2023 Volume 43 Pages 270-279
目的:清拭タオルに起因するとされる血流感染リスクを軽減するため,前腕の清拭による綿タオルへのセレウス菌付着と,保管による菌の増殖について検証した.
方法:未使用の綿タオルで対象者50名の両前腕を清拭し,片側のタオルは清拭直後に,もう片側は24時間常温保管後にセレウス菌を検出した.
結果:セレウス菌が検出されたタオルは清拭直後で7枚(14.0%),24時間保管後で37枚(74.0%)であり,セレウス菌数は,24時間保管後には約6,000倍に増加した.細菌検出の関連要因として,皮膚洗浄後の保湿剤等の塗布,前腕のムダ毛処理をしない場合にセレウス菌検出量が有意に多かった(p < 0.05).
結論:個人差はあるが,前腕にはセレウス菌が付着している.清拭後のタオルを常温保管し細菌が増殖することで,セレウス菌が芽胞を形成する可能性が高くなるため,使用したタオルの細菌増殖を抑制する必要がある.
Purpose: The use of with Bacillus cereus (B. cereus)-contaminated towels for bed baths can cause bloodstream infections in immunocompromised patients. This study aimed to assess the extent of B. cereus adhesion and growth on towels wiped on forearms.
Methods: We recruited 50 healthy subjects aged 20–68 years between August and October 2021. Both forearms of each participant were wiped with clean warm towels. The number of B. cereus colonies were immediately determined after wiping for the right-arm towels and after storing the towels at room temperature (24–26°C) for 24 hours, for the left-arm towels. The relationship between the number of B. cereus colonies and attributes was analyzed.
Results: Seven (14.0%) and 37 towels (74.0%) were found to contain B. cereus immediately after wiping and following 24-hour storage, respectively. On average, the B. cereus count was 6,000 times higher after 24-hour storage than immediately after wiping. Individuals who applied moisturizer had a higher number of B. cereus colonies on towels immediately after wiping compared to those who did not (p < 0.05). In towels stored for 24 hours after wiping, individuals who had not undergone arm hair removal had a higher number of B. cereus colonies compared to those who had (p < 0.05).
Conclusion: Despite individual differences, B. cereus can adhere to human forearms. Storage of towels at room temperature after wiping leads to bacterial growth and increased possibility of B. cereus spore formation; therefore, suppression of bacterial growth on used towels is necessary.
清拭は寝たきりなどで入浴・シャワー浴ができない患者に対して,全身の皮膚・粘膜の清潔保持が必要な場合に行う(三輪・大庭,2022).また,清拭は「安楽をもたらすケア」の最も象徴的な技術(川嶋,2020)であり,患者の療養生活をより快適に安楽にすることで,人間が本来持つ自然の回復過程を整える看護独自の専門性(澁谷,2019)を有する実践でもある.これらの意味を踏まえて,看護基礎教育では,清拭に綿素材のタオルと湯を用いるのが一般的であるが,臨床では効率化を図るために湯を用いることは少なく,綿タオルを保温器で蒸しタオルにして使用することが多い.また,近年は綿タオルの代わりにディスポーザブルの不織布タオル(以下,ディスポタオル)を使用する施設が増加している(米倉ら,2020).その背景として,綿タオルを再生使用することによりタオルがセレウス菌に汚染し,汚染したタオルを用いた清拭が原因と考えられる血流感染事例が複数報告された(井沢・伊藤,2005;Dohmae et al., 2008;糸賀ら,2016)こと,松村・深井(2014a)が綿タオルと化繊タオルを細菌学的に検討し,「未使用・再生にかかわらず綿タオルから一般細菌が検出されたことから,再生綿タオルは感染予防の観点から安全な清拭素材ではない」と報告したことなどが挙げられる.
しかし,感染予防のために綿タオルをディスポタオルに変えることについては,タオルの扱いや温度管理,清拭車のメンテナンス等の管理不徹底に対する「問題のすり替え」ではないか(茂野,2019)という指摘もある.綿タオルについては,素材繊維の表面にループがあるため,化繊タオルに比べ皮膚に受ける触・圧刺激がほどよく感じられることで,自律神経系の働きに影響を及ぼすことが明らかになっている(松村・深井,2014b).また,看護師は患者が温かさを感じることが大事だと考え,清拭の際は必ず最初に蒸しタオルを患者の胸や背中いっぱいに広げ,時間を置いてから拭き始めている(澁谷,2019)など,「安楽をもたらすケア」として綿タオルでの清拭が有用なことも報告されている.患者の状態やニーズに合わせて物品や方法を創意工夫し,安全で安楽な清拭を行うためには,感染予防策として綿タオルをディスポタオルに変えるだけではなく,綿タオルがセレウス菌に汚染される要因について把握し,対策を講じることも必要である.
