Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Implications of Reorganizing the Lives of Elderly People Living Alone Discharged From a Community Comprehensive Care Unit
Masae KanajiMisa SoneShimpei HayashiKeiko Matsumoto
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2023 Volume 43 Pages 557-565

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Abstract

目的:地域包括ケア病棟を退院した独居高齢者の生活の編み直しの意味を明らかにする.

方法:急性期病棟に入院後地域包括ケア病棟に移った後退院し,独居で療養生活を送る高齢者14名を対象に半構造化面接法を行い質的記述的に分析した.

結果:地域包括ケア病棟を退院した独居高齢者の生活の編み直しの意味として【生活を切り替える】【過去を肯定する】【暮らしを楽しむ】【暮らしを取り戻す】【覚悟して生きる】【用心しながら暮らす】の6つのカテゴリーが抽出された.

結論:地域包括ケア病棟を退院した独居高齢者の生活の編み直しの意味は,入退院の経験を有したことで元々の生活スタイルや暮らし方を再考し,それまでの人生を振り返り,肯定や受容を通してあえて選択した独居を楽しみ,元の生活を取り戻しながらも命の期限を感じ,人生しまいを準備する暮らしに意義を持つことであった.

Translated Abstract

Objective: This study aimed to clarify the meaning of reorganizing the lives of elderly people living alone discharged from a community comprehensive care unit.

Methods: We conducted semi-structured interviews with 14 elderly people living alone discharged from a community comprehensive care unit after being hospitalized in an acute care unit and conducted a qualitative descriptive analysis of their lives.

Results: Six categories were extracted as meanings of reorganizing the lives of elderly people living alone after discharge from the community comprehensive care unit,switching lives, affirming the past, enjoying life, regaining life, living with determination, and living with caution.

Conclusion: In reorganizing the lives of elderly people living alone discharged from the community comprehensive care unit , they reconsidered their original lifestyle and way of living after being in and out of the hospital. Moreover, they looked back on their lives to that point and, through affirmation and acceptance, lived with determination and simultaneously confronted their mortality.

Ⅰ. 緒言

我が国は,世界に類を見ないスピードで高齢化が進み,高齢化率は28.4%(内閣府,2020)となった.寿命の延伸と少子化に伴い世帯構成も変化しており,世帯主が65歳以上の単独世帯は,2015年の32.6%から2040年には40.0%になる見込みである(国立社会保障人口問題研究所,2018).我が国の高齢者は急速に独居化しつつある.独居高齢者の生活を継続するための支援として,疾病の早期発見と予防,転倒などによる怪我の予防,生活機能の低下の予防等(柄沢・稲吉,2008)があり,独居高齢者は非独居高齢者と比較して有意に地域活動への参加が少なく,運動機能においては,有意に低い値を示すことや独居高齢者は生きがいを得られず,閉じこもり傾向にある(久保ら,2014).独居高齢者は,ADL,認知面などの機能が障害されると独居の継続が困難となることや,頼りにできる存在が身近に居らず(内閣府,2015b),社会的に孤立する可能性もある(内閣府,2012).また,誰にも看取られない孤独死を身近な問題だと感じている人の割合は,60歳以上の者全体では34.1%だが,独居世帯では50.8%と5割を超えていた(内閣府,2020).しかし,今のまま一人暮らしでよいと答えた者の割合が76.3%であった(内閣府,2015a).

厚生労働省は,超高齢社会において,住み慣れた地域の中でその人らしい生活を継続できるよう,高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで,地域包括ケアシステムの構築を推進(厚生労働省,2020a)しており,このシステムを支える大きな要となる地域包括ケア病棟が制度化された(厚生労働省,2013).地域包括ケア病棟の機能には在宅生活復帰支援があり,ここに入院する患者は,高齢で複数疾患を有し,ADLと認知機能が低下している上,内服している薬剤数が多く,発症する前から生活支援を必要とする人が多い(仲井,2020).一方,急性期病院に入院する患者では,治療の優先により入院や手術に伴う侵襲,短期間であっても臥床を強いられる場合が多い.そのため症状が改善しても,ADL,認知機能,意欲の低下が起こり,入院期間の延長や施設への転院が多くなっている(相川ら,2012小林ら,2017).

