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Effects of Footcare-programs Intervention using Thermography and Blood Flow Meters on the Self-care Ability of Patients with Type 2 Diabetes
Chiaki Kataoka
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2022 Volume 42 Pages 698-705

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Abstract

目的:2型糖尿病患者を対象にサーモグラフィや血流計を用いたフットケアプログラムを実施し,血管障害の理解やフットケア行動,セルフケア能力の介入効果を検討した.

方法:対象者は外来通院中の2型糖尿病患者16名であった.外来受診日ごとに60分のフットケアプログラムを4回実施した.血管障害の理解についてはVASを用い,フットケア行動およびセルフケア能力は,それぞれSDSCAおよびSCAQ-30で評価した.

結果:介入後,「自分の血管や血流がわかる」という主観的感覚(p < 0.001),フットケア行動(p < 0.001)およびセルフケア能力(p < 0.001)の合計得点平均値は有意に上昇した.また,フットケア行動得点の変化は罹病期間と有意な負の相関関係(r = –0.66, p < 0.001)が認められた.

考察:本フットケアプログラムは,糖尿病患者の身体への関心を高め,フットケア行動やセルフケア能力を改善する看護支援となる可能性が示唆され,より早い介入の必要性が示された.

Translated Abstract

Purpose: The purpose of this study was to investigate the effects of a footcare-programs intervention using thermography and blood flow meters on the self-care behavior for foot and the self-care ability of patients with type 2 diabetes

Methods: This study included sixteen outpatients with type 2 diabetes mellitus. The care program lasted for 60 minutes per session and was performed every 4 to 8 weeks for a total of four sessions. Subjective assessments of better understanding of the body prone to vascular disorders using the visual analog scale (VAS), self-care behaviors using the summary of diabetes self-care activities (SDSCA), self-care ability utilizing the self-care agency questionnaire 30 (SCAQ-30). All data were collected at baseline and postintervention.

Results: After the intervention, the subjective sensation (VAS) of “understanding one’s blood vessels and blood flow” enhanced significantly (p < 0.001), and self-care behavioral scores for foot care and self-care ability scores improved significantly (p < 0.001) compared to baseline. There was a significant negative correlation (r = –0.66, p < 0.001) between the degree of improvements in foot care behavioral score and disease duration.

Conclusion: Our results suggest that this foot care program is inferred to have greatly improved self-care behaviors regarding foot care, leading to the prevention of diabetic foot ulcers in patients at the early stages of diabetes.

Ⅰ. 緒言

糖尿病足病変は,重症化すると患者の生活の質を低下させ(Tzeravini et al., 2018),下肢切断率や死亡率を高める(Moulik et al., 2003Al-Rubeaan et al., 2017).その発症リスクは神経障害や血管障害など糖尿病合併症の進行により高まり,靴ずれや深爪といった小さな外傷をきっかけに引き起こされる.そのため看護師による足病変のリスク評価や患者教育といった積極的な介入が重要とされている.実際,看護師によるフットケアや患者教育によって,患者の足に関する知識(Corbett, 2003Ahmad Sharoni et al., 2018)やセルフケア行動が高まり(Borges & Ostwald, 2008Lincoln et al., 2008Ahmad Sharoni et al., 2018Nguyen et al., 2019),足のトラブルの改善(Kafaie et al., 2012 Nguyen et al., 2019),下肢切断率の低下(Moulik et al., 2003Ren et al., 2014)など,足病変重症化予防の効果が示されている.したがって,フットケアの実施,取り分け患者自身がフットケア行動を獲得していくことが足病変予防には有用と考えられている.

糖尿病患者のフットケア行動は,足病変に関する正しい知識の獲得で促されることが報告されている(Sari et al., 2020).一方で,血糖コントロールの悪化や合併症の発症との関連も示されており(Johnston et al., 2006Yıldırım Usta et al., 2019),足病変発症リスクの高まりが契機となってフットケア行動が喚起されている可能性も考えられる.しかし,糖尿病合併症である下肢血管障害が進行した場合,フットケア行動だけでは足病変の重症化予防は困難である(Al-Rubeaan et al., 2017Lincoln et al., 2008Ugwu et al., 2019).また血管障害を有する糖尿病者では血管障害を有しない者に比べ,下肢切断率は2~3倍も高くなる(Moulik et al., 2003).フットケア行動の獲得だけでなく,患者自身が自分の身体を理解した上で血管障害を予防できるような看護支援が必要と考えられる.

