Journal of Japan Academy of Nursing Science
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The Process of Changes in Interprofessional Work in Hospital Discharge Support: Action Research Based on Relational Coordination Theory
Hatsumi Ibuki
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2024 Volume 44 Pages 11-21

Details
Abstract

目的:退院支援においてRelational Coordination 理論を基盤としたアクションリサーチを行い専門職種間連携に生じる変化のプロセスを明らかにした.

方法:退院支援に関わる専門職種16名が参加し,そのうち5名のコアメンバーが研究を推進した.退院支援を要する患者12名とその家族に対して2職種以上による面談を実施した.

結果:12事例を分析し,専門職種間連携の変化の観点から3つのフェーズ〈定石通りの退院支援に起きる専門職種間の退院目標の食い違いと患者の思いを知ろうとしていなかったことへの気づき〉〈退院に向けた面談に同席する専門職種が広がり,患者・家族の語りを一緒に見聞することによる創造性の向上〉〈専門職種間の相互依存性を高め患者・家族の抱える難題に向き合う対応力の進歩〉を見出した.

結論:RC理論を基盤としたアクションリサーチを通じて退院支援における専門職種間連携の変化のプロセスが明らかになった.

Translated Abstract

Objective: The aim of this study is to conduct action research based on the relational coordination theory for discharge support in order to clarify the process of changes occurring in interprofessional work.

Method: The study design is Action research, which was conducted for 6 months. The study participants include sixteen professionals who are involved in discharge support, of which five people promoted the study as core members. Twelve patients and their families who required discharge support were interviewed by two or more professionals based on the RC theory (shared goals, shared knowledge, mutual respect, and communication), then the results were reflected.

Results: We analyzed 12 cases and found three phases from the perspective of changes in interprofessional work. Phase 1 was “becoming aware of discrepancies in discharge goals when conducting discharge support done by the book as well as the fact that they were not trying to understand the patients’ thoughts”. Phase 2 was “as the professionals attending the interview for discharge increase, creativity is improved by seeing and hearing the stories of the patients and their families together. Phase 3 was “having a progress in coping ability to meet the challenges patients and their families are facing by increasing interprofessional dependency”.

Conclusions: Through the action research based on the relational coordination theory the changing process of interprofessional work in discharge support was clarified.

Ⅰ. 緒言

近年,病院完結型の医療から,病気と共存しながらQOLの維持・向上を目指す地域完結型の医療・介護への移行が推進されている(厚生労働省,2013).それらに関わる専門職は,患者・家族の様々なニーズを捉え,専門職種が連携して退院支援に取り組む必要がある.

先行文献では主に急性期医療の場における専門職種間連携の促進の効果として,医療コストの削減(片岡ら,2007),ケアの質の向上(内田ら,2017),及び構成員のやりがい感が得られること(山本,2014)が報告されている.しかし,退院支援では診療報酬上,専従(専任)の看護師や社会福祉士の配置が促進され(厚生労働省,2022),退院支援に関わる職種として地域との連携の強化が期待されている(高山,2019).そこでの専門職種間連携は,医療施設における医師を中心とした垂直なチーム連携と,地域における職種間の比較的水平な関係のもとでの連携の中間的な性質をもつと考えられるが,このような場での専門職種間連携の促進とその効果についてはまだ十分に明らかにされていない.

医療における専門職種間連携に関しては,さまざまな学問分野から多様な理論が提示されており(Hean et al., 2009春田・錦織,2014),いまだ実践に適応するのは難しく,それにあたっては十分な検討が必要であることが指摘されている.その中で専門職種間連携の促進に効果的と考えられる理論にGittell(2000, 2006)が提唱したRelational Coordination[RC]理論がある.この理論は,不確実で,時間制約があり,相互依存のある状況で,関係者間の相互作用の強化を通じて,組織変革を目指すものである.介入の焦点は3つの関係調整(目標共有・役割認識・尊重の態度)と4つのコミュニケーションの次元(頻度・タイミング・正確さ・問題解決的姿勢)である.また,この理論は「個人と個人の関係ではなく,職種間の関係を焦点」(Gittell, 2002, p. 1414)としていることから,患者・家族のニーズに応じて専門職種が連携して取り組む退院支援に役立つと考えた.

