Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Development of a Workplace Management Index Designed to Retain Human Resources in Community-based Welfare Facilities for Older Adults
Akemi OgataKanako OgisoNakako Fujiwara
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2022 Volume 42 Pages 819-828

Details
Abstract

目的:地域密着型特別養護老人ホームにおける職員を惹きつける職場運営指標を開発することである.

方法:東海地方の地域密着型特別養護老人ホームの全263施設の看護職と介護職の計1,315名を対象に,質問紙調査を実施し指標の妥当性と信頼性を検証した.

結果:分析対象204名(回収率15.9%,有効回答率98.1%)の探索的因子分析の結果,指標は【地域・施設間における資源の有効的活用】,【地域密着型特別養護老人ホームの強みを活かした取り組み】,【施設長のリーダーシップ】,【施設の魅力の情報発信】,【地域住民と施設の相互交流】の5因子38項目で構成された.指標の信頼性と妥当性を検討した結果,クロンバックのα係数は.836~.948,モデル適合度はχ2 = 1278.2,p < .001を示し,GFI = .749,AGFI = .716,CFI = .861,RMSEA = .068であった.

結論:構成概念妥当性についてはモデルの適合指数はやや低いものの内的一貫性,信頼性が確認できた.

Translated Abstract

Objective: This study developed a workplace management index intended to help retain human resources in community-based welfare facilities for older adults.

Methods: The validity and reliability of the index was examined using a questionnaire survey administered to 1,315 nurses and care staff working at 263 community-based welfare facilities for older adults in the Tokai region.

Results: Exploratory factor analysis of 204 participants (response rate = 15.9%; valid response rate = 98.1%) revealed that the index had a five-factor, 38-item structure. The five factors were “effective use of resources between the community and facility,” “efforts to leverage the strengths of community-based welfare facilities for older adults,” “leadership of the facility director,” “communicating information about the appeal of the facility,” and “interaction between community members and the facility.” Analysis of the index’s reliability and validity yielded Cronbach’s α coefficients of .836 to .948, a model fit of χ2 = 1278.2 (p < .001), GFI = .749, AGFI = .716, CFI = .861, and RMSEA = .068.

Conclusion: Although the model’s fit index for construct validity was somewhat low, its internal consistency and reliability were confirmed.

Ⅰ. 緒言

超高齢社会の現状を鑑み,高齢者の暮らしを支えるヘルスケアシステムは,病院完結型から地域完結型へシフトし,地域包括ケアシステムが推進されてきた(厚生労働省,2009).このシステムの伸展により医療・介護・福祉サービスが連携しながら高齢者が自身の力で自宅での生活ができるよう支援することが求められている.しかしながら,ADL(Activities of Daily Living)の低下や認知症の重度化によりやむを得ず自宅を離れ,高齢者が施設サービスを要する現状は増加傾向にある(厚生労働省,2022).中でも大規模施設と異なり,物的に小規模で少人数,さらに自宅近くという高齢者が慣れ親しんだ環境の中で個別ケアが提供される地域密着型サービス(以下,地域密着型)の役割は重要である.例えば地域密着型の認知症施設ケアでは,ADLの改善や行動心理症状に改善傾向が認められたという報告があり,その要因として家庭的な馴染みある環境や小単位の人間関係があげられている(山口,2005).また,ユニット型の特徴を有する地域密着型介護老人福祉施設入居者生活介護(地域密着型特別養護老人ホーム,以下地域特養)では,従来型施設の介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム,以下広域特養)では難しいとされる個別ケアの積極的な推進が行われている(永田ら,2013).以上のように地域密着型は,新しい環境や新たな人間関係に適応することが困難な高齢者(Lawton & Nahemow, 1973)に安寧をもたらすサービス体系と考える.中でも,今後高齢者の介護度の重度化が見込まれる背景から,中重度の介護や急変時の対応も可能で,物的・人的に馴染みある環境のもとケア実践している地域特養は,高齢者の重要な生活の場として期待される.

