Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Development of A Self-Education Scale for Nurses
Ayako NoyoriSachiko Shimizu
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2022 Volume 42 Pages 850-860

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Abstract

目的:看護師の自己教育性尺度を開発する.

方法:概念分析より抽出した看護師の自己教育性の属性より看護師の自己教育性尺度項目を作成し,内容妥当性を検討し尺度原案62項目からなる質問紙を作成した.300床以上の医療施設に勤務する看護師1,080名に質問紙調査を実施し,尺度の信頼性と妥当性を検証した.

結果:416名から回答が得られた.そのうち,259名を因子分析の対象とした.因子分析の結果,《自ら学ぶ力》《省察する力》《看護への興味と仕事の充実感》の3因子27項目が抽出された.尺度の信頼性の検討では,Cronbach’s α係数.945,再テスト法による級内相関係数.858であった.妥当性については,構成概念妥当性と基準関連妥当性で確認された.

結論:看護師の自己教育性尺度を開発し,尺度の信頼性と妥当性が検証された.

Translated Abstract

Objective: This study aims to develop a self-education scale for nurses.

Methods: Based on the attributes of nurses’ self-education extracted from the concept analysis, items on the self-education scale for nurses were created, and content validity was examined to create a questionnaire consisting of 62 items in the original scale. A questionnaire survey was conducted on 1,080 nurses working in medical facilities with 300 or more beds to verify the reliability and validity of the scale.

Results: Responses were obtained from 416 nurses . Of these, 259 were subjected to factor analysis. As a result of factor analysis, 27 items of the following three factors were extracted: the ability to learn independently, the ability to reflect on one’s, the interest in nursing and a sense of fulfillment in work. Cronbach’s α coefficient was .945, and the intraclass correlation coefficient by the test-retest method was .858.

Conclusion: A self-education scale for nurses was developed and the reliability and validity of the scale were tested.

Ⅰ. 緒言

超高齢社会を迎え医療ニーズが多様化する中,看護師にはますます高度な看護実践が求められている.社会情勢が急激に変化する今日において,看護師には変化に対応できるよう継続的,主体的に学習を進めていく力が必要であり,日本看護協会(2003)は自己教育の必要性を示している.特に,実践と省察を通した学習は看護実践能力の向上に寄与することから(上村ら,2016),看護師には経験学習を含む自己教育が必要である.

自己教育力とは「自らの生き方を求めて主体的に学ぶ意志,態度,能力」であり(北尾,1987),学ぶ力以外の要素を含んでいる.梶田(1985)は自己教育力の要素に自己教育の基盤となる自信・プライド・安定性を加え自己教育性と定義づけている.海外において自己教育に相当する用語としてはSelf-educationがある.Self-educationはインフォーマルな教育の中で自らの努力によって情報,技能,新しい能力を獲得するプロセスであり(Gibbons & Phillips, 1982),主体的に学ぶ能力のみに注目した概念であると言える.むしろSelf-directed learning(以下;SDL)とSelf-directed learning readiness(以下;SDLR)が自己教育力と類義の概念である.SDLは学習者が学習の必要性を感じ,自ら積極的な学習へ関与する過程であり(Knowles, 1980/2002),自己教育性の主体的に学ぶ態度と能力に共通する要素を有する.またSDLの準備性であるSDLRを備えている学習者はSDLスキルに対する自信や学習に対する動機づけがあるとされ(Artis & Harris, 2007),これは自己教育性の主体的に学ぶ意志に相当すると考える.したがって,日本で用いられている自己教育性とはSDLとSDLRの概念に自信・プライド・安定性を加えた日本独自の広い概念である.日本で自己教育性という用語が強調されてきた背景には教師による一方向的教授,知識詰め込み教育といった日本のこれまでの教育への反省と核家族化や高齢化により伝達型教育が困難となった社会状況の変化がある(尾崎・山本,1997北尾,1987).

