Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Development of a Self-assessment Scale for Nurses to Enhance Dialogue Support between Terminally Ill Cancer Patients and Their Families
Shiho AsanoMidori Furuse
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2023 Volume 43 Pages 154-163

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Abstract

目的:看護師の終末期がん患者と家族間の対話支援自己評価尺度を開発し,信頼性と妥当性を検討することを目的とした.

方法:全国の臨床経験3年以上の看護師1,196名に対し,看護師の終末期がん患者と家族間の対話支援に関する自己評価尺度38項目を含むオンライン調査を実施した.統計解析では,探索的因子分析を行い,内的一貫性と構成概念妥当性を検討した.

結果:有効回答370件(30.9%)を分析した.探索的因子分析の結果,4因子22項目が抽出された.Cronbach’s α係数は尺度全体.944,下位尺度.797~.908であった.モデル適合度は,GFI = .888,AGFI = .860,CFI = .931,RMSEA = .063であった.収束的妥当性はr = .819,併存的妥当性はr = .403であった.

結論:4因子22項目が抽出され,本尺度の信頼性と妥当性が検証された.

Translated Abstract

Purpose: This study aimed to examine the reliability and validity of a self-assessment scale for nurses to enhance dialogue support between terminally ill cancer patients and their families.

Methods: Subjects were 1,196 nurses with at least 3 years of clinical experience working at hospitals throughout Japan, and who were involved in the care of terminally ill cancer patients. An online questionnaire was administered, which included 38 items on a self-assessment scale for nurses’ support of dialogue between terminally ill cancer patients and their families. The statistical analysis included exploratory factor analysis, and examination of internal consistency and construct validity.

Results: A total of 370 responses (30.9%) were analyzed. An exploratory factor analysis helped identify four factors (22 items): (1)Assessing patients’ and families’ dialogue needs; (2)Focusing on patients and families for a deeper understanding of them; (3)Engaging with patients and families with respect for each other’s feeling; and (4) Utilizing a team approach for dialogue support. Cronbach’s alpha coefficient was .944 for the total scale and ranged from .797 to .908 for the four factors. The goodness of fit of the model was as follows: GFI = .888, AGFI = .860, CFI = .931, and RMSEA = .063. The known-groups technique was used to examine construct validity. The scale score showed significantly higher scores among groups with experience in a palliative care unit and among certified nurses or certified nurse specialists in oncology nursing. The convergent validity was .819 (p < .01), concurrent validity was .403 (p < .01).

Conclusions: This study’s results suggest that the scale’s validity and reliability were within the permissible range.

Ⅰ. はじめに

高齢化の進展によりがん死亡者数が増加しており,がん診療連携拠点病院以外の施設の緩和ケアの提供体制の充実が求められている(Nakazawa et al., 2018).終末期患者の家族は,患者と家族間で対話の時間をもちたいニーズを有しており(鈴木,2003),がん患者と家族が思いを伝え合い,会話の深まりを感じることにより,QOLは向上する(小林ら,2016).終末期に思いを伝え,葛藤を解決し,良好な関係を維持することの重要性が強調されており(Keeley, 2007),患者と家族の関係性を支えるものとして対話は重要といえる.一方,遺族調査では,思いを伝えることや本音を聴くことを達成できた者は40%以下と報告され(山下,2016),別れの言葉を言えなかった,聞けなかったことが遺族の心残りとなっている(坂口ら,2008).わが国では,患者と家族は死が差し迫っていることを否定することで終末期に対処し(渡邉・増島,2020),語らなくてもわかり合えているはずと慮る文化が根底にある(中野・瓜生,2022).言語化されない,潜在的な対話のニーズの大きさを考慮すると,看護の実践として対話支援を担う看護師には重要な役割が期待されていると考える.