RC理論を用いた先行研究として,RC理論に基づき開発されたRC尺度を用いて専門職種間の関係性と意思疎通の程度を評価した研究(Gittell, 2000, 2002成瀬ら,2014)やRC理論に基き,研修プログラムを検討し,評価した研究(藤川・月野木,2020)が報告されている.しかし,専門職種間連携は,それに関わる専門職種の主体性が発揮されない限り,実現されないものである.専門職種が連携促進に主体的に取り組むプロセスはどのようなものか.そのプロセスを記述し,解明することは,連携が必要とされる退院支援の場における専門職種間連携を促進していく上で重要と考えた.

以上から,本研究では,退院支援における専門職種間連携に焦点をあて,RC理論を基盤とした取り組みを提案し,研究フィールドの主体的な参加を活かしたアクションリサーチを実施する.

Ⅱ. 研究目的

退院支援に向けてRC理論を基盤としたアクションリサーチを行うことによる専門職種間連携に生じる変化のプロセスを明らかにすることである.

Ⅲ. 研究方法

1. 研究デザイン

研究デザインはアクションリサーチを用いた.アクションリサーチは人々の差し迫った気がかりへの実際的な解決策を追求するために他者とともに参加し,個人とそのコミュニティの発展のためにアクションとリフレクションを繰り返し,理論と実践を結び付けるものであり(Reason & Bradbury, 2001),最終的には現場が意識していなかった価値観,規範,葛藤を見出し,変化していけることを目指す研究方法である(筒井,2010, p. 43).

本研究は,退院支援における専門職間の連携促進という実践的課題を,当事者たちの主体的な取り組みのもとに,GittellのRC理論に基づき,解決を図るプロセスを描き出すことを目指しており,アクションリサーチは本研究デザインに適していると考え,選択した.

2. 研究の概念枠組み

 a.Relational Coordination 理論

RC理論は医療現場の専門職種間の連携においても活用されており,連携における他者との相互理解や情報共有に効果があることが明らかになっており,比較的平易な用語を使用していることから臨床現場に適応可能と考えられた.図1に示すように,この理論の関係調整とコミュニケーションは相互に補強しあう関係にあり,関係調整が図れている組織はコミュニケーションが良好である組織であり,その逆も成り立つ(Gittell, 2006).関係調整の3つの次元は,それぞれの職務機能の目標にとどまらず,職務を超えてすべての職務の高度な調整による目標共有,専門職種がすべてのプロセスにおいて,どのように他の専門職種の仕事が自分の仕事と相互関係しているかがわかる役割認識,専門職種間において,他の専門職種の仕事を理解し,考慮することを妨げる地位の障壁を克服する尊重の態度で構成される.コミュニケーションの4つの次元は,頻度,タイミング,正確さ,問題解決的姿勢で構成される.また,関係調整の役割認識の基盤には,人々が自らの経験に意味を見出すセンスメイキング(Klein et al., 2006)と,各自の専門分野に特化して知識を蓄え,その専門性を効果的に組み合わせて活用するトランザクティブ・メモリ(交換記憶)(細谷・神岡,2018)が含まれる.

図1  RC理論の概念枠組み(Gittell, 2006. 研究者により一部改編)

 b.研究の概念枠組み

本研究の枠組みを図2に示す.図2には,RC理論を基盤として,アクションとリフレクションを繰り返しながら,らせん状に退院支援における専門職種間連携が促進されるプロセスを示した.アクションとリフレクションはそれぞれRC理論に基づき連携を促進するよう構成した.連携促進の結果としての患者・家族および組織のアウトカムは,退院支援における専門職種間連携のプロセスの中に見出されるのもとした.

図2  研究の概念枠組み

3. データ収集期間

2020年10月~2021年3月

4. 研究フィールド

X地方の150床を有する小規模ケアミックス型のA病院の地域包括ケア病棟で実施した.A病院の医療圏は,人口約76,700人,世帯数約33,400世帯であり,幹線道路が山を迂回するように走る山間部で過疎化が進み,独居や高齢者世帯の患者が多くを占めている.介護福祉サービスの選択肢も限られており,特に冬は豪雪により交通が遮断される可能性が高い地域である.

5. 研究参加者

対象フィールドにおいて,退院支援に関わる全医療福祉関係者を研究参加候補者とした.すべてのアクションへの参加に同意が得られたのは看護師[NS]9名(臨床経験年数14.7 ± 6.8年),理学療法士[PT]3名(11.9 ± 2.1年),作業療法士[OT]1名(16.58年),医療ソーシャルワーカー[MSW]2名(12.1 ± 2.4年),管理栄養士1名(1.5年)の専門職種計16名であり,面談時の記録の使用にのみ同意が得られたのは医師2名,ケアマネジャー4名であった.研究参加者うち,研究を推進するコアメンバーとして,NS3名,PT1名,MSW1名計5名の協力を得た.