看護師の自己教育に関する研究報告には自己教育力やSDLRが高い看護師の特性(橋本・橋本,2005永野・舟島,2002O’Shea, 2003Fisher et al., 2001)や自己教育力やSDLRと看護実践能力の向上(工藤,2009Samarasooriya et al., 2019),キャリア形成の促進(簑,2014),指導力の向上との関連(簑,2014松澤・休波,2009)がある.また,看護師のSDLを促進するための能力開発や促進ツールの研究報告がある(Riley-Doucet, 2008Cleary & Freeman, 2005).先行研究では看護師の自己教育を測定する尺度として,自己教育性調査票(梶田,1985)や看護師の自己教育力測定尺度(西村ら,1995)が用いられている.自己教育性調査票(梶田,1985)は児童の自己教育へ向かう姿勢と自己教育力を測定するために開発された尺度であり,成長・発展への志向,自己の対象化と統制,自信・プライド・安定性の3つの側面が測定できる.看護師の自己教育力測定尺度(西村ら,1995)は,梶田(1985)の自己教育性調査票の下位尺度に〈看護師の学習の技能と基盤〉を加えたものである.既存の尺度は児童を対象として開発され,看護師の発達段階の特徴と合致していない点がある.さらに,経験学習の視点が含まれていない.経験は学習の機会であり,看護師の学習行動における経験学習の重要性は先行研究で示されている(今井・高瀬,2021加藤ら,2004).したがって,既存の尺度は成人学習者である看護師に適用できるとは言い難い.また,Self-Directed Learning Readiness Scale for Nursing Education(以下;SDLRSNE)が開発され(Fisher et al., 2001),大山ら(2015)により日本語版が開発されているが現時点では表面妥当性の検討に留まっている現状がある.加えて,自己教育性はSDLRより広義の概念として捉えていることから本研究で取り扱う自己教育性には合致しない.

以上のことから,看護師が継続的,主体的な学習を進めていくために看護師の自己教育性がどのような要素で構成されているのかを明らかにし,評価することができる尺度の開発が必要である.看護師の自己教育性の向上は看護実践能力の向上(工藤,2009Samarasooriya et al., 2019)やキャリア形成の促進(簑,2014),指導力の向上(簑,2014松澤・休波,2009)につながると考える.そこで,本研究は看護師の自己教育性の定義を明確にした上で,看護師の自己教育性尺度を開発し,その信頼性と妥当性の検証を目的とする.

Ⅱ. 研究方法

1. 「看護師の自己教育性」の概念分析

「看護師の自己教育性」には明確な定義がなく尺度開発がなされている背景がある(酒井,2003).そこで,本研究では尺度開発に先駆けて看護師の自己教育性の概念を明らかにした.まず,Walker & Avant(2005)の概念分析の手順に基づき,教育学,看護学の辞書や書籍から自己教育性の定義の特徴を整理した.次に,和文献は医学中央雑誌Web版とCiNiiを使用し“看護師”“自己教育”“自己教育性”“自己教育力”,海外文献はPubMed,CINAHLを使用し“nurse” “self-education”に加えて,近接概念である“self-directed learning” “self-directed learning readiness”をキーワードに検索した.さらに,看護師の自己教育性に関連する文献に限定し,文献を抽出した.文献検索の期間は1990年から2019年とした.対象文献は43文献が得られ,そのうち13件は海外文献,30件は和文献であった(2020/05/20検索).

看護師の自己教育性は〈看護への興味〉〈自信・充実感・安定性〉〈成長・発展の志向〉〈省察する力〉〈学習の技能〉の5つの属性から構成された.

本研究における看護師の自己教育性を「〈看護への興味〉と看護師としての〈自信・充実感・心理的安定性〉を基盤とし,看護師として自己の目標を定め,成し遂げようとする〈成長・発展の志向〉と,自らの傾向や能力を認識し,経験を多様な視点から捉える〈省察する力〉と,継続的に目標に向い,学習の計画を立て,知識・技術を習得する〈学習の技能〉である」と定義した.

2. 看護師の自己教育性尺度原案の作成

属性を構成するコードを基に質問項目を精選した.加えて,先行研究(梶田,1985西村ら,1995)も参考にし,看護師の自己教育性の5つの構成要素ごとに質問項目を作成した.尺度の内容を充足する包括性に注意して研究者間で項目を検討し,〈看護への興味〉9項目,〈自信・充実感・安定性〉13項目,〈成長・発展の志向〉12項目,〈省察する力〉26項目,〈学習の技能〉25項目の85項目となった.