環境という側面からLawton & Nahemow(1973)は,心身機能の低下した高齢者にとって適した環境条件下であればより良い行動や感情がもたらされると述べている.環境の概念として,ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health),(世界保健機関,2001/2002)では,環境を物理的側面のほか人的・社会的要素を含めて捉えており,高齢者の暮らしを取り巻く環境には,慣れ親しんだ地域だけでなく,サービス提供者である職員そのものの存在・組織運営も重要といえる.職員を人的環境ととらえた先行研究(石橋ら,2020)では,顔馴染みのスタッフがいる病院は,高齢者に信頼や安心感を与えることが示唆されている.

人的環境の側面から地域特養のケア提供者の人材定着状況を確認すると,勤続意欲は上昇傾向にあるものの職員の離職率は介護職が17.6%(介護労働安全センター,2022)と病院における看護職員の10.6%(日本看護協会,2022)と比較して高く,また看護職員の人員不足を感じている割合は43.4%と高い(介護労働安全センター,2022).職員の離職は,組織におけるマイナスだけでなく,高齢者に安心感をもたらす暮らしの継続に影響する重要な課題といえる.高齢者が職員と馴染みの関係を形成するには醸成を要すると推測され,関係形成の基盤には職員の長期的な職場継続が肝要と考える.

職員の職場継続のために,職員を惹きつける環境づくりとして米国ではマグネットモデルによる組織の人材定着への取り組みがされている(American Nurses Credentialing Center, 2005).看護師を惹きつける磁力の源泉は,マグネットモデルとして捉えられ(桑原,2008),医療機関を対象とした指標にNursing Work Index(NWI)があり(Aiken & Patrician, 2000),日本語版(Practice Environment Scale of the Nursing Work Index, PES-NWI)が開発されている(緒方ら,2008).PES-NWIを用いた研究では,看護師の職務満足度や勤務している病院への就業継続意向と有意な相関が示されている(緒方ら,2011).また,看護実践における環境を整えることは,看護師の職場定着と患者への一貫した質の高いケア提供に寄与することが示唆されている(緒方ら,2011).ただし,PES-NWI(緒方ら,2011)は看護実践の場である病院の環境を測定するものであり,高齢者施設を対象とする汎用性のある指標として用いることは難しい.先行研究には,大規模施設の広域特養を対象とした職場環境を評価する尺度がある(緒形・小木曽,2019).しかしながら,この尺度は大規模施設とは異なる高齢者の慣れ親しんだ地域,小規模ゆえの物的・人的環境をとらえた要素を含んでいない.小規模施設である地域特養を対象とした人材定着に関する研究においては,運営側(緒形ら,2022a)や働く側(緒形ら,2022b)の視点から組織のあり方に示唆が得られている.ただしこれらの研究は萌芽的な段階であり,職員を惹きつけ職場継続につながる重要な取り組みの指針を示すまでに至っていない.そこで本研究は地域特養で生活する高齢者の生活の安寧に資するため,緒形ら(2022a, 2022b)の研究をもとに,地域特養の職員を惹きつける職場運営の重要項目となる指標を開発することとした.

地域特養の運営状況は地域の特性に影響を受けると推測されることから,地域性をとらえた地域特養に特化した指標が求められる.そのため本研究では,比較的地域特養の多い地域である東海地方に限定することとした.

Ⅱ. 目的

本研究の目的は,地域密着型特別養護老人ホームにおける職員を惹きつける職場運営指標を開発することである.

Ⅲ. 研究方法

1. 指標原案作成までの過程

指標原案作成にあたり,米国のマグネットモデル(桑原,2008)の理論背景を基盤として構成概念を検討した.まず,マグネットモデルと研究1(緒形ら,2022a)および研究2(緒形ら,2022b)の結果に共通するカテゴリー内のコード,研究1および2より抽出された特有のカテゴリー内のコードを確認し質問項目とした.さらに,マグネットモデルに特有の項目については文献検討(緒形・藤原,2020)を参考に追加した(図1).

図1 

マグネットモデルを基盤とした指標原案作成の過程

以上の検討結果より本研究の仮説構成概念を,「変革的なリーダーシップ」47項目,「構造的なエンパワーメント」35項目,「規範的な看護および介護実践」16項目,「新しい知見・改革・改善」19項目,「地域特養の特性を活かした運営」29項目の5つの構成概念による146項目とした.なお,作成した指標は,協力が得られた地域特養の看護職員1名と介護職員1名の計2名に対してプレテストを実施した後,項目の表現を加筆修正した(図2).

