2023 Volume 43 Pages 194-202
目的:消化器内視鏡技師資格を持つ看護師のワーク・エンゲイジメント(以下WE)と自律性との関連を明らかにすることを目的とした.
方法:本研究はオンライン調査を用いた横断研究である.対象は消化器内視鏡技師資格をもつ看護師1,000人とした.調査項目は,個人属性,仕事の要求度,仕事の資源,内視鏡看護特性,日本語版ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度短縮版(以下UWES),自律性(看護の専門職的自律性尺度)とした.
結果:回収率は33.7%であった.WEを従属変数,個人属性,仕事の資源等を独立変数とし多変量ロジスティック回帰分析を行った.自律性はWEの高さに統計学的有意に関連していた(オッズ比1.04,95%信頼区間:1.02~1.05,p < .001).自律性が高く患者との関わりが充分であるときにWEが高まる交互作用がみられた(F,(1, 257) = 6.3, p = .013).
結論:内視鏡技師看護師のWEと自律性は強く関連することが示された.WEを高めるためには,自律性が高く患者との関わりが充分であることが影響した.
Objective: This study aimed to reveal the association between work engagement (WE) and autonomy among nurses certified as gastroenterological endoscopy technicians.
Methods: We conducted cross-sectional online survey among 1,000 nurses certified as gastroenterological endoscopy technicians. The survey items included personal attributes, job demands, job resources, endoscopy nursing characteristics, the Japanese version of the shortened version of the Utrecht Work Engagement Scale (UWES), and autonomy (professional autonomy scale for nurses).
Results: A total of 337 subjects (response rate of 33.7%) were included in the analysis. A multivariate logistic regression analysis, dividing WE into high and low groups and using personal attributes and job resources as independent variables, revealed that autonomy was statistically significantly associated with the high level of WE (odds ratio = 1.04, 95% confidence interval: 1.02–1.05, p < 0.001). There was an interaction where WE increased when the degree of autonomy was high and involvement with patients was sufficient (F,(1, 257) = 6.3, p = 0.013).
Conclusion: The results showed that there is a strong association between WE and autonomy among nurses certified as gastroenterological endoscopy technicians. Furthermore, a high degree of autonomy and sufficient involvement with patients were suggested to be influential in further increasing WE.
消化器内視鏡検査は,人間ドックや検診事業など,幅広く実施されている.厚生労働省の調べによると上部消化管内視鏡検査は,この3年間で約2万件増加した(厚生労働省,2014, 2017).内視鏡の専門性を高めるための制度として1982年に発足した内視鏡技師制度がある.消化器内視鏡技師資格を持つ看護師(以下,内視鏡技師看護師)は2019年度には13,730人となった.消化器内視鏡検査における看護の教育体制の現状は,体系づけられていない(新居ら,2006).内視鏡技師ならびに看護師を対象とした内視鏡検査中及び検査後における患者の看護・検査介助が十分できているかの問いに対して,十分であると回答した者は10~20%,不十分であると回答した者は20~30%であったと報告した(田中ら,2002).このような能力を十分に発揮できていない現状は,内視鏡技師看護師の仕事へのやりがいに影響を与える可能性がある.そこで仕事にエネルギーを注ぎ,仕事から活力を得て活き活きしている状態であるワーク・エンゲイジメント(以下WE)に着目した.
WEとは,「仕事に関連するポジティブで充実した心理状態であり,活力,熱意,没頭によって特徴づけられる.エンゲイジメントは,特定の対象,出来事,個人,行動に向けられた一時的な状態ではなく,仕事に向けられた持続的かつ全般的な感情と認知である」と定義されている(Schaufeli et al., 2002).WEの規定要因として上司・同僚のサポート等の仕事の資源と,自己効力感や組織内部での自尊心,仕事や職場に対する楽観性など,自分自身の内的要因である個人の資源が位置づけられている(島津,2010, 2014).