次に,看護師の自己教育性の尺度項目の内容妥当性を検討するために臨床経験5年以上かつ修士以上の学位をもつ看護師9名を対象にContent validity index(以下;CVI)を用いた検討を行った.CVIは内容妥当性を定量化するための方法であり,尺度の項目内容の有効性を推定するための方法である(Lynn, 1986).看護師の自己教育性の5つの属性と尺度原案の項目の関連について4件法で調査し,Item-Content validity index(以下;I-CVI)とScale-Content validity index(以下;S-CVI)の平均値を算出した.加えて,項目の表現方法や例示方法,過不足について自由記述を求めた.I-CVIは.78以上,S-CVIの平均は.90以上の項目を採択基準とした(Polit & Beck, 2006).その結果,85項目のうちI-CVIが.78未満の項目は23項目であった.I-CVIが.78未満の項目は削除対象であるが(Polit & Beck, 2006),I-CVIの結果のみに基づき項目の削除を行うと最終的に下位尺度の項目不足が生じ適正な尺度構成にならないことが指摘されている(髙木,2011).このことから,23項目のうち17項目を削除し,6項目は項目の表現を修正して採択した.削除した17項目のI-CVIは.38から.75(平均.70)であり,修正した6項目のI-CVIは.63から.75(平均.73)であった.採択した68項目のS-CVIの平均は.92であった.

採択した68項目について,臨床経験5年以上の看護師4名を対象に,項目の表現方法,回答困難な表現内容ついて確認を行い,対象者の自由記述の内容から類似性があると判断された2項目を削除した.そして,66項目について再度,臨床経験5年以上かつ修士以上の学位をもつ看護師6名を対象にCVIを用いた検討を行った.その結果,I-CVIが.78未満である4項目を削除した62項目を採択し,尺度原案とした.尺度原案のI-CVIは.83以上であり,S-CVIの平均値は.94であった.

3. 研究対象者

尺度作成のサンプルサイズには100以上が推奨されており,尺度の質問項目数の7倍が必要である(Mokkink et al., 2010).十分なサンプルサイズを確保するため回収率30%を想定して目標標本規模を検討し,全国の一般病床300床以上を有する医療施設から層化抽出法により抽出した82施設に研究参加を依頼した.22施設より研究参加の同意を得た.300床未満の病院は中小規模病院と位置づけられ,大規模病院と比較すると新人看護師の離職率や中途採用者率が高い(厚生労働省,2016).また,療養病床は看護師および准看護師の中途採用が多く,看護師人数も一般病床を有する病院より少ない(日本看護協会,2020).本研究は幅広い年代の看護師を対象とした調査研究であることから,1病棟における看護師人数と幅広い年代の看護師が勤務していることを考慮し,一般病床300床以上を有する病院1施設1病棟の看護師(師長・副師長・主任の職位を有する看護師,専門看護師・認定看護師を含む)を対象とした.さらに,基準関連妥当性の検証において専門看護師・認定看護師とそれらの資格を有さない看護師の自己教育性尺度得点の群間比較を行うため,22施設全ての専門看護師・認定看護師を含めた.その結果,対象となる看護師は1,080名であった.さらに,作成した尺度の安定性を検証するために便宜的に抽出した300床以上を有する1施設100名の看護師に3週間の期間をあけて再テストを行った.

4. 調査手続き

層化抽出した施設の看護管理責任者に研究の趣旨,目的,方法,倫理的配慮について文書で説明し,研究参加の有無について郵送法により同意を得た.対象となる病棟は看護管理責任者に選定を依頼した.調査協力が得られた施設担当者へ対象者数分の研究説明書,調査票,返信用封筒一式を郵送し,配布を依頼した.調査票は個別郵送法で回収した.調査期間は再テストの期間を含め2022年1月~7月であった.

5. 調査項目内容

1) 対象者の属性

年齢,性別,看護師経験年数,現在の職位,看護に関連した資格取得の有無(専門看護師や認定看護師)を属性の項目として設定した.

2) 看護師の自己教育性尺度

62項目の看護師の自己教育性尺度の原案を使用した.回答方法は「1.全く思わない」から「6.非常に思う」の6件法とした.

3) 看護実践の卓越性自己評価尺度―病棟看護師用

基準関連妥当性の検証として,看護実践の卓越性自己評価尺度―病棟看護師用(舟島,2009)を使用した.自己教育力が高い看護師は看護実践能力も高いことが示されていることから(工藤,2009),看護師の自己教育性尺度の総得点が高い看護師は看護実践能力も高いと仮定した.看護実践の卓越性自己評価尺度―病棟看護師用―は7つの下位尺度35項目から構成され,その信頼性と妥当性が確認されている(舟島,2009).なお,尺度使用にあたっては開発者に使用許諾の承認を得た.

6. 分析方法

1) 項目の記述統計量

各項目の記述統計量を算出した.度数分布と平均値・標準偏差による天井効果・フロア効果の確認,項目間相関,Item-Total Correlation Analysis(以下;I-T相関)の算出,Good-Poor Analysis(以下;G-P分析)を行った.項目間相関は,rが.70以上である項目のうちどちらか一方を削除し,I-T相関はrが.30以下の項目を削除した.G-P分析は得点上位から25%~33%が用いられていることから(村上,2007),33%を基準として3分割し,高値群と低値群の差をt検定で確認した.

