2023 Volume 43 Pages 831-841
目的:開業助産師が捉えている分娩期におけるWomen-centered careとその実践を明らかにすること.
方法:分娩取扱のある有床助産所に3年以上勤務する助産師12名を対象に,半構造化面接にてデータを収集し質的記述的に分析した.
結果:次のコアカテゴリが生成された.【女性の生涯を見据えて分娩期を理解する】,【女性と子どもと家族を包含し,一丸となって分娩期に臨む】,【女性と子どもの「命と幸せ」を守るために自律する】ことが必要であると捉え,母子と家族の幸せのために【女性と家族への揺るぎない信念のもと行動する】ことを土台として【女性のためにあらゆる関係性を醸成する】ことに尽力しながら【女性のすべてを包容し添い続ける】ことを通し【女性が産むことに能動的になれるよう働きかける】実践であった.
結論:開業助産師の分娩期におけるWCCは,ポジティブな出産体験が女性と家族に好影響をもたらすことを認識し,それを実現するために自律した助産実践を志向していた.
Purpose: Examine the awareness and practice of women-centered care during delivery by independent midwives.
Methods: Data were collected by conducting semi-structured interviews with 12 midwives, who had been working for at least three years at a midwifery facility. We conducted a qualitative and descriptive analysis
Results: The following core categories were generated: [understanding the delivery period from the woman’s life perspective], [inclusive care for the woman, child and family], and [autonomous protection of the woman and child’s well-being]. The midwives established [unwavering faith in the woman and family] as the basis for maternal and child happiness, and practiced the [encouragement of active childbirth] through [embracing womanhood and continuous support] while cultivating [comprehensive relationships for the woman].
Conclusion: Independent midwives were aware that a positive delivery experience would have a favorable impact on the woman and her family within the context of women-centered care during delivery. Thus, they were inclined toward autonomous midwifery practice to achieve this objective.
第2次世界大戦以後,出産場所が自宅から施設へと移り変わると同時に,安全性をより重視する観点から,妊産婦は「助産(産を助ける)の対象」ではなく,「管理するべき対象」に置き換わった(中山,2022).結果として,新生児死亡率は0.8,周産期死亡率は3.4(厚生労働省,2022a)にまで改善し,日本の周産期医療は極めて安全であると国際的に評価されている.
一方,妊産婦死亡の原因は自殺が最も多く(国立成育医療センター,2018),近年産後うつ等メンタルヘルスの問題を抱える女性の増加が問題視されている.日本では,周産期医療における母子の安全を「生命を守る」という限局的な枠組みで捉え,出産場所の施設化や集約化等,出産の医療化を推進する政策を掲げ取り組んできた経緯があり,その医学的安全を優先する陰で,女性たちの心や社会との繋がりが脆弱となってしまった影響も指摘されている.
国際的な周産期医療の潮流としては,適切な産科医療の使用に関する国際会議(フォルタレーザ会議)の開催,世界保健機構(WHO)による妊娠出産ケアガイドの発行等,女性と家族の心理社会面への支援の重要性が謳われ,エビデンスに基づいたケアが推進されてきた.最近では,WHOが,さらなる母子のウェルビーイング向上のため,周産期にある女性への支援の基盤となる概念はwomen-centered care(WCC)であることを提言し,特に分娩期に焦点をあて,ポジティブな出産体験のためのガイドラインを作成した(分娩期ケアガイドライン翻訳チーム,2021).女性の出産体験は産後にまで影響を与えることが報告されており,出産時のトラウマ体験が産後の精神的健康に影響を及ぼすことや(Reed et al., 2017;鈴木ら,2022),豊かな出産体験が肯定的な母親役割獲得を促す(竹原ら,2009;鈴木ら,2012)等,ポジティブな出産体験の重要性は自明である.そして,ガイドラインは,母子にとって最良の出産体験を得るためにはWCCが重要であることを強調している(WHO, 2018).
助産師は出産における最適なケア提供者として,女性の出産経験の質を高めることが期待されている(ICM, 2011;Horton et al., 2014).したがって,生命の安全が保障された今,母子のウェルビーイング向上のためには,助産師が中心となり,WCCの視点から,女性の出産を見つめ直す必要がある.