糖尿病足病変の予防は,看護師による神経障害や血管障害の評価とリスクに応じたフットケアの実施が重要である.多くのフットケア外来において看護師は,足の観察や,モノフィラメントや打鍵器を用いた神経障害の評価,足背動脈触知による血管障害の評価を実施している.看護師による神経障害の評価は,患者が足先のしびれなど自覚症状や自分の感覚の鈍麻を認識する機会にもなっている.一方血管障害については,高度な血管狭窄に至るまで無症状の者も多く,脈拍触知も可能なため,現在行われている血管障害の評価方法では患者が血管内部に生じている障害を理解することは難しい.そのため血管障害の診断には,足関節上腕血圧比(Ankle Brachial Pressure index: ABI)の計測やサーモグラフィ,血流計を用いた検査が用いられ有用とされている(Ilo et al., 2021Mori et al., 2013Oe et al., 2017).これらの測定機器は,末梢血管障害の状態を視覚的,聴覚的に捉えることができ,患者自身が自分の血管の状態を理解するのに役立つと考えられる.

フットケアを通して,患者が自分自身の足や血管の状態など身体を理解することは,フットケア行動の獲得を促すだけでなく,患者のセルフケア能力を高める可能性があると考えられるが,その効果を検討した報告はほとんどみられない.そこで本研究では2型糖尿病患者に,サーモグラフィや血流計を用いたフットケアプログラムを実施し,介入前後で血管障害の理解やフットケア行動,セルフケア能力が変化するのか検討することを目的として実施した.

Ⅱ. 方法

1. 対象者

糖尿病専門医による専門外来に通院中の2型糖尿病患者で,罹病期間が10年以下で血液透析の導入をしておらず,下肢潰瘍歴・切断歴がない者,HbA1cが7.5%以上のものを対象とした.罹病期間が10年以下と比較的短いが,血糖コントロールが不良であるものは,無症状であるが血管障害の進行が始まっている可能性が高いと考えられる.また,血液透析導入者および下肢潰瘍や切断歴のある者は,継続的にフットケアを受けている可能性が高いため除外した.

本研究における必要標本数は,糖尿病患者へのフットケア介入の効果を検討した先行研究(大徳・江川,2004)を参考に,効果サイズ0.70~0.80,有意水準5%,検出力80%,対応のあるt検定(両側検定)として算出した結果,15名~19名となり,脱落率を1割と考え,対象者数を20名に設定した.

2. 介入手順

2型糖尿病患者に対して,「血管障害の理解を促すフットケアプログラム」(表1)を4~8週間毎の外来診察の待ち時間に合計4回(1回60分)実施した.4回の介入は基本的に同じ内容を実施した.

表1  血管障害の理解を促すフットケアプログラム
プログラム内容 時間 具体的内容
足への関心を促す 
足の観察
15分 看護師が足の状態を観察し(①~③),足の状態を伝える.患者の反応を捉える.
①足の外観を見る(足の変形や爪・皮膚の状態)
②足の感覚をみる(足の触覚,痛覚,触圧覚,腱反射について筆・竹串・モノフィラメント・打腱器を用いてみる)
③足の血流をみる(足背・後脛骨動脈に触れる,サーモグラフィを用いて足の冷えを確認,血流計を用いて血流音を聞く,上腕と下肢の血圧を測定し血流を確認する)
血流が改善する足の手入れ 30分 血流の改善につながるケアを実施する(足浴,爪切り,角質のケア,保湿,マッサージ,足の体操)
足の手入れ後の血流の観察 5分 手入れ後に,再度足の血流をみることで血管や血流を体感できるようにする.
身体の調子や生活の確認 10分 生活状況や身体の調子を尋ねる. 
健康のために取り入れようと考えていることを確認する.

