2023 Volume 43 Pages 644-653
目的:育児のために短時間正職員制度を利用している看護師が,働く上で,どのようなものが就業継続を可能としている原動力になっているかを明らかにする.
方法:東海圏内の200床以上の病院に勤務している短時間勤務看護師11名を対象とし,半構造的面接を実施し,質的帰納的に分析した.
結果:短時間勤務看護師の働く上での原動力として,【短時間勤務であっても変わらぬ看護師としての思い】【職場で自分が必要とされているとの実感】【短時間勤務で働くことを前向きにしてくれる周囲の存在】【ワークライフバランスの充実を支援する職場環境】【生活を維持できる安定した給与体系】の5カテゴリーが抽出された.
結論:短時間勤務看護師の働く上での原動力は,専門職としての自律性,人との関わりから得られる自尊感情,仕事と生活の調和を可能にする環境,生活を維持できる安定した給与体系であった.
Purpose: To determine what is the driving force that makes it possible to continue working for nurses who use the short-time regular employee system to enable them to take care of their children.
Method: Eleven nurses working short-time shifts at a hospital with more than 200 beds in the Tokai area were selected as subjects, and semi-structured interviews were conducted with them and examined using qualitative inductive analysis.
Results: Five categories were extracted as the driving forces for nurses to work short-time hours: “The consciousness of oneself as being a nurse remains unchanged even if working short-time hours,” “The feeling that one is being seen as a useful and necessary person in the workplace,” “The presence of people around one who have a positive and encouraging attitude toward working short-time hours,” “Workplace environment that supports a fulfilling of work-life balance,” and “A stable salary system that allows you to maintain your livelihood.”
Conclusion: The driving forces for short-time nurses to work were found to be professional autonomy, self-esteem derived from having relationships with other people, an environment that makes it possible to attain a work-life balance, and a stable salary system that allows you to maintain your livelihood.
我が国の社会構造上の問題である急速な高齢化に加え,団塊ジュニア世代が高齢者となる2040年には,現役世代の急激な減少により,医療提供体制や社会保障に大きな影響を与えるとされている(厚生労働省,2022).医療界において,2040年に必要と見込まれている就業者数が1,070万人に対し,確保が見込まれている就業者数は974万人と推計されており,安定的な医療・福祉サービスを提供する為にも,多様な人材確保とサービス改革は最重要課題として位置づけられている(厚生労働省,2022).看護界では,看護師の働く場の拡大,役割の多様化などあらゆる場所で,一層の看護師の確保と能力の拡充が課題として挙げられ,高齢者や外国人労働者,短時間勤務や夜勤専従などの多様な働き方を受け入れ,活用していくことが看護の質の維持・向上・担保につながることが指摘されている(日本看護協会,2022).
従来は,フルタイムで交代勤務をする看護師が大半であったが,働き方の多様化により「フルタイム正職員より1週間の所定労働時間が短い正職員」である短時間勤務看護師(以下:時短看護師)が増加した.出産や子育てを理由に制度を利用することが多く(日本看護協会,2018),離職率の高い子育て世代の看護師の人材確保に大きな貢献が期待されている.しかし,松浦(2018)は,子育て支援の仕組みは少しずつ整備されてきたが,結婚・妊娠・育児と仕事の両立が出来ないという理由で職場を去っていく看護師が減ることはなかったと述べている.また近年,看護師の離職率は横ばいから増加傾向にあることに加え,離職理由は,2007年から15年が経過した2022年においても,結婚,妊娠・出産,子育てが離職理由の上位にあがっている(日本看護協会,2007;厚生労働省,2022).これらのことからも子育てと仕事を両立しながら,看護師を継続していくことの困難さがうかがえる.更に,フルタイム看護師と時短看護師が混在することで,マイノリティな存在となる時短看護師の働き方を容認しづらい環境が浮き彫りとなり(大儀ら,2015),多様な人材を活かしきれないことも課題として残っている(川北ら,2021).加えて,時短看護師の業務内容・勤務環境は,患者ケアへ主体的に関わる頻度の低下や,突発的な対応が求められないサブ的な仕事を配分されること(平本ら,2022;大儀ら,2015),家事や育児を担う事で仕事に時間をかけられない人生ステージにおいて,母親役割と看護専門職との遂行と葛藤(大儀ら,2015),制度利用の終了後の職業継続の迷い,職場適応の困難さなどの思いを抱いていることも報告されている(寺澤・小林,2018;松浦,2018).その結果,時短看護師の働く意欲や満足感を低下させ,更に就業継続できない状況につながっていくことが懸念される.
