Journal of Japan Academy of Nursing Science
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“Anraku” in Japanese Nursing—Concept Analysis Using Rodgers’ Approach
Yusuke OyamaMai WatanabeAkira Nagata
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2024 Volume 44 Pages 42-54

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Abstract

目的:概念は時代とともに変化するため,安楽の特徴も変化が生じている可能性がある.本研究は安楽の記述がある文献を用いて,日本の看護における安楽の経時的な変化を明らかにし,安楽を定義することを目的とした.

方法:Rodgers & Knafl(2000)の概念分析方法を用いた.安楽の経時的な変化は1973年から2020年までの84文献,概念の属性,先行要件,帰結は2008年から2020年までの38文献を対象に分析した.

結果:身体的,精神的側面から捉えられていた安楽が,全人的側面から捉えられるようになった.属性は「緩和された」「快い」「自分らしさがある」が同定された.日本の看護における安楽は,患者が緩和された,快い,自分らしさがあると感じることと定義された.

結論:時代とともに変化してきた現在の安楽の特徴を明示できた.安楽の属性,先行要件,帰結はアセスメントの視点や目標として活用できる.

Translated Abstract

Aim: Concepts evolve over time. Therefore, the characteristics of the concept “Anraku” may have changed as well. This study aims to identify the evolution of “Anraku” in Japanese nursing and its definition in literature.

Methods: The concept analysis method described by Rodgers & Knafl (2000) was used to analyze the data. The analysis of changes in “Anraku” over time was observed by 84 references between 1973 to 2020, and the attributes, antecedents, and consequences of the concepts were examined by 38 references from 2008 to 2020.

Results: Initially, it was perceived to be as the physical and psychological aspects of patients; however, later, it was later perceived more holistically. Three attributes of “Anraku” were identified: “relief,” “pleasantness,” and “individuality.” In Japanese nursing, “Anraku” is defined as a patient’s feeling of relief, pleasantness and their “individuality.”

Conclusions: The current characteristics of “Anraku,” which have evolved over time, were revealed. We believe that the attributes, antecedents, and consequences of “Anraku” can be utilized as assessment perspectives and nursing goals.

Ⅰ. 緒言

安楽は,看護学や看護実践においてしばしば使用される言葉であり,広く認識されている.そして,安楽は人間の基本的な欲求であり,看護の基本原則として,安全・自立とともに重視される要素である(日本看護科学学会看護学学術用語検討委員会第9・10期委員会,2011).しかし,臨床の看護師が安楽の説明を難しいと感じることがある(大山ら,2020).安楽は,看護において日常的に使用されるものの,一般的には使用する頻度が少なく(北谷・八塚,2017b),抽象的であいまいである(佐藤,1998).そのため,看護師の安楽に対する認識に影響し,安楽を説明することの難しさにつながっていると考える.

安楽に関する研究は,佐居が行った概念分析(佐居,2004a, 2004b, 2008)がみられる.これらの研究では看護関係の文献や看護実践場面に焦点を当てており,教科書,論文などの文献の記述や看護師へのインタビュー内容を対象に分析している.そのなかで安楽は,「精神的身体的に苦痛がなく,楽で快適に日常生活を過ごせる状態」と定義されている(佐居,2008).加えて,安楽は英文献のコンフォートの概念分析と比較されている(佐居,2005).安楽とコンフォートは先行要件,帰結,関連概念において多くの類似点があること,相違点は先行要件において安楽の方が看護技術に密着した内容であったと述べられている.このように日本の看護師が看護実践において使用する安楽や文献における安楽の意味がコンフォートの概念分析結果と類似していることは,日本の看護が米国の影響を受けたことを反映している.戦前の日本の看護文献には安楽の記載はなく,戦後に出版された「基礎看護―原理と方法―(1954)」において,初めて「患者の安楽」と章立てされ,安楽が重要な概念として記述されている(佐居,2012).このことから,戦後の日本に米国の看護を取り入れ,看護文献のなかでコンフォートが安楽に訳されて説明されたことにより,安楽はコンフォートと同じ意味で使用されていたことがわかる.一方で,安楽とコンフォートはそれぞれ語源が異なることから(江川,2014),意味が異なる点もある.安楽は仏教辞典(中村ら,1989)では,安らかで心地よい状態を意味する.いわゆる幸福にあたる.阿弥陀仏の西方極楽浄土を安楽国,安楽国土,安楽世界と呼んだことが記述され,極楽と同じような意味がある.極楽には,「楽のあるところ」「この上ない楽しみ」という記述がみられる.このような仏教の影響や日本の看護界で使用されるうちに,日本の看護における安楽の持つ意味が少しずつ変化したのではないかと考える.

