Journal of Japan Academy of Nursing Science
Online ISSN : 2185-8888
Print ISSN : 0287-5330
ISSN-L : 0287-5330
Reviews
Literature Review of The Usage of Sensors and IoT Devices in Older Adult Care—Based on Japanese, English, and Chinese Databases—
Xiaonan DuanNobuko KawaiYuria YamasakiToshihiro OnoHarue Masaki
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2023 Volume 43 Pages 28-37

Details
Abstract

目的:文献検討を通して,高齢者ケアで活用しているセンサーとIoT機器の使用上の詳細を明らかにする.

方法:医中誌Web,CiNii,MEDLINE,CINAHL,CNKIを用いて2021年までに発表された文献を検索し,既に開発されたセンサーとIoT機器の高齢者ケアでの使用目的,使用上のポジティブな面とネガティブな面等の内容を抽出した.使用目的によって,機器を分類した.

結果:26本の文献を採用した.機器は,身体活動量の算出・評価をする,離床や転倒・転落を予防する,安全を見守る,作業位置と場所移動を推定する,睡眠状態を評価する,24時間のバイタルサインをモニタリングする,おむつの使用による不快感を軽減する,尿の膀胱貯留量を把握する,笑いを検出しコミュニケーションを円滑化する,施設の生活環境をモニタリングする,ケア業務を改善・強化するものの11種類に分類した.

結論:文献検討で抽出した機器の使用上の詳細は今後高齢者ケア施設で広範囲に機器を導入する際の参考になる.

Translated Abstract

Objective: To investigate the use of sensors and Internet of things (IoT) devices in older adult care via literature review.

Methods: We researched the literature published until 2021 based on Ichu-shi Web, CiNii, MEDLINE, CINAHL, and CNKI. Accordingly, we extracted the data pertaining to the purpose, positive, and negative aspects of the use of developed sensors and IoT devices in older adult care. The sensors and IoT devices were classified according to the intended use described in the adopted literature.

Results: 26 studies were adopted. Sensors and IoT devices were classified into the following 11 types according to the intended use or purpose: for calculating and evaluating the amount of physical activity, preventing getting off the bed and falling, ensuring safety, estimating work position and location change, evaluating sleep state, 24-h vital sign monitoring, reducing the discomfort caused owing to wearing diapers, quantifying the amount of urine retained in the bladder, detecting laughter and facilitating communication, monitoring the facility living environment, and improving and reinforcing care services.

Conclusion: The details of the sensor and IoT device use extracted through the literature review will serve as a reference when widely introducing the devices in long-term care facilities in the future.

Ⅰ. 緒言

日本の超高齢化の急速な進行と共に,2025年を目途に地域包括ケアシステムの構築が推進されており,介護分野では施設・居住系サービスとして,介護老人福祉施設などが挙げられる(厚生労働省,2016).要介護・支援認定者の高齢者が年々増加している状況(厚生労働省,2019)を考慮し,今後前記のような高齢者ケア施設で人生の最終段階を過ごす高齢者が益々増えると予測できる.

高齢者ケア施設でケアを提供する主体は看護職と介護職となるが,これらの職種が不足している実態(介護労働安定センター,2021厚生労働省,2017)が継続しており,高齢者ケア現場の人手不足による労働負担の増大とそれに伴うケアの質の低下が懸念される.

厚生労働省はロボット技術の介護への導入を推進しており,介護ロボットには,情報を感知するセンサー系,判断する知能・制御系,動作する駆動系が挙げられる(厚生労働省,2022).センサーは物理量を検知・検出して信号を発することができ(北原,2021),Internet of things(以下:IoT)は,センサー,Radio frequency identifier,Global Positioning System,赤外線,ウェアラブルテクノロジーなどのセンシングデバイスとテクノロジーを含む広義の用語である(Soe Ye Yint et al., 2021).IoTはインターネット接続を介して複数の物理的なデバイスを接続するネットワークであり,これにより接続されたユーザー間で明確なデータと情報を共有できることから,近年人々のヘルスケアのニーズを満たす上で非常に効率的であると示されている(Bikash et al., 2021).今後,5G通信の普及と人工知能の発展により,センサー系やIoT機器の活用は爆発的に増加することが予測される.高齢者ケア施設で多種類のセンサーとIoT機器(以下:機器はセンサーとIoT機器の総称とする)の広範囲の使用は,職員の業務負担の軽減とケアの質向上の方策の1つと考えられ,その活用可能性を検討する必要があると考える.

