Journal of Japan Academy of Nursing Science
Online ISSN : 2185-8888
Print ISSN : 0287-5330
ISSN-L : 0287-5330
Original Articles
Effectiveness of Advance Care Planning for People with Chronic Obstructive Pulmonary Disease: A Systematic Review and Meta-Analysis
Kotoko MinamiKazue IshikawaTomoyo HaradaTomoko Kamei
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2022 Volume 42 Pages 838-849

Details
Abstract

目的:慢性閉塞性肺疾患(COPD)へのアドバンスケアプランニング(ACP)の有効性をシステマティックレビューとメタアナリシスにより明らかにする.

方法:検索データベースは,CENTRAL,PubMed,CINAHL Plus with Full Text,Embase,PsycInfoとし,ランダム化比較試験を収集した.分析は,質的・量的統合およびエビデンス総体の質を評価した.

結果:4研究を採択した.両群間で事前指示書作成割合(risk ratio (RR) = 1.29; 95% confidence-interval (CI) [1.04~1.59]; p = .02),終末期ケアの話し合いの実施割合(RR = 1.55; 95% CI [1.02~2.37]; p = .04)に有意差が示された.

結論:COPDへのACPは文書化や終末期の対話を促進する可能性が示唆されたが,バイアスリスクや小規模試験に基づきエビデンスの確証は限定的である.

Translated Abstract

Aims: To identify the effectiveness of advance care planning (ACP) for chronic obstructive pulmonary disease (COPD) by undertaking a systematic review and meta-analysis of relevant research findings.

Methods: The databases searched were CENTRAL, PubMed, CINAHL Plus with Full Text, Embase, and PsycInfo, from which randomized controlled trials were collected. Analysis was performed by qualitative and quantitative integration and GRADE evaluation.

Results: 4RCTs (918 participants) were included in this review. The intervention group showed significant differences in advance directive completion (risk ratio (RR) 1.29; 95% confidence-interval (CI) [1.04–1.59]; p = .02) and end-of-life discussion (RR 1.55; 95%CI [1.02–2.37]; p = .04).

Conclusions: The results suggest that ACP for COPD may improve documentation and end-of-life discussions, however, the certainty of the evidence is limited based on the risk of bias and small studies.

Ⅰ. 緒言

慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease:以下COPD)は,肺の炎症から全身に影響を及ぼす全身性炎症疾患であり(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease [GOLD], 2020),世界の死亡因第3位に位置する(World Health Organization [WHO], 2020).COPDの臨床経過は疾患の進行とともに全身状態が緩徐に低下し,症状の増加や急性憎悪が発症する特徴がある(GOLD, 2020).また死亡リスクの関連要因には,憎悪の頻度や入院回数(Soler-Cataluña et al., 2005),全身の併存症(Rabe et al., 2007)等が報告されている.一方で,臨床経過は個別的であり,予後予測の推定が困難で,終末期への移行点を判断することが難しい(Curtis, 2008).これらの重症化リスクや個別的な臨床経過が急変時に及ぼす影響として,十分な話し合いを経た事前の意思表示がなければ,終末期に望まない治療を受ける可能性がある(Connors et al., 1995).また療養者が終末期に必要な医療ケアを受療するためには,医師・患者間のコミュニケーションを改善することが医療ケアの選択において重要な課題であるとされる(Curtis, 2008).よって終末期の療養者の意向を尊重するためには,話し合いを踏まえ,本人の理解や意思表明を支援するアドバンスケアプランニング(Advance Care Planning:以下ACP)を,早期から開始することが望ましいと考える.