しかし,その様な課題の多い状況下においても,実際に制度を利用しながら活躍している時短看護師は多数存在する.時短看護師が,職業を継続しようと活動を起こすもとになる力とはどのようなものであろうか.本研究では,時短看護師の“源となっている力”を最も的確に表現できるものとして,物事の活動を起こすもとになる力及びそれを生み出すエネルギー(新村,2018)という意味を持つ“原動力”に注目した.様々な葛藤を抱えながらも,子育てと仕事を両立しながら働き続ける為には,仕事を続けようとする基盤となるような力,すなわち原動力が必要だと考えた.
これまで,看護師が就業を継続する原動力や類似する用語であるモチベーションに関する先行研究は,小児病棟の中堅看護師が職業を継続させてきた原動力(内藤ら,2014),看護師のワーク・モチベーションに影響を与える要因(Baljoon et al., 2018),急性期病院における中堅看護師の就業継続(大場,2019)などが挙げられるが,時短看護師を対象にしたものは見当たらず,更に時短看護師の短時間という特殊性の中から見いだされる原動力に焦点を当てたものではなかった.
時短看護師の働く上での原動力を明らかにすることは,多様な人材の活用戦略や支援に関する看護管理上の知見が得られると同時に,看護界における柔軟な働き方の選択肢の拡充,働きやすさの向上,労働力の確保や離職防止ひいては,持続可能な組織運営につながる重要な意味をもつと考えた.
育児のために短時間正職員制度を利用している看護師が,働く上で,どのようなものが就業継続を可能としている原動力になっているかを明らかにし,看護管理における多様な人材の活用戦略と支援についての示唆を得る.
「短時間勤務看護師」:日本看護協会が制定する「フルタイムの正職員より1週間の所定労働時間が短い職員を正職員とする」制度(短時間正職員制度)を利用している看護師(日本看護協会,2022).
「原動力」:原動力と類似する用語に「モチベーション」がある.モチベーションは,何か目標とするものがあり,それに向けて行動を立ち上げ,方向づけ,支える力と定義されている(田尾,1993).一方,原動力とは,物事の活動を起こすもとになる力及びそれを生み出すエネルギーである(新村,2018)と示されている.本研究では,時短看護師が働く上で,職業を継続しようとする“源となっている力”を「原動力」という用語で表現した.
2. 研究デザイン本研究は,インタビューデータを用いた質的記述的研究である.
3. 研究参加者東海圏内の200床以上の病院において,研究協力の承諾が得られた5施設の看護部責任者に,育児を理由として短時間正職員制度を利用している看護師に対し研究協力書の配布を依頼した.その後,研究参加者から研究者へ連絡があった11名を研究参加者とした.また本研究は,看護実践者を対象とするため,看護師長以上の管理職は除外した.
4. 調査期間2021年11月~2022年3月
5. データ収集方法予備面接を経て作成したインタビューガイドを用い,約1時間の半構造的面接を行った.インタビュー内容は,「時短看護師が働く上で就業継続を可能としている原動力となっていることはなにか」「なぜそれが原動力だと思うのか」などについて自由に語ってもらい,研究参加者の同意を得てICレコーダーに録音した.研究参加者の発言に対して,肯定や否定はせず,受容的な態度で傾聴を行った.
6. 分析方法データは,グレッグら(2016)を参考に質的分析をおこなった.まずは,インタビューデータから逐語録を作成し,意味のあるまとまりごとに簡潔な文章でまとめコード化した.次に,意味の類似したコード同士を集め,サブカテゴリーを作成し,抽象度をあげながらカテゴリーを作成した.分析内容は,看護管理領域及び質的研究に精通した共同研究者によるピアレビューの機会を持つことで,真実性を保証した.更に研究参加者全員にメンバーチェッキングを依頼し,内容に齟齬がないか確認した.
