Journal of Japan Academy of Nursing Science
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A Qualitative Study of Pediatric Unit Nurses’ Support for Children’s Rights during Medical Examination and Procedures
Eri NagatomoKyoko Murakami
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2023 Volume 43 Pages 242-251

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Abstract

目的:小児病棟看護師が検査・処置時の看護において,子どもの権利擁護のために実践している看護実践プロセスを明らかにする.

方法:小児病棟経験5年目以上の看護師20名に対し,子どもの権利擁護の場面について半構造化面接調査を行い,グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析した.

結果:《子どもが検査・処置に取り組めそうかの見極め》をしながら【子どもが検査・処置になじめるケアの働きかけ】を行っていた.《恐怖心を減らす関わり》や《頑張ろうと揺れる気持ちを待つ》ようにし,子どもが納得して処置に取り組めるようになり〔権利擁護できた関わり〕となった.業務の都合や看護師の捉え方により〔権利擁護できなかった関わり〕となる場合もあった.

結論:看護師は検査・処置時の状況を多角的に捉えて子どもができそうか見極め,子どもが主体的に検査・処置に取り組みなじめるように看護実践しているプロセスが明らかとなった.

Translated Abstract

Purpose: To clarify how pediatric nurses recognize the protection of children’s rights during medical examinations and procedures and how they practice nursing for the protection of children’s rights.

Methods: A semi-structured interview was conducted with 20 nurses with five years of experience regarding the practice of protecting children’s rights. Data were analyzed using the grounded theory approach.

Results: The nurses “assessed whether the child was able to undergo the procedure”, and “encouraged care that the child would be comfortable with.” The nurses tried to “reduce the child’s fear” and “wait for the child’s wavering feelings of doing their best,” which led to “involvement that was able to protect the child’s rights.” In some cases, in which the nurses were not able to protect the child’s rights, depending on how the nurses view the situation.

Conclusion: During nursing care, the nurses view the child and the situation from various perspectives and adjust to the environment; they respect the child’s independence while also pursuing their best interests and adjusting to the situation.

Ⅰ. はじめに

医療の進歩に伴って,子どもの入院期間の短縮化,重篤化など小児医療の状況は複雑になっている.子どもの最善の権利を考慮した関わりは「児童の権利に関する条約」の基本理念でもあり,日本看護協会は「小児看護領域の看護業務基準」(以下,小児看護業務基準)で,看護師は子どもをひとりの人間として尊重し,子どもの権利が常に保障され守られるように看護することを規定している(日本看護協会,2009).子どもは発達段階にあるため,自己のニーズの表現や自己決定が難しく,親による意思決定の影響を受けやすい.例として,採血・点滴,検査や処置の場面における子どもの取り組みに影響する要因には,子どもの年齢,認知発達,過去の経験による対処行動や親の捉え方(佐藤ら,2013),看護師の倫理的価値観(山口ら,2013)や医師などの他職種との関係性,個々の看護師が解決できない病院の規則や体制などの要因(高橋・濱中,2014)が挙げられる.実際は看護師自身の考えで子どもの看護が行われる現状があり,高橋(2016)は看護師の内面に焦点を当てた調査から「子どもを中心に考える力」の重要性を述べている.

このように,小児医療における子どもの権利擁護実践では看護師自身の権利擁護に対する認識とともに,子どもの発達段階に応じて家族を含めた専門的関わりが必要であり,小児看護実践能力として関わりの技術が求められる(冨崎,2018).しかし,これまで子どもや家族への関わりについて具体的な子どもの権利擁護実践のプロセスは明らかにされていない.本研究では,子どもの権利擁護実践において,特に検査・処置場面に焦点を当て子どもの権利擁護の看護実践プロセスを具体的に明らかにする.

Ⅱ. 本研究における用語の定義

本研究では「子ども」,「子どもの権利擁護」について以下のように定義した.

1. 子ども

発達段階において言葉が2つ以上つながり,言葉による禁止や命令が分かる2歳から満15歳に達した中学生までの年齢の患児.

2. 子どもの権利擁護

一個の独立した人格のある人間として認められ(増子,2008),発達・成長する中で,権利・自由の主体であることを常に保障すること.

Ⅲ. 研究目的

小児病棟看護師が検査・処置時の看護において,子どもの権利擁護をどのように捉え,子ども自身や状況をどのように認識し,子どもの権利擁護のための看護実践をしているかを明らかにする.