先行研究では,COPD療養者と終末期ケアに関する話し合いを実施している医師は約半数で,憎悪時に話し合いを開始する傾向にある(Gaspar et al., 2014).多くの医療従事者はACPの必要性を認識しているが,その一方で介入への躊躇や,開始時期を示す基準が明確でないことに課題があるとされる(Jabbarian et al., 2018).またスコーピングレビューでは,ACPを導入するタイミングについて,頻回な入院,活動能力の低下,酸素療法の開始等を示し(Meehan et al., 2020),医療従事者による計画的なACP導入の重要性が示唆される.このように,COPD疾患の軌跡をたどる個人にとって,最善と思われる時期にACPを開始することは,終末期のCOPD療養者を中心とした医療ケアの選択,苦痛症状に対する適切な緩和ケアの導入,QOLの改善,および期待する効果が十分に得られない治療の回避等に有用と考えられ,十分な話し合いによって終末期の意思決定を支援するACPは重要であると考える.これまでに呼吸器疾患のACPの有効性を評価したランダム化比較試験(Randomized Controlled Trials:以下RCTs)では,終末期ケアおよび患者・家族の満足度,家族のストレス,不安,および抑うつに効果が示されている(Detering et al., 2010).しかし,先行研究ではACPによる影響や導入時期に関する報告はあるが,COPDに特化したACP後の有効性を定量的に評価した研究は見当たらない.そこで,本研究ではCOPDへのACPに関するRCTsを取り上げて,システマティックレビューとメタアナリシスを行い,プライマリーアウトカムに事前指示書作成,セカンダリーアウトカムは実際に行われたケアとの一致割合,不安,QOL,医療職者と終末期の医療ケアに対する話し合い,およびコミュニケーションの質に関する介入の有効性を明らかにすることを目的とした.本研究でACPの科学的根拠を示すことは,医療職者とCOPD療養者に対し,終末期医療ケアに関する話し合いや,個人の希望が尊重されたケアを促進するための一助となると考える.

Ⅱ. 研究目的

本研究の目的は,成人COPD療養者を対象としたACPの介入を行うことがACPの介入を行わない通常のケアと比較して,プライマリーアウトカムに事前指示書作成,セカンダリーアウトカムは実際に行われたケアとの一致割合,不安,QOL,医療職者と終末期の医療ケアに対する話し合い,およびコミュニケーションの質の有効性を明らかにすることである.

Ⅲ. 用語の操作的定義

ACPとは,医師や看護師が意思決定能力のある成人に対し,将来の医療に関する個人の価値観,希望,人生の目標に関する話し合いを共有し支援するプロセスをいう.ACPには代理意思決定者の選定と事前指示の文書化が含まれる(Sudore et al., 2017).

Ⅳ. 研究方法

本研究は,Cochrane Handbook for Systematic Reviews of Interventions version6およびthe Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-analysis Statement(以下PRISMA)に準拠し実施した.本研究のプロトコルはInternational prospective register of systematic reviews(PROSPERO)に登録した(CRD42021219649).

1. 検索データベースとキーワード

検索データベースはCochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL),PubMed,CINAHL Plus with Full Text,Embase,PsycInfoとし,Gray literatureおよびハンドサーチも含めた.検索式はChronic Obstructive Pulmonary DiseaseとAdvance Care Planningを用い,各データベース収録開始日から2020年12月まで検索した(表1).

表1 

文献検索式

2. 適格基準および除外基準

適格基準は,1)COPDの臨床診断を受けたGOLD I~IV期の18歳以上の療養者,2)本人および代理意思決定者が医療職(医師または看護師)と話し合いを行っている,3)治療の選択を行っている,4)事前指示書の作成を行っている,5)文書化またはカルテの記載を行っている,6)代理人の選定を行っている,7)対象者はCOPDと診断された参加者が過半数を占めた研究,8)すべての種類のRCTs,クラスターRCTs,クロスオーバーRCTs,および準RCTsによる研究とした.除外基準は,1)研究参加者の年齢が18 歳未満,2)介入にACPが含まれていない,3)質的研究,観察研究,Non-RCTs,4)COPDの診断を受けた参加者割合が半数以下の研究とした.

3. 文献のスクリーニング方法

一次・二次スクリーニングとも,前述の適格基準かつ除外基準を用いて行った.一次スクリーニングでは,タイトルと抄録を精査し文献を選定した.二次スクリーニングは,本文の精読を行い文献を選定した.全てのスクリーニング,データ抽出,リスクオブバイアスの評価は,2人の研究者が独立して行い,研究の組み入れに関する最終判定を行った.

4. データの抽出

Cochrane templateを用い,著者名,研究方法,研究参加者数および場所(国),介入の詳細と特徴,対照群のケアの詳細,アウトカム,アウトカム測定タイミング,有害事象,未報告データなどを抽出した.