7. 倫理的配慮本研究は,三重県立看護大学研究倫理審査会の承認を得て実施した(承認番号:21902).研究参加者及びその職場に,研究の概要,研究協力による利益や不利益,研究協力や途中辞退の自由,個人情報やプライバシーの保護,結果の公表について口頭ならびに書面で説明し,同意を得た.半構造的面接は,所要時間を説明し,業務や育児に支障をきたさないよう配慮し,参加者の希望する場所,方法,時間を指定してもらい,個室又はそれに準じる環境を準備した.
研究対象者は,11名で,うち10名が女性,1名が男性であった.年齢は,24歳から36歳であった.看護師経験年数は,3年から14年であり,短時間勤務取得期間は,1年から9年であった.面接時間は総計555分であり,平均50分であった(表1).
研究対象者の概要
No | 性別 | 年齢 | 看護師経験年数 | 短時間勤務取得期間 | 子どもの数 | 子どもの年齢 | 配偶者の有無 | 夜勤の有無 | 勤務場所 | 面接時間 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
A | 女性 | 35歳 | 10年 | 3年 | 2人 | 5歳 2歳 |
有 | 無 | 病棟 | 54分 |
B | 女性 | 36歳 | 13年 | 3年6か月 | 3人 | 10歳 6歳 3歳 |
有 | 無 | 病棟 | 52分 |
C | 女性 | 33歳 | 11年 | 3年8か月 | 2人 | 6歳 3歳 |
有 | 無 | 病棟 | 58分 |
D | 女性 | 36歳 | 6年 | 2年6か月 | 3人 | 12歳 5歳 2歳 |
有 | 無 | 病棟 | 54分 |
E | 女性 | 28歳 | 5年 | 1年9か月 | 2人 | 4歳 2歳 |
有 | 有 (2回/月) |
病棟 | 54分 |
F | 女性 | 31歳 | 9年 | 4年6か月 | 2人 | 4歳 1歳 |
有 | 有 (3回/月) |
病棟 | 43分 |
G | 女性 | 36歳 | 14年 | 9年 | 2人 | 10歳 8歳 |
有 | 無 | 病棟 | 63分 |
H | 女性 | 34歳 | 13年 | 2年11か月 | 2人 | 4歳 1歳 |
有 | 無 | 病棟 | 44分 |
I | 女性 | 24歳 | 3年 | 1年 | 1人 | 2歳 | 有 | 無 | 病棟 | 41分 |
J | 女性 | 34歳 | 11年 | 3年7か月 | 3人 | 8歳 6歳 1歳 |
有 | 無 | 病棟 | 45分 |
K | 男性 | 30歳 | 8年 | 1年 | 1人 | 2歳 | 有 | 無 | 病棟 | 47分 |
時短看護師の働く上での原動力は,5つのカテゴリー,22のサブカテゴリー,126のコードで構成された(表2).以下カテゴリーを【 】,サブカテゴリーを[ ],実際の語りを「 」,語りの補足は( )で示す.
時短看護師の働く上での原動力
【カテゴリー】 | [サブカテゴリ―] | コードの例 |
---|---|---|
短時間勤務であっても変わらぬ看護師としての思い | 看護師という職が嫌ではない | 患者さんとの触れ合いや関わりが好き 看護師の仕事は嫌ではない |
これまで身につけてきた看護師としての自信や経験を生かしたい | 看護師としての資格を活かしたい 今まで働いてきた知識も,技術も絶やしたくない | |
看護師として働き続けたい | 働き方が変わったとしても,その根底にある土台は変わらない | |
フルタイム勤務者と同じ仕事をする | 働く時間は短いが,時短だから出来ないというのは嫌 業務内容はほぼ一緒のため,迷惑をかけないように時間内に終わらせたい | |
看護師として働くことへの誇りがある | 人のために行動に移せたり,相手の気持ちを考えて仕事をする看護師の仕事に誇りがある いい仕事だと思う | |
いずれスキルアップしたい | 以前から専門・認定看護師に対する尊敬があり,自分も挑戦したい気持ちがある 今後に活かせそうな分野の勉強がしたいという思いがある | |
職場で自分が必要とされているとの実感 | 短時間勤務の自分でも職場に貢献できていると感じる | 後輩への指導を通じて病棟で自分が役にたっていると感じる 毎日,日勤で勤務してくれると助かると声をかけてもらえるとき 日勤でいる時短の強みを活かしていって欲しいと認めてもらえるとき |