図2 

マグネットモデルを基盤とした構成概念と本研究の仮説構成概念

2. 対象施設と対象者

対象施設は,全国でも比較的地域特養の多い地域である東海地方(愛知県,岐阜県,静岡県,三重県)に限定した.抽出は,地域医療情報システム(日本医師会,2022)に登録されている東海地方の地域特養の全263施設を対象とした.地域特養の人員配置基準は,看護職員1人以上,介護職員は入所者3人に対し1人以上と定められており,介護職員の割合は多く,看護職員が3人以上配置されている地域特養は少ない現状である.その上で対象者は,地域特養の現状を考慮して1施設につき看護職2名,介護職3名とする計1,315名とした.対象者の選出にあたり,対象施設の施設長宛に,研究説明書と質問紙,返信用封筒,および施設長宛の研究説明書を同封して郵送し,承諾を得た施設長から対象者に配布を依頼した.看護職には,可能な限り常勤職員として働いている2名に,介護職には,今までの合計の経験年数に偏りが生じないよう,およそ3年未満,3年以上8年未満,および8年以上の常勤職員1名ずつ計3名に,質問紙等の配付を文書で依頼した.

3. 調査方法・調査期間・調査内容

方法は,郵送法による無記名自記式質問紙法にて行った.調査期間は,2022年7月~同年8月とした.調査内容は,個人要因8項目と施設要因6項目および指標原案の146項目である.また本研究では,質問項目の重要性の程度の確認に重きを置いているため,教示文は「以下の146項目は,『地域密着型特別養護老人ホームの職員を職場に惹きつけ,職場継続につながる取り組み』を,過去の調査結果をもとに抽出して羅列しています.それぞれの質問に対して,あなたが考える職員を職場に惹きつけ,職場継続につながる取り組みの重要性の度合いについて,もっとも当てはまる数字に〇をつけて下さい.」とし,4件法(1全く重要でない,2あまり重要でない,3やや重要である,4とても重要である)で回答を求めた.なお,施設要因の地域タイプである大都市型,地方都市型,過疎地域型は,返信用封筒の色別をもとに把握した.

4. 分析方法

統計ソフトIBM SPSS Statistics 28,Amos 28を用い有意水準5%で行った.

1) 項目分析と削除項目の基準

削除基準は,a)天井効果が(平均値+標準偏差)> 4,b)床効果が(平均値-標準偏差)< 1,c)Item-Total Correlation Analysis(I-T分析)は当該項目を除いた項目得点の合計と項目の相関をPearsonの相関係数が.25以下,d)Item-Item相関(項目間相関)は.75以上の項目のうちどちらか一方,e)項目が削除された場合のクロンバックα係数は全体の信頼係数値よりも.10以上上昇する場合,の5つを条件とした.

2) 妥当性の検討

探索的因子分析を用いることにより内的一貫性を確認し(宮本・宇井,2017),複数の項目が全体として同じ内容を測定しているかを明らかにした.因子数は仮説構成概念から5因子と設定し,因子負荷量.40以上の項目を採択した.主因子法による因子抽出を用い,因子間の相関を仮定してプロマックス回転による分析を繰り返した.因子分析の適用評価には,Kaiser-Meyer-Olkin(以下,KMO)の標本妥当性の測定値が.5以上,Bartlettの球面性検定が有意であることにより評価した.なお,因子の命名においては,仮説構成概念を参考にした.

構成概念妥当性評価は,確認的因子分析で評価した.モデルの適合度評価にあたっては,GFI(Goodness of Fit Index)は1に近いほど説明力のあるモデルとし,AGFI(Adjusted GFI)は,GFIともに.90以上(Polit & Beck, 2004/2010),GFI ≧ AGFIを基準とした.CFI(comparative Fit index)は1に近いほど,RMSEA(root mean square error approximation)は.05以下を目安に当てはまりが良いと判断した.

3) 信頼性の検討

指標全体と下位となる指標のCronbach α係数により評価した.

