2023 Volume 43 Pages 889-898
目的:地域看護職が行う早期支援における認知症高齢者のアドバンス・ケア・プランニング(ACP)準備支援を明らかにする.
方法:10施設・12名の地域看護職に半構造化インタビューを行い質的記述的に分析した.
結果:ACP準備支援は,【慎重な認知症診断・告知プロセスの検討】【本人の状況に適した生活を継続するための早期から切れ目ない支援】【認知症高齢者に対する家族の理解促進と困りごとの継続支援】【多職種・関係者協働のコーディネートとネットワークづくり】を実践していた.また地域看護職の多くは,早期のACPに関して,実施の難しさを感じていた.支援チームと兼務して長期にわたり支援の役割がある地域看護職は,ACPを意識しながらかかわりを持っていた.
結論:認知症高齢者のACP準備支援は,早期支援の中に含まれているものであり,意識してACPの準備性を高めていけるように進めていくことが必要である.
Objective: Clarifying advance care planning (ACP) preparation support for older adults with dementia in early support provided by community nurses.
Methods: We conducted semi-structured interviews with 12 community nurses from 10 facilities and analyzed them qualitatively and descriptively.
Results: The ACP preparation support included “consideration of the dementia diagnosis/notification process,” “continuous support from an early stage to continue a life suited to the person’s situation,” “promotion of family understanding of older adults with dementia and their troubles,” and “Coordination and network building for multi-professional/related party collaboration.” Many community nurses found it difficult to implement ACP at an early stage. Community nurses, who had a long-term support role concurrently with ACP were involved while being aware of ACP.
Conclusion: The ACP preparation support for older adults with dementia is included in early support, and it is necessary to consciously promote ACP readiness.
わが国は,超高齢社会・多死社会であり,一人ひとりの高齢者が最期まで本人らしく生きることができるよう支援し,その目的に資するよう医療・ケアを提供することの重要性はますます高まっている(日本老年医学会,2019).
その長寿社会の中で,認知症高齢者も増加しており(内閣府,2016),認知症は,進行性に認知機能が低下するために,診断後は早い段階から自分の意思でケアを決定することが困難となる(粟田,2016)などの疾患の特性がある.そのため,医療・ケアチーム専門職の支援方法の確立は,現在喫緊の課題であると言える.
その支援方法として,人生の最終段階に至るまで一人ひとりを尊重しつつ医療・ケアの意思決定を支援する具体的な方途のアドバンス・ケア・プランニングAdvance Care Planning(以下,ACP)に注目が集まっている(日本老年医学会,2019).厚生労働省(2018a)は,「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」にACPの考え方を盛り込み,日本におけるACPの普及・啓発を行っている.さらに認知症の人に対しては,「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定ガイドライン」を提示している.認知症本人の意思決定を支援するためには,認知症の進行度を見極め,取り組みのタイミングを逃がさず支援チームによる関わりなどのACPが重要であるとしている(厚生労働省,2018b).
しかし,ACPの認知について,一般国民は「知らない」が75.5%,医師41.6%,看護師42.5%,介護職員では51.6%であった.また,ACPの説明文を示したうえで,その賛否の問いの結果は,「賛成」の割合が多く,一般国民64.9%,医師75.9%,看護師76.7%,介護職員80.1%であった(人生の最終段階における医療の普及・啓発の在り方に関する検討会,2018).このことから,ACPの認知が広まることで,ACPの取り組みにつながると考える.
近年の認知症患者のACPの定義は複数あるが,まだコンセンサスが得られたものはない.またACP介入は,入院率の減少や,実際に受けたケアと希望のケアの一致が増加した.このことから,有効であった可能性はあるが,質的・量的研究ともに確実なエビデンスはまだ蓄積されていない(Dael et al., 2020;Ryan et al., 2017).特に認知機能の変化に沿ってタイミングを図り複雑なACPを進めていける医師や専門職の教育・スキルの習熟が必要である(Piers et al., 2018;Sellars et al., 2019).また,日本における全体的なACP研究は,統一した概念の定義が明確にされておらず,まだ原著論文が少なく,さらに介入の有効・有益性のエビデンスの蓄積が求められている.今後は,日本の文化・社会・医療事情に適したACPの開発・導入を支援する研究が必要である(大濱・福井,2019;谷本ら,2018).
したがって,これらの先行研究から,認知症高齢者のACPは,認知症診断前後の早期から専門職が本人・家族と関係を構築しながら,代理意思決定者を選定する.そして継続して本人中心の意思決定支援を行うことであり,特に早期から準備していくことが重要であると考えられる(粟田,2016;菊本ら,2022;角田,2021;家根ら,2020).ただし,認知症の診断後の早い段階でACPを開始することは,適切なタイミングではあるが,その支援方法は確立されていないため,介入できる医療従事者・介護側のトレーニングとスキル向上の必要性(Bosisio et al., 2018;Poppe et al., 2013)がある.