WEに関する看護師を対象とした先行研究では,WEが高いほど離職意思が低く,職務継続意思が高いことが報告されている(中村・吉岡,2016).林谷・升田(2020)は救命救急センターで勤務する看護師を対象とした横断研究を行い,WEを高める要因として達成動機や自律性が挙げられることを報告した.
内視鏡技師看護師の自律性は,自律的に短時間で限られた情報から患者を把握し,年齢や検査経験に合わせた説明が求められ,検査の流れを予測し行動に移すことだと考える.自律性の構成要素は,患者ケアにおける他者の影響を受けない意思決定と,看護の知識と技術を磨きその能力を活用することの2種類であると報告している(Pursio et al., 2021).また菊池・原田(1997)は看護の専門職としての自律性とは,患者の状態を認知して,看護の方法を判断して実践する一連のプロセスであると述べている.内視鏡技師看護師が専門職として自律性を高めていくことは実践能力の向上に繋がり,患者の苦痛軽減に寄与する一助となると推測される.また,そのことが仕事へのやりがいに繋がり,仕事への活力,すなわちWEを高めると考えた.しかし,内視鏡看護師のWEと自律性の関連を調査した研究はこれまでに報告されていない.そこで本研究では,消化器内視鏡技師資格をもつ看護師に焦点を当て,WEと自律性との関連について明らかにすることを目的とした.
本研究では,日本消化器内視鏡学会で内視鏡技師の認定を受けた看護師を内視鏡技師看護師と定義した.また,内視鏡室で働く看護師を内視鏡看護師と示した.内視鏡技師の認定条件は,看護師,准看護師,臨床検査技師,臨床工学技士,診療放射線技師,衛生検査技師,薬剤師のいずれかの医療関連者法定免許を有していること,日本消化器内視鏡学会専門医が従事する内視鏡室で2年以上の実務経験を有していること,消化器内視鏡機器の取り扱い講習会を受講していること,学会指定の講座・実習を受けていること,学会研究会のへの一定数の参加などの条件が満たされた場合に受験資格が与えられる.なお,内視鏡技師会では,内視鏡技師と認定されたものを管理する.また,資格更新は5年毎で内視鏡技師学会または内視鏡技師研究会および内視鏡機器取扱い講習会に参加し,規定のポイントを取得することが条件である(日本消化器内視鏡学会,2021).
2) ワーク・エンゲイジメントSchaufeli et al.(2002)の定義を参考に「仕事に向けられたポジティブで充実した心理状態であり,活力,熱意,没頭によって特徴づけられ,一時的な状態ではなく,永続的かつ全般的な感情と認知状態」と定義した.
3) 自律性自律性は,菊池・原田(1997)の定義を参考に「内視鏡看護における専門的な知識・技術をもち,自主的・主体的に取り組み,患者の状況を認知し,看護実践を行う上で自らが患者の状況を判断し,得た知識・技術を患者ケアの中で活用すること」と定義した.
2. 研究対象者日本消化器内視鏡学会で2019年度までに消化器内視鏡技師資格を認定された看護師1,000人を無作為に抽出した.なお個人情報保護の観点から日本消化器内視鏡技師会に登録している住所が自宅の者を除外した.
3. 調査方法と期間本研究のデザインは,オンライン調査を用いた横断研究である.研究参加者に対しQRコード付きの研究協力依頼書を郵送し,アンケートに回答いただいた.調査期間は2021年8月1日から8月31日までの1カ月間とした.
4. 調査内容 1) 個人属性個人属性は,性別,年齢,看護師経験年数,職位(スタッフ/管理職),勤務施設(クリニック・検診センター/病院),内視鏡勤務日数の有無とした.
2) 仕事の資源,内視鏡看護特性仕事の資源は,職場のサポートの充実度(充実している/充実していない),家族のサポートの程度の充実度(充実している/充実していない・独居)とした.内視鏡看護特性は,内視鏡検査介助への自信0~100%の11段階,内視鏡室勤務継続意思の有無,内視鏡室での患者との充分な関わりの有無で調査した.
