start of chemotherapy administration by a small 3-axis accelerometer.
Result: The mean ± SD of each nighttime sleep valuable and nap was 385.5 ± 65.8 minutes total sleep time, 10.6 ± 5.3 minutes onset latency, 76.9 ± 40.3 minutes mid-awake time, 8.2 ± 3.7 awakenings, 80.3 ± 9.7% sleep efficiency, and 379.3 ± 163.2 minutes nap. A positive and significant correlation was found between nap during the day and total sleep time, and nap during the day and sleep efficiency.
Discussion: Although leukemia patients undergoing chemotherapy experienced an average nap of more than six hours per day, the relationship between nap and sleep efficiency suggests that daytime sleep may not always negatively affect nighttime sleep.
化学療法を受けるがん患者において,睡眠障害は最も一般的な健康問題のひとつである.実際,化学療法中のがん患者の半数以上に,中途覚醒,入眠困難および早朝覚醒などの睡眠問題が報告され(Palesh et al., 2012),化学療法における主観的睡眠評価についてメタ解析を行なった最近の研究(Divani et al., 2022)でも,治療前に比べて治療中は睡眠感が有意に悪化することが示されている.また,不眠を代表とするがん患者の睡眠問題は,痛みや不安,抑うつ,倦怠感などの他の症状と関連し,適切な回復にも悪影響を与えると考えられている(Ancoli-Israel et al., 2001;Berger et al., 2005;Castelli et al., 2022;Jim et al., 2011).
がん患者は,がん治療終了後も慢性的な睡眠問題を抱えている(Davidson et al., 2002)ことから,治療中のみならず,治療後の患者の生活の質(QOL)に悪影響を及ぼすと言え,Davidson et al.(2002)は,不眠の慢性化前に患者の睡眠が良好に維持できるような援助の提供の必要性を指摘している.化学療法を受けているがん患者の睡眠問題を扱ったレビュー(Palesh et al., 2012)において,治療中に主観的にも客観的にも睡眠が悪化する理由として,炎症性サイトカインの上昇や概日リズムの乱れなどが指摘されている.
様々な種類のがんの中で,白血病患者は例外なく化学療法を受けるが,白血病患者の約9割に睡眠障害が認められると報告されている(Bagheri-Nesami et al., 2016).睡眠障害は疼痛・嘔気・下痢などによる身体的原因,入院などの環境変化による生理的原因,ストレス・ライフイベントなどによる心理的原因,うつ病・適応障害などによる精神医学的原因,ステロイド・利尿剤などによる薬理学的原因(大西,2010)が挙げられ,これらは複雑に絡み合っており,白血病患者の睡眠障害に強く影響している原因は不明である.しかし,約2割の血液がん患者が不安や抑うつを抱えており(Clinton-McHarg et al., 2014),睡眠障害と併存している可能性があることから,化学療法開始前の患者の不安や抑うつに関して情報を得ることは,化学療法開始後の睡眠への影響を予測することにつながると考えられる.さらに,抗がん剤投与を受けた白血病患者は,感染予防目的であるクリーンルームへの入室によって活動範囲が大幅に制限されており,実際,白血病患者の活動状況について調査した研究(岡田,2012)によれば,患者は治療を安全に受けるために必要時以外はベッド上で臥床し意図的に動かないようにしていると報告されている.一般的に,日中の過ごし方,特に日中の睡眠時間は夜間睡眠に影響する(林・堀,2007)と考えられているため,夜間の睡眠を捉える上で夜間睡眠と日中の睡眠との検討は欠かすことができず,日中の活動が制限される傾向にある白血病患者の睡眠問題の解決に繋がる援助を見出すためには,化学療法中の白血病患者の夜間や日中の睡眠と覚醒の関連について検討する必要があると考えられるが,我々の知るかぎり,その関係を検討した報告は見られない.
そこで本研究では,化学療法を受ける白血病患者の睡眠について,主観的および客観的指標を用いて評価するとともに,化学療法開始後の夜間と日中の客観的睡眠指標の関係を明らかにすることを目的に実施した.
本研究は量的記述研究デザインであった.
2. 研究参加者本研究の研究参加者は,白血病の診断を受け1コース以上の化学療法を経験し,1日4時間以上かつ3日間以上連続の抗がん剤投与を受ける者とした.そのうち,化学療法以外に睡眠に影響を受ける可能性を考慮し,精神疾患を有する者や,過去に造血幹細胞移植を受けている者,化学療法と放射線治療を同時に受けている者は除外した.研究協力施設は兵庫県内の4施設であった.
