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A Concept Analysis of Menstrual Symptoms Self-management in Working Women
Chiharu MatsubaraKiyoko Kabeyama
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2023 Volume 43 Pages 55-62

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Abstract

目的:働く女性の月経随伴症状のセルフマネジメントの概念を明らかにし,看護介入における概念活用の有用性を検討することである.

方法:Rodgers & Knafl(2000)の概念分析の手法を用いた.

結果:属性は【月経随伴症状や対処に関するリテラシーの獲得と活用】【問題解決に向けた段階的な行動変容】【職場の資源の活用】【就労生活での取り組みの維持】の4つ,先行要件は4つ,帰結は3つが導き出された.

結論:本概念は「働く女性が月経随伴症状や仕事および生活の支障を改善するために,ヘルスリテラシーや職場の資源を活用し主体的かつ戦略的な管理により課題に対処する活動であり,その人の問題に対する対処行動が洗練されていくプロセス」と定義した.その上で,働く女性という集団へのセルフマネジメント促進に向けた看護支援の基盤としての活用可能性が示唆された.

Translated Abstract

Objective: To clarify the concept of self-management of menstrual symptoms in working women and examine the usefulness of concept utilization in nursing intervention.

Method: The concept analysis method described by Rodgers & Knafl (2000).

Results: The following four attributes were identified: “Acquisition and utilization of literacy regarding menstrual-related symptoms and coping behavior”, “Step-by-step behavior change for problem solving”, “Utilization of workplace resources” and “Maintaining efforts in working life”. In addition, four antecedents and three consequences were identified.

Conclusion: This concept was “activities for working women to address issues through proactive and strategic management using health literacy and workplace resources in order to improve their menstrual symptoms and obstacles to work and life. The process by which a person’s problem coping behavior is refined”. In addition, it was suggested that it could be used as a basis for nursing support to promote self-management for a group of working women.

Ⅰ. 緒言

1985年に男女雇用機会均等法,2016年には女性活躍推進法が制定され女性の社会参画が推進される中,2021年の25~44歳女性の就業率は78.6%までに増加した(厚生労働省,2021).一方,働く女性が抱える健康課題の一つに月経随伴症状が挙げられ,主婦と比較して月経随伴症状を有する割合が有意に高く,女性の7割以上は仕事の能率が悪いと回答し(矢本ら,2014),労働損失は4,911億円に及ぶと報告されている(Tanaka et al., 2013).そこで,内閣府は「女性活躍加速のための重点方針2020」の中で働く女性の健康増進を掲げるなど優先順位の高い社会課題と認識されている(内閣府男女共同参画局,2020).

月経随伴症状の中でも最も多い症状が月経痛であり,働く女性を対象に行った対処行動に関する調査(大滝,2017)では,辛い症状や就労への支障があるにも関わらず業務変更や休息の調整が難しく,対処としては「保温」「我慢」「市販の鎮痛剤の服用」など症状の一時的な軽減を目的とした行動を挙げており,「受診」や「低用量ピルの服用」など疾患の予防や早期発見を目的とした医療的側面を含む行動は1割にとどまる.そのため,対処後も症状や就労の支障が改善しない者は3割存在すること(八巻ら,2020),受診遅延による症状の重症化(宮内ら,2018),QOLの低下(Santer et al., 2008)が明らかにされており,必ずしも適切な対処を行えているとは言い難い.月経痛を含め月経随伴症状は周期的に起こる慢性症状であり,月経困難症など続発性疾患による就労継続の困難や生活の質(Quality of Life: QOL)にも影響を与えるため,その影響を最小限にするために長期的な管理としてセルフマネジメントが必要であると考えた.