3) WEWEの測定には,日本語版ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度短縮版を用いた.この尺度は,「活力」,「熱意」,「没頭」の3つの下位尺度からなるが,下位尺度の内部相関が高く,島津らは9項目の合計得点を用いることを推奨している(Shimazu et al., 2008).選択肢は「0=全くない」から「6=いつまでも感じる」までの7件法である.総合得点が高いほど,WEが高いことを示している.本研究では,先行研究(Imamura et al., 2017;川内ら,2021)を参考にWEを中央値で2群に分け「低群」「高群」に分類した.3つの下位尺度のα信頼係数は0.86~0.89であった.
4) 自律性自律性の測定には,菊池・原田(1997)が開発した「看護の専門職的自律性測定尺度」47項目を用いた.この尺度は,看護活動において発揮されるもので認知,判断,実践の3領域から構成される.下位尺度は,患者の正確な状況を認知する「認知能力」14項目,具体的な手がかりをもとに適切な看護を判断する「具体的判断能力」7項目,看護のモデルや仮設にもとづいて判断する「抽象的判断能力」7項目,他者に頼らず自主的に判断することを意味する「自立的判断能力」5項目,的確な看護実践を導くための具体的な行動を示す「実践能力」14項目で構成されている.選択肢は「1=全くそう思わない」から「5=かなりそう思う」までの5件法による評定尺度である.得点の範囲は47~235点であり,点数が高いほど自律性が高いとされている.5つの下位尺度のα信頼係数は0.93~0.79であった.
5. 分析方法WEと個人属性と仕事の資源,仕事の要求度,内視鏡看護特性の変数との関連を評価するために,2群間の比較にはカイ二乗検定,連続変数の比較にはMann-WhitneyのU検定を用いた.内視鏡検査介助への自信は予備調査を行った結果及び,臨床経験から80%以上の自信があれば様々な検査へ対応できるという判断からカットオフ値を80%,また自律性は先行研究(森山ら,2019)を参考に中央値で低群・高群に分けた.WEと自律性との関連を明らかにするために,WEを従属変数とし多変量ロジスティック回帰分析を行った.独立変数は,先行研究からWEと自律性との間に交絡すると考えられた看護師経験年数(佐藤・三木,2014),職位(井奈波・ミルボド,2019;中村・吉岡,2016),上司の支援(佐藤・三木,2014),職務継続意思(林谷・升田,2020),また著者の臨床経験から内視鏡検査介助への自信,患者との関わりとした.交絡する可能性のある因子が多く,それぞれの影響を省くために変数を徐々に増やして3つのモデルで関連を分析した.モデル1は,「自律性」に加え個人属性(看護師経験年数,職位)とした.モデル2は,モデル1に仕事の資源(職場のサポート,家族のサポート)の変数を投入した.モデル3は,モデル2に内視鏡看護特性(内視鏡室での患者との充分な関わり,内視鏡室勤務継続意思,内視鏡検査介助への自信)に加えたものを投入した.最後にどのような組み合わせがWEを高めるか明らかにするために二元配置分散分析で交互作用を確認した.統計ソフトは,STATA version 16(Stata Corp. Texas)を用いた.検定の統計学的有意水準は5%未満とした.
6. 倫理的配慮研究対象者には研究の主旨,匿名性が完全に確保されること,参加は自由意思であること,統計処理に際しての個人情報保護について文章にて説明した.アンケートにすべて回答され登録された時点で,研究についての説明を理解し,趣旨に納得し研究への参加に同意したものとすることとした.本研究は,日本消化器内視鏡技師会の稟議審査を受け,愛知医科大学看護学部倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:255).
消化器内視鏡技師資格をもつ看護師337人から回答が得られた(回収率33.7%).有効回答率は100%であった.対象者のWE得点を中央値で31点未満を低群,31点以上を高群とした.WEと個人属性との関連を表1に示す.対象者の平均年齢は48.7(標準偏差(SD):6.6)歳であった.対象者のうち176人(52.2%)がWE低群であり,161人(47.8%)が高群であった.管理職の高群は71人(44.1%),低群は47人(26.7%)であり高群の占める割合が多かった(p = .001).患者との関わりが充分であると回答した者の高群は64人(48.9%),低群は77人(59.2%)であった(p = .093).高群の内視鏡室勤務を継続したいと回答した者は125人(95.4%),低群は111人(85.4%)であった(p = .006).内視鏡検査介助への自信が80%以上あった者の高群の割合が統計学的有意に高かった(高群vs.低群=57.1% vs. 39.8%,p = .033).