患者から信頼や感謝の言葉がある | 日常生活援助をしただけで,患者さんから感謝の言葉をかけてもらったことがある 患者さんから看護技術を褒められた経験がある 患者さんが,笑顔でコミュニケーションを取ってくれる | |
短時間勤務で働くことを前向きにしてくれる周囲の存在 | 気兼ねなく接することができる職場の仲間がいる | 仕事の事だけではなく,プライベートや子どもの事など,なんでも話が出来る仲間がいる 経験年数が違っても,友達感覚で話が出来るスタッフがいる |
自分と同じ短時間勤務の仲間がいる | 自分と同じように時短をとって働いている看護師がいる 自分と価値観が似ている時短看護師がいる | |
短時間勤務の自分を気づかってくれるスタッフがいる | 定時で帰れるよう,業務を調整したり手伝ってくれるスタッフがいる 時短看護師であることを理解してくれて,声をかけてくれるスタッフがいる | |
短時間勤務の自分や家族の状況を理解し,支援してくれる上司がいる | フレキシブルな業務を認めてくれたり,調整してくれている上司がいる 家庭で困ったことがあっても,安心して相談できる上司がいる | |
ワークライフバランスの充実を支援する職場環境 | 育児と仕事の両立が出来る | 組織から求められる自分と,自分が求めている働き方のバランスが取れている 子育てする時間を確保できるし,働く時間を選択できる |
社会とのつながりを感じられる場所がある | 患者さんやスタッフとコミュニケーションをすることで社会とのつながりを感じる 仕事をしていること自体が社会と一部になって頑張っているという気持ちになる | |
落ち着いた気持ちで働ける職場である | 時短看護師になって,少しのびのびと働ける一般病棟に異動になった | |
日勤の看護業務だけに専念できる | 夜勤をしていない 毎日,日勤勤務で働いているため,患者の情報共有がスムーズにできる | |
子どもと離れ自分一人で過ごせる時間が確保できる | 仕事の時間が,子どもと離れている時間であるため,自分を優先できる時間が持てる | |
家族にあわせた勤務調整が出来る | 夜勤が無くて,土日・祝日が休みという今の時短の働き方自体が力になっている. 子どもの用事や,家族に合わせたフレキシブルな勤務体制を希望できる | |
子どもや家族と一緒に過ごす時間が取れる | 夜勤がないことで,朝ご飯も夜ご飯も一緒に食べられる | |
委員会や係への業務免除の配慮がある | 委員会業務などの負荷を少なくしてくれている 家での持ち帰りの仕事が無い | |
生活を維持できる安定した給与体系 | 賞与支給がある | 月給は少なくなるが,ボーナスがもらえる |
今の生活を維持・発展できる給料支給がある | 家族が不自由なく生活できる安定した給料がもらえる |
このカテゴリーは,時短看護師であっても今までの経験を生かし,誇りを持ちながら看護師として働き続けたい思いが原動力として示された内容であった.
時短看護師は,以前から[看護師という職が嫌ではない]し,これからも[これまで身につけてきた看護師としての自信や経験を生かしたい][看護師として働き続けたい]思いを抱いていた.短時間勤務になっても,今までと同様に[フルタイム勤務者と同じ仕事をする]ことで[看護師として働くことへの誇りがある]や[いずれスキルアップしたい]という向上心が原動力となっていた.
「患者さんと関わるのが好きなんだと思います.(患者と関わることが好きだから)きっと看護師の仕事は嫌じゃないんやと思います.」(F氏)
「看護師としての資格もあったから,それを活かしたいと思ったし,せっかく10年ぐらい働いてきた知識も,技術もまあ,絶やしたくないなって思った.」(A氏)
「時短になる前から看護師は続けてるから,働き方が変わったとしても,その根底にある土台は変わらず,(看護師を)続けているんだと思います.」(I氏)
「働く時間が短いけど,時短やから出来ないというのは嫌やし,業務内容はほぼ一緒なので迷惑をかけないように時間内に終わらせたいと思っています.」(H氏)
「人のために仕事をするというか,人のために自分が行動に移せることとか,相手の気持ちを考えるとか,看護師って仕事には誇りというか,いい仕事やなと思うので.」(B氏)
「以前から緩和とかWOCの人たちを尊敬じゃないですけど,自分もこういうのもやってみたいなとか,挑戦じゃないですけど,そういう気持ちを持ちながら仕事をしているのもあります.」(G氏)
2) 【職場で自分が必要とされているとの実感】このカテゴリーは,時短看護師として働く自分の存在や仕事への取組みに対して,周囲から信頼されているという実感が原動力として示された内容であった.