5. 倫理的配慮

対象者に研究の目的・意義・方法,研究参加への自由意思,結果の公表,個人情報の保護が遵守されることなどについて文書で説明し,無記名にて質問紙の回答と返送をもって同意とした.施設長から対象者に配付の際は,強制力が働かないよう対象者の研究参加は自由意思であることを研究説明書に明記した.また,質問紙の回収は,施設長を介さず,対象者が個別に郵送にて直接返送することとした.なお本研究は人間環境大学看護学部・大学院看護学研究科研究倫理審査委員会の承認を受けた(承認番号2022N-002).

Ⅳ. 結果

調査の結果,回収数は208(回収率15.9%),有効回答は204(有効回答率98.1%)であった.なお,指標項目において,連続して3つ以上の欠損がある場合,および全体の一割以上すなわち15項目以上の欠損がある場合は,有効回答が得られていないと判断し除外した.また,欠損値については,平均値を割り当てた(Polit & Beck, 2004/2010).

1. 対象者の属性と施設概要

対象者204名の年齢は,50歳代が24.0%,40歳代が23.5%であり,性別は女性が70.1%であった.職種では,介護職が63.7%を占めていた(表1).

表1  対象者204名の個人特性(名)
項目 人数 %
年齢
19歳以下 2 1.0
20~29歳 35 17.2
30~39歳 45 22.1
40~49歳 48 23.5
50~59歳 49 24.0
60歳以上 25 12.3
性別
男性 61 29.9
女性 143 70.1
雇用形態
正規(正職員) 177 86.8
非正規で常勤(人材派遣,契約職員) 17 8.3
非常勤 10 4.9
職種
介護職員 130 63.7
看護職員 69 33.8
無回答 5 2.5
職位
スタッフ 119 58.3
ユニットリーダー 36 17.6
介護もしくは看護の副責任者 22 10.8
介護もしくは看護の責任者 22 10.8
無回答 5 2.5
資格[複数回答]
看護師 51 25.0
准看護師 30 14.7
保健師 3 1.5
介護福祉士 101 49.5
介護職員初任者研修 26 12.7
介護職員実務者研修 19 9.3
介護支援専門員 20 9.8
社会福祉士 6 2.9
社会福祉主事 2 1.0
認知症ケア専門士 4 2.0
認知症介護実践研修 2 1.0
旧ホームヘルパー1級 3 1.5
旧ホームヘルパー2級 20 9.8
旧ホームヘルパー3級 1 0.5
衛生管理者 2 1.0
資格なし 2 1.0
記載なし 1 0.5
その他 5 2.5
現在の職場の勤務年数
1年未満 21 10.3
1年~3年未満 42 20.6
3年~5年未満 39 19.1
5年~10年未満 59 28.9
10年~20年未満 38 18.6
20年~30年未満 4 2.0
30年以上 1 0.5
介護職・看護職としての経験年数
1年未満 4 2
1年~3年未満 21 10.3
3年~5年未満 14 6.9
5年~10年未満 37 18.1
10年~20年未満 68 33.3
20年~30年未満 41 20.1
30年以上 18 8.8
無回答 1 0.5

管理栄養士,保育士,衛生管理者,認知症実務者,福祉住環境コーディネーター

施設概要は,愛知県が43.1%,地方都市が77.9%で,設置主体は社会福祉法人が98.5%を占めていた.また,施設長の職種は介護福祉職が32.8%で介護職が30.9%であった(表2).

表2  対象者204名の施設概要(名)
項目 人数 %
所在地
愛知県 88 43.1
岐阜県 44 21.6
静岡県 33 16.2
三重県 39 19.1
地域タイプ
大都市型 42 20.6
地方都市型 159 77.9
過疎地域型 3 1.5
設置主体
社会福祉法人 201 98.5
市町村 1 0.5
組合立 1 0.5
医療法人 1 0.5
施設の型
サテライト型 110 53.9
併設型 66 32.4
単独型 25 12.3
無回答 3 1.5
居室形態[複数回答]
ユニット型個室 191 93.6
多床室 19 9.3
従来型個室 3 1.5
施設長の職種
社会福祉職 67 32.8
看護職 18 8.8
介護職 63 30.9
わからない 41 20.1
その他 15 7.4