セレウス菌は土壌,粉塵,水,院内環境などに広く分布しているため,通常,さまざまな由来の臨床検体(血液,創傷,喀痰など)から分離される汚染源とみなされているが,セレウス菌を含むBacillus属菌は,免疫抑制状態の入院患者の間で,院内感染の原因となる(Bottone, 2010).院内の保菌場所として,再生綿タオルのほか,汚染された空気ろ過換気装置,光ファイバー気管支鏡装置,リネン,手袋,職員の手,静脈内カテーテル,アルコールベースの手洗い液,検体採取管,シーツなどが確認されている(Bottone, 2010).セレウス菌は劣悪な環境に置かれた際,自らを維持するために芽胞を形成し,厳しい環境下でも長期間生存する.また,乾燥や100°Cの熱,紫外線やエタノールなどの消毒にも抵抗性を示す(松本,2021)ため,綿タオルに付着したセレウス菌が増殖して芽胞を形成した結果,洗濯では十分除去しきれないことが汚染の原因と考えられている.綿タオルの洗濯は,感染症事例報告施設の多くがリネンサプライ業者へ委託しており,感染症が発生した時期に納品されたタオルのセレウス菌汚染が顕著であることが課題になっている(井沢・伊藤,2005;Dohmae et al.,2008;糸賀ら,2016).日本では清拭に使用するタオルは指定洗濯物に区分され,「リネンサプライ業に係わる洗濯施設及び設備に関する衛生基準」に基づいて消毒・洗濯を行うことが義務付けられている.具体的には,80°Cで10分以上の熱湯消毒や,晒し粉,次亜塩素酸ナトリウム等を使用し,遊離塩素250 ppm以上の水溶液中に30°C以上で5分間以上浸漬することなどである.ただし,衛生基準には1)変色及び異臭がないこと,2)大腸菌群が検出されないこと,3)黄色ブドウ球菌が検出されないこと,4)一般細菌数は,100 cm2当たり12,000個以下であることが設けられているが,芽胞形成菌であるセレウス菌についての衛生基準は設けられていないため,定期的なセレウス菌汚染状況の評価は行われにくい.
院内のタオルの管理については,清拭車の水が細菌で汚染されていること(井沢・伊藤,2005),清拭車の加温でセレウス菌芽胞を殺菌するには一定の加温条件が必要であること(宮木ら,2008)が明らかになっている.しかし,洗濯後の再生使用綿タオルがなぜ高頻度にセレウス菌に汚染されるのかについて,タオル管理の視点で明らかにした研究はない.そのため,タオルにどのような経緯で細菌が付着するのか,また,清拭車以外のタオル管理の過程で,どこにセレウス菌が増殖する可能性があるのかについて明らかにする必要がある.
石原(2018)は健常者の約20%の前腕皮膚にはセレウス菌が付着していると報告している.また,セレウス菌の血流感染は,点滴静脈内注射のために末梢カテーテルを留置している患者に多く発生すると言われている(麻生ら,2012).このことから,本研究では,末梢カテーテルを留置することの多い前腕を清拭することで,タオルにセレウス菌がどの程度付着するのかについて検証することにした.また,タオル管理の視点として,セレウス菌が付着した場合のタオルを常温保管することで,時間経過によりセレウス菌がどの程度増殖するのかについても検証することにした.石原(2018)の報告と同様に対象者の前腕にセレウス菌が付着しているとすれば,血流感染予防策としてはタオルをディスポーザブルにする以外にも,末梢カテーテル留置前の前腕のセレウス菌除去について検討する必要がある.また,病院では清拭後のタオルをカート等で保管後に洗濯することが多いが,常温保管でセレウス菌がどの程度増殖するのかを具体的に知ることで,タオル管理における細菌増殖抑制方法について検討できる.
研究目的本研究は,汚染された清拭タオルに起因するとされる血流感染のリスクを軽減するために,前腕の清拭によって綿タオルにセレウス菌がどの程度付着するのか,また,清拭後のタオルを一定時間保管することで,セレウス菌がどの程度増殖するのかについて検証する.また,皮膚の微生物叢には個人差があり,微生物叢の変動に寄与する要因として性別,年齢,皮膚の状態(汗腺,皮脂など),環境,生活スタイル,免疫の状態などがあると言われているため(Grice & Segre, 2011),セレウス菌検出の副次的評価として,対象者の属性や皮膚の状態との関連性についても検討する.
調査の対象者は,20~64歳の皮膚疾患等のない健康な成人50名とした.調査期間は2021年8月~10月とした.