これらの背景から,高齢者は,病状の変化に伴い,生活を調整し立て直すことを繰り返し行う課題を担っていると考えられる.在宅復帰に向けて,急性期病院や急性期病棟を経由して,地域包括ケア病棟を退院している現状はあるものの,地域包括ケアシステムがその理念通りに機能していない可能性がある.高齢者が重度な要介護状態となっても,住み慣れた地域で自分らしい生活を最期まで送ることを地域一体で支援する体制(厚生労働省,2020a)である地域包括ケアシステムが機能するためには,医療の重要な位置を占める地域包括ケア病棟を退院した高齢者が,その後も継続して自分らしい生活を送ることができるような支援が必要である.地域包括ケア病棟から退院した高齢者の研究を概観すると,その実態は十分に明らかになっているとは言えず,知見を集積する必要がある.

慢性疾患を抱える独居高齢者は,老いや疾病に伴うさまざまな状況と折り合いをつけながら退院後の生活を送っている.折り合いをつけるためには, 日常の活動を行うための工夫が必要で,細かい調整も余儀なくされる.このような調整は,一連の過程と考えられ,ここで行われる内面の作業は,生活の編み直しと呼ばれ,軌跡を管理する過程という概念であり,人生や生活を糸にたとえられる(Woog, 1992/1995).黒江ら(2004)は,その人がそれまで編んできた人生や生活という糸を,少しほどいて編み直すと表現する.生活の編み直しは,療養者やその家族の疾病や影響に焦点化された報告がなされている(小寺・岡本,2007高樽・藤田,2008).しかし,地域包括ケア病棟や在宅という場所を特定した報告や,独居高齢者に対象を絞った報告が充実した段階とは言えない.独居高齢者が生活を継続するためには,疾病管理のみならず生活を視野に入れた支援が重要で,住み慣れた自宅において,意思や選択を尊重して生き生きとした生活の継続を支える方策の検討は喫緊の課題である.

そこで,地域包括ケア病棟を自宅退院した独居高齢者の生活の編み直しに着目した上で,その意味を明らかにすることにした.このことは,独居高齢者の入院中から退院支援時や退院後の関わりの際に,対象をより深く理解でき,寄り添う支援に繋げることが可能になり,独居高齢者自身が暮らしを自分らしく生きるという主体的選択を支える看護の質の向上に資することになると考える.

Ⅱ. 用語の定義

生活の編み直し

本研究における生活の編み直しを,黒江ら(2004)仲澤(2004)長江ら(2000)内田(1999)らの論文から,「過去の体験と,現在おかれている状況を患者自身が気付き,考え,生活障害を抱えつつ自分の意思で生活スタイルを修正して以前に近い状態,または自分の望む状況を自律的に選択して生活を行うこと」とする.

生活の編み直しの意味

退院後の生活を振り返り,本人が発する言語を通して,表された生活の編み直しの様相における内容や表現,他との連関において本人が持つ価値や重要さや意義と定義する.

Ⅲ. 研究方法

1. 研究デザインの種類

半構造化面接法による質的記述的研究

2. 研究期間

研究期間:2019年10月~2021年3月,調査期間:2020年3月~2020年9月

3. 研究参加者(以下参加者と略す)

急性期病棟に入院後地域包括ケア病棟に移った後,退院後1か月以上1年程度経過した療養生活を送る65歳以上の独居の者とした.敷地内別居の者は含まなかった.参加者の除外基準としては,明らかな認知症やうつ病を含む精神疾患のある方と,言語的コミュニケーションが不可能な者とした.

4. データ収集方法

参加者の希望に沿うように日時を調整し,インタビュー場所として了承が得られた後に自宅に訪問して行った.インタビューの前に背景と属性(年齢,性別,婚姻,家族構成,就労状況,信仰の有無,日常生活動作,既往歴,現病歴など)について確認した.

面接は,インタビューガイドに基づき,自宅から急性期病棟に入院されて地域包括ケア病棟に入り,退院してからの生活を調整された中での楽しみや支えとなっていること,入院前の生活と今の生活を比べてみて思うこと,病気を持ちながらの暮らしをしていく上で戸惑ったことや良かったこと,一人暮らしを続けていく上で,より良い暮らしへの工夫などを含めて思うこと,自分は自分の思うように過ごしていきたいと思うような場面や思い,怪我や病気をすることでそのような状況と自分の気持ちをすり合わせていくような場面や思い,入院前の生活を糸に例えるとしたら,怪我や病気をすることで今迄のように過ごせなくはなるが,一旦少しだけほどいて,また編み直したら色合いが変わったり糸の太さが変わったりしてという場面や思い(それを編み直すという表現を伝える)などを30分から1時間を目安に実施した.