現在の日本の認知症施策は,厚生労働省(2019)が2019(令和元)年6月に,新たに,認知症施策推進大綱を策定した.その施策の一環として,認知症初期集中支援チーム(以下,支援チーム)を発足した.支援チームの設置場所は,市町村とし,地域包括支援センター,訪問看護ステーション,診療所等に委託可能とする.そして支援チームは,認知症が疑われる人や認知症の人及びその家族を訪問し,観察・評価,速やかに適切な医療・介護サービス等の利用につなげる初期の支援を包括的,集中的に行う.また,自立生活のサポートを行う役割があり,チーム構成の職種は,認知症専門医1名及び医療・介護の専門職2名以上としている(総務省行政評価局,2020).
支援チームの早期介入によって,医療・介護へのサービスへ引き継がれ,サービスを利用しながら在宅生活を継続することができていることから,支援チームの役割は一定程度達成できている.しかし,支援の実態は,市町村により,配置場所,配置数,支援実績は様々であり,支援は初期ではなく,対応困難事案に偏る傾向があり,地域の実情に応じた支援の取り組みの再検討の課題がある(総務省行政評価局,2020).
その支援チームの地域看護職は,認知症高齢者の関わりの初回から担当することが多い.またほとんどが,地域包括支援センター(以下,包括)・行政・訪問看護ステーション・病院との兼務であり(国立長寿医療研究センター,2019),認知症高齢者の支援を行っている専門職である.認知症初期集中支援チーム員研修テキスト(国立長寿医療研究センター,2020)によると,支援チーム員の活動内容は,①普及啓発活動の広報活動を行い,②認知症初期集中支援として,対象者を包括や家族等から情報を把握し,アセスメントした上で,初回訪問を行い,チーム員会議を開催する.約半年の期間で,本人・家族の思い・希望などを考慮しながら,受診勧奨・介護サービスの調整・日常生活を整えるケア・社会資源の活用・権利擁護に向けた調整を行う.そして,次に引き継ぎ,初期集中支援を終了した後は,モニタリングを行い,ケアマネージャーの聞き取り・報告・助言を行う.③支援チーム検討委員会の設置を行うと記載されている.このように多くの支援を行う役割があるが,ACPに特化した支援は明記されていない.
また,支援チームの看護職に特化して支援の実践や,ACPについて認識や活動を明らかにした研究はなかった.さらに,支援チーム員が認知症高齢者と家族に意思決定に向けたかかわりは,大規模な調査はなく,支援チーム員のインタビューから質的帰納的に分析した結果,早期支援・対応が主になり,関係構築や受診・サービスの導入などの対応で意思決定支援を十分に行えないジレンマを感じていた(家根ら,2020).
さらに,支援チームの早期支援の時期は,認知症の診断前後は,早期診断により,本人・家族が絶望感や疾病否認につながる(粟田,2016;中西,2021).また,認知症スティグマがまだ根強くある社会の問題から,今後の生活に希望を持てない(村山,2018)など,ショックや不安が大きいセンシティブな時期である.これらから,すぐにACPを開始できない状況であると考えられるため,ACPにつながる準備段階の時期としての支援方法を検討する必要があると考える.そして,認知症の早期から関り,多くの役割を持つ看護職だからこそ,ACPにつながる準備段階で重要な役割があると考える.
以上のことから,本研究の目的は,認知症高齢者に対して地域看護職が行う早期支援におけるACP準備支援を明らかにすることである.これらを明らかにすることにより,認知症高齢者のACP準備支援について検討し,その示唆を得ることができると考える.
1.認知症高齢者のACP:「認知症の変化,進行,不安に伴い,将来の意思決定に向けて環境を整備し,認知症早期から本人と関係者全員が関係構築しながら,事前指示書の共有,代理意思決定者の選定,人生の最終段階に向け家族も準備し,最期まで継続した本人中心の意思決定と望む生き方の最善を考える取り組みのプロセス」(菊本ら,2022)
2.認知症高齢者のACP準備支援:菊本ら(2022)の概念分析で示された日本における認知症高齢者のACPの分析結果の先行要件・属性を参考とし,「認知症診断前後の状況の変化をきっかけに,本人・家族・多職種との関係構築を開始し,認知症に対する支援と並行しながら,関係者全員のACPに関する知識を高め,将来について本人主体としたチームにより意思決定を行う意義について相互に理解を深め,具体的に今後の生活の意思決定を開始する時期に備え準備性を高めることを目的とした支援」と定義する.
3.早期支援:支援チームが認知症高齢者に関する情報を得て,地域看護職が初めて関わりを持つ時期から約半年間の期間までを目安とした,認知症の進行段階ではなく,専門職が関わりを始めた早期における支援とする.