Ⅳ. 研究方法

1. 研究デザイン

本研究は,看護師の体験としてその人自身が意識しないままに考え行動してきた表面に現れない現象の本質を導き出すために,相互作用によって生じる変化のプロセスを現象として把握し,関連図により根拠を可視化ができるグラウンデッド・セオリー・アプローチ(戈木クレイグヒル,2014)を用いた.

2. 研究参加者

子どもの権利擁護の看護実践ができるレベルの看護師として,経験5年(4年目)以上の看護師を対象とした.これらは,ベナーのラダー理論(Benner, 2001/2005),また,日本看護協会でも「ケアの受け手に合う個別的な看護を実践する中堅レベル」であり,新人や後輩の指導,リーダー業務の経験などから子どもの権利擁護を広く捉えて看護実践できると考えて研究参加者とした.

3. データ収集方法

面接に先立ち,質問紙調査により①研究参加者の属性(性別,子どもの有無,看護基礎教育,看護倫理教育),②看護師の道徳的感性尺度(中村ら,2003),および③「小児看護で特に留意すべき子どもの権利と必要な看護行為」(日本看護協会,2009)(以下,「権利擁護の看護行為」とする)から著者が作成した21項目の実施状況を6段階(6:全くそうしている~1:全くそうしていない)で尋ねた.道徳的感性尺度は患者の理解,責任・安全,葛藤,規則遵守,患者の意思尊重,忠誠,価値・信念,内省,正直,自律,情の11成分から成る34項目を6段階(6:全くそう思う~1:全くそう思わない)で尋ねる尺度であり,研究参加者の道徳性感性が一般的なものかをみるため,許諾を得て使用した.小児看護師に特化した尺度でないため,成人患者を想定し回答を得た.

面接調査期間は2019年3月~2019年10月であった.面接は1回のみ,30分~60分程度とし,インタビューガイドを用いて半構成的面接調査を行った.子どもの権利を尊重できたと思う場面,配慮が足りなかったと思った場面について前述の「子どもの権利に留意すべき小児看護行為」への回答を念頭に置きながら尋ね,具体的な事例が挙がった際には,子どもの年齢や発達段階,および状況を会話の中で確認した.データ収集と分析の過程において,検査・処置時の看護実践,子どもへの病状説明(告知)に関する看護実践が挙がってきた.面接と分析を進める中で,研究参加者の全員が挙げた検査・処置時の看護実践は,看護業務をしながら子どもの権利擁護がより必要な場面と捉え,分析テーマをこれに絞った.研究参加者20名となった段階で,更なる面接調査を行っても概念化に新たなものを加えることはない状態に達したと判断し,データ収集を終了した.

研究参加者の選定にあたり,病院機能に偏りがないように中国地方(山口県,広島県),関西地方(兵庫県,京都府),九州地方(福岡県)の7施設の看護部長宛てに郵送法で依頼し,病棟師長に研究参加者を選定してもらった.また,選択基準に該当する知人に協力を依頼し,患児や施設名が特定されないことを説明し,同意を得て面接を実施した.このような方法で4大学病院,および総合病院2病院の看護師から調査の協力を得た.研究参加者の都合に合わせた面接日時,および施設内外でプライバシーが保てる場所で実施した.

4. 分析方法

面接内容は許可を得て録音し,面接後の早い時期に逐語録を作成した.内容を理解するため読み込み後,文脈に縛られず分析するために内容ごとに細かく切片化した.次に,切片ごとにプロパティ(特性)とディメンション(次元)を抽出した.複数のプロパティとディメンションに基づき,切片を表す概念名としてすべての切片にラベル名をつけた後,類似するラベルを集め,より抽象度の高いカテゴリー名をつけた.頻度や度合いといったディメンションは切片データ間の比較を行い,総合的に判断した.その後,抽出したカテゴリー同士の関連を検討し,カテゴリー関連図を作成した.この分析法により,データを的確に捉えて概念の抽象度を上げる際にも,プロパティとディメンションを確認して振り返り,現象の構造とプロセスを把握し,関連図でカテゴリー同士の関係を結びつける時にディメンションの位置づけを確認した.

