Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Current Status of Discharge Support Provided by Nurses in Rehabilitation Wards and Factors Influencing It
Sayaka YamamotoYumiko Momose
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2023 Volume 43 Pages 234-241

Details
Abstract

目的:回復期病棟の看護師による退院支援実施状況およびその影響要因を検討した.

方法:看護師1,937名を対象に質問紙にて退院支援実施状況(8要素36項目)を把握し,経験,研修参加や他部門連携状況,退院支援の重要性の認識の項目をマルチレベル分析により検討した.

結果:回収数は920部,有効回答903であった.対象者の看護師経験平均年数は15.7年,実施状況は「院内多職種での共通認識の形成」で最も得点が高かった.実施状況の影響要因は,回復期病棟経験年数(非標準化偏回帰係数:B = .693,p < .001),重要性の認識得点(B = .397, p < .001),他部門との連携合計数(B = 1.186, p = .000),脳血管疾患病棟経験年数(B = .244, p = .022)であった.

結論:退院支援では院内多職種連携活動の実施頻度が高かった.実施状況には重要性の認識,回復期や脳血管疾患病棟経験および多職種連携との影響が推察された.

Translated Abstract

Objectives: In this study, we investigated the current state of discharge support provided by nurses in a rehabilitation wards and the factors affecting it.

Methods: A questionnaire survey was administered to 1,937 nurses working at rehabilitation wards. The participants were questioned about their prior nursing experience, participation in training, and cooperation with other departments. Additionally, nurses were questioned on the current state of discharge support (8 elements, 36 items). Data were analyzed using stepwise multiple regression.

Results: In total, 920 nurses were responded, of which 903 were analyzed. The mean length of nursing experience of the participants was 15.7 years. The best current state of discharge support was “cooperating with in-hospital staff (such as social workers or physical therapists).” Factors that significantly influenced discharge support included years of experience in rehabilitation wards (B = .693, p < .001), perceived importance (B = .397, p < .001), cooperation with other departments (B = 1.186, p = .000), and years of experience in cerebrovascular disease wards (B = .244, p = .022).

Conclusion: In conclusion, nurses cooperate with various professional staff to provide discharge assistance. It was hypothesized that the provision of discharge support by nurses was affected by their awareness of its importance, experience in convalescent and cerebrovascular disease wards, and cooperation with various staff.

Ⅰ. 緒言

2025年に向けた地域医療構想による病床の機能分化・連携の推進により,回復期リハビリテーション病棟(以下,回復期病棟)の役割が重視されている.回復期病棟の患者は脳血管疾患や骨折などの治療を受けた重度の障害をもつ患者であり(回復期リハビリテーション病棟協会,2017),急性期病院から直接自宅に退院できない退院困難な要因をもつ高齢者が多い.回復期病棟では,看護師が重度の障害をもつ患者・家族に対して限られた入院期間に適切な治療・ケアを提供するだけでなく,QOLを考慮した療養生活の再構築を目指す退院支援の重要性が増している.回復期病棟の退院支援では,入院患者の特徴より,ADL向上を目指した継続的な機能訓練,障害受容(梶谷,1997岡本・塩川,2007椎名・平川,2015)が必要不可欠であることが示されているものの,先行研究では退院支援の一部分に特化したもの,実践報告に留まっており,回復期の特徴をふまえた退院支援の認識や退院支援を包括的に捉えた実態調査は見当たらない.退院支援における課題を明確にしていくためには,回復期病棟の特徴をふまえた重要性の認識や実施状況を把握していくことが喫緊の課題である.

また,一般病棟の退院支援では,退院支援実施には年齢,看護師の経験や意識(藤原ら,2013加藤ら,2012三上・日下,2008),訪問看護経験,勉強会参加,連携部門数(角ら,2018当目ら,1999山本・百瀬,2018)との関連が示されている.しかし,回復期病棟の退院支援に関する先行研究では十分に検討されているとは言い難いため,退院支援実践の促進に影響を及ぼす要因を明らかにしていくことが退院支援の質の向上には欠かせないと考える.