患者・家族は診療報酬入退院支援加算の算定要件である退院困難な要因に該当する患者(虐待を除く)とした.コアメンバーのNSらが中心となり研究参加候補者を選出し,同意が得られた患者12名とその家族15名を研究参加者とした(表1).患者12名のうち11名は後期高齢者となる75歳以上であり,性別は男性3名,女性9名であった.面談は新興感染症の拡大により,12事例のうち10事例が家族のみが参加して行われ,2事例が患者のみの参加のもと行われた.

表1 患者・家族の基本属性

年齢 性別 入院病名 介護度 同居者
A 70歳代後半 仙骨部褥瘡の再燃
誤嚥性肺炎
要介護4 同居
B 80歳代後半 両下腿蜂窩織炎 要介護3 同居
C 80歳代後半 慢性腎不全
偽関節症
要支援2⇒区分変更 同居
D 80歳代前半 腰椎圧迫骨折 申請 独居
E 80歳代前半 左人工膝関節全置換術後 申請 独居
F 80歳代前半 尿路感染
膝関節骨折
要介護3 同居
G 90歳代前半 尿路感染⇒脳梗塞 要介護2 同居
H 80歳代前半 心不全 申請 同居
I 90歳代前半 誤嚥性肺炎 要介護2⇒区分変更 同居
J 90歳代前半 圧迫骨折 要介護5 同居
K 90歳代前半 右上腕骨骨折 要介護2 同居
L 60歳代後半 腰椎圧迫骨折 申請 独居

家族は上の患者2事例を除く10事例の家族15名であった.面談に参加した家族のうち,患者と同居は6事例,別居は4事例であった.自宅退院した事例は5事例であった.

6. アクションとリフレクションの実施計画

RC理論の3つの関係調整と4つのコミュニケーションをアクションとリフレクションに組み込み,意図的に振り返りやセンスメイキングができるように実施計画を行った(表2).

表2 アクションとリフレクションとRC理論との関連

項目 内容 RC理論
関係調整 コミュニケーション
目標共有 役割認識 尊重の態度 頻度 タイミング 正確さ 問題解決的姿勢
センスメイキング トランザクティブ・メモリ
アクション 組織としての課題の明確化と取り組みの計画 医療体制の現状・RCについての説明と勉強会
コアメンバーと計画の調整
専門職種間連携に向けて取り組みの実施 2職種以上による退院に向けた面談の実施
退院時面談の実施(退院に向けた面談を実施した患者に実施)
面談後振り返り・互いにポジティブフィードバック
リフレクション 取り組み評価と専門職種間連携の意味付け 面談参加者に面談内容を文字化した逐語録の配布
面談・研究参加者へのインフォーマルインタビュー
コアメンバーによる振り返り
コアメンバーによるセンスメイキングの会
専門職種間連携の促進と組織としての評価の共有 RC通信の発行

※表中,〇印はアクションとリフレクションの内容がRC理論の各要素に対応していることを示す

アクションとして,まず,対象フィールドにおいて勉強会を開催し,研究参加者を募集した.研究参加者の中からコアメンバーを組織し,計画の調整を行った.その後,入院初期に2職種以上が同席する退院に向けた面談と退院時にも2職種以上が同席する退院時面談の2つを提案し,面談後に振り返りと互いにポジティブフィードバックを実施することを依頼した.

リフレクションとして,研究参加者には面談内容を想起してもらうために面談の逐語録を配布した上で,RC理論に沿って面談を振り返り,その後の退院支援について尋ね,一人につき30分程度のインフォーマルインタビューを行った.コアメンバーに対しては,研究者がファシリテーターとなり,印象に残った事例について,毎月30~40分程度の振り返りを実施した.また,研究の初期,中期,後期にはセンスメイキングの会を30分程度実施した.さらにアクションリサーチの進捗状況や得られたデータをもとにRC通信を発行し,各部門の管理者に状況報告を兼ねて配布し,掲示してもらうよう依頼した.