しかし,WCCの概念には,解釈のばらつきがあり,世界的なコンセンサスは得られていない(Kuipers et al., 2018;Brady et al., 2019;Crepinsek et al., 2023).Hunter et al.(2017)は,専門職間に共通の理念と理解がない場合,WCCの質に悪影響を与える可能性を示唆している.日本では,日本助産学会(2018)が,WCCを「それぞれの女性が自ら定義する健康を志向する権利の保障のもと,女性の安全が守られる環境で,女性とのパートナーシップを基盤とし,女性のこれまでの体験と意思を最大限尊重すること,女性が持つ力を十分に発揮できるよう支援することをいう.女性の健康に対する社会的・文化的・政治的な影響を重視し,全人的なウェルビーイングを目標とする」と定義している.しかしながら,この定義は周産期に焦点を当て海外のデータを中心に導かれている.さらに,日本の助産師等がWCCをどう解釈し,実践しているかについての報告はなく,分娩期に焦点を当てて助産師のWCCの捉え方を問うことには新規性がある.
WCCは助産師主導の継続ケアモデルによって促進される(Hunter et al., 2017).WCCを重視した助産師主導のケアは,医師主導と同等レベルの安全性と,よりポジティブな妊娠,出産,産後の経験をもたらすという利点がある(Sandall et al., 2016).さらに,従事する助産師が少数である小規模なバースセンターでは,より豊かにWCCが展開される(Kuipers et al., 2021).日本で助産師主導の継続ケアを少人数の助産師で展開している主な場は助産所である.現在日本の出生場所は,助産所や自宅が0.6%(総務省統計局,2021)であり,開業助産師が携わる出産は激減している.しかしながら,助産所でのケアの安全性(Kataoka et al., 2013;Iida et al., 2014;Suzuki, 2016)や,ケアの受け手である女性側の高い満足度が確認されており(堀内ら,1997;Iida et al., 2012;宇都ら,2015),日本において,現行の助産師活動モデルとなっている.
そこで,本研究は,開業助産師が分娩期におけるWCCをどのように捉え,実践しているのかをGood Practiceの視点から明らかにすることを目的とし,そこから日本における最良のWCCの姿を明示することを目指す.それにより,助産師が分娩期におけるWCCの共通認識を形成する一助となり,助産ケアの質が高まることで,母子のウェルビーイング向上に寄与すると考える.
本研究では,開業助産師が捉えている分娩期におけるWCCとその実践を明らかにするために,助産師の分娩期における現象や経験について豊かで率直な記述ができる質的記述的研究(谷津,2015)を選択した.
2. 用語の操作的定義開業助産師:開業助産所に勤務する助産師
3. 研究参加者分娩取扱のある有床助産所に3年以上勤務している助産師を対象とした.まず,日本助産師会ホームページ,全国助産所一覧に掲載されている有床助産所院長に研究概要の説明文書を郵送し,研究協力を依頼した.承諾を得られた助産所で参加者を募った.
4. データ収集期間及び方法データ収集期間は2022年9月~12月であった.
インタビューガイドに基づき,半構造化面接を行った.助産師のWCCの捉え方,捉えているWCCを展開するための具体的な実践について,分娩期を中心にインタビューした.また,補足質問として,日々の実践において大切に考えていること等について行い,これまでの経験を想起してもらい,具体的かつ自由に語ってもらった.本研究の目的は,助産師がどのようにWCCを捉えているかを明らかにすることであるため,WCCの定義は事前に説明しなかった.
なお,COVID-19感染拡大防止のために,インタビューはWeb会議システムを活用して実施し,インタビュー内容は研究参加者の同意を得て,ICレコーダーに録音した.
5. 分析方法分析は,谷津(2015)の質的データの分析方法に基づいて行った.
インタビュー内容を逐語録に起こし,丹念に読み込み記述全体を把握した後,予備的要約を記述した.「開業助産師が捉え,実践している分娩期におけるWCC」に関連する内容を文脈の流れに忠実に,意味内容を損なわないように抽出し,コード化した.コード化したデータを意味内容の類似性に着目して分類し,サブカテゴリ化した.さらにサブカテゴリ間の類似性と相違性に沿って,抽象度を高めながら,カテゴリ,コアカテゴリを生成した.逐語録について,研究参加者にメンバーチェッキングを依頼した.さらに各々の分析段階で,研究者の解釈に歪みや偏りがないか,助産学および質的研究に精通した研究者2名とともに,繰り返し内容を確認し,解釈の不一致がなくなるまで議論を重ねることで,信憑性と確実性を確保した.
本研究は,茨城県立医療大学研究倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:1043).
研究参加者には,研究の目的,研究方法,研究協力の任意性と撤回の自由,個人情報の保護,匿名性の確保,データの保管方法,研究成果の公表等について文書及び口頭にて説明し,同意書への署名をもって同意とみなした.
研究参加者は12名であった.助産師経験年数は平均33.5年,助産所勤務年数は平均17年,インタビュー時間は平均53分であった(表1).