5. RCTの質の評価

個々のRCTのリスクオブバイアスはコクランレビューのRisk of Bias(RoB)ツールを用いて,1)無作為化プロセスに起因するバイアス,2)意図した介入からの逸脱に起因するバイアス,3)結果データの欠測アウトカムによるバイアス,4)アウトカムの測定におけるバイアス,および 5)報告する結果の選択におけるバイアスについて,「バイアスリスクが低い」,「バイアスリスクが不明」,「バイアスリスクが高い」の3段階で評価した(Higgins et al., 2020).エビデンスの質の評価は,GRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)システムを用いたエビデンス総体の質を評価し,結果を要約しSummary of Findings(SoF)テーブルを提示した.

6. データ分析と統合

メタアナリシスに含めるデータは,研究対象者,介入内容およびアウトカム指標に類似性があるものを選択した.データの解析は,Review Manager 5 ver. 5.3(The Nordic Cochrane Center)を用いて,データを統合し効果量を検討した.研究の異質性を鑑みてランダム効果モデルを採用し,効果推定量は95%信頼区間(confidence-interval: CI)を示した.介入効果は,二値アウトカムはリスク比(Risk Ratio:以下RR)を,連続値は測定尺度に応じて平均差(Mean Difference:以下MD)または標準化平均差(Standardised Mean Difference:以下SMD)を用いた.クラスターRCTsの効果量は,クラスター内相関係数(Intraclass Correlation Coefficients:以下ICC)を用いて評価した.また統計的異質性の特定にはI2検定を実施し,0~40%(重要でない異質性),30~60%(中等度の異質性),50~90%(相当な異質性),75~100%(重大な異質性)の範囲で評価した(Higgins et al., 2020).データの欠損値が多い研究,バイアスリスクの種類などを考慮し感度分析を行い,得られた効果推定量の頑健性を評価した.また,異質性が高い研究に関しては,効果量の変化を検討するサブグループ解析を実施した.

Ⅴ. 結果

1. スクリーニング結果

2,970件が検索され,一次スクリーニングの選定基準を満たした文献60件が採択された.二次スクリーニングの結果,最終的に4研究(5文献)を量的・質的統合に採択した(図1).

図1 

PRISMA flow diagram

2. 採択文献の特性

研究実施国には,アメリカ合衆国(Au et al., 2012)およびオーストラリア(Sinclair et al., 2017, 2020)各1件,オランダ2件(Duenk et al., 2017Houben et al., 2019)があった.研究デザインはRCT1件(Sinclair et al., 2017, 2020),Cluster RCT3件(Au et al., 2012Duenk et al., 2017Houben et al., 2019)であった.各研究の参加者数は300例未満の小規模試験で,全て2群間比較試験で行われていた.対象者の性別は,男性が9割以上を占めた研究1件(Au et al., 2012),6割1件(Sinclair et al., 2017, 2020),4割1件(Houben et al., 2019),男女比が同等1件(Duenk et al., 2017)であった.平均年齢の範囲は,65.7歳(Houben et al., 2019)から74歳(Sinclair et al., 2017, 2020)であった.参加者のCOPD病期は,1秒率(%)予測値が50%未満のGOLD分類III・IV期にある者が多かった(Duenk et al., 2017Houben et al., 2019Sinclair et al., 2017, 2020)(表2).