7. データ収集方法

研究参加者の基本属性はデモグラフィックシートを用いて収集した.患者・家族の基本属性は面談に参加した専門職種から情報を得た.退院に向けた面談,退院時面談,面談後の振り返り,ポジティブフィードバック,コアメンバーの振り返り,センスメイキングの会,研究参加者のインフォーマルインタビューはすべてICレコーダーに記録した.加えて,面談とポジティブフィードバックの内容,それらに対する感想を記載するシートを作成し,記載を依頼した.また,研究者は1事例のみ面談場面の観察を実施した.そのフィールドノーツも同意を得てデータの一部をした.

8. 分析方法

アクションとリフレクションによって得られたデータを基に各事例の退院支援の内容,患者・家族の反応に着目して事例ごとの中心的なテーマを導き出した.その後,12事例の中心的なテーマを基に本研究の開始から終了までを通しての退院支援の変化,患者・家族および対象フィールドの専門職種間連携への影響に焦点をあてて分析し,退院支援における専門職種間連携の変化のプロセスを3つのフェーズに分けた.

9. アクションとリフレクションの内容の妥当性と信頼性

本研究で行うアクションとリフレクションは,取り組みを進めながらプロセス評価を行った.分析過程では信頼性と妥当性を高めるため,指導教員,専門家などによるスーパーバイズを受け,必要時アクションリサーチの修正を行った.アクションリサーチの性質上,文脈の中で研究を行うため変数の統制が難しいが,取り組みのプロセスを詳細に記載することによって研究全体としての信頼性の確保に努めた.

10. 倫理的配慮

本研究は,日本赤十字看護大学(承認番号2020-027)と対象施設(承認番号596号)の研究倫理審査委員会の承認を得て実施した.研究参加者に対して,自由意思の尊重,不利益の軽減,研究で得られたデータの匿名化の他,特に患者・家族に対しては参加の有無に関わらず退院支援等に不利益を受けないことを説明し,同意を得て実施した.

Ⅳ. 結果

アクションとリフレクションの実施状況を図3に示した.コアメンバーとのアクションリサーチの計画の調整に約1ヶ月を要した.研究開始2か月目から退院に向けた面談が開始され,12事例で14件の面談が実施された.

図3  アクションとリフレクションの実施状況

退院支援における専門職種間連携の変化のプロセスの視点から3つのフェーズを見出した(表3).NSとMSWが同席する従来通りの面談から始まり,研究初期のA~Dの事例にあたる専門職種間連携のありようをフェーズ1〈定石通りの退院支援に起こる専門職種間の退院目標の食い違いと患者の思いを知ろうとしなかったことへの気づき〉,続いてPT・OTが同席し始めたE~Gの事例における専門職種間連携のありようをフェーズ2〈退院に向けた面談に同席する専門職種が広がり,患者・家族の語りを一緒に見聞することによる創造性の向上〉,そしてフェーズ2からの発展がみられたH~Lの事例における専門職種間連携のありようをフェーズ3〈専門職種間の相互依存性を高め患者・家族の抱える難題に向き合う対応力の進歩〉と命名した.以下に各フェーズについて述べる.

表3 3つのフェーズと各事例の中心的なテーマ

フェーズ 中心的なテーマ
1 定石通りの退院支援に起こる専門職種間の退院目標の食い違いと患者の思いを知ろうとしていなかったことへの気づき A 患者の意向を汲む妻の介護負担を労い,本心をつかみ介護サービスの再調整を開始
B 介護負担を労い,介護サービスの再調整を促すが,介護できていると自信を持つ長男の妻の介護負担を感じさせない厚い壁に苦慮
C 医師とNSの退院目標の相違をきっかけにNSとPT,患者・家族ともに目標の食い違いに気づき,いざこざ後の面談であったが,長女の介護に対する困りごとを受け止め雨降って地固まる
D 夜間頻尿のある患者の生活習慣と入院生活のペースが違い,入院中の拒否行動を単なる我儘と捉えて患者の本心を知ろうとせずに定石通りの退院支援を実施
2 退院に向けた面談に同席する専門職種が広がり,患者・家族の語りを一緒に見聞することによる創造性の向上 E 患者の生きがいである仕事復帰に向けたハードなリハビリテーションの進捗を専門職種間で共有し,一喜一憂しながら取り組む患者を激励
F 認知症のある高齢夫婦2人暮らしの不安と入院期限の切迫に苦悩する長女へのサービス調整の提案とNSとPTのトイレの自立に向けた創造性のある工夫
G 専門職種が暗黙の了解の下,長女に食事介助の練習を進め自宅退院を目指そうとする面談で長女の不安を受け止め再考を提案するNSの役割
3 専門職種間の相互依存性を高め患者・家族の抱える難題に向き合う対応力の進歩 H 医師・NSによる患者の生活習慣を基にしたアセスメントに患者の声を基にしたPTの職種を越えた食事・栄養関連の関わりが融合した多職種との連携
I 大きなため息に現れる入院前より介護量が増加した母を受け入れる長男の苦悩に寄り添い,NSとPTが面談中に新たな立位保持の計画を立案し,MSWはケアマネジャーと最終調整
J 自宅退院に向けて肺高血圧症の治療に固執する長男と自宅で看取りたいが介護量の多さに不安を抱える長男の妻に各専門職種からの正確な情報と無理のない選択肢を提供
K 持病により介護力が乏しい長男夫婦と自宅退院を希望する患者との意向の相違を共有し,自宅療養の可能性について多角的に情報提供するが長男夫婦の意思は固い
L 言葉巧みに多岐にわたる不安を訴える中から患者が本当に求めている「孤独からの回避」を見出し,退院時に地域支援者の連絡先一覧を渡して不安の緩和