研究参加者の概要
研究参加者 | 年齢 | 助産師経験年数(年) | 助産所勤務年数(年) | 分娩介助件数(件) | 助産所年間分娩件数(件) | インタビュー時間(分) |
---|---|---|---|---|---|---|
A | 50歳代 | 34 | 25 | 900~1000 | 30 | 30 |
B | 50歳代 | 25 | 17 | 300 | 30 | 29 |
C | 60歳代 | 40 | 25 | 3500~3600 | 4~10 | 47 |
D | 70歳代 | 56 | 17 | 5000 | 80~85 | 37 |
E | 50歳代 | 37 | 13 | 400 | 40~45 | 42 |
F | 60歳代 | 40 | 14 | 600~700 | 20 | 41 |
G | 50歳代 | 35 | 15 | 4000 | 60~70 | 63 |
H | 50歳代 | 34 | 13 | 4000 | 50 | 70 |
I | 50歳代 | 15 | 13 | 200 | 50~60 | 80 |
J | 50歳代 | 32 | 15 | 850 | 30 | 79 |
K | 60歳代 | 34 | 29 | 600 | 20 | 58 |
L | 50歳代 | 20 | 8 | 250 | 14 | 58 |
本稿では,コアカテゴリを【 】,カテゴリを《 》,サブカテゴリを[ ],研究参加者の語りを「斜体」で示し,語りの補足は( )で表した.なお,研究参加者からの匿名性の担保に関する意向に沿い,研究参加者の語りにID番号は付さないこととした.
1) 開業助産師が捉えている分娩期におけるWCC分析の結果,26サブカテゴリ,6カテゴリ,3コアカテゴリが抽出された(表2).
開業助産師が捉えている分娩期におけるWomen-centered care
コアカテゴリ | カテゴリ | サブカテゴリ |
---|---|---|
女性の生涯を見据えて分娩期を理解する | 日々の実践が女性の生涯を支えることにつながる | 日々のケアそのものである |
一人一人の女性に合わせる | ||
妊娠期からの継続的な関りが基盤となる | ||
分娩期だけではなく続いているもの | ||
「いいお産」は「いい子育て」につながる | 出産経験は女性と家族のその後に影響していくもの | |
「いいお産」の経験は「いい子育て」につながる | ||
女性が出産経験に達成感を持ち肯定的に受容できる | ||
女性が母親として自立するプロセスを支える | ||
女性と子どもと家族を包含し,一丸となって分娩期に臨む | お産の主役は女性と子どもと家族である | お産の主役は母子とその家族である |
女性を取り巻くすべての人々を含めて捉える | ||
女性を主軸として展開されるべきもの | ||
女性の気持ちを尊重し思いに寄り添うケアを目指す | ||
「女性が産む」ために互いの力を発揮する | 女性が本来持っている「産む力」を信じて見守る | |
女性の体を育む必要性がある | ||
女性が「自分の力で産む」ことに能動的である | ||
共にあるすべての人々が女性の味方として存在する | ||
女性が自分らしく振舞うことができる | ||
女性と助産師の意識が乖離せずに互いの力を発揮できる | ||
女性と子どもの「命と幸せ」を守るために自律する | 「母子の命と幸せ」にこだわり続ける | 母子の安全が根底となる |
「最後までとことん一緒にやる」という覚悟と母子の生命を引き受けることへの責任を果たす | ||
「自然であること」ではなく「母子の幸せにつながること」にこだわる | ||
どんな時も女性が満足し納得してお産に臨んでいる | ||
安全と女性の思いを両立していく | ||
自律することで女性を支えることができる | 自らの職域と力量を見極める | |
自律した助産師としての役割を全うする | ||
若手への助産の継承を憂える |
このコアカテゴリは,分娩期だけを女性のパーツとして切り取るのではなく,女性の連続する生涯の一部として分娩期を理解し,育児期を含めた将来を見据えた継続的な支援が必要であるという,助産師の捉え方を示す.
WCCを言葉で表現することは難しいと感じながらも,提供している[日々のケアそのものである]というように,実践のすべてがWCCであると考えていた.そして,分娩期にある女性は唯一無二の存在として,助産ケアは[一人一人の女性に合わせるもの]であると意識していた.そのためには,分娩は妊娠期から整えることが必須であり,[妊娠期からの継続的な関りが基盤となる]という継続ケアの必要性を自覚していた.同時に,助産は[分娩期だけではなく続いているもの]という思いが根底にあり,自らの《日々の実践が女性の生涯を支えることにつながる》ことを強く意識していた.
