Journal of Japan Academy of Nursing Science
Online ISSN : 2185-8888
Print ISSN : 0287-5330
ISSN-L : 0287-5330
Original Articles
Influence of Marital and Coparenting Relationships on Depressive Symptoms in Parents Raising a Preschool Child
Sayuri YasunoYoko TakeishiYasuka NakamuraMikako YoshidaToyoko Yoshizawa
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2023 Volume 43 Pages 174-182

Details
Abstract

目的:子どもの成長に伴う負担などが変化する2~4歳児の育児期において,親のうつ症状に2つの夫婦関係(愛情関係とコペアレンティング関係)を含む要因がどのように影響するかを明らかにする.

方法:本研究は観察研究で,2~4歳児を養育中の男性136名,女性121名と対象とした.従属変数のうつ症状をCenter for Epidemiologic Studies Depression Scale(CES-D),独立変数の夫婦関係を夫婦関係満足度尺度(QMI)とコペアレンティング関係尺度(CRS)で評価し,重回帰分析を行った.

結果:男性のCES-DにはCRS(β = –.454, p < .001),女性のCES-DにはCRS(β = –.329, p = .002)とQMI(β = –.255, p = .015)が関連した.

結論:2~4歳の児を養育中の男女に共通して,よりよいコペアレンティング得点は低いうつ症状得点に関連することが明らかになった.

Translated Abstract

Objective: To clarify which factors including couple relationship (marital and coparenting relationship) affect depressive symptoms in parents who are caring for their preschooler aged 2 to 4 years when childcare-related burdens are changing as the child grows.

Methods: This observational study included 136 men and 121 women who were taking care of their child aged 2 to 4 years. The dependent variable was depressive symptoms assessed by the Center for Epidemiologic Studies Depression Scale (CES-D), and the independent variables were couple relationship assessed by the Coparenting Relationship Scale (CRS) and the Quality of Marriage Index (QMI). Multiple regression analysis was conducted separately for men and women, respectively.

Results: CES-D in men was associated with CRS (β = –.454, p < .001), and CES-D in women was associated with CRS (β = –.329, p = .002) and QMI (β = –.255, p = .015).

Conclusion: Better score of coparenting relationship was associated with low CES-D score in both men and women caring for their child aged 2 to 4 years.

Ⅰ. 諸言

未就学児を養育する親のうつ症状としては,出産から間もない時期に発症する産後うつ病が有名で,産後1年以内の有病率は男女ともに約10%と言われている(Kitamura et al., 2006Paulson & Bazemore, 2010).産後1年以内のうつ症状に対しては,政策として行われている産後ケア事業などの育児支援を受けることで対応することができる.しかし,第一反抗期が始まり,育児ストレスが多重的に付加される可能性が高い2~4歳児(北村ら,2006)の育児期の支援は,幼児健診時の育児相談や保育施設での相談のみにとどまる.2歳児を持つ母親の62.9%が就業しており(厚生労働省,2019),この頃,家庭内では,これまで主たる養育者であった母親が復職し,父親,母親の両方とも仕事と育児の両立が必要となる(深堀,2017)場合が多く,夫婦間で育児分担の再調整が行われる.母親が復職しない場合であっても,児の自我の発達や体力の増加によって,夫婦間で育児分担が調整されていく時期と言える.夫婦間での調整がうまくいかない場合は,それがうつ症状へとつながる可能性が指摘されている(Beck, 2001Hutchens & Kearney, 2020Recto & Champion, 2020).したがって,2~4歳児の育児期の親にとっては,家庭内での親同士の関係性,つまり,夫婦関係が重要であると考える.