5. 分析方法

内容分析が,データをもとにそれが組み込まれた文脈に関して,反復可能でかつ妥当な推論を行うための一つの調査技術である(Krippendorff, 1980/2003)ため,クリッペンドルフの手法を参考に分析を行った.

ICレコーダーに録音したインタビューで得られたデータから,逐語記録を作成した.逐語記録にしたインタビュー内容は,内容の要素によってデータを抜き出し,二つ以上の意味を含まないようにデータを区切り,これを基本データとした.

1次コード化として,研究者の主観によるデータの歪みを避けるために,参加者の表現を言い換える作業に留めながら,データの前後の文脈と表現された言葉の意味に注意しながらコード化を行った.

2次コード化としては,1次コードのうち,意味や表現,認知状態の同じコードを一つのまとまりとして,データの文脈に立ち戻りながらまとまりを比較して,類型化を行った.

サブカテゴリー化としては,すべての参加者のうち,1名の2次コードを内容別に比較し,類型化した.残りの参加者13名の2次コードは1名で生成したサブカテゴリーと照らし合わせながら類型化を行った.共通しなかった2次コードは,文脈に注意しながら関連ある1次,2次コードを探して,新たなサブカテゴリーを抽出した.この時一部共通する意味を持つ2次コードは,分解して参加者ごとに2次コードを再構成する作業を繰り返した.

カテゴリー化としては,すべての参加者のサブカテゴリーを時系列の関係に注目しながら内容別に比較し,類型化して並べ替えた.また,中心となる意味を反映させ,抽象度の高いカテゴリーとなるよう修正を繰り返し,生成していった.

結果の真実性を高めるため,分析の全過程において在宅看護及び高齢者看護における専門家間審議を行い,確認の評価を受け本研究結果の厳密性を高めた.

6. 倫理的配慮

本研究にあたり,香川大学医学部倫理委員会の承認(承認番号2019-179)を得た上で実施した.了解の得られた参加者に,研究者が研究の趣旨を文書と口頭で説明して同意を得た.同意取得にあたっては,研究者が説明文書を用いて研究の内容等を説明した.参加者が説明内容を十分に理解したことを確認した上で,本研究への参加について本人の自由意思による同意を文書で取得した.インタビュー途中や終了後も,いったん同意した内容を撤回できることができること,参加者に研究参加を撤回しても不利益がないことを説明した.

一定時間インタビューを行うことにより,参加者が負担を感じる可能性があるため,インタビューの途中で気分不良や話したくない内容であると訴えた場合は,インタビューを休止又は中止すること,本研究で参加者から得る情報は本研究以外には使用しないことなどを説明した.これらについて同意が得られ,同意書に署名が得られた場合のみインタビューを行った.また,同意が得られた場合のみ録音を行った.

Ⅳ. 結果

1. 参加者の属性

参加者は14名,60歳代後半から90歳代後半で男性2名女性12名であった.年齢は60歳代後半1名,70歳代前半2名,80歳代前半2名,80歳代後半8名,90歳代後半1名であった.11名が後期高齢者であった.平均年齢は83.1歳,地域包活ケア病棟の入院期間は,16日から60日,入院期間の平均日数は37.2日,独居で生活している期間は約1年から60年,平均15.9年であった(表1).インタビューを行った時期は退院後5か月から11か月であった.