NS:看護師,PT:理学療法士,MSW:医療ソーシャルワーカー

なお従来,対象フィールドの退院支援は,まず家族がリハビリテーションを見学し,次いで場所を移して医師と看護師からの現状説明を聞き,最後にMSWとの相談を経て,地域の支援者とのカンファレンスで調整するというリレー形式で行われていた.

研究開始時,コアメンバーはそれまでの退院支援の取り組みに概ね満足しており,新興感染症によって家族の面会が制限され,日頃行っている退院支援を見せられないのが残念と述べていた.その一方で,リレー方式での面談では患者家族に同じことを何度も尋ねるなど非効率な面があると感じていた者もいた.以下に結果を述べる.

1. フェーズ1〈定石通りの退院支援に起こる専門職種間の退院目標の食い違いと患者の思いを知ろうとしていなかったことへの気づき〉

研究開始初期の4事例への退院支援における専門職間連携をフェーズ1とした.フェーズ1では,MSWとNSが同席しての退院支援が行われた.面会禁止により患者の様子が見えない家族の不安に応じるように,NSが患者の様子を伝えた.MSWは家族の介護負担をねぎらうことで,家族のニーズを引き出し,サービスに結び付けており,それらの関わりが定石として行われていたことが推測された.

しかし4事例のなかには定石通りの退院支援がうまくいく場合もあれば,それでは対応できない事例,専門職間で退院目標が食い違って患者・家族が混乱する事例にも遭遇した.

そこから「家族さんの思いは聞けたけど,本人さんの思いがまだやったかな」と反省したり,たがいに退院目標が食い違っていたり,他の専門職がやってくれるだろうと思いこんだりしていたことを振り返ったりした.

アクションに取り組んでの感想として,「改めて他の職種との違いを実感できた・・(中略)・・同じことで悩んでるってわかって,すごい力強い(NS)」と,他の職種との違いとともに共通する点に気づき,仲間としての意識をもつきっかけをつかんでいた.また「専門性を活かしながらできてるんかな.自分がやってたこと(NS)」と,自らの専門職としてのアイデンティティを再確認する語りをしていた.またポジティブフィードバックは,「内容だけの振り返りじゃなくて,相手の職種のすごいなって思ったところとか,言い合ってもいいのかな(NS)」と語るなど,これまでにない新鮮な体験となったようであった.

コアメンバーによるセンスメイキングの会では,「始まる前はすごい責任ある仕事を請け負った(NS)」と感じていたが,スタッフがそれぞれ研究のアクションを進めようと取り組んでおり,「そんなに苦ではない(NS)」と思うようになったと語り,対象フィールドにおけるアクションへの前向きな取り組み姿勢が窺えた.

フェーズ1では,それぞれの研究参加者の立場でこれまで何となく困難に感じていたことが明確に意識されるようになり,課題が明確となった.