看護師の家族看護の課題として,意識が家族に向かない状況(中山・岡本,2017)や家族アセスメント不足(石岡ら,2020)が指摘されており,看護師は,終末期の対話支援に葛藤しながら臨んでいると推察される.先行研究では,がん患者の家族ケア実践評価に関する尺度(吉岡ら,2009Chou & Kawamoto, 2013長ら,2015)が報告されているが,患者と家族の双方の関係性を強め,対話を支援するものは見当たらない.Generous & Keeley(2014)は,Final Conversation Scale を開発しているものの,患者の家族を対象としたスケールであり,文化的相違からそのまま応用するには限界がある.中里ら(2018)は,患者と家族間の思いの言語化を支えるために,支援対象を家族に焦点化した項目を示しているが,対話支援は家族のみならず患者へも行われており,双方の関係性を強める視点の追及が求められる.既存の尺度を概観すると,看護師の実践知に基づいた終末期がん患者と家族間の対話を支援するという視点での目安になるものは開発されていない.

そこで本研究では,終末期がん患者と家族間の対話支援を考える上で,Wright & Bell(2009)が提唱した Illness Beliefs Modelに着目した.家族の信念やものの見方に重点を置き,施療的な会話を通して家族が癒えることを支援するモデルを枠組みにすることで,家族のもてる力を活かした柔軟な支援の検討が可能となると考えた.

本研究は,看護師の終末期がん患者と家族間の対話支援自己評価尺度を開発し,その信頼性と妥当性を検討することを目的とする.本尺度の活用によって,看護師自らが客観的に対話支援を振り返り,支援過程で抱く葛藤の緩和に役立つ可能性がある.対話支援実践能力の向上は,終末期の家族ケアの質を担保することにつながる.本尺度の使用はその一助になると考える.

Ⅱ. 用語の定義

対話支援とは,終末期がん患者と家族が相互応答を通して関係性を維持・強化するために伝え合いたかった思いを交わせるよう導く支援と定義する.

Ⅲ. 研究方法

1. 看護師の終末期がん患者と家族間の対話支援自己評価尺度原案の作成

2020年10月~2021年1月に,終末期がん患者と家族間の対話支援について半構造化面接を行った(浅野・古瀬,2022, 2023).対象者は,緩和ケア認定看護師・がん看護専門看護師・家族支援専門看護師計12名,熟練看護師計10名とした.なお,熟練看護師は,一般病棟で5年以上のがん看護の臨床経験があり,終末期がん患者と家族間の対話支援において豊富な経験を有する看護師として認定資格を有する看護師,病院の管理者より推薦を得た者とした.得られた逐語録から看護師の終末期がん患者と家族間の対話支援の判断および行動を抽出し,質的帰納的に分析し,質問文に置き換えた.それらの項目を,先行研究(Generous & Keeley, 2014中里ら,2018)が示した対話支援に関わる項目と照合し,項目が網羅されているか,また追加する必要のある項目について検討し,80項目の尺度素案を作成した.

次に,内容妥当性の定量化の方法を用いてContent Validity Index(以下,CVI)(Lynn, 1986)を算出した.CVIは,各項目の妥当性について「3=関連がある」または「4=非常に関連がある」と回答した評定者数の比を示す数値であり,その基準は,Polit et al.(2007)が推奨する0.78以上とした.がん看護学・家族看護学を研究領域とする研究者,緩和ケア認定看護師,がん看護専門看護師,家族支援専門看護師,熟練看護師の計13名の回答に基づき,CVI 0.78未満の14項目を削除した.その後,自由記述を踏まえ,内容重複による項目間の統合を行い,17項目を他項目に収束させて削除した.さらに,病棟看護師の支援内容として難易度が高いと記述があった13項目を削除した.また,素案の他に必要な項目として2文が挙げられ,これにより2項目を新たに追加した.以上のプロセスを経て,尺度原案38項目に再構成した.表面妥当性の検討では,臨床経験3年以上の看護師4名を対象に,教示文を含んだ尺度原案38項目についてプレテストを行い,表現を修正した.

