2023 Volume 43 Pages 469-476
目的:在宅で老老介護を行っている主介護者の生活満足度に影響する要因を明らかにする.
方法:訪問看護を利用している65歳以上の療養者とその介護を半年以上担う65歳以上の主介護者92名を対象に,聞き取り調査を行った.調査内容は,年齢,性別,介護期間,生活満足度,介護負担感,精神健康度,ストレス対処能力(SOC)であった.主介護者の生活満足度を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った.
結果および考察:分析の結果,主介護者の生活満足度が高い者は,低い者よりもSOCが高く,介護負担感が低下しており,介護期間,介護負担感およびSOCが関連していた.これは,主介護者のSOCが高いことにより介護に対するストレスを適切に対処できたため介護負担感が低下し,生活満足度が高くなったと考えられる.
結論:主介護者の生活満足度に影響する要因として 介護期間,介護負担感,SOCが重要であることが示唆された.
Objective: The purpose of this study to identify the factors that affect life satisfaction levels in older adult individuals who are the primary caregivers for elderly family members.
Method: We visited and interviewed a total of 92 study participants consisting of home nursing recipients aged ≥65 years and their primary caregivers of at least 6 months who were also aged ≥65 years. Our survey contained questions on the participant’s age, sex, duration of care, life satisfaction (LSI-K), perceived care burden (J-ZBI), mental health status (CES-D8), and sense of coherence (SOC; SOC13-5). We then performed multiple logistic regression analysis on the survey caregivers’ life satisfaction as the dependent variable.
Results and Discussion: The results of our analysis indicated that the primary caregivers with a high level of life satisfaction (LSI-K) had a higher SOC (SOC13-5) and lower perceived care burden (J-ZBI) than those with low life satisfaction (LSI-K), and that duration of care, perceived care burden (J-ZBI) and SOC (SOC13-5) were all involved in this outcome. That is, the higher levels of life satisfaction (LSI-K) seen in some of the primary caregivers in this study could be attributed to a high SOC (SOC13-5) that allowed them to properly cope with care-related stress, thereby reducing their perceived care burden (J-ZBI).
Conclusion: Our study findings suggest that duration of care, perceived care burden (J-ZBI) and SOC (SOC13-5) are all important factors that affect the life satisfaction (LSI-K) of older adult primary caregivers.
世界に先がけて超高齢者社会に突入したわが国は,高齢化率が2019年に28.4%と過去最高となっており,2065年には38.4%に達し約2.6人に1人が65歳以上になると推測(内閣府,2022)されている.高齢化は世界各国においても直面する問題であり,我が国の対応には,国際社会が高い関心を寄せている.急速な高齢化により,寝たきりや認知症の高齢者が増加している.わが国の世帯構造をみると65 歳以上の者のいる世帯は2,580万9千世帯(全世帯の49.7%)となっており,そのうち「夫婦のみの世帯」は825万1千世帯(32.0%)と最も多く(厚生労働省,2022),介護を高齢者に頼らざるを得ない現状がある.介護者は,高齢化に伴う身体的状況や今後の先の見えない不安があること(Adelman et al., 2014)から,老老介護による高齢介護者が在宅で介護を継続していく上での困難さが伺える.
老老介護が問題となる背景には,高齢介護者の全身持久力,筋力,バランス能力が加齢と共に低下する要素(Marcell, 2003)や,転倒,低栄養,生活機能の低下,閉じこもり,うつが要介護状態を招く症状が存在し(鈴木,2003),加齢に伴う身体的な衰えによる精神的・身体的負担があげられる.療養者の認知機能や介護時間が介護者の介護負担感に影響しており,心理・社会的な介入により介護負担感が軽減したことが報告(Adelman et al., 2014;Kamiya et al., 2014)されている.
さらに,老老介護を行っている介護者の精神健康度の要因の報告(Schulz & Sherwood, 2008;Ninomiya et al., 2019)や,介護者の精神的健康と介護負担感との関連について数多く報告(Shakeel & Rana, 2015;辰巳・山本,2010;安藤ら,2009)がある.また,高齢者は高齢になるほど抑うつが高く,他者との社会的交流の低下が抑うつと関連している(Weiss Wiesel et al., 2014)が,東野ら(2006)は,介護者のうつ病の割合は,一般集団よりも高く,介護者の精神健康度に関連していたと述べている.介護者の精神的健康を維持しストレスに適切に対処するためには,Antonovsky(1987)が提唱する健康生成論の中心概念であるストレス対処能力(Sense of Coherence:以下,SOCとする)が重要である.SOCの高い者は状況を察知してストレッサーを少なくすることから,介護負担感を低下(Potier et al., 2018)させ,QOLを高める(Andrén & Elmståhl, 2008;Chumbler et al., 2008)ことが報告されている.