2) 妥当性の検証

(1) 構成概念妥当性

最尤法・プロマックス回転による探索的因子分析を行った.因子数は固有値1.0以上とスクリープロットを参考に決定した.抽出された各因子で因子負荷量.40以上,因子負荷量が2因子へまたがっていないことを基準とした.さらに,確証的因子分析を行い,適合度を比較して最終モデルを決定した.モデルの適合度指標は,Goodness of Fit Index(GFI),Adjusted Goodness of Fit Index(AGFI),Comparative Fit Index(CFI),Root Mean Square Error of Approximation(RMSEA),χ2値およびdfを用いた.

(2) 基準関連妥当性

看護師の自己教育性の総得点を33%基準とし高値群と低値群に群分けし,看護実践の卓越性自己評価尺度の総得点と各因子の得点について,Shapiro-Wilk検定で正規性を確認した上で,t検定およびMann-WhitneyのU検定を行った.

また,認定看護師や専門看護師は高い看護実践の遂行に加えて,関連する専門職集団との調整や施設内外での教育・研究などの場面で高い専門性を発揮することが求められる(菊池,2014).このことから,求められる役割を遂行する上で専門看護師や認定看護師の自己教育性は高いと仮定し,看護師の自己教育性尺度の総得点と各因子の得点と資格保有群(専門看護師・認定看護師)と資格無群の2群間の差をMann-WhitneyのU検定で確認した.

3) 信頼性の検証

内的整合性を検証するため,尺度全体と下位尺度因子についてCronbach’s α係数を算出した.また,作成した尺度を用いて再テスト法により尺度の総得点と各因子の得点の級内相関係数を算出し安定性を確認した.

これらの解析には,IBM SPSS Statistics ver. 26,IBM SPSS Amos ver. 26を用いた.

7. 倫理的配慮

本研究は武庫川女子大学研究倫理委員会の承認(承認番号20-71)を受け実施した.特に,本研究は看護師の自己教育性を取り扱っていることから研究対象者が個人の看護実践能力や日頃の学習状況を査定されている印象を受ける可能性があるため,決して個人の能力査定を行う調査ではないことを文書で説明し,対象施設の看護管理責任者から研究対象者の研究参加可否に関する質問は控えるように文書で説明し,研究協力が強制的にならないよう留意した.

Ⅲ. 結果

1. 対象者の属性(表1

416名から回答を得た(回収率38.5%).看護師の自己教育性尺度の項目欠損率は最小0.24%,最大0.96%であり,項目による大きな偏りは認めなかった.また,20項目以上の連続同一回答は全体の2.4%を占めていた.項目欠損や同一回答を含む因子分析は心理尺度の因子構造が崩れることが報告されているため(三浦・小林,2018),看護師の自己教育性の項目に欠損を認める回答および20項目以上の連続同一回答は除外した(増田ら,2016).その結果,有効回答は381名(有効回答率91.6%)であった.

表1  対象者の属性
因子分析の対象 n = 259 基準関連妥当性の対象 n = 381
度数 パーセント 平均値 中央値 SD 度数 パーセント 平均値 中央値 SD
年齢 36.6 35.0 10.4 39.6 41.0 10.4
看護師経験年数 13.2 10.5 9.9 16.4 16.0 10.2
性別 女性 231 89.2 341 89.5
男性 27 10.4 39 10.2
無回答 1 0.4 1 0.3
認定資格の有無 専門看護師 1 0.4 9 2.4
認定看護師 5 1.9 119 31.2
なし 253 97.7 253 66.4
役職の有無 病棟師長/病棟課長 19 7.3 31 8.1
病棟副師長/病棟主任 35 13.5 87 22.8
スタッフ 200 77.2 253 66.4
無回答 5 1.9 10 2.6
最終学歴 2年課程看護専門学校 25 9.7 36 9.4
高等専門5年 11 4.2 16 4.2
3年課程看護専門学校 154 59.5 214 56.2
看護系短期大学 16 6.2 30 7.9
看護系4年制大学 35 13.5 49 12.9
看護系大学院修士課程/博士前期課程 6 2.3 21 5.5
その他 10 3.9 12 3.1
無回答 2 0.8 3 0.8

専門看護師・認定看護師の資格を有する看護師は128名(33.6%),それらの資格を有さない看護師は253名(66.4%)であり,専門・認定看護師の割合が高い集団であった.そこで300床以上の病床を有する施設に勤務する専門看護師・認定看護師が全体の看護師に占める割合を算出し,専門看護師・認定看護師128名より無作為に6名抽出した.最終的に専門看護師・認定看護師の資格を有さない253名に専門看護師・認定看護師6名を加えた259名を因子分析の対象とした.基準関連妥当性の検討は381名を分析対象とした.