2. 看護師の終末期がん患者と家族間の対話支援自己評価尺度原案の信頼性・妥当性の検討

1) 研究対象者

独立行政法人福祉医療機構の福祉保健医療情報ネットワーク事業に登録された病院の中から,100床以上の病床を持つ全国の120病院を無作為抽出した.看護部代表者に,研究依頼文と承諾書,返信用封筒を郵送し,調査協力の諾否,協力可能施設においては対象者数について回答を依頼し,54施設より調査協力の承諾が得られた.研究対象者の抽出は,看護部代表者に研究の趣旨に適した終末期がん患者をケアする機会のある病棟の選定を依頼し,選択された病棟に所属する臨床経験3年以上の看護師1,196名を対象とした.なお,外来・手術室に勤務する看護師,看護師長以上の管理者は研究対象者から除外した.

2) 調査方法

オンライン調査とした.2022年3月~5月に,看護部代表者を通して,対象者へQRコードつき研究説明書を配布した.回答期間は,文書を受け取ってから2週間以内の回答を依頼し,任意回答とした.

3) 調査項目

(1) 看護師の終末期がん患者と家族間の対話支援自己評価尺度原案38項目(以下,対話支援自己評価尺度)

教示文は「終末期がん患者と家族間の対話支援の実践状況をお尋ねします.ご自身の終末期がん患者,家族との関わりを振り返り,あなた自身のお考えに最もよく当てはまる数字をお選びください」として,「1=全く行っていない」「2=あまり行っていない」「3=時々行っている」「4=ほぼ行っている」「5=必ず行っている」の5件法で回答を求めた.

(2) 一般病棟におけるがん患者の家族ケア実践評価スケール(以下,家族ケア実践評価スケール)

Chou & Kawamoto(2013)長ら(2015)によって,看護師自身が一般病棟に入院するがん患者の家族ケア実践を自己評価するために開発され,信頼性・妥当性の確認が行われている.29項目から構成され,「1=全く行っていない」~「5=必ず行っている」の5件法で得点化し,得点が高いほど家族ケアを行っていることを表す.

(3) 日本語版ターミナルケア態度尺度短縮版(Frommelt Attitude Toward Care Of Dying Scale Form B日本語版(以下,FATCOD-B-J))

Frommeltによって看護師の死にゆく患者に対するケア態度を測定するために開発され,中井ら(2006)によって翻訳,信頼性・妥当性の確認が行われている.利用する際の簡便さから,短縮版(6項目)があり,本研究では質問項目を最小とすることを考慮して,短縮版を選択した.短縮版は,「死にゆく患者をケアすることは,私にとって価値のあることである」「死にゆく患者と差し迫った死について話をすることを気まずく感じる」「私は死にゆく患者と親しくなることが怖い」から成る【死にゆく患者へのケアの前向きさ】,「死にゆく患者の身体的ケアには,家族にも関わってもらうべきだ」「家族は死にゆく患者が残された人生を最良に過ごせるように関わるべきである」「死にゆく患者とその家族は意思決定者としての役割を担うべきである」から成る【患者・家族を中心とするケアの認識】の下位尺度で構成される.「1=全くそうは思わない」~「5=非常にそう思う」の5件法で得点化し,ターミナルケア態度の得点が高いほど,より前向きな態度,患者・家族中心のケアの認識が高いことを示す.

(4) 基本属性

性別,年齢,看護師実務経験年数,がん領域の認定・専門看護師の資格,現在所属する病棟,緩和ケア病棟・病床勤務経験,最終学歴,終末期看護および家族看護に関する学習/研修経験,終末期看護および家族看護への関心,身近な人の看取り経験を収集した.

4) 分析方法

IBM SPSS Statistics(Ver. 28)とIBM SPSS Amos(Ver. 28)を使用し,以下の統計学的分析を行った.有意水準を5%とした.

(1) 項目分析

各項目の天井効果と床効果を確認した.歪度尖度±2.0以上,Item-Total(I-T)相関は相関係数が.30未満を除外の基準とした.項目間相関では相関係数が.70以上のペア項目の片方を削除対象とした.Good-Poor(G-P)分析では,本尺度得点の25%上位群と25%下位群の平均得点をt検定により比較し,有意差(p < .001)があるものを基準として項目選択を行った.