研究の全過程を通して質的研究者から指導を受け,研究の厳密性の確保に努めた.逐語録作成後に研究参加者にメールで内容を提示し,妥当性を確認した.面接終了後には一つずつの面接内容を要約し,それまでの事例との共通項,および新しい概念を検討しながら次の面接を実施した.また,2名の研究者が分析を別々に実施し,検討を重ねて分析の信用性が高まるように努めた.

5. 倫理的配慮

山口大学大学院医学系研究科保健学専攻医学系研究倫理審査委員会にて承認を得て実施した(承認番号558-1).研究参加者に対し,研究概要,参加の任意性の保障,データの守秘義務,プライバシーの保護,同意後の中止と撤回,研究結果の公表について文章と口頭で説明し,同意書への署名を得た.

Ⅴ. 結果

1. 研究参加者の属性

研究参加者は小児病棟で働く経験5年目以上の看護師20名であり,男性5名(25.0%),女性15名(75.0%),子どもがいる看護師は6名(30.0%)であった.勤務病院は,大学病院15名(75.0%),一般病院5名(25.0%)であり,臨床経験年数は平均11.55年(5~38年),小児看護経験年数は平均7.4年(5~14年)であった.「道徳性感性尺度」の項目得点の一部を表1に示すが,全項目における項目ごとの平均値において中村ら(2003)の研究と差はなかった.また,看護倫理に関する学習経験が看護基礎教育,卒後教育のいずれもない看護師はいなかった.

表1  研究参加者の属性
ID 性別 子どもの有無 勤務病院 経験年数総年数/小児病棟(年目) 看護基礎教育 倫理に関する学習経験(学生/卒後) 病院の看護体制 「子どもの権利に留意すべき小児看護行為」の実践状況21項目(点)* 道徳的感性尺度(点)
所属病院の専門職 採血時の親の付添い 総得点(126点満点) 〈説明と同意〉2項目の平均点 20.患者が必ずしなければならないこととして認めなかったり,治療を拒む時,ルールに従うことは重要である 24.強制治療の場面で,患者が拒否しても,主治医の指示に従う
A 1人 大学 5/5 専門学校 あり あり 保育士 なし 92 4 4 4
B なし 大学 6/6 看護大学 あり なし 保育士 なし 101 3 3 4
C なし 大学 12/7 看護大学 あり あり 保育士 なし 101 4 4 4
D 2人 大学 10/7 専門学校 あり あり 保育士 なし 93 4 4 4
E なし 大学 6/6 看護大学 あり なし 保育士 なし 82 5 5 4
F なし 一般 11/11 看護大学 あり なし 保育士 なし 104 4 4 5
G なし 一般 5/5 看護大学 あり あり 保育士 なし 97 3 3 3
H なし 大学 5/5 看護大学 あり あり 保育士,CLS なし 109 5 5 4
I 3人 一般 23/8 短期大学 あり あり 不明 あり 98 4 4 5
J なし 一般 38/11 専門学校 あり あり 不明 あり 105 4 4 5
K 1人 大学 5/5 看護大学 あり なし 保育士,CLS なし 108 5 5 5
L なし 大学 6/6 専門学校 あり なし 保育士,CLS なし 109 4 4 4
M なし 大学 11/11 看護大学 あり あり 保育士,CLS なし 108 3 3 3
N なし 大学 16/14 専門学校 なし あり 保育士 なし 100 3 3 4
O 1人 一般 31/11 専門学校 なし あり 不明 あり 101 4 4 3
P なし 大学 5/5 看護大学 あり あり 保育士,CLS なし 97 5 5 3
Q なし 大学 6/6 看護大学 あり あり 保育士,CLS なし 113 5 5 4
R なし 大学 6/6 看護大学 あり なし 保育士 なし 102 3 3 4
S 1人 大学 9/9 看護大学 あり あり 保育士 なし 101 4 4 4
T なし 大学 15/5 看護大学 あり あり 保育士 なし 103 4 4 5
平均点:101.2
SD:6.88
平均点:4.8
SD:0.49
平均点:4.0
SD:0.71
平均点:4.1
SD:0.67

※:所属病院に配置されている専門職,および採血時の親の付き添いは面接調査の回答による.CLS:child life specialist(チャイルド・ライフ・スペシャリスト)

*小児看護の実践状況の項目の6段階評価:6.全くそうしている 5.そうしている 4.少しそうしている 3.あまりそうしていない 2.そうしていない 1.全くそうしていない