そこで,本研究では回復期病棟の看護師による退院支援の現状を把握し,退院支援実施に影響を及ぼす要因を明らかにすることを目的とした.それにより,退院支援を促進する上で必要なケアやケア提供体制を検討する資料になり得ると考える.

Ⅱ. 研究方法

1. 調査対象

回復期リハビリテーション病棟協会HPより,協会に所属する病院568箇所の看護部門責任者に研究協力依頼を行い,100箇所より承諾が得られた(承諾率17.6%).承諾が得られた病院の回復期病棟で勤務する看護師1,937名を対象者とした.

2. データ収集方法と調査内容

調査方法は,無記名自記式質問紙法とし,回収は直接郵送とした.データ収集は,2018年4~6月に実施した.

研究デザインは関係探索型調査研究とした.一般病棟における退院支援の先行研究では,退院支援実施との関連要因では年齢,経験年数(看護師,訪問看護),勉強会参加,連携部門数,看護師の意識が関連するとされていたことから,本研究では「経験,研修参加状況,他部門との連携状況,重要性の認識に関する項目がどのように退院支援実施状況に関連するか」を検討することとした.

調査内容は,以下の1)~5)について調査した.

1)属性・経験:性別,年齢,最終学歴,看護師経験年数,所有資格(認定看護師,専門看護師,回復期リハビリテーション看護師),回復期病棟経験年数と職位,脳疾患系病棟経験と年数,訪問看護経験と年数

2)研修参加状況:退院支援に関する院内・院外研修の参加状況

3)他部門との連携状況:他部門との連携合計数/月(退院調整部門,栄養部門,薬剤部門,皮膚・排泄ケアチーム,緩和ケア,精神保健チームおよび外来部門との連携の有無),院内病棟カンファレンス(以下,カンファ)参加回数/月,カンファ状況(参加職種,回数),院外多職種とのカンファ通算回数(退院前カンファ等のこれまでの参加回数)

4)退院支援の重要性の認識:「回復期病棟の看護師における退院支援の質指標(以下,質指標)」(山本・百瀬,2019)8要素36項目を用いて,重要性の認識を「1:全く重要でない」「2:あまり重要でない」「3:まあ重要である」「4:非常に重要である」で回答を依頼した.

5)退院支援実施状況:前述した質指標を用いて,「1:全く実施していない」「2:あまり実施していない」「3:まあ実施している」「4:非常に実施している」で回答を依頼し,実施できない理由を記載できる自由記述欄を設けた.

3. データ分析

対象者の概要は基本統計量を算出した.退院支援の現状把握のために,質指標項目の重要性と実施状況得点は平均値を算出し,重要性と実施状況の差をみるために対応のあるt検定を行った.質指標の実施状況得点が低い項目は自由記述の内容を確認した.

さらに,退院支援の実施状況に影響する要因を検討した.まず所属施設の影響を受けることが考えられる,属性・経験,研修参加状況,他部門との連携状況および重要性の認識に関する変数について,所属施設を因子として一元配置分散分析をおこなったところ,院外研修参加数以外の変数は所属施設によって有意に異なり,集団類似性が示された.したがって対象者各々は独立しているものの,所属施設の影響を大きく受けていることが考えられたため,線形混合効果モデルを用いたマルチレベル分析を行った.統計解析ソフトとしてEZR version 1.61(Kanda, 2013)を使用し,目的変数には退院支援実施状況得点,説明変数は看護師経験年数,回復期病棟経験年数,脳血管疾患病棟経験年数,訪問看護経験年数,他部門との連携合計数,院内研修参加数,院外研修参加数および退院支援の重要性の認識得点とした.この際,傾きによる変量効果は考慮せず,切片のみ変動効果として所属施設を設定した.なお有意水準は5%とした.

4. 倫理的配慮

看護部門責任者に対して文書を用いて,研究目的や方法,倫理的配慮を説明し,調査協力の承諾を文書により得た.看護部門責任者から看護師への質問紙調査票の配布では,調査協力への強制力が働かないように配慮を依頼した.また,匿名堅持や自由意思による回答,データの連結可能匿名化等の倫理的配慮を明示した文書を同封した.研究協力に同意できる場合には同意の有無の項目にチェックを依頼した.本研究は愛知県立大学研究倫理審査委員会(承認番号:30愛県大学情第6-5号)および日本福祉大学倫理審査委員会(承認番号:17-21)の承認を得て行った.