2. フェーズ2〈退院に向けた面談に同席する専門職種が広がり,患者・家族の語りを一緒に見聞することによる創造性の向上〉

フェーズ1に続く研究中期の3事例への退院支援における専門職種間連携をフェーズ2とした.フェーズ2は従来同席する機会が少なかったPT・OTが面談に加わった.同席する職種が拡大すると,NSはPTが退院後の仕事復帰に向けて計画的に介入していることを知り,PTはNSが患者の入院環境を整えリハビリテーションに取り組めるように健康管理を行っていることなど今まで知り得なかった他の職種の役割や考えが見聞きできるようになり,お互いを尊重し合えるようになっていた.少しの時間を利用して患者のリハビリテーションの進捗を情報交換するなどコミュニケーションが活発になっていた.自宅退院に向けて排泄行動の自立が課題となる場合が多い中,NSは面談に参加していなかったPTと話し合う機会を持ち,ポータブルトイレの高さを調整するなど工夫が見られた.様々な意見を出し合いながら患者・家族にとって有益となる目標に向かって,生活改善に繋がる創造性のある取り組みが伺えた.また,嚥下障害のある患者の食事介助が課題となった患者の場合,OTより食事介助の練習をすると自宅退院が可能になるという説明が進む中,家族は誤嚥のリスクに対して,「家に帰ったわ,詰まってしまったわ,後悔せんなんかったら,もう怖いなと思って」と不安を語った.その家族の様子から退院目標が適切かどうか疑われると判断したNSは「看護師でも意見が分かれます.ご本人のご高齢のことを考えて,家で絶対看るのは難しいと言ってる看護師もいれば,今が帰る時期やと思う帰らしてあげたいという看護師もいる・・・帰るとなったら覚悟は必要やと思う」と家族を擁護する意見を発言した.その発言が家族の苦悩や葛藤を共有することに繋がり,方向性を変えるという柔軟性も見られるようになった.その背景には異なる意見を出しても議論することができるという専門職種間の相互信頼や相互依存性が生まれて始めたことが考えられた.

コアメンバーの振り返りでは,PTは「私らは問題やと思っていたけど,病棟はこっちやったとか,違うところに家族さんは引っかかっているとか,話さへんと気づかへんところが沢山ある」と複数の専門職種が面談に同席することで多角的に捉えられ,気づきが得られることに意味を見出していた.MSWは,従来のリレー方式の面談では情報がバラバラに伝わり,家族が自宅での生活がイメージしにくい状況にあったが,面談に同席することで医師からの病状説明のあと,PTから機能の変化に合わせた可能な方法が提案され,その説明を受けてNSは入院中の生活の中に取り入れていくことを伝えることにより,患者・家族は自宅での生活のイメージがしやすくなったことを実感していた.

研究対象の患者・家族以外の面談に関しても「気軽に声をかけてもらえるようになった(PT)」,「今までPTに遠慮みたいなもんがあって.(中略)この研究で結構声はかけやすくなった(NS)」と,本研究がきっかけとなり,複数の専門職種が同席する機会が増えていることが伺えた.

フェーズ2では,複数の専門職種が面談に同席することにより,今まで気づかなかった他の専門職種の役割や考えを知ることで,コミュニケーションが増え,患者・家族のニーズを共通認識し,共通の退院目標に向かうチームとしての一体感が生まれていた.

3. フェーズ3〈専門職種間の相互依存性を高め患者・家族の抱える難題に向き合う対応力の進歩〉

研究後期の5事例への退院支援における専門職種間連携をフェーズ3とした.フェーズ3は,フェーズ2より職種間の信頼関係が深まり,患者・家族の抱えるさまざまな難題に専門職種が力を合わせて粘り強く関わる面談が行われた.ほとんどの患者が自宅退院を希望していたが,介護者の健康問題や不安など介護力の脆弱さや課題が浮き彫りになり,自宅退院が懸念された.NSとPTは患者がリハビリテーションに前向きに取り組み日常生活動作が改善していることを繰り返し説明したり,面談の場でタイムリーにベッドサイドでの訓練を計画したり歩行や排泄動作の改善に取り組んだ.またNSとMSWは病状に合わせて訪問診療・看護を提案したり,排泄や食事に合わせて介護サービスの調整を行うなど家族の状況に合わせた柔軟な目標設定を行ったりしていた.面談以外の場面で改めて時間を作ることが難しい状況のなかで「臨機応変に目標が変更出来たら(NS)」と面談の時間を有効に活用しようとしていた.時には専門職種の役割を越えて患者の真のニーズを患者とともに探り創造的に解決しようとしていた.NSは患者の多岐にわたる不安や「心配だけでは意味がない」と言う語りから思いを汲み取り,退院時に地域支援者の連絡先一覧を手渡すことで患者が大喜びしたことを語った.また,PTが患者の血圧や栄養に関する管理方法について相談にのることで納得のいく自己管理ができるようになった.退院後の外来受診時に血液データが改善していることや近況を伝えに来られたりした語りは,患者のニーズに沿えたことに達成感を得て,満足した様子が伺えた.患者・家族の意向に沿えた場合も,沿えなかった場合もあったが,専門職種間の連携を通じて,患者のADLの拡大への支援と家族の受け入れを促す粘り強い支援が行われ,対応力に進歩が見られた.また,すぐに自宅に帰れなくても,患者が自宅に帰るための訓練期間として患者が希望をもって施設に転院したり,自宅への受け入れ準備のために転棟したり,家族との絆が感じられる場合があった.