*道徳的感性尺度の6段階評価:6.全くそう思う 5.そう思う 4.少しそう思う 3.あまりそう思わない 2.そう思わない 1.全くそう思わない

2. 【子どもが検査・処置になじめるケアの働きかけ】という現象

【子どもが検査・処置になじめるケアの働きかけ】とは,小児看護師が子どもや親との関わりを通して子どもの思いを把握し,状況を多角的に捉えて検査・処置ができそうか見極めた後,他職種と調整し,子どもにわかるように説明したり用具を触らせたりして子どもなりのやり方を模索し,検査・処置以外にも子どもとの信頼関係を築く日常の関わりを重ねるものである.さらに検査・処置時には,子どもの気をそらし,または子どもが揺れる気持ちを待ち,このような看護師と子どもとの相互の関わりによって,子どもが徐々に納得して検査・処置に取り組めるようになる関わりである.

本研究では,【子どもが検査・処置になじめるケアの働きかけ】という現象に関わる11カテゴリーが抽出され,その関連図を図1に示した.以下,現象の中心となるカテゴリーを【 】,その他のカテゴリーを《 》,状況を〈 〉,帰結を〔 〕,研究参加者の語りをイタリック体か「 」,補足説明を( )で示した.また,語った看護師にはA~Tの仮名をつけた(表1参照).

図1 

【子どもが検査・処置になじめるケアの働きかけ】の現象に関するカテゴリー関連図

1) ストーリーライン

小児病棟看護師は,検査・処置時に《子どもの受け入れの困難さ》から子どもの権利擁護の難しさを抱いていた.子どもが嫌がり,言葉による理解が難しいなど《受け入れの困難さ》が高い場合,《看護師自身の子ども・処置の捉え方》によって,子どもに言っても判らないと捉える看護師は,ただ検査・処置をする〔権利擁護できなかった関わり〕となっていた.

一方,子どもの理解は説明の仕方によると捉える看護師は,《子どもの受け入れの困難さ》があっても,《親を含めた理解の促し・調整》を行い,親の思いを把握しながらも,理解できる子どもには親に相談しながら説明を行い,さらに,子ども自身に関わり,年齢による認知,経験があるかなど《子どもが検査・処置に取り組めそうかの見極め》をしながら,【子どもが検査・処置になじめるケアの働きかけ】をしていた.また,検査・処置の《必要性や子どもへの影響の検討》をし,処置の見直しを行い,《看護チームで統一する関わり》の必要性を検討していた.看護師はこのように関わりながら,【子どもが検査・処置になじめるケアの働きかけ】として子どもへのわかりやすさ,その子なりのやり方,他職種と連携し,さらに検査・処置以外にも関わる時間を重ねながら,子どもの気をそらす《恐怖心を減らす関わり》や《頑張ろうと揺れる気持ちを待つ》ように関わっていた.その結果,子どもが納得して検査・処置に取り組めるようになり〔権利擁護できた関わり〕となっていた.しかし,子どもが検査・処置をやる気になるまで待ってもうまくいかないこともあり,結果として〔権利擁護できなかった関わり〕となる場合があった.このような看護師の経験が《看護師自身の子ども・処置の捉え方》に影響し,次の看護実践にもつながっていた.

2) 各カテゴリーの説明

(1) 状況〈子どもの受け入れの困難さ〉

子どもの権利擁護が必要な場面について,採血,点滴の挿入や消毒,内服,MRIやCT,骨髄穿刺などの検査・処置が挙がり,子どもが「どうしても嫌がる」「説明しても理解が難しい」と関わりが困難な状況があった.

(2) 看護師自身の子ども・処置の捉え方

検査・処置について,看護師自身が「子どもに合わせた説明をすればわかる」と捉えるか,「子どもに言ってもわからない」と捉えているかによって関わりが異なっていた.

P看護師は,内服時に「もうこの子は言ってもだめだって思っちゃうのが早かったかなって,もうちょっと粘って,なんで飲めないのかなとかそういう話をしたら…変わったのかな」と振り返り,「CLS(Child life specialist)の関わりをみて説明の仕方一つでこんな成長するんだなって」と子どもの理解への認識が変化していた.