「ほんと分娩期だけじゃないんだよ.初診からずっと.あと産後とか.」
[出産経験は女性と家族のその後に影響していくもの]として,女性と家族にとっての出産経験を大切にしていた.特に,女性にとっての《「いいお産」は「いい子育て」につながる》ことを幾多の経験から確信し,分娩期では,引き受けすぎずに,女性が自ら考え行動できることを意識していた.その結果,[女性が出産経験に達成感を持ち肯定的に受容できる]ことで,自分に自信を持ち,[女性が母親として自立するプロセスを支える]という育児期を支える支援であると考えていた.
「満足したり納得したりっていうのは,やっぱり自己肯定感っていうかそういうのにも繋がるし,何といってもお産もうまくいくけれども,お産の後のお母さんの笑顔もすごく(いいし),表情すごい(いい)し,もうきらきらしてる感じだし,その後の子育てもほんとに自信が持てたような感じになる.」
(2) 【女性と子どもと家族を包含し,一丸となって分娩期に臨む】このコアカテゴリは,ケア対象には家族も含み,女性が産むためには,その場にいる全員が一心同体となり臨むことが大切だという助産師の捉え方を示す.
《お産の主役は女性と子どもと家族である》とし,ケア対象は女性と[女性を取り巻くすべての人々を含めて捉える]ことが必要である.また,医療者の都合等を優先するのではなく,[女性を主軸として展開されるべきもの]であり,[女性の気持ちを尊重し思いに寄り添うケアを目指す]ことがケアの根幹であった.
「確かに,(出産は)女の人独特のものではあるんですけれども,でも,その周りにはやっぱり家族もいるし,その人だけを捉えるっていうよりは,やっぱり家族の中には男性もいらっしゃいますし,そんなんも含めて.その女性だけって考えるのはちょっと私,ごめんなさい,いまいちピンとこないんです.」
「産ませてあげよう」という考えはおこがましく,[女性が本来持っている「産む力」を信じて見守る],生理学的プロセスを重視した出産の考え方が基盤にある.そのプロセスが順調であるためには,産む[女性の体を育む必要性がある]こと,そして,当時者である[女性が「自分の力で産む」ことに能動的である]ことが必要である.また,そのプロセスが機能するためには,内因性オキシトシンの放出が肝であり,分娩期に[共にあるすべての人々が女性の味方として存在する]ことで,安心して[女性が自分らしく振舞うことができる]という,女性が心身を解放できることに着目していた.さらに,出産への[女性と助産師の意識が乖離せずに互いの力を発揮できる]ことが土台であり,出産の場にいる全ての人々が《「女性が産む」ために互いの力を発揮する》必要があると感じていた.
「結構邪魔してるんじゃないかなと思うんです,助産師は.どっかで,産ましてあげようみたいに思ってるから.だからやっぱりお母さんの力を信じたり,そこら辺でそういうふうになると意外とじっくり待てるし,赤ちゃんの心音とかが落ちなければほんとにゆっくり待てるし.そういう,自分の中で不安が,やっぱり自分自身を信じられないというか,自分が待てないのでっていうのでやってるような気がするんですね.」
(3) 【女性と子どもの「命と幸せ」を守るために自律する】このコアカテゴリは,分娩期は母子の安全が最優先事項であると同時に,出産体験の重要性を理解し,安全と女性の思いを調和することが求められ,そのためには,自律した専門家としての役割を全うしなければならないという助産師の捉え方を示す.
分娩期は,[母子の安全が根底となる]ため,一旦引き受けたら[「最後までとことん一緒にやる」という覚悟と,母子の生命を引き受けることへの責任を果たす]ことに助産師免許をも懸ける決意があった.また,「いいお産」とは,[「自然であること」ではなく「母子の幸せにつながること」にこだわる]ことであり,そのためには,[どんな時も女性が満足し納得してお産に臨んでいる]ことを大切にし,[安全と女性の思いを両立していく]ことを模索しながら,《「母子の命と幸せ」にこだわり続ける》ことを貫いていた.
「こっちももちろん覚悟を決めてるんですけど.覚悟を決めなきゃっていうか,とことん付き合うっていう覚悟を,赤ちゃんを無事に産んでもらうまではやっぱり助産師としての責任を果たさなければいけないっていう私自身の覚悟.」
専門職として《自律することで女性を支えることができる》と考え,WCCを展開するには,[自らの職域と力量を見極める]こと,その上で,正常な出産においては[自律した助産師としての役割を全うする]ことが責務であり,さらに,今後もWCCを展開し続けるためには,[若手への助産の継承を憂える]気持ちがみられ,将来の助産のあり方を憂慮していた.
「妊産婦さんを挟んでドクターとミッドワイフは車の両輪だっていうぐらい,ミッドワイフは頑張らないといけないと思っています.」
2) 開業助産師の分娩期におけるWCCの実践分析の結果,33サブカテゴリ,11カテゴリ,4コアカテゴリが抽出された(表3).