面談後インタビューでは,「喋ってると問題点が整理され,新たな問題点が出てきた(PT)」と,違う視点からの意見が創造力を掻き立て,柔軟な発想ができることに効果を感じていた.

コアメンバーによるセンスメイキングの会では,ポジティブフィードバックによって「患者さんの今後のために提案したいことを躊躇なく提案でき,勇気だして言えるようになった(NS)」と自信に繋がり,専門性を認め合うことで相互依存性の高まりを実感していた.

フェーズ3では,専門職種が互いの専門性を認め合い,頼れる存在となれることにより,自己の役割に自信が芽生えていた.難題を抱える患者・家族に対して多角的な視野でニーズを詳細に捉え,患者・家族に応じた柔軟な対応ができる専門職種間連携が確認できた.

Ⅴ. 考察

本研究では,患者・家族との面談場面に複数の専門職種に同席してもらうというアクションとそこでの支援と同席することの意味を専門職種で振り返るリフレクションを実施した.以下にRC理論に基づいた退院支援における専門職種間連携の変化について考察する.

1. 患者・家族のニーズへの着眼による影響の広がり

フェーズ1では当初,専門職種それぞれに目標を定め,それぞれの視点や介入の方法のもとに家族に接し,患者本人の思いを聞いていなかったことに後になって気づくなどして,患者・家族にとって満足のいく退院支援にはならない場面があった.フェーズが進むにつれ,複数の専門職種が一緒に患者や家族の話を熱心に聞くようになり,彼らのニーズに照準を合わせた関わりや連携が行われるようになった.本研究によるフェーズの変化はさらに同席する職種が増えたことにより,役割認識や相互尊重が養われ,職種間の相互依存性が高まり,かつ,患者・家族のニーズや困りごとを多角的に捉えることができるようになり,創造性や柔軟性のある対応になっていった.このように面談を通して,専門職種間の目標共有ができ,役割認識や相互尊重が養われ,信頼関係が深まるというRC理論の関係調整における変化が見られた.

また,アクションを通じて研究参加者には,患者や家族に直接対応している最中やその直後,患者や家族に向かっている場だけではなく,通りがかりや少しの待ち時間に他の専門職種に自ら話しかけ,タイムリーに情報共有したりすることや,廊下でPT以外の職種がリハビリテーションを受けいている患者とすれ違う時に励ましの声をかけるなどの行動に繋がっていた.このような専門職種間における会話の頻度の増加,患者に関する情報のタイムリーかつ迅速な共有は,RC理論のコミュニケーションにおける変化と捉えられる.本研究ではコミュニケーションは専門職種間だけではなく,患者への励ましも声かけとなるなど広がりをみせており,患者への満足にも繋がっていたと考えられる(長沼ら,2007).このようにRC理論の3つの関係調整と4つのコミュニケーションが連鎖することにより,専門職種間の連携が促され,患者・家族にも好影響を及ぼしたと考えられる.

2. 相互信頼に基づく専門職種間連携がもたらす創造性

本研究は敢えて「多職種連携」ではなく,「専門職種間連携」すなわちIPWの概念を中心としたことは,患者とその家族と専門職種との双方向の関係性と信頼関係を築くことも強調したかったことによる.田村(2018)が述べるように,IPWでは,患者とその家族のニーズに注目することにより双方向の関係性を深め,信頼のある関係を築くことが重要である.

本研究の取り組みを通じて,複数の専門職種の間にも信頼関係が築かれる様子がみられた.複数の専門職が面談に参加することで,他の専門職種の実践を知って,信頼が築かれるとともに,全体の中での自らの専門性や役割が明らかになり,患者の捉え方も多角的かつ全体的になった.これら専門職種間の信頼関係の高まりは,各自の専門分野に特化した知識を蓄え,効果的に組み合わせた関わりと捉えられる.RC理論の役割認識の基盤の一つであるトランザクティブ・メモリの概念にも当てはめられ,役割の認識が高まり,創造性のある関わりへと変化したと考えられる.それとともに,それまで目標をすり合わせず,各々の目標と方法で患者・家族に関わったことで効果的な支援ができなかったことを振り返るなど,改善のきっかけとなったと考える.