柴田・森(2014)は,一般女性の月経セルフマネジメントモデルの検証を試み,月経変化の認知や原因検索により対処行動が変化する可能性を示唆している.しかし,働く女性を対象とした月経随伴症状のセルフマネジメントの概念は規定されておらず,その意味内容は定着していない.そこで,本研究の目的は働く女性の月経随伴症状のセルフマネジメントの特徴から概念を明確化し,セルフマネジメントの向上に向けた支援の発展と,健康教育のプログラムへの示唆を得ることとする.これにより,働く女性が月経随伴症状を統制し,将来に不安を感じることなく健康で快適な生活を過ごすことにより,就労の継続ひいてはQOLの維持に繋がるため意義は大きい.

Ⅱ. 研究方法

概念分析には,経時的変化や社会背景に応じて変化するという哲学的基盤に基づき概念の性質や使われ方に着目して分析していく方法とされるRodgers & Knafl(2000)の手法を用いた.本研究は,女性の社会進出に伴う初産年齢の上昇,生涯出産数の減少,勤続年数の伸長や女性医療の発展など社会的状況に応じて変化する女性の健康課題の一つである月経随伴症状のセルフマネジメントについて明らかにしようとするもので,本手法の適用は適当と考えた.また,月経随伴症状に関する調査報告がみられるようになった2000年以降に着目し,看護学に限らず健康教育に関わる一般的な文献も含めることにより広く抽象的な概念の特徴を把握することに努めた.

1. 用語の操作的定義

働く女性:職種や就業形態に関わらず,性成熟期にあり仕事をもつ女性とした.

月経随伴症状:月経前・月経中に生じる月経に随伴した身体的・精神的症状および社会的症状とした.

2. データ収集方法

セルフマネジメントの定義は,看護学大辞典,英和大辞典,広辞苑の用法を確認した.データベースは,医中誌Web,PubMed,CINAHLを利用し,2000~2021年の期間で検索を行った.医中誌Webでは「働く女性」and「月経随伴症状」and「セルフマネジメント」を検索語とすると4件であり,「働く女性」and「月経随伴症状」および「月経随伴症状」and「セルフマネジメント」とした129件のうち,学生対象かつ重複文献を除きセルフマネジメントの記載のある原著論文15件を分析対象とした.PubMed,CINAHLでは,Plus with Full Textで「working women」and「menstrual symptom」and「self-management」を検索語とすると3件のため,「working women」and「menstrual symptom」および「menstrual symptom」and「self-management」とした147件のうち,入手可能な文献の要約を参照し,働く女性に関する記述のある文献に限定し重複文献を除外したところ12件となった.Rodgersはサンプリングガイドにて少なくとも30文献としていることから,働く女性の健康に関する資料や文献をハンドサーチし,分析の過程でランドマークと思われる4文献を加え,最終的に31文献を分析対象とした.

3. 分析方法

コーディングシートを作成し,概念属性,先行要件,帰結に関する記述を抽出した.抽出内容を要約し共通性と相違性を考慮しカテゴリー化を行った.カテゴリー化する過程では,信頼性と妥当性を確保するために質的分析および概念分析に精通した看護学の研究者 2 名と女性外来専門医1名のスーパーバイズを受け,ディスカッションしながら検討を重ねることで内容を洗練させた.

Ⅲ. 結果

1. 属性

属性は4つにカテゴリー化された(表1).なお,カテゴリーは【 】で示し,サブカテゴリーは「 」で示した.