夫婦は育児期になると,それまでの夫婦2者の愛情関係に加え,新たに親として育児を協力し合うコペアレンティング(夫婦協同育児)の関係性が構築される(Weissman & Cohen, 1985Feinberg, 2002).本研究では夫婦2者の愛情関係とは,恋愛感情を伴う相手へ好意を互いに持っている,つまり,パートナーを愛し,パートナーから自分が愛されていると感じ,それにより幸福を感じる関係である(Fincham & Bradbury, 1987).一方,コペアレンティング関係とは,夫婦がお互いに親として子育てに関連する家事・育児を協力し合う関係である.これには,育児や子どもの成長・発達に対する養育者としての責任を自覚し,育児に関する労働(育児そのものや家事)の分担は夫婦がお互いに公平であると納得し,パートナーの努力に対して尊重することが含まれる(Feinberg, 2002).ここでの分担は,お互いに“均等”に家事・育児を分担することではなく,互いが得意なことや仕事の状況からできることを互いに補いながら家事・育児を“公平に”シェアすることを意味する.具体的には,子どもの世話やしつけの方針,家事や人間関係などの育児にまつわる全ての労働を夫婦双方がよく理解した上で,どちらかに負担が偏りすぎないように自分/パートナーは何をどのくらい行うかということを納得して,方針を一致させた上で実行し,それをやっていく中で子どもの成長・発達の実感や育児などへの自己効力感から自信や幸福感を抱き,パートナーへの感謝の気持ちや親密性がわく状態である.コペアレンティング関係におけるパートナーへの親密性は,育児チームのメンバーとして大事なわが子を預けられる最も信頼する同士という感覚であり,恋愛関係で抱く好意とは異なるため愛情関係とは区別される.出産を契機に夫婦双方とも,愛情関係が低下するとの報告(中澤ら,2003)も考慮すると,育児を行っている親の精神状態に関連する夫婦関係を評価するには,愛情関係とコペアレンティング関係の両方を同時に評価する必要がある.

これら2つの夫婦関係とうつ症状との関連は,産後1年以内の育児期早期の研究に限られており(Escribà-Agüir & Artazcoz, 2011Nishimura et al., 2015Solmeyer & Feinberg, 2011Takeishi et al., 2021),子どもの成長・発達に伴って夫婦双方の育児内容や負担が変化する2~4歳児の育児期においては明らかになっていない.したがって,本研究では,2~4歳の児を養育する親のうつ症状に対して,コペアレンティング関係と夫婦の愛情関係を含めて関連要因を明らかにすることを目的とした.

Ⅱ. 研究方法

1. 研究デザインと調査方法

本研究デザインは横断研究であり,2018年8月にウェブ調査にて実施した.研究参加者はウェブ上で質問の回答を入力し,得られた無記名のデータは統計学的に処理することで匿名性を確保した.尚,本研究は,東北大学大学院医学系研究科倫理委員会の承認を得て実施した(2018-1-305).

2. 研究参加者

研究参加者は,2~4歳の児を養育中の親(男女)である.2~4歳の児と同時に1歳未満児も養育している親の産後うつ病を除外するため,2~4歳のひとりの児のみを養育する親を対象とした.なお,対象とする男女は夫婦ペアではない.

3. 調査内容

1) うつ症状

うつ症状には,日本語版Center for Epidemiologic Studies Depression Scale(CES-D)(島ら,1985)を用いた.CES-Dは,1週間の気分について尋ねる20項目からなり,これらの項目はうつ気分,身体症状,対人関係,ポジティブな感情の症状についての質問から構成される.一般人のうつ病のスクリーニングとして世界的に使用されており,高得点は抑うつ状態である可能性を示している.0~60点で評価され,本研究におけるCronbachのαは.91であった.

2) 夫婦関係

愛情関係には夫婦関係満足度尺度:Quality Marriage Index(QMI)(諸井,1996)を,コペアレンティング関係には日本語版Coparenting Relationship Scale(CRS)(武石ら,2017)を用いた.