3. データ収集方法データ収集期間は2017年8月~2017年12月であった.研究参加者は基礎データとして,化学療法開始前に主観的睡眠評価および不安・抑うつの評価に回答した.また,化学療法開始後データとして,抗がん剤投与開始日から,抗がん剤投与終了後14日目までの入浴時以外の24時間,小型3軸加速度計を着衣の腰部分に装着し日中と夜間の客観的睡眠指標を評価した.測定期間中は就床時刻,起床時刻,および主観的睡眠評価について毎日記録した.
4. 調査項目 1) 基礎データ研究参加者の属性(年齢,性別,診断名,化学療法レジメン,睡眠剤内服の有無,病床の種類)の情報収集を行った.また,研究参加者の化学療法開始前の睡眠状況を把握するために,主観的睡眠指標および睡眠問題と関連の指摘されている不安や抑うつについて以下の方法で評価した.
(1) 化学療法開始前の主観的睡眠指標土井ら(1998)によって作成され標準化された日本語版ピッツバーグ睡眠質問票(The Japanese version of the Pittsburgh Sleep Quality Index; PSQI-J)を用い,研究参加者の化学療法開始前の主観的睡眠指標を評価した.PSQI-Jは18項目から構成されており,「睡眠の質」「睡眠時間」「入眠時間」「睡眠効率」「睡眠困難」「眠剤使用」「日中の眠気」の7要素にて,回答前1か月間の包括的な睡眠とその質を評価できる.各要素の得点(0~3点)とそれらの総得点(0~21点)が算出され,得点が高いほど睡眠が障害されていることを示す.睡眠障害の有無を判定するカットオフ値は先行研究(Doi et al., 2000)に従い5.5点とした.
(2) 化学療法開始前の不安と抑うつの評価指標東ら(1996)により信頼性が確認された日本語版Hospital Anxiety and Depression Scale Japanese version(HADS)を用い,研究参加者の不安と抑うつを評価した.HADSは身体的疾患を有する患者の精神症状(不安と抑うつ)を測定できる尺度で最近の状態を尋ねたものであり,不安・抑うつに7項目ずつの下位尺度があり,計14項目で構成されている.各項目4段階評価,0~3点で採点され,得点が高いほど不安や抑うつの程度が高い状態を表す.先行研究に従い,不安・抑うつの7項目ずつのうち,0~7点を「不安または抑うつなし」,8~10点を「疑心」,11点以上は「確信」とした.
2) 化学療法開始後データ (1) 客観的睡眠指標客観的睡眠評価を行うために,小型3軸加速度計(MTN-220,アコーズ社)を用いて体動を測定し,解析ソフトSleep Sign Act2.0(キッセイコムテック社)で分析を行った.睡眠評価の標準的な方法として用いられる睡眠ポリグラフと本アルゴリズムの一致率は85~87%である(Nakazaki et al., 2014).本研究では,夜間に睡眠判定された時間の総和である「総睡眠時間」,就床から入眠と判定されるまでの時間である「入眠潜時」,夜間の就床時間に占める総睡眠時間の割合である「睡眠効率」,睡眠時間中の覚醒時間の総和である「中途覚醒時間」,睡眠時間中の覚醒回数の総和である「覚醒回数」の5つの睡眠変数を採用し,夜間睡眠の客観的睡眠指標とした.なお,本研究では,日中の客観的睡眠指標として早朝起床時刻から夜間就床時刻までの日中に「睡眠」と判定された時間の総和を算出し,「nap」として定義した.
(2) 主観的睡眠指標化学療法開始後の主観的睡眠評価指標として,研究参加者の毎朝の回答負担を軽減するために,PSQI-Jではなく,症状を一次元的に簡便に評価できる測定ツールである視覚的アナログスケール(Visual Analog Scale; VAS)を用いた.本研究では,左端に「0」(全く眠れなかった)右端に「10」(とてもよく眠れた)と記述した10 cmの直線に,研究参加者は毎朝起床後に眠れたと感じるレベルについて直線上に縦線で書き入れた.左端の「0」から縦線までの距離を得点化(10点満点)し,その値を睡眠の質に対する主観的な評価(日本睡眠学会,2009b)として「主観的睡眠感」と定義した.なお,重度倦怠感発症因子を検討した前向きコホート研究(植松ら,2017)では患者自身の主観的評価を得るためにVASを用いて倦怠感や不眠の評価を行っている.先行研究では信頼性・妥当性は検証されていないものの,VASは主観的な症状の評価のために一次元的測定を行う一般的な尺度(Eaton et al., 2009.2011/2013)として広く用いられているため,本研究でVASによる主観的睡眠感の評価を行うことは妥当であると判断した.