表1 

研究参加者の属性

年代 性別 主な疾患 要介護度 独居年数 急性期系病棟滞在日数 地域包括ケア病棟入院日数
A 90歳代後半 左膝蓋骨骨折 要支援1 45年 0日 56日
B 60歳代後半 左変形性股関節症 未申請 18年 100日 18日
C 80歳代後半 左大腿骨骨幹部骨折 要支援2 1年 69日 56日
D 70歳代前半 脱水症 要介護1 15年 17日 60日
E 80歳代前半 左恥骨骨折 要介護2 3年 24日 51日
F 80歳代後半 腎機能障害 要支援2 12年 3日 29日
G 70歳代前半 小脳梗塞後遺症 要介護1 4年 27日 60日
H 80歳代後半 頻脈性不整脈 要介護3 26年 50日 60日
I 80歳代後半 坐骨神経痛 要支援2 8年 10日 10日
J 80歳代前半 一過性意識障害 要介護2 8年 44日 16日
K 80歳代後半 直腸カルチノイド 要介護1 6年 69日 10日
L 80歳代後半 左脛骨高原骨折 要介護4 60年 48日 59日
M 80歳代後半 右大腿骨顆上骨折 要支援2 15年 87日 27日
N 80歳代後半 脊柱管狭窄症 要支援1 1年 28日 9日

2. 生活の編み直しの意味の構成

分析を行った結果,6カテゴリーと19サブカテゴリーが抽出された.表2にカテゴリー,サブカテゴリー,主なコードを示す.以下,カテゴリーごとに順次説明を記述した.なお,カテゴリーは【 】,サブカテゴリーは[ ]で表示し,コード化の根拠となった参加者の代表的な語りは斜体『 』を用いて示した.アルファベットは表1に準じた参加者を表す.

表2 

地域包括ケア病棟を退院した独居高齢者の生活の編み直しの意味

カテゴリー サブカテゴリー 主なコード
生活を切り替える 生活環境を整える (入院中に浴室で見た)シャワー椅子を購入して入浴環境を整えた
毎日職員が退院後に風呂やトイレをどうするか話をしてくれていた
退院より前に(スタッフが)来て全部見て手配してくれたから不安はなかった
便座を変えて洋式に使いやすくした
暮らし方の変更に沿うよう気持ちを切り替える 運転を怖く感じて家族の反対もあり責任も持てない
デイサービスへの参加に気が向かないが仕方なく参加する
薬を自己管理するのは当然しなければならないことだと思うようになった
できないことは誰かに手伝ってもらう ヘルパーの家事により助かる
妹や息子にも買い物をときどき頼んでいる
過去を肯定する 子どもや孫のやりたいことを尊重する 子や孫が趣味でも仕事でも,希望すれば試みることを否定しなかった
息子は県外で独立していて定年まで帰ってこない
子育ては間違っていない 休日に子が総菜を運んでくれてひ孫の様子を教わる
子に健康について相談したらアドバイスをくれ受診に付き添ってくれる
家族との付き合い方を工夫する (同居したとき)息子にたしなめられたら自分はすることがなかった
息子夫婦との同居は考えないし身内で憎しみ合うのは好まない
嫁のためにと思う気持ちが,逆にトラブルの原因になることに気付かされた
知らないことを学び活かす 介護保険に認識不足だったが,教わり暮らしに活かせた
デイサービスの存在すら知らなかったが参加したらまた行きたいと思った
ご縁を受け入れる (宗派の同じ家に嫁いだことに)ご縁があると当時から思っていた
出会う人と縁でつながり,住んでいる,生きていることに価値があると感じる
暮らしを楽しむ 気楽な一人暮らしを楽しむ 自由が一番いい
自分勝手だから,誰かと一緒に暮らすという生活は好まない
今の暮らしを大切にする 仕方なくではなく,自分が一人暮らしをしたいから選択した
最初から一人暮らしをするという意思を持っていた
誰かと話す 会話をするのが一番よくヘルパーに話し相手になってもらっている
楽しく過ごせるためには隣とある程度触れ合うことをしている
暮らしを取り戻す 墓参りを再び始めた 先祖の墓に一年いけなかったが歩いて行けるようになった
一周忌が終了後は,一か月に2回墓参りをした
家族の思いを思い続ける 自分が元気なうちに世話になった人にお返しをすることで妻の供養につながる
妻のために妻がしていた花作りをしようと考えていた
覚悟して生きる 前向きに精一杯生きる 楽しませてくれることを待つよりも,自分で作るほうがいい
一人暮らしを続けるために自分が努力しないといけない
健康であろうがなかろうが自分でやろうという気持ちがあるから何とかできる
お迎えが来たら逝ける 仏壇に向かい迎えに来てほしいと頼むが迎えに来ない
できる限りのことはして倒れたり死んだりするかもしれないが覚悟している
家族に迷惑をかけている気がするから今日でも明日でもいつ死んでも構わない
人生しまいの準備をする 誰に相談しても同じだから自分でできる範囲の始末はして肩の荷を下ろした
65歳を過ぎると,自営業の維持を負担に感じていた
用心しながら暮らす 味よりバランスに気を付ける 入院したことで嗜好よりも食生活のバランスを考えるきっかけになった
再入院したくないから薄味で品数も多い弁当をとって食生活に気を付ける
体調は元通りではない 完全ではないが一人暮らしだから自分で元気を出さなくてはいけないと思う
退院後も足がまだ不自由だし忘れることもひどくなってきたのを感じる
体調に合わせて無理をしない 早く距離を歩行できないが少しづつ一人暮らしできる程度の生活をしている
動きにくくて情けないが皆年齢を重ねるとこうなるから仕方がないと思う