このフットケアプログラムでは,患者が血管内に生じている変化を理解することを目指しており,「足への関心を促す・足の観察」,「血流が改善する足の手入れ」,「足の手入れ後の血流の観察」,「身体の調子や生活の確認」の4つの内容が含まれていた(表1参照).介入の糸口として看護師が足の観察や手入れを行い,患者の足への関心を引き出していった.足の感覚や血流の観察では,正常か異常を判断し伝えるのではなく,足に起こっていることを伝え,患者の反応を捉えた.血流は,赤外線サーモグラフィ(Thermo shotF30アビオ社)を用いて足の皮膚温をカラースケールで表したり,超音波血流計(smartdop45ハデコ社)で下肢動脈の血流音を聴いたり,画面に表示される脈波形を見ることを通してその状態を示していった.その後血流改善のための足浴やマッサージ,足の体操など足の手入れを実施し,再度血流をみることで血管や血流を体感できるよう関わった.このプログラムでは,看護師から療養法の指示は行わず,患者に身体の調子や生活状況を確認したり,患者自身が考えている療養方法やその理由を尋ねたりすることを基本とした.患者の考えている療養方法が身体によくないと判断した場合や,対象者が希望した場合のみ療養方法ついて助言を行った.

3. 測定項目

本研究は,「血管障害の理解を促すフットケアプログラム」の介入効果を検討する準実験研究であり,単群にケア介入を4回行い,前後で効果を検討した.対象者の基礎情報は,介入開始前にカルテより情報収集を行った.血管障害が生じやすい身体の理解の変化,セルフケア行動の変化およびセルフケア能力の変化については,1回目の介入前と4回目の介入終了後に研究者が対象者に質問紙を手渡し,記入後は封筒に入れた状態で回収をした.

1) 対象者の基礎情報

介入開始前に,年齢,糖尿病罹病期間,HbA1c,身長,体重,教育入院や栄養指導の経験の有無についてカルテより情報を得た.

2) 血管障害が生じやすい身体の理解の変化

血管障害が生じやすい身体の理解の程度についてVisual Analogue Scale(以下VASとする)で評価した.「自分の血管や血流の状態がわかりますか」「動脈硬化がおこりやすい生活がわかりますか」という2つの問いについて,VASを用いて,「まったくわからない(0 cm)」,「とてもよくわかる(10 cm)」のうち患者の感覚に近い部分に印を付してもらい,印をいれた部分の長さを計測し,その変化から患者の主観的な身体の理解の深まりを評価した.

3) セルフケア行動の変化

糖尿病足病変の予防に必要なセルフケア行動である,食事・運動・薬物治療の継続・喫煙・フットケア行動の変化を評価した.評価には日本語版the Summary of Diabetes Self-Care Activities measure(以下SDSCAとする)(大徳・江川,2004)を用いた.SDCCAは,糖尿病患者のセルフケア行動を評価する尺度として米国で開発され,食事,運動,血糖自己測定,服薬管理,フットケア,喫煙の6因子,30の質問で構成された質問紙である(Toobert et al., 2000).回答は自記式で,過去7日間において,どのくらいセルフケア行動がとれたのか尋ねるものであり,セルフケア行動がとれた日を1点とし,各項目につき0~7点で点数化され,総得点が高いほどセルフケア行動が行えたことになる.日本語版SDSCAは,その信頼性と妥当性が示されている(大徳ら,2006).

4) セルフケア能力の変化

セルフケア能力は,SCAQ-30(本庄,2008)を用いて評価した.SCAQ-30は,慢性疾患を持つ患者のセルフケア能力を評価するために,慢性疾患を持つ当事者とケアをする看護師の両者の視点を統合させて作成され,「健康に関心を向ける能力」「選択する能力」「体調を整える能力」「生活の中で続ける能力」「支援してくれる人を持つ能力」の5つの構成概念を含んだ30項目の質問紙である.質問は自記式で,それぞれの質問に1(いいえ),2(どちらかというといいえ),3(どちらともいえない),4(どちらかというとはい),5(はい)の中からあてはまる数字に丸印をつけ回答する形式であり,得点が高いほどセルフケア能力が高いことを表す.SCAQ-30の信頼性と妥当性は確認されている(本庄,2007).