なお,RC理論には本研究で見られたようなそれぞれの専門職種が役割を発揮するという連携のあり様を越えて,他の役割を引き受けるなどのダイナミックな連携については描かれていない.これらは患者・家族を中心として,患者・家族,専門職種の間に信頼関係が築かれたからこそ生まれたものと考えられる.

3. アクションリサーチによる組織変化のプロセス

本研究により組織に変化をもたらした要因として,3つ挙げられる.

1つ目はRC理論の関係調整の「役割認識」と「尊重の態度」を促進するために提案した2職種以上が参加する面談とポジティブフィードバックの効果である.2職種以上が参加する面談の実施については,過去の研究からも,専門職種連携を推進するにあたっては,退院支援の場面にかかわらず,研修やカンファレンスよりも,ラウンドやミーティングなどにより,複数の専門職種が直接,患者や家族に対面して実施する方法が有効であること(O’Leary et al., 2010Williams et al., 2018)が明らかにされており,本研究の複数の専門職種による面談は,これらと比べても長い時間,患者や家族に対面するものであり,固定チームではなくとも,役割認識や尊重の態度を深め,連携を促進するのに効果をあげていたことは評価できる.加えて,本研究のポジティブフィードバックも他者からの良好な評価を受けることが,個人の働きがいに影響するだけでなく(船越・河野,2006),提供した援助を評価してくれたり協力し合える仲間に支えられていることが自分の役割を果たす力になる(大崎ら,2018)ように役割の発揮に繋がったと考えられる.ポジティブフィードバックを行うことで見えてきたのは,RC理論における関係調整とコミュニケーションは連鎖しながら繰り返され,相乗効果を上げていくような構造である.先の考察で述べたように本研究でも関係調整とコミュニケーションは切り離されたものではなく,互いに影響を及ぼし合っていた.RC理論が提示している主要な概念間の関係性が本研究の専門職種間連携においても合致していること,またその有効性が確認されたといえる.

2つ目は面談内容の文字化によるセンスメイキングの効果である.リフレクションとして行ったインフォーマルインタビューで配布した面談内容を文字化した逐語録が面談参加者の振り返りに研究者の意図する以上の効果を上げていた.逐語録を読むことは,Weick et al.(2005)がセンスメイキングについて述べる「複雑な事象を一人ひとりが俯瞰的に振り返り,組織社会的なコンテキストの中での自分の立ち位置を見出しながらその事象の自らにとっての意味を納得し,次になすべきことを考える」ことに繋がったと考える.

3つ目は新興感染症拡大がもたらした危機と戦略が上げられる.今回,新興感染症拡大により,患者と家族の面会が閉ざされ,従来から当たり前のように実施していた方法が実施できなくなり,現状でできる範囲で退院支援を進めていた対象病棟には変化をもたらす機会であったと推測する.

本研究においてRC理論に基づいたアクションリサーチを提案したことは,Reason & Bradbury(2001)筒井(2010)が述べるように,退院支援における専門職種間連携への気がかりに対して,アクションとリフレクションを繰り返すことにより,RC理論と実践を結び付け,現場が意識していなかった事象に気づき,主体的な取り組みにより連携が促進したと考えられる.今後,専門職種間連携を促進するために時間を有効に活用し,複数の専門職種による活動を広げていくことが必要と考える.

Ⅵ. 結論

本研究では,一地方の小規模ケアミックス病院の地域包括ケア病棟において,NS,PT,MSWの参加のもとに,RC理論を基盤としたアクションリサーチを通じて,退院支援における専門職種間連携の変化と,それによる患者・家族と組織のアウトカムを明らかにした.特にRC理論を基盤としたアクションリサーチは,研究フィールドの主体的な取り組みにより,現状の課題に気づき,退院支援における専門職種間連携において創造性の向上と対応力の進歩という組織の変化をもたらした.

付記:本文中の一部は,第42回日本看護科学学会学術集会にて報告した.本研究は,日本赤十字看護大学大学院に提出した博士論文の一部である.

謝辞:研究の趣旨にご理解をいただき,本研究の調査にご協力いただきました患者様とそのご家族の皆様,コアメンバーの皆様を初め,対象フィールドの各専門職種の皆様に厚く御礼申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

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