(2) 信頼性の検討

尺度全体と各因子のCronbach’s α係数を算出した.

(3) 妥当性の検討

主因子法,プロマックス回転による探索的因子分析を行った.因子数は,スクリープロットおよび因子の解釈可能性により決定した.また,共通性を確認し,固有値1.0以上,因子負荷量.40以上を項目決定基準とし,複数因子に.40以上を示す項目は削除することとした.次いで,構成概念妥当性を確認するために,探索的因子分析で最終的に採択した対話支援自己評価尺度の因子を潜在変数として確認的因子分析を行い,モデルの適合度を確認した.適合度指数は,χ2値,適合度指標(GFI),自由度修正済み適合度指標(AGFI),比較適合度指標(CFI),および平均二乗誤差平方根(RMSEA)を用いた.

収束的妥当性を検討では,対話支援自己評価尺度と家族ケア実践評価スケールのPearsonの相関係数を算出した.家族ケア実践評価スケールは,測定概念にがん患者の家族が含まれるため,終末期がん患者と家族間の対話支援と同じ視点の傾向と推測し,正の相関があると仮定した.

併存的妥当性の検討では,対話支援自己評価尺度とFATCOD-B-JのPearsonの相関係数を算出した.死にゆく患者に対する看護師のターミナルケア態度が積極的である場合,終末期がん患者と家族との対話を積極的に支援すると推測し,外的基準尺度と相関があると仮定した.

既知グループに関しては,看護師の終末期ケアに関する先行研究で群別差異が明らかになっている(吉岡ら,2009小野寺ら,2013).そのため,対応のないt検定を用いて,緩和ケア病棟・病床勤務経験の有無,がん領域の認定・専門看護師資格の有無で2群間の得点の差を求めた.

3. 倫理的配慮

本研究は,山形大学医学部倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号2021-359).対象者に対し研究の目的,趣旨を書面で説明し,研究協力のための同意を得た.研究への参加は自由意思とし,無記名とした.また,研究への協力の諾否や中断により,対象者への不利益は生じないことを書面に明記した.プライバシーの保護,学会または論文で公表することがあること等を説明し,アンケート冒頭に同意確認欄を設け,同意が確認できたものを研究対象者とした.得られたデータは,研究担当者のみが情報を取り扱い,研究終了後,一定の保管期間を経過した後に,情報を復元できないよう処理した上で,適切に廃棄することを申し添えた.なお,家族ケア実践評価スケールは,尺度の開発者の使用許可を得た.FATCOD-B-Jの使用許諾は不要であり,文献リストに記載した.

Ⅳ. 結果

1. 対象者の基本的属性(表1

看護部代表者の同意が得られた54施設の看護師1196名に研究説明文書を配布した結果,371名より回答を得た(回収率31.0%).そのうち,看護師実務経験年数2年の1名を除く370名(有効回答率30.9%)を分析対象とした.平均年齢は38.1 ± 9.4(23~64)歳,看護師実務経験年数は15.4 ± 8.8(3~43)年,緩和ケア病棟・病床勤務経験を有する者は146名(39.5%),がん領域の認定・専門看護師の有資格者は21名(5.7%)であった.