4. 分析

すべてのデータは平均値±標準偏差(SD)で示した.VAS得点は,ベースラインと介入後で対応のあるWilcoxon符号順位検定を用いて分析した.SDSCAとSCAQ-30の得点は,介入前後でt検定を用いて比較した.SDSCAは総得点および6つのセルフケア行動ごとに,SCAQ-30は総得点および5つの要素ごとの得点について分析を行なった.それぞれの介入前後の変化と対象者特性(年齢,性別,糖尿病罹病期間,教育入院経験の有無,ベースラインのHbA1c,BMI)との関連は,Pearsonの相関係数を用いて分析した.分析は,統計解析ソフトIBM SPSS® Statistics Ver. 23.0を用い,有意水準はすべて5%未満とした.

5. 倫理的配慮

本研究は,兵庫県立大学看護学部・地域ケア開発研究所研究倫理委員会(2019R01),及び研究協力施設の倫理審査(2019年度第3号)の承認を受け実施した.医師には,研究対象者の紹介にあたり,強制力が働くことがないように本研究の参加は自由意思で選べること,辞退しても不利益がないことの説明を依頼した.紹介された候補者には,書面を用いて研究の目的や介入方法,協力内容を説明し,研究参加は自由意思であること,参加後も中断が可能であること,個人情報の保護について約束することを説明した上で,署名による同意を得た.SCAQ-30,SDSCAの使用にあたり作成者に許可を得た.

Ⅲ. 結果

1. 対象者の概要

研究参加に同意が得られた20名のうち介入およびすべてのデータ収集が完了した16名(男性10名,女性6名)を分析対象とした.介入中断となった4名は,他疾患の治療のため転院となった者や外来受診日の変更により介入ができなかった者,麻痺やしびれが強く介入のための姿勢保持や移動が困難であった者であった.介入は外来受診日に合わせ実施し,介入期間は12~20週間(平均16.3 ± 4.3週間)であった.

参加者16名の概要を表2に示す.16名のうち9名が過去に教育入院歴があり,入院はないが栄養指導をうけたことがある者1名,教育入院も栄養指導を受けたことがない者が6名いた.また,糖尿病以外に脂質異常症で治療中の者10名,高血圧で治療中の者8名が含まれていた.現在も喫煙している者は2名であった.

表2  対象者の介入開始時の概要(n = 16)
項目 平均±SD
年齢(歳) 69.0 ± 8.9
糖尿病罹病期間(年) 7.8 ± 2.9
介入時HbA1c(%) 8.5 ± 1.4
介入時BMI 24.5 ± 4.0

2. 血管障害が生じやすい身体の理解の変化に関する主観的評価(VAS)

表3に介入前後の血管障害が生じやすい身体の理解に関する主観的評価の変化について示す.フットケアプログラムの介入前後で「血管や血流の状態がわかる」という主観的評価(VAS)は有意に高くなった.ベースライン時まったくわからないという0 cmに印を付したものが2名いたが,この2名を含め全員が介入後の主観的評価で高まりが見られた.一方,「動脈硬化が起こりやすい生活がわかる」においては,主観的評価は高まったものの有意な差は認められなかった(p = 0.06).

表3  介入前後の血管障害が生じやすい身体の理解の深まりに関する主観的評価(VAS)の変化(n = 16)
VAS ベースライン 4回介入後 介入前後の差
血管や血流の状態 2.8 ± 2.2
(0~7.9)
5.7 ± 2.5
(1.9~9.7)
p < 0.001
動脈硬化が起こりやすい生活 4.2 ± 2.0
(7.5~9.0)
5.5 ± 1.9
(2.4~8.8)
p = 0.06

平均値±SD(最小~最大),Wilcoxon signed-rank test

3. セルフケア行動の変化

セルフケア行動のうち運動,食事,服薬管理,血糖測定については介入前後で有意な変化はなく,喫煙については2名しか対象者がいなかった.フットケアについては,合計得点の平均値において介入前後で有意に向上が認められ,足のチェック,靴のチェック,指の間の拭き取りに関する下位項目においても有意に高まった(表4).対象者16名のうち13名に合計得点の上昇がみられ,低下した3名についても低下は1点~3点とわずかであった.また,フットケア行動の合計得点の変化は,罹病期間とは負の相関関係が認められ(図1),一方,年齢との関連が認められなかった(図2).