QMIは6項目,1概念で,夫婦関係全体の良さを測定する尺度であるが,出産前から育児期早期のコペアレンティング関係が未熟なうちは夫婦関係の多くは愛情関係が占めるため,出産前から育児期早期ではQMIによって愛情関係が測定できるとされる(中澤ら,2003).そのため本研究では,愛情関係の評価としてQMIを使用した.項目は「夫/妻との関係によって,私は幸福である」など6項目からなり,1~24点をとる.本研究におけるCronbachのαは.95であった.

CRSは35項目,7下位尺度は,(育児の合意,家事・育児の分担,パートナーの育児の承認,サポート,育児による親密性,阻害,子どもの前でのもめごと)からなる(以下,下位尺度名を“ ”で示す).パートナーと育児方針についての“合意”,家事・育児内容の公平な“分担”,親としてのパートナーの“承認”,パートナーから得られたと感じる“サポート”,これらにより育児チームメイトとしてパートナーに感じる“親密性”のポジティブな関係性に関する5つの下位尺度と,育児方針が合わないことでパートナーから育児を批判される“阻害”,子どもの前で起こしてしまう夫婦間の“もめごと”のネガティブな関係性に関する2つの下位尺度から構成される.各下位尺度の合計点を項目数で割った数値を下位尺度得点とし,得点の範囲は0~6点である.ポジティブな関係性を評価している5つの下位尺度および合計得点は,得点が高いほどコペアレンティングがうまくいっていることを示し,“阻害”“もめごと”のネガティブな関係性を評価している2つの下位尺度は,得点が高いほどコペアレンティングがうまくいっていないことを意味する.CRS合計得点は,ポジティブな5つの下位尺度の得点の合計からネガティブな2つの下位尺度の得点の合計を引いた得点を下位尺度数の7で割って算出する.本研究における合計点のCronbachのαは.79であった.

3) 研究参加者の属性

属性は,性別,自身・パートナーの年齢,学歴,家族形態,自身・パートナーの雇用形態(正規雇用/非正規雇用/無職),世帯年収,病院や自治体で行われている出産準備に関する集団指導(出産前教育)への参加回数,休日・平日の育児時間(分)について調査した.自身・パートナーの雇用形態から夫婦の就業状況(共働き/片働き/その他)に分類した.

4. 分析方法

分析方法は,正規性の検証結果に基づき,単変量解析にて独立変数の多重共線性および独立変数と従属変数であるCES-D得点との関連を検証したのちに,CES-D得点を従属変数として階層的重回帰分析を男女別々に行った.調整変数の属性に加え,QMI得点(モデル1),QMI得点とCRS合計得点(モデル2),QMI得点とCRSの各下位尺度得点(モデル3~9)と階層的に強制投入した.夫婦の就業状況と自身の雇用形態は,多重共線性を考慮し,どちらかを選択し投入した.統計解析には,SPSS ver. 25を用いた.

Ⅲ. 結果

1. 研究参加者の背景(表1

分析対象者は男性136名,女性121名の,男女計257名であった.男性の平均年齢は40.9 ± 6.8歳,女性の平均年齢は35.6 ± 5.3歳であった.夫婦の就業状況は,共働きは男性が85名(62.5%),女性が49名(40.5%)であり,雇用形態は,男性では正規雇用が129名(94.9%)と最も多く,女性では無職が72名(59.5%),正規雇用が32名(26.4%),非正規雇用17名(14.0%)の順に多くなっていた.