項目 | カテゴリ | 低群(31点未満) n = 176 |
高群(31点以上) n = 161 |
合計 | p値 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
n | % | n | % | ||||
性別 | 男性 | 7 | 4.0 | 6 | 3.7 | 13 | |
女性 | 169 | 96.0 | 155 | 96.3 | 324 | .014 | |
年齢 | 平均(SD) | 48.4(6.8) | 48.9(6.4) | 48.7(6.6) | .714 | ||
看護師経験年数 | 平均(SD) | 25.3(7.0) | 25.9(6.7) | 25.6(6.9) | .476 | ||
職位 | スタッフ | 129 | 73.3 | 90 | 55.9 | 219 | |
管理職 | 47 | 26.7 | 71 | 44.1 | 118 | .001 | |
勤務施設 | 病院 | 157 | 89.2 | 131 | 81.4 | 288 | |
クリニック・検診センター | 19 | 10.8 | 30 | 18.6 | 49 | .041 | |
内視鏡勤務日数 | 勤務なし | 46 | 26.1 | 30 | 18.6 | 76 | |
勤務あり | 130 | 73.9 | 131 | 81.4 | 261 | .010 | |
内視鏡介助への自信 | 80%未満 | 106 | 60.2 | 69 | 42.9 | 175 | |
80%以上 | 70 | 39.8 | 92 | 57.1 | 162 | .033 | |
内視鏡勤務日数ありの者のみ(n = 261) | n = 130 | n = 131 | |||||
職場のサポート | 充実していない | 71 | 54.6 | 61 | 46.6 | 132 | |
充実している | 59 | 45.4 | 70 | 53.4 | 129 | .193 | |
家族のサポート | 充実していない・独居 | 32 | 24.6 | 30 | 22.9 | 62 | |
充実している | 98 | 75.4 | 101 | 77.1 | 199 | .745 | |
患者と充分に関わることができるかどうか | 思わない | 53 | 40.8 | 67 | 51.1 | 141 | |
思う | 77 | 59.2 | 64 | 48.9 | 120 | .093 | |
内視鏡室勤務継続意思 | 継続したくない | 19 | 14.6 | 6 | 4.6 | 25 | |
継続したい | 111 | 85.4 | 125 | 95.4 | 236 | .006 |
2群間の比較にはχ2検定,連続変数との検定にはMann-WhitneyのU検定
看護師経験年数が25年未満の者は自律性得点が平均175.1(SD: 19.3)点であったのに対し,25年以上の者は平均179.8(SD: 21.4)点と高かった(p = .020).内視鏡室で患者との充分な関わりがあると回答した者は,ないと回答した者に比べて自律性得点が高かった(平均180.9(SD: 21.0)vs.平均173.6(SD: 20.8),p = .003).内視鏡検査介助への自信が80%以上であった者の自律性は182.9(SD: 19.5)点であり,自信の高い者は,自信が低い者より自律性得点が統計学的有意に高かった(p < .001).スタッフの自律性は平均175.7(SD: 21.4)点,管理職は平均181.5(SD: 18.5)点(p = .007),職場のサポートがあると回答した者の自律性は平均179.2(SD: 21.1)点,ないと回答した者は平均174.8(SD: 21.1)点であった(p = .047).