Ⅲ. 結果

1. 対象者の概要(表1

質問紙調査票は看護師1,937名に配布を依頼し,回収数920部となった(回収率47.4%).その内 903部を有効回答とし,分析対象とした.性別は男性71名(7.9%),女性829名(91.8%)となった.年齢は40.0 ± 10.0歳,看護師経験年数15.7 ± 9.9年,回復期病棟経験年数5.2 ± 4.2年であった.退院支援の院内・院外研修の参加経験は平均2.6 ± 5.2回,他部門との連携合計数は平均2.8 ± 1.6であった.その他の対象者の概要と他部門との連携の詳細は表1に示す.

表1  対象者の概要と他部門との連携状況 N = 903
項目 n(%)
看護職としての最終学歴 専門学校 697(84.7)
短期大学 57(6.9)
4年制大学 89(6.1)
大学院 7(1.4)
他(高等学校5年一貫,認定教育) 45(0.5)
無回答 8(0.9)
所有資格(複数回答) 認定看護師 17(1.9)
専門看護師 1(0.1)
回復期リハビリテーション看護師 119(13.2)
他(ケアマネージャー等) 75(8.3)
職位 スタッフナース 654(72.4)
主任レベル(副師長,係長等) 146(16.2)
師長 47(5.2)
10(1.1)
無回答 46(5.1)
脳疾患系病棟経験 365(40.4)
528(58.5)
無回答 10(1.1)
訪問看護の経験 60(6.6)
832(92.1)
無回答 11(1.2)
他部門との連携
退院調整部門 462(51.2)
171(18.9)
無回答 270(29.9)
栄養部門 448(49.6)
184(20.4)
無回答 271(30.0)
薬剤部門 367(40.7)
265(29.3)
無回答 271(30.0)
皮膚・排泄チーム 200(22.1)
432(47.8)
無回答 271(30.0)
緩和ケア 15(1.7)
617(68.3)
無回答 271(30.0)
精神保健チーム 30(3.3)
602(66.7)
無回答 271(30.0)
外来部門 174(19.3)
458(50.7)
無回答 271(30.0)

院内病棟カンファ回数/月は,平均8.0 ± 9.9回であった.各職種のカンファ参加数/月は,多い順にリハビリ職種6.6 ± 7.6回(n = 708),医療ソーシャルワーカー6.2 ± 7.1回(n = 637),医師5.2 ± 7.0回(n = 643),介護職3.9 ± 6.1回(n = 503),退院調整看護師2.5 ± 5.0回(n = 450),薬剤師1.0 ± 3.4回(n = 421)であった.院外多職種とのカンファ通算回数は4.8 ± 11.0回であった.

2. 退院支援の重要性・実施状況の現状(表2

質指標の各項目平均の範囲は,重要性の認識で3.48 ± 0.60(表2,F-4)~3.82 ± 0.39(表2,A-3),実施状況では2.60 ± 0.89(表2,H-4)~3.36 ± 0.68(表2,B-2)となった.要素別の結果では,実施状況得点が高い要素は【G.退院後に向けた院内チームでの共通認識の形成】平均3.25 ± 0.63であった.全体平均より低い要素では,【F.生活の楽しみ・役割の継続・開発への支援】平均2.72 ± 0.65となり,実施できない理由としては「余裕がない」「身体機能管理が主になっている」との回答があった.次に【H.患者・家族と共にすすめる院外職種との合意形成と社会資源の活用】平均2.73 ± 0.75の実施できない理由としては「医療ソーシャルワーカー任せ」「知識がない」「意識をしていなかった」,【E.退院後の生活を見据えた活動の促進】平均2.87 ± 0.67では「リハビリ職任せ」,【D.疾病のリスク管理・ケア獲得と定着への支援】平均2.91 ± 0.60では,「家族へのアプローチの難しさ」があげられた.また,重要性および実施状況の比較では,8つのすべての要素で実施状況が有意に低値を示した(p < .001).