調査協力の同意が得られた22施設の病床数は500床以上から800床未満が7施設,300床から500床未満が15施設であった.また,地域別では東北地方3施設,関東地方6施設,中部地方5施設,関西地方3施設,中国地方2施設,四国地方1施設,九州地方2施設であった.

因子分析の対象である259名の平均年齢は36.6 ± 10.4歳,看護師経験年数は平均13.2 ± 9.9年であった.女性は232名(89.2%),男性は27名(10.4%)であった.病棟師長・副師長・主任の職位を有する看護師は54名(20.8%),職位を有さないスタッフは200名(77.2%)であった.

2. 項目分析

看護師の自己教育性62項目について,天井効果・フロア効果を示す項目はなかった.62項目の項目間相関を確認した結果,rが.70以上を示す相関のペアが9組あり,その項目内容を研究者で検討した.2組は同じ意味内容を含んでいたためどちらか一方を削除し,その他は意味する内容が明らかに異なることから,そのまま採用した.I-T相関分析では,rが.80以上を示す項目は認めなかったが,rが.30未満を示す2項目は削除した.G-P分析では合計得点から高値群(n = 86, 33.2%),低値群(n = 88, 34.0%)を抽出した結果,すべての項目において有意差を認めた(p < .001).これらの項目分析の結果,4項目を削除した.

3. 妥当性の検証

1) 探索的因子分析(表2

58項目について最尤法,プロマックス回転による因子分析を実施した.初期の固有値の変化とスクリープロットから3因子構造であると判断し,因子負荷量.40以上,因子負荷量が2因子へまたがっていないことを基準として項目の選定を行った.その結果,31項目を削除し,3因子27項目となった(表2).採用された項目の因子負荷量は.516から.895であり,抽出後の負荷量平方和の累積は54.0%であった.

表2  探索的因子分析の結果 n = 259
項目 因子 Cronbach’s α
第1因子 第2因子 第3因子
第1因子【自ら学ぶ力】
41 私は,必要に応じて学習計画を見直している 0.856 –0.062 –0.106 0.928
51 私は,課題を達成するための学習方法を計画するようにしている 0.841 –0.159 0.029
56 私は,学習計画したことを行動に移している 0.819 0.012 –0.115
33 私は,看護師として新しいことに挑戦している 0.782 –0.067 0.050
54 私は,仕事や生活に折り合いをつけて学習している 0.761 –0.070 –0.025
34 私は,看護師としての目標に向かって突き進んでいる 0.740 –0.017 0.125
39 私は,勉強会や研修,学会などに自主的に参加している 0.679 0.039 –0.017
61 私は,仕事や生活に折り合いをつけて学習する機会を探している 0.674 –0.028 –0.010
10 私は,目指す看護を実践するために努力している 0.612 0.111 0.093
30 私は,看護師としての目標を自分で定めている 0.607 0.172 0.098
59 私は,日頃から看護に関する本やWebサイトを読んでいる 0.601 0.140 –0.080
9 私は,最新の看護に関する知識を得ている 0.555 0.053 0.033
第2因子【省察する力】
27 私は,仕事で失敗した経験から学んでいる –0.098 0.760 –0.094 0.897
17 私は,他者との意見交換の機会を大切にしている –0.059 0.755 0.004
50 私は,他者が大切にしている価値観を理解しようとしている 0.080 0.714 –0.024
20 私は,仕事で上手くいった経験を次にも活かしている –0.033 0.713 0.093
16 私は,これまでの看護師としての経験を自分の成長につなげている 0.033 0.710 0.096
42 私は,看護師としての自分の弱みがわかっている –0.136 0.697 –0.164
25 私は,仕事上の困難があるときそれに向き合おうとしている 0.022 0.614 0.119
47 私は,他者の反対意見が学びになっている 0.105 0.593 0.012
44 私は,学んだことを看護実践に活かしている 0.121 0.554 0.178
13 私は,他者と患者とのかかわりから自分の看護実践の課題を見つけている 0.173 0.516 –0.038
第3因子【看護への興味】
6 私は,仕事が好きだと思う –0.077 –0.017 0.895 0.899
3 私は,仕事に充実感を感じている 0.009 –0.091 0.878
43 私は,仕事に達成感を感じている 0.036 –0.052 0.872
45 私は,仕事が面白いと感じている 0.071 –0.017 0.794
35 私は,看護する喜びを感じない(R) –0.090 0.090 0.660
尺度全体のCronbach’s α 0.945
抽出後の累積因子寄与率 % 40.527 48.248 54.017
第1因子 1.000
第2因子 0.588 1.000
第3因子 0.637 0.619 1.000