表1  働く女性の月経随伴症状のセルフマネジメントの属性
カテゴリー サブカテゴリー 内容 文献
月経随伴症状や対処に関するリテラシーの獲得と活用 症状や対処に関するリテラシーの獲得 保温,休息,運動,気分転換,他者への相談,鎮痛剤の服用など多様性のある対処の知識 生方ら(2021)大滝ら(2013)
鎮痛剤,漢方薬,低用量ピルの種類や服用方法の知識 八巻ら(2020)
月経痛と月経困難症,鎮痛剤や低用量ピルの効用と副効用など薬物療法に関する知識 Chen et al.(2016)
治療が必要な月経異常の知識を含む女性の健康に関するヘルスリテラシー 日総研(2018)
症状や対処に関するリテラシーの活用 インターネットの情報を吟味し,生活上の工夫や治療についての知識を意図的に活用する 福田ら(2008)
月経痛の対処方法の知識を自分流にアレンジし,複数の方法で対処する 大滝(2017)
自分なりの複数の対処行動を組み合わせ,月経痛にうまく対処する 渡邊ら(2010)Chen et al.(2016)
月経困難症を理解した上で,治療や補完代替療法など医療的側面も合わせ戦略的に対処する Chen et al.(2016)
症状から派生する心理的課題への対処 否定的感情に対し自分を励ますことによりモチベーションをあげる Yu et al.(2021)
気兼ねなく話せ心配事や悩みを相談できる他人からの情緒的サポートを活用する 渡邊ら(2010)
対処困難による苦痛に対し,情報提供など手段的サポートを求め安心を得る 福田ら(2008)
問題解決に向けた段階的な行動変容 過去の経験の解釈と成り行きの受容 月経痛を病気のようなものと捉えるようになり身体を大切にする気持ちが起こる 大滝ら(2013)
体験を言語化することで認識した問題と結び付け新たな主体的行動に移行する 渡邊ら(2010)
多様な症状やそれに伴う労働損失を子宮内膜症と関連付けて理解できる Soliman et al.(2017)
症状のモニタリングによる問題の明確化 モバイルアプリを利用し月経周期と月経随伴症状をモニタリングする Song & Kanaoka(2018)
基礎体温,月経痛,感情をセルフモニタリングし客観化する 大滝(2017)
変化に応じた柔軟な対処行動への適応 過去に培ったスキルをもとに試行錯誤と実践を積み重ね効果的な対処を確立する過程であり,インターネットの情報を吟味し,価値観をもとに対処行動の選択肢を広げる先に受診がある 福田ら(2008)
自己対処では対処困難な場合,次の段階として受診する Santer et al.(2008)
課題解決の目標に向け,実践,評価することで継続可能な対処となる 渡邊ら(2010)
職場の資源の活用 同僚や上司からの人的資源の活用 同僚や上司に自らの健康状態を伝え理解を促し配慮や相互扶助などの支援を受ける Chiu et al.(2013)Yu et al.(2021)
職場内の体調の変調に関するコミュニケーションを図る 下開(2008)日総研(2018)
経験者の同僚との体験共有により他人の知恵や工夫を自分に取り込む 福田ら(2008)
職場の環境健康資源の活用 健康管理室や社内保健室などを利用し,体調に合わせて休息をとる 生方ら(2021)Yu et al.(2021)
産業保健スタッフに相談し,医療機関につないでもらう Nohara et al.(2011)大滝(2017)
生理休暇,フレックス制度など女性活躍の制度上の支援を受ける 下開(2008)Chiu et al.(2013)
職場の健康診断を受ける 宮内ら(2018)
女性特有の健康課題に関する情報資源の活用 健康組合から女性特有の健康に関する冊子が配布される 日総研(2018)
月経随伴症状に関する他者とのコミュニケーションから対処に関する情報を入手する 八巻ら(2020)
職場内での女性の特化した健康セミナーに参加し教育的支援を受ける 日創研(2018),生方ら(2021)
就労生活での取り組みの維持 対処行動の方向性の判断 就労への支障が大きいことは対処行動を始める動機付けとなる 八巻ら(2020)
治療と仕事を両立するためセルフケアと治療を戦略的な計画を立てる 大滝ら(2013)
月経周期に合わせた仕事や生活の調整 症状の出現時に合わせて仕事の質・量など日常生活を調整する Yu et al.(2021)Chiu et al.(2013)
仕事と生活と健康のバランスを維持する Soliman et al.(2017)
仕事中でも可能な方法を選択し,効果的な鎮痛剤の服用で痛みのコントロールを図る Chiu et al.(2013)
子宮内膜症では長期的な生活習慣の変更・維持に加え,社会活動や対人関係の課題に対処する Metwally & Desoky(2018)