訪問看護の利用者は,「要介護3」以上が半数を占めており(厚生労働省,2018),その介護者には「ほとんど終日」介護している者が多い(厚生労働省,2020).高齢介護者を対象とした社会活動と生活満足度についての調査では,生活満足度と関連が認められた社会活動は個人活動であり,近所づきあい,友人などの訪問が関連していたと報告(岡本,2008)がある.介護者は,老老介護を行うことによって社会活動が低下し,通いの場への社会的活動の機会が制限され,近隣や知人との交流が減ることが考えられ,生活満足度が低下していることが想定される.老老介護を行っている介護者を対象とした生活満足度についての報告は見当たらないことから,老老介護における主介護者の生活満足度に影響する要因は明確になっていない.よって本研究では,老老介護における主介護者の生活満足度に影響する要因を明らかにし,訪問看護師や地域の専門職による主介護者の生活満足度を高める支援のあり方を検討することを目的とする.
本研究における老老介護とは,吉田(2008)による「老人を介護する介護者もまた老人である状態」を参考に,「65歳以上の高齢者が,65歳以上の療養者を介護すること」と定義した.
調査対象者は,在宅で訪問看護を利用している65歳以上の療養者の介護を担う65歳以上の主介護者である.対象者の選定条件として1)介護者は,介護を半年以上担っていること,可能な限り正確な回答を得るために2)介護者は認知症がないこと,3)療養者の疾患は問わないこと,4)療養者との同居の有無は問わないこととし,選定条件に合った者を対象とした.
2. 調査方法中四国地方の5市の訪問看護ステーション18か所の管理者に依頼し,18名の同意および協力を得た.紹介のあった対象者宅へ研究者が電話連絡にて予定を確認の上,訪問調査により質問紙に基づき40~90分間で聞き取りを行い,その場で記入した.調査期間は,2014年1月~2019年4月であった.
3. 調査内容 1) 主介護者 (1) 基本属性性別,年齢,続柄,同居の有無,疾病の有無,代介護者の有無,介護期間,趣味・気分転換の有無を調査した.
(2) ADL(Barthel index: BI)BIはMahoney & Barthel(1965)によって報告され,排尿,排便自制,トイレ動作,食事,更衣,椅子とベッド間の移乗,入浴,移動,階段の昇降からなる10項目の総得点で100点になるように評定が配置されている.得点が高いほど自立度が高いことを示す.本研究におけるクロンバックα係数は.98であり,内的整合性を確認した.
(3) 生活満足度(Life Satisfaction Index K: LSI-K)LSI-KはPCGモラル・スケール(Philadelphia Geriatric Center Morale Scale)(Lawton, 1975),Life Satisfaction Index A(LSIA)(Neugarten et al., 1961)に基づいて古谷野ら(1989)により開発された尺度である.9項目からなり,下位尺度は「人生全体に関する満足感」4項目,「老いについての評価」3項目,「心理的安定」2項目で構成されている.9項目の尺度のうち8項目は2件法で行い,1項目のみ3件法で回答を求めるものであり,得点が高いほど生活満足度が高いことを示す.本研究におけるクロンバックα係数は.71であり,内的整合性を確認した.
(4) 精神健康度(Center for Epidemiologic Studies Depression Scale 8: CES-D8)CES-D8はMelchiorら(1993)が開発した尺度であり,8項目で構成され,4件法で回答を求めるものである.得点が高いほど抑うつ度が高いことを示しており,7点をcut-off pointとし,7点以上で「抑うつ傾向あり」を示唆している.本研究におけるクロンバックα係数は.73であり,内的整合性を確認した.
(5) 介護負担感(Japanese version of the Zarit Burden Interview: J-ZBI)J-ZBIはZarit et al.(1980)が開発した尺度をAraiら(1997)が日本語版にした尺度であり,22項目で構成され,介護による身体的・心理的負担,経済的困難等を総括し介護負担として測定することが可能な尺度である.5件法で回答を求め,得点が高いほど介護負担感が高いことを示す.本研究におけるクロンバックα係数は.88であり,内的整合性を確認した.