【生活を切り替える】

【生活を切り替える】は[生活環境を整える][暮らし方の変更に沿うよう気持ちを切り替える][できないことは誰かに手伝ってもらう]で構成されていた.参加者は,入院前と比較した現在の生活について『それまでは車も運転しよった.もう怖い.娘がもう辞めいうて.相手を傷つけたら責任をよう持たないからな.(J)』との語りから[暮らし方の変更に沿う]よう気持ちを切り替える]ことを試み,『買い物と掃除にヘルパーさんはそのときの状態に応じて1時間,週に2回来てくれて助かっとんです.力を借りながらね.(M)』と[できないことは誰かに手伝ってもらう]ことで支援を受け入れていた.また,『足が悪くて入院して.退院する前にリハビリさんや看護師さんたちが家を見に来てくれて……略……ものすごく助かります.(A)』との語りなど,退院前から周囲の人の支援を受けることで[生活環境を整える]ことを可能にしていた.【生活を切り替える】は,疾患や受傷で生じた身体の不具合を持ちながら,従来どおりの独居暮らしを継続するために必要な方策として,入院中の介入により[生活環境を整える]現状の必要性を判断し,[暮らし方の変更に沿うよう気持ちを切り替える]よう状況を分析して[できないことは誰かに手伝ってもらう]ことにより,退院後に暮らしやすいように環境を整える意味が示されていた.

【過去を肯定する】

【過去を肯定する】は,[子どもや孫のやりたいことを尊重する][子育ては間違っていない][家族との付き合い方を工夫する][知らないことを学び活かす][ご縁を受け入れる]で構成されていた.参加者は,過去について『この宗派の家に嫁いだ.これはご縁があるなと思ってその時分から思った.(A)』と周囲や先祖に纏わる[ご縁を受け入れる]思いがあった.また,家族について『孫はドラマーなんです.孫がそれをしたい言うもんだから,趣味になっても仕事になってもやりゃあええがな,次男にもそうしてきたからね.その孫が思いがけなく電話をくれて嬉しかった.(A)』と[子どもや孫のやりたいことを尊重する]語りがあり『次男は毎日来る.次男の嫁の母は亡くなっているから,私の母親はお母さんやと言ってくれる.次男が買ってくれたタブレットでひ孫の写真を見るのが楽しみ.日に日に送ってくる.ありがたいね.(H)』と[子育ては間違っていない]と認識していた.一方で,『長男と一緒に何か月か暮らしてたんですよ.私が手伝いに行くでしょう.そしたら息子が,お母ちゃんこっちに入っとけ言われたら,私はすることない.(A)』と姑の立場を慮りながら[家族との付き合い方を工夫する]思いが語られた.さらに,『経験がある弟が,手すりの工事をちょこちょこするより一回で全部してもらった方がいいといってくれて,私もその方がよかった.転んだらいかんから.(J)』と[知らないことを学び活かす]との語りがあった.【過去を肯定する】は,参加者が先祖や周囲の[ご縁を受け入れる]ことや関係性を構築してきた[子どもや孫のやりたいことを尊重する]ことで[子育ては間違っていない]と確信し,身近な[家族との付き合い方を工夫する]ことで距離を保ちつつ,[知らないことを学び活かす]ことで,過去の出来事が道標となり,自己を尊重した現在の暮らしに繋がるという意味が示された.