質的記述的研究デザイン
2. 研究対象者研究対象者は,認知症高齢者の早期支援を行っている認知症初期集中支援チームの地域看護職とした.なお,1所属に1名の研究対象者を基本としたが,1つの施設から地域看護職複数人でのインタビューの希望があった場合には,個人インタビューでは得られない幅広い情報を得ることができると考え,グループを研究対象とした.
支援チームは,厚生労働省の認知症施策により全国の自治体に各1か所以上の設置が定められており,その設置施設は各自治体の地域特性により様々である.ただし,支援チームの基本的な活動内容は,研修やテキストによって示され研修を修了した専門職が,支援チーム員として活動している(国立長寿医療研究センター,2020).
本研究は,A県内の支援チームのモデル事業対象の施設に紹介協力の依頼を行い,初回の研究対象者の紹介を受けた.その後は,雪だるま式標本法にて,地域・所属先を限定せず,紹介を受けた地域看護職と所属責任者に研究実施者が研究内容の説明と協力の依頼を行い,署名による同意書が得られたものを研究対象者とした.
3. 調査期間2021年10月から12月であった.
4. データ収集方法半構造化インタビュー法を用いた.インタビューは,新型コロナウィルス感染症の拡大状況を考慮し感染予防対策を講じた上で実施した.研究実施者と研究対象者の体調に問題がないことを確認した上で,研究対象者の職務遂行に影響がないよう希望された時間と場所とした.また,希望者には,ビデオ会議ツール(Zoom)を使用して実施した.
インタビューは,各研究対象者につき30分から60分程度の1回のみとし,次の内容のインタビューガイドを用いた.認知症高齢者に対して,看護職として活動している支援内容・役割・初回訪問時の支援・看護職としてかかわることの利点と課題,ACPにつながる支援や関わりの内容である.また,年齢・看護職歴・支援チームの経験年数・看護職以外の資格についての基本属性は,インタビュー後,紙面への記載を求めた.インタビュー内容は,研究対象者の許可を得てICレコーダーに録音し,逐語録にした.
5. 分析方法分析は,逐語録を繰り返し読み熟読後,認知症高齢者に対する地域看護職の早期支援の実践に関する内容から,認知症高齢者のACP準備支援の定義と,菊本ら(2022)の認知症高齢者のACPの概念図の先行要件と属性を基に,ACP準備支援の実践の内容を抽出し,コード化した.そして,コードの共通点と差異に基づき分析し,サブカテゴリ化し,さらに抽象度を上げてカテゴリを生成し,質的記述的に分析した.グループインタビューのデータについては,1つのデータとして分析を行った.分析過程においては,老年看護学・認知症ケアに精通した研究者のスーパーバイズを受け,研究者間で議論を重ね,分析の信頼性,妥当性の確保に努めた.
6. 倫理的配慮本研究は,武庫川女子大学・武庫川女子大学短期大学部研究倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:No. 21-41).研究対象者へは,研究目的・意義・方法,研究対象者の自由意志で参加は決定されること,同意後の撤回はいつでもできること,同意しない場合でも不利益を生じないこと,匿名化と個人情報の保護,不明な点や問題点にはいつでも応じることについて口頭・書面で説明し,研究対象者の同意と署名を得た.なお,ビデオ会議ツールを使用し実施した研究対象者は,研究説明に必要な書類は,追跡可能なレターパックライトにて郵送し,同意書に署名を得た.署名後の同意書は,返送用封筒にて回収した.
また,インタビューは,研究対象者の希望日時・場所を選択し,プライバシーが確保できる個室,かつ感染予防対策のために換気を行い実施した.得られたデータは,電子資料や電子データは外部記録装置(USB)に記録し,紙媒体は1つにまとめたファイルに保管し,施錠できるロッカーにて保管した.
研究対象者は,10施設・12名であった.このうち,グループインタビューとなったのは2施設で,それぞれ2名ずつを研究対象とした.看護職の平均経験年数は24.8年,支援チームの平均経験年数は,3.8年であった.研究対象者の中には,看護職以外に認知症支援に関連する国家資格として,社会福祉士・介護福祉士を有する者がいた.その他の保有資格は,介護支援専門員・主任介護支援専門員・健康運動指導士・認知症地域支援推進員・生活支援コーディネーターであった.所属先の内訳は,A県内の自治体の2市・6町・2村であり,所属形態は,行政・包括(直営・委託)・訪問看護ステーション・コミュニティナース(委託)であった.勤務形態は,支援チームの専任は1か所(2名),残り9か所(10名)は兼任であった.