表2  抽出文献一覧
著者(年)実施国 方法 目的 介入期間 追跡期間 介入職種
介入場所
対象者数・患者属性 介入内容
Au et al.(2012)
アメリカ合衆国
Cluster RCT 2 arm 終末期ケアの希望に関する個別のフィードバックを用いた介入が医師とのコミュニケーションの発生と質を改善するかを評価した Not reported 2週間 職種
 プライマリケア医
 呼吸器内科医
場所
 退役軍人病院の呼吸器専門外来
介入群(n = 194)
 男性割合=98%;平均年齢=69.4歳
 気管支拡張薬投与前1秒率(%)予測値=45.7(18.3)
気管支拡張薬投与後1秒率(%)予測値=48.6(19.5)
 対照群(n = 182)
 男性割合=96%;平均年齢=69.4歳
 気管支拡張薬投与前1秒率(%)予測値=48.5(20.7)
 気管支拡張薬投与後1秒率(%)予測値=51.7(21.1)
介入群
 医師と療養者は外来診療時に終末期コミュニケーションを促進するための個別化したフィードバックフォームを使用した
対照群
 通常の外来診療のみ
Duenk et al.(2017)
オランダ
Cluster RCT 2 arm 進行したCOPD療養者のwell-beingに対し,積極的な緩和ケアによる効果と,ACP実施割合を評価した 月1回12ヶ月間 24週間 職種
 緩和ケアチーム
場所
 病棟
 外来
 電話
介入群(n = 90)
 男性割合=51%;平均年齢=68.67歳
 1秒率(%)予測値=40.79(16.09)
対照群(n = 138)
 男性割合=46%;平均年齢=68.45歳
 1秒率(%)予測値=43.70(20.55)
介入群
 ACPの研修を受けた緩和ケアチームが,緩和ケア及びACPを提供し,心肺蘇生,集中治療室利用,緩和ケア,鎮静,抗菌薬,終末期の療養環境などの選択を支援した
対照群
 通常のケア
Sinclair et al.(2017; 2020
オーストラリア
RCT 2 arm 看護師による体系的なACPの介入が進行したCOPD療養者のACPの実施割合を向上させるかを評価した 都市部;平均55分
農村部;平均25分
24週間 職種
 看護師
場所
 外来
 自宅
 電話
介入群(n = 106)
 男性割合=63%;平均年齢=74歳
対照群(n = 43)
 男性割合=63%;平均年齢=71歳
介入群/対照群
 1秒率(%)予測値 <25%
介入群
 看護師と疾患や予後について話し合い,将来の医療ケアに関する目標や価値観について考え,最愛の人や医師と話し合い,代理意思決定者を任命し,将来の治療の希望に関する事前指示書を作成した
対照群
 標準的医療および看護ケア
Houben et al.(2019)
オランダ
Cluster RCT 2 arm 看護師主導のACPがCOPD療養者と医師の終末期コミュニケーションの質を改善するかを評価した 90分 24週間 職種
 看護師
場所
 自宅
介入群(n = 89)
 男性割合=49%;平均年齢=65.7歳
 1秒率(%)予測値=43.5(16.9)
対照群(n = 76)
 男性割合=58%;平均年齢=69.5歳
 1秒率(%)予測値=43.1(14.5)
介入群
 呼吸器専門看護師が,退院後4週間以内に療養者と最愛の人の同席のもと自宅環境でACPを実施した. ケアの目標,心肺蘇生法,非侵襲的陽圧換気法,機械的換気法の希望,終末期ケアの希望についてフィードバックフォームに記入した
対照群
 通常のケア

RCT:Randomized controlled trial;COPD:Chronic obstructive pulmonary disease;ACP:Advance care planning

3. 介入内容の特性

ACPを実施した職種には,看護師(Houben et al., 2019Sinclair et al., 2017, 2020),呼吸器専門医(Au et al., 2012),学際的緩和ケアチーム(Duenk et al., 2017)があった.4研究中2研究が看護師主導型の介入であった(Houben et al., 2019Sinclair et al., 2017, 2020).介入期間は,未報告(Au et al., 2012),介入時間25分(Sinclair et al., 2017, 2020),12ヶ月(Duenk et al., 2017)があり,介入場所は,外来(Au et al., 2012Duenk et al., 2017Sinclair et al., 2017, 2020),自宅(Houben et al., 2019Sinclair et al., 2017, 2020),電話(Duenk et al., 2017Sinclair et al., 2017, 2020)を用いていた.

介入の特性は,療養者が希望する医療ケアに対する医師側の認識や,終末期医療ケアの希望などを記載したフィードバックフォームを使用し,コミュニケーションを促進する研究が2件あった(Au et al., 2012Houben et al., 2019).その他の研究は,療養者のACPを促進する介入を行っており,Duenk et al.(2017)の学際的緩和ケアチームによる介入では,蘇生しない方針,集中治療室の利用,緩和的治療,抗生物質による感染症の治療および最期を迎える場所の希望等を文書化し,一方Sinclair et al.(2017, 2020)の専門性の高い看護師によるACPは,予後に関わる情報提供,豊かに生きることの視点や本人の価値観と信念を理解することがACPの内容に含まれていた.また採択研究の対照群は,いずれも標準的医療ケアに基づく介入を受けていた(表2).