【暮らしを楽しむ】

【暮らしを楽しむ】は[気楽な一人暮らしを楽しむ][今の暮らしを大切にする][誰かと話す]で構成されていた.参加者は現在の暮らしについて『自由が一番ええ.気楽に暮らせるのがええ.(L)』と[気楽な一人暮らしを楽しむ]思いが語られた.さらに,『自分が一人暮らしをしたいからしている感じです.そういうことをするには,工夫がいりますけどね.(M)』と工夫しながらではあるが[今の暮らしを大切にする]とする語りがあった.また,『やっぱり話が一番かな.ヘルパーさんでもなんでも仕事で来ても話する.(L)』と退院後に導入したサービスの公的な支援者とも構わず[誰かと話す]という語りがあった.【暮らしを楽しむ】は,[誰かと話す]ことを日々のリズムに取り入れ,[今の暮らしを大切にする]ことで自由な生き方を選択しながら[気楽な一人暮らしを楽しむ]満足を実感していることを意味していた.

【暮らしを取り戻す】

【暮らしを取り戻す】は[墓参りを再び始めた][家族の思いを思い続ける]で構成されていた.参加者は,『やっぱしね,先祖もあるしね.1年祀ってなかった.前は自分で運転して行っていた.仏さんがあるだけに責任がある.(C)』と時間の経過を気にしながら[墓参りを再び始めた]と語り,『野菜を人にあげて喜んでもらうような,家内がそんな性格だった.自分の目のあいとるうちにお返しするのが嫁さんの供養に繋がる.(N)』と妻への供養とする[家族の思いを思い続ける]表現をしていた.【暮らしを取り戻す】は,身体の不調からの回復に伴い,行動を元々の生活範囲に戻すことで[墓参りを再び始めた]様子や,故人の信条に添えるよう[家族の思いを思い続ける]ことなどから,自分自身の回復に伴い,元の暮らしの再開を試みていることを意味していた.

【覚悟して生きる】

【覚悟して生きる】は[前向きに精一杯生きる][お迎えが来たら逝ける][人生しまいの準備をする]で構成されていた.参加者は今後の生き方について『せっかく生きてるから,楽しまなくては損です.誰もね,楽しませてくれるのを待っていたらだめです.自分で作らないと.(A)』と楽しみながら[前向きに精一杯生きる]思いを語った.さらに『仏さんに,いつでもいいから迎えに来てというけど,なかなか迎えに来んの.(H)』と逝くことを念頭に[お迎えが来たら逝ける]と語り,従事した事業の中止を決め『誰に相談しても一緒やから,いっそ自分でできる範囲のしまいは全部したんです.あれもこれもと頭に離れなかったからもう必死だったですが,みんながしてくれた.(C)』と仕事についても[人生しまいの準備をする] とした語りがあった.【覚悟して生きる】では,命を全うするまで[前向きに精一杯生きる]一方で,遂行困難な役割の中止を退院後に決断して[人生しまいの準備をする]ことに向き合い[お迎えが来たら逝ける]と覚悟を決めて独居の暮らしに臨む姿勢が示された.

【用心しながら暮らす】

【用心しながら暮らす】は[味よりバランスに気を付ける][体調は元通りではない][体調に合わせて無理をしない]で構成されていた.退院後の暮らしについて参加者は『完全ではないけど,自分でもう,一人暮らしやけん,元気出していかないかん思って.(F)』と暮らしていくために元気を出さなければならないと[体調は元通りではない]ことを踏まえた語りがあった.『まあ,おいしいとか,おいしないとかいうより,入院がきっかけで,食生活のバランスを考えないかん思いよる.(J)』と[味よりバランスに気を付ける]語りがあった.さらに『さっさと距離を歩けたりしよらんのですけど,そろそろと一人暮らしはできる程度の生活をしています.(M)』と暮らしの中で[体調に合わせて無理をしない]とする語りがあった.【用心しながら暮らす】は,[体調は元通りではない]が,独居の暮らしが破綻しないよう生活習慣を改善する必要があると考え[味よりバランスに気を付ける]ことや[体調に合わせて無理をしない]と暮らしを維持するための対処行動をとることを表現していた.