因子抽出法:最尤法 回転法:Kaiserの正規化を伴うプロマックス法

注1)項目前の数字は,項目番号を示す.(R)はリバース項目を示す.

尺度の第1因子は看護師として新しいことへの挑戦,目標を自分で定めて突き進む目標志向や達成意欲をはじめとし,学習を計画すること,仕事や生活に折り合いを付けながら学習を進めていく力で構成されていることから《自ら学ぶ力》とした.第2因子は失敗した経験,成功した経験を含む看護師としての経験からの学びや他者とのかかわりの中で自己を省察し学びを推し進める項目で構成されていることから《省察する力》とした.第3因子は仕事が好きであること,看護する喜びを感じること,仕事の充実感・達成感から構成されており《看護への興味と仕事の充実感》とした.

2) 確証的因子分析(図1

探索的因子分析で得られた看護師の自己教育性尺度の27項目で仮説モデルの適合度を確証的因子分析で確認した.適合度は,GFI = .834,AGFI = .802,CFI = .912,RMSEA = .068,χ2値 = 677(df = 316, p < .001)であった.

図1 

確証的因子分析の結果:モデル修正後(最終モデル)

3) 基準関連妥当性(表3

看護実践卓越性尺度の総得点および各因子の得点と看護師の自己教育性尺度総得点の高値群と低値群で群間比較をした結果,看護実践卓越性尺度の総得点および各因子の得点すべてで看護師の自己教育性尺度の高値群が有意に高かった(p < .001).また,資格保有群と資格無群の看護師の自己教育性尺度得点を群間比較した結果,看護師の自己教育性尺度の総得点および各因子の得点すべてで資格保有群の得点が有意に高かった(総得点・第1因子・第2因子p < .001,第3因子p = .045).

表3  基準関連妥当性の検証結果
看護師の自己教育性尺度の総得点 p
高値群n = 124 低値群n = 126
平均値 SD 平均値 SD
看護実践の卓越性自己評価尺度の総得点 135.79 16.94 112.35 17.49 p < .001
下位尺度I 【連続的・効果的な情報の収集と活用】 19.73 2.69 15.68 3.03 p < .001
下位尺度II 【臨床の場の特徴を反映した専門的知識・技術の活用】 18.39 3.57 15.27 3.10 p < .001
下位尺度III 【患者・家族との関係性の維持・発展につながるコミュニケーション】 20.82 2.83 17.44 3.22 p < .001
下位尺度IV 【職場環境・患者個々の持つ悪条件の克服】 18.52 3.60 15.05 3.12 p < .001
下位尺度V 【現状に潜む問題の明確化と解決に向けた創造性の発揮】 17.82 3.22 14.65 3.26 p < .001
下位尺度VI 【患者の人格尊重と尊厳の厳守】 20.05 3.15 16.98 3.08 p < .001
下位尺度VII 【医療チームの一員としての複数役割発見と同時進行】 20.48 2.82 17.30 3.00 p < .001
資格の有無 p
資格保有群n = 128 資格無群n = 253
平均値 SD 平均値 SD
看護師の自己教育性尺度の総得点 115.52 16.11 105.40 16.66 p < .001
第1因子 【自ら学ぶ力】 50.06 8.45 43.39 9.00 p < .001
第2因子 【省察する力】 45.21 5.85 42.56 5.65 p < .001
第3因子 【看護への興味】 20.24 4.76 19.46 4.54 p = .045

注1)看護師の自己教育性の総得点の高値群と低値群と看護実践の卓越性自己評価尺度の総得点と各因子の得点は,Shapiro-Wilk検定で正規性を確認し,総得点は正規性を確認できたためt検定を行った.下位尺度の得点は,正規性を確認できなかったため,Mann-WhitneyU検定を行った.

注2)高値群n = 124,中間群n = 131,低値群n = 126であり,すべての群を合計したn数はn = 381である.