1) 【月経随伴症状や対処に関するリテラシーの獲得と活用】

性成熟期にあるサービス業,事務職,看護職者などを対象にした論文では,症状を和らげるための保温,休息,他者への相談など多様性のある対処の知識(生方ら,2021大滝ら,2013),鎮痛剤や低用量ピルの効用と副効用などの知識(八巻ら,2020Chen et al., 2016),治療の必要な月経異常の知識など女性の健康に関して保有する豊富な知識はヘルスリテラシー(Chen et al., 2016)と表現され,「症状や対処に関するリテラシーの獲得」の重要性を示す記述が見られた.そして,入手した情報を意図的に活用する(福田ら,2008),月経困難症やその治療など医療的な側面も合わせ戦略的に対処する(Chen et al., 2016)など実践的な管理能力もリテラシーと捉えられ,「症状や対処に関するリテラシーの活用」についても記述されていた.また,「症状から派生する心理的課題への対処」では,情緒的サポート(渡邊ら,2010),手段的サポート(福田ら,2008)など他者からの支援が含まれた.

2) 【問題解決に向けた段階的な行動変容】

「過去の経験の解釈と成り行きの受容」は,これまでの対処では改善しない月経痛を病気と捉えること(大滝ら,2013),労働損失や月経困難症と関連付けること(Soliman et al., 2017)など行動変容にむけて体験を言語化し健康問題を認識すること(渡邊ら,2010)であった.「症状のモニタリングによる問題の明確化」では,基礎体温(大滝,2017),月経周期や月経随伴症状(Song & Kanaoka, 2018)のモニタリングが含まれ,具体的な行動が抽出された.さらに,健康問題の解決に向けて過去に培ったスキルを基に試行錯誤する(福田ら,2008),自己対処が困難な場合は受診する(Santer et al., 2008)など「変化に応じた柔軟な対処行動の変化と適応」について記述されていた.

3) 【職場の資源の活用】

ここでは,快適な就労生活を営めるよう調整するための具体的な資源が抽出された.「同僚や上司からの人的資源の活用」は,同僚や上司に自ら健康状態を伝え理解を促し相互扶助を受けること(Chiu et al., 2013Yu et al., 2021),女性特有の不調を経験した同僚と体験を共有すること(福田ら,2008)であった.「職場の環境健康資源の活用」には,健康管理室の利用(生方ら,2021Yu et al., 2021),生理休暇やフレックス制度の活用(下開,2008Chiu et al., 2013),産業保健スタッフへの相談(Nohara et al., 2011大滝,2017)ならびに職場の健康診断(宮内ら,2018)を通じた医療機関との連携が含まれた.「女性特有の健康課題に関する情報資源の活用」は,健康組合からの情報誌の配布(日総研,2018)や女性健康セミナーでの啓発(日総研,2018生方ら,2021)などが記述されていた.

4) 【就労生活での取り組みの維持】

「対処行動の方向性の判断」は,就労への支障が大きければその程度を最小限に留めようと行動する動機づけとなり(八巻ら,2020),行動の結果を評価し治療が必要となった場合も仕事と両立するための継続可能な計画を立てる(大滝ら,2013)などを含んでいた.「月経周期に合わせた仕事や生活の調整」は,症状の出現に合わせ仕事を調整すること,仕事中に可能な対処を効果的に実施すること,仕事や生活において健康のバランスを維持することが含まれていた.

2. 先行要件と帰結

1) 先行要件

先行要件として挙げられていたものは,過去の失敗に対して不安になること(Santer et al., 2008渡邊ら,2010Armour et al., 2019),変調を気付かせてくれるバロメーターとしてとらえること(大滝ら,2013)のようなアンビバレンツな感情をもちつつ,作業形態や業務内容(大川ら,2005Chiu et al., 2013Yu et al., 2021)など各々の職場環境において仕事中も月経随伴症状による苦痛を自覚すること(八巻ら,2020Soliman et al., 2017Shimamoto et al., 2021日総研,2018),さらには就労への支障を自覚すること(大川ら,2005福田ら,2008Cho et al., 2014八巻ら,2020)であった.就労への支障では,顧客との良好な関係が報酬に反映するコールセンターでの業務は感情労働と称され(Cho et al., 2014),作業能率,人間関係,報酬への影響まで幅広く含まれた(表2).