サテライト型:連携して運営する本体施設として,定員30名以上の広域型特別養護老人ホームがある

単独型:連携して運営する本体施設はない

併設型:訪問・通所サービスの居宅サービス事務所や地域密着型サービス事務所と併設している

多床室:定員2名以上の相部屋

従来型個室:居間がない居室だけの部屋

ユニット型個室:居間等共有スペースを併設した個室の部屋

2. 項目分析

天井効果は76項目あり,床効果はなかった.項目間相関は天井効果で確認された項目以外に3項目あった.また,I-T分析および項目削除後のα係数による削除項目はなかった.以上の結果から因子分析の対象となる項目は,仮説構成概念から「変革的なリーダーシップ」9項目,「構造的なエンパワーメント」16項目,「規範的な看護および介護実践」8項目,「新しい知見・改革・改善」10項目,「地域特養の特性に応じた運営」24項目の計67項目であった.

3. 妥当性の検討

67項目に対し,因子負荷量.4以上を示さなかった項目を削除しながら探索的因子分析(主因子法,プロマックス回転)を繰り返した結果,5因子からなる38項目となった.仮説構成概念から確認すると,因子1の13項目と因子5の4項目は仮説構成概念の「地域特養の特性に応じた運営」,因子3の7項目は仮説構成概念の「変革的なリーダーシップ」,因子4の5項目は仮説構成概念の「構造的なエンパワーメント」で構成されていた.また,因子2の9項目については,仮説構成概念の「構造的なエンパワーメント」1項目,「規範的な看護および介護実践」3項目,「新しい知見・改革・改善」3項目,「地域特養の特性に応じた運営」2項目により構成されていた.因子負荷量.40以上の項目を基準に因子に属すると判断した.ただし,因子5の質問項目126においては,因子1に対する因子負荷量も.415を示していた.それぞれの因子は仮説構成概念を参考に項目内容を反映させ,【地域・施設間における資源の有効的活用】,【地域特養の強みを活かした取り組み】,【施設長のリーダーシップ】,【施設の魅力の情報発信】,【地域住民と施設の相互交流】と命名した.因子分析の適用評価として,KMOの標本妥当性の測定値は0.916で,Bartlettの球面性検定はp < .001であった.確認的因子分析による適合度指数はχ2 = 1278.2,p < .001を示し,GFI = .749,AGFI = .716,CFI = .861,RMSEA = .068であった(表3).