項目 | カテゴリ | 自律性総合得点 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
n | % | 平均 | SD | p値 | ||
性別 | 男性 | 13 | 3.9 | 176.8 | 23.3 | |
女性 | 324 | 96.1 | 177.8 | 20.6 | .434 | |
年齢 | 50歳未満 | 186 | 55.2 | 177.3 | 20.1 | |
50歳以上 | 151 | 44.8 | 178.3 | 21.2 | .331 | |
看護師経験年数 | 25年未満 | 149 | 44.2 | 175.1 | 19.3 | |
25年以上 | 188 | 55.8 | 179.8 | 21.4 | .020 | |
職位 | スタッフ | 219 | 65.0 | 175.7 | 21.4 | |
管理職 | 118 | 35.0 | 181.5 | 18.5 | .007 | |
勤務施設 | 病院 | 288 | 85.5 | 178.1 | 20.3 | |
クリニック・検診センター | 49 | 14.5 | 175.5 | 22.0 | .413 | |
内視鏡勤務日数 | 勤務なし | 76 | 22.6 | 175.2 | 16.9 | |
勤務あり | 261 | 77.4 | 177.0 | 21.2 | .899 | |
職場のサポート | 充実していない | 132 | 50.6 | 174.8 | 21.1 | |
充実している | 129 | 49.4 | 179.2 | 21.1 | .047 | |
家族のサポート | 充実していない・独居 | 62 | 23.8 | 177.1 | 18.9 | |
充実している | 199 | 76.2 | 176.9 | 21.9 | .523 | |
患者との充分な関わり | 思わない | 141 | 54.0 | 173.6 | 20.8 | |
思う | 120 | 46.0 | 180.9 | 21.0 | .003 | |
内視鏡室勤務継続意思 | 継続したくない | 25 | 9.6 | 179.2 | 25.7 | |
継続したい | 236 | 90.4 | 176.7 | 20.7 | .713 | |
内視鏡検査介助への自信 | 80%未満 | 175 | 51.9 | 173.0 | 20.5 | |
80%以上 | 162 | 48.1 | 182.9 | 19.5 | <.001 |
t検定
WEを従属変数とした単変量ロジスティック回帰分析では自律性のオッズ比(OR)は1.04(95%信頼区間(CI):1.02~1.05)であった.管理職はスタッフより,2.17倍WE高群である割合が高かった(95%CI: 1.37~3.42).また内視鏡検査介助への自信80%以上の者は80%未満の者に比べてWEが高く,そのオッズ比は2.01(95%CI: 1.31~3.12)であった.
単回帰 | モデル1 | モデル2 | モデル3 | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
OR | p値 | [95%CI] | OR | p値 | [95%CI] | OR | p値 | [95%CI] | OR | p値 | [95%CI] | ||
自律性総合得点 | 1.04 | <.001 | [1.02~1.05] | 1.03 | <.001 | [1.02~1.05] | 1.04 | <.001 | [1.02~1.05] | 1.04 | <.001 | [1.02~1.05] | |
看護師経験年数 | 25年未満 | ref | ref | ref | ref | ||||||||
25年以上 | 1.17 | .485 | [.76~1.79] | .89 | .651 | [.56~1.44] | .99 | .973 | [.58~1.69] | 1.18 | .553 | [.68~2.07] | |
職位 | スタッフ | ref | ref | ref | ref | ||||||||
管理職 | 2.17 | <.001 | [1.37~3.42] | 1.31 | <.001 | [1.20~3.19] | 1.86 | <.001 | [1.04~3.32] | 1.48 | .044 | [1.01~3.34] | |
職場のサポート | 充実していない | ref | ref | ref | |||||||||
充実している | 1.38 | .194 | [.85~2.25] | 1.15 | .595 | [.67~1.98] | .96 | .892 | [.54~1.69] | ||||
家族のサポート | 充実していない・独居 | ref | ref | ref | |||||||||
充実している | 1.09 | .745 | [.62~1.94] | .97 | .931 | [.51~1.82] | .96 | .903 | [.50~1.84] | ||||
患者と充分に関わることができるかどうか | 思わない | ref | ref | ||||||||||
思う | 1.52 | .093 | [.93~2.48] | 1.18 | .557 | [.67~2.06] | |||||||
内視鏡室勤務継続意思 | 継続したくない | ref | ref | ||||||||||
継続したい | 3.56 | .009 | [1.38~9.25] | 4.53 | .008 | [1.48~13.9] | |||||||
内視鏡検査介助の自信 | 80%未満 | ref | ref | ||||||||||
80%以上 | 2.01 | .002 | [1.31~3.12] | 1.53 | .143 | [.86~2.71] |
モデル1(自律性,看護師経験年数,職位)
モデル2(自律性,看護師経験年数,職位,職場のサポート,家族のサポート)
モデル3(自律性,看護師経験年数,職位,職場のサポート,家族のサポート,患者と充分に関わることができるかどうか,内視鏡室勤務継続意思,内視鏡検査介助の自信)
多変量調整ロジスティック回帰分析において,投入モデル1の自律性のオッズ比は1.03(95%CI: 1.02~1.05),モデル2は1.04(95%CI: 1.02~1.05),モデル3は1.04(95%CI: 1.02~1.05)であった.すべてのモデルで統計学的有意に自律性はWEの高さに関連していた.モデル3においては,内視鏡室勤務を継続したい人はそうでない人に比べてWEが高く,そのオッズ比は4.53(95%CI: 1.48~13.9)であった.