表2  働く女性の月経随伴症状のセルフマネジメントの先行要件
カテゴリー サブカテゴリー 内容 文献
月経随伴症状に対するアンビバレンツな感情 肯定的感情 自然な現象 Chen et al.(2016)
産む性,女性としての生殖性 福田ら(2008)
変調を気付かせてくれるバロメーター 大滝ら(2013)
否定的感情 過去の失敗への不安や煩わしさ,諦め 渡邊ら(2010)
取り除くことができない Santer et al.(2008)Armour et al.(2019)
病気のようなもの 大滝ら(2013)
月経随伴症状や苦痛の自覚 症状についての言及 仕事中の月経痛を主とした月経随伴症状が強く経血量が多い 八巻ら(2020)
痙攣用の骨盤痛,下腹部痛,貧血,疲労,腹部膨満感など多様な症状 Soliman et al.(2017)
頭痛,眠気,乳房腫脹,便秘・下痢,抑うつ気分など多次元的な症状 Shimamoto et al.(2021)
月経前・月経中・月経後を通した心身の不調 八巻ら(2020)萩原・森(2018)
症状に伴う苦痛の自覚 病識の欠如によるストレス Metwally & Desoky(2018)Kilfoyle et al.(2016)
健康関連のQOLの低下 Shimamoto et al.(2021)
会社を休むほどではないが月経痛が増強し休息を必要とする 日総研(2018)
就労への支障 仕事中に自覚する影響や支障の存在 痛みが強く業務の正確さを欠き能率が低下 大川ら(2005)
職場での人間関係に悪い影響を及ぼす 福田ら(2008)八巻ら(2020)
仕事により強まる苦痛や多因子性の労働負荷 五十嵐(2018)
我慢の範疇を超え業務の中断を必要とする Cho et al.(2014)
職場環境 作業環境や職業性ストレス 作業姿勢,作業形態,作業環境 Yu et al.(2021)大川ら(2005)Chiu et al.(2013)
感情労働 Cho et al.(2014)
努力報酬不均衡と責任の重さ László・Kopp(2009)
職業生活上のストレス 生方ら(2021)福田ら(2008)下開(2008)

以上より,【月経随伴症状に対するアンビバレンツな感情】【月経随伴症状や苦痛の自覚】【就労への支障】【職場環境】の4つが先行要件として導き出された.

2) 帰結

帰結として多くの文献に挙げられていたものは,月経随伴症状の緩和や就労への支障の軽減(下開,2008Chiu et al., 2013大滝,2017Metwally & Desoky, 2018八巻ら,2020生方ら,2021)であった.その次には,就労生活の維持(Chiu et al., 2013Soliman et al., 2017Song & Kanaoka, 2018)やQOLの改善(福田ら,2008Metwally & Desoky, 2018Song & Kanaoka, 2018)が多く挙げられ,その他には月経随伴症状の増強や長期化による重症化・関連疾患の防止(Soliman et al., 2017宮内ら,2017生方ら,2021)が挙げられた.関連疾患には子宮筋腫,子宮内膜症など慢性疾患や不妊,うつ病を含んでいた(表3).