5. 分析方法すべてのデータは平均値±標準偏差(SD)で示した.研究参加者の特徴を得るための基礎データとして,基本的属性,PSQI-J,HADSについて記述統計量を算出し,PSQI-JとHADSの不安・抑うつの関係についてピアソンの相関係数を算出し有意性を分析した.化学療法開始後のデータとして,全研究参加者から共通して得られた抗がん剤投与初日を除く,抗がん剤投与2日目から17日目である合計16日間の睡眠指標を分析対象とし,それらの記述統計量を算出した.夜間の客観的睡眠指標と日中のnapおよび夜間の客観的睡眠指標と主観的睡眠感(VAS)の関係について,研究参加者の各変数の平均値を代表値とし,ピアソンの相関係数を算出した.睡眠剤内服の有無による睡眠指標への影響を検討するために,睡眠剤内服有無の2群に分け,対応のないt検定を行った.統計ソフトはSPSS ver. 23 For Windowsを用い,有意水準を5%未満とした.
6. 倫理的配慮本研究は,神戸市看護大学(承認番号2017-2-04-1)および研究協力施設の倫理審査委員会の承認を得て実施した.研究参加候補者は,研究参加開始日までに化学療法を1コース以上受けている者で抗がん剤投与開始日から,抗がん剤投与終了後14日間まで小型3軸加速度計を装着することが可能な者とした.研究参加候補者には,研究の目的,意義,方法等の概要および,研究に参加することや研究参加を断った場合,また途中で辞退した場合等いかなる場合でも不利益を受けない権利,研究内容や結果を知る権利,自己決定の権利,プライバシーや匿名性の保持の権利に対する保障を,研究協力依頼書を用い口頭で説明した.研究参加候補者がデータ収集のために協力いただく内容や方法を具体的に想像できるように,小型3軸加速度計を用いて取扱いの説明を行い,主観的睡眠感(VAS)の記録用紙を用いて記録方法を説明した.同意を得られる場合は研究同意書に署名をいただき,研究者および研究参加者双方で保管した.研究参加中に研究参加者に治療上支障が発生した場合は,研究の遂行を中止し主治医の指示に従う等の体制を整えた.
本研究の参加条件を満たす患者15名に研究参加を依頼し,14名から同意を得た.14名のうち2名は同意を得た後に治療方針が変更となった.また,1名は,データ収集途中で状態の変化が生じ,2名は化学療法終了後14日間以内に退院となったため,途中で参加条件を満たすことができなくなった.したがって本研究の分析対象は9名であった.
1. 研究参加者の概要 1) 基本的属性分析対象となった研究参加者は,男性5名女性4名であり,平均年齢63.7 ± 9.2(47~76)歳,急性骨髄性白血病8名,急性リンパ性白血病1名であった.平均抗がん剤投与日数は4.9 ± 1.1日で最短3日間,最長7日間であった.その他の概要を表1に示す.
項目 | 人数 | |
---|---|---|
性別 | 男性 | 5 |
女性 | 4 | |
年齢 | 41~50歳 | 1 |
51~60歳 | 2 | |
61~70歳 | 4 | |
71~80歳 | 2 | |
診断名 | 急性骨髄性白血病(初発) | 6 |
急性骨髄性白血病(再発) | 2 | |
急性リンパ性白血病(初発) | 1 | |
レジメン名 | DNR + Ara-C療法 | 4 |
大量Ara-C療法 | 2 | |
MEC療法 | 1 | |
MIT + Ara-C療法 | 1 | |
R-HyperCVAD/MTX-Ara-C療法 | 1 | |
化学療法回数 | 2コース目 | 6 |
3コース目 | 2 | |
4コース目 | 1 | |
抗がん剤投与日数 | 3日 | 1 |
4日 | 1 | |
5日 | 6 | |
7日 | 1 |
睡眠剤の内服の有無について,内服している者が4名,内服していない者が5名であった.4名のうち3名は1種類で超短時間作用型(1名)または短時間作用型(2名)を就寝前に内服しており,全員初回の入院治療中に内服開始となっていた.残り1名は前回の入院中から短時間作用型,メラトニン受容体作動薬およびオレキシン受容体拮抗薬の3種類の睡眠剤を内服しており,本データ収集中での変更はなかった.