高齢者ケアで使用されている機器に関する研究報告は,日本国内外では単一の機器や技術,あるいは特定の疾患のケアでの応用に関するものが多い.多領域で使用されている多種類の機器に関する文献レビューは,機器の技術や機能に焦点を当てるもの,例えば,高齢者ケア向けのウェアラブル技術とIoTの実際または潜在的な応用(Soe Ye Yint et al., 2021),高齢者の自立生活をサポートするウェアラブルセンサーとIoTベースの監視アプリケーション(Mirza Mansoor et al., 2019)があるが,機器の使用に関する高齢者と看護職の態度と反応,使用上の利点とリスクや課題などの具体的な使用上な詳細に焦点を当てた報告は見当たらない.

今後,高齢者ケア施設において機器を広範囲に導入するにあたって,使用上の詳細を検討した上で機器を選択する必要があると考える.しかし,高齢者ケアで使用されている機器の使用上の詳細を個々の研究報告から包括的に理解するには限界がある.したがって,本研究では,日本語,英語,中国語のデータベースを用いた文献検討を通して,機器の使用に焦点を当て,高齢者ケアで活用している多種類の機器の使用目的,使用者,装着・設置場所,使用上のポジティブな面とネガティブな面を明らかにする.そして,今後高齢者ケア施設で機器を導入する際の参考となることを目指す.

Ⅱ. 研究方法

文献検索は2021年10月から12月に実施した.日本語文献は,医中誌WebとCiNiiを用いて,キーワードを(施設OR老人ホーム)AND(センサーOR internet of things)とし,英語文献は,MEDLINEとCINAHLを用いて,キーワードを(((MH “Aged+”))AND((MH “Wireless Technology”)OR(MH “Remote Sensing Technology+”)OR(MH “Wearable Electronic Devices+”)))AND nursingとし,中国語文献は,CNKI(中国知網)を用いて,キーワードを(传感器OR物联网)AND老年人とし,2021年までに出版された文献を検索した.

文献の選択基準は,①本文があり入手可能であるもの,②既に開発された機器の高齢者看護・介護での使用を記述するもの,③機器の使用目的,名称,対象者,装置・設置場所,使用上のポジティブな面とネガティブな面などを記述したものとした.文献の除外基準は,①機器と関係のないもの,②使用者が医師であるなど高齢者看護・介護における使用ではない機器を記述するもの,③機器の構想,デザイン・実験・開発・技術発展を記述するもの,④選択基準で示した機器の詳細な情報を記述していないもの,⑤補聴器のような一般的に使用されている機器について記述するもの,⑦小説や学位論文,⑧著者名と掲載誌を明記していないもの,⑨施設職員が手作りした機器を記述するもの,⑩センサーやIoT機器ではない機器を記述するものとした.文献のスクリーニングは図1に示す.

図1 

文献のスクリーニングのフローチャート

採用した文献を精読し,機器の使用目的,名称,対象者,装着・設置場所,使用者などの良い反応や受け入れ,ケアへの良い影響や啓発など使用上のポジティブな面,使用者などの不満や拒否,使用上のリスク・課題などネガティブな面に関する内容を抽出し,一覧表に整理した.その後,使用目的によって機器を分類し,目的ごとに一覧表に表した.1つの機器が複数の目的で使用される場合は,それぞれの目的について,詳細を一覧表に示した.日本語文献と中国語文献のスクリーニング,文献の特定と内容の抽出は研究者1人で行った.英語文献のスクリーニングは,本文のある99本の文献のスクリーニングは共同研究者の1人が行い,その後のスクリーニング,文献の特定と内容の抽出は研究者1人で行った.文献のスクリーニングから内容の抽出は2人の大学教員のスーパバイズを受けながら行った.論文の作成にあたって,レビューのクリティーク・チェックシート(牧本・山川,2020)を用いて確認を行った.