表1  研究参加者の背景
男性(n = 136)
n(%)
女性(n = 121)
n(%)
年齢(平均±標準偏差)
研究参加者 40.9 ± 6.8 35.6 ± 5.3
パートナー 37.0 ± 5.3 37.0 ± 6.0
学歴
大学未満 42(30.9) 64(52.9)
大学以上 94(69.1) 57(47.1)
家族形態
核家族 119(87.5) 108(89.3)
拡大家族 17(12.5) 13(10.7)
夫婦の就業状況
共働き 85(62.5) 49(40.5)
片働き(夫就労+妻無職) 48(40.5) 69(57.0)
その他 3(2.2) 3(2.5)
自身の雇用形態
正規雇用 129(94.9) 32(26.4)
非正規雇用 4(2.9) 17(14.0)
無職 3(2.2) 72(59.5)
世帯年収
200万円未満 3(2.2) 9(7.4)
200~400万円未満 15(11.0) 27(22.3)
400~600万円未満 46(33.8) 39(32.2)
600~800万円未満 36(26.5) 24(19.8)
800万円以上 36(26.5) 22(18.2)
出産前教育参加回数 1.3(1.4) 2.1(1.6)
育児時間(分)(平均±標準偏差)
平日 113.1(89.9) 541.1(331.8)
休日 354.6(235.9) 720.8(336.8)
平均 233.8(149.0) 630.9(300.5)

片働き:男性対象者の場合は,自分が就労しており,かつ,パートナーである妻が無職と答えた者.女性対象者の場合は,自分が無職,かつ,パートナーである夫は就労していると答えた者.

育児時間 平均:育児時間の平日と休日の回答の和/2

2. うつ症状および夫婦関係得点(表2

CES-Dは,男性は平均14.7 ± 10.6点,女性は平均14.3 ± 8.8点であり,男女に有意差は認められなかった(p = .714).QMIは男性17.3 ± 4.6点,女性16.4 ± 4.9点であり(p = .104),CRSは男性2.3 ± 0.9点,女性2.1 ± 0.9点であり(p = .082),夫婦関係に関する2つの尺度についても,男女に有意な差は認められなかった.

表2  主要な変数の男女の比較
男性(n = 136)
平均(標準偏差)
女性(n = 121)
平均(標準偏差)
p
CES-D 14.7(10.6) 14.3(8.8) .714
QMI 17.3(4.6) 16.4(4.9) .104
CRS合計 2.3(0.9) 2.1(0.9) .082
合意 4.1(1.2) 4.1(1.2) .824
親密性 4.0(1.2) 3.9(1.2) .926
もめ事 1.3(1.1) 1.0(0.8) .293
サポート 3.4(1.4) 3.0(1.6) .049
阻害 1.5(1.1) 1.3(1.2) .033
承認 4.1(1.1) 3.4(1.2) <.001
分担 4.6(1.3) 3.5(1.6) <.001

マン・ホイットニーのU検定

CES-D:Center for Epidemiologic Studies Depression Scale

CRS:Coparenting Relationship Scale

QMI:Quality Marriage Index

3. うつ症状に対する主要な変数との相関(表3

CES-D得点に対して,男性ではQMI(ρ = –.409, p < .01),CRS(ρ = –.493, p < .01)ともに負の相関が認められた.女性においても,QMI(ρ = –.556, p < .01),CRS(ρ = –.495, p < .01)ともに負の相関が認められた.独立変数間の相関として,CRSとQMIに関しては,男性と女性の両方において正の相関が認められた(男性:ρ = . 746,p < .01;女性:ρ = .623,p < .01).

表3  主要な変数の相関
男性(n = 136) 1 2 3 4 5 6 7 8 9
1.CES-D
2.QMI –.409**
3.CRS合計 –.493** .746**
4.合意 –.339** .568** .737**
5.親密性 –.428** .727** .867** .550**
6.もめ事 .526** –.495** –.668** –.466** –.473**
7.サポート –.295** .662** .776** .471** .750** –.372**
8.阻害 .432** –.532** –.770** –.650** –.570** .584** –.382**
9.承認 –.341** .519** .777** .455** .657** –.378** .561** –.469**
10.分担 –.348** .287** .593** .394** .406** –.418* .191* –.605** .554**
女性(n = 121) 1 2 3 4 5 6 7 8 9
1.CES-D
2.QMI –.556**
3.CRS合計 –.495** .623**
4.合意 –.493** .480** .786**
5.親密性 –.433** .652** .822** .635**
6.もめ事 .357** –.387** –.556** –.504** –.529**
7.サポート –.411** .668** .789** .527** .727** –.320**
8.阻害 .355** –.320** –.685** –.702** –.401** .392** –.294**
9.承認 –.335** .447** .790** .467** .574** –.268** .658** –.393**
10.分担 –.183* .206* .523** .325** .235** –.227* .248** –.486** .482**