2. 綿タオルを用いた前腕の清拭清拭タオルは,素材が綿100%,色はホワイト,大きさは280 mm × 430 mm,重量31~32 gのアズワン(株)おしぼりタオル(新品・未使用)を使用した.タオルを1枚ずつ8つ折りにして耐熱性ポリエチレン袋に入れ,水道水70 mLを加えて密封した.その後清拭車(アトム清拭車NS-910)で加温し,60°Cで保温した.使用した清拭車は,加温開始後約60分で沸騰状態(97°C)となり,15分程度沸騰状態を維持した後,保温モードに切り替わった.清拭車内の温度はその後徐々に低下し,60°Cの保温状態が維持される仕組みであった.
清拭は,方法を統一するために1名の研究者が対象者50名を清拭した.清拭直後のタオルと24時間保管後のタオルの細菌数を比較するため,左右の前腕を別のタオルで清拭し,サンプルとした.最初に右前腕,次に左前腕の順で行った.清拭の手順としては,タオルを清拭車から取り出して適温(50~55°C程度)まで冷却した後,8つ折りのまま袋から取り出して対象者の前腕外側を手首から肘関節に向かって一定の圧でゆっくり3往復させた.その後,タオルの面を換えて同側前腕内側を3往復させた.清拭後のタオルは1枚ずつ滅菌のストマッカー袋(ナイロン/PE,190 × 280 × 0.065 mm)に入れ,クリップ(バッグシステムクリップ,225 mm)で密閉した.清拭時の室温は,夏季の病室環境の至適温度と同様の24~26°C,湿度は60%に調整した.
3. タオルからの細菌検出および菌数測定プレテストとして,未使用の綿タオルを実験と同様の条件で加温し,加温直後のタオルと,加温後24時間常温保管したタオルの細菌数を測定した.その結果,今回実験で使用するタオルからは一般細菌,セレウス菌いずれの細菌も検出されなかった.また,両前腕から検出される細菌数やコロニーの形状の左右差についても,左右差がないことを確認した.
清拭後のタオルを常温保管する時間と細菌増殖の関連を調べるために,右前腕を清拭したタオルからは,清拭直後に細菌を検出し,左前腕を清拭したタオルは,ストマッカー袋に入れた状態のまま,清拭を行った室内(24~26°C)で24時間保管した後,細菌を検出した.
タオルに付着した細菌の回収には揉み出し法を採用した.宮木らの実験では,B. atrophaeus芽胞を指標菌として3分間タオルを揉み出し,菌回収率を算出した結果,平均66.5%であり,回収率が高いとされるビーズ抽出法,改良ビーズ抽出法と同程度であることが確認されている(宮木ら,2008;石原ら,2017;笹原ら,2009).具体的には,右前腕のタオルは清拭直後に,左前腕のタオルは24時間保管後に,タオルの入ったストマッカー袋のクリップを開け,菌回収液である0.2%のTween 20を含むリン酸緩衝生理食塩水を130 mL注入した.再び袋をクリップで留めた後,タオルの揉み・絞りをくり返し,3分間続けた後,袋の側面を無菌的に切り取り,マイクロピペットを挿入して検液100 μLを採取した.
検液は,清拭直後のタオルの場合は希釈せず,24時間保管後のタオルの場合は10倍段階希釈後,寒天平板培地に接種した.培地は,一般細菌用の非選択培地であるトリプトソイ寒天培地(TSA,BDバイオサイエンス)のほか,セレウス菌の選択分離用にNGKG寒天培地(生培地 ポアメディアNGKG寒天,栄研化学)を用いた.検液を接種した培地をインキュベーター内で37°C,24時間培養した後,それぞれの寒天培地上に生じたコロニーをカウントした.NGKG寒天培地の場合,周縁部が不規則な白色コロニーで,卵黄反応陽性のコロニーをセレウス菌と判定した.カウントしたコロニー数をタオル1枚あたりの細菌数に換算して分析を行った.
4. 前腕からのセレウス菌検出に関する副次的評価人の皮膚細菌叢には個人差があることから,セレウス菌検出に影響する要因を検討するため,対象者へ清拭前のアンケートと皮膚の水分・油分・弾力のチェックを行った.アンケート項目は,皮膚の生理機能に影響する要因として年齢と性別,皮膚の細菌除去・付着に影響する生活スタイルとして直近の入浴・シャワー浴からの経過時間,使用している洗浄剤の商品名,ムダ毛処理の有無,皮膚洗浄後の保湿剤や日焼け止めクリーム等使用の有無また,免疫状態としてアルコール過敏やアトピー性皮膚炎の有無とした.
また,皮膚の皮脂または油性,湿性,乾燥等が細菌叢や皮膚のバリア機能に影響するため,ケニス研究所トリプルセンスを用いて評価した.この機器は,センサーが肌に触れることで,水分,油分,弾力が測定できるものであり,それぞれの項目の計測値が0~99で表され,数値が高いほど水分・油分量等が多いことを示す.