表2  回復期病棟の看護師における退院支援に関する質指標項目(36項目)
No. 項目 重要性
MeanSD
実施状況
MeanSD
A.障害受容の段階に応じた精神的支援:4項目 3.77(0.37) 2.93(0.49)
t = 45.70, p < .001】
1.患者・家族が疾病・障害の現状に関する心情・揺らぎを表出できるようにかかわる 3.74(0.46) 2.88(0.54)
2.患者・家族が現状認識できるように病状や心身の状態に関する情報を提供する 3.76(0.45) 2.95(0.59)
3.患者・家族が身体機能の変化をふまえた退院後の生活をイメージできるようにかかわる 3.83(0.39) 3.00(0.65)
4.患者・家族が退院に向けて自ら意欲的に取り組む力を引き出せるようにかかわる 3.74(0.47) 2.86(0.65)
B.意思尊重を基盤とした家族間調整:5項目 3.75(0.38) 3.06(0.56)
t = 35.35, p < .001】
1.患者・家族のそれぞれの立場から退院後の生活に関する事情や意向が表出できているか確認する 3.73(0.48) 2.94(0.63)
2.患者・家族の力関係やキーパーソンを確認する 3.80(0.43) 3.36(0.68)
3.患者・家族間の退院後の療養先や生活における方向性の相違を確認する 3.81(0.43) 3.18(0.72)
4.患者・家族間で良好な関係を維持するための役割分担や協力体制がつくれているか確認する 3.69(0.50) 2.90(0.72)
5.患者・家族間の意向をすり合わせ最善の選択ができるようにかかわる 3.73(0.48) 2.94(0.71)
C.患者・家族の望む生活に向けたケア計画の立案:7項目 3.71(0.39) 3.01(0.53)
t = 37.49, p < .001】
1.患者の日々変化する心身機能をアセスメントする 3.71(0.48) 3.07(0.60)
2.患者の今後の心身機能の回復の見込みをアセスメントする 3.67(0.50) 2.96(0.64)
3.患者の障害に応じて退院後の生活課題に対処できる患者・家族の力量をアセスメントする 3.72(0.47) 2.97(0.68)
4.患者・家族の疾病・障害の回復への期待・希望と現状との差を確認する 3.69(0.50) 2.94(0.68)
5.患者・家族の退院後に継続する看護上の課題と望む生活をふまえた目標を明確にする 3.71(0.48) 3.00(0.68)
6.患者・家族の退院後の環境(住まい,介護状況,活用できる制度)に合わせて継続可能な医療処置・ケア方法を検討する 3.76(0.46) 3.10(0.70)
7.患者・家族にとって身体・精神的に負担の少ない安全な医療処置・ケア方法を検討する 3.74(0.47) 3.05(0.70)
D.疾病のリスク管理・ケア獲得と定着への支援:4項目 3.68(0.44) 2.91(0.60)
t = 35.74, p < .001】
1.患者・家族に退院後に起こり得る異常の早期発見方法と応急対応に関する情報を提供する 3.69(0.49) 2.83(0.71)
2.患者・家族が再発・合併症・事故予防に向けた生活スタイルや生活環境の見直しができるようにかかわる 3.67(0.52) 2.86(0.70)
3.患者が再発・合併症・事故予防のための行動をとれるように心身機能の回復状況に応じてかかわる 3.64(0.53) 2.87(0.68)
4.患者・家族が退院後に行う必要のある医療処置・ケアを入院中から実施できるようにかかわる 3.74(0.46) 3.08(0.73)
E.退院後の生活を見据えた活動の促進:4項目 3.62(0.47) 2.87(0.67)
t = 32.68, p < .001】
1.患者・家族が退院後に生活する自宅・施設の構造を確認する 3.70(0.51) 3.01(0.81)
2.患者・家族が退院後に生活する自宅の周辺環境を確認する 3.54(0.60) 2.67(0.89)
3.患者・家族の生活や心身機能に応じたリハビリ継続方法を確認する 3.55(0.59) 2.82(0.81)
4.患者・家族の心身機能と退院後の環境に合わせて入院中からもてる力が発揮できるようにかかわる 3.67(0.51) 2.98(0.70)
F.生活の楽しみ・役割の継続・開発への支援:5項目 3.52(0.53) 2.72(0.65)
t = 36.13, p < .001】
1.患者・家族の生活の楽しみ(他者との交流,趣味,日課,職業)や役割を確認する 3.54(0.57) 2.83(0.71)
2.患者・家族の退院後の社会活動や役割遂行に関する意向や希望を確認する 3.59(0.55) 2.86(0.74)
3.患者の心身機能の回復状況に応じて生活の楽しみや役割を入院中から行えるようにかかわる 3.51(0.59) 2.67(0.75)
4.患者・家族の退院後の生活の楽しみや役割を拡大していける機会や可能性を確認する 3.48(0.60) 2.64(0.73)
5.患者・家族が退院後に生活の楽しみや役割を行えるようにかかわる 3.49(0.60) 2.62(0.74)
G.退院に向けた院内多職種での共通認識の形成:3項目 3.81(0.39) 3.25(0.63)
t = 26.58, p < .001】
1.患者の疾病・障害に応じた退院目途・目標について院内多職種で情報共有する 3.82(0.42) 3.31(0.65)
2.患者・家族の退院後の生活への意向の変化に合わせて院内多職種で情報共有する 3.82(0.41) 3.28(0.67)
3.患者の疾病・障害に応じて必要な制度・支援の調整時期を院内多職種で情報共有する 3.78(0.44) 3.16(0.73)
H.患者・家族と共にすすめる院外多職種との合意形成と社会資源の活用:4項目 3.63(0.51) 2.73(0.75)
t = 34.97, p < .001】
1.患者・家族の心身機能や回復経過に応じて退院後に必要となる保健医療福祉サービスに関する情報を提供する 3.66(0.55) 2.77(0.87)
2.患者・家族にかかわる院外多職種と退院後に必要な継続支援について合意形成する 3.64(0.54) 2.78(0.81)
3.患者・家族が退院後に必要な医療機器や福祉用具を入院中から利用できるようにかかわる 3.62(0.56) 2.78(0.84)
4.患者・家族に応じた退院後に困った場合の病院や地域の相談窓口を紹介する 3.59(0.62) 2.60(0.89)
全体(36項目) 3.68(0.37) 2.93(0.48)
t = 44.27, p < .001】