開業助産師の分娩期におけるWomen-centered careの実践
コアカテゴリ | カテゴリ | サブカテゴリ |
---|---|---|
女性が産むことに能動的になれるよう働きかける | 女性が「自分で産む」ための心と体を育む | 女性が自分の産む力を信じ,自らの力で産むという覚悟を促す |
妊娠期から心と体を育んでいく | ||
生理的な過程を見守りながら,女性の力を引き出す | 余計なことはせずに必要なことだけサポートする | |
女性が心地よく自分の「産む力」を一番発揮できる環境を創る | ||
生理的に進むように女性の力を引き出す | ||
女性が自分自身に没頭できるよう徹する | 女性が自分の身体に湧いてくる欲求のままに行動できるよう支持する | |
女性が心を開き自分らしくいられるように尽力する | ||
女性がお産に没頭できるよう整える | ||
女性のすべてを包容し添い続ける | 女性の納得にとことん付き合う | 女性のレディネスに併せて物事を進めていく |
女性が自分で意思決定することを支える | ||
妊娠期からお産について十分に語り合う | ||
できることのすべてをやり尽くし,女性が納得できるところまではとことん付き合う | ||
真のニーズを探りながら,程よい距離や方法で支え続ける | 女性の真のニーズを追求し続ける | |
時機に応じた女性との距離感を測りながら支え続ける | ||
女性に触れる「助産師の手」の力を大事にする | ||
女性が前向きな気持ちでお産に向き合い続けることができるように支える | ||
すべての思いや痛みを受け止める | 女性が経験している「痛み」をあるがままに受け入れる | |
是非を問わずに一人一人の女性の思いに共感し受け止める | ||
女性の意向を尊重し対応する | ||
女性と家族への揺るぎない信念のもと行動する | 安全と女性の思いが両立することを目指す | 科学的根拠と自己の経験を融合させながら判断する |
母子の安全を守るために客観的な判断に基づいた行動を執る | ||
安全と女性の思いを両輪として,女性にとってより良い方向に進んでいくことを目指す | ||
より良いケアのために助産師としての自己を整える | ||
出産を共にする女性と家族に感謝する | 女性への感謝と敬愛の念を抱く | |
体験を共有することで,女性とその家族からの恩恵を享受している | ||
女性のためにあらゆる関係性を醸成する | 女性と助産師との絆を築く | 女性に関心を寄せる |
女性へ愛情を抱く | ||
女性と「一緒にする」ことを積み重ねていく | ||
妊娠期から女性との絆を紡いでいくことで,阿吽の呼吸で分かり合える関係性を築く | ||
家族関係再構築のプロセスが順調に進むように調整する | お産に向けて家族の準備を整える | |
立会いは女性と家族各々の状態を大事にする | ||
女性を取り巻くすべての人々と信頼関係を構築する | 女性を共にケアするスタッフとの関係性を構築する | |
嘱託医療機関との良好な関係性を構築する |
このコアカテゴリは,女性には産む力が備わっているという前提のもと,女性が主体的に出産に向かえるよう妊娠期から心身を培うことで,生理的プロセスと女性の産む力が相乗し,最大限発揮されるよう尽力する助産師の実践を示す.
出産はその女性にしかできず,[女性が自分の産む力を信じ,自らの力で産むという覚悟を促す]ことに注力しながら,満たされたお産となるよう妊娠期から《女性が「自分で産む」ための心と体を育む》ことに奮闘していた.
「“妊娠してる人は絶対産めるので”っていうのをずっと言い続けてるので,だからお産の時に産婦さんたちは,自分は産めるっていうふうに思って.」
分娩期では[余計なことはせずに必要なことだけサポートする]だけで,[女性が心地よく自分の「産む力」を一番発揮できる環境を創る]ことに徹し,《生理的な過程を見守りながら,女性の力を引き出す》ことに終始していた.
「こっちで教えてあげてお膳立てしてやってもらうっていうよりは,持ってるものが発揮できるような,そういったコツを突いたりとかしていくのが私たちの大きな役割で.」
《女性が自分自身に没頭できるよう徹する》ことで,内因性オキシトシンが分泌される.そのため,[女性が自分の身体に湧いてくる欲求のままに行動できるよう支持する]ことや,[女性が心を開き自分らしくいられるように尽力する]ことで,[女性がお産に没頭できるよう整える]ことに献身していた.
「この人はもうこうやって歪んで息みたいんだなって思って,自分が分娩介助しにくい腰が痛いような姿勢になっても頑張ります.」
(2) 【女性のすべてを包容し添い続ける】このコアカテゴリは,女性をありのまま丸ごと受け止め,いかなる状況でも女性が納得するまで支え続ける助産師の実践を示す.