概念は経時的,もしくは状況に応じて多様なものになると記述されている(Rodgers & Knafl, 2000/2023).佐居による安楽の概念分析が行われて以降,10年以上が経過している.この間,Kolcaba(2003/2008)のコンフォート理論の日本語訳や安楽に関連した研究論文,書籍等も出版されている.特にKolcabaのコンフォートの定義は,看護学を構成する重要な用語集の安楽の説明(日本看護科学学会看護学学術用語検討委員会第9・10期委員会,2011)や看護診断の安楽障害(Herdman et al., 2021/2021)の定義でも用いられており,日本の看護における安楽への影響があると考える.時代とともに看護師が使用する安楽や看護学における安楽の意味も変化が生じている可能性があり,あらためて概念分析をする必要があると考える.

したがって,本研究では,安楽の記述がある文献をもとに,日本の看護における安楽の経時的な変化,属性,先行要件,帰結,代用語と関連概念を明らかにする.そして,安楽の文脈的用いられ方,定義・属性をもとに,あらためて安楽を定義することを目的とする.

Ⅱ. 研究方法

1. 概念分析の方法

概念が使用される文脈や概念の変化に注意を払うという特徴があるRodgers & Knafl(2000)の概念分析方法を用いた.この概念分析方法にもとづき,本研究では1)関心のある概念を同定する,2)データ収集のための適切な範囲を同定し,選択する,3)安楽の文脈的用いられ方や定義・属性の経時的な変化を同定する,4)安楽の属性,先行要件と帰結を同定する,5)代用語や関連する概念を同定するという活動を行った.

2. データ収集方法

データベース医学中央雑誌Web版を使用した.「安楽」and「看護」をキーワード,「抄録あり」「会議録除く」を絞り込み条件に設定し検索を行い,1,190件が抽出された.そこから学生を対象とした研究および文献研究,安楽死に関する文献を除外すると944件になった.さらにタイトルや抄録の内容を確認し,安楽に関する記述がないものを除外した結果,491件となった.本文を入手できた文献の内容を確認し,看護に関連がある文献,かつ安楽の説明がある文献は62件であった.62件の文献には1986年以前の文献が含まれていなかったため,1986年以前の文献を同様の手順で抄録がないものも含めて再度検索を行った.その結果,20件入手できた.さらに検索の過程でハンドサーチした2件の文献を加え,合計84件を対象に看護における安楽の経時的な変化について検討した.対象に含まれた文献は,1973年から2020年までの雑誌記事,論説,研究論文であった(Appendix).現在の安楽の特徴は,コンフォート理論(Kolcaba, 2003/2008)の影響を受けている可能性を考慮した.そのため,安楽の属性,先行要件,帰結の同定では,前述した84件のうちコンフォート理論の日本語訳が出版された2008年以降の38件を対象にした.

3. 分析方法

概念分析によって概念を明確にすることは,概念を開発する過程において重要なステップとされている.この概念開発の過程は,経時的に特定の文脈のなかで続く循環(使用,意義,適用)によって説明することができる.そのなかで概念分析は開発の使用の段階に焦点を当て,概念と概念の現在の使い方を明確にする.概念の使用の共通性を検証することで,根底にある概念を探求し,その属性(定義)を同定するための手段が得られる(Rodgers & Knafl, 2000/2023).そのため,安楽の文脈的用いられ方や定義・属性の経時的な変化を分析し,安楽を定義する手段とした.また,概念分析では概念の属性,先行要件,帰結,代用語,関連概念に関係したデータを同定する.属性は安楽の状況や安楽そのもののことで,概念の特徴を示すものである.先行要件は概念の前に何が起きているかであり,安楽に先立って生じる出来事や例,帰結は概念の後に何が起きるのかであり,安楽の結果として何が起きるのかである.代用語は概念の顕在化や表現として機能する用語,または複数の概念を表現するために使用される類似の用語である.関連概念は関心のある概念と何らかの関係をもっているが,同じ属性の集合を共有していないような概念である(Rodgers & Knafl, 2000/2023).

これらのことを参考に,以下の手順で分析を行った.

1)安楽に関する体系的なデータ収集を行った.その中から安楽の文脈的用いられ方については,安楽がどのような状況や目的で使用されているかという視点でデータを抜き出した.その後,定義・属性,先行要件,帰結,代用語,関連概念に関連したデータを抜き出した.

2)データをマトリックス表に整理し,類似性と差異性を考慮して分類したものを帰納的にまとめた.

3)安楽の文脈的用いられ方や定義・属性が記述されている文献を年代順に整理した.

4)2008年以降の安楽の文脈的用いられ方,定義・属性をもとに本研究における安楽を定義した.

5)代用語と関連概念は,収集した文献において生じる頻度を年代別に記録した.

4. 倫理的配慮

すべて公開後の文献を用いた.また,引用する場合は,出典を明記することで,著作権等の侵害がないように配慮した.