対象者の概要
施設ID | 研究対象者 | 職種 | 年齢 | 自治体 | 所属施設 | 勤務形態 | 看護職経験年数 | 支援チーム経験年数 |
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1 | A | 看護師 | 60代 | 町 | 訪問看護ステーション | 兼任 | 40年 | 7年 |
2 | B | 看護師 | 40代 | 町 | 地域包括支援センター(直営,行政) | 兼任 | 23年 | 2年 |
3 | C | 保健師 | 50代 | 市 | 行政 | 専任 | 27年 | 2年 |
保健師 | 50代 | 25年 | 5年 | |||||
4 | D | 看護師 | 30代 | 村 | コミュニティナース(委託) | 兼任 | 5年 | 2年 |
5 | E | 看護師 | 50代 | 町 | 行政 | 兼任 | 31年 | 6年 |
6 | F | 保健師 | 50代 | 町 | 行政 | 兼任 | 23年 | 3年 |
7 | G | 保健師 | 50代 | 市 | 行政 | 兼任 | 27年 | 4年 |
看護師 | 60代 | 35年 | 4年 | |||||
8 | H | 保健師 | 40代 | 町 | 地域包括支援センター(委託) | 兼任 | 13年 | 6年 |
9 | I | 保健師 | 50代 | 町 | 地域包括支援センター(直営,行政) | 兼任 | 33年 | 2年 |
10 | J | 看護師 | 40代 | 村 | コミュニティナース(委託) | 兼任 | 15年 | 3年 |
研究対象者の支援チームとしての早期支援の活動方針に大きな違いはないが,その自治体・所属・勤務形態などの背景によってプラスされた支援や継続支援があった.支援チーム専任職の活動は,早期支援から次の支援へ引き継ぎ,その後はモニタリングを行っていた.兼任職の活動は,行政・訪問看護・包括の業務を行いながら,明確に分けて行う活動ではなく,支援チームの活動を並行して行い,早期支援から継続支援に渡り,長期間のかかわりを持つ研究対象者もいた.特に,コミュニティナースは,地域の人の暮らしの身近な存在として,まちの人と一緒に暮らしをつくっていくことをコンセプトとして活動している.地域住民を対象に,アウトリーチの活動の要素が強く,地域の生活に入り他職種と連携し,中長期的な視点で自由・多様なケアを実践する役割がある(Community Nurse Company株式会社,n.d.;西田,2022).したがって,罹患の有無にかかわらず,健康相談から人生の最終段階,つまり最期まで支援する役割を持ち,早期だけではなく長期にわたり支援していた.
また早期のACP実践に関して,11名は「早期の関わりにおいて本人や家族にACPについて,直接話をするのは難しい」,「現在の高齢者や家族に早期からACPの受け入れは難しい」と現在において実施の難しさを語っていた.
2. 認知症高齢者の早期支援におけるACP準備支援の実践(表2)認知症高齢者のACPにつながる早期支援の実践として,4カテゴリ,13サブカテゴリ,252コードが生成された.以下,カテゴリを【 】,サブカテゴリを〈 〉,研究対象者の語りは「斜体」で示した.研究対象者のIDはアルファベットで示した.
認知症高齢者のACPにつながる早期支援の実践
カテゴリ | サブカテゴリ | 主なコード |
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慎重な認知症診断・告知プロセスの検討 | 認知症受診・告知は本人が受け入れ可能か慎重に検討 | 認知症は,医療につなげても良くなる疾患ではないため,診断してもらうまでのプロセスで障害になることも多い. 認知症高齢者への対応・診断や告知は医師によって違いがあり,ショックを受けることもあるので,配慮してなるべくそれぞれの機関で安心して診断や受診できるように考えて体制をとる. |
認知症に対する不安への傾聴と声掛け | 認知症かもしれないと落ち込む状況で,自尊心を上げるように傾聴とともに話をする. 困ることや困りかけていることを一緒に整理する. | |
多職種・関係者協働のコーディネートとネットワークづくり | 関係者・地域住民・専門職の間を調整・構築する役割 | 行政の高齢者支援に関係する事業に関わり,情報を統合し共有できるように調整する. 本人,家族,地域住民,専門職などの間に入りコーディネートする. 医療,介護関係者とのネットワークがあり,家族にかかわる専門職,地域の人との調整役の役割が一番大きい. 地域住民のリーダーのような方といい関係を作り,住民との間で関係を作る. |
対象者の課題に合った専門性を活かし多職種メンバーと協働 | チームメンバーは,各対象者の課題により専門的に関われるメンバーを選択して招集する. 複数回の訪問を重ねながら,できるだけ早期から支援してその後包括・地域で支援してもらえるように,包括と関係性を築きながらつなげていく. | |
自分自身と,病院所属のOT,地域連携室のスタッフ,訪問看護師などがチーム組んで,いろんな方向から対応できる. 看護職単独だけでは知識や社会資源が限られるため,多職種連携しいろんな専門性を活かす. ケアマネージャーのかかわりが大きく,協力したことで継続支援につながる. | ||
