Journal of Japan Academy of Nursing Science
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The structure of Support by Visiting Nurse for End Stage Patients with Chronic Obstructive Pulmonary Disease
Chikako Umezu
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2022 Volume 42 Pages 745-752

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Abstract

目的:COPD患者の終末期における訪問看護師の支援の構造を明らかにする.

方法:関東圏内の訪問看護師を対象として半構造化面接を行い,グラウンデッド・セオリー・アプローチ(Strauss & Corbin, 1990/1999)を用いて分析した.

結果:COPD患者の終末期における訪問看護師の支援は,《呼吸が苦しくても生きるために必要な意志を支え抜く》という現象を中核カテゴリーとして,この現象に関連する《呼吸の苦しさと全身症状を照らし合わせて予後を見通す》《身体の衰えに限界を感じる自らを許していく過程を見守る》《自己の存在意義と生きる意味の消滅から生じる苦痛を取り除く》《最期の時まで希望する療養の立て直しを助ける》《呼吸の苦しさと不安を取り除いて静かな命の終焉を目指す》という5つの主要カテゴリーと,13のカテゴリーで構成された.

結論:COPD患者の終末期における訪問看護師の支援は,死を想定しながらも自立した状態での生活維持を懇望する患者の意志を貫く生き方を実現するプロセスであった.

Translated Abstract

Objective: To clarify the structure of the support provided by home-visiting nurses to chronic obstructive pulmonary disease (COPD) patients during the disease’s terminal stage.

Methods: Semi-structured interviews were conducted with home-visiting nurses in the Kanto region and the data analyzed using the grounded theory approach by Strauss & Corbin (1990/1999).

Results: With “supporting the will needed to live even if breathing is difficult” as the core category, the support provided by the participants during COPD patients’ terminal stage was classified into five main categories—“providing a prognosis by comparing breathing difficulty and systemic symptoms,” “watching over the process of forgiving oneself feeling the limitations placed by one’s physical decline,” “eliminating the pain arising from the disappearance of the meaning of one’s own existence and of life,” “reconstructing the desired medical treatment until the final moments,” and “aiming for a peaceful end by eliminating breathing difficulty and anxiety”—and 13 categories.

Conclusion: The support provided by the participants was a process of realizing a way of life in accordance with the patient’s wish to retain their independence even with death near.

Ⅰ. はじめに

2008年に17.3万人であったCOPD患者数は,2022年には22.0万人まで増加している(厚生労働省,2020).喫煙率が70%を超え続けた1987年以前の20歳代人口が75歳を迎える2042年までCOPD患者数は増加すると見込まれる.在宅医療の充実と在宅移行の推進に伴い,在宅で終末期を迎えるCOPD患者は増加すると推測され,訪問看護師による支援の重要性が増している.

COPD患者の看護に関する先行研究では,COPD患者の安定期や急性増悪後,軽症・中等症患者,重症患者を対象とした研究が多く行われ,COPD患者の日常的な呼吸困難(松本・土居,2006),急変時の対応の困難(松本・竹川,2015),ADLの身体的負担(松本・竹川,2015),希望する療養場で療養を継続することの困難(桑原田ら,2013),Spiritualな背景につながる可能性のある悩み(有田ら,2008)があり,COPD患者はこれらの療養上の困難を抱えて生活していることが明らかにされている.

COPD患者の終末期に焦点を当てた先行研究では,チームによる在宅緩和ケアの有効性(Brumley et al., 2003),予後に関する情報提供の必要性(Iley, 2012)が明らかにされている.さらにCOPD患者の緩和ケア導入時期も検討(Vermylen et al., 2015)されており,COPD患者の終末期医療や緩和ケアの提供に際しては,意思決定支援を急性増悪の前後に行う必要性(Iley, 2012)が報告されている.