Ⅲ. 倫理的配慮

公表された文献資料を対象とし,著作権に配慮して引用した.

Ⅳ. 結果

1. 採用文献

日本語文献15本,英語文献7本,中国語文献4本,計26本を採用した.採用した文献は,表1に示す.

表1  対象文献一覧
論文番号 著者 発表年 タイトル 掲載誌,巻(号),頁.
J1 雨宮洋子 2008 高齢者生活を支援するIT介護 介護(施設)と医療情報管理のIT化 老年精神医学雑誌,19(3), 281–290.
J2 馬塲才悟,久木原博子,井手亮太,他 2020 施設入所高齢者の身体活動量と認知機能に関する調査研究~2施設間における比較検討~ 西九州大学看護学部紀要,1, 7–12.
J3 藤岡真実,浅野房世,森愛,他 2009 睡眠障害のある高齢者の足浴効果と実験方法の検証 日本認知症ケア学会誌,8(3), 403–413.
J4 久間英樹,高橋勇作,福岡久雄,他 2010 ホビーロボットを用いた高齢者介護施設における「笑い」の定量的評価方法 笑い学研究,17(0), 50–60.
J5 萱森剛,石井秀明 2019 センサベッドによる転倒・転落の予防 理学療法新潟,22, 39–44.
J6 笠井恭子,小林宏光,川島和代 2015 要介護高齢者施設でのマット型睡眠計設置事例の紹介 Japanese Journal of Nursing Art and Science, 14(2), 195–199.
J7 川崎慎介 2004 IT活用最前線 施設内安全管理システム 院内の事故をセンサーで防止 夜間のセキュリティー確保にも 日経ヘルスケア,21(179), 90–92.
J8 前野里子,田渕康子,松永由理子,他 2018 認知機能障害のある高齢者における夜間睡眠の実態とADL及びBPSDとの関連 老年看護学,22(2), 31–39.
J9 前川泰子,中島智晴,今西昇,他 2014 居住空間のスマート化に向けた高齢者見守りシステム開発の取り組み ヒューマンケア研究学会誌,5(2), 51–54.
J10 高間康史,藤本泰成,山口亨,他 2017 介護老人福祉施設におけるセンサログを用いた介護スタッフ・入居者の活動分析 知能と情報,29(4), 619–627.
J11 徳元敦,安間泰斗,小野塚優志,他 2020 マルチモーダル環境センシングによる認知症高齢者の生活支援ケアエビデンスの創出 人工知能学会全国大会論文集,34th,ROMBUNNO.3Rin4-40(WEB ONLY).
J12 内田勇人,藤原佳典,谷口和彦,他 2011 非拘束なモニタリングシステムによる見守り支援が介護スタッフに及ぼす影響 老年社会科学,33(1), 60–73.
J13 山田千恵,横井賀津志 2015 ユニット型特別養護老人ホームにおける転倒予防介入 転倒要因の解明と離床センサーの導入 大阪作業療法ジャーナル,28(2), 84–88.
J14 2016 最新機器導入で業務はこう変わる 職員のモチベーション向上にも期待 日経ヘルスケア,(325), 65–67.
J15 2017 介護を助けるIoT熱中症,失禁を防ぐ 日経コンピュータ,(943), 28–31.
E1 Auerswald, T., Meyer, J., Holdt, K. et al. 2020 Application of Activity Trackers among Nursing Home Residents—A Pilot and Feasibility Study on Physical Activity Behavior, Usage Behavior, Acceptance, Usability and Motivational Impact Int J Environ Res Public Health, 17(18), 6683.
E2 Buckinx, F., Mouton, A., Reginster, J. Y. et al. 2017 Relationship between ambulatory physical activity assessed by activity trackers and physical frailty among nursing home residents Gait Posture, 54, 56–61.
E3 Dugstad, J., Eide, T., Nilsen, E. R. et al. 2019 Towards successful digital transformation through co–creation: a longitudinal study of a four-year implementation of digital monitoring technology in residential care for persons with dementia BMC Health Serv Res, 19(1), 366.
E4 Dugstad, J., Sundling, V., Nilsen, E. R. et al. 2020 Nursing staff’s evaluation of facilitators and barriers during implementation of wireless nurse call systems in residential care facilities. A cross-sectional study BMC Health Serv Res, 20(1), 163.
E5 Evans, J., Papadopoulos, A., Silvers, C. T. et al. 2016 Remote Health Monitoring for Older Adults and Those with Heart Failure: Adherence and System Usability Telemed J E Health, 22(6), 480–488.
E6 Jansen, C. P., Mona Diegelmann, M., Schnabe, E. L. et al. 2017 Life-space and movement behavior in nursing home residents: results of a new sensor-based assessment and associated factors BMC Geriatr, 17(1), 36.
E7 Moyle, W., Jones, C., Murfield, J. et al. 2018 Effect of a robotic seal on the motor activity and sleep patterns of older people with dementia, as measured by wearable technology: A cluster-randomised controlled trial Maturitas, 110, 10–17.
C1 章依妮,何苗苗,季奕君,他 2020 智能床垫在养老照护中的应用研究进展 护理与康复,19(06), 31–33.
C2 赵喜斌 2018 物联网养老是种什么体验 决策探索(上),(01), 32–33.
C3 甄圣如 2019 智慧养老在应用中存在的问题及对策—以合肥逍遥津院为例 法制与社会,(14), 135–136.
C4 朱立彬 2013 智能家居中的传感技术的研究 信息技术, (02), 212–213.