4. 採択文献のリスクオブバイアス

Duenk et al.(2017)は,介入者である緩和ケアチームを有する施設数が少なかったため,ランダム化生成において施設クラスタリングと隠蔽化に高いバイアスリスクを認めた.施行バイアスでは,盲検化が不明である研究3件(Au et al., 2012Duenk et al., 2017Houben et al., 2019),非盲検化1件(Sinclair et al., 2017, 2020)があった.その他,コミュニケーションの質(Houben et al., 2019),QOL(Duenk et al., 2017Sinclair et al., 2017, 2020),ACP実施割合(Duenk et al., 2017Houben et al., 2019Sinclair et al., 2017, 2020)のアウトカムは,評価者の盲検化に関する記載がないためバイアスリスクが不明であると判定した(表3).

表3  各研究のリスクオブバイアス判定
ランダム化生成 割付の隠蔽化 参加者の隠蔽化 アウトカム評価者の隠蔽化 不完全アウトカムデータ 選択的アウトカム報告 その他のバイアス
Au et al.(2012) + ? ? + + + ?
Duenk et al.(2017) ? ? + + +
Sinclair et al.(2017; 2020 + + ? ? +
Houben et al.(2019) ? + ? ? + + +

+:バイアスリスクが低い,?:バイアスリスクが不明,–:バイアスリスクが高い

5. メタアナリシスの結果

1) 事前指示書の作成割合

2研究が事前指示書作成割合を報告していた.Duenk et al.(2017)による12ヶ月後の事前指示書作成割合(76.7% vs 59.4%, p = .003)は,cluster RCTのデザイン効果を調整した(ICC = 0.01,両群各3施設).2研究(Duenk et al., 2017Sinclair et al., 2017, 2020),計212人のデータを統合しランダム効果モデルを使用した結果,介入群は対照群と比較し事前指示書作成割合が有意に向上したことが示された(RR = 1.29, 95%CI = 1.04 to 1.59, p = .02, I2 = 0%)(図2).

図2 

事前指示書作成割合:ACP介入 vs 通常のケアまたは標準的医療および看護ケア介入群.

2) 事前指示書と実際に行われたケア内容の一致割合

事前指示書と実際に行われたケア内容の一致割合の結果を報告した研究はなかった.

3) 医療職者と終末期の医療ケアに対する話し合いを行った者の割合

3研究が医療職者と終末期の医療ケアに関する話し合いを行った者の割合を報告していた.3研究の計558人のデータを統合した結果,ランダム効果モデルを使用したリスク比は,両群間に有意差が示された(RR = 1.55 (95%CI = 1.02 to 2.37, p = .04, I2 = 65%)(図3).

図3 

医療職者と終末期の医療ケアに対する話し合いを行った者の割合:ACP介入群 vs通常のケアまたは標準的医療および看護ケア介入群.

4) 不安およびQOL

2研究がHADS anxietyスケールによる不安の評価を報告していた.Duenk et al.(2017)の6ヶ月後の不安は両群間で有意差がなかった(p = .98).一方,Houben et al.(2019)の研究でも有意差は示されなかったが(p = .33),介入群の不安がベースラインから軽減していた(–1.1 points, 95%CI –1.99 to –0.23, p = .01).以上2研究の計292人のデータを統合した結果,不安への有効性は示されなかった(MD = –0.08, 95%CI –1.06 to 0.89, p = .87, I2 = 0%)(図4).QOLに関しては,Sinclair et al.(2017, 2020)の全群スコアは時間経過とともにフォローアップ時点で0.06ポイントの改善を示していた(p < .001).2研究の計182人を統合した結果,QOLに関する有効性は示されなかった(SMD = 0.07, 95%CI –0.32 to 0.47, p = .72, I2 = 36%)(図5).

図4 

不安(6ヶ月):ACP介入群vs通常のケア群.