時短看護師は,今までの経験を活かして後輩への教育的指導を実施する事で[短時間勤務の自分でも職場に貢献できていると感じる]ことができていた.また,患者への看護実践を通じて[患者から信頼や感謝の言葉がある]ことを原動力と捉えていた.
「フルタイムとは違った形ではなるんですけど,自分の後輩に,自分の経験を踏まえてなんかちょっとこう指導できることでお役に立てているなというか,そんな感じがあって.そういうとこが自分のやる気とかにつながっているんですけど.」(J氏)
「毎日日勤でおってくれて助かるとか,日勤でおる時短の強みを活かしていって欲しいと認めてもらえることもあって.」(K氏)
「たわいもない日常生活援助をしただけで,ありがとうってすごく感謝されたり,話聞いてもらって嬉しかったって言われることがあったから,きっと頑張って働いているんだと思う.」(A氏)
3) 【短時間勤務で働くことを前向きにしてくれる周囲の存在】このカテゴリーは,時短看護師を理解し,支援してくれる仲間や上司の存在が原動力として示された内容であった.職場には,仕事以外のことでも[気兼ねなく接することができる職場の仲間がいる][自分と同じ短時間勤務の仲間がいる],定時で帰れるように業務調整をしてくれる[短時間勤務の自分を気づかってくれるスタッフがいる]ことに加え,[短時間勤務の自分や家族の状況を理解し,支援してくれる上司がいる]ことも原動力として示された.
「仕事の事だけじゃないんですけど,プライベートの事とか,子どもの事とか,なんでも話が出来る子がいるんです.そういった仲間がいる事はすごく大きいですね.」(B氏)
「職場に,自分と同じで,子どもも3人いて短時間勤務で働いている看護師がいることもうれしいですよね.」(C氏)
「フルの人が時間になると,帰ってって言ってくれて,時間で帰らせてくれたり,何が終わってない?時間あるからするよって声をかけてくれるんです.」(E氏)
「フレキシブルな業務を認めてくれたり,調整してくれている上司のおかげだと思います.家庭で困ったことがあっても,安心して(上司に)相談できることで,気持ちも楽になるし,(上司から)もちつもたれつやでって言ってくれるその考え方に支えられています.」(D氏)
4) 【ワークライフバランスの充実を支援する職場環境】このカテゴリーは,育児と仕事の両立を支援する職場環境が整っていることが原動力として示された内容であった.
時短看護師は,[育児と仕事の両立が出来る]勤務環境を安心できると捉え,原動力につなげていた.仕事面では,患者や仲間とコミュニケーションを通じて[社会とのつながりを感じられる場所がある][落ち着いた気持ちで働ける職場である]と捉えていた.看護師として働き,夜勤をせず[日勤の看護業務だけに専念できる]ことで,患者の情報共有がスムーズにできていた.また,育児で家にずっといるのではなく,働くことで[子どもと離れ自分一人で過ごせる時間が確保できる]ため,自分の気持ちもリフレッシュすることができていた.生活面では,勤務時間や出勤日を[家族にあわせた勤務調整が出来る]ことで,[子どもや家族と一緒に過ごす時間が取れる]と感じていた.また,[委員会や係への業務免除の配慮がある]ことで持ち帰りの仕事が減ったことに感謝していた.