J:日本語文献;E:英語文献;C:中国語文献

2. センサーやIoT機器について

機器の使用目的によって,11種類に分類した.種類別の,「機器の使用目的」「論文番号」「製品名or総称」「対象者」「装着・設置場所」を表2に示す.使用上の「ポジティブな面」と「ネガティブな面」は以下に示す.

表2  機器の詳細
機器の使用目的 論文番号 機器(orシステム)の製品名or総称 対象者 装着・設置場所
1.歩数によって,身体活動量を算出・評価するため J2 身体活動計 介護老人保健施設と認知症対応型協働生活介護施設の高齢者 高齢者の腰部ベルト
E2 アクティビティモニタ ナーシングホームの高齢者 対象者の靴やウエストバンド
E1 アクティビティトラッカー ナーシングホームの高齢者 腰またはネックレス
2.離床や転落・転倒を予防するため J12 非拘束なモニタリングシステム 特別養護老人ホームの認知症高齢者 認知症高齢者が多い病棟の個室内
J13 赤外線離床センサー 特別養護老人ホームの転倒リスクが高い,精神安定剤の多服用者と認知症高齢者 居室のベッド周囲
J14 シルエット見守りセンサー 介護老人保健施設の転倒リスクが高い,起居などの動作が比較的早く,起き上がりの際にすぐ対応すべき人 各居室のベッド近くの壁
見守りシステム 介護付き有料老人ホームの利用者
J5 体動センサー付きベッド 特別養護老人ホームに入所中,自力で離床可能,過去の転倒歴や転倒による受傷があった認知症高齢者
C4 カメラと加速度計 高齢者の家族 自宅の部屋
3.離室・離院を含めて,安全を見守るため J1 認知症高齢者ナーシングケアシステム 認知症高齢者専門施設の認知症高齢者 施設内の死角になりやすい場所,ベランダ,中庭,出入り口等
J7 ACP安全看視装置 有床診療所の患者 ディスプレイは診療所のナースステーション,センサーは診療室や病室,廊下等各所の天井
J9 見守りシステム 介護付き有料老人ホームの高齢者 人感センサーは高齢者の居室のトイレ内,温湿度センサーは居室の洗面台,ドアセンサーは居室のドアとトイレのドア
J15 エアコン見守りサービス 高齢者住宅の高齢者 各部屋
E3 分散型インテリジェント支援技術システム ナーシングホームの認知症高齢者 ナーシングホーム
E4 ワイヤレスナースコールシステム 住宅介護施設の利用者 住宅介護施設
C2 ヘルスホームeコミュニケーション養老サービスセンター サービスセンターを利用する自宅の高齢者 モニタリングプラットフォームはサービスセンターに設置,高齢者の家族が携帯端末を所有
サービスセンターを利用する自宅の高齢者 時計スマートデバイスを高齢者に装着
4.施設内のスタッフの作業位置,高齢者の位置を推定するため J10 ビーコン 介護老人保健施設の介護スタッフ 居室等にビーコンを設置,iPod touchは介護スタッフの腰にウエストポーチを用いて装着
E6 ワイヤレスセンサーネットワーク ナーシングホームの高齢者 ナーシングホームの外壁
5.睡眠中のバイタルサインのモニタリングも含め,睡眠状態を評価するため J3 生活リズムモニタリングシステム 特別養護老人ホームの睡眠障害のある高齢者 ベッドの下
J6 マット型睡眠計 特別養護老人ホームの要介護高齢者 寝具の下