表1  対象者の基本的属性 n = 370
属性 人数 (%)
性別
男性 22 (5.9)
女性 348 (94.1)
年齢
20~29歳 91 (24.6)
30~39歳 112 (30.3)
40~49歳 120 (32.4)
50~59歳 43 (11.6)
60歳以上 4 (1.1)
看護師実務経験年数
3~5年未満 27 (7.3)
5~10年未満 87 (23.5)
10~20年未満 132 (35.7)
20~30年未満 105 (28.4)
30年以上 19 (5.1)
がん領域の認定・専門看護師資格の有無
あり 21 (5.7)
なし 349 (94.3)
現在所属する病棟の診療科
内科系 81 (21.9)
外科系 89 (24.1)
混合 113 (30.5)
緩和ケア 78 (21.1)
地域包括ケア・療養 9 (2.4)
緩和ケア病棟・病床勤務経験の有無
あり 146 (39.5)
なし 224 (60.5)
緩和ケア病棟・病床の経験年数(n = 146)
1年未満 8 (2.2)
1~5年未満 65 (17.6)
5~10年未満 53 (14.3)
10~20年未満 17 (4.6)
20~30年未満 3 (0.8)
最終学歴
5 年一貫教育 8 (2.2)
専門学校 259 (70.0)
短期大学 30 (8.1)
大学 55 (14.9)
大学院 18 (4.9)
終末期看護に関する学習/研修の経験の有無
あり(複数回答) 338 (91.4)
病院内での勉強会 291 (78.6)
院外の研修会 159 (43.0)
自己学習(eラーニング含む) 156 (42.2)
なし 32 (8.6)
家族看護に関する学習/研修の経験の有無
あり(複数回答) 277 (74.9)
病院内での勉強会 198 (53.5)
院外の研修会 124 (33.5)
自己学習(eラーニング含む) 101 (27.3)
なし 93 (25.1)
終末期看護への関心の程度
非常にある 149 (40.3)
少しある 188 (50.8)
あまりない 27 (7.3)
全くない 6 (1.6)
家族看護への関心の程度
非常にある 150 (40.5)
少しある 198 (53.5)
あまりない 19 (5.1)
全くない 3 (0.8)
身近な人の看取り経験の有無
あり 239 (64.6)
なし 131 (35.4)

2. 項目分析

尺度原案38項目のうち,5項目が天井効果を認めたため削除した.床効果を認める項目はなかった.歪度は–1.075~.044,尖度は–.855~.882,I-T相関は.422~.787(p < .001)であり,削除対象となる項目はなかった.項目間相関では,相関係数0.7以上を示す項目が11組あった.類似した項目であるか検討した上で10項目を削除し,最終的に23項目を採択した.G-P分析では,項目ごとに上位群(92名)と下位群(93名)の2群間でt検定を実施した.その結果,全項目にて上位群が下位群に比べて有意に得点が高く(p < .001),削除対象となる項目はなかった.

3. 妥当性の検証

1) 探索的因子分析と因子の命名(表2

はじめにKaiser-Meyer-Olkin = 0.953(p < .000)であり,因子分析することに耐え得るサンプルであることを確認した.23項目についてスクリープロットにて4因子と決定し,主因子法,プロマックス回転による探索的因子分析を行った.因子負荷量.40未満,複数因子に重複して負荷を示す項目は「何気ない会話から家族の人柄を知るようにしている」の1項目であり,削除した.最終的に4因子22項目(累積寄与率54.69%)から成る尺度を作成した.