地域に根差した活動から気になる高齢者の情報をキャッチ | アウトリーチの方法で地域のサロンなどに顔を出してきっかけを作り情報を得る. 講座や集まりの身近な地域で,近所の人たちの気づきが大事で,こちらの活動だけではない対策が大事. 地域の活動に参加する中で,何度か会っている高齢者は,体調やいつもと違う様子などがわかる.医療者の視点で見たときのアセスメントは大体あっている. | |
地域の社会資源を活用した生活をコーディネートするためのネットワーク作り | 後見人制度の協力をお願いしたりするためにも,地域の弁護士とも常にコミュニケーションをとり関係性を作っている. 自分自身の長い経験を活かして,地域の人のネットワークに入っていける. | |
認知症高齢者に対する家族の理解促進と困りごとの継続支援 | 認知症高齢者の現在の状態を理解できるよう家族との関係をつなげる | 家族が遠方に住んでいる場合,月数回会う頻度では,普段の日常生活が把握できず,近所の方の話とのギャップが大きいため,家族にも情報を提供して,地域包括の相談窓口の紹介や日常生活の助言を行う. 一緒に住んでいない家族,遠縁の人は認知症高齢者の日常を正しく把握していないことが多いためそのギャップを埋めるようかかわる. 本人の受診は,家族さんが理解によりつながる可能性が高く,現在の状態を理解してもらうようにかかわる. |
家族が介護継続する中で起こる困り事を支援 | 本人への支援終了後は,家族の困りごとのサポートなどを引き続き関わりを持つ. 暴力などの困難な状態が認知症の初期から中等度にかけて出現した場合,家族を支えていくかかわりを持つ. |
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本人の状況に適した生活を継続するための早期から切れ目ない支援 | 複数問題をかかえる認知症高齢者の適切な生活への切れ目ない支援 | 認知症診断と要介護認定を受けた後も,地域の社会資源で暮らすことができた高齢者に対し,周りから得られる情報や,月に1回の様子を見る関わりを継続した. 独居生活が継続できなくなったが独身で家族がいない認知症高齢者の対応は,病院で最期は亡くなられるまで,その病院や地域のインフォーマル・フォーマルな社会資源の調整と継続支援を行った. 認知症単独の問題だけでなく,複合課題,いろんな要素が重なっている問題を含めて生活を継続できるように調整する. |
看護職としてのアセスメントから必要な医療面の支援 | 認知症疑いと周りからの第一報で関わり,診断はできないが,認知機能を下げる要因はないか,全身を把握できる. アルコールを飲んでいないか,頭部の外傷ではないか,どれぐらいの期間で認知機能の変化が出てきているかなどを整理して,急性期なのか福祉の介入が始まるまで様子をみれるのかを判断できるのが強みである. |
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結果を急がず継続支援につなげる初回訪問 | まず自分で初回訪問することで,認知症や身体の状態,環境,家族構成を観察し情報収集できる 初めての訪問は,無理強いしない,関係性を構築する始まりであり,続けて訪問できるようにさりげなく今の状態や本人の思いを聴く 初回訪問は,本人の思い,希望,生きがいを聞き,本人中心でかかわっていることを伝え,信頼されて次につながるようなかかわりを行う. |
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根気よくかかわりを継続し支援につながる機会を逃さない | 家族が相談に来たあと,何回も訪問し,状況をみながら支援を続けることで,信頼を得られ受診につながった. 初期対応から本人の拒否があり初めから介入はできなかったが,近所の方,兄弟,警察との連携で,メンバーでかかわりを継続し支援につながった. 在宅生活を希望されたが,親族の支援が難しいため,乗り気でなかった介護サービスを受け入れデイサービスに通所されるようになって,ケアマネさんやデイサービスの外部とつながり,在宅生活が継続できた. 本人の思いを聴きながら,すぐに施設ではなく在宅生活を継続できるようにケアマネさんと根気よくかかわり,その後認知症の進行に合わせて施設への支援を行った. |
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多職種チームが多角的視点で関わり信頼関係を構築 | 主治医の対応から認知症高齢者が安心して在宅生活の継続できる. 認知症の受診につなげるか,今後の生活などを多職種の各自の視点から話し合って検討し,本人・家族との関係を築く. 多職種であっても,高齢者,認知症の方への視点は全員共通であり,かならず共有して,だれでも同じように相談を受けることができる. |
【慎重な認知症診断・告知プロセスの検討】は,認知症の可能性がある本人もしくは家族への関わりを初めて開始した時に,安易に受診を進めるのではなく,本人・家族の〈認知症に対する不安への傾聴と声掛け〉を行っていた.そして,本当に受診が必要か,他の疾患や医療的な問題はないかもアセスメントしながら,〈認知症受診・告知は受け入れ可能か慎重に検討〉する支援を行っていた.