J10 睡眠計 介護老人福祉施設の高齢者 ベッドマットレスの下
J8 センサーマット型睡眠計 有料診療所の認知症機能障害のある高齢者 マットレスや布団の下
E7 アクティビティアームバンド 使用介護施設に居住している認知症高齢者 手首に着用
C3 スマートマットレス 高齢者サービスセンターの高齢者
C1 スマートマットレス 在宅介護の高齢者
6.24時間のバイタルサインをモニタリングするため E5 リモートヘルスモニタリング 自宅の高齢者と心不全の疾患を有する高齢者
C2 ヘルスホームeコミュニティ養老サービスセンター サービスセンターを利用する自宅の高齢者 モニタリングプラットフォームはサービスセンターに設置,高齢者の家族が携帯端末を所有
サービスセンターを利用する自宅の高齢者 高齢者に時計スマートデバイスを装着
サービスセンターを利用する自宅の高齢者 高齢者の自宅
7.おむつ使用による不快感を軽減するため J1 おむつ濡れ感知センサー 認知症高齢者
8.尿の膀胱貯留量を把握するため J1 膀胱スキャナー 認知症高齢者専門施設の認知症高齢者 下腹部
J15 尿量センサー 施設の高齢者 下腹部
9.笑いを検出し,人と人のコミュニケーションのきっかけを作り,コミュニケーションの円滑化を図るため J4 横隔膜式笑い測定機 横隔膜周辺
爆笑計
スマイルスキャン 老人ホームの高齢者
10.施設の生活環境をモニタリングするため J11 マルチモーダル環境センシング ケア施設の共同室と廊下
11.ケア業務を改善・強化するため J14 見守りシステム 介護付き有料老人ホームの利用者 居室の天井
E4 ワイヤレスナースコールシステム 住宅介護施設の利用者 住宅介護施設

J:日本語文献;E:英語文献;C:中国語文献.

歩数によって,高齢者の身体活動量を算出・評価するために,身体活動計,アクティビティモニタ,アクティビティトラッカーが使用された.機器の使用上のポジティブな面は,高齢者の歩数を測定するための有効で信頼性が高いツールであり(アクティビティモニタ),9割以上の高齢者が受け入れ,3割以上の高齢者がフィードバックのある機器がより多くの身体活動を行う動機になったとした(アクティビティトラッカー).使用上のネガティブな面は,機器の紛失(アクティビティトラッカー)があった.

高齢者の離床や転倒・転落を予防するために,非拘束のモニタリングシステム,赤外線離床センサー,シルエット見守りセンサー,見守りシステム,体動センサー付きベッド,カメラと加速度計が使用された.使用上のポジティブな面は,介護スタッフの夜間勤務時のオムツの交換業務量の軽減および仕事上の心理的ストレス度の軽減(非拘束なモニタリングシステム),転倒リスクが高い入所者に対して転倒の直前に駆けつけて介助できたことにより職員が安心感を得られたこと(赤外線離床センサー),不要な訪室により入所者の睡眠が邪魔されることなく療養環境が向上したこと(シルエット見守りセンサー)などがあった.使用上のネガティブな面として,シルエット見守りセンサーを導入する際に一部の職員から「業務負担が増える」「操作を覚えるのが大変」などの声があった.また,体動センサー付きベッドの使用中に転倒が起きた状況もあり,その原因は機器の設定が不適切などであった.