Ⅲ. 結果

1. 安楽の経時的な変化について

文献を各年代で整理し,安楽の経時的な変化を分類した.文献数は,1970年代5件,1980年代15件,1990年代13件,2000年代20件,2010年以降31件であった.表1に安楽の文脈的用いられ方を年代ごとに示した.複数の用いられ方を示した文献があった.全人的苦痛の緩和,身体的安楽,精神的安楽,スピリチュアル的な側面や社会文化的な側面から捉えた安楽,安楽に影響する環境,安楽な体位・姿勢,安楽な看護技術・援助・ケア,安楽尿器や安楽枕のような安楽のための看護用具,終末期患者の安楽,安楽の看護診断(安楽の変調),援助者側の安楽と様々であった.1980年代は身体的安楽,安楽な体位・姿勢,精神的安楽の順に多かった.1990年代は安楽の看護診断(安楽の変調)が4件あった.2000年代はスピリチュアル的な側面,社会文化的な側面から捉えた安楽,2010年以降は全人的苦痛の緩和が現れた.また,終末期患者の安楽に焦点を当てた文献が11件あった.

表1 安楽の文脈的用いられ方の経時的な変化

年代 1970~ 1980~ 1990~ 2000~ 2010~
文献数 5 15 13 20 31
全人的苦痛の緩和 60,66,82
身体的安楽 2 9,15,10,11,12,13,14,16,19,20 21,23,24,25,26,27,28,30,33 34,35,36,38,39,40,41,42,44,45,46,47,48,49,50,52,53 57,59,60,61,62,64,65,66,67,68,69,70,71,72,74,75,77,79,81,84
精神的安楽 2,4 10,11,12,13,14,15,19 26,27,28 36,40,42,44,45,46,47,50,52,53 55,57,59,60,61,64,66,67,68,72,74,75,79,81,84
スピリチュアル的な側面 42 60,66,75
社会文化的な側面 49 61,66,75,79,82,84
安楽に影響する環境 5 42,47,49 56,61,72,79,82
安楽な体位・姿勢 2 6,7,8,10,11,14,19,20 25,28,30 34,35,37,38,40,42,43,47,48,49,51,52 58,61,63,67,69,76,78
安楽な看護技術・援助・ケア 1,3 9,10,17,18,20 22,31,32 45,47,48,52,53 54,57,59,68,71,73,77,80,81,82,84
安楽のための看護用具 2 7,8,9,10,17 22 37,43
終末期患者の安楽 4 12,15 36,46,50 60,62,64,65,68,70,71,73,75,77,83
安楽の看護診断(安楽の変調) 21,23,24,28 35,44,49 58
援助者側の安楽 9,17,18 28

表内の数字はAppendixにある文献一覧の番号を示している

表2に安楽の定義・属性を年代ごとに示した.安楽を定義した文献は7件であった.1970年から1980年代の文献では,明確な定義が記述されていなかった.定義があった文献では,苦痛や不安がないこと,その人らしいこと,快適さなどで表現されており,個人の状態や経験であることが示されていた.1990年代は苦痛や不安がないという状態を意味する定義であったが,年代が進むにつれてその人らしさや自己決定ができるなど定義に変化がみられた.

表2 安楽の定義・属性の経時的な変化

年代 1970~ 1980~ 1990~ 2000~ 2010~
文献数 5 15 13 20 31
定義

その人に外力が何も加わってない状態,つまり苦痛や不安がなく,かといって特別楽しかったり嬉しかったり,興奮しているわけでもない,穏やかな状態(土肥,1997a

安楽な状態,苦痛が取り除かれた状態,全てが整えられ,安楽とか苦痛を超えた人間の基本的ニーズが充足している経験である(尾岸ら,1998

患者が人間らしい,その人らしい日常生活を過ごせる状態像で,具体的には危険のない,精神的身体的に苦痛がない状態.気持ちいい・心地いい等の快適さ,家族がつらいと思わない等を含むもの(佐居,2004a

精神的身体的に苦痛がなく,楽で快適に日常生活を過ごせる状態(佐居,2008

身体的苦痛を「痛み」,精神的苦痛,不安感,心配事,苛立ちなどを「不快」で表し,安楽を「痛み」と「不快」が無い状態とする(山内ら,2018

看護の対象者の身体が楽になり,気持ちも穏やかな状態で,今後の方針について双方で話し合い自己決定の幅が拡大し,その人なりのセルフケアができること(山元ら,2020

患者が単に苦痛や不安,不快がないというだけではなく,できる限り患者個々の生活様式や生活習慣にそって生活ができることとする(木村ら,2020

属性
苦痛・不快症状がない・緩和 3 6,8,9,10,11,13,15,16 22,24,27,28,29,33 36,37,38,39,41,42,44,46,47,48,52,53 55,60,61,62,64,65,66,67,70,71,72,76,78,79,82,83,84
痛みがない,コントロールされる 8,10,14,16 21,22,30 35,37,39,40,49 61,64,66,68,73,76
負担がない・苦労しない・無理がない 9,11 42,43,45,47,51 61
精神的苦痛がない 1 10 47,52
不安がない・軽減 3 14 27 36,42,44,45 64,83
緊張がない 33 49 55
寂しくない 82
気がまぎれる 77
体の力が抜ける 74
寒くない・