(6) ストレス対処能力(Sense of Coherence Scale 13-5: SOC13-5)SOC13-5は,Antonovsky(1987)が作成した尺度を山崎らが日本語版にした尺度である(戸ヶ里・山崎,2005;山崎ら,2008).この尺度は,13項目あり,下位尺度は「処理可能感」4項目,「把握可能感」5項目,「有意味感」4項目で構成されている.5件法で回答を求め,得点が高いほどSOCが高いことを示す.本研究におけるクロンバックα係数は.79であり,内的整合性を確認した.
2) 療養者基本属性として性別,年齢,病期,要介護度,認知症の状態,社会資源サービスの活用状況を調査した.
4. 分析方法対象者の生活満足度(LSI-K)合計得点の平均値を基準に「生活満足度(LSI-K)高群」および「生活満足度(LSI-K)低群」の2群に分け,各変数との差異をχ2検定およびMann-Whitney U検定を行った.また,生活満足度(LSI-K)と精神健康度(CES-D8),介護負担感(J-ZBI)およびSOC(SOC13-5)の間においてスピアマンの順位相関係数を求めた.さらに,生活満足度の要因を明らかにするために,生活満足度(LSI-K)を従属変数,単変量解析にて有意差が認められた項目を独立変数として多重ロジスティック回帰分析(変数増加法:尤度比)を行った.モデルに投入する独立変数の有意水準は0.1とした.分析にあたっては,次の通りダミー変数を設定した.生活満足度(LSI-K)は,合計得点の平均値により「4点以下」を「1」,「5点以上」を「0」とした.統計解析にはSPSS Ver25.0を用い,有意確率は5%未満とした.
5. 倫理的配慮調査対象者に,研究の趣旨と方法を説明の上,研究の参加は自由意思であり,不参加,中断の場合でも不利益を被ることはないこと,またデータは匿名化し研究の目的以外には使用しないこと,研究終了後にデータは速やかに破棄すること,研究結果は,専門・学術雑誌および学会等での発表に使用することを口頭および文章で説明し,同意を得た.また,宇部フロンティア大学研究倫理委員会(承認番号2013010)および広島大学疫学研究倫理審査委員会(承認番号E-1116-1)の承認を得て実施した.
本研究では,訪問看護ステーションの管理者から96名の紹介を受け,そのうち95名を訪問した.選定条件に合わなかった3名および欠損値のあった1名を除外し,92名を分析対象とした.
1. 主介護者および療養者の基本属性主介護者の全体の平均年齢は76.48 ± 6.72歳で,年齢構成では75歳以上の者が54名(58.70%)であった.女性が68名(73.91%)と多く,ADL(BI)の平均得点は98.04 ± 3.47点であった.療養者との続柄は,妻が56名(60.87%)であり,次いで夫22名(23.91%),娘10名(10.87%)であった.家族との同居の有無では,ありの者が88名(95.65%)であり,そのうち夫婦のみが66名(75.00%),次いで子どもと同居20名(22.73%)であった.また,14名(15.22%)が要介護認定を受けており,要介護度は要支援1~要介護2であった.主介護者の生活満足度(LSI-K)全体の平均得点は4.59 ± 2.13点であり,精神健康度(CES-D8)の平均得点は5.48 ± 4.15点で抑うつありの者が29名(31.52%)であり約1/3の者に抑うつがあった.介護負担感(J-ZBI)の平均得点は25.29 ± 13.54点であり,SOC(SOC13-5)の平均得点は51.25 ± 7.15点であった(表1).