COPD患者の終末期医療や緩和ケアに関する研究は,世界的にも広がりを見せており,日本においても関心は高まっている.COPD患者の終末期に現れる症状は,薬物対症療法だけでは解決困難なことが多く,患者の苦痛を共感できる人による支えが重要であると考える.COPD患者の在宅療養生活におけるQOLの維持に向けて,COPD患者の終末期における支援を探究することが求められる.先行研究では,慢性期の患者の療養に着目した検討が多く,訪問看護師の支援に関する報告は少ない.COPD患者の終末期における訪問看護師の支援を検討した看護研究は取り組まれていない現状である.本研究では,COPD患者の終末期における訪問看護師の支援の構造を明らかにする.

用語の定義

COPD患者の終末期:日本学術会議臨床医学委員会終末医療分科会(2008)は,終末期を「病状が進行し,積極的な治療を断念し,生命予後が半年あるいは半年以内と考えられる時期」としている.本研究では,COPD患者の終末期をCOPDと診断されて,COPDを主疾患として訪問看護を利用する在宅療養者の亡くなる前の約6か月間と定義する.

Ⅱ. 研究方法

1. 研究参加者

関東圏内の機能強化型訪問看護事業所に勤務し,COPDと診断されて訪問看護を利用しながら自宅療養していた人の終末期における看護を経験した訪問看護師歴3年以上の訪問看護師とした.

2. データ収集期間

2017年12月~2018年7月

3. データ収集方法

研究参加者に対して,1人につき原則1回60分程度の半構造化面接を実施した.インタビュー内容は,過去に担当したCOPD患者の終末期における療養の経過,および実践した支援内容とし,研究参加者の同意を得たうえで録音した.データ収集とデータ分析は交互に行い,理論的に重要な概念を生成するために理論的サンプリングを用いた.理論的飽和に至ると判断する基準は,データから新たに重要な概念が生成されなくなり,カテゴリー間の関係の精密化と妥当性が確認される状態とした.

4. 分析方法

分析方法は,グラウンデッド・セオリー・アプローチ(Strauss & Corbin, 1990/1999)を用いた.具体的な分析手順を以下に述べる.

1) オープンコード化

録音したインタビュー内容の逐語録を作成し,研究参加者が捉えた患者の状態変化,捉えたことに対する判断,それに対する支援内容または取り組み,その結果として起こったことや,起こった変化に着目してコード化した.コード化したデータは,特性と次元を用いてデータの内容に即したラベルを付けた.類似性や相違性に着目しながらラベルをグループにまとめて,カテゴリーを生成した.

2) 軸足コード化

各現象に関わるカテゴリーのうちの一つをカテゴリー,他をサブカテゴリーと位置づけて各現象を表した.その際,カテゴリーとサブカテゴリーの関係を理解しやすくするために,Strauss & Corbin(1990/1999)の提唱する「条件」「現象」「文脈」「行為/相互行為」「帰結」を参考にして,カテゴリー間の結びつきを整理した.

3) 選択的コード化

すべてのカテゴリーに関連し,訪問看護師の支援を説明できる中核となるカテゴリーを選定した.中核となるカテゴリーを選定した後,中核となるカテゴリーと関連するカテゴリーを用いて,COPD患者の終末期における訪問看護師の支援を説明するストーリーラインを記述した.

5. 妥当性と信頼性の確保

全ての分析過程において,質的研究に詳しい研究者からのスーパーヴィジョンを受け,研究の説得力や一貫性についての評価を得た.

6. 倫理的配慮

研究参加者に対して,研究者自身が研究の趣旨,本研究への参加は自由意志であること,研究参加に同意しない場合の不利益は一切生じないこと,研究参加への同意はいつでも不利益を被ることなく撤回できること,同意撤回による不利益は一切生じないことを口頭にて説明した.本研究は,日本赤十字看護大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号2017-079).本研究における利益相反は存在しない.

Ⅲ. 結果

1. 研究参加者および語られたCOPD療養者

研究参加者および語られたCOPD療養者の属性を表1に示す.研究参加者は,関東圏内の一都三県にある機能強化型訪問看護事業所18施設,訪問看護師18名,平均インタビュー時間は61(SD ± 4.6)分であった(表1).