5. 分析方法分析にはSPSS Statistics 20を使用し,有意確率は5%未満とした.
1)セレウス菌の検出と調査項目との関連については,記述統計の後,各項目におけるセレウス菌検出の有無とクロス集計し,χ2検定およびFisherの検定でp値を算出した.
2)タオル1枚当たりのセレウス菌数および一般細菌数について清拭直後と24時間保管後の増加量の比較についてはMann-Whitney U検定を行った.
3)また,タオル1枚当たりのセレウス菌および一般細菌の検出量と調査項目との関連についてはKruskal-Wallis検定を行った.
6. 倫理的配慮本研究は,弘前医療福祉大学研究倫理委員会の承認(承認番号2021-3)を得て実施した.対象者へは,書面と口頭で研究の目的と概要,方法,研究協力の任意性,拒否・撤回の自由,研究参加に伴い生じる不利益,個人情報の保護,結果の公表などについて説明し,同意書を交わした.
対象者50名の両前腕を清拭し,右前腕を清拭したタオルから,清拭直後の一般細菌やセレウス菌を検出した.その結果,TSA培地から細菌が検出されたタオルは50枚中43枚(86.0%)だった.また,NGKG寒天培地からセレウス菌が検出されたタオルは7枚(14.0%)だった.セレウス菌が検出されたタオルはいずれも,TSA培地からも細菌が検出された.
次に,TSA培地から検出した一般細菌と,NGKG寒天培地から検出されたセレウス菌について,タオル50枚の平均コロニー数を算出した.一般細菌は平均20,440 ± 54,974 CFU(検出限界値以下~306,000 CFU),セレウス菌は平均2,480 ± 14,477 CFU(検出限界値以下~102,000 CFU)だった.
2. 清拭後のタオルを24時間保管することによるセレウス菌の増殖対象者50名の左前腕を清拭したタオルを,常温で24時間保管した後で一般細菌やセレウス菌を検出した.その結果,TSA培地から細菌が検出されたタオルは50枚中47枚(94.0%),NGKG寒天培地からセレウス菌が検出されたタオルは37枚(74.0%)だった.セレウス菌が検出されたタオルはいずれも,TSA培地からも細菌が検出された.
また,一般細菌,セレウス菌それぞれについてタオル50枚の平均コロニー数を算出した結果,一般細菌は平均31,690,000 ± 37,646,179 CFU(検出限界値以下~154,000,000 CFU),セレウス菌は平均14,098,000 ± 226,796 CFU(検出限界値以下~103,700,000 CFU)だった.
清拭直後と24時間保管後のタオルから検出された一般細菌数とセレウス菌数を,Mann-Whitney U検定を用いて比較した.その結果,一般細菌の有意確率はp < 0.001であり,24時間保管後の一般細菌数が有意に増加した(図1a).セレウス菌の有意確率についても,p < 0.001であり,24時間保管後の一般細菌数が有意に増加した(図1b).
タオル1枚あたりから検出された細菌数(n = 50)
a 一般細菌,b セレウス菌 検定にはMann-Whitney U検定を用いた.** p < .001
前腕からのセレウス菌検出に関わる副次的評価として,対象者の属性および細菌検出に影響すると思われる因子についてアンケートを行い,その項目ごとにセレウス菌の検出の有無・量を比較した.
アンケートの結果と皮膚状態の評価について表1に示す.対象者の年代は,20歳代37名(74.0%),30歳代1名(2.0%),40歳代4名(8.0%),50歳代3名(6.0%),60歳代5名(10.0%)であり,性別は,男性11名(22.0%),女性39名(78.0%)だった.