「やっと服薬管理が軌道に乗ってきて,もの忘れ外来を受診するタイミングを計っていて,家族にも連絡が必要で,受け入れられるタイミングを見ている.(F)」
【多職種・関係者協働のコーディネートとネットワークづくり】は,地域看護職として〈地域に根差した活動から気になる高齢者の情報をキャッチ〉すること,〈地域の社会資源を活用した生活をコーディネートするためのネットワーク作り〉を行っていた.また,地域とのつながりを意識した活動を行い,地域住民等からキャッチした情報から〈対象者の課題に合った専門性を活かし多職種のメンバーと協働〉していた.そして,常に〈関係者・地域住民・専門職の間を調整・構築する役割〉を持ち,認知症高齢者に対して適切な支援が行えるようにコーディネートしていた.
「早期の認知症高齢者を見つけてくれるのは住民さんだから,そういう人との関係性を作らないと情報がなくて難しいんですよ.見つけたときは中期や末期だったり.(H)」
「ずっと在宅生活ができるまれなケースであるけれど,在宅生活の中で,主治医の対応で大丈夫だと気持ちが変わって,支援を受け入れていける場合がある.(A)」
【認知症高齢者に対する家族の理解促進と困りごとの継続支援】は,家族が本人の変化に気が付いておらず,現状の受け入れが難しい場合もあるため,まずは〈認知症高齢者の現在の状態を理解できるよう家族との関係をつなげる〉ことが支援の始まりである.その後の生活において,〈家族が介護継続する中で起こる困り事を支援〉することを本人・家族の生活状況の変化に合わせながら行っていた.
「在宅のほうもどうするか,施設も一緒に見に行って,お世話っていうか施設の種類もいろいろあるのですべてお伝えさせていただいて,最終的には家族が決めた施設に入られたんです.それ以降も家族のサポートだったりとかでかかわっていますね.(E)」
【本人の状況に適した生活を継続するための早期から切れ目ない支援】は,認知症診断前後の時期から関わりが始まる.まずは〈結果を急がず継続支援につなげる初回訪問〉を行い,〈看護職としてのアセスメントから必要な医療面の支援〉の対応を行っていた.また,認知症高齢者や家族の受け入れ状況や不安から,すぐにサービスにつながらなくても,〈根気よく関わりを継続し支援につながる機会を逃さない〉ようにしていた.そして,〈多職種チームが多角的視点で関わり信頼関係を構築〉できるようにアプローチを行い,〈複数問題をかかえる認知症高齢者の適切な生活への切れ目ない支援〉を行っていた.これらは,認知症高齢者や家族の早期支援の多くの課題に対して,各専門性を活かし多角的に支援を行うことは,支援の継続と関係性の構築につながる.そして,次の支援者に引き継いでいけるよう調整していた.
「認知症を疑う人とか,その介護に困ってる家族さんが受診するときは,一部,曜日を予約診察に変えたりとかしてるんですよ.で,ちょっとそこで時間を取りながら,(連携のある病院のスタッフが)その人らのケアにあたるっていうことも工夫してやってくれてますし.あとは声かけ(をし)ながら必要なところ,例えば,民生とか自治会とかっていうところにフィードバックしたりとかはしてます.(J)」
支援チームの役割である早期支援については,必要な支援は行われており,大きな違いはなかった.しかし,包括の職員やコミュニティナースについては,長期的に継続して支援を行うため,早期支援から次の支援に継続する場合に,自分自身もその役割を担うこともある.このような場合に,長期的な視点を持ってACPを本格的に開始する時期を踏まえて早期支援の時期にACPを意識することができるのではないかと考える.
早期支援に携わる地域看護職がACPを意識して,その先を見通していることが重要である.なぜなら,ACPは,本人主体のものであり,状況や疾患の進行により個別性が大きい.また,いつ行うのか開始するタイミングが一番難しい(木澤,2022;森,2022;角田,2021).そのため,地域看護職は,いずれ必要となるACPを見通した上で,認知症診断前後の不安が大きい時期に,少しでも今後の生活を考えていけるように,サポートして,その次の継続支援につなげていくことができる役割があるからだと考える.
また,地域看護職が早期からACPを行うことに難しさを感じている現状は,さまざまな要因からACPに取り組む環境が整っていないと考える.それは,ACPの認知がまだ低いこと,日本人は,縁起でもないと死を忌み嫌いタブー視する傾向があり,普段から家族間での話し合いがなされていないことが多い(宮本,2019).また,わが国のACPは「個人」ではなく「家族」が望むようにという場合も多々あり(大濱・福井,2019),自身の意思をはっきりと示しにくい日本の文化的背景がある.さらに,認知症診断によりショックや不安の大きい時期であり(粟田,2016:中西,2021:村山,2018),ACPより優先すべき支援があることも影響していると考える.