病室について,データ収集全期間4人部屋であった者は3名,データ収集全期間個室であった者は3名,化学療法開始後4日目に4人部屋から個室のクリーンルームに移動した者は2名,残り1名は化学療法開始後9日目に個室のクリーンルームに移動した.
3) 基礎データ (1) 化学療法開始前の睡眠評価指標主観的な睡眠評価指標であるPSQI-Jの総合得点は,6.4 ± 3.0点であり,カットオフ値5.5点以上であった研究参加者は9名中6名であった(表2).
項目 | 平均±SD |
---|---|
睡眠の質 | 1.3 ± 0.7 |
入眠時間 | 1.3 ± 1.1 |
睡眠時間 | 1.1 ± 0.3 |
睡眠効率 | 0.3 ± 0.7 |
睡眠困難 | 0.9 ± 0.3 |
眠剤の使用 | 1.3 ± 1.6 |
日中の覚醒困難 | 0 |
総合得点 | 6.4 ± 3.0 |
不安・抑うつの評価指標であるHADSの不安得点は4.9 ± 1.9点であり,全員8点未満で不安状態ではなかった.抑うつ得点は4.5 ± 3.8点であり,8点未満で抑うつ状態ではない研究参加者は6名,8点~10点の「疑心」である研究参加者は3名であり,抑うつ得点が11点以上の「確信」に該当する研究参加者はおらず,睡眠に強く影響する抑うつ状態の研究参加者は認められなかった.
(3) 主観的睡眠評価と不安・抑うつの関係PSQI-JとHADSの不安得点および,HADSの抑うつ得点の相関関係を検討したところ,どちらの場合においても関連は認められなかった.しかし,抑うつ得点が8.0以上の3名はPSQI-Jが5.5以上で睡眠障害であった(表3).
PSQI-J | HADS | ||||
---|---|---|---|---|---|
不安得点 | 抑うつ得点 | ||||
8.0未満 | 8.0以上 | 8.0未満 | 8.0以上 | ||
5.5未満 | 3 | 0 | 3 | 0 | |
5.5以上 | 6 | 0 | 3 | 3 |
表4に,研究参加者の抗がん剤投与2日目から17日目までの16日間の夜間と日中の客観的睡眠指標および主観的睡眠感の平均値を示した.結果から夜間の総睡眠時間(385.5分:6時間25.5分)とnap(379.3分:6時間19.3分)が近似していることが分かる.また,夜間の客観的睡眠指標と主観的睡眠感(VAS)について相関関係を検討したところ,すべての場合において有意な関連は認められなかった.
項目 | (n = 9)平均±SD | 睡眠剤の内服 | |||
---|---|---|---|---|---|
あり(n = 4) | なし(n = 5) | p値 | |||
平均±SD | 平均±SD | ||||
夜間睡眠指標 | 総睡眠時間(分) | 385.5 ± 65.8 | 373.6 ± 86.5 | 395.1 ± 62.4 | .68 |
入眠潜時(分) | 10.6 ± 5.3 | 8.9 ± 1.7 | 12.1 ± 7.4 | .40 | |
中途覚醒時間(分) | 76.9 ± 40.3 | 76.3 ± 56.3 | 77.4 ± 35.6 | .97 | |
覚醒回数(回) | 8.2 ± 3.7 | 7.9 ± 4.1 | 8.4 ± 4.3 | .86 | |
睡眠効率(%) | 80.3 ± 9.7 | 80.3 ± 13.7 | 80.4 ± 8.5 | .99 | |
日中の睡眠指標 | nap(分) | 379.3 ± 163.2 | 408.3 ± 170.8 | 356.0 ± 191.2 | .68 |
主観的睡眠感 | VAS(点) | 6.5 ± 1.4 | 6.2 ± 2 | 6.8 ± 1.2 | .56 |
日中の睡眠の総和であるnapは,夜間睡眠における睡眠効率(r = .797,p = .010,図1),中途覚醒時間(r = –.823,p = .006,図2),覚醒回数(r = –.880,p = .002)および総睡眠時間(r = .670,p = .048,図3)とそれぞれ有意に関連し,napが長い研究参加者ほど夜間の総睡眠時間は長く,中途覚醒時間は短く,睡眠効率は高値を示した.
napと睡眠効率の関係
napと中途覚醒時間の関係
napと総睡眠時間の関係
睡眠剤内服の有無で2群に分け睡眠指標の平均値についてt検定を実施した結果,いずれの睡眠指標にも有意差はなかった(表4).