項目 | 全対象者数(N = 50) | セレウス菌検出の有無 | セレウス菌の検出量 | ||||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
清拭直後 | 24時間保管後 | 清拭直後 | 24時間保管後 | ||||||||||||||||||
検出(n = 7) | 未検出(n = 43) | p | 検出(n = 37) | 未検出(n = 13) | p | CFU/枚 | p | CFU/枚×104 | p | ||||||||||||
年代 | 人数 | (%) | 人数 | (%) | 人数 | (%) | 人数 | (%) | 人数 | (%) | Median | IQR | Median | IQR | |||||||
20歳代 | 37 | 74.0 | 6 | 12.0 | 31 | 62.0 | .607 | 27 | 54.0 | 10 | 20.0 | .349 | 0.0 | 0.0 | .600 | 550.0 | 1,265.0 | .425 | |||
30歳代 | 1 | 2.0 | 0 | 0.0 | 1 | 2.0 | 0 | 0.0 | 1 | 2.0 | |||||||||||
40歳代 | 4 | 8.0 | 0 | 0.0 | 4 | 8.0 | 4 | 8.0 | 0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 9,750.0 | 1,322.5 | |||||||
50歳代 | 3 | 6.0 | 1 | 2.0 | 2 | 4.0 | 2 | 4.0 | 1 | 2.0 | 0.0 | 5,620.0 | |||||||||
60歳代 | 5 | 10.0 | 0 | 0.0 | 5 | 10.0 | 4 | 8.0 | 1 | 2.0 | 0.0 | 0.0 | 780.0 | 4,380.0 | |||||||
性別 | |||||||||||||||||||||
男性 | 11 | 22.0 | 2 | 4.0 | 9 | 18.0 | .641 | 9 | 18.0 | 2 | 4.0 | .704 | 0.0 | 0.0 | .741 | 1,190.0 | 4,490.0 | .163 | |||
女性 | 39 | 78.0 | 5 | 10.0 | 34 | 68.0 | 28 | 56.0 | 11 | 22.0 | 0.0 | 0.0 | 550.0 | 1,150.0 | |||||||
入浴からの経過時間 | |||||||||||||||||||||
1~6時間 | 8 | 16.0 | 2 | 4.0 | 6 | 12.0 | .450 | 8 | 16.0 | 0 | 0.0 | .272 | 0.0 | 5,250.0 | .403 | 975.0 | 921.5 | .491 | |||
7~12時間 | 14 | 28.0 | 3 | 6.0 | 11 | 22.0 | 10 | 20.0 | 4 | 8.0 | 0.0 | 250.0 | 905.0 | 1,460.0 | |||||||
13~18時間 | 18 | 36.0 | 1 | 2.0 | 17 | 34.0 | 13 | 26.0 | 5 | 10.0 | 0.0 | 0.0 | 550.0 | 1,825.0 | |||||||
19~24時間 | 10 | 20.0 | 1 | 2.0 | 9 | 18.0 | 6 | 12.0 | 4 | 8.0 | 0.0 | 0.0 | 290.0 | 933.5 | |||||||
ムダ毛処理 | |||||||||||||||||||||
あり | 25 | 50.0 | 4 | 8.0 | 21 | 42.0 | 1.000 | 16 | 32.0 | 9 | 18.0 | .196 | 0.0 | 0.0 | .641 | 480.0 | 970.0 | *.032 | |||
なし | 25 | 50.0 | 3 | 6.0 | 22 | 44.0 | 21 | 42.0 | 4 | 8.0 | 0.0 | 0.0 | 960.0 | 3,795.0 | |||||||
保湿剤・軟膏塗布 | |||||||||||||||||||||
あり | 13 | 26.0 | 5 | 10.0 | 8 | 16.0 | *.009 | 9 | 18.0 | 4 | 8.0 | .719 | 0.0 | 4,000.0 | *.002 | 1,150.0 | 2,925.0 | .366 | |||
なし | 37 | 74.0 | 2 | 4.0 | 35 | 70.0 | 28 | 56.0 | 9 | 18.0 | 0.0 | 0.0 | 550.0 | 1,090.0 | |||||||
水分量 | |||||||||||||||||||||
0~9 | 1 | 2.0 | 0 | 0.0 | 1 | 2.0 | .926 | 1 | 2.0 | 0 | 0.0 | .474 | .917 | .146 | |||||||
10~19 | 0 | 0.0 | 0 | 0.0 | 0 | 0.0 | 0 | 0.0 | 0 | 0.0 | |||||||||||
20~29 | 14 | 28.0 | 2 | 4.0 | 12 | 24.0 | 8 | 16.0 | 6 | 12.0 | 0.0 | 0.0 | 60.0 | 950.0 | |||||||
30~39 | 29 | 58.0 | 4 | 8.0 | 25 | 50.0 | 23 | 46.0 | 6 | 12.0 | 0.0 | 0.0 | 670.0 | 1,320.0 | |||||||
40~49 | 4 | 8.0 | 1 | 2.0 | 3 | 6.0 | 3 | 6.0 | 1 | 2.0 | 0.0 | 5,250.0 | 2,120.0 | 4,875.0 | |||||||