対応のあるt検定

3. 退院支援実施状況の影響要因

回復期病棟の看護師が行う退院支援実施状況の促進への示唆を得るために,年齢,看護師経験年数,回復期病棟経験年数,脳血管疾患病棟経験年数,訪問看護経験年数,他部門との連携合計数,院内研修参加数,院外研修参加数および退院支援の重要性の認識得点について,どのように退院支援実施状況と関連しているのかを検討することとした.

まず所属施設の影響を受けることが考えられる変数について,100箇所の所属施設を因子とした一元配置分散分析を行った結果,院外研修参加数以外の変数については,年齢(p < .001),看護師経験年数(p < .001),回復期病棟経験年数(p < .001),脳血管疾患病棟経験年数(p < .001),訪問看護経験年数(p = .001),他部門との連携合計数(p < .001),院内研修参加数(p < .001)および退院支援の重要性の認識得点(p < .001)のすべての項目で有意な差が認められた.院外研修参加数については有意な差は認められず(p = .805),600名の回答者が0回であった.

次に所属施設の影響を考慮し,マルチレベル分析を行った.年齢と看護師経験年数には,強い正の相関が認められたため,看護師経験年数のみを用いた.その結果,回復期病棟経験年数(非標準化偏回帰係数:B = .693,p < .001),重要性の認識得点(B = .397, p < .001),他部門との連携合計数(B = 1.186, p = .000),脳血管疾患病棟経験年数(B = .244, p = .022)との関連が認められた.結果を表3に示す.