本研究の目的は,化学療法を受ける白血病患者の睡眠を主観的および客観的指標を用いて評価するとともに,夜間と日中の客観的睡眠指標の関係を明らかにすることであった.本研究で得られた主な結果は,研究参加者に1日平均6時間以上のnapが見られ,napが夜間睡眠における睡眠効率および総睡眠時間と有意な正の相関関係にあり,また中途覚醒時間と有意な負の関連が認められたことであった.
本研究における夜間睡眠の評価については,化学療法開始前の主観的睡眠指標(PSQI-J)で睡眠障害を示した参加者は9名中6名おり,総合得点は6.4 ± 3.0点と化学療法開始前の時点において主観的な睡眠評価は悪化していると考えられた.なお,化学療法レジメンのうち,不眠が副作用に含まれる抗がん剤(岡元・佐々木,2015)の使用はなく,主観的睡眠評価には影響していないと考えられた.また,睡眠障害であった6名中の3名は抑うつ傾向であったことから,約3割の研究参加者に化学療法開始前時点で睡眠障害と抑うつは併存している可能性があることが示唆され,化学療法開始前の乳がんや肺がん等固形がんの患者の主観的睡眠評価に関する先行研究(Berger et al., 2007;Davidson et al., 2002)や化学療法開始時の血液がん患者の主観的睡眠評価に関する先行研究(Castelli et al., 2022)を支持する結果が得られた.本研究における化学療法開始後の研究参加者の夜間睡眠の覚醒回数は平均8.2回,中途覚醒時間の平均は76.9分であり,乳がん患者(Berger et al., 2007)や肺がん患者(Du-Quiton et al., 2010)やその他の固形がん患者の睡眠と同様に中途覚醒を繰り返しており(Davidson et al., 2002),一般高齢男女(67~72歳)の中途覚醒時間50分程度(日本睡眠学会,2009a)と比べてもより長かった.
化学療法を受ける婦人科がん患者の日中の活動に関する先行研究では,がん患者の化学療法開始後の日中の身体活動は減少して睡眠が増加し(Jim et al., 2011),肺がん患者では睡眠を含む日中の不活動時間は一般成人の約4倍であると報告(Grutsh et al., 2011)されている.実際,3週間の化学療法を4サイクル受ける乳がん患者は,化学療法開始前に比べて化学療法中に日中の覚醒時間は減少し,日中および夜間の睡眠時間が増加することが示されている(Liu et al., 2012).したがって,化学療法を受けているがん患者のnapは平常時より延長する傾向にあると考えられる.本研究では,小型3軸加速度計を用いたアルゴリズムにより日中に睡眠と判定された時間の総和をnapとして算出しているが,化学療法開始後のnap平均値が6時間以上見られたことは,一般的に仮眠(午睡)と呼ばれる日中の睡眠以外に,患者がベッド上でウトウトしている状況が反映された結果と考えられ,夜間にまとまった睡眠をとる以外に,日中においても分断しながら細切れの睡眠をとっている現状が明らかとなった.
白血病患者は化学療法中に,嘔気や倦怠感,貧血様症状等様々な副作用を経験する(Polovich et al., 2005/2009).実際,乳がん患者においては,化学療法開始後に倦怠感が有意に増大することが報告(Ancoli-Israel et al., 2014;Liu et al., 2009;Liu et al., 2012)されているが,その倦怠感は夜間睡眠指標とは関連せず,日中のnapと有意な正の相関関係が示されている(Liu et al., 2012).がんのリハビリテーション診療ガイドラインでは倦怠感軽減を目的として化学療法中・後のがん患者に対する運動療法が推奨されている(日本リハビリテーション医学会,2019).本研究参加者には長時間のnapが生じており,この状況は日中の活動時間が制限されていることに他ならないが,本研究では倦怠感の評価を行っておらず,白血病患者におけるnapと倦怠感の関係においては今後の検討課題である.厚生労働省(2014)が「健康づくりのための睡眠指針2014」で提唱しているように,良い睡眠のためには睡眠と覚醒のメリハリが必要であると考えられているが,これまで化学療法を受ける白血病患者の夜間の睡眠について,日中の睡眠との関係から検討された報告は見当たらず,睡眠と覚醒のリズムを維持できるような一般的な援助が適切であるかどうか不明であった.本研究では,日中に長いnapが生じていたにもかかわらず夜間睡眠の睡眠効率が高値であった患者が見られ,両者の間に有意な正の相関関係が認められたことから,抗がん剤投与後の白血病患者においては,日中に覚醒させることが必ずしも夜間睡眠に良好な影響を与えるとは言えず,日中の覚醒と休息の援助のあり方について再考する必要があると考えられた.