50~59 | 2 | 4.0 | 0 | 0.0 | 2 | 4.0 | 2 | 4.0 | 0 | 0.0 | 0.0 | 4,910.0 | |||||||||
弾力性 | |||||||||||||||||||||
40~49 | 1 | 2.0 | 0 | 0.0 | 1 | 2.0 | .851 | 1 | 2.0 | 0 | 0.0 | .727 | .827 | .270 | |||||||
50~59 | 5 | 10.0 | 1 | 2.0 | 4 | 8.0 | 4 | 8.0 | 1 | 2.0 | 0.0 | 500.0 | 1,630.0 | 2,140.0 | |||||||
60~69 | 9 | 18.0 | 1 | 2.0 | 8 | 16.0 | 7 | 14.0 | 2 | 4.0 | 0.0 | 0.0 | 670.0 | 1,150.0 | |||||||
70~79 | 13 | 26.0 | 2 | 4.0 | 11 | 22.0 | 11 | 22.0 | 2 | 4.0 | 0.0 | 0.0 | 1,340.0 | 6,055.0 | |||||||
80~89 | 7 | 14.0 | 0 | 0.0 | 7 | 14.0 | 5 | 10.0 | 2 | 4.0 | 0.0 | 0.0 | 550.0 | 960.0 | |||||||
90~99 | 15 | 30.0 | 3 | 6.0 | 12 | 24.0 | 9 | 18.0 | 6 | 12.0 | 0.0 | 0 | 480.0 | 930.0 |
検出の有無の検定にはχ2検定およびFisherの正確検定を用いた.検出量の検定にはKruskal Wallis検定を用いた.* p < .05
清拭部位(両前腕)の皮膚の状態について,入浴やシャワー浴などで皮膚を洗浄した後の経過時間では,1~6時間以内が8名(16.0%),7~12時間が14名(28.0%),13~18時間が18名(36.0%),19~24時間が10名(20.0%)であり,平均12.6 ± 5.3時間だった.また,皮膚洗浄後に保湿剤等を塗布した対象者は,50名中13名(26.0%)であり,具体的にはヒルドイド,デルモゾール軟膏,ニベア,アロエベラ,バイオヒールボクリーム,ハトムギ化粧水,化粧水,日焼け止め,乳液・化粧水・保湿ジェルなどを塗布していた.対象者の中で,前腕のムダ毛処理を行なっているのは25名(50.0%),行なっていないのは25名(50.0%)だった.
計測器で皮膚の水分量,油分量,弾力性を計測した.計測器はそれぞれを0(少ない)~99(多い)の数値で評価する.水分については30~39が29名(58.0%)で最も多く,次いで20~29が14名(28.0%)だった.弾力性は90~99が15名(30.0%)で最も多く,70~79が13名(26.0%),60~69が9名(18.0%),80~89が7名(14.0%)の順だった.油分については,46名が計測不能(EE:少ない)という結果だったため,今回の評価項目からは除外した.
対象者の属性や菌検出に影響する要因とセレウス菌検出の有無についてχ2検定とFisherの正確検定を行った.その結果,入浴・シャワー後に前腕に保湿剤や軟膏等を塗布した対象者の清拭直後タオルが,塗布していないタオルより,セレウス菌が検出された割合が有意に高かった.それ以外の項目について有意差は認めなかった.
次に,タオル1枚あたりのセレウス菌及び一般細菌の検出量を属性や要因で比較した.Kruskal Wallis 検定を行った結果,ムダ毛処理の項目で有意差(p < 0.05)を認めた.ムダ毛処置をした対象者の24時間保管後のタオルから検出されたセレウス菌量は中央値480 × 104 CFU(IQR 970 × 104)であり,処理していない場合は960 × 104 CFU(IQR 3,795 × 104)で,ムダ毛処理していないタオルの方が多くのセレウス菌が検出された(図2a).また,保湿剤・軟膏塗布の項目では,清拭直後のセレウス菌検出量に有意差(p < 0.05)があり,軟膏塗布した対象者のタオルでは中央値0.0(IQR 4,000),塗布していないタオルでは中央値0.0(IQR 0.0)だった(図2b).
セレウス菌検出に関連する対象者の要因と検出量の比較
a ムダ毛処理の有無とセレウス菌量(24時間保管後)
b 洗浄後の保湿剤塗布の有無とセレウス菌量(清拭直後)
検定はKruskal Wallis検定を用いた.* p < .05
本研究では,前腕の清拭によって綿タオルにセレウス菌がどの程度付着するか,清拭後のタオルを24時間保管することで,セレウス菌がどの程度増殖するのかについて検証した.その結果,健康な成人の前腕を清拭したタオルからセレウス菌が検出され,24時間常温保管することでセレウス菌は有意に増加することが明らかになった.
1. 前腕へのセレウス菌付着について綿タオルへのセレウス菌付着について,清拭直後は50枚中7枚,24時間保管後は37枚のタオルに付着がみられた.タオル1枚あたりのセレウス菌量が24時間保管により,およそ6,000倍に増加していることから,清拭直後のタオルでは検出限界値以下だったものが,細菌増殖によって顕在化したものと考える.すなわち,本研究では50名中37名(74.0%)の前腕にセレウス菌が付着していることが明らかになった.石原らが2015~2017年にA県在住の20歳以上の成人350名を対象に行った前腕皮膚のセレウス菌汚染状況調査では,被験者の19.4%(68/350名)からセレウス菌が検出されている(石原,2018).今回の結果は,それよりも多い割合でセレウス菌が付着していた.また,付着量も清拭直後では検出限界値以下になるような微量な付着から,タオル1枚(280 mm × 430 mm)あたり102,000 CFUまでと個人差が大きかった.