表2  看護師の終末期がん患者と家族間の対話支援自己評価尺度の因子分析 n = 370
第1因子 第2因子 第3因子 第4因子 共通性
第1因子【患者と家族の対話ニーズのアセスメント】
13.患者と家族がお互いに何を伝えたいのかについて関心をもっている 0.874 0.059 –0.087 –0.049 0.681
15.患者と家族がお互いの気持ちを言えないようなときには,なぜなのかを考えている 0.778 0.024 0.041 –0.037 0.648
18.終末期の病状,心理的側面から患者と家族の対話のニーズをアセスメントしている 0.693 0.085 –0.080 0.141 0.616
27.家族に「患者さんに伝えたいことはありませんか?」と尋ねている 0.655 –0.043 –0.133 0.111 0.361
20.一見強い口調で話す家族がいた場合,家族は何を言いたいのかアセスメントしている 0.632 0.165 0.076 –0.080 0.591
31.何気ない日常生活に関する話題を用いて,患者と家族をつなぐきっかけをつくっている 0.596 –0.069 0.137 0.116 0.537
10.患者と家族が過ごしてきたこれまでの背景に関心をもっている 0.590 0.164 0.004 –0.032 0.488
29.家族の患者を思う気持ちを理解して,対話ができるよう促している 0.567 –0.052 0.224 0.090 0.597
17.世代や性別により,言葉に出して伝えることへの違いがあると認識している 0.433 0.088 0.241 –0.116 0.400
第2因子【患者と家族に対する深い理解】
5.それぞれの家族の立場で物事を理解しようとしている 0.149 0.663 0.026 0.000 0.627
3.入院時から患者のみならず家族の様子に関心を向けている 0.099 0.655 –0.029 0.071 0.557
4.先入観をもたずに患者と家族と接することを心がけている 0.051 0.651 0.067 0.021 0.551
2.家族から気軽に声を掛けられる雰囲気をつくるようにしている –0.103 0.511 0.188 0.169 0.448
6.患者と家族がお互いをどのように思っているかについて関心を向けている 0.380 0.510 –0.018 –0.075 0.591
第3因子【患者と家族の相互の思いの尊重】
26.家族が患者を思う気持ちを傾聴している 0.069 –0.006 0.707 –0.038 0.537
8. 患者と家族に自分の思いを一方的に押し付けないようにしている –0.287 0.346 0.576 –0.048 0.358
16.家族へ心配かけたくない患者の気持ちを理解している 0.371 –0.044 0.554 –0.112 0.595
25.発語が困難になってきた患者の思いを汲み取って支援している 0.116 0.146 0.527 0.029 0.546
35.患者を思う家族の気持ちを看護師間で共有するようにしている 0.124 –0.050 0.485 0.207 0.488
第4因子【チームアプローチによる対話支援】
36.面会時の患者と家族の様子を記録している –0.063 0.091 –0.137 0.847 0.608
37.他の看護師が分かるように,患者と家族の価値観を含んだ情報を記録している 0.083 0.068 0.031 0.701 0.657
38.患者と家族に向き合うために,チームの力を活用している 0.112 –0.120 0.304 0.500 0.550
回転後の負荷量平方和 8.895 6.844 7.427 5.325
寄与率(%) 44.652 4.312 3.229 2.499
累積寄与率(%) 44.652 48.964 52.193 54.692
因子相関
第1因子 1.000
第2因子 0.692 1.000
第3因子 0.745 0.600 1.000
第4因子 0.579 0.466 0.603 1.000
Cronbach’s α係数 0.908 0.853 0.812 0.797 全体 0.944

注)主因子法,プロマックス回転

第1因子(9項目)は「患者と家族がお互いに何を伝えたいのかについて関心をもっている」等,対話ニーズに対する判断や考え方を表した内容と考え,【患者と家族の対話ニーズのアセスメント】と命名した.第2因子(5項目)は「それぞれの家族の立場で物事を理解しようとしている」等,日頃から家族を意識した関わりを表した内容と考え,【患者と家族に対する深い理解】と命名した.第3因子(5項目)は「家族が患者を思う気持ちを傾聴している」等,患者と家族の思いを重視した姿勢で関わることを表した内容と考え,【患者と家族の相互の思いの尊重】と命名した.第4因子(3項目)は「面会時の患者と家族の様子を記録している」等,看護師一人で何かをするのではなく,情報の共有化による対話支援をチームで行うことを表した内容と考え,【チームアプローチによる対話支援】と命名した.

2) 確証的因子分析(図1

探索的因子分析で得られた本尺度の22項目4因子において,モデルの適合度を確証的因子分析で確認した.その結果,χ2 = 504.656,p = .000,CMIN/DF = 2.486,GFI = .888,AGFI = .860,CFI = .931,RMSEA = .063を示した.

図1 

確証的因子分析

3) 収束的妥当性の検証(表3

本尺度と家族ケア実践評価スケールとの関連では,r = .819(p < .01)と強い相関を認め,下位尺度間でも強い相関を認めた.