表3  退院支援実施状況得点の影響要因:線形混合効果モデルを用いたマルチレベル分析結果
非標準化偏回帰係数 誤差 自由度 t p
切片 46.283 5.940 757.803 7.792 <.001***
看護師経験年数 –0.017 0.065 708.013 –0.269 .788
回復期病棟経験年数 0.693 0.148 726.099 4.668 <.001***
脳血管疾患病棟経験年数 0.244 0.107 763.951 2.288 .022*
訪問看護経験年数 –0.292 0.380 762.964 –0.769 .442
他部門との連携合計数 1.186 0.336 725.939 3.528 .000***
院内研修参加数 0.116 0.146 763.271 0.796 .426
院外研修参加数 0.144 0.202 748.262 0.712 .477
重要性の認識得点 0.397 0.045 763.727 8.909 <.001***

* p < .05,*** p < .001

Ⅳ. 考察

1. 対象者の概要

対象者の看護師経験年数平均は15.7年であった.退院支援の先行研究では,特定機能病院や急性期病院を対象にした研究があるが,看護師経験年数平均はいずれも10年以下であった(坂井ら,2010山岸ら,2015).それに比べ,回復期病棟は看護実践経験を蓄積されてきた方も多かった.しかし,退院支援の院内研修経験がない方が48%,院外では約67%になり,退院支援教育を構築していく必要性が示唆された.また,院内病棟カンファレンスは月8回行われており,多職種でのカンファレンスが行われていた.回復期病棟は多職種連携の場面が多いことが示されており(回復期リハビリテーション病棟協会,2017),本研究でも多くの職種や部門との連携が明らかになった.部門別では退院調整部門,栄養部門,薬剤部門との連携は4割以上が実施しており,連携が定着してきている.皮膚・排泄ケアチーム,外来部門との連携は2割に留まっており,緩和ケア,精神保健チームとはあまり実施されていない現状であった.回復期病棟の患者はニーズが多様化しているため,患者の状況に応じて,今後は多様な他職種との連携が不可欠になってくると考えられる.

2. 退院支援の重要性の認識・実施状況の現状

看護師は,質指標のすべての項目で重要性の認識と実施状況には乖離があり,重要性は認識しているものの,十分には実施できていない現状が明らかとなった.急性期病棟では在院日数短縮化から病態の回復に重きが置かれる中で,回復期病棟は患者の入院期間3ヵ月以上あり,患者・家族のQOLを高めるための生活の再構築の視点が重要となる.【F.生活の楽しみ・役割の継続・開発への支援】は実施状況の低い要素であったが,自分なりの役割が果たせるように支援する必要性が示されており(原田・奥村,2016),看護師も患者の強さを引き出し,生活をより豊かにする支援の浸透が望まれる.また,【H.患者・家族と共にすすめる院外職種との合意形成と社会資源の活用】の実施できない理由では「医療ソーシャルワーカー任せ」,また【E.退院後の生活を見据えた活動の促進】では「リハビリ職任せ」の現状があった.回復期病棟は一般病棟と比べて,様々な職種が関わっている病棟の特徴より,医療職者間の業務相互乗り入れの考えであるスキルミクスが不可欠である.小野(2007)は回復期病棟での多職種連携行動では他職種の専門性と立入可能な範囲を配慮した連携が行われていることも明らかにしており,他職種と共に幅広い健康管理を担える看護師の専門性発揮が求められる.【D.疾病のリスク管理・ケア獲得と定着への支援】は看護師にとって非常に重要な退院支援である(對馬,2016木下ら,2015).脳血管疾患や骨折後の患者は再発・合併症を起こしやすいため,退院後も疾患管理を行っていけるように患者・家族の状態に応じた具体的な指導を行う必要がある.これらの実施状況の低い4つの要素は,回リハ病棟環境や患者・家族の特徴をふまえ,回リハ病棟における退院支援に重要な要素であり,実施強化していくことが望まれる.