離室・離院を含めて,高齢者の安全を見守るために,認知症高齢者ナーシングケアシステム,Area time care partner(以下:ACP)安全看視装置,見守りシステム,エアコン見守りサービス,分散型インテリジェント支援技術システム,ワイヤレスナースコールシステム(Wireless nurse call systems,以下:WNCS),ヘルスホームeコミュニケーション養老サービスセンターが使用された.使用上のポジティブな面は,利用者が安全で自由に移動できる開放的な環境の提供,職員の精神的な負担の軽減と,安全確認を行う職員の配置の不要による省力化(認知症高齢者ナーシングケアシステム),事故の防止や夜間不審者のチェックができること(ACP安全看視装置),入居者の夜間睡眠時間の延長と日中睡眠時間の短縮,睡眠の質の向上,徘徊と離院の減少(分散型インテリジェント支援技術システム),入居者の安全性と家族の安心感の向上,迅速な支援の提供の可能性(ワイヤレスナースコールシステム),高齢者の健康状態の適時の把握と追跡管理(ヘルスホームeコミュニケーション養老サービスセンター)があった.使用上のネガティブな面は,職員が多忙で各居室のエアコンの設定まで細かく確認できないこと,夜間巡回時の各入居者の就寝・起床時間等の把握の困難さ(エアコン見守りサービス),システム導入時のケア提供者の事前知識の不足,システムの学習の難しさ,パソコン上でのWNCSソフトウェアの操作の困難さ(WNCS),テクノロジーの不安定性,テクノロジーに注意を払うことによりケア提供者が入居者に集中する妨げとなること(分散型インテリジェント支援技術システム)が示された.

施設内のスタッフの作業位置,高齢者の場所を推定するために,ビーコンやワイヤレスセンサーネットワークが使用された.使用上のポジティブな面は,作業効率改善や入居者の生活の質向上(ビーコン),ナーシングホームの建築的および環境的特徴の特定に役立つ可能性(ワイヤレスセンサーネットワーク)があった.使用上のネガティブな面に関する記述はなかった.

睡眠中のバイタルサインのモニタリングも含め,高齢者の睡眠状態を評価するために,生活リズムモニタリングシステム,マット型睡眠計,睡眠計,センサーマット型睡眠計,アクティビティアームバンド,スマートマットレスが使用された.使用上のポジティブな面は,高齢者の1日の行動パターン,睡眠時間,寝返り回数を解析し,体調を把握することができたこと(生活リズムモニタリングシステム),個々の高齢者の日々の睡眠状態の違いなどを解明でき,現在実施しているケアの評価や新たなケア方法の検討,介入後の効果の確認などに役立つこと(マット型睡眠計),スタッフや家族が高齢者の睡眠の質,離床状態,心拍数,呼吸などのデータをリアルタイムで把握できること(スマートマットレス),介護者は高齢者の夜間の睡眠トラブルをタイムリーに検出し,タイムリーな介入と援助を提供できること(スマートマットレス)が示された.使用上のネガティブな面は,参加者がアームバンドの着用を受け入れ難く装着時間が短く,特に身長の小さい女性の参加者にとって,着用は難しいこと,機器の記録の信頼性が低く大量のデータが欠落することによるデータ収集の難しさ,機器の紛失(アクティビティアームバンド)があった.

自宅で生活している高齢者の24時間のバイタルサインをモニタリングするために,リモートヘルスモニタリング,ヘルスホームeコミュニティ養老サービスセンターが使用された.使用上のポジティブな面は,慢性疾患のある高齢者が医療システムと連携して自宅で長く過ごすのに役立つ可能性などがあった.使用上のネガティブな面として,Wi-Fiホットスポットセルラー接続デバイスの電源ボタンが小さくデバイスの端に埋め込まれているため高齢者が見つけるには困難であり,短時間の停電後などにリセットされず,データ損失があった(リモートヘルスモニタリング).

おむつの使用による不快感を軽減するために,おむつ濡れ感知センターが使用された.その使用上のポジティブな面は,職員が排泄の有無を確認するために毎回おむつ内を見ることが無くなり,利用者の羞恥心等精神的負担も軽減できることであった.使用上のネガティブな面に関する記述はなかった.