注3)看護師の自己教育性尺度の総得点と各因子の得点と資格保有群(専門看護師・認定看護師)と資格無群は,Shapiro-Wilk検定で正規性を確認し,正規性を確認できなかったため,Mann-Whitney U検定を行った.

4. 信頼性の検証

内的整合性を示すCronbach’s α係数は,尺度全体で.945,下位尺度の第1因子で.928,第2因子で.897,第3因子で.899であった(表2).再テスト法は1回目と2回目のいずれの調査にも回答し,自己教育性を測定する項目すべてに回答していた36名を対象として分析した.その結果,総得点の級内相関係数は.858であり,各因子の得点の級内相関係数は.714から.865であった.

Ⅳ. 考察

1. 看護師の自己教育性の構成概念

本尺度は看護師の自己教育性の構成要素に基づけば,5因子になることが想定できた.しかし,因子分析により〈成長・発展の志向〉が《自ら学ぶ力》へ,〈自信・充実感・心理的安定性〉が《看護への興味と仕事の充実感》となり,《自ら学ぶ力》《省察する力》《看護への興味と仕事の充実感》の3因子に集約された.尺度の総得点の範囲は27点から162点であり,得点が高いほど看護師の自己教育性が高いと解釈できる.以下,因子分析の結果から得られた下位因子の特徴と本研究により得られた因子構造が看護師の自己教育性の構成概念として妥当であるかについて考察する.

《自ら学ぶ力》には概念分析により抽出された要素のうち,看護師として自己の目標を定め,成し遂げようとする〈成長・発展の志向〉と自ら学習の計画を立て,知識・技術を獲得する〈学習の技能〉の2要素が含まれた.Knowles(1980)は成人学習において学習目標の明確化,学習活動の計画と実行,評価を一連のプロセスとし,このプロセスに学習者が参加することの重要性を指摘している.本研究結果でも成人学習者である看護師の自己教育性の1因子として〈成長・発展の志向〉と〈学習の技能〉は分離することなく捉えることが適切であると言える.

また,《自ら学ぶ力》には仕事や生活に折り合いをつけて学習するという要素が含まれていた.服部・舟島(2021)は病院に就業するスタッフ看護師が職業上直面する問題を挙げ,その中で「看護専門職者と家族構成員の役割遂行対立」や「時間内業務処理不可による終業時間遷延」,「変則交代勤務と業務多重負荷による疲労蓄積」,「自己学習時間確保難渋」といった看護師が働きながら学ぶことを阻害する直接的,間接的要因が問題の上位であることを報告している.岩下・高田(2012)も子育てのライフステージにある看護師が子どもと関わる時間と仕事をうまくコントロールし,葛藤しながらも折り合いをつけていることを明らかにしている.以上から,《自ら学ぶ力》は看護業務負荷が増える今日,依然として女性が多くを占める看護師が自ら学ぶために折り合いをつけながら,学ぶ環境を調整することができる能力をも含み看護師の自己教育性に必要な要素であると言える.

《省察する力》は経験から学ぶ姿勢と他者との関わりから学ぶ姿勢が含まれた.古くより学習基盤に経験を位置づける研究者は多い(Knowles, 1980/2002Miller & Boud, 1996Kolb, 1984).Miller & Boud(1996)は経験を学習の基礎でもあり,学習の刺激でもあると述べており,本研究でも経験の省察が看護師の学習の基盤であり刺激でもあることが示されたと言える.また,中原(2021)は職場における成人学習では,省察のきっかけを他者から得られることが重要であり,他者との対話や支援を通じた学びによって効果の高い学習が得られることを実証的に示している.本研究で示された,上司や先輩,同僚,後輩,患者といった職場でかかわる人との相互作用から学習する機会を生み出す力は,看護師の自己教育性の一つとして妥当な要素であると言える.

そして,《看護への興味と仕事の充実感》は看護師の自己教育性の基盤である.興味とは「ある特定の対象に注意を向け,それに対して積極的に関与しようとする心理的状態」であり(鹿毛,2013),教育学分野では学習者の興味の水準が望ましい学習行動や学習成果に関連があることが示されている(Sansone et al., 1992Hidi, 1990).またHidi & Renninger(2006)は深い興味は感情のみならず学習の価値の認知を伴い,積極的な学習を持続させると指摘している.本研究でも「仕事が面白い」「仕事が好きだ」という看護への興味が示されており,看護への興味の発達とともに学習の価値の認知が高まると言える.さらに,先行研究では興味を抱いて取り組むことで,集中,粘り強さ,努力の傾向を強め,ポジティブな感情を生起することが報告されている(Schunk & Zimmerman, 2008/2009).充実感もまたポジティブな感情のひとつであり,看護師の自己教育を牽引する心理的基盤として《看護への興味と仕事の充実感》が1つの因子として示された本研究の結果は,妥当であると考える.