表3  働く女性の月経随伴症状のセルフマネジメントの帰結
カテゴリー サブカテゴリ― 内容 文献
月経随伴症状の改善 症状の緩和 自ら心がけて行う対処行動により月経痛が緩和する 生方ら(2021)Metwally & Desoky(2018)
日常的に取り入れやすい方法を複数選び実施し症状が改善する 大滝(2017)
月経痛が重い女性は即効性のある鎮痛剤で対応する 下開(2008)
症状に伴う支障の軽減 月経中の負の感情反応に対し,快イメージ語を用い快適度を高める 今田・森(2007)
自分の必要なときに必要な対処が行えると心理的余裕が生まれ,就労への支障が軽減できる 生方ら(2021)
低用量ピルの服用により心身の不調が軽減し業務への支障を軽減できる Chiu et al.(2013)
重症化・関連疾患の防止 重症化予防のため受診行動の促進 病気を疑うような症状が出現した段階で早期に受診する 宮内ら(2017)
仕事に支障をきたす場合に健康障害を自覚し受診する 生方ら(2021)
低用量ピルの服用のため定期的に受診する 八巻ら(2020)
関連疾患の進行を防止 職場の検診で子宮筋腫を指摘され婦人科を受診する 宮内ら(2018)
うつ病や月経困難症の発症を回避する Song & Kanaoka(2018)
器質性疾患があれば不妊とも関連する Soliman et al.(2017)
就労生活の質の維持・改善 就労生活の維持 仕事のパフォーマンス維持 Chiu et al.(2013)
生産性の向上 Song & Kanaoka(2018)
アブセンティズムの改善 Soliman et al.(2017)
QOLの改善 QOLの向上 Metwally & Desoky(2018)
医療費の負担が軽減する Song & Kanaoka(2018)
職業生活を含め快適で豊かな生活 福田ら(2008)

以上より,【月経随伴症状の改善】【重症化・関連疾患の防止】【就労生活の質の維持・改善】の3つが帰結として導き出された.

3. セルフマネジメントの用法と関連する概念

広辞苑(新村,2008)によると,self-managementはセルフ「自分自身で」と,マネジメント「管理・処理」の合成語であり,自己管理(小西・南出,2001)という意味があった.看護学大辞典では,自己管理は「一般の人々がより良い状態を保つ健康管理のために主体的に意思決定し実践する行動」と定義され(和田ら,2013),セルフケアやセルフマネジメントという二つの概念を包括すると捉えていた.Orem(2001/2005)は,セルフケアとは自身の生命・健康・安寧を維持するための諸活動の実践であると述べ,社会生活全般における様々なケアを包摂する広い概念であった.これに対し,松繁(2017)はセルフマネジメントとは主に慢性症状に対処するための体系的な手法・方法論をもとに実践する行動であり専門的な支援や介入を必要とすると述べ,慢性症状に焦点を当てた概念であった.また,セルフマネジメントの概念分析に関しては,慢性疾患から派生する課題を継続的に対処する能力(Barlow et al., 2002)を活用し,医療者との協働により主体的かつ創造的に問題解決する過程(浅井ら,2017)と定義されていた.