子どもに言ってもわからないと捉える看護師の場合,親には説明をするが患児には検査・処置をただ実施し,〔権利擁護できなかった関わり〕となっていた.

「子どもに言ってもわからないからやってる,こっちの流れで.お母さんには時間を言うけど」(A),「お母さんに『ぐるぐる巻きにしてしますね』って言って,本人にも『ちょっとごめん,するね,危ないからね』って巻いちゃいます」(G).一方,「親が『やって下さい』『いいです』って言われたら強引になっちゃうところはある.…ごめんねっていう気持ちはあるけど,治療のためとかいう便利な理由みたいに…なって,全然そこは権利を尊重できていない」(E)など看護師の葛藤も語られていた.子どもに言っても判らないと捉える看護師は,権利擁護の看護行為の総得点数が低い傾向にあった(表1).

(3) 子どもが検査・処置に取り組めそうかの見極め

看護師は子どもが検査・処置に取り組めそうか,「子どもの年齢」(N, P),子どもの理解度が「わかるくらい」(L, K)か「しっかりしている」(N, P)か,「慣れているかどうか」(R, F, C)子どもの経験をアセスメントしていた.さらに,「遊ぶ様子とか見て,お母さんから日々の生活とか…聞きながら,この子はこういけそうとか…判断する」(S)など,親に聴きながらも「親に意見を聞くことで,そうしないといけないんだってその通りに答えてしまう」(Q)ので,「実際に関わった子どもの反応を見る」(K, H, N, Q)ようにしていた.

(4) 親を含めた理解の促し・調整

子どもへの説明は「どこまで説明するか,家族と話しながら」(S, T, Q)などの調整を行っていた.また,「説明するっていうのは親にも必要….一緒に見てもらうことで,親御さんと子どもでの共通認識がある方が良い」(E, I, H, L)など,親子への説明と共通認識を促す大切さが語られていた.一方,「『怖くなるから説明しなくていい』みたいなことを言われる家族がたまにいらっしゃるんですよね」(T, N)など,子どもへの説明を希望しない親に対して「『黙っといてください』って言われた場合は,…私的にはきつい…これくらいわかるのにって思いながら,…本当は(説明)したいんですけど…」(N)と葛藤を抱く場合があり,「私からはこう見えますけど,いかがでしょうかって言う」(S)など,看護師なりの子どもの見方を伝えるようにしていた.さらに,親との調整や検査・処置時の関わりを通して家族の問題が伺えることに対する看護師の葛藤も語られていた.

「(採血時に嫌がって)罵声を浴びせるような,汚い言葉をつかうような子どももいるし…(その子どもは)大丈夫かなって.いろんな子がいて,家庭の問題をこっちが引き取らないといけない感じが,すごいなんか難しいなって」(D).

(5) 検査・処置の必要性や子どもへの影響の検討

看護師は検査・処置を「しないとその後の治療とかも進まない」(R)と捉え,「絶対に決まった時間に投与しないといけないものは『お薬があるから,今日ちょっとウルトラマン見れないんだよね』って言う」(B)と治療を優先していた.一方で,「(薬を)飲まなくちゃいけない時間はあるので結構無理に飲ませている子も…,やっぱり,1回そうやっちゃうと本当にトラウマになっちゃうので」(B, K, S)と子どもが検査・処置によりトラウマになる可能性について判断し,「嫌がっても,それが本人の利益が上回るのであればやらないといけない」(H, M),「嫌なことはなるべく早く終わらしてあげるように頑張る」(H)と関わっていた.

さらに,検査・処置の継続性を考え,「一時的な入院の子だったら…その場だけ終わらせれば済みますけど…定期的に採血とかの子はプレパレーションとかで,…時間をかけて慣れていってもらうのは必要」(R)と関わり方を模索していた.そして,「必要ないって思ったらなるべく早く確認してとってあげる」(O)など,不要な処置がルーチン化していないかを考えていた.

このように,看護師は子どもの身体的・心理的影響を考えていたが,「緊急でってなると,(説明の)時間の確保はやっぱり難しい」(B),「自分だけのペースじゃできない,もう絶対,今やらないと先生のスケジュールとかもあるし…」(T, P)など,検査・処置の緊急性や業務の都合により対応していた.