スピアマンの相関係数,* p < .05,** p < .01

CES-D:Center for Epidemiologic Studies Depression Scale

CRS:Coparenting Relationship Scale

QMI:Quality Marriage Index

4. うつ症状に対する関連要因の重回帰分析(表4表5

男性では,CRS合計得点が高くなるとCES-D得点が低くなるという関連が認められたが(モデル2:β = –.454,p < .001),QMIはCRS合計得点が加わると(モデル2)CES-Dとの関連は認められなくなった.また,共働きだとCES-D得点が高くなるという関連が認められた(モデル2:β = .171,p = .045).CRSの7つの下位尺度のうち,“もめごと”(モデル5:β = .409,p < .001)と“阻害”(モデル7:β = .335,p = .001)では得点が高くなるとCES-D得点が高くなるという有意な関連を示し,“分担”(モデル9:β = –.233,p = .008)では得点が高くなるとCES-D得点が低くなるという有意な関連を示した(表4).

表4  男性におけるうつ症状に対する関連要因―夫婦の就労状況を調整―
モデル1 モデル2 モデル3 モデル4 モデル5 モデル6 モデル7 モデル8 モデル9
β p β p β p β p β p β p β p β p β p
QMI –.271 .001 .062 .615 –.191 .071 –.115 .343 –.089 .317 –.243 .036 –.101 .286 –.187 .058 –.206 .017
CRS合計 –.454 <.001
合意 –.137 .205
親密性 –.218 .079
もめ事 .409 <.001
サポート –.043 .720
阻害 .335 .001
承認 –.160 .109
分担 –.233 .008
夫婦共働き .178 .047 .171 .045 .168 .060 .163 .066 .148 .077 .181 .045 .188 .029 .179 .044 .163 .062
調整済R2 .114 .191 .118 .129 .229 .108 .186 .125 .157

CES-D得点を従属変数とした階層的重回帰分析,調整変数はモデル2において有意確率P < .05となった変数のみ表示.

主要独立変数は,モデル1:QMI,モデル2:2つの夫婦関係(QMIとCRS合計得点),モデル3:QMIとCRS下位尺度の合意,モデル4:QMIとCRS下位尺度の親密生,モデル5:QMIとCRS下位尺度のもめ事,モデル6:QMIとCRS下位尺度のサポート,モデル7:QMIとCRS下位尺度の阻害,モデル8:QMIとCRS下位尺度の承認,モデル9:QMIとCRS下位尺度の分担とした.

調整変数は,年齢,学歴,家族形態,夫婦の就労状況(夫就労+妻無職の片働き=0(参照値),夫婦共働きダミー変数=1,その他ダミー変数=1),世帯年収,出産前教育参加回数,平均育児時間とした.

CES-D:Center for Epidemiologic Studies Depression Scale

CRS:Coparenting Relationship Scale

QMI:Quality Marriage Index

表5  女性におけるうつ症状に対する関連要因―自身の雇用形態を調整―
モデル1 モデル2 モデル3 モデル4 モデル5 モデル6 モデル7 モデル8 モデル9
β p β p β p β p β p β p β p β p β p
QMI –.456 <.001 –.255 .015 –.294 .001 –.331 .004 –.385 <.001 –.399 .001 –.397 <.001 –.390 <.001 –.448 <.001
CRS合計 –.329 .002
合意 –.366 <.001
親密性 –.191 .092
もめ事 .220 .009
サポート –.085 .457
阻害 .279 .001
承認 –.147 .115
分担 –.032 .699
非正規雇用 .176 .070 .187 .046 .224 .015 .180 .062 .189 .046 .174 .075 .180 .052 .187 .054 .173 .079
調整済R2 .249 .307 .341 .262 .288 .246 .320 .259 .243

CES-D得点を従属変数とした階層的重回帰分析,調整変数はモデル2において有意確率P < .05となった変数のみ表示.