主介護者の基本属性 N = 92
項目 | カテゴリー | Mean ± SD |
---|---|---|
年齢(歳) | 76.48 ± 6.72 | |
介護者ADL(BI) | (0~100)(点) | 98.04 ± 3.47 |
生活満足度(LSI-K) | (0~9)(点) | 4.59 ± 2.13 |
精神健康度(CES-D8) | (0~24)(点) | 5.48 ± 4.15 |
介護負担感(J-ZBI) | (0~88)(点) | 25.29 ± 13.54 |
SOC(SOC13-5) | (13~65)(点) | 51.25 ± 7.15 |
人数(%) | ||
性別 | 男性 | 24(26.09) |
女性 | 68(73.91) | |
年齢構成 | 65~69歳 | 18(19.57) |
70~74歳 | 20(21.74) | |
75~79歳 | 23(25.00) | |
80歳以上 | 31(33.70) | |
療養者との続柄 | 妻 | 56(60.87) |
夫 | 22(23.91) | |
娘 | 10(10.87) | |
息子 | 2(2.17) | |
実妹 | 2(2.17) | |
家族と同居の有無 | あり | 88(95.65) |
夫婦のみ | 66(75.00) | |
子どもと同居 | 20(22.73) | |
その他の親族 | 2(2.27) | |
なし | 4(4.35) | |
疾病の有無 | あり | 84(91.30) |
なし | 8(8.70) | |
介護期間 | 1~3年未満 | 42(45.65) |
3~5年未満 | 16(17.39) | |
5年以上 | 34(36.96) | |
要介護度の有無 | あり | 14(15.22) |
要支援1 | 3(3.26) | |
要支援2 | 5(5.43) | |
要介護1 | 4(4.35) | |
要介護2 | 2(2.17) | |
なし | 78(84.78) | |
代介護者の有無 | あり | 37(40.22) |
なし | 55(59.78) | |
趣味・気分転換の有無 | あり | 62(67.39) |
なし | 30(32.61) |
療養者の全体の平均年齢は82.05 ± 7.88歳であり,全体では要介護度は要介護3以上の者が57名(61.96%)であった.認知症高齢者の日常生活自立度については,自立およびI・IIの者が名53名(57.61%),III~IV・Mの者が39名(42.39%)であった.訪問看護以外のサービスの利用状況は,デイサービスが39名(42.39%),訪問介護28名(30.43%),次いで訪問リハビリテーション22名(23.91%)であった(表2).
療養者の基本属性 N = 92
項目 | カテゴリー | Mean ± SD |
---|---|---|
年齢(歳) | 82.05 ± 7.88 | |
人数(%) | ||
性別 | 男性 | 59(64.13) |
女性 | 33(35.87) | |
病期 | 安定期 | 72(78.26) |
不安定期 | 17(18.48) | |
終末期 | 2(2.17) | |
無回答 | 1(1.09) | |
要介護度 | なし | 3(3.26) |
要支援1 | 0(0.00) | |
要支援2 | 4(4.35) | |
要介護1 | 15(16.30) | |
要介護2 | 13(14.13) | |
要介護3 | 12(13.04) | |
要介護4 | 18(19.57) | |
要介護5 | 27(29.35) | |
認知症高齢者の日常生活自立度 | 自立 | 9(9.78) |
I | 25(27.17) | |
II | 19(20.65) | |
III | 25(27.17) | |
IV | 9(9.78) | |
M | 5(5.43) | |
サービスの利用状況 | 訪問系(訪問看護以外) | |
訪問介護 | 28(30.43) | |
訪問入浴 | 10(10.87) | |
訪問リハビリテーション | 22(23.91) | |
通所系 | ||
デイケア | 14(15.22) | |
デイサービス | 39(42.39) | |
シュートステイ | 11(11.96) |
主介護者の生活満足度(LSI-K)高群と低群の比較において介護期間は,生活満足度(LSI-K)高群が5年以上の者は25名(48.08%)であり,生活満足度(LSI-K)低群は1~3年未満の者が24名(60.00%)であった.また,趣味・気分転換がある者が生活満足度(LSI-K)高群は40名(76.92%),生活満足度(LSI-K)低群は22名(55.00%)であった(p = .026).また,精神健康度(CES-D8)得点は生活満足度(LSI-K)高群が3.52 ± 2.87点,生活満足度(LSI-K)低群は8.03 ± 4.20点であり,介護負担感(J-ZBI)得点は生活満足度(LSI-K)高群20.08 ± 11.50点,生活満足度(LSI-K)低群は32.23 ± 13.05点であった(p = .001).さらに,SOC(SOC13-5)得点の生活満足度(LSI-K)高群53.57 ± 6.66点,生活満足度(LSI-K)低群は48.33 ± 6.73点であった(p = .001).療養者については,差は認められなかった(表3).