(6) 看護チームで統一する関わり

検査・処置時の関わりが「病棟全体で,できているかって言われると難しい」(M, P, S, T)などが語られ,いずれも大学病院の看護師であった.また,「子どもが寝ていようが…こっち(看護師)が勝手に時間を決定してる人が多い」(B),「自分はやってて皆(他の看護師)はやっていないのはあるかも」(A)など,《看護師自身の子ども・検査・処置の捉え方》につながっていた.

(7) 子どもが検査・処置になじめるケアの働きかけ

看護師は,検査・処置を「どれだけ本人にとってわかりやすくするか」(H)を考え,「『チックンするよ』とか簡単な言葉」(Q)や「実際に物を持っていって触ってもらう」(A, B, H, S, T),「前に何歳くらいの子が,『こんな感じで言っていた』というとわかってくれる」(E)など子どもがわかるように関わっていた.それにより,「年齢に応じてイメージしやすい言葉で説明してあげたら,こんなに変わるのかと思った」(C)などが語られていた.

検査・処置に当たり,「するしないじゃなく,どっちでとか,そうしたら‥させてくれる」(R, T),「CLSさんが入って,Vライン留置する前に1回買い物に行ってお菓子だけ買ったらできるっていう子がいて…その子なりの流れを作ってあげて‥」(P),さらに,「怖い時とか『先生に待ってって言ったらわかってくれるからね』って言って…」(E)など,その子なりのやり方で取り組めるようにCLSや医師と連携をしていた.

しかし,このような関わりは,「何度も説明して…関わって,日数を重ねないと難しいので…」(D, J, P)など,患児との関わりを重ねる必要があり,検査・処置以外にも「おもちゃとかで少し日常会話を挟んでから」(F, G)など,「身近な存在じゃないと,距離があってはできないことっていっぱいあり…,子どもだからこそ日頃から声をかけながら関係性を築く」(M, T)ようにしていた.

(8) 恐怖心を減らす関わり

小さい子になるほど「説明をしてしまうと逆に怖がって,…意識してしまうと嫌になる」(Q, F, D)ため,看護師は「気が紛れているうちにさっとやってしまう…それも一つの手かなって」(Q)と考え,子どもに処置を意識させないように関わっていた.

(9) 頑張ろうと揺れる気持ちを待つ

看護師の多くは,子どもが頑張ってできそうであれば待ちたいと述べていた.

「待っている時もただ拒否しているだけじゃなくて,多分その子自身でいろいろ考えがあると思う,頑張ろうかでも怖いからやめようか,その揺れてるところをあんまり邪魔しない方が,自分の意思でできたら一番いい」(S).

一方で,看護師は子どもの頑張りを待つか,検査・処置を短時間でするかという葛藤を抱え,〔権利擁護ができなかった関わり〕につながっていた.

「待つけど…3時間とかなって全くできなかったこともあって…本当もう葛藤やけど.待ってる時間が恐怖の時間だから,早く終わらせた方が逆にいいんじゃないかっていう,それが,私自身が本当にそう思っているのか,急いでいるからそうこじつけたいのか,よくわからないけど…」(D).

(10) 帰結〔権利擁護できなかった関わり〕

看護師は,「もう手が出る子はもう抑制…申し訳ないけどごめんねって」(J),「(どうしてもっていうときは)強制的にやってしまう」(G)など,抑制をして実施していた.また,子どもが検査・処置に取り組めない理由を考えて葛藤し,そのような経験は《看護師自身の子ども・処置への捉え方》につながっていた.

「毎週ルート差し替えして治療薬行くっていう子(小学2年生)にお約束ごと作って…,『じゃあ先生にこういう風にお願いしよう』とかいろいろ話して…何週間か繰り返したんですけど,結局,いつも泣き叫んで決めたこともすっとばして…,結果そうなっちゃうと,先生も『無理だからじゃあもうぎゅってしてすぐ終わらせてあげよう』って」(T).

「最初,すごい泣きよった子が,自分から手を出すような子もおるんよ.だから『じっとしとけば痛くない』ってことが本当に分かればできる子もおる.恐怖っていうのは,自分が逃げたくなる恐怖よね.でも痛いのと恐怖が別々になる時がある.その時,何されるかわからん不安とか,大人がいっぱいおる怖さとか…年齢もあるし,…あの辺がうまくなんかこういけば…そこがどこなんやろうなっていうのは思うけど.なかなか」(D)

(11) 帰結〔権利擁護できた関わり〕

看護師は,「ちょっと痛かったけど(吸引で)お鼻がすっきりしたねって言ったら,『ほんとだ』みたいな」(F)など,子どもが納得してできた反応が見られ,「処置を終えた後の達成感っていうか,子どもがこれができたっていう,辛かったけど,できたっていう達成感がやっぱなんか違うかなって」(L)など,看護師の達成感につながっていた.