「看護部の方から求められている時短の自分と,自分がやれる範囲ですけど,働けているので,自分が求めている働き方とバランスが取れているというか.仕事と家庭のバランスが取れていることも働く原動力になっています.」(G氏)
「人間としてというか,社会的にっていうか.ずっと家にいるより,患者さんともですし,他のスタッフとのコミュニケーションとかで社会のつながりがある気がして.その社会的なつながりが看護師として働かせているというのはあります.」(D氏)
「時短看護師になって少しのびのびと働ける一般病棟に異動になるし,毎日の業務が穏やかに終了することが今の一番の意欲になっています.」(C氏)
「なんか毎日日勤しとるから,わかる患者のこと.なので,いやいや,昨日はこんなんやったよっていう情報共有とかもスムーズに出来るので.そういうのは,時短ならではかなって思いました.」(B氏)
「仕事の時間が子どもと離れている時間なので,ある意味自分を優先できる時間というか,リフレッシュになってその時間があることがやる気になっていると思います.」(H氏)
「夜勤が無くて,土日や祝日が休みっていう今の時短の働き方自体は,子どもと関わる時間をしっかりと持てるから,その分また仕事頑張ろうって思えるので.」(J氏)
「子どもが第一と考えてるんで,夜勤がたくさんあるフルは,ちょっと違うかなぁって.今は,朝ごはんも夜ご飯も一緒に食べられるので.」(B氏)
「患者さんと向き合う仕事以外の,委員会や会議をサブぐらいにしてもらっているので,家で資料作ったりする持ち帰りの仕事が無いのもいいです.」(D氏)
5) 【生活を維持できる安定した給与体系】このカテゴリーは,時短看護師となっても生活を維持できる安定した給与体系があることが原動力として示された内容であった.
フルタイム勤務時と比較すると給料は減額するが,正職員のため,[賞与支給がある]ことに加え,生活や子育てに必要な[今の生活を維持・発展できる給料支給がある]と認識していた.
「子どもがいて,生活する為にお金が必要です.月の給料は少なくなるけど,パートじゃないからボーナスも常勤でおる限りはあるので.」(C氏)
「育短だとお給料は減ったけど,正職のままなんで.生活していく為には安定したお金が必要だし,今の生活水準を保ちながら家族を養っていくというか満足した生活をおくるには(働くことは)必要かなって思う.」(K氏)
時短看護師は,勤務時間や勤務形態に関わらず,今まで培ってきた知識や技術を生かし,看護の専門職として働きたいという【短時間勤務であっても変わらぬ看護師としての思い】が原動力になっていた.看護師が専門職である為には,体系的学問を有している事,公共の福祉に貢献している事,実践において自律的である事の3つが挙げられており(志自岐,1993),これらの中でも「看護師の自律性」は,看護師が専門職として機能する重要な要素として注目されている(Freidson, 1970).先行研究では,看護師の経験年数やキャリアステージが上昇するに従い自律性は高まり,看護師が実践を通して経験を重ねる事により,自律性を養っていると述べている(松尾ら,2008;中村・岩永,2017).時短看護師の自律性に関する研究では,フルタイム看護師と同等の自律性を保持している(川北ら,2021)ことや,関連要因として,年齢,看護師経験年数,子どもの数,職務信頼度,職場満足が明らかになっている(多久和・宮田,2023).本研究の対象者は,30歳代の中堅看護師が多くをしめ,短時間取得前に一定期間,フルタイム看護師としての勤務経験を重ねている.つまり,時短看護師になるまでの経験から自律性を獲得し,専門職としての誇りを持ちながら勤務を継続していると言えよう.加えて,勤務形態が変化しても,[フルタイム勤務者と同じ仕事をする]ことで,看護師としてのスキルや知識を磨く機会を得ることができる.また,看護実践を継続させることで,キャリアを中断することなく経験年数を重ねることにつながり,看護師としての自律性を維持させたと考えられる.以上より,時短看護師になる以前から,看護師としてより高い自律性の獲得に向けての支援を行い,勤務形態が変化しても業務配分の工夫などにより,自律性を維持・向上できる関りを継続することの重要性が示唆された.