表3  看護師の終末期がん患者と家族間の対話支援自己評価尺度と家族ケア実践評価スケール・FATCOD-B-Jとの相関 n = 370
対話支援自己評価尺度
合計得点 第1因子 第2因子 第3因子 第4因子
家族ケア実践評価スケール合計 .819** .758** .634** .761** .644**
家族の抱える問題の把握と負担への配慮 .783** .702** .620** .766** .613**
家族機能を考慮した関わり .742** .737** .559** .610** .570**
患者の死を受け入れる準備段階にある家族への支援 .681** .631** .548** .603** .542**
家族が患者の療養生活を効果的に支援するためのチーム医療の調整と情報提供 .567** .515** .409** .570** .456**
FATCOD-B-J合計 .403** .386** .327** .343** .302**
死に逝く患者へのケアの前向きさ .322** .319** .306** .237** .205**
患者・家族を中心とするケアの認識 .213** .193** .130* .218** .196**

注)Pearsonの相関係数 * p < .05 ** p < .01

4) 併存的妥当性の検証(表3

本尺度とFATCOD-B-Jとの関連では,r = .403(p < .01)と正の相関を認めた.FATCOD-B-Jの【患者・家族を中心とするケアの認識】とは,r = .213(p < .01)であり,弱い相関を認めた.

5) 既知グループ技法

緩和ケア病棟・病床勤務経験を有する看護師群(146名)が,経験のない看護師群(224名)よりも(87.562 ± 12.046, 83.594 ± 11.512, p < .001),がん領域の認定・専門看護師資格を有する看護師群(21名)が,資格のない看護師群(349名)よりも(95.095 ± 10.232, 84.562 ± 11.707, p < .000),本尺度合計得点の平均値は高く,有意差が認められた.

4. 信頼性の検討

尺度全体のCronbach’s α係数は.944であり,第1因子は.908,第2因子は.853,第3因子は.812,第4因子は.797であった.

Ⅴ. 考察

1. 尺度の妥当性と信頼性

妥当性の検証として,探索的因子分析で得られた22項目4因子に対して,確証的因子分析を行った.分析の結果,モデルの適合度はGFI = .888,AGFI = .860,CFI = .931,RMSEA = .063を示した.GFI,AGFI,CFIは0.9以上が望ましく(小塩,2021),RMSEAは0.05~0.08 が許容範囲とされている(Mohammad et al., 2019).よって,本モデルの適合度は概ね良好であり,探索的因子分析を支持する結果が得られた.

収束的妥当性については,本尺度と家族ケア実践評価スケール合計得点,下位尺度間ともに強い相関が得られた.がん患者の家族ケア実践能力と対話支援は直接関係していると考えられ,収束的妥当性が検証された.

併存的妥当性については,本尺度とFATCOD-B-J合計得点との間には,正の相関関係がみられた.FATCOD-B-Jの下位尺度【患者・家族を中心とするケアの認識】とは,r = .213(p < .01)であり,弱い相関を認めた.その理由として【患者・家族を中心とするケアの認識】の3項目の語尾は「~すべき」という看護師個人の価値観を示す表現が含まれているなど,柔軟な支援内容を含む本尺度と合致しない項目であったことが考えられた.

既知グループ技法では,緩和ケア病棟・病床勤務経験を有する看護師群,がん領域の認定・専門看護師資格を有する看護師群の得点が有意に高かった.緩和ケア病棟はがん患者のみの病棟であるため,終末期がん患者と家族への看護や看取りの経験を積み重ねることにより,対話支援実践能力も経験とともに高まっていったと考えられる.また,がん看護領域の有資格者という専門的な教育を受け,豊かな経験を有する者ほど,家族理解に重きを置いた実践を展開しており,本尺度得点が高くなるという結果につながったと考える.

信頼性に関して,Cronbach’s α係数は一般的に0.7以上を基準に判断することが多いとされる(Streiner et al., 2015/2016).Cronbach’s α係数は尺度全体.944,下位尺度.797~.908と,いずれも高値を示していた.この値は,信頼性を担保するための基準を満たしており,十分な内的整合性を確保していることが確認されたと考える.