Ⅵ. 考察

検査・処置場面における子どもの権利擁護について具体的な看護実践のプロセスを明らかにするため,面接調査を実施した.本研究の研究参加者は経験年数から,中堅からベテランの看護師の集団である.看護における道徳的感受性は,ケア対象者の福祉や安寧に影響を与える状況的側面を看護師が意識できるかどうかという感覚であり(神徳・池田,2017),小児看護においては特に重要と考える.研究参加者の尺度得点は中村らの研究と比較して差はなかった.しかし,用いた尺度は小児看護師に対応していない部分もあるため,今後は複数の尺度により小児看護師の道徳的感受性の検証が必要と考える.

1. 子どもが検査・処置になじめるケアの働きかけ

子どもにとって検査・処置は,疾患や症状による身体的苦痛緩和のため緊急性が高く,関わりが十分に持てない時間的制約の中で行われ,さらに繰り返し行われる場合も多い.このような小児看護の実践では大人とは異なる「さじ加減」があり,発達の見方をつなぎ合わせて子どもを理解することが重要である(川名ら,2017).結果から,検査・処置時に子どもの権利擁護を実践するには【子どもが検査・処置になじめるケアの働きかけ】を行い,子どもの《恐怖心を減らす》,あるいは《頑張ろうと揺れる気持ちを待つ》ことにより,子どもが納得して取り組め《権利擁護できた関わり》となり,重要であることがわかった.

子どもにとって,検査,特に採血などは痛みや恐怖を伴う経験(Karlsson et al., 2016)であり,《受け入れに困難さ》を伴う.看護師はまず,子どもの検査・処置に対する理解度,経験や慣れているかなど,親に聴き,直接関わって状況を捉えながら,子どもなりに検査・処置を理解し,自ら取り組もうとする主体性につながるものとして,《子どもが検査・処置に取り組めそうかの見極め》を行っていた.

子どもは,不安の増強から医療回避につながる可能性もある(甲斐ら,2020)ため,《検査・処置の必要性や子どもへの影響の検討》を行い,不要な処置ではないかを考え調整していた.また,看護師は子どもと親を一体に捉え,親子が共通認識を持てるように《親を含めた理解の促し・調整》を行いながら,子どもが検査・処置に取り組めそうかを見ていた.川名ら(2017)は,子どもと家族,医療者の三者間で協働するスタンスを持つことの重要性を述べており,本研究でも親に相談しながら患児への説明を促すなど患児と家族への具体的な関わりが語られた.しかし,中には子どもへの説明を望まない親もあり(山口ら,2019),看護師は子どもの権利擁護のために子どもへの説明の必要性を認識しているが,最終的に決定するのは親であり家族の問題であると捉え,十分に関われていない場面があった.親はわが子の病気や入院という状況的危機に陥ると,子どもを意思決定の場に参加させることが困難になりやすいため,看護師は親の思いに寄り添い支援することが重要である(丸山・山下,2019).このように検査・処置は子どもと家族の関係性が見える場面でもあるため,看護師が子どもと家族の双方へ関わり,子どもの最善を共に考えることが期待される.また,看護師は【子どもが検査・処置になじめるケアの働きかけ】として,子どもへのわかりやすさ,多職種と協働して「その子なりの流れ・やり方」を取り入れ,《恐怖心を減らす関わり》を行っていた.処置を受ける子どもの「覚悟」について,親や医療者の関わり,処置に対する受容,心の準備が言われている(藤井・楢木野,2019).検査・処置時には《頑張ろうと揺れる気持ちを待つ》働きかけがされていた.これらは,看護師が子どもを主体的な存在として「子どもを中心」(高橋,2016)に考え,働きかけをする看護実践である.子どもに強制せずに働きかけることは,子ども自身が自己コントロールすることができ,検査・処置に取り組むことができる(吉田,2015).しかし,会ってすぐの子どもに合わせた看護実践は難しい.看護師は子どもが医療者や環境に適応できるよう日頃から挨拶をしたり遊んだりなどの関わりを積み重ねていた.看護師が患者と話す環境を整え,治療以外の話をしながら患者と信頼関係を築くことはケアの本質(牧野・比嘉,2021)であり,子どもの居場所をつくり(山口・深谷,2021),安心感を与え,子どもの権利擁護につながるため重要である.さらに,子どもの性格や理解力を観察しアセスメントの手がかりとするため,小児看護師には子どもに意図的に関わる(川名ら,2017)ことが大切である.