表3  東海地方における地域特養の職員を惹きつける職場運営指標の探索的因子分析の結果
仮説構成概念 質問項目 共通因子
1
(13項目)
2
(9項目)
3
(7項目)
4
(5項目)
5
(4項目)
因子1 地域・施設間における資源の有効的活用
141 施設内行事を実施する際は地域のボランティアによるサポートを活用する .887 –.194 .139 –.001 –.033
138 地域の小・中学生のボランティアを採用して利用者と関わり合う .829 –.176 –.025 .176 –.036
139 定期的に地域の傾聴ボランティアの協力を得る .764 –.121 .088 –.037 .078
142 利用者は,施設が立地している地域主催のお祭りに参加する .704 .031 –.168 .197 –.038
132 施設外にある認知症カフェに出向くことをケアの一つとして実施する .739 .123 .028 –.086 –.043
140 料理に関するボランティアに近隣の主婦の協力を得る .718 .008 –.013 –.036 .200
131 施設外の地域に出向く行事は業務の一環とする .660 .314 .030 –.153 –.166
143 インターネットを活用して近隣の高校生や専門学校生を対象とした人材募集をする .650 .015 –.056 .165 –.096
135 地域の高齢者も利用できる店舗(パン屋,喫茶店など)を施設の敷地内に併設する .626 .065 .004 –.019 .160
130 地域住民が気軽に立ち寄ることができる認知症カフェを施設の敷地内に併設する .572 .023 –.051 –.001 .326
133 地域の行事には施設の業務に支障のない職員が参加する .555 .284 .020 –.149 –.088
134 施設の設備は地域住民に開放して利用してもらう .554 .056 .016 –.048 .371
137 若い人(サラリーマンやOL)が気軽に訪ねることができる企画を実践する .523 .029 –.042 .083 .324
因子2 小規模施設の強みを活かした取り組み
100 企画や改革案は複雑な手続きを経ず,時間をかけないでスビーディに実現させる –.029 .807 –.094 –.148 .056
120 小規模な施設で職員数が少ないことを強みにして,会議で決定したことは複雑な手続きをしないで実践までに時間をかけない –.018 .777 –.060 –.159 .045
90 職員が提案するケアの工夫については職員の裁量で実施できる –.061 .600 –.058 .146 .013
102 イラストや写真で可視化したケア方法の一覧表を作成してケアの統一をはかる .050 .592 .026 .154 –.103
101 ケアプランの修正を繰り返すことでケアの専門性を高める –.007 .549 .003 .194 –.046
123 職員からの希望があれば関連施設への転勤を可能とする .154 .500 .072 –.020 –.007
121 職員が利用者や家族と顔見知りの場合は,その関係性に合わせて人員配置を調整する –.078 .473 .072 –.005 .217
94 職員の希望が尊重されてキャリアアップする .099 .467 .106 .170 –.116
71 施設内に,現場の意見を行政へ伝えるための窓口を設ける –.107 .430 .189 .144 .047
因子3 施設長のリーダーシップ
5 施設長は,職員の個性をとらえて個別に指導する .111 –.065 .846 –.198 –.005
17 施設長は,職員のケアの様子を確認し適切な方法について助言する –.055 –.015 .725 .097 –.067
13 施設長は,職員が立てた年間の自己目標の達成を賞賛する –.007 –.042 .614 .093 .156
2 施設長は,職員の自己目標に関する面談について時間をかけて全職員にする –.030 .030 .601 –.141 .195
19 施設長は,職員の長所を伸ばせる適材適所の業務ができるように育成する –.036 –.056 .579 .145 –.031
10 施設長は,職員間の人間関係について気軽に相談にのる .010 .061 .568 .114 –.185
4 施設長は,職員の置かれている家庭環境を理解する .015 .094 .563 –.029 .062
因子4 施設の魅力の情報発信
79 利用者中心の良いケアを実践している施設の良さをホームページに掲載する .115 –.150 .031 .916 –.032
81 インターネットを活用してホームページやブログから施設の取り組みについて情報発信する .080 .036 –.114 .759 .027
78 施設の働きやすさを紹介する内容をホームページに掲載する .083 .103 .073 .726 –.146
80 看護職と介護職の人としての優しさを紹介する内容をホームページに掲載する –.134 .093 .058 .641 .279
82 新規採用において,他の施設にはない独自の取り組みをアピールする –.076 .107 .037 .523 .341
因子5 地域住民と施設の相互交流
128 地域住民は施設内を自由に見学できる .214 –.015 .020 –.009 .681
127 地域住民が誰でも施設に訪問できるように受け入れる体制を整える .241 –.007 .038 .012 .611
129 地域住民が施設内行事に参加してもらうよう自治体に働きかける .397 .027 –.049 .064 .489
126 職員は,地域の奉仕活動(お祭り・地域清掃・交通安全運動・挨拶運動など)に参加する .415 –.029 –.021 .045 .475
Cronbachのα係数 全体 .948
.941 .845 .836 .891 .881
因子間相関 因子1 1.000
因子2 .521 1.000
因子3 .267 .389 1.000
因子4 .498 .489 .424 1.000
因子5 .530 .341 .225 .425 1.000

因子抽出法:主因子法 回転法:Kaiserの正規化を伴うプロマックス法 最大反復回転数:7回

因子は因子1から【地域・施設間における資源の有効的活用】【小規模施設の強みを活かした取り組み】【施設長のリーダーシップ】【施設の魅力の情報発信】【地域住民と施設の相互交流】と命名

仮説構成概念:①「変革的なリーダーシップ」②「構造的なエンパワーメント」③「規範的な看護および介護実践」④「新しい知見・改革・改善」⑤「地域特養の特性に応じた運営」

4. 信頼性の検討

指標全体のCronbach α係数は.948で,各因子については因子1より順に.941,.845,.836,.891,.881であった.