皮膚表層に常在する優勢菌は,グラム陽性球菌である表皮ブドウ球菌と黄色ブドウ球菌であるが,皮膚の部位によって細菌叢を形成する優勢菌が異なり(Grice & Segre, 2011),特に前腕などの乾燥した領域では細菌の多様性が高い(Gao et al., 2007).セレウス菌は,土壌や堆積物,粉塵,植物中に存在する好気性菌であり,自然界では芽胞体および栄養細胞として,人体に定着する際には栄養細胞として存在する(Bottone, 2010).Bibelら(1978)の報告では,Bacillus licheniformisの芽胞を16名の前腕部に塗布した結果,個人差は大きいものの,皮膚上で発芽増殖し,少なくとも2週間は生存し続けた.河瀬ら(2015)は,看護師136名を対象に,石鹸流水手洗いとアルコールの手指消毒後の手指から細菌を検出した結果,48名(35.3%)から芽胞形成菌であるBacillus subtillsが検出され,うち7名は10 CFU以上検出されたと報告した.長富ら(2013)は,30秒以上の流水と石鹸による手洗いを行って一過性に菌を除去しても,セレウス菌が手掌において常に一定数検出されたことを報告した.これらのことは,セレウス菌などのグラム陽性有芽胞桿菌は,自然環境中から皮膚に付着した場合,流水や洗浄剤,速乾性擦式消毒剤などを使用しても除去しきれずに残存することがあり,そのことが付着量の個人差に影響している可能性を示唆している.
今回,セレウス菌が皮膚に付着している場合,どのような要因がセレウス菌付着とその量に影響するのかを分析するため,対象者の属性や生活スタイル,皮膚の状態について事前に把握した.その結果,入浴・シャワー浴後の保湿剤等の塗布やムダ毛の処理に有意差があった.職業,衣服の選択,抗生物質の使用などの個人に特有の環境因子は,皮膚に生息する微生物のコロニー形成を調節する可能性があり,化粧品,石鹸,衛生要因,保湿剤なども皮膚の微生物の生息に影響をもたらす潜在的な要因である(Grice & Segre, 2011).また,温度,湿度,光照射などの環境因子,性別,遺伝子型,免疫状態,化粧品の使用などの宿主因子はすべて,微生物の構成,集団サイズ,集団構造に影響を及ぼす(河瀬ら,2015).これらのことから,保湿剤や軟膏の塗布は皮膚にセレウス菌が付着しやすい条件となり,一方体毛を除去することはセレウス菌が付着しにくい条件となることが示唆された.しかし,今回,保湿剤等の塗布や体毛の除去以外の項目においては統計学上の有意差は認められなかった.先行研究には個人差が生じる要因の手がかりは得られなかったとする報告があり(Bibel et al., 1978),先述したように流水や洗浄剤,速乾性擦式消毒剤などを使用しても菌が除去されず残存することなどを踏まえると,セレウス菌付着に影響を及ぼす要因を特定するためには,直近の生活状況等を把握するだけでは不十分であり,より多角的な視点で分析する必要がある.また,本研究は清拭を行った時期が8月~10月であり,対象者の多くが半袖の着衣で生活している時期である.そのため,前腕のセレウス菌の付着に対する着衣の影響についても検討する必要がある.
セレウス菌の血流感染は点滴静脈内注射のために末梢カテーテルを留置している患者に多く発生する(麻生ら,2012).前腕の皮膚からセレウス菌が検出されたことを踏まえると,免疫機能の低下した患者に末梢カテーテルを留置するような場合,清拭タオルをディスポーザブルにする以外に,前腕にセレウス菌が付着している可能性も視野に入れて穿刺前の皮膚の細菌除去に努めることが必要である.今回,清拭によって綿タオルにセレウス菌が付着したという結果は,セレウス菌汚染のない綿タオルで清拭することによって,前腕に付着していた細菌やセレウス菌を物理的に除去できることも示唆している.
2. タオルに付着したセレウス菌の増殖について血流感染の要因となる清拭タオルの汚染については,リネンサプライ業者への洗濯の委託が関連していると言われている.糸賀ら(2016)の調査では,5施設のタオルの使用状況と患者の血液からのセレウス菌検出状況との関連について,ディスポーザブルタオルを使用したり,再生使用タオルを自施設で洗濯している施設はセレウス菌検出数が少なく,クリーニング業者に洗濯を依頼している病院は検出数が有意に多かった.細川ら(2018)の調査でも同様に,自施設での洗濯によりタオルのセレウス菌検出が少なくなるほか,業者の洗濯方法(バッチ式,連続式),次亜塩素酸ナトリウムの浸漬の有無,タオルの交換頻度などがセレウス菌検出の有無や量に影響すると述べている.