女性の背景を把握し,[女性のレディネスに併せて物事を進めていく]ことを土台に,[女性が自分で意思決定することを支える],[妊娠期からお産について十分に語り合う]ことを通して,出産に女性が納得して臨み,満足できることを目指していた.そのために,妊娠期から[できることのすべてをやり尽くし,女性が納得できるところまではとことん付き合う]という覚悟のもと,全力で妊娠中から女性が心と体を育めるように支援していた.女性との関わりの中で,どんな時でも《女性の納得にとことん付き合う》姿勢があった.
「お産は生き方みたいなもんだからっていうことで,そんな話とかもしながら,妊娠中に.妊婦健診の計測もするけど,そんな話を一緒に話したりする時間が結構長いですね.」
常に[女性の真のニーズを追求し続ける]姿勢を持ち,分娩が順調に経過するためには,そばにいるだけではなく,[時機に応じた女性との距離感を測りながら支え続ける]ことが必要であり,その過程で[女性に触れる「助産師の手」の力を大事にする]手当をしながら,状況をポジティブに受け止め,最後まで[女性が前向きな気持ちでお産に向き合い続けることができるように支える]という,女性の《真のニーズを探りながら,程よい距離や方法で支え続ける》ために助産師の技を駆使していた.
「その方の立場になるっていうことでしょうか.その方にとっての大ざっぱで言うと幸せは何だろうかなっていうふうによく考えています.」
陣痛を体験している女性の《すべての思いや痛みを受け止める》ことがケアの要であると考え,目の前で[女性が経験している「痛み」をあるがままに受け入れる],[是非を問わずに一人一人の女性の思いに共感し受け止める],[女性の意向を尊重し対応する]ことを通して,女性の思いに寄り添い続けていた.
「“痛い”って言ってるの,“ここが痛い”って言ってるのに“うんうん”って流すっておかしいと思うんで.主訴を聞く.もう,それに尽きるんですよね.主訴を聞いて,じゃあそれをどうにかしようっていうのが看護やと思うんですけど,“痛いの当たり前やん”とか,訳分かれへんと思って.」
(3) 【女性と家族への揺るぎない信念のもと行動する】このコアカテゴリは,母子の安全と女性の思いを併存させること,分娩期は女性と家族,助産師の互恵的な関りの中で存在しているという確固たる信念を持ってケアするという助産師の実践を示す.
一つとして同じお産は存在しない中で,様々な事象と向き合い,[科学的根拠と自己の経験を融合させながら判断する]ことが求められる.その経過の中で,女性の希望をすべて叶えるということではなく,必要時には迅速に[母子の安全を守るために客観的な判断に基づいた行動を執る]という責務を果たしながら,《安全と女性の思いが両立することを目指す》ことに邁進していた.そして,WCCを展開するためには,助産師自身が心身を整え,研鑽を積み[より良いケアのために助産師としての自己を整える]ことも専門職の務めとして行動していた.
「もう目標は(助産院で産むことではなく)赤ちゃんを元気に抱っこすることだよって.元気な状態で元気な赤ちゃんを抱っこしようねって.私はそっちのほうが目標だと思うよって言って.だから,どこで産むかは二の次やってね.」
女性が助産師を受け入れ,出産に臨んでくれたことは当たり前のことではなく,[女性への感謝と敬愛の念を抱く]ことが必要である.そして,分娩期を共に過ごし[体験を共有することで,女性とその家族から恩恵を享受している]ことへの感謝の気持ちを抱き,WCCを展開できるのは自分の力だけではなく,女性と家族の存在があるからこそと,《出産を共にする女性と家族に感謝する》ことを念頭に置き実践にあたっていた.
「ほんとに,あのきらきらしたのは忘れられませんね.あの子の目も表情も,体から全部きらきら光ってる感じがして素晴らしかったですけどね.あと,そういう体験を自分自身がすると,ほんとにお母さんって産めるんだなっていうか,人間の体ってうまくできてるんだなっていうか.私たちが産ませようなんかっておこがましいっていうか,そんな感じですごくいい体験を私もしたんですけれども.」
(4) 【女性のためにあらゆる関係性を醸成する】このコアカテゴリは,母子の命と幸せを守るためには,女性の出産に影響するあらゆる人々と関係性を創ることに力を尽くす助産師の実践を示す.
常に[女性に関心を寄せる]姿勢を持ち,[女性へ愛情を抱く]ことを関りの基盤に置き,[女性と「一緒にする」ことを積み重ねていく]ことを通して,信頼感を深めていた.その結果,[妊娠期から女性との絆を紡いでいくことで,阿吽の呼吸で分かり合える関係性を築く]ことにつながり,分娩期には女性が何も言わなくても,気持ちを肌で感じることができるため,妊娠期から《女性と助産師との絆を築く》ことを大切にしていた.