高齢者の尿の膀胱貯留量を把握するために,膀胱スキャナーと尿量センサーが使用された.使用上のポジティブな面は,言語による意思疎通が困難な認知症高齢者であっても尿の膀胱貯留量からトイレ誘導などの必要性を判断できること(膀胱スキャナー),失禁の予防と次に尿意を催すおおよその時期を予測できること(尿量センサー)であった.使用上のネガティブな面に関する記述はなかった.

高齢者の笑いを検出し人と人とのコミュニケーションのきっかけを作り,コミュニケーションの円滑化を図るために,横隔膜式笑い測定機,爆笑計,スマイルスキャンが使用された.その使用上のポジティブな面は高齢者の方が笑顔になった点である.使用上のネガティブな面に関する記述はなかった.

施設の生活環境をモニタリングするために,マルチモーダル環境センシングが使用された.使用上のポジティブな面として,機器によってケア施設の実践している生活環境の一部を可視化し,ケアスタッフの環境への介入の特徴の一部を捉えることができた.使用上のネガティブな面に関する記述はなかった.

ケア業務を改善・強化するために,見守りシステムとWNCSが使用された.機器の使用上のポジティブな面は,WNCSの使用によって,看護師,管理者と医療従事者の同僚の意見に従うように動機付けられたことであった.ネガティブな面はWNCSで改善するための作業を見つけられなかったことであった.

Ⅴ. 考察

本研究では,日本語,英語,中国語のデータベースを用いて,センサーとIoT機器に関する文献を検索し,その使用目的により機器を11種類に分類し,機器ごとに使用上の詳細に関する内容を抽出した.

1. 本研究の特徴

冒頭で述べたように,これまで多領域で使用されている多種類の機器に関する文献検討は,機器の技術や機能に焦点を当てたものがほとんどである.本研究は看護の視点から機器の使用上の詳細を検索した内容であるため,機器に関する文献検討の研究において,新規性があるものと考える.本研究で抽出した歩数によって身体活動量を算出・評価するための機器,離床や転倒・転落を予防するための機器,安全を見守るための機器,睡眠状態を評価するための機器,24時間のバイタルサインをモニタリングするための機器は,機器の技術や機能に焦点を当てた先行研究(Mirza Mansoor et al., 2019Soe Ye Yint et al., 2021)と類似性が高い.本研究で抽出したおむつの使用による不快感を軽減するための機器,尿の膀胱貯留量を把握するための機器,笑いを検出しコミュニケーションの円滑化を図るための機器,施設の生活環境をモニタリングするための機器は,新たな内容であると考える.

2. 高齢者ケア施設の看護実践における機器の活用可能性が低くなる要因と高くなる要因の検討

本研究の結果から,高齢者ケア施設の看護実践における機器の活用可能性が低くなる要因を,機器使用時の不快感,高齢者の受け入れ困難,機器の機能的な問題であることを見出した.装着しやすさは快適さの主な要因であり,ウェアラブル機器は身に着けている人が一日中何の支障もなく使用できるほど快適でなければならない(Dattatraya Mamdiwar et al., 2021).本研究では,笑いを検出しコミュニケーションの円滑化を図るための機器の装着場所が横隔膜周辺や首といった敏感な場所であったため,使用時に違和感があり不快であったことが推測でき,日常の看護ケアでの活用が困難だと考えた.機器の使用に関する高齢者の受け入れが困難な点は,高齢者の身体的特徴や機器使用時の快適さ等に関係すると考えられる.また,機器の機能的な問題,例えば,センサーの精度の低さや読み取り値の一貫性の欠如も,高齢者ケア施設の看護実践における機器の活用時の障壁になる可能性があると考える.先行研究(Dattatraya Mamdiwar et al., 2021)で言及されているように,本研究でみられた機器の記録の信頼性の低さとデータの欠落は,機器の機能的な問題の1つであり,活用の障壁となると考えられる.