表1  研究参加者と語られた事例の属性
訪問看護師 利用者
ID 年代 訪問看護師経験年数 終末期の認識時期 年代 性別 訪問看護利用年数 介護者 ADL自立度 HOT流量(L) オピオイド使用の有無 訪問診療の有無 最期の療養場
A 40代 3年 5か月前 80代 男性 2年6か月 内縁妻 部分介助 1~2 病院
B 30代 10年 5か月前 80代 男性 5年4か月 ほぼ自立 2 病院
C 50代 6年 4か月前 80代 男性 3年 ほぼ自立 2~3 自宅
D 40代 4年 3か月前 50代 男性 3か月 母親 部分介助 5~7 病院
E 50代 18年 3年前 90代 男性 6年 長男嫁 部分介助 1~3 自宅
F 50代 17年 2か月前 90代 男性 10年 部分介助 2~3 病院
G 50代 20年 11か月前 80代 女性 11か月 長男嫁 部分介助 3~5 自宅
H 50代 7年 3か月前 70代 男性 3か月 全介助 3~5 自宅
I 50代 14年 1年前 80代 男性 1年 部分介助 1~2 病院
J 40代 10年 2年前 60代 男性 2年 全介助 4~7 病院
K 40代 6年 1~3か月前 90代 男性 5年 長男 ほぼ自立 2.5~4 病院
L 50代 10年 3か月前 80代 男性 1年6か月 部分介助 2.5~3.5 自宅
M 50代 8年 6か月前 80代 男性 6か月 部分介助 1.5~3 自宅
N 50代 16年 6か月前 80代 男性 1年6か月 長男嫁 ほぼ自立 1.5 自宅
O 50代 16年 5か月前 80代 男性 5か月 長女 全介助 2~3 自宅
P 50代 7年 1か月前 80代 男性 6か月 部分介助 1~4 病院
Q 30代 5年 1年前 70代 男性 1年2か月 ほぼ自立 1~5 病院
R 40代 14年 1年前 70代 男性 1年4か月 内縁妻 部分介助 1~2 自宅

2. COPD患者の終末期における訪問看護師の支援を構成するカテゴリー

COPD患者の終末期における訪問看護師の支援を構成するカテゴリーとして,《呼吸の苦しさと全身症状を照らし合わせて予後を見通す》《身体の衰えに限界を感じる自らを許していく過程を見守る》《自己の存在意義と生きる意味の消滅から生じる苦痛を取り除く》《呼吸が苦しくても生きるために必要な意志を支え抜く》《最期の時まで希望する療養の立て直しを助ける》《呼吸の苦しさと不安を取り除いて静かな命の終焉を見守る》の6つの主要カテゴリーと,13カテゴリー,33サブカテゴリーが抽出された(表2).