4. WEが高まる組み合わせWEを高める要因を明らかにするために,二元配置分散分析を行った(表4).「自律性」と「患者との充分な関わり」はWEの高さとの間に交互作用がみられた(F,(1, 257) = 6.30, p = .013).自律性の高さがWEに及ぼす影響は患者との充分な関わりの有無によって異なることが明らかとなった.
群(自律性2群) | 自律性180点未満群 | 自律性180点以上群 | 二元配置分散分析 | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
主効果 | 交互作用 | ||||||||||
項目 | 平均値 | SD | 平均値 | SD | 群間(自律性) | 項目 | 群間×項目 | ||||
F値 | P値 | F値 | P値 | F値 | P値 | ||||||
職位 | スタッフ | 27.2 | 8.6 | 32.7 | 11.0 | 28.71 | <.001 | 4.34 | .038 | .05 | .826 |
管理職 | 29.3 | 8.0 | 35.3 | 10.6 | |||||||
職場のサポート | 充実していない | 27.2 | 8.9 | 32.6 | 10.3 | 39.00 | <.001 | 12.92 | <.001 | 2.64 | .106 |
充実している | 29.5 | 8.0 | 38.5 | 9.6 | |||||||
家庭のサポート | 充実していない | 27.3 | 7.6 | 33.2 | 9.9 | 25.13 | <.001 | 2.75 | .098 | .51 | .477 |
充実している | 28.6 | 8.6 | 36.4 | 10.4 | |||||||
患者との充分な関わり | 思わない | 28.5 | 8.6 | 32.6 | 10.0 | 36.41 | <.001 | 4.66 | .032 | 6.30 | .013 |
思う | 28.1 | 8.3 | 38.0 | 10.1 | |||||||
内視鏡室勤務継続意思 | 継続したくない | 27.5 | 3.0 | 28.6 | 13.7 | 5.39 | <.021 | 5.05 | .026 | 3.24 | .073 |
継続したい | 28.4 | 8.8 | 36.5 | 9.6 | |||||||
自信 | 80%未満 | 26.1 | 7.9 | 33.6 | 11.1 | 28.88 | <.001 | 5.45 | .020 | 2.46 | .118 |
80%以上 | 30.3 | 8.6 | 34.4 | 10.8 |
二元配置分散分析
単純主効果の検定を実施した結果,自律性が180点未満の場合は患者との充分な関わりがある者とない者でWE得点に差はなかった(F,(1, 257) = .07, p = .796).一方で,自律性得点が180点以上で患者との充分な関わりがあるという条件下において,WEは統計学的有意に高まることが明らかとなった(F,(1, 257) = 10.14, p < .01)(図1).