Ⅴ. 考察

地域包括ケア病棟から退院後の独居高齢者は,病気に伴う状況と折り合いをつけながら病みの行路の変化に伴って,自分の日常の活動の調整や工夫を行う内面の作業である生活の編み直しを行っている.病みの軌跡の考え方として,過去,現在,未来という流れの中で患者を理解することが可能(黒江,1998)である.本研究参加者も他者との関係性を維持しながら,軌跡として過去からの経過の中でしだいに形作られた現在として把握でき,未来に向けた語りの中から,地域包括ケア病棟に入院する前の生活を編み直していると考えられる.

地域包括ケア病棟を退院した独居高齢者の生活の編み直しの意味について,以下カテゴリー別に考察する.

【生活を切り替える】

地域包括ケア病棟の看護師による退院支援の充実に向けて取り組む内容(藤澤ら,2020)や,地域で生きる力の回復・補強に向けての患者と家族に働きかけ(榊ら,2021)と同様に,本研究の参加者も入院中から在宅復帰に向けての支援を受けていた.在宅復帰支援は,地域包括ケア病棟の最重要機能であり,参加者が,この病棟の介入に生起される在宅復帰への道筋や多職種連携によって,退院後の生活のイメージや準備,環境調整ができていたため退院後の暮らしの変更がスムーズにできたと考えられる.

また,参加者14名のうち13名が介護認定を受けており,介護サービスを利用していた.介護保険制度は,2000年に制定され単に介護を要する高齢者の身の回りの世話だけではなく,高齢者の自立支援を理念としている(厚生労働省,2020a).語りの中で,参加者が退院後に自立した生活を営むためには,介護保険の存在は不可欠であり,サービスの利用により住み慣れた地域での自律が可能となっていた.

【過去を肯定する】

長い歴史を編みながら生きてきた参加者が,これまでの出会いに縁があると感じ,過去を紐解き語る内容は,子育てをしていた頃に及んでいた.高齢者の語りには,過去を振り返ることによって現在の生活に意味を持たせ,それを維持させ未来へ繋げたいという気持ち(松本・渡辺,2004)が,本参加者の語りも同様に表現されている.戦後の混とんとした時代に生き,子や孫の人格を尊重してきた結果,彼らの自律を感じ取りつつも関係性を保ち,その存在に感謝して達成感や確信を抱いていた.老年期は,変更できない過去と未知の未来を受容して,絶望感と統合の感覚とのバランスをとろうとする時期(Erikson et al., 1986/1997)である.社会資源では補い得ない支援者としての子や孫の存在により,参加者が過去を肯定することで自己の存在価値を実感し,現在の独居暮らしの延長線上にある未来へ向けて生活の編み直しを行っていると考えられる.

【暮らしを楽しむ】

独居高齢者が在宅療養生活を継続できる要因として,不安はあるものの慣れ親しんだ家での生活を送れることに安らぎを感じる(黒鳥・上松,2020)ことが報告されている.地域包括ケア病棟の施設基準要件として,2020年度診療報酬改定では,適切な意思決定支援に関する指針を定めることが加えられている(厚生労働省,2020b).退院後にどこでどう暮らすかという意思決定の際に,独居への強い思いや,施設入所の回避として自由を担保された自宅退院を参加者は選択している.過去に暮らした家族との軋轢や束縛,施設入所に伴う周囲への気遣いを回避した自由の獲得に喜びを感じていた.これは,参加者が再びの独居暮らしを肯定的に受け止め,誰にも拘束されることのない生活を主体的に送るという意思の表れである.

参加者は,自由を手に入れる一方で,他との関わりを遮断することなく,サービス提供者や近隣住民との会話を楽しみと位置付けていた.会話として人と関わる中で,内なる世界観を言葉として表現することで,聴き手からの受容や肯定を通して尊重されることが暮らしの楽しみに繋がる.他者とのつながりをもち続けられるように支援することが,生きる希望を高めるうえで重要(沖中,2017)であり,会話の中で他者の生き方や人生経験に触れることによって,自身が奮起し,前向きな行動に繋げることができると考える.社会関係の乏しさは,単に人との交流が乏しいだけでなく健康の社会的要因(斉藤ら,2015)の一つであり,楽しみながら自分らしく満足できる生活を送ることで生活意欲が高まり主観的健康感は高くなる(成瀬・加藤,2018)ことから,参加者の楽しみは,健康感の維持にも繋がっていると考えられる.身体的自立はもとより精神的自立を高めていくことの重要性が示され(矢庭・矢嶋,2012),参加者が自己決定権を駆使して,独居暮らしを再び選択し楽しみながら責任を持った自分の生き方が明確になっていると考えられる.