血液がん患者の不眠に関する先行研究(福井ら,2010)では,46%が睡眠剤を内服していると報告している.本研究参加者も類似した割合で睡眠剤を内服しており,いずれの研究参加者も,入眠導入あるいは中途覚醒予防目的で睡眠剤を内服していた.本研究では,睡眠剤内服の有無による各睡眠評価指標における有意差は認められなかったことから,睡眠剤内服者は睡眠剤内服により非内服者と同等の睡眠を維持できていると推察され,napも同様に生じていた.特に主観的睡眠感(VAS)において,睡眠剤内服の有無による有意差はないことから,睡眠剤を内服していても十分に満足できる睡眠はとれていない可能性が示唆され,非薬物療法による睡眠の援助の必要性(河崎ら,2008)が考えられた.
化学療法を受ける入院中のがん患者は,「脱毛」の次に「不眠」を気がかりにしている(竹内・河野,2003).したがって,不眠が慢性化する前に患者の睡眠が健康に維持できるような援助の提供(Davidson et al., 2002)が医療者に求められていると言える.しかし,化学療法を受けるがん患者への看護として,患者が心身の準備や対処ができるように,治療による身体への影響やその機序,骨髄抑制や吐き気,便秘,食欲低下,しびれ,全身倦怠感など症状の発現が予測される時期についての説明が一般的となっており,睡眠の問題やそれへの対処が含まれていることは少ない.不眠をはじめとする睡眠問題は,倦怠感や不安,抑うつ等の症状との関連が報告されており(Ancoli-Israel et al., 2001;Berger et al., 2005;Castelli et al., 2022),倦怠感やそれらの症状について治療開始時からの介入の必要性が指摘されている(Castelli et al., 2022).しかも,乳がん患者においては化学療法開始前の時点で,主観的睡眠評価で睡眠障害が認められる,倦怠感が強い,うつ傾向にある,などの症状を持つがん患者ほど,化学療法中にそれぞれの症状が悪化することが報告されている(Fox et al., 2020;Liu et al., 2012).先行研究でも睡眠衛生教育の重要性が報告されているように(Alem et al., 2021),化学療法前に睡眠衛生教育を実施したり,日中のnapの増加や,普段よりも中途覚醒が頻回に生じる可能性があることを情報提供に含めることは,患者にとって非常に有益であると考えられる.また,化学療法開始前の患者の睡眠に関する習慣を個別にアセスメントし必要な生活指導を実施するなど,患者自らが自身の睡眠に関してセルフケアができるような援助を検討することも必要である.
本研究における研究分析数が限定されてる点は本研究の限界であり,この結果を持って化学療法を受ける白血病患者の睡眠の特徴として一般化することは難しいかもしれない.また,睡眠問題と関連が指摘されている倦怠感についての評価を行っていないため,napと倦怠感の関連を検討することはできない.しかしながら,日中のnapが夜間睡眠に必ずしも悪影響を及ぼさないと示唆した本研究結果は,がん患者を対象にした看護援助を再考する上で非常に貴重であると思われ,日中のnapの意味を捉え直す必要があるのではないかと考えられた.
抗がん剤投与を受けた白血病患者の夜間と日中の客観的睡眠指標の関係を検討した結果,日中のnapと夜間睡眠における睡眠効率および総睡眠時間に有意な正の相関関係が認められ,中途覚醒時間とは有意な負の関係が見られた.したがって,白血病患者においては,化学療法による身体へのダメージから心身の回復を促すために日中に睡眠が必要であることが推察され,活動と休息のバランスについての看護援助を再考する必要があると考えられた.
付記:本研究は著者博士前期課程修了大学へ提出した学位論文に,加筆修正を加えたものである.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:YSおよびSSは研究プロセス全体に貢献;MSは原稿の作成に貢献;すべての著者は最終原稿を読み,承認した.