表2  COPD患者の終末期における訪問看護師の支援を構成するカテゴリー
主要カテゴリー カテゴリー サブカテゴリー
状況 呼吸の苦しさと全身症状を照らし合わせて予後を見通す 呼吸の苦しさと身体の衰えから生じる生活の変化に気づく 安定した状態が慢性的に継続していた時期とは異なる症状の変化を詳細に捉える
呼吸の苦しさの程度と全身症状の変化を結び付けて今後の見通しをイメージする
予期できない急激な病状悪化と死に至る可能性を共有する 普段と変わらない日常生活を継続する過程で予兆なく死に至る可能性を認識する
病状の安定と増悪の可能性を織り交ぜながら起こりうる可能性を患者や家族に知らせる
戦略 身体の衰えに限界を感じる自らを許していく過程を見守る 体力と気力の限界を受け入れる気持ちの変化に寄り添う 緩やかに悪化していく病状とともに切迫した病状を受け入れていく姿に寄り添う
身の回りのことを他者の力を借りて委ねることに抵抗感を抱く気持ちを受けとめる
病状と向き合いながら生き抜く闘志と回復意欲をまもる 患者の生き方やあり方を実現するために自らに課している日常生活の目標を分かち合う
身の回りのことができなくなっていく身体の限界に立ち向かう心情に寄り添う
戦略 自己の存在意義と生きる意味の消滅から生じる苦痛を取り除く 生活動作の自立を継続して自尊心と尊厳を守る 病気に向き合う姿勢や人生観,性格的な特性に応じて必要とされる支援を見分ける
最期まで自律した存在であり続けるために一つひとつの自己決定を積み重ねる
身の回りのことを自立して行いたい患者の意志を尊重して生きるために必要な誇りを守る
アイデンティティと存在意義の揺らぎを鎮める これまで生きてきた患者の語りを傾聴して人との繋がりを感じられる機会をつくる
患者の輝いていた時間を共有して療養生活への気力とエネルギーを引き出す
中核 呼吸が苦しくても生きるために必要な意志を支え抜く 呼吸困難を最小に抑えて生活動作の自立を叶える 呼吸筋群をほぐす手当てや圧迫するタッチングを通して心のふれ合いを持つ
呼吸が楽になった患者自身の経験を見つけてポジティブな感情を持てる瞬間を共有する
心身機能の維持をはかり身体に負担の少ない範囲でADLの拡大を目指す
急変時の療養の安定をはかり療養継続の希望をつなぐ 病院治療と在宅治療を継続的に行う診療体制を整えて急変時の迅速な対応をはかる
増悪を予防するケアを継続的に行うとともに在宅看取りに至る可能性を視野に入れる
文脈 最期の時まで希望する療養の立て直しを助ける 長期に渡る療養で築き上げた生活時間と生活空間をまもる 自由な生活時間と生活行動のペースでできるだけ長く家で暮らす手立てを見つける
病院または在宅の患者を取り巻く医療と人や空間の違いについてイメージを持つことを助ける
患者や家族と連帯感を形成して患者の心身疲労と家族の介護負担が積み重なる苦しい局面を乗り越える
長期に渡る療養で生じた患者と家族の不和軋轢を調整する 常に呼吸困難のある患者とともに生活して苦しむ姿を見続ける家族の心身の辛さを受けとめる
呼吸困難の増強による患者の性格変化について患者と家族双方の気持ちの収拾をはかる
日常生活に抱く言葉にできない感情の橋渡しを担い患者と家族の関係性の均衡を取り成す
回復の可能性を見定めて自然な流れで療養場の決定に導く 患者の症状に変化が生じたタイミングを逃さずに急変時の治療と療養場について話し合う
回復の可能性を信じて治療を受けずに臨終を迎えることに葛藤を抱く家族の思いを汲み取る
患者の希望する療養場で療養を継続することの不確実性を認識したうえで療養場を徐々に決定する
帰結 呼吸の苦しさと不安を取り除いて静かな命の終焉を目指す 死と向き合いながら力尽きるまで生きる孤独を和らげる 24時間の緊急コールを受けて直ぐに駆けつける身近で馴染みのある存在となる
呼吸の苦しさや弱音を露わにできる拠り所となり生活の場で感じられる安らぎをはからう
次第に動けなくなっていくことや呼吸困難がもたらす不安や恐怖に向き合う孤独を取り除く
自然死のように穏やかな看取りを迎える覚悟の形成に寄り添う SpO2の値に左右されずに患者の訴える「苦しさ」に寄り添う
安定した状態が慢性的に継続していた時期とは異なる苦しさを和らげる
死の間際まで普段と変わらない日常生活を継続して眠るように静かな最期の時を見守る

3. COPD患者の終末期における訪問看護師の支援の構造

1) 中核となるカテゴリー

COPD患者の終末期における訪問看護師の支援は,《呼吸が苦しくても生きるために必要な意志を支え抜く》という現象を中核カテゴリーとして,この現象に関連する5つの主要カテゴリーで構成された.《呼吸が苦しくても生きるために必要な意志を支え抜く》は,訪問看護師の語りから何度も頻回に抽出された概念であり,その他の全ての主要カテゴリーと関連づけられ,統合することによって,現象全体の説明力を増していくことができ,《呼吸の苦しさと不安を取り除いて静かな命の終焉を目指す》へ向かうプロセスに影響を与える重要な概念であり,COPD患者の終末期における訪問看護師の支援の中核となる現象であった.(図1