2) 人との関わりから得られる自尊感情短時間であっても自律性の高い看護実践を通じて,質の高い看護を患者へ提供することで,患者からの信頼につながる.そして “ありがとう”“うれしい”などの[患者から信頼や感謝の言葉がある]ことは,看護師の肯定的な自尊感情に影響を与える(Pierce & Gardner, 2004).自尊感情は,高い職務パフォーマンスを発揮し,心身の健康を保ちながら,高質の看護を提供する(Ferris et al., 2010).加えて対人援助職者の就労を継続させる要因の一つであることが明らかにされている(倉田・益川,2018).時短看護師も,患者への看護実践から【職場で自分が必要とされているとの実感】を得ることができ,自尊感情を形成することで,働く原動力に繋がっていたと考える.また,患者だけではなく【短時間勤務で働くことを前向きにしてくれる周囲の存在】との協働により実感することが出来ていた.本研究において,働くことを前向きにしてくれる存在とは,なんでも話せて自分のことを気づかってくれる職場の仲間や,自分のことに理解や支援をしてくれる上司を指していた.時短看護師は,定時で帰宅できるような業務調整や勤務終了後の業務の引き継ぎなど日々の業務内で,フルタイム看護師からの配慮に有難さを感じている(寺澤・小林,2018).また,フルタイム看護師は,自分たちも時短看護師の仕事に助けられているという協働意識や,いずれ自分も時短制度を使用し助けてもらう時がくるかもしれない思い(南谷ら,2020)を抱いている.このような臨床現場で共に働く看護師として,助け合い,協働できる“お互い様意識”をもったフルタイム看護師の存在そのものによって,時短看護師は前向きに働くことができ,原動力が喚起されていると捉えることができる.
加えて,時短看護師の仕事内容は部署管理者である看護師長の考えによる影響を大きく受け(川北ら,2015),時短看護師の活用において師長の支援は非常に重要である(川北ら,2021).看護師の自尊感情は,上司が発信するポジティブなメッセージにより,正の影響をもたらす(松田・石川,2012)ことが明らかになっている.本研究の語りからも,時短看護師にとって,自分のことを支援してくれる看護管理者からの承認により,自尊感情を向上させることができ,原動力として示されたと推測できた.
3) 仕事と生活の調和を可能にする職場環境日勤が多く,病棟全体の把握をしている時短看護師を,積極的にチームに入れることで,看護の質保証のみならず,時短看護師の職務満足をもたらす(川北ら,2021)ことが明らかになっている.本研究の時短看護師も,ほぼ毎日日勤で働くことで,患者の情報共有がスムーズにでき,継続した看護を提供できることを強みと捉え,仕事に満足感を抱いていたと考える.また,そのような日勤業務に専念でき,看護師という役割を遂行できる職場環境が整えられていることが,時短看護師の働く上での原動力に寄与していると推察できる.更に,生活面では,子どもの予定や家庭のスケジュールに合わせた勤務を選択できることで,家族との時間を確保し,家族を優先することが出来る.時短看護師は,妻・夫,子の親としての役割を果たす時間を確保し,生活の充実感を得ることができると考えられる.このように,時短看護師にとって,仕事と生活は常に結びつきを持っており,お互いに影響しあい時短看護師の人生を形作っていると推測された.双方の役割を円滑に果たすことが出来る職場環境が整っていることこそが時短看護師の働く上での原動力を向上する為にも重要な視点であると考えられる.
4) 生活を維持できる安定した給与体系時短看護師は,生活を維持できる安定した給与体系があることを原動力と捉えていた.生活を支える経済面において,時短看護師の給与は,労働時間あたりの基本給として算定され,夜勤手当や残業手当の減少によりフルタイムとして働いていた頃に比べると所得は減少する.経済学的には「チャイルドペナルティ」と呼ばれ,子どもを持つことによって所得が減ることを指し,子育てでお金がかかる時期に所得が減るという矛盾が生じていることを指摘している(古村,2022).しかし,時短看護師は,所得の減少による負担より子どもとの時間を優先させたい思いから,給料より時間を取ることに納得している(川北ら,2020).本研究においても,チャイルドペナルティという現状を受け入れつつ,景気の影響を受けにくい医療業界において,短時間であっても正職員という立場から給与の安定性が期待できることに加え,短時間勤務という勤務形態を自らが選択し,納得して働ける満足感こそが,就業継続を可能にさせる原動力に繋がったと考える.