Ⅴ. 考察

1. 母集団と標本抽出枠から考えるデータの適切性

本研究の標本における職種割合は,介護職員が63.7%と多いものの,現状の看護職と介護職の構成割合を反映したデータであると考えられる.また,東海地方の全地域特養263施設は,愛知県48%,地方都市が75%(日本医師会,2022)に対し,得られた標本は43.1%,77.9%であったことから所在地や地域タイプはほぼ母集団を反映していると考える.

一方,回収率は15.9%(標本数203)と低く,COVID-19に関する社会情勢から多忙を極め調査協力できなかったことも推測できる.因子分析の実施については,KMOの標本妥当性は.916と十分な値であり,Bartlettの球面性検定においても有意であることから,分析の妥当性が確認された.

2. 仮説構成概念から考える本研究における指標の構成要素の特徴

本指標を仮説構成概念と比較考量すると,仮説構成概念の「地域特養の特性を活かした運営」が因子1【地域・施設間における資源の有効的活用】と因子5【地域住民と施設の相互交流】として新たな共通因子で意味づけられる形となった.どちらも施設と地域の関係に関わる因子であるが,因子1は地域ボランティアによる人的資源や施設の物的資源の相互活用についての内容を含み,因子5は地域住民と施設職員との隔たりのない人的交流についてのまとまりであることが特徴であると考える.施設が地域の一部としての役割を持ち,地域住民と連携していくことが魅力ある職場運営として示されたと考える.因子2【小規模の強みを活かした取り組み】では,仮説構成概念の「構造的なエンパワーメント」,「規範的な看護および介護実践」,「新しい知見・改革・改善」,「地域特養の特性を活かした運営」の項目が混在していた.地域特養が人的・物的に小規模である背景を捉えた職場運営として新たな因子で収束したことが特徴であると考える.因子3【施設長のリーダーシップ】については,仮説構成概念「変革的なリーダーシップ」の内容の中でも特に施設長に焦点をあてたまとまりになった.施設長の役割については既存の広域特養を対象とする尺度(緒形・小木曽,2019)にも同様の因子がある.小規模施設である地域特養においても,施設長の職員に対する関わりの重要性が示されたと考える.因子4【施設の魅力の情報発信】では,仮説構成概念「構造的なエンパワーメント」の看護職・介護職の高齢者ケアの必要不可欠性を反映する因子となった.施設職員の好感的な人柄やケアの取り組みなどを社会に認知させるという項目で構成されたことが特徴であると考える.また,WEBサイトなど情報通信網を活用して発信するという時代を反映する内容となった.

以上のことから,本指標は,研究の仮説から導き出された仮説構成概念とは異なる新たな構成要素でまとまる地域特養の職員を惹きつける職場運営指標になったと考える.

3. 本研究における指標の妥当性と信頼性

本研究では,小規模施設の特徴を示す新たな指標であるため併存的妥当性を検証することは難しいと考えるため妥当性の検討においては,探索的因子分析により内的一貫性を評価し,確認的因子分析により構成概念妥当性を検討した.

探索的因子分析では,仮説構成概念を基盤に5因子構造であることが検証された.探索的因子分析による因子負荷量は,全ての項目で高い値が確保されたが,因子5の質問項目126は因子負荷量が因子5だけでなく因子1に対して.4以上を示した.本研究はプロマックス回転による分析をしていることから因子寄与率の算出はされず,全体的にどの程度の貢献度かについては相対的に比較することになる.したがって質問項目126は,因子1に対しても低いながら影響力はあるが,職員が地域の奉仕活動に参加することは地域と施設の相互交流に値するという観点から因子5に属すると考えることが妥当であると考える.以上の因子分析の結果から内的一貫性が確認された.

確認的因子分析によるモデルの適合度については,GFI ≧ AGFIは確保されたが,GFI,AGFIともに.90以上を満たすことができず,説明力のあるモデルであるとは言い難い.しかし変数が30以上の場合,GFIが.90を超えていなくてもその低さの理由だけで不採用にする必要はない(豊田,2007)ことから一定の説明力を示したと考える.CFIは.90を目安としたが,1に近い範囲とみなしモデルはデータに適合していると考えられる.RMSEAは.05以下を目安に当てはまりが良いとしたが,.08以下であれば適合度はよい(山本・小野寺,2000)と評価することも可能であり,モデルを採択することができることが確認された.以上のことからモデルの適合指数はやや低いものの構成概念妥当性は一定の評価が得られたと考える.信頼性に関しては,一貫性を検討する方法であるCronbach α係数の算出により検討した.信頼係数は.80以上が望ましい(Polit & Beck, 2004/2010)と考えらえられることから十分な値が示され,指標全体と各因子の内的整合性が確認された.