主要独立変数は,モデル1:QMI,モデル2:2つの夫婦関係(QMIとCRS合計得点),モデル3:QMIとCRS下位尺度の合意,モデル4:QMIとCRS下位尺度の親密生,モデル5:QMIとCRS下位尺度のもめ事,モデル6:QMIとCRS下位尺度のサポート,モデル7:QMIとCRS下位尺度の阻害,モデル8:QMIとCRS下位尺度の承認,モデル9:QMIとCRS下位尺度の分担とした.

調整変数は,年齢,学歴,家族形態,自身の雇用形態(正規雇用=0(参照値),非正規雇用ダミー変数=1,無職ダミー変数=1),世帯年収,出産前教育参加回数,平均育児時間とした.

CES-D:Center for Epidemiologic Studies Depression Scale

CRS:Coparenting Relationship Scale

QMI:Quality Marriage Index

女性では,CRS(モデル2:β = –.329,p = .002)とQMI(モデル2:β = –.255,p = .015)の両方の夫婦関係の得点でCES-Dとの有意な関連が認められ,どちらの夫婦関係においても得点が高くなるとCES-D得点が低くなることを示した.男性とは異なり,非正規雇用では正規雇用に比べてCES-D得点が高くなるという関連が認められた(モデル2:β = .187,p = .046).CRSの7つの下位尺度のうち,“もめごと”(モデル5:β = .220,p = .009)と“阻害”(モデル7:β = .279,p = .001)では得点が高くなるとCES-D得点が高くなるという有意な関連を示し,“合意”(モデル3:β = –.366,p < .001)では得点が高くなるとCES-D得点が低くなるという有意な関連を示した(表5).

Ⅳ. 考察

2~4歳未満児をもつ男性におけるうつ症状には,夫婦関係のうちのコペアレンティング関係のみが有意に影響し,女性におけるうつ症状には,夫婦関係のコペアレンティング関係と愛情関係の両方が有意に影響していた.

男性と女性どちらにおいても,CRS合計得点が高いことがCES-D得点の低さに有意に関連した.この結果は,産後1,3か月児をもつ女性や(Takeishi et al., 2021),1歳児の母親と父親を対象とした研究(Solmeyer & Feinberg, 2011)と同様の結果であった.児が2~4歳となるこの時期には,多くの児が保育施設や幼児教育施設へ入所・異動する時期であるため(厚生労働省,2021b),児の将来的な教育方針や,親である自分たちの家庭内での役割分担や将来的なキャリア(キッズライン,2017)を夫婦で再考しなければならない.したがって,夫婦ともに育児に不慣れである産後1年と親たちが直面する問題は異なるとは言え,産後2~4年であっても,夫婦で育児を協力するコペアレンティングの関係は親のうつ症状に対して重要であると言える.

コペアレンティング関係は,男女両方のうつ症状に関連しており,CRSの全下位尺度を階層的に投入した重回帰分析によって,男女共にコペアレンティングの“もめごと”と“阻害”がCES-D得点に関連することが明らかになった.これは,1歳児の親の結果と同様であった(Solmeyer & Feinberg, 2011).一方,男女では一部結果が異なった.男性では,コペアレンティングの“分担”がCES-D得点への有意な関連要因であった.つまり,自分が育児を多く負担していると認識していることがCES-D得点の高さに関連すると推測された.本研究の男性の97%は就労しているにもかかわらず,一般的なわが国の男性の家事関連時間(家事・育児等)114分(内閣府,2017)より長く育児に時間を費やしていた.このことから,平日日中は仕事をこなし,仕事が終わった後の夜間や休日などのできる限りの時間で育児を担っていたと推察される.そのような状況下,妻から感謝ではなく批判(伊藤・池田,2019)やさらなる家事・育児の要求があると精神的なダメージへとつながる(Pedersen et al., 2021)ことから,“分担”がうつ症状に関連したと推察される.