表4  フットケアプログラム介入前後のSDSCAによるフットケア行動得点の変化(n = 16)
フットケア ベースライン 4回介入後 介入前後の差
①足のチェックを行った日は何日ありますか 2.8 ± 2.9
(0~7)
5.7 ± 2.2
(1~7)
p < 0.001
②靴の中のチェックを行った日は何日ありますか 0.9 ± 2.1
(0~7)
3.5 ± 2.6
(0~7)
p < 0.001
③足を洗った日は何日ありますか 6.6 ± 0.8
(5~7)
6.1 ± 1.9
(0~7)
NS
④入浴した(足をお湯に浸した)日は何日ありますか(ただし,シャワーで流しただけの場合は除く) 4.9 ± 1.9
(2~7)
5.1 ± 2.3
(0~7)
NS
⑤足を洗ったあと,指と指の間をきれいに拭いた日は何日ありますか 3.6 ± 2.9
(0~7)
5.7 ± 2.1
(0~7)
p < 0.05
合計得点
35点満点
18.9 ± 5.1
(12~31)
26.1 ± 6.3
(12~35)
p < 0.001

平均値±SD(最小~最大),Paired-t test,NS:not significant

図1 

罹病期間とフットケアに関するセルフケア行動得点の介入前後の変化率の関連(n = 16)

*変化率(%)=(介入後/介入前)×100

図2 

年齢とフットケアに関するセルフケア行動得点の介入前後の変化率の関連(n = 16, r = .23, not significant)

*変化率(%)=(介入後/介入前)×100

4. セルフケア能力の変化

表5にフットケアプログラム介入前後のSCAQ-30の合計得点と下位項目別得点の変化を示した.介入前後においてSCAQ-30で評価したセルフケア能力の合計得点は有意な向上を認めた.下位項目においても「健康のために選んでいること」以外は有意な向上が見られた.16名のうち13名は介入後に得点が上昇していた.一方,低下した3名には,年齢や罹病期間,HbA1cなど共通の特性は見られなかった.

表5  フットケアプログラム介入前後のSCAQ-30の合計得点と下位項目別得点の変化(n = 16)
SCAQ-30下位項目 ベースライン 4回介入後 介入前後の差
健康のために気をつけていること(25点満点) 18.3 ± 2.4
(15~23)
19.4 ± 2.7
(15~25)
p < 0.05
健康のために選んでいること(25点満点) 17.3 ± 1.5
(14~20)
18.1 ± 1.8
(15~21)
NS
体調を整えること(30点満点) 18.8 ± 2.5
(13~23)
21.5 ± 2.4
(16~24)
p < 0.01
生活の中で続けること(35点満点) 15.2 ± 4.5
(11~25)
21.1 ± 4.5
(16~32)
p < 0.01
支援してくれる人をもつこと(35点満点) 25.6 ± 2.1
(21~28)
27.3 ± 2.8
(22~32)
p < 0.05
合計得点(150点満点) 95.1 ± 13.0
(86~108)
107.4 ± 10.9
(91~133)
p < 0.001

平均値±SD(最小~最大),Paired-t test,NS:not significant

Ⅳ. 考察

本研究は2型糖尿病患者を対象に,サーモグラフィや血流計を用いたフットケアプログラム介入を実施し,その介入前後で血管障害の理解やフットケア行動,セルフケア能力の変化を検討した.本フットケアプログラムの介入により,血管や血流の状態の理解が促され,フットケア行動に変化が見られた.さらに,本プログラムはフットケアを糸口とした介入であったが,フットケア行動だけでなく患者のセルフケア能力の向上が示された.

フットケア介入により,フットケアの知識は獲得できる(Corbett, 2003Ahmad Sharoni et al., 2018)ことが報告されている.しかし,身体の理解が促されるかは明らかになっていなかったが,本フットケアプログラムの介入により,糖尿病患者の血管障害の理解は深まっていた.人は生まれつきそなえている感覚に注目し身体を感じ取ることで,自分の身体を理解していくことができるといわれている(Merleau-Ponty, 1945/1967).本フットケアプログラムにおいても自分の血管に触れたり,サーモグラフィや血流計を用いて視覚的にまた聴覚的に自分の血管を感じ取ったことで,自分の身体の血管障害を理解していくことができたと考えられた.血管障害の早期診断や潰瘍の早期発見に有用であることが示されていたサーモグラフィや血流計(Ilo et al., 2021Mori et al., 2013Oe et al., 2017)は,患者自身が自分の身体を理解していく上でも有用である可能性が示唆された.今後のフットケア教育においては,看護師が患者の足に直接触れたり,感覚を刺激したりすることで患者が自分の身体を感じ取れるような介入を取り入れていくことが重要と考えられた.