4. 地域特養の職員を惹きつける職場運営指標の有用性

本指標は,地域特養の職員を対象に職員を職場に惹きつけ職場継続につながる取り組みの重要性の度合いについて調査した結果導き出されたものである.したがって地域特養の職員の職場継続につなげるマネジメントの視点として活用可能であると考える.職場のトップマネージャーである施設長においては,職場全体の運営における改善の指標とすることはもとより,施設長の職員に対する関わりのあり方としての因子も含まれているため,施設長自らのリーダーシップの質向上に対する内省検討にも資する.また,職場で働く側の職員においては,それぞれの組織の一員としてのあり方や職場を働きやすい環境としていくための指標として活用することで,職場継続につなげることが可能であると考える.加えて,広域特養を対象とした既存尺度(緒形・小木曽,2019)には地域とのつながりを示す因子は確認されていないことから,小規模施設ならではの地域特養の魅力ある職場づくりに示唆を得る指標として新規性があると考える.また,本研究の指標は,東海地方の地域特養全施設に対し調査を実施したものである.東海地方の地域特養は地方都市型に多いことから,本指標は地方都市型の特徴を反映している可能性がある.地域とのかかわりは,地域タイプの区分とした人口密度により異なると考える.人口密度により地域住民や利用者の住居地までの距離は異なり,地域特養の運営状況は地域タイプによる特性に影響を受けることが推測される.このことから,本研究は東海地方の地域特養を対象とした指標であるが,全国の同じ地域タイプである地方都市型に立地する地域特養においても活用可能と考える.

5. 本研究の限界と今後の課題

本研究の結果により,東海地方における地域密着型特別養護老人ホームの職員を惹きつける職場運営の重要項目が明らかになった.ただし,地域特養での実施状況と人材定着を評価するためには実践を問う指標が求められ,継続して研究を発展させることが重要であり,今後さらなる調査を計画している.本指標は標本数が少なく,探索的因子分析の結果では,一つの項目が二つの因子に影響を与える結果を示した.また,構成概念妥当性に関してはモデルの適合度についてやや劣っていた.今後は,標本数を確保すると共に再現性の確認も含めて妥当性を検証し,指標の精度を高めてさらなる改良が必要であると考える.さらに,本研究の指標は,地方都市の特徴に影響を受けた結果としての可能性が考えられた.地域性に共通する視点や大都市や過疎地域に特化した指標の開発も求められる.さらにアウトカムである職員の職場継続意向,利用者の生活の質向上の評価などを含めた調査を進めていくことが今後の課題である.

Ⅵ. 結論

1.探索的因子分析では,地域特養における職場を惹きつける職場運営指標は,【地域・施設間における資源の有効的活用】,【地域特養の強みを活かした取り組み】,【施設長のリーダーシップ】,【施設の魅力の情報発信】,【地域住民と施設の相互交流】の5因子構造となり,α係数は.836~.941であった.

2.確認的因子分析では,GFI ≧ AGFI,CFI = .861,RMSEA = .068であった.

3.地域特養における職員を惹きつける職場運営指標の内的一貫性,構成概念妥当性,信頼性の検証ができた.

付記:本研究は,人間環境大学大学院看護学研究科に提出する博士論文に加筆・修正を加えたものである.

謝辞:本研究はJSPS科研費JP20K11087の助成を受けて実施した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:AOは,研究の着想およびデザイン,テータ収集・分析,原稿の作成までの研究プロセス全体に貢献.KOは,データ分析,分析解釈,原稿推敲への示唆に貢献.NFは,データ分析,分析解釈,原稿推敲への示唆,および研究プロセス全体の助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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© 2022 Japan Academy of Nursing Science
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