図1 

COPD患者の終末期における訪問看護師の支援の構造

2) ストーリーライン

訪問看護師は,患者の予後を予測する困難さを感じながらも,それまでとは異なる患者の【呼吸の苦しさと日常生活を営む機能の変化に気づく】ことや,いつ何が起こるかわからない状態にあることを捉えて患者や家族と【予期できない急激な病状悪化と死に至る可能性を共有する】ことを通じて,死が差し迫るにつれて《呼吸の苦しさと全身症状を照らし合わせて予後を見通す》ことができると感じていた.訪問看護師は,患者の予後を見通しながら,患者に残された時間をはかり,【体力と気力の限界を受け入れる気持ちの変化に寄り添う】ことや,【病状と向き合いながら生き抜く闘志と回復意欲をまもる】ことを通じて,《身体の衰えに限界を感じる自らを許していく過程を見守る》という立場をとっていた.そして,【生活動作の自立を継続して自尊心と尊厳を守る】ことは【アイデンティティと存在意義の揺らぎを鎮める】ことに繋がると気づき,患者を脅かす自律性の危機を回避することによって《自己の存在意義と生きる意味の消滅から生じる苦痛を取り除く》ようにしていた.訪問看護師は,患者の生活方法へのこだわりをそのまま持ち続けるためには,労作時に現れる【呼吸困難を最小に抑えて生活動作の自立を叶える】ことや【急変時の療養の安定をはかり療養継続の希望をつなぐ】ことが必要であると感じていた.そうすることで,患者の自らの限界を感じながらも何とか持ち堪えようと頑張り続ける患者の意志を尊重して,《呼吸が苦しくても生きるために必要な意志を支え抜く》ことができるようにしていた.

訪問看護師は,治療内容や療養場の意向について,何よりも患者が【長期に渡る療養で築き上げた生活時間と生活空間をまもる】ことのできる療養を優先し,できるだけ長く患者の希望する在宅での生活を続けていけるように【長期に渡る療養で生じた患者と家族の不和軋轢を調整する】ことで,患者と家族の関係性を取り持ち,家庭での患者の孤立を防ぎ,家族の協力の得られる療養環境を整えていた.そして,急性増悪を起こした際には,【回復の可能性を見定めて自然な流れで療養場の決定に導く】という働きかけを通じて,《最期の時まで希望する療養の立て直しを助ける》ことを何度も繰り返していた.訪問看護師は,患者の精神的なストレスを感じる出来事を把握して対応することで【死と向き合いながら力尽きるまで生きる孤独を和らげる】ことに繋げていた.そして,【自然死のように穏やかな看取りを迎える覚悟の形成に寄り添う】ことができるように家族や関係多職種と力を合わせ,在宅と病院のどちらで療養する場合においても,《呼吸の苦しさと不安を取り除いて静かな命の終焉を目指す》ようにして,患者の死後に遺された家族が,苦しまなくて良かったと思える終末や,安堵に繋がる終末を迎えられるように働きかける役割を担っていた.