WEに対する自律性と患者との関わりの有無による交互作用効果
本研究では,消化器内視鏡技師資格をもつ看護師を対象にWEと自律性との関連を分析した.その結果,WEと自律性は様々な変数を調整してもなお,強い関連がみられた(調整オッズ比:1.03~1.04).また,WEが高まる組み合わせは,自律性が高いことに加え患者と充分な関わりをもつことであった.
1. 消化器内視鏡技師資格をもつ看護師のWEの特徴本研究における内視鏡技師看護師のWE得点は,平均30.1(SD: 10.1)点であった.看護職を対象とした同尺度を用いた先行研究では,救命救急センター看護師は平均24.4(SD: 8.8)点(林谷・升田,2020),大学病院に勤務する看護師は平均23.3(SD: 8.8)点,助産師は平均27.5(SD: 9.8)点(中村・吉岡,2016)と報告されており,先行研究と比較すると本研究対象者のWEは高い傾向が示された.中村・吉岡(2016)は,看護師と助産師のWE得点を比較し,助産師のWE得点が高いことを示した.その違いについて中村・吉岡(2016)は,助産師が助産師外来や院内助産で専門的知識や技術を活用できていることがWEの高さに関連したと述べている.高橋ら(2012)は,看護師を対象とした調査で,資格取得の意向を持つものは学習意欲が高く,内発的動機が高いことを明らかにした.内発的動機は,WEを高める要因の一つとされている(Schaufeli & Dijkstra, 2010/2012).内視鏡技師資格を取得するためには,2年間の内視鏡実務経験が必須であり,本研究対象者は資格取得への学習意欲が高く,内発的動機が高い集団であったと推測される.このような背景から本研究対象者のWEは高い結果であったと考えられた.
2. 消化器内視鏡技師資格をもつ看護師の自律性の特徴本研究における内視鏡技師看護師の自律性総合得点の平均値は177.8(SD: 20.6)点であった.上田ら(2017)の日本糖尿病療養指導資格を有し,専門外来を担当している看護師の自律性は平均178.6(SD: 19.7)点であり,本研究対象者の自律性得点に近い結果であった.この結果について上田ら(2017)は,資格をもち専門外来を担当している看護師は,より専門的な療養指導のための場所や時間,実践能力の高まりを自覚することが影響したと考察した.本研究対象者の自律性も同様に,資格取得が自律性得点に影響を与えた可能性が考えられた.また,資格取得以外の自律性を高める要因について菊池・原田(1997)は,10年以上の看護師経験年数が自律性に強く影響したと報告した.本研究対象者は平均年齢が48.7(SD: 6.6)歳と高く,看護師経験年数も平均25年と長かった.菊池・原田(1997)の結果も踏まえると本研究対象者の自律性が高い結果は,経験年数,資格取得により専門性が十分に発揮されたことが関連したと推測された.
3. 内視鏡技師看護師のWEと自律性との関連本研究では,個人属性,仕事の資源,内視鏡看護特性の変数を調整してもなお,WEと自律性は強く関連することが明らかになった.菊池(2014)は,専門看護師(以下CNS)を対象とし自律性に影響を及ぼす要因について分析した.その結果,CNSの自律性形成には,仕事や課題を成し遂げることができると感じ,専門性の向上に意欲的に取り組む姿勢をもつことが重要であると言及した.
渡邉ら(2020)は,クリティカル領域における看護師を対象にアンケート調査を行い,自律性が高い者のWEが高いことを報告した.その結果から自律性が高まるような職場コミュニティ感覚が向上する環境を作ることで,仕事への持続的なエネルギーが注がれWEを向上させたと推察している.また,林谷・升田(2020)は,WEに自律性が関連していたことについて,看護師が看護上の判断や実践から職業的な価値を高めて看護の専門性を発揮していくことは,自らの責任である自律につながりWEに影響したと考察している.内視鏡室で勤務する看護師は看護業務の中の診療の補助業務が主となる.医師の指示に基づく医療行為が多い中でも,自ら検査及び患者の状況を把握し検査介助を行うという自律性が高い者は,仕事のやりがいであるWEを高めることに繋がったと考えられる.加えてWEは職務継続意思・職位と関連していた.中村・吉岡(2016)は,本研究と同様に職務継続意思がWEを高める要因として報告した.仕事を継続したい者は,現在の職場においてやりがいを感じていると推察されるためWEに関連していたと考えられる.小畑・森下(2014)は,役職に就くことにより,処遇面だけでなく意思決定の範囲などの仕事の裁量度が高いことで心理的ストレスの軽減に繋がりWEが高くなると報告している.本研究でも管理職のWEが高かったことは,管理職として仕事の采配を行えることや,決定権があることが関連したと推察される.