2. 看護チームで統一する関わりの重要性

本研究では,看護師個人の子ども権利擁護実践を尋ねたが,大学病院に勤務する看護師からは,複数の診療科にわたる子どもの権利擁護実践が難しい現状が語られていた.個々の看護師のみならず,看護チームによる子どもの権利擁護実践が今後の課題である.山田(2022)は,「子どもに対する医療者の倫理的感受性」の概念分析により,先行要件として,個々の感性や倫理観,教育による知識と姿勢の習得,子どもに関わる現場での体験を挙げている.本研究の看護師は看護基礎教育,および卒後教育のいずれかで看護倫理教育の学習経験があった.しかし,何を優先するかは看護師個人によるため,ある看護師は子どもの権利擁護実践をしているが,他の看護師はしていないかもしれない現状が語られていた.また,複数患児の看護ケアを同時にする場合,子どもとの関わり,親や医療者間の調整,さらに業務の調整の困難さから医療者の都合が優先される場合があった.看護師が「子どもに言ってもわからない」と捉える場合,権利擁護の看護行為の総得点数が低い傾向にあり,子どもの権利擁護実践にはつながらない現状がうかがえた.さらに,【子どもが検査・処置になじめるケアの働きかけ】を実践するが,うまくいかなかった経験により,「子どもができるように待っても難しい」という看護師自身の子ども・処置の捉え方につながることがわかった.看護の倫理原則(Fry & Jane, 2008/2010)から考えると,痛みを伴う採血は「無害」に反し,嫌がる子どもの意思「自律」に反する.しかし,診断や検査を行うことは「善行」であり,子どもに必要性を説明して「忠誠」に沿って向き合い,「自律」を尊重し,子どもが取り組めれば権利擁護につながる.看護師が葛藤を感じた際には,倫理原則から看護を捉えなおすことも大切である.さらに,権利擁護できた関わりを看護師個人のみでなく,他の看護師と話し医療チーム内で共有し,子どもと関わることが重要である.近年,導入されているパートナーシップ・ナーシング・システム(PNS)などにより,他の看護師の看護から子どもの権利擁護を考える機会となることが期待される.

Ⅶ. 結論

小児病棟看護師20名に面接調査を実施し,GTAを用いて分析した結果,検査・処置時における子どもの権利擁護について,看護師は子ども自身の理解度や経験を踏まえて状況を多角的に捉え,子どもの最善の利益を模索し葛藤しながらも親や他の医療者と調整し,子どもの主体性を尊重して徐々に検査・処置に取り組めるように【子どもが検査・処置になじめるケアの働きかけ】をしているプロセスが明らかとなった.

Ⅷ. 研究の限界と今後の課題

本研究は,大学病院と一般病院の小児病棟看護師への面接調査に基づくものであり,施設や看護システムが限定されているため一般化が難しい.また,子ども自身のデータが含まれていない.今後は子ども自身の思いや反応,看護チームとしての子どもの権利擁護についても検討が必要である.

付記:本論文は,山口大学大学院医学系研究科博士前期課程の論文に加筆・修正を加えたものである.一部は,第41回日本看護科学学会学術集会で発表した.

謝辞:本研究において,ご多忙の中,調査研究を快諾していただいた看護師の皆様,研究協力施設の皆様と,研究参加者の選定や紹介など,快く協力していただいた皆様,本研究に関わって下さったすべての方々に心から感謝申し上げます.この論文はこれら多くの方々の支えによって完成できたものです.この場をお借りして今一度,心からお礼申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:ENは研究の着想および調査実施,論文執筆までの研究全体の運営を中心的に行った.KMは研究プロセス全体への助言,および,分析,解釈,論文執筆を行った.両者は最終原稿を読み承認した.

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