Ⅳ. 考察

1. 訪問看護師が捉える患者の生きるために必要な意志

訪問看護師の支援のプロセスにおいて,中核となる支援は,《呼吸が苦しくても生きるために必要な意志を支え抜く》であった.訪問看護師は,COPD患者の身の回りのことができなくなっていくことについて,日常の一つひとつの物事を自らの意志のとおりに決めて行う機会が失われていくことを意味すると捉えていた.COPD患者は,呼吸が苦しくても,自身のペースでゆっくりと呼吸を整えながら動作を行うことができ,自身の身の回りのことを自身で行える生活を望んでいる.訪問看護師は,終末期においても日常生活の継続を支え,患者の意志を支え抜いていた.松本・土居(2006)は,重症COPD患者の希望を脅かす要素として「活動を妨げる機会」を挙げ,「何もできなくなった」という感覚の体験は,自己や将来に対する落胆,悲嘆などの感情的苦痛を伴い,患者の希望を脅かすと述べている.本研究においても,訪問看護師は,療養者の希望を支えており,終末期における患者の希望は,最期まで持ち続ける自身の意志を貫くことであると考える.呼吸困難のある身体と向き合いながら生きてきた患者は,自分らしく居ることをより強く望み,自律した存在であり続けたいと強く願い,その望みや願いを叶えることは,自分として生きるために必要な存在意義を確認する手段であり,目標である.患者にとって身の回りの最低限のことを自分で決めて行えることは,自己を保つ,維持する,認めるためのアイデンティティであり,これらの心理的側面や霊的側面への支援は,患者の意志を貫く生き方を実現する看護の実践において戦略的に行われる重要な支援であると考える.藤原ら(2021)は,患者の意に添うことで患者・家族等の背景やさまざまな価値観・死生観の持つ意味が見え,その人らしく人生を全うできる終末期ケアにつながると述べている.本研究においても訪問看護師は,身の回りのことができなくなっていく自らを諦めるのではなく,最期まで自分で選んで決めたことを貫き,できなくなっていく自分を受容しながら,最期まで生きることを支えていたと考える.

訪問看護師は,次第に悪化していく身体の状態を一番よく理解しているのは,何度も自分の身体の回復に期待して,何度も自分の身体に裏切られることを繰り返し,常に呼吸困難を感じながら生活している患者自身であると捉えていた.訪問看護師は,行き戻りする病状の過程を見守ることにより,患者は日常的な苦しみを何とか持ち堪えながら,生活動作ができない程に低下した身体機能の衰えを目の当たりにして病状を受け入れていくと考えられた.森本(2010)は,病気の再解釈が高い場合には,ストレス認知の高低で精神的健康に及ぼす影響に違いは認めないと述べている.訪問看護師は,死に至る可能性のある病気であることを知らせながら,患者が安楽に過ごすための方法が残されていることを示して,今後も継続する在宅療養における生活動作の自立を叶える働きかけを行い,療養のバランスを取りながら支援することが求められる.

2. 訪問看護師が展開する患者の静かな命の終焉を目指すケア

訪問看護師の支援のプロセスにおいて,帰結となる支援は,《呼吸の苦しさと不安を取り除いて静かな命の終焉を目指す》であった.永山ら(2021)は,エンドオブライフに関わる看護師の死生観について,どれだけ自然な形で死を迎えられるようにすることができるのか,看護師はケアを通して見出していると述べており,本研究結果の訪問看護師による自然死のように穏やかな看取りに向けた支援と共通していた.COPD患者の意志を貫く生き方の実現には,呼吸困難の増強が影響しており,呼吸困難を最小限に抑える取り組みは重要である.訪問看護師は,COPD患者の呼吸困難は,死への恐怖を助長し,その心理状態が呼吸困難をさらに増強させると捉えていた.訪問看護師は,呼吸困難と死への恐怖の双方を癒すために,患者の孤独を和らげる支援を展開していた.訪問看護師は,親しみのある暮らしの環境で,患者や家族と憩いの時間を共有し,長期に渡る療養経過の中で失われた社会との繋がりを取り戻すとともに,家の中での限られた生活の世界を広げ,家の中での孤立を回避し,孤独感を和らげることに繋げていたと考える.