4. WEが高まる組み合わせ本研究では,自律性が高く,患者との関わりが充分である場合にWEが高まった.内視鏡室での患者との関わりについて新居ら(2006)は,病棟は日勤から夜勤へと看護が継続され連続的であるのに対して,内視鏡室では非連続的に近いと述べている.内視鏡室での短時間の関わりの中でも,患者の不安,苦痛を軽減し深く関わることが内視鏡技師看護師には求められる.船越・河野(2006)は,急性期病院に勤務する看護師の働きがいは,治療によって患者の病状が良くなり,患者と良いコミュニケーションがとれ,患者・家族から笑顔や感謝の言葉を得るという業務上の経験を通して実感することであると述べている.このように患者とコミュニケーションがとれ,自律的に関わることの体験が内視鏡技師看護師にとってもやりがいに繋がったと考えられた.また加悦・井上(2007)は,内視鏡検査中に話しかけながらタッチすることで患者の苦痛軽減に繋がると報告している.先行研究では,一般成人の約70%が今後の内視鏡に期待することとして検査時の負担の軽減を挙げている([OLYMPUS, 2021]胃・大腸がん検診と内視鏡検査に関する意識調査2021).このように患者は苦痛の軽減を望んでおり,内視鏡検査中は看護師が患者の看護に専念できることが重要と考えられる.そのためには,施設毎に実施されている内視鏡教育に患者の苦痛軽減に繋がる看護について組み込むこと,学会や研究会を通して患者との関わりがWEを高める要因になりえることを周知していくことが重要だと考えられる.
本研究の回収率は33.7%と低く,サンプリングに偏りがある可能性がある.研究に協力した者は,仕事に対して前向きであることや専門的意識が高いことが予測され,WE及び自律性が高い集団であった可能性がある.本研究における職場のサポート,患者との関わりについての質問項目は,対象者の主観で回答したものである.それにより,実際の職場におけるサポート状況や患者との関わり状況等の現状と差が生じている可能性がある.しかし,本研究で明らかとなったWE及び自律性を高める要因は,今後の内視鏡技師看護師の仕事へのやりがいを高めるための資料として意義があるものと考えられる.
本研究では,消化器内視鏡技師資格をもつ看護師に対し,WEと自律性の関連について検討した結果,以下の知見が得られた.
1.本研究対象者のWE及び自律性は一般の看護師と比べ高い結果であった.WEと関連があった要因は,職位,内視鏡検査介助への自信であった.一方で,自律性と関連があった要因は,看護師の経験年数,職位,職場のサポート,内視鏡検査介助への自信であった.
2.ロジスティック回帰分析により,様々な変数を調整してもなお,WEと自律性には強い関連性がみられた.WEが高まる組み合わせは,自律性が高く患者との関わりが充分であることであった.
これらより,消化器内視鏡技師資格をもつ看護師のWEを高めるためには,患者の状況を判断し,得た知識・技術を患者ケアの中で活用すること,患者と充分な関わりが保てることが重要であると考えられる.
付記:本研究は,愛知医科大学大学院看護学研究科に提出した修士論文に加筆・修正を加えたものである.
謝辞:本研究にご協力頂きました看護師の皆様に深く感謝申し上げます.本研究に多大なご指導とご助言を下さいました諸先生方に心から感謝申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:SNは研究の着想,デザイン,統計解析の実施および原稿作成までの全体を実施した.CTは研究デザイン,分析,解釈への示唆および研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.