「特にお産の時は,“お母さん,どうしたいの?”とか言う前に,阿吽の呼吸で“お母さん,こうしてもらいたいだろうな”なんて.例えば,お母さんが動きたいなって感じたらちょっと動いてみようとか,そういうのが阿吽の呼吸で分かるようになるんですよね.そうすると,質問しなくても,余計な言葉を使わなくても,お母さんと私たちが一体になってお産ができるので,ホルモンが出やすくなるんですよ,オキシトシンが.そういうところを感じれるようになるのが大事かなと思っているんですね.」
家族は,児の誕生という新たな家族が増えることで,関係の再構築という発達課題を迎える.そのため,妊娠期から[お産に向けて家族の準備を整える]こと,[立会いは女性と家族各々の状態を大事にする]ことで,《家族関係再構築のプロセスが順調に進むように調整する》よう家族全体を支援していた.
「家族をつくるっていうことでは,旦那さんがどんな立ち位置,どんな空気を醸し出しているかっていうのと,あと,兄,姉になる子たちっていうのも大事にしているので.」
[女性を共にケアするスタッフとの関係性を構築する]こと,[嘱託医療機関との良好な関係性を構築する]という《女性を取り巻くすべての人々と信頼関係を構築する》ことで,女性と家族にとって安心安全な人的環境を整えることに尽力しており,WCCは女性の出産を支えるすべての人々との関りの中で成り立っていた.
「私とその嘱託医療機関に信頼関係がなくなることは,彼女の不利益だけでなく,今後のお母さんたちにも不利益にもなるかなと思う」
3) 開業助産師が捉えている分娩期におけるWCCとその実践抽出されたコアカテゴリの関連性を検討した.開業助産師は分娩期におけるWCCには,【女性の生涯を見据えて分娩期を理解する】,【女性と子どもと家族を包含し,一丸となって分娩期に臨む】,【女性と子どもの「命と幸せ」を守るために自律する】ことが必要であると捉え,母子と家族の幸せのために【女性と家族への揺るぎない信念のもと行動する】ことを土台として【女性のためにあらゆる関係性を醸成する】ことに尽力しながら【女性のすべてを包容し添い続ける】ことを通し【女性が産むことに能動的になれるよう働きかける】実践であった.
渡辺ら(2009)は,母親が出産直後に「幸せ」を感じていることが,子どもの高い社会的能力獲得につながることを報告している.本研究でも助産師は,《いいお産はいい子育てにつながる》と考え,出産を女性にとって価値あるポジティブな体験として位置づけることの重要性をWCCの中に見出していた.
そして,助産師は女性にとっての重要他者すべてをWCCの対象と捉えていた.Leap(2009)は,「女性がより強くなれる」という波及効果の観点から,女性が重要と定義するすべての人々を含む概念であると報告している.また,Downe et al.(2018)は,女性にとって重要なことは,女性や家族にとって最も安全で人間らしいマタニティケアが提供されることであると報告しており,こうした家族を含んで考える視点は,本研究での助産師の捉え方と一致していた.
Leap(2009)は,研究者の中に,WCCが専ら正常な出産と助産師主導のケアに結びついているという思い込みが生じていることを指摘している.しかしながら,本研究での助産師らは,[「自然であること」ではなく,「母子の幸せにつながること」にこだわる]ことに主眼を置いていた.助産師は自らの職域において,いわゆる「正常なお産」であることにこだわるのではなく,[どんな時も女性が満足してお産に臨んでいる]こと,そのために[「最後までとことん一緒にやる」という覚悟と母子の生命を引き受けることへの責任を果たす]という,いかなる状況においても,母子の心と体を守り続けることに尽力することこそがWCCであり,そのために助産師が専門職として自律することが必要であると考えていた.
2. 開業助産師の分娩期におけるWCCの実践《安全と女性の思いが両立することを目指す》という専門職としての「信」と《出産を共にする女性と家族に感謝する》という女性や家族から与えられる幸福への「礼」から導かれる実践があった.助産師は出産と女性が母親になる過程,つまり女性の最も深遠なライフイベントの一部を担うという「女性の人生に招かれる特権」を持ち(Kuipers, 2022),その[体験を共有することで,女性とその家族からの恩恵を享受している].そして,助産師としての任を果たせるのは,女性が助産師を受け入れることを許した時のみであり,それは助産師にとって名誉であり謙虚な行為である(Kuipers, 2022)ことから,常に[女性への感謝と敬愛の念を抱く]ことを実践の基盤に置いていた.これは助産実践におけるWCCのvirtue(美徳)の一つであるGratitude(感謝)(Kuipers, 2022)と一致する.分娩期にある女性は,陣痛と共にあり,女性器を露出し,それを医療者に委ねざるを得ないという非日常の世界に置かれる.それゆえ,必然的に弱い存在となりやすく,専門職からのパターナリズムを強く意識されやすい.WCCはこうした女性が自分の身体を自分の手に取り戻す動きから生まれており,WCCの実践において土台となる要素だと考える.