【暮らしを取り戻す】

自らの入院療養や,退院後の生活をこなしていく務めと今後の生き方や療養の課題への対処方法を模索しつつ,参加者は,心身の回復に伴い,先祖を敬う墓参りや法要といった従来から暮らしに根付いた一連の行事や,故人の習慣の踏襲に目を向け,携わることを可能にしていた.回復が生活を立て直す後押しをしていると考えられる.退院後は生活環境の変化や行動範囲が縮小する上に,ADLと認知機能が低下する可能性(仲井,2020)があり,これまで以上の生活支援や回復に時間を要することが推察される.高齢者の独居療養生活継続のニーズは,生命や生活の維持,生活のゆとりへと階層性がある(蒔田・川村,2012)ように,生活基盤や心身の安定が保たれながら参加者が価値を置く望む元の暮らしに徐々に近づいていると考える.

【覚悟して生きる】

参加者は,独居暮らしを継続して前向きに生きる意思を語る一方で,老いや死を見据えて今を生き,未来形として自らも死を迎えることを語り,死を恐れずに生きる覚悟を決めていた.老年期は,人生最後の段階を決定する未知の課題に適応するために,なくてはならない弾力性と自由の邪魔になるものとの決別の時期(Erikson et al., 1982/2001)である.参加者は,独居であるが故に,自分だけでこなせないことへの無力感や,孤独感を体験する機会が日常的に存在すると推察される状況でありながらも,周囲の人々や生活環境に支えられ,人生しまいの準備を行っていた.

参加者は,加齢や入退院後の身体の衰えを実感する度に,自分の死を予期する機会が多くなると推察する.高齢者が役割意識を持つことは,生きる希望を高めるために重要である(沖中,2017)が,参加者の叡智を結集して全うしてきた仕事や子育て役割からの解放と,今を生きている現状のあり方や立ち位置を焦点化し自分なりに解釈することで,現在の延長線上に必ず訪れる死を見据えながらも,与えられた命を生ききる覚悟に繋がっていると考える.

【用心しながら暮らす】

参加者は,再入院を回避するための行動を選択しながらも,元通りではない現実に対峙していた.これは,受け入れられない苦悩ではなく,現実と向き合い,今迄の生活を改善することを受け入れ,元通りではない状況に折り合いをつけながら暮らしていると考えられる.高齢者の生活の折り合いは,生活信条,生活調整,健康,安心感などの主要因で構成され(長江ら,2000),現実を肯定的に受け止めるために必要な心的過程(千葉ら,2003)であり,参加者の用心しながら暮らす状況は,老いと向き合いながら生活能力を維持,拡大していくための方策となっていた.

Ⅵ. 結論

地域包括ケア病棟から退院後の独居高齢者の生活の編み直しの意味として,【生活を切り替える】【過去を肯定する】【暮らしを楽しむ】【暮らしを取り戻す】【覚悟して生きる】【用心しながら暮らす】という6つのカテゴリーが抽出された.地域包括ケア病棟を退院した独居高齢者の生活の編み直しの意味は,入退院の経験を有したことで元々の生活スタイルや暮らし方を再考し,それまでの人生を振り返り,肯定や受容を通してあえて選択した独居を楽しみ,元の生活を取り戻しながらも命の期限を感じ,人生しまいを準備する暮らしに意義を持つことであった.

Ⅶ. 研究の限界 今後の課題

本研究は,県内にある1病院の地域包括ケア病棟をフィールドとして行った研究であり,得られた結果をそのまま一般化するには限界がある.今後は,フィールドや,研究参加者の年齢層を拡大して調査を行い,研究内容やカテゴリーの精選につなげていく必要がある.

付記:本研究は,2020年度香川大学大学院医学系研究科に提出した修士論文に加筆・修正を加えたものである.

謝辞:本研究に快くご協力くださいました研究参加者及びご家族の方々,研究を実施するにあたり多大なご協力やご助言をいただきました皆様に心より感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:MKは研究の構想からデータ入力,分析及び原稿の作成を行った.MS,SHは,分析及び解釈,KMは原稿への示唆及び研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み承諾した.

文献
 
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