一方,本研究の結果から,高齢者ケア施設の看護実践における機器の活用可能性が高くなる要因は,機器が看護ケアに役立つこと,職員の業務負担の軽減,ケアの質向上であることを導き出した.以下に,3つの例を挙げて,高齢者の特徴と施設ケアの特徴から,その理由を述べる.

排尿障害は後期高齢者に多い老年症候群である(鈴木・本間,2010).高齢者施設において,介護者が強く負担を感じている業務の1つに排泄介助が挙げられ(武藤,2010),また,高齢者施設を対象とした調査では排尿介助に人手と時間がかかること等が介護者の負担の関連要因である(前田ら,2011).本研究で新たに網羅した排泄ケアに使用する機器は,失禁を予防し職員の業務負担の軽減に役立つため,施設における排尿障害がある後期高齢者の排泄看護に活用できる可能性が高いと考える.

高齢者ケア施設に入所中の要介護高齢者は転倒を起こしやすい.転倒は,歩行障害やバランス障害の影響で起こり,ADL低下,認知機能障害,失禁なども同時に引き起こすフレイルの兆候である(荒井,2017).また,高齢者ケア施設における行き過ぎた転倒予防として,まだ歩行能力のある高齢者に対し車いす使用を勧める現象が挙げられ(下山,2018),それらはケア職員が高齢者の転倒に対する不安や恐怖を抱いていることに関連すると考える.本研究で網羅した転倒・転落を予防する機器は職員の安心感の獲得や心理的ストレスの軽減の効果があるため,ケア施設の看護における活用可能性が高いと考える.

徘徊は認知症高齢者が無目的に歩き回るため,介護上の困難をきたす症状であり(菊地ら,2016a, 2016b),認知症高齢者がケア施設から離院し院外で亡くなった事例も報告されている(山田,2017).2025年には高齢者人口の5人に1人,約20%が認知症になる(内閣府,2022)とともに,今後施設を利用する認知症高齢者も増加することが推定でき,認知症高齢者の安全を守ることが施設看護において益々重要になると考える.安全見守り機器は,入居者の睡眠の質向上の効果のみならず,徘徊と離院を減ずる効果もあるため,ケアの質向上の側面から,高齢者ケア施設における活用可能性が高いと考えた.

3. 看護実践への示唆

本研究の結果から高齢者ケア施設における看護実践へ機器を導入する際の留意点を3点導き出した.それは,機器の管理マニュアルの作成,機器の使用に関する職員への教育と十分な受け入れ期間の設定,使用者にとっての使いやすさを考慮した機器の選択である.

4. 研究の限界

まず,本研究で用いた3か国語のキーワードは研究者間で複数のキーワードでの検索を試行した上で決定したものであるが,シソーラスや検索用語の検討においては十分ではなく,それによって本研究の対象となる文献が漏れている可能性がある.そして,本研究では,機器の使用上の詳細を具体的に記述している文献のみを採用したため,機器の多様性においては限界がある.また,機器の使用にあたって,看護・介護などの職員と高齢者の反応や態度を見出したが,施設管理者に関する内容は網羅できていない.実際に高齢者ケア施設で機器の導入にあたって資金を提供し,鍵になるのは施設の管理者となることを考慮し,機器の導入に関する施設管理者の意向に関する更なる研究が必要であると考える.

Ⅵ. 結論

本研究では,センサーとIoT機器の使用に焦点を当て,日本語,英語,中国語のデータベースを用いて文献検討を行った.採用した26本の文献から機器の使用目的,使用者,装着・設置場所,使用上のポジティブな面とネガティブな面に関する内容を抽出し,使用目的によって機器を11種類に分類した.本研究の結果は,今後高齢者ケア施設で広範囲に機器を導入する際の参考になる.

付記:本研究の一部は日本老年看護学会第27回学術集会において発表した.

謝辞:ご助言をくださった千葉大学大学院看護学研究科高齢社会実践看護学講座の皆様に深く感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:XDは研究と原稿作成の全過程を実施;HMは研究と原稿作成の全過程への助言;NKは一部の文献検索,文献の採用と内容の抽出への助言;YYは原稿作成への助言;TOは研究方法への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

文献
 
© 2023 Japan Academy of Nursing Science
feedback
Top