図5 

QOL(6ヶ月):ACP介入群vs通常のケアまたは標準的医療および看護ケア介入群.

5) 医療職者とのコミュニケーションの質

2研究が介入群でコミュニケーションの質が向上していたことを報告していた(p = .03; p < .001)(Au et al., 2012Houben et al., 2019).しかしながら,本文内にSDのデータが示されておらず(Au et al., 2012),メタアナリシスを実施できなかった.

6. サブグループ解析

性別,年齢階級別,病期,各研究のリスクオブバイアスおよび研究間の異質性をもとに評価する予定であったが,統計解析を行うための十分なデータが得られなかった.ACPの介入によって,研究参加者に対し有害事象が発生したという報告はなかった.

7. エビデンス総体の評価

量的統合に含まれたアウトカムに対し,GRADEアプローチを用いたエビデンスの総体を判定した.事前指示書作成のエビデンスの確証性は,選択バイアスリスク,ベースライン不均衡,施行バイアスリスク,および症例減少バイアスリスクを認めたため,2グレードダウンし推奨度は「低い」と判定した.医療職者との話し合いに関しては,施行バイアスリスク,症例減少バイアスリスク,さらに治療効果にばらつきがあり非一貫性を認めたため,2グレードダウンし推奨度は「低い」と判定した(表4).

表4  Summary of Findings:COPD療養者に対するACP介入群と通常のケアとの比較患者または集団:COPDの臨床診断を受けた18歳以上の療養者;介入:ACP;比較:通常のケア
アウトカム参加者数期間(研究数) 相対効果(95% CI) 予想される絶対効果(95% CI) 確証性 コメント
対照群 介入群 差異
1)事前指示書作成割合
フォローアップ:6 to 12M
参加者数:212人(2 RCT)
RR 1.29
(1.04 to 1.59)
54.0% 69.6%
(56.1 to 85.8)
15.7% more
(2.2 more to 31.8 more)
⨁⨁◯◯
a,b
p = .02,I2 = 0%
2)医療職者と話し合いを行った者の割合
フォローアップ:2W to 12M
参加者数:558人(3 RCT)
RR 1.55
(1.02 to 2.37)
31.4% 48.7%
(32 to 74.4)
17.3% more
(0.6 more to 43 more)
⨁⨁◯◯
b,c
p = .04,I2 = 65%
Sinclair et al.(2017, 2020)のみ対照群に話し合いを行なった者の割合が向上していた.
3)不安
フォローアップ:6M
参加者数:292人(2 RCT)
ACP群の不安のスコアは,通常ケア群に比べ,
平均0.08低かった
(1.06 to 0.89 lower)
MD = –0.08
(95%CI –1.06 to 0.89, p = .87, I2 = 0%)
4)QOL
フォローアップ:6M
参加者数:182(2 RCT)
ACP群の6ヶ月後のQOLのスコアは,
通常ケア群に比べ,平均0.07(SDs)高かった
(0.32 to 0.47 lower)
SMD = 0.07
(95%CI –0.32 to 0.47, p = .72, I2 = 36%)
* 介入群のリスク(95% CI)は比較対照群における想定リスクと介入の相対効果(95% CI)に基づく.
COPD: Chronic obstructive pulmonary disease; ACP: Advance care planning; RCT: Randomized controlled trial; CI: Confidence-interval; M: Months; W: Weeks;
RR: Risk ratio; SDs: standard diviations; MD: Mean Difference; SMD: Standardised Mean Difference
GRADE Working Group grades of evidence
High certainty: we are very confident that the true effect lies close to that of the estimate of the effect.
Moderate certainty: we are moderately confident in the effect estimate: the true effect is likely to be close to the estimate of the effect, but there is a possibility that it is substantially different.
Low certainty: our confidence in the effect estimate is limited: the true effect may be substantially different from the estimate of the effect.
Very low certainty: we have very little confidence in the effect estimate: the true effect is likely to be substantially different from the estimate of effect.

a 選択バイアスリスクが高くベースラインの不均衡があるため,評価を1段下げた.

b 施行バイアスリスク,症例減少バイアスリスクが高いため,評価を1段下げた.

c 治療効果のばらつきがあり非一貫性を認めたため,評価を1段下げた.