生活満足度(LSI-K)高群・低群別にみた主介護者の差異 N = 92
項目 | 生活満足度(LSI-K)平均 | P-Value | |||
---|---|---|---|---|---|
生活満足度(LSI-K)高群 | 生活満足度(LSI-K)低群 | ||||
n = 52 | n = 40 | ||||
主介護者の基本属性 | 性別 | 男性 | 12(23.08) | 12(30.00) | .453 |
女性 | 40(76.92) | 28(70.00) | |||
年齢構成 | 65~74歳 | 25(48.08) | 13(32.50) | .133 | |
75歳以上 | 27(51.92) | 27(67.50) | |||
療養者との続柄 | 妻 | 30(57.69) | 26(65.00) | .187 | |
夫 | 11(21.15) | 11(27.50) | |||
実子(息子,娘)他 | 11(21.15) | 3(7.50) | |||
家族と同居 | 夫婦のみ | 36(69.23) | 30(75.00) | .900 | |
その他 | 13(25.00) | 9(22.50) | |||
なし | 3(5.77) | 1(2.50) | |||
疾病の有無 | あり | 45(86.54) | 39(97.50) | .064 | |
なし | 7(13.46) | 1(2.50) | |||
介護期間 | 1~3年未満 | 18(34.62) | 24(60.00) | .027 | |
3~5年未満 | 9(17.31) | 7(17.50) | |||
5年以上 | 25(48.08) | 9(22.50) | |||
代介護者の有無 | あり | 20(38.46) | 17(42.50) | .695 | |
なし | 32(61.54) | 23(57.50) | |||
趣味・気分転換の有無 | あり | 40(76.92) | 22(55.00) | .026 | |
なし | 12(23.08) | 18(45.00) | |||
療養者の基本属性 | 性別 | 男性 | 31(59.62) | 28(70.00) | .303 |
女性 | 21(40.38) | 12(30.00) | |||
病期 | 安定期 | 42(80.77) | 30(75.00) | .469 | |
不安定期・終末期 | 10(19.23) | 9(22.50) | |||
無回答 | 0(0.00) | 1(2.50) | |||
要介護度 | 要支援1・2,要介護1 | 20(38.46) | 15(37.50) | .925 | |
要介護2~5 | 32(61.54) | 25(62.50) | |||
認知症高齢者の日常生活自立度 | 自立・I | 24(46.15) | 15(37.50) | .405 | |
II・III・IV・M | 28(53.85) | 25(62.50) | |||
サービスの利用状況 | 訪問看護のみ利用 | 6(11.54) | 4(10.00) | .814 | |
訪問看護とその他のサービスの利用 | 46(88.46) | 32(80.00) | |||
主介護者 | 精神健康度(CES-D8) | (0~24)(点) | 3.52 ± 2.87 | 8.03 ± 4.20 | .001 |
介護負担感(J-ZBI) | (0~88)(点) | 20.08 ± 11.50 | 32.23 ± 13.05 | .001 | |
SOC(SOC13-5) | (13~65)(点) | 53.57 ± 6.66 | 48.33 ± 6.73 | .001 |
Chi-squared test and Mann-Whitney U test
生活満足度(LSI-K)得点との間において単変量解析にて有意差が認められたのは,精神健康度(CES-D8)得点(p < .01),介護負担感(J-ZBI)得点(p < .01),SOC(SOC13-5)得点(p < .01)の3項目であった(表4).さらに,多重ロジスティック回帰分析を行った結果,生活満足度(LSI-K)高群に関連する要因として,介護期間(OR: 0.47, 95%Cl: 0.26~0.85),介護負担感(J-ZBI)(OR: 1.07, 95%Cl: 1.02~1.12)およびSOC(SOC13-5)(OR: 0.92, 95%Cl: 0.85~0.99)が検出された(表5).
単変量解析による生活満足度(LSI-K)との各項目の関連 N = 92
項目 | 生活満足度(LSI-K) |
---|---|
精神健康度(CES-D8) | .388** |
介護負担感(J-ZBI) | –.491** |
SOC(SOC13-5) | .562** |
Spearman’s rank correlation coefficient,** p < .01
多変量ロジスティック回帰分析による生活満足度(LSI-K)に関連する要因 N = 92
項目 | n | 介護期間 | P-Value | 介護負担感(J-ZBI) | P-Value | SOC(SOC13-5) | P-Value |
---|---|---|---|---|---|---|---|
LSI-K得点 | |||||||
低群(5点未満) | 40 | 1.00 | 1.00 | 1.00 | |||
高群(5点以上) | 52 | 0.47(0.26~0.85) | .012 | 1.07(1.02~1.12) | .004 | 0.92(0.85~0.99) | .031 |
各項目における高群の数値は,低群を1とした時のオッズ比(95%信頼区間)
年齢,趣味の有無を共変量として調整
主介護者の平均年齢は76.48 ± 6.72歳であり,BIの平均得点は98.04 ± 3.47点とADLが自立(The National Institute of Neurological Disorders and Stroke rt-PA Stroke Study Group, 1995)している者が介護を行っていた.加齢とともに身体的な機能低下が著しくなるのは,個人差はあるものの後期高齢者に入る75歳を過ぎた時期といわれている(Strehler, 1962).しかし,本研究の高齢者の中で要介護度認定を受けている者は14名おり,介護を行うことは負担が大きいと考えられるが,主介護者ADLが自立している値の範囲であることから介護を継続できているのではないかと考える.