清拭タオルのセレウス菌汚染は,セレウス菌が芽胞形成菌であるため,熱や消毒薬などに抵抗性があり,クリーニングでも落としきれないことが原因とされている.これは,洗濯する前のタオルが高濃度に汚染されていることに関連がある.余ら(2010)は,クリーニング工場で工程ごとのタオルのセレウス菌数を調べた結果,洗濯前のタオルでは1 cm2あたり106 CFU以上のセレウス菌汚染があり,洗濯後に平均4,232 CFUに減少したものの,残存菌数レベルが高かったと報告している.本研究では清拭後のタオルを常温で24時間保管した結果,セレウス菌数が6,000倍に増加した.また,井沢・伊藤(2005)の報告では,院内で使用しているタオルを濡らした直後のBacillus属およびその類縁菌が約6.6 × 103 CFU/mLであるのに対し,2日間の保管で10倍,3日目では潜在していたブドウ糖非発酵菌が急増してタオルが高濃度汚染状態を示した.麻生ら(2012)の研究では,各種輸液製剤で菌種の異なる細菌を培養した結果,セレウス菌はStaphylococcus spp.の約100倍の増殖力があることを明らかにした.つまり,洗濯前のタオルがセレウス菌に高濃度に汚染されるのは,病院で清拭に使用したタオルを使用後湿潤状態のままで1箇所に集めて室温保管しておくことが関係している.業者が回収し洗濯するまでに細菌が急激に増殖することによって生存環境が悪化し芽胞を形成するため,クリーニングでは落としきれずに再び病院に納品されるというサイクルが生じる可能性が高い.余ら(2010)は,清拭タオルのセレウス菌汚染を改善する対策について,クリーニング工程でできる対策としては,①クリーニング現場でのタオルの仕上げ工程として芽胞が死滅する温度での工程を加える,②タオルの生地を表面が平坦なものに変える,③洗いの水量を増やすなどを提案している.また,クリーニング工場での改良に限界がある場合は,何らかの殺菌処置をした上で外部業者に委託することを提案している.臨床では清拭後に次亜塩素酸ナトリウムなどを用いてタオルを殺菌処置することが望ましいと考えるが,業務負担が増加する懸念もある.そのため,今後,タオルを濡らす際の水道水に添加できるものとして,殺菌効果があり,なおかつ皮膚に害を及ぼさない清拭剤などを用いることができれば,使用後のタオルを常温保管しても細菌の増殖を抑えられるため,タオルが高頻度にセレウス菌汚染することが減少し,タオルに起因した感染症の予防にもつながるのではないかと考える.
今回の研究では,タオルに付着したセレウス菌の遺伝子型を特定していない.日本のセレウス菌院内感染から分離されたセレウス菌株は,遺伝子解析で新規配列型(ST)が優位であり,この株は他のセレウス系統に比べAnthracis系統に近いこと,また,食中毒由来株とは異なるものであることが明らかになっている(Akamatsu et al., 2019).一方,入院患者の持ち込みタオルに起因した血流感染の報告もある(中村ら,2017).本研究で検出されたセレウス菌株は,血流感染由来株ではなく,食中毒由来株である可能性がある.また,血流感染由来株が,院内環境に限定するものなのか,自然環境中にも存在するものなのかについても今後検証する必要がある.
前腕の清拭による綿タオルへのセレウス菌付着と,保管による菌の増殖について検証した結果,24時間常温保管したタオルでは,対象者50名中37名のタオルからセレウス菌が検出された.また,セレウス菌量は24時間保管することでおよそ6,000倍に増加した.保湿剤の塗布やムダ毛処理など関連要因の影響もあるため,セレウス菌付着の有無や付着量には個人差はあるが,清拭後のタオルを常温保管することで細菌が増殖すると,セレウス菌が芽胞を形成する可能性が高くなる.セレウス菌血流感染の予防には,タオルの管理方法として,使用したタオルの細菌増殖を抑制するための殺菌処理等が必要になることが示唆された.
付記:本研究の一部は,The 25th East Asian Forum of Nursing Scholars Conferenceにおいて発表した.
謝辞:本研究を実施するにあたり実験環境を提供くださいました,弘前大学大学院医学研究科感染生体防御学講座の浅野クリスナ教授に心よりお礼申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:メンバー全員が研究の着想およびデザインに貢献;NW,YT,MO,SI,YKは研究対象者の募集から実験の全プロセスの実施に貢献;NW,YKは統計解析の実施および草稿の作成;YT,MO,SIは学会発表の際のポスター作成と助言;ANは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.