3. 退院支援実施状況の影響要因

退院支援実施状況得点に影響を及ぼしていたのは,回復期病棟経験年数,重要性の認識得点,他部門との連携合計数,脳血管疾患病棟経験年数の4項目であることが明らかになった.先行研究では,看護師の意識や経験によって退院支援に差があることが示され(藤原ら,2013),本研究でも先行研究同様に看護師の意識として退院支援の重要性の認識が退院支援実施状況に影響する結果となった.看護師の退院支援の重要性の認識を高めていくことで,退院支援を実施していくことにつながると考えられた.また,一般病棟では看護師の退院支援実施と年齢,経験年数との関連が示されていたが(加藤ら,2012三上・日下,2008),本研究では看護師の年齢や看護師通算経験年数より,回復期病棟経験年数と脳血管疾患病棟経験年数との関連が認められた.回復期病棟の患者は脳血管疾患や骨折などの治療を受けた重度の障害をもつ患者であることから,それらの疾患に関する専門的な経験によって退院支援の実施状況が左右することが推測された.さらに,他部門との連携合計数との連携が影響していた背景には,看護師が患者の健康状態を幅広く支援することが関係していると考えられる.回復期病棟における看護師は,患者に対して疾病の管理や障害受容などの心身機能の維持向上をはじめ,活動や生活の楽しみ・役割への社会的な支援など行っており,他職種の専門性をふまえスキルミクスしていくことで退院支援の実施につながることが示唆された.退院支援におけるチームアプローチの必要性は先行研究でも示されており(三輪,2012山田・廣岡,2009),今後の発展のためにはリハビリ部門や退院調整部門との連携に留まらず,他部門と密に連携できる環境づくりも不可欠であると考える.

以上のことから,退院支援実施状況の促進に向けては,重要性の認識,回復期や脳血管疾患病棟経験および多職種連携との影響が推察された.一方で,本研究の退院支援の影響要因の検討では,一般病棟における退院支援の影響要因に関する先行研究を参考に項目を検討したものの,回復期病棟においては人員配置や環境の違いがあることや退院支援は所属組織の影響を大きく受けるため,一般病棟とは異なる他の要因の影響の可能性や交絡因子の存在が考えられた.

4. 本研究の限界と今後の課題

退院支援の実態把握では,時代と共に看護師の役割や新たな要素が含まれる可能性があることから,継続的な評価が不可欠である.本研究の結果から退院支援の教育ニーズとして,【F.生活の楽しみ・役割の継続・開発への支援】,【H.患者・家族と共にすすめる院外職種との合意形成と社会資源の活用】,【E.退院後の生活を見据えた活動の促進】,【D.疾病のリスク管理・ケア獲得と定着への支援】に関する教育ニーズがあることが推測された.今後,教育体制の整備や具体的な教育支援を行うことが課題である.影響要因の検討では,退院支援実施状況との因果関係や交絡因子の存在を検討することに限界があった.今後,他の要因についても多角的に検証していく必要がある.引き続き看護師による質保証に向けた活動を明らかにし,看護師による重要な退院支援が評価される仕組みを検討していく必要がある.

Ⅴ. 結論

退院支援実施状況得点が高い要素は【G.退院に向けた院内多職種での共通認識の形成】,得点が低い要素は,【F.生活の楽しみ・役割の継続・開発への支援】であった.退院支援実施状況の影響要因は,回復期病棟経験年数,退院支援の重要性の認識,他部門との連携合計数,脳血管疾患病棟経験年数であった.

付記:本論文内容の一部は,23rd East Asian Forum of Nursing Scholars(Thailand, Chiang Mai)において発表した.また,この論文は愛知県立大学大学院看護学研究科博士論文の一部に加筆・修正を加えたものである.

謝辞:本研究の調査にご協力くださいました看護師の皆様に深く感謝申し上げます.また,愛知県立大学大学院在学時には多くの先生方にご指導いただき,愛知県立大学箕浦哲嗣教授には統計分析について助言をいただきました.心より御礼申し上げます.なお,本研究は科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)の助成を受けて実施した(課題番号:16K20842).

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:SYは研究の着想およびデザイン,調査実施と分析,執筆までの研究全体のプロセスを行った.YMは論文執筆への示唆および研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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