高齢介護者の生活満足度に影響する要因として,介護期間,介護負担感およびSOCが検出された.本研究における生活満足度高群の介護者は,趣味や気分転換があり,介護期間が長い者が多かった.本研究における介護者は,介護期間の経過と共に介護が生活の一部になり,介護のやりがいに繋がったため,生活満足度を高めた可能性が考えられる.また,SOCが高いことからストレスを適切に対処でき,介護負担感を軽減したため長期間の介護を継続できたと考えられる.岡林ら(1999)は,介護という長期間続く見返りの少ないストレスは,主介護者が精神的に頑張るだけでは乗りきれず,ストレスに対処するためには,介護から距離をおくことが必要であると述べている.介護者は,趣味や気分転換を行うことにより介護から距離をおき,ストレスに対処できたことから生活満足度を高めたのではないかと考える.
生活満足度低群では,介護者の介護負担感が高い結果であり,牧迫ら(2008)とLavretsky(2005)の調査と同じ結果であった.大きな介護負担感を有する介護者は生活満足度を低く感じていた.また,生活満足度低群の精神健康度平均得点は8.03 ± 4.20と抑うつ傾向を示しており,趣味や気分転換が行えておらず介護負担感も大きいことから介護者は心理的問題を抱えている可能性がある.介護中心の生活になっていることが推測され,介護から距離をおくことができるレスパイトケアの必要性や精神的な支援の必要性が示唆された.そのようなことから,訪問看護師は,主介護者の状況によって地域包括支援センターへつなげたりするなど介護者の継続的な支援が求められる.
SOCの高い者は状況を察知してストレッサーを少なくすることから,介護者のストレスに対処するためには介護負担感を低下(Potier et al., 2018)させ,QOLを高める(Andrén & Elmståhl, 2008;Chumbler et al., 2008)と報告されている.本研究において,生活満足度高群は低群よりもSOC得点が高いため,ストレスを適切に対処でき,介護負担感を低下させており,その結果,生活満足度が高くなっているのではないかと考える.また,SOCの階層的縦断研究(Silverstein & Heap, 2015)では,健康資源や社会資源の不足は70歳以降のSOCの急激な下降につながるが,要因を排除すればSOCは老年期においても上昇するという結果を示しており,健康資源,社会資源を維持できるような支援が求められる.介護者の健康を維持するために,介護があっても介護予防サービスを利用できるような地域での体制づくりが必要である.また,療養者の状態の応じた社会資源サービスの選択や利用している場合は,継続できるような支援が必要である.さらに,SOCの高い者は,時や場合に応じて柔軟かつ比較的すばやく適切な対処方略を選び取り駆使する(Antonovsky, 1987/2001)といわれており,介護者のSOCの高さが介護をする上で重要と考える.
主観的幸福の重要な指標として生活満足度は,老化の過程で重要な役割を果たしており,生活満足度が高い高齢者はポジティブな影響を経験し,優れた身体的および精神的健康状態を享受し,成功した老化を達成する可能性が高くなる(Xue et al., 2018)ことが報告されている.本研究における主介護者は,SOCの高い者の生活満足度が高くなっており,高齢介護者の生活満足度に影響する要因として,個人の潜在的能力であるSOCが重要であることが示唆された.
本研究は日本の地方都市における横断研究であり,高齢介護者の中でも調査に応じられる者が対象となった可能性があり,一般化するには限界がある.また,高齢介護者は今後も増加していくと推測されることから,さらに調査範囲および対象者数を増やし検討する必要がある.
高齢主介護者の生活満足度(LSI-K)に影響する要因として,介護期間,介護負担感(J-ZBI),SOC(SOC13-5)が検出できた.高齢主介護者の生活満足度を高めるためには,個人の潜在的能力であるSOCを高める支援が重要であることが示唆された.
謝辞:本研究にご協力いただきました主介護者,療養者および訪問看護ステーションの管理者・スタッフの皆様に深く感謝致します.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:SNは研究の着想及びデザイン,データ収集と分析,原稿作成のプロセス全体に貢献した.HNはデータ分析と解釈,原稿作成に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み承認した.