5) 時短看護師の個人背景による影響看護師の就業継続と個人背景に関する先行研究では,男性と女性では就業継続に差があること(加藤ら,2015),1歳児を育てる看護師の育児困難感は非常に高く,就業継続意欲が低いこと(難波ら,2008)が明らかになっている.しかし,本研究では,性別や子どもの年齢など個人背景の違いによる特異性のあるカテゴリーは見つからなかった.その理由として,近年,性別に関連する社会的な役割や期待の変化から男性も家事や子育てに参加する意識や責任感が高まっていること(ベネッセ教育総合研究所,2023),女性のキャリア形成への意識が高まっていること(大津,2019)より,性の役割概念が変化し,男女問わず類似した考え方を持っていた可能性が推察される.また,時短看護師は,子どもの年齢や成長段階に応じて柔軟な働き方や時間の使い方を模索する傾向がある(寺澤・小林,2018)が,仕事と生活の両立を目指し,看護師としての役割と親としての役割の双方を充実させたいという意識は,子どもの年齢に関係なく共通したものであったと考える.
2. 時短看護師の働く上での原動力の特徴について「短時間」で働く看護師であるパート看護師は,家庭を優先した働き方の範囲内で専門職として働くことを調整しており,知識や技術の向上や良質なケアを提供するためのエネルギーを捻出することが困難となる場合が多い.そのため,ワークライフバランスを重視した余裕のある「働き方」とそれを支援する上司の存在が職業継続意思に関連していることが明らかになっている(川北ら,2015).一方で,パート看護師の専門職としての自律性や責任感に関する要素は,限定的である(川北ら,2015;南谷ら,2011;岡崎ら,2021).
時短看護師は,パート看護師と「短時間」という働き方は同じであっても,フルタイム看護師と同等の専門職としての自律性を保持し(栫井ら,2018),責任感も原動力として結びついていた.つまり,時短看護師は,パート看護師とフルタイム看護師の両者の側面を併せ持った時短看護師独自の働く上での原動力を示したと推測する.
3. 時短看護師の能力を最大限に引き出すための看護管理上の示唆時短看護師は,仕事と生活の結びつきが強いことを念頭に置き,専門職としての自律性の獲得・維持・向上に対する支援や,時短看護師であっても保持する力が発揮できるような役割の付与及び業務調整をすることで自尊感情を高めていく支援が重要であると考える.時短看護師が,自分らしく組織に参加し,最大限に力を発揮することができるよう,短時間という働き方をどのように承認し,どのように活かすかが,多様な勤務形態が入り混じる看護の現場の一体化の要と考えられる.
本研究の対象者は,育児や子育てにより離職せず働き続けている時短看護師である.多様な働き方が承認されつつある現代においても,看護組織内ではマイノリティな存在ではある.しかし,時短看護師の原動力を維持・向上できる支援やマネジメントを確立していくことは,育児を理由とした離職を防止することへ繋がり,加えて,多様な人材を効果的に活用する方略への一助となりうる.また,時短看護師がいきいきと働くことができることで,これから育児と仕事の両立を目指す看護師にとって,良きロールモデルとなり,看護界全体の活性化・持続可能な看護組織の構築への架け橋となると考える.
本研究は,時短看護師が就業継続を可能にしている原動力を見出すことができた.しかし,対象者の個人背景の違いよりも,育児をしているという共通性を重視した内容に限定されたことが研究の限界である.今後は,個人背景との関連性にも焦点を当て,研究を進める必要がある.また,時短看護師がやりがいをもって仕事を継続できるための方略は課題として残っている.多様な勤務形態が入り混じる看護の現場の一体化に向けて,多方面から更なる探究が必要である.
時短看護師の働く上での原動力は,【短時間勤務であっても変わらぬ看護師としての思い】【職場で自分が必要とされているとの実感】【短時間勤務で働くことを前向きにしてくれる周囲の存在】【ワークライフバランスの充実を支援する職場環境】【生活を維持できる安定した給与体系】の5つのカテゴリーが抽出された.時短看護師の原動力は,専門職としての自律性,人との関わりから得られる自尊感情,仕事と生活の調和を可能にする環境,生活を維持できる安定した給与体系であった.
付記:本論文の内容の一部は,第42回日本看護科学学会学術集会において発表した.
謝辞:本研究にご協力くださいました研究参加者の皆様および参加施設の皆様に心より御礼申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:多久和有加は研究の着想およびデザイン,データ収集,分析の実施,論文執筆の全てを実施;前田貴彦,中西貴美子は研究の着想およびデザイン,原稿への示唆および研究プロセス全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承諾した.