2. 地域看護職の認知症高齢者に対する早期支援からACP準備実践について認知症高齢者に対して地域看護職が行う早期支援からACPにつながる支援の実践は,まず【慎重な認知症診断・告知プロセスの検討】をし,【本人の状況に適した生活を継続するための早期から切れ目ない支援】につなげていくことから始まる.高齢者や家族は,認知症かもしれないと感じる心身と日常生活の変化から,非常に不安を持つ時期である.また,高齢者本人と家族の受け入れ状況を見定め,必要な受診につなげる場合はそのプロセスを慎重に検討していた.そして,診断や告知がまだできない状況であっても,少しずつ関係性を築き信頼関係を構築する第一歩としていた.
認知症の診断や告知はかなりセンシティブであるため,ACPをすぐに開始できる状況ではないと考える.しかし意思決定は,十分な情報の提供と理解があって初めて成り立つものである(荻野,2022).したがって,この時期は慎重に対応を行い,一緒に乗り越えていくことが,本人主体のACPにつながる重要な支援であると考える.その支援チームの早期の介入によって,認知症の受診・診断や,医療・介護へのサービスに引き継がれ,サービスを利用しながら在宅生活を継続できていると調査結果(国立長寿医療研究センター,2021)がある.このことから,地域看護職は本人・家族のショックや不安が大きい時期に支えとなる存在であり,支援チームによる早期支援であると共に,ACPにつながる準備段階としても重要な実践であると考える.
また,初対面から関わりが始まるため,すぐに結果を求めず,継続して関わりを持っていけるようしながら,看護職として緊急に医療が必要な問題をアセスメントしていた.そして,本人だけではなく,【認知症高齢者に対する家族の理解促進と困りごとの継続支援】も並行して行っていた.
これらの支援は,支援チームが求められている早期支援(国立長寿医療研究センター,2020)の実践であると共に,ACPにつながる準備支援であると考える.なぜなら,認知症の人のACPを行うにあたっては,本人とケア提供者との間で認知症について共通理解が不可欠であり,本人,家族,ケア提供者の間で共有し,将来のケアに関する話し合いのための基盤を作る(粟田,2016)ことになると考えられるためである.本人が自ら意思決定できる早期の段階で,今後生活がどのようになっていくかの見通しを,本人や家族,関係者のチームで話し合っていく早期からの継続的支援が重要(厚生労働省,2018b)である.また,認知症の進行から,意思決定能力が低下していく過程で代理意思決定者となる家族や関係者の支援も対象となる(角田,2021).したがって,本研究におけるこれらの早期支援の実践は,ACP準備支援であると考える.支援チームの早期支援は,認知症の人を早期に発見し,対応することが大きな目的であり,おおむね半年間で受診勧奨やサービスへの引き継ぎ,役割を終了する(国立長寿医療研究センター,2020)ことから,半年間を目安とした支援を行う期限の存在が考えられる.一方,ACP準備支援には,目安となるような期限はないが,将来のACPに備えて,本人や家族と関係性を構築しながら環境を整える必要がある.これらは,時間を要する支援であると考えられる.比較的長期にわたって地域看護職も継続支援する役割を持つことになるため,この点が「早期支援」と「ACP準備支援」の相違点となる.
本研究の地域看護職の実践内容がACP準備支援を含んでいたことにより,半年間を越えると考えられる【認知症高齢者に対する家族の理解促進と困りごとの継続支援】等,認知症初期集中支援チーム員研修テキストに記載されている活動内容と異なる部分が示されたと考える.さらに,地域看護職は【多職種・関係者協働のコーディネートとネットワークづくり】を行い,在宅・病院・施設の専門職と共に,フォーマルな社会資源だけではなく,インフォーマルな社会資源も活用していけるように,地域住民とのネットワークをつくる活動を行っていた.ただし,本研究の地域看護職からの,ACPにつなげる目的に特化したコーディネートやネットワークづくりに関する語りはなかった.しかし,これは,認知症の進行が長い経過の中でACPを継続支援するためには,多職種がチームで認知症高齢者や家族の希望・意思決定のプロセスを共有し,何度も話し合いを行う(厚生労働省,2018b;角田,2021)ことが必要である.また,その多職種や関係者をコーディネートし,そのネットワークをつなげ,ACPをファシリテートすることが重要(角田,2021)とされていることから,これらの点においては,看護職が重要な役割を担っていることが明らかとなった.