Ⅳ. 考察

1. 働く女性の月経随伴症状のセルフマネジメントの特徴と定義

働く女性の月経随伴症状のセルフマネジメントは,セルフケアの一要素として,より良い健康状態を保つために段階的に継続して対処していくことであり,他者からの支援を受けながら,主体的かつ創造的な問題解決の過程ととらえることができた.より良い健康状態を保つということは,本研究の帰結として導き出された【就労生活の質の維持・改善】に相当すると考えられる.また,段階的に継続的して対処していくことは,本研究の属性として導き出された【月経随伴症状や対処に関するリテラシーの獲得と活用】や【就労生活での取り組みの維持】に,主体的かつ創造的な問題解決の過程であることは,課題解決にむけ過去の経験をふまえて効果的な対処を確立する過程の要素を含み,【問題解決に向けた段階的な行動変容】に相当すると考えられる.浅井ら(2017)による慢性疾患の概念分析の属性にも「知識・技術および資源の活用」「問題解決の継続的プロセス」といった本研究と共通する部分がみられた.なお,他者からの支援については,慢性疾患患者では,患者が主体的かつ独自の対処法を見出すために医療者と協働することが重視され(浅井ら,2017),働く女性では,女性自身が認識する月経随伴症状に加え器質性の疾患により通院や手術などの治療が必要となった場合も就労を継続していくために同僚や上司,産業スタッフと相談しながら業務変更や業務量の調整を行う(宮内ら,2017)など相互扶助ならびに協働することが重要になると推察される.一方で,働く女性は月経の不調により仕事を休むことが正当な理由にならず差別的に捉えられると感じること(Santer et al., 2008)や職場に迷惑をかけてしまうという社会的立場を重んじること(八巻ら,2020)から休むことを選択しにくい状況にある.また,月経随伴症状を些細なことと正常化したり過小評価するなど偏った認識を持ち何も対処せず我慢するという報告もあり(生方ら,2021大滝,2017),労働基準法で定められている生理休暇の取得率は0.9%と低い(厚生労働省,2020)状況であると考えられる.そのため,産業保健スタッフを中心に月経随伴症状に加え月経困難症など疾患の知識,症状を緩和できる保温,鎮痛剤や低用量ピルの知識(Chen et al., 2016),受診の必要性(宮内ら,2018)を含めた女性特有の健康に関するセミナー(日総研,2018),休暇制度の周知など手段的支援【職場の資源の活用】が重要と推察される.働く女性の健康増進に関する調査(日本医療政策機構,2018)によると,女性の健康に関するリテラシーの高さは,仕事の能率や異常時の受診など健康行動と関連のあることが示唆されており,【重症化・関連疾患の防止】に繋がるものと考えられる.

以上より,働く女性の月経随伴症状のセルフマネジメントは「働く女性が月経随伴症状や仕事および生活の支障を改善するために,ヘルスリテラシーや職場の資源を活用し主体的かつ戦略的な管理により課題に対処する活動であり,その人の問題に対する対処法が洗練されていくプロセス」と定義できる(図1).

図1 

働く女性の月経随伴症状のセルフマネジメントの概念

2. 今後の看護実践への示唆

現在,厚生労働省や経済産業省を中心に働く女性の健康を支援することの重要性が高まっている.一方で,働く女性自身への月経随伴症状の具体的な対応策を見いだせずに取り組みの浸透に至っていない(日本医療政策機構,2018).そのため,働く女性の月経随伴症状のセルフマネジメント促進に対する看護の実現にむけた支援システムの構築が必要である.本概念分析により抽出された構成要素は,働く女性それぞれの月経随伴症状や支障の程度および職場環境により異なると推察でき,それを踏まえた上で包括的な教育プログラムの開発が求められる.これにより,働く女性自身が個々の状況に合わせヘルスリテラシーや職場の資源を活用しながら段階的に行動変容し維持することを可能にし,帰結である【月経随伴症状の改善】【重症化・関連疾患の防止】【就労生活の質の維持・改善】というアウトカムをもたらすと考える.

今後の課題は,働く女性を対象に本研究で抽出された属性を考慮した教育プログラムを開発し,その有用性について帰結に基づいたアウトカムを設定し検証することである.

Ⅴ. 結論

Rodgersの概念分析法を用いて,「働く女性の月経随伴症状のセルフマネジメント」の概念分析を行った.分析の結果,本概念は「働く女性が月経随伴症状や仕事および生活の支障を改善するために,ヘルスリテラシーや職場の資源を活用し主体的かつ戦略的な管理により課題に対処する活動であり,その人の問題に対する対処法が洗練されていくプロセス」と定義した.その上で,働く女性という集団を対象に月経随伴症状のセルフマネジメントを促進させるために本研究で抽出された属性を考慮した教育プログラムを開発する必要がある.

謝辞:本研究に関して,ご協力いただきました全ての皆様に感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:CMは本研究を着想し,デザイン,文献の収集,分析,結果,考察,論文作成を担当した.KKは研究プロセス,結果,考察に助言し,論文に加筆・修正を加えた.両著者が最終原稿を確認し承認した.

文献
 
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