Ⅵ. 考察

1. 採択文献および参加者の特性

本研究は,COPD療養者へのACPが,事前指示書の作成,医療職者との終末期ケアに関する話し合い,不安,QOLおよび医療職者とのコミュニケーションの質の向上に有効かシステマティックレビューとメタアナリシスにより検討した.2,970文献から最終的に4研究(5文献)が採択され,量的統合および質的統合の分析対象とした.研究デザインはCluster RCTの割合が多く,研究実施国は欧米・欧州など限定した地域における臨床試験であった.

参加者の病期はGOLDステージIII期以上が多く,重症度が高い傾向にあることは先行研究の知見と一致していた(Schroedl et al., 2014Scoy et al., 2016).性別は,1研究のみが男性割合が9割以上を占めたが(Au et al., 2012),退役軍人病院という介入場所の特性が男女比バランスの偏りに影響を与えた可能性が考えられた.また,参加者は大多数が高齢者であったが,先行研究のACPを受けたCOPD療養者の平均年齢も66歳以上で(Scoy et al., 2016Schroedl et al., 2014),本研究結果と類似していた.

2. 介入の特性

本レビューでは2つの異なる介入特性が抽出された.それは,フィードバックフォームを用いてコミュニケーションを促進する介入と(Au et al., 2012Houben et al., 2019),専門性の高い職種がACPを促進する介入(Duenk et al., 2017Sinclair et al., 2017, 2020)であった.これらの研究では,重症化したCOPD療養者の終末期ケアに関する希望を尊重する介入としての共通性を認めたものの,介入職種,介入場所,介入期間が多様であり,研究間に臨床的異質性を認めた.したがって量的統合で得られた効果量の考量においては慎重な検討が必要であると考える.

3. COPD療養者へのACPの有効性

緩和ケアチームまたは看護師主導で実施するACPは,標準的医療ケアのみを受ける群と比較し,COPD療養者の事前指示書作成割合が向上する可能性が示された(Duenk et al., 2017Sinclair et al., 2017, 2020).先行研究では,COPD療養者に対する緩和ケアの介入が,事前指示書作成を促進したことが報告されており(Schroedl et al., 2014),緩和ケア科によるACPの持続的な介入が事前指示書作成の促進に効果を示す可能性が報告されている.また,看護師主導のACPを評価した先行研究においても,事前指示書作成割合の有効性が示されている(Chan et al., 2018).それぞれの職種による有効性は先行研究と類似しているが,本研究で採択した2研究は,ACPという共通概念を用いているものの,その介入内容に臨床的異質性が認められる.よって本メタアナリシスで得られた結果の解釈は慎重に考慮する必要があると考える.また,統合した研究は,ランダム化生成,隠蔽化,盲検化およびアウトカム報告に対するバイアスリスク,さらに小規模試験に基づいているためエビデンスの質は限定的であると考える.

COPD療養者にACPを介入することは,通常の外来診療(Au et al., 2012)または標準的ケア(Houben et al., 2019Sinclair et al., 2017, 2020)と比較し,医療職者と終末期ケアに対する話し合いを促進する可能性があることが示された.ACPが対話の促進に与える影響については,先行研究でも同様の有効性が示されている(Houben et al., 2014).しかし,統計学的・臨床的異質性があり,ランダム化生成,隠蔽化,盲検化およびアウトカム報告に対するバイアスリスクが認められており,エビデンスの質は限定的である.

一方,不安およびQOLへの有効性は示されなかった.不安については,進行がんを対象にしたRCTの先行研究でも有意な効果は示されていない(Green et al., 2015).この点については,本研究の患者特性として,GOLDIII期以上で重症度が高く,ベースラインでの不安スコアがすでに高い傾向にあり,これらの臨床的特徴が介入効果に影響を及ぼした可能性が考えられる.また本研究ではQOLの効果が示されなかったが,先行研究ではACPがQOLの改善に有効性を示した研究と(Detering et al., 2010),効果が示されなかった研究があり(Skorstengaard et al., 2019),ACPのQOLへの影響は一定の評価が得られていない現状がある.加えてQOLの有効性に関しても,参加者の進行した病期がQOL指数に影響を及ぼした可能性が考えられる.