また,菊本ら(2022)の認知症高齢者のACPの概念図の先行要件は,【本人・関係者・多職種のACPの理解】が基盤にあり,【認知症の変化と進行】と【今後の人生についての不安】が発生し,その際に【将来の意思決定に取り組める環境を準備】が整っていることがACP開始につながるとしている.本研究で抽出された内容は,支援チームの多数ある早期支援の一部であるが,認知症高齢者のACPの先行要件(菊本ら,2022)を支持する内容でもあると言える.
以上のことから,ACP準備支援は,エンド・オブ・ライフケアEnd-of-Life Care(以下,EOLC)の一環であると言える.そのEOLCは,中心概念にACPがあり,看護師は日常生活支援を意思決定支援として意識化し,病状の初期から今後どうなるのかを見据えながら,患者自身が考え,見通すことができるように支えていく支援(長江,2018)が求められている.したがって,ACPの準備性を高めるためには,地域看護職がACPの準備支援を早期支援の中で行っていくことが必要である.そのためには,今回の結果には,ACPの内容に関して,本人や家族に直接伝えるような支援はなかったが,地域看護職がACPについて本人と家族に伝えていくことは,今後意識して取り組むべき実践内容であろう.そして,ACPの準備性が高まることで,今後の人生・生活について家族と考える機会が持てることや,多職種連携による継続支援につながることが期待できると考える.
3. 認知症高齢者の早期におけるACP準備支援の示唆本研究の結果から,地域看護職の認知症高齢者の早期におけるACP準備支援について以下のように考える.
現在行っている早期支援の中に,ACP準備支援も含まれており,その支援の中でACPを意識してつなげていく役割を持つことが示唆された.
地域看護職の語りから抽出された結果,早期支援におけるACP準備支援は,認知症高齢者の情報をキャッチし,初めて関わる時から早期支援にACPを含む支援を行うことである.そして,すぐにACPを進めるのではなく,その準備性を高めていけるように意識して支援することが第一である.また,本人や家族は認知症の診断前後の時期であるため,ショックや不安が強い時期である.そのため,信頼関係を築いていけるように関係性を構築していき,健康・認知症の問題を改善し,生活の基盤を整える.そこから,今後の人生・生活について家族と考えていくきっかけを作り,ACPを理解しやすいように伝えていく.さらに,対象の高齢者や家族にとって必要なACPのタイミングを見極め,その機会を逃さないように,多職種の間に入り,次の継続支援につながっていくよう調整・連携していく.これらの一連の過程のように,地域看護職はACPをファシリテートしていく役割があることが示された.
今回,雪だるま式標本法で選定したため,研究対象者に選定バイアスが生じている可能性がある.また,新型コロナ感染症の影響もあり,研究協力の依頼に制限が生じたことにより,A県内の市町村の施設の研究対象者から選定するに留まった.ある程度多様な語りを得たと考えるが,1県からの選定であることから,地域性が結果に影響している可能性があることは否定できない.
一方で,本研究は,支援チームや包括などの認知症高齢者の早期支援を担う地域看護職の語りから,悩みながらも細やかな配慮と生活を支えるための多岐にわたる支援の実態を具体的に明らかにできたことや,早期支援の多くは,ACP準備支援として今後活用可能性があることに意義があった.
しかし,支援者側である地域看護職の視点でのACP準備支援の検証であるため,認知症高齢者本人や家族側の考えやニーズは不明確である.
したがって,新型コロナ流行が落ち着き,早期の認知症高齢者と家族へのアプローチが可能となる時期を図り,対象者のACPの認識や希望を明らかにし,さらに,本人と家族の希望を加味した,地域看護職が行うACP準備支援のあり方を構築することが課題である.
A県の市町村所属の地域看護職が行う認知症高齢者への早期支援におけるACP準備支援は,【慎重な認知症診断・告知プロセスの検討】,【本人の状況に適した生活を継続するための早期から切れ目ない支援】,【認知症高齢者に対する家族の理解促進と困りごとの継続支援】,【多職種・関係者協働のコーディネートとネットワークづくり】を実践し,これらは,早期支援に含まれているものであった.
また地域看護職の多くは,早期のACP実践に関して,現在において実施の難しさを感じていた.支援チームと兼務して長期にわたり支援の役割がある地域看護職は,ACPを意識しながらかかわりを持っていた.
したがって,ACP準備支援は,早期支援の中で意識してACPの準備性を高めていけるように進めていくことが必要であることが示された.準備性が高まることで,今後の人生・生活について家族と考えていくためのきっかけ作りや,多職種との連携による継続支援にスムーズにつなげていくことが可能となると考える.
謝辞:本研究に関して,ご協力いただきました地域看護職の皆様はじめ,すべての皆様に感謝申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:YKは本研究を着想し,デザイン,文献の収集,分析,結果,考察,論文作成のすべてのプロセスを担当した.AT,YIは研究プロセス,結果,考察に助言し,論文に加筆・修正に関与し,すべての著者が最終原稿を確認し承認した.