以上より,本研究で示された看護師の自己教育性の因子構造は,成人学習者である看護師の学習プロセスを踏まえて概念集約されていること,先行研究で示された看護師の自己教育における経験学習の重要性が反映されていること,自己教育の心理的基盤が集約して示されていること,さらに概念分析で抽出された全ての属性が含まれることより看護師の自己教育性の構成要素を示すものとして適切な内容であると言える.

2. 看護師の自己教育性尺度の信頼性と妥当性

各因子のCronbach’s α係数は高い値を示しており,本尺度は内的整合性を確保していると言える.また,級内相関係数も高い値を示し,尺度の安定性も検証された.

確証的因子分析のモデル適合度はGFIとAGFIは.90以上,またはRAMSEAは.06未満が目安とされているが(豊田,1998),本研究ではGFIとAGFIは.90未満であり,RAMSEAはわずかに基準を上回った.χ2値より「モデル適合が正しい」という帰無仮説は棄却された.しかし,χ2値によるモデル適合度判定は標本数に敏感に依存するためχ2値のみによるモデル適合判定は避けるべきとされる(豊田,1998).また理論上,モデルの自由度が大きくなるとGFI値は高くならず,GFIの基準が下回っていても必ずしもモデルを捨て去る必要はない(豊田,1998).パス係数の推定値は高い値を示しており有意であったことから,因子構造においては一定の妥当性は示されたと言える.また,看護師の自己教育性の高値群では看護実践能力も高い傾向であった.看護実践能力の向上に不可欠な看護師の学習行動には,実務経験の最中に展開できる能動的な行動力が求められ(今井・高瀬,2021),自己教育性を高めることは看護実践の質を高めることにつながる(工藤,2009).このことから看護師の自己教育性が高い看護師は,看護実践能力も高いと言える.さらに,資格保有群の自己教育性も高い傾向であった.専門看護師は仕事を継続していく上で職務遂行への自信や専門性向上への意欲を持ち合わせている(菊池,2014).つまり,資格を有している看護師は自己の役割を遂行するために自己教育性が高いと考える.

これらのことから,本研究で開発した看護師の自己教育性尺度の信頼性および妥当性は示されたと言える.

3. 看護師の自己教育性尺度の活用可能性

本尺度を活用し,看護師が自己教育性を自己評価することによって看護師としての自己教育性を高める志向性や行動を客観的に把握することができる.その評価を活用し,施設内もしくは病棟内の人材育成につなげる基礎資料として役立てることができると考える.また,看護師個人が自己教育性を把握しながら各個人が目指す看護師の自己教育性を捉えることが出来ると考える.さらに,看護師の自己教育性に影響している要因を明らかにするためにも本尺度を活用することができると考えられ,看護師個々に応じた継続教育の支援の在り方の検討に有用であると考える.

4. 本研究の限界と今後の課題

今回の調査では対象者の統計学的な観点から,300床以上の施設に勤務する看護師を対象とした.施設規模による看護師の自己教育性に関連した実証的な研究報告は見あたらない.しかし,中小規模病院では看護師育成システムの構築に問題を抱えているとの報告があり(厚生労働省,2016),人材育成上の課題が看護師の自己教育性に関連している可能性が示唆される.そのため,今後は300床未満の中小規模病院の看護師への適応可能性について検証が必要であると考える.

Ⅴ. 結論

本研究で《自ら学ぶ力》《省察する力》《看護への興味と仕事の充実感》の3因子27項目からなる看護師の自己教育性尺度を開発した.本尺度は成人学習者の特徴を捉えた尺度項目から構成され,一定の信頼性と妥当性が確認された.

謝辞:本研究の実施にあたり,ご協力いただきました看護師の方々,看護管理責任者をはじめ病院関係者の方々には本研究のご理解とご協力を賜りに深く御礼申し上げます.なお,本研究は文部科学省科学研究費助成事業 科研費基盤研究(C)の助成を受けて実施いたしました.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:ANは本研究を着想し,研究のデザイン,データ収集,分析,結果,考察および論文作成を担当した.SSは研究プロセス全体および論文作成に対し助言し,論文への加筆・修正を行った.最終原稿は両著者により承認されている.

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