また,《女性と助産師との絆を築く》ためには[女性と「一緒にする」ことを積み重ねていく]ことを通して,[妊娠期から女性との絆を紡いでいくことで,阿吽の呼吸で分かり合える関係を築く]という,長い時間をかけて丁寧に関係性を創り上げていた.Iida et al.(2012)は,WCCにおける女性と助産師との効果的な相互作用と敬意のある関係性の構築には時間がかかり,それは妊娠期から積み重ねる時間とともに徐々に発達することを示唆しており,本研究結果と一致した.
さらに,助産師は[真のニーズを追求し続ける]という,一人一人の女性が求めているものを追求する姿勢を持ち関わり続けていた.WCCはwomenではなくwomanであり,個々の女性のニーズに焦点を当てるというLeap(2009)の概念と一致した.
3. 開業助産師が捉えている分娩期におけるWCCとその実践Leinwebe et al.(2023)はポジティブな出産体験を,“出産に関連するやりとりや出来事の中で,女性が,支えられている,コントロールできる,安全で,尊重されていると感じた経験”と定義づけている.開業助産師の分娩期におけるWCCは,ポジティブな出産体験が女性と家族に好影響をもたらすことを認識し,それを実現するための自律した実践へと繋がっていた.
4. 日本の助産師が目指すべき分娩期におけるWCCへの示唆本研究で明らかとなったWCCは,分娩期において,日本助産学会が提唱するWCCを網羅かつ新たな視点の追加を示唆した.まず,対象には家族も含めること,そして,WCCを展開するためには助産師自身の自律性が必要であった.さらに,WCCは助産師主導かつ継続ケアにおいて促進されるが,本研究では,継続ケアはWCCの重要な要素として認められた.
Brady et al.(2019)は WCCのテーマとして,“choice and control”,“empowerment”,“protecting normal birth”,“relationships”,“the individual midwife”を特定し,本研究結果はこれを網羅していた.ただし“choice and control”は,女性と助産師の両者による二重の責任であるとしている.本研究では,女性には産む側としての自己責任を負わせるよりも,【女性が産むことに能動的になれるように働きかける】という,女性が自己の出産に対し主体性を持つことに主眼がおかれていた.岡(2017)は,出産時の意思決定において医師と女性との間にパターナリズムが存在していることを指摘している.日本では,自己責任を問うことに先立ち,まずは女性が自分の事として出産を捉え臨むという主体性を支援することがWCCの要素として抽出された.
開業助産師の分娩期におけるWCCは,自律した助産実践のもと,女性のポジティブな出産体験を促す,日本の母子と家族の幸せを支えるケアであり,日本の助産師が目指すべき形である可能性が高い.また,本研究の成果は,WCCの世界的なコンセンサスに向けた一資料として寄与できると考える.
本研究では,対象を開業助産師に限定した.研究参加者の経験等の差異からデータの偏りや本研究以外の分娩期におけるWCCの捉え方や実践がある可能性もあり,限界がある.また,助産所に就業する助産師の割合は6.2%(厚生労働省,2022b)に過ぎない.さらに,WCCは分娩期だけではなく,マタニティケア全体において必須である.よって,より広い視点でマタニティケアを捉え,検証する必要がある.同時に,当事者である女性自身の真実の声を聴く研究も不可欠である.
開業助産師の分娩期におけるWCCは,ポジティブな出産体験が女性と家族に好影響をもたらすことを認識し,それを実現するために自律した助産実践を志向していた.
謝辞:本研究を行うにあたり,お忙しい中,インタビューにご協力いただきました研究参加者である開業助産師の皆様には深くお礼申し上げます.本研究の遂行にあたり,ご指導・ご助言を賜りました先生方,支えてくださった皆様に心より感謝申し上げます.本研究は,JSPS科研費JP23K10180の助成を受けて実施しました.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:KIは,研究の着想およびデザイン,データ収集,データ分析,論文の執筆すべてを実施した.NIはデータの分析および原稿への示唆を行った.NKは,研究の着想から原稿への示唆に至る研究の全プロセスにおいて助言を行った.すべての著者は,最終原稿を確認し,承認した.