一方,女性では,男性と共通してコペアレンティングの“もめごと”と“阻害”がCES-D得点に関連したほかに,コペアレンティングの“合意”がCES-D得点に関連した.“合意”とはしつけや教育方針について夫婦の考えをすり合わせることである(武石ら,2017).2~4歳児の母親を含む対象では,1歳未満児の母親よりも,夫婦で育児方針が違うと回答した割合が多いという報告(北村ら,2006)があるように,この時期から育児の方針について夫婦間でのズレが顕在化することが多くなると言える.女性でのみ“合意”がCES-D得点に関連した背景には,わが国では,夫よりも妻の方が家事・育児時間が圧倒的に長いため(内閣府,2017),女性は教育やしつけについて育児中に悩む経験が多くなり(岡本,2008),夫との育児について相談や合意が不十分と感じる場合,1人で悩むことでうつ症状へとつながった可能性が考えられる.本研究において,“合意”は“もめごと”と“阻害”とも負の相関もあったことから,夫婦げんかや夫からの自分への育児の批判がさらに精神的ダメージを強めた(Solmeyer & Feinberg, 2011)ことが推測される.

男性ではQMI得点とCES-D得点との関連は認められなかったが,女性ではQMI得点が高いとうつ症状得点が低いという関連が認められた.QMIは育児期早期では恋愛を基盤とした愛情関係(相手への愛情があることや相手から愛されていること)を反映しているとされる(中澤ら,2003).育児期の女性においては,愛情関係とうつ症状との関連は,1歳未満の児をもつ女性の研究(Takeishi et al., 2021)では認められておらず,2歳以上の児をもつ女性では本研究や先行研究(小田切ら,2003丸山ら,2004)では認められていることから,女性では2歳以上の児を持つ女性の愛情関係の認識に何か特徴があるのかもしれない.その一つに,この時期が夫婦にとっては第2子を持つことを考える頃(厚生労働省,2021a)であることが関係しているかもしれない.女性はパートナーの性的要求に答えられない時に罪悪感を抱いたり(Woolhouse et al., 2012Highet et al., 2014),夫が育児をしてくれない時,妻は夫から自分が大切にされていないと感じる(Cowan & Cowan, 2000)という報告がある.本研究対象者は第1子のみ養育中であることより,第2子の妊娠を考えている女性もいたと考えられ,このような状況では,夫との愛情関係をより深刻に捉え,うつ症状との間に関連が認められたのかもしれない.また,重回帰分析ではコペアレンティング関係の影響を調整したものの,母親での愛情関係とうつ症状の関係にはその他の育児状況が交絡していた可能性は残る.一方,男性でこの関係性が認められなかったのは,2歳以上の児の父親の結果(朴ら,2011)と一致し,本研究での男女における愛情関係とうつ症状の関連の差異があることが示唆さされた.この違いについて明確な理由は不明であり,さらなる研究が必要とされる.