本研究においてフットケア介入前後でSDSCA得点が有意に上昇した.この結果はフットケア介入により,フットケア行動の獲得が促されたという先行研究(Borges & Ostwald, 2008Lincoln et al., 2008Ahmad Sharoni et al., 2018Nguyen et al., 2019)と一致した.また実際にフットケアを体験した方がセルフケア行動を高めるという報告(大徳・江川,2004)や,フットケアの実践的スキルの習得を含むプログラムがセルフケア行動を高めるという報告(Nguyen et al., 2019)がある.本フットケアプログラムにおいても4回の介入すべてにおいて看護師が足浴や足の手入れを実施するプログラムであったことが患者のフットケア行動を高めることにつながったと推察された.さらに,糖尿病足病変の危険因子について62,681名を対象に調査したコホート研究(Al-Rubeaan et al., 2015)において,足病変の有病率は男性,年齢,糖尿病の罹病期間と関連があり,シャルコー関節や末梢動脈疾患,神経障害が足病変の高い危険因子であると報告されており,糖尿病患者へのフットケア介入は早期から積極的に行うことが望まれる.しかしながら,実際には血糖コントロールの悪化や合併症の発症など足病変発症リスクが高まったことを契機にフットケアが開始される場合も多い(Johnston et al., 2006Yıldırım Usta et al., 2019).本フットケアプログラムでは,罹病期間が短い人ほどフットケア行動を獲得しており,どの年齢においてもフットケア行動の獲得が見られた.本フットケアプログラムは,早期からフットケア行動の獲得を促すことができ,足病変の予防に有用と考えられた.

本フットケアプログラムは足に働きかけるプログラムであったが,フットケア行動のみならず,介入前後でセルフケア能力を高めることができた.先行研究において,フットケアにより看護師との信頼関係が構築された,足浴やマッサージという快刺激を感じ,自分のためにしてくれるのだから頑張ろうという気持ちが生まれ糖尿病のコントロールにつながったという報告がある(臼井ら,2007米田ら,2009).また看護師が個別的に継続的にフットケア介入を行った結果,3か月後,6か月後,1年後に副次的に運動に関するセルフケア行動が高まったという報告がある(大徳ら,2007).本研究においても看護師が身体に直接働きかけるフットケア介入を行ったことで,信頼関係が構築され,身体の理解が深まったことで,フットケア行動の獲得だけでなく,糖尿病患者の療養に対する考えや行動に変化を与え,セルフケア能力が向上した可能性がある.セルフケア能力の向上は,従来の知識教育で難しかった療養の継続に対しても効果をもたらす可能性があると思われた.今後,本フットケアプログラムの対象を広げ,長期的な効果検証をしていくことが課題である.

Ⅴ. 結論

サーモグラフィや血流計を用いたフットケアプログラム介入を実施し,その介入前後で血管障害の理解やフットケア行動,セルフケア能力の変化を検討した.その結果,本フットケアプログラムは,糖尿病患者の身体への関心を高め,フットケア行動やセルフケア能力を改善する看護支援となる可能性が示唆され,より早い介入の必要性が示された.糖尿病患者の療養を支援していける可能性が示唆された.

付記:本研究は博士論文に加筆・修正を加えたものである.本論文の一部は,第40回日本看護科学学会学術集会において発表した.

謝辞:本研究に参加いただいた患者様に深く感謝いたします.また主査・副査としてご指導いただきました森菊子先生,野並葉子先生,内布敦子先生,坂下玲子先生,宮脇郁子先生,論文作成にあたりご指導いただきました柴田真志先生に感謝いたします.

利益相反:本研究における利益相反は,存在しない.

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