2. 看護師の終末期がん患者と家族間の対話支援自己評価尺度の構成要素

本尺度の4因子について,各因子負荷量が高かった項目の内容を検討し,対話支援実践能力のどのような側面を評価しているのかについて考察する.

家族はいつも看護者の援助を求めているわけではなく,看護者の先を急いだ関わりは家族の成長を妨げることにもなりかねないため,家族のニーズをつかむことができるように,日々家族と接することが大切である(中野・瓜生,2022).また,終末期の家族から患者への思いの言語化は,思いを言葉に伝えたい動機が強かった,日頃から思いを言葉にしていた者ほど思いを言葉にし,以心伝心の価値観が強かった者ほど思いを言葉にしないことが明らかになっている(Nakazato et al., 2018).これらより対話支援のニーズを把握し,判断することは極めて重要であるといえる.よって,第1因子【患者と家族の対話ニーズのアセスメント】は,患者と家族の対話のニーズに対する,看護師の判断や考え方を評価する因子であると考える.

Illness Beliefs Model(Wright & Bell, 2009/2011)では,「病のエキスパートとしての家族に敬意を払い,関心を抱き続ける努力をする」ことの重要性を提唱しており,日頃から患者と家族に関心をもつことは,終末期の患者と家族をつなぐ役割を担う看護師にとって欠かせない要素である.よって,第2因子【患者と家族に対する深い理解】は,看護師がどれほど家族に関心を持っているのかを評価する因子であると考える.

Wright et al.(1996/2002)は,「保健医療従事者が家族のビリーフに影響を与えている」と述べており,患者と家族の思いを尊重する姿勢は,対話による癒しを促進する上で重要である.よって,第3因子【患者と家族の相互の思いの尊重】は,個々の状況に応じて患者と家族間をつなぐように対話を支援する看護師の姿勢を評価する因子であると考える.

チームメンバーそれぞれが家族と関わる中で情報を得ていても,それのもつ意味やチーム内で共有することの大切さに気付いておらず,せっかくの情報が活かされていないことも多い(野嶋・渡辺,2012).限りある業務時間の中で,情報収集や情報共有を行うには,チームで切れ目のない関わりを持つという認識のもと,対話支援にあたることが求められる.よって,第4因子【チームアプローチによる対話支援】は,チームで継続して対話支援に取り組むことについて,看護師の考え方を評価する因子であると考える.

3. 尺度の活用可能性

本尺度は,対話支援の必要な患者と家族を把握するためのアセスメントの視点や家族理解につながる視点を含んでいる.看護師が対話支援に葛藤を抱いた際に本尺度を用いることで,支援の振り返りができ,充足すべき視点を自己認識することに役立つと考える.このことにより,看護師の終末期の家族ケアに対する関心が高まり,対話支援の調整や工夫に寄与できると考える.

Ⅵ. 結論

本研究では,終末期がん患者の家族ケアに携わる臨床経験3年以上の看護師370名を対象に,看護師の終末期がん患者と家族間の対話支援自己評価尺度の開発を行った.その結果,【患者と家族の対話ニーズのアセスメント】【患者と家族に対する深い理解】【患者と家族の相互の思いの尊重】【チームアプローチによる対話支援】の4因子22項目が抽出され,看護師の終末期がん患者と家族間の対話支援自己評価尺度の信頼性と妥当性が確認された.

付記:本論文の内容の一部は,第42回日本看護科学学会学術集会,26th East Asian Forum of Nursing Scholarsにおいて発表した.本研究は,山形大学大学院医学系研究科に提出した博士論文,およびSGHがん研究報告に加筆・修正を加えたものである.

謝辞:本研究実施にあたりご協力くださいました看護師の皆様に心より御礼申し上げます.本研究は,公益財団法人SGH財団 第3回(2021年度)SGHがん看護研究助成を受けて実施しました.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:SAは研究の着想およびデザイン,データ収集・分析,原稿の作成までの研究プロセス全体に貢献;MFは分析解釈,研究プロセス全体への助言に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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