夫婦関係以外のうつ症状の関連要因には,男女ともに就労に関する変数が認められた.男性においては夫婦の就労状況が共働きであること,女性においては雇用形態が非正規であることが,CES-D得点の高さと有意な関連を示した.女性の仕事の負担が男性の家事・育児の負担につながると言われ(Watanabe et al., 2017),共働きの男性は家事・育児役割を担っていることが多い.実際,本研究においても,共働きの男性の平均育児時間は,妻が専業主婦の片働きの男性のその平均よりも長くなっており,女性では共働きの方が,自身が専業主婦の片働きより平均育児時間が短くなっていた.先行研究では,共働きの夫婦においては,仕事が忙しく家事・育児時間がとれないなどといった,仕事から家庭への悪影響があることが,うつ症状と関連することが明らかになっており(小泉ら,2001),家庭から仕事への悪影響も同程度体験していることが明らかになっている(黒澤,2011).仕事と家事・育児をすることによる肉体的な疲労(Watanabe et al., 2017),育児を担いつつ仕事もこれまでと同様にこなさなければならないというプレッシャー(Pedersen et al., 2021),仕事を理由に家事・育児を妻に多く任せてしまう申し訳なさ(Darwin et al., 2017)などが報告されており,身体的・心理的ストレスからうつ症状へとつながることが考えられる.また,男性では社会的規規範から人に弱さを見せにくく人を頼ることができない(Darwin et al., 2017Pedersen et al., 2021)ことから,より精神的負担が強くなると推察される.一方,女性では雇用形態が非正規であることとうつ症状が関連したことは,育児期以外も含めた労働者で言われている知見と一致した(森田,2018高橋ら,2014).特に,不本意で非正規雇用になった場合(内閣府,2017)の職務満足感の低さやメンタルヘルスの悪さが指摘されている(飯田・園田,2020).本研究は非正規雇用になった理由までは調査しておらず推測の域を出ないが,非正規雇用の働き方や育児との両立生活の忙しさだけでなく,不本意なキャリアコースに関連する要因が,非正規雇用の女性で正規雇用の女性よりも高いうつ症状得点との関連が認められた背景にあると考えられる.

本研究の臨床応用を考えてみると,コペアレンティングを推進する取り組みは,妊娠期の教育プログラムが開発され(Takeishi et al., 2019),地域ベースで介入が行われ始めている(子ども健康部健康推進課,2020).しかし,2~4歳児を持つ親のコペアレンティングについては,未着手の状況である.したがって,今後は,本研究で明らかになった,精神的健康に影響するコペアレンティングの要素や愛情関係の男女の違い,就労状況を考慮した教育プログラムの開発から取り組まれることが望まれる.

本研究の限界として,1つ目には,横断調査のため夫婦関係とうつ症状の因果関係の証明はできていないことが挙げられる.2つ目として,対象者をウェブ調査で募ったことにより,時間的余裕があり精神的に健康な集団の回答に偏っていた可能性がある.このため,うつ症状得点が低く抑えられ,関連要因が明らかになりにくくなっていた可能性が考えられる.最後に,本研究の対象者は夫婦ペアとしてデータ収集したものではないため,1つの家庭状況(育児や就労を含む)を男女両側面で見た結果ではなく,男性対象者と女性対象者それぞれに様々な家庭状況があり,男女によってその状況が異なっている可能性がある.

Ⅴ. 結論

2~4歳児の育児中の男性において,コペアレンティング関係という育児を協力して行うという良好な夫婦関係が,低いうつ症状得点と関連することが示された.女性においては,コペアレンティング関係と愛情関係という夫婦関係の2つの側面が,両方ともうつ症状と関連することが明らかになった.また,就労においては,男性では共働きが片働き(妻は専業主婦)よりうつ症状得点が高く,女性では非正規雇用者が正規雇用者よりうつ症状得点が高くなることが示された.

付記:本論文はThe 6th International Nursing Research Conference of World Academy of Nursing Scienceにおいて発表したものの一部を加筆・修正したものである.

謝辞:本研究本研究に協力していただきました対象者の皆様に心より御礼申し上げます.また,多大なるご支援を下さいました東北大学の川尻舞衣子助教に感謝申し上げます.本研究は,JSPS科研費JP16K12089,21K10819の助成を受けた.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:SYおよびYTは研究の着想,デザイン,統計解析分析,原稿作成;YNは研究デザイン,データ収集の実施,原稿への示唆;MYは研究の着想,デザイン,原稿作成;TYは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

文献
 
© 2023 Japan Academy of Nursing Science
feedback
Top