COPD患者の終末期においては,COPDの経過の中で最期を迎える場合と,増悪を機会に急速に終末期を迎える場合があり(藤原ら,2021),併存疾患の種類や年齢によって,死に直面する時期がそれぞれに異なり,多くの場合,死の間際になって死を認識する.いつ死が訪れるかわからない不確実な状態は,COPD患者の不安や恐怖に向き合う孤独を増大させると考えられ,訪問看護師による24時間の緊急対応によって支えられていた.終末期にあるCOPD患者は,不公平感,孤独感,無意味感というSpiritualな背景につながる可能性のある悩みを抱えているとの報告(有田ら,2009)があり,本研究においての訪問看護師によるスピリチュアルな支援は,呼吸困難による死への恐怖や不安に向き合う孤独を和らげ,死によって将来を喪失する覚悟を形成するものであると考える.死に臨む患者の将来の喪失について,終末期がん患者の場合は,がんという病気によって死をイメージし,死の接近によって将来を失う一方,COPD患者の場合は,慢性的な状態が長期に継続して,これまでと変わらない生活の継続可能性があり続ける.COPDそのものによる死のイメージは薄く,呼吸困難の症状によって死に至るイメージを持ち,呼吸困難はHOTや休息によって軽減されることから,力尽きるまでCOPD患者が過去と将来とに支えられて生きる時間的存在として最期まで支え続けていたと考える.

COPD患者のスピリチュアルの特徴は,終末期がん患者と比較して早期に身体機能の低下が生じる(Lynn et al., 2000)ために,次第に動けなくなり自立と生産性が失われていく「自律性の喪失(村田,2003)」を長期に渡って常に持ち続けるスピリチュアルペインを抱えていることであると考える.さらに,COPD患者とがん患者との終末期におけるスピリチュアルケアの違いは,日頃からスピリチュアルペインを表出している患者とコミュニケーションを通じて,積極的に介入する機会があること,訪問看護師と患者の双方が,死に直結する呼吸困難という苦しみを日頃から目の当たりにして,スピリチュアルペインを共有していることであると考える.COPD患者のスピリチュアルペインは,身体的な自立を妨げて,目に見えて明らかにQOLの低下を助長し,患者のアイデンティティを脅かす.訪問看護師は,患者の日常生活動作の自立をできるだけ長く保つことで,ケアを他者に委ねることによって生じる患者の「自律性の喪失」というスピリチュアルペインを和らげて,自己の存在意義と生きる意味を守ることを助けていたと考えられ,力尽きるまで生きて静かな看取りを迎える「帰結」に向けて避けることのできない支援と考える.

Ⅴ. 研究の限界と今後の課題

本研究は,関東圏内の機能強化型訪問看護事業所を対象としており,語られたCOPD患者の性別,介護者の有無に偏りがあった.地域を限定してデータ収集を行う場合,在宅で療養する終末期のCOPD患者数は多くない.このため,本研究で設定したサンプリングの枠を取り外してデータを収集する必要がある.そのうえで,性別,介護者の有無,地域の特性による支援内容の差異を検証し,本研究の結果に統合していくことが必要である.

Ⅵ. 結論

COPD患者の終末期における訪問看護師の支援の構造は,《呼吸が苦しくても生きるために必要な意志を支え抜く》ことを中核カテゴリーとして,《身体の衰えに限界を感じる自らを許していく過程を見守る》ことや,患者の《自己の存在意義と生きる意味の消滅から生じる苦痛を取り除く》ことをしながら,緩やかに悪化していく病状とともに生活機能が衰退していく患者の《呼吸の苦しさと不安を取り除いて静かな命の終焉を目指す》という,死を想定しながらも自立した状態での生活維持を懇望する患者の意志を貫く生き方を実現するプロセスであった.

謝辞:本研究にご参加くださりました訪問看護師の皆様,そして,研究にご協力をいただきました訪問看護事業所の管理者の皆様,およびスタッフの皆様に深く感謝申し上げます.そして,本研究の過程において,ご助言をくださりました諸先生方に心より御礼申し上げます.本研究は,平成29年度「日本赤十字看護大学松下清子記念教育・研究助成金」研究事業,および平成30年度「学校法人日本赤十字学園教育・研究及び奨学金基金」研究事業の助成を受けて実施した.

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