医療職者とのコミュニケーションの質は,量的統合による有効性の評価は実施できなかったが,個々の研究では統計学的有意差が示されていた.COPD療養者への適切な終末期医療の提供は,医師・患者間のコミュニケーションの促進が重要となる(Curtis, 2008).先行研究では,看護師が進行性がん患者の終末期ケアの話し合いに,質問紙を用いたコミュニケーション支援プログラムが,対話を促進したことが報告されている(Walczak et al., 2017).したがって,COPD療養者と医療者間のコミュニケーションの質の改善および継続的な影響については,今後も検証していく必要があると考える.

4. 本邦への結果の適応の可能性

本邦におけるCOPD療養者へのACPの有効性は十分に評価されていない.また,終末期医療ケアに関わるコミュニケーションにおいて,医師と患者間に認識の齟齬が生じていることも報告されている(Fuseya et al., 2019).このような背景には,ACPの普及率の低さが要因の一つにあると考える(厚労省,2018).適切なACPは,必要な緩和ケアの提供,および療養者にとって尊厳ある終末期を実現するために重要な介入となる(GOLD, 2020).今後は,医師や看護師などが医療施設や地域で実際にACPを促進していくことが重要である.一方,専門職の実践を支えるための,ACP概念の普及,システムの構築や教育の推進等も重要な課題になると考えられる.これらの課題を克服していくためには,他国との比較から,わが国の実情に即した臨床試験の実施と,さらなるエビデンスの蓄積が求められる.

5. 研究の限界と今後の課題

採択したRCTは,プロトコルを遵守しており,対象者の割り付けにおいても深刻な影響を及ぼすほどのバイアスは認めなかった.試験は多施設で実施され,介入内容の共通性,介入を受ける対象者の重症度の類似性,またITTデータ解析を実施していることから,本研究結果は適切なプロセスから得られた信頼できる結果であると評価することができる.しかしながら,定量的・定性的評価では,採択した4研究は全て小規模試験であり,介入内容の特性には幅があるため,今後の大規模RCTによっては本研究で示された結果が変わる可能性がある.また臨床的異質性,ランダム化生成と隠蔽化,盲検化に基づく課題が認められたことは,メタアナリシスによって得られた効果推定値の考量においてエビデンスの確証は限定的と解釈する必要がある.また英語と日本語以外で書かれた文献は検討していない点が本研究の限界である.一方近年は女性の過小診断や発症リスクが注目されており(Aryal et al., 2014),適切な男女比を反映した標本からACPの有効性を評価していくことも重要であると考える.他方,介入内容がQOLに及ぼす要因やその継続的影響を検討することも今後の研究において重要な課題であると考える.

Ⅶ. 結論

COPD療養者へのACPの有効性に対するシステマティックレビューとメタアナリシスを行い,事前指示書の作成,および医療職者との終末期医療ケアに対する話し合いが介入群に有意に実施割合が高いことが示された.しかしながら,得られたエビデンスの確証は限定的であった.終末期にあるCOPD療養者の支援において,ACPを促進することは重要である(GOLD, 2020).よって,今後は,より詳細な介入プロセスの明示化や,優れた質のデザインによるRCTの蓄積から,ACPの有効性を継続して評価していくことが重要である.

付記:本研究は,2021年度聖路加国際大学看護学研究科 修士論文に加筆修正したものである.本論文の内容の一部は,第4回日本エンドオブライフケア学会学術集会において発表した.

謝辞:本研究を進めるにあたり多くのご指導を下さいました聖路加国際大学大学院の亀井智子教授に深く感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:KIとTHは,一次スクリーニング,二次スクリーニング,解析,リスクオブバイアス評価,原稿修正を担当しました.TKは,本研究の遂行にあたり,アドバイスの提供,執筆,原稿修正の上で多くのご支援・ご指導を下さいました.全ての共著者には,本原稿の執筆にあたり多大なる貢献を賜りました.全共著者が本原稿の投稿を承認しております.

文献
 
© 2022 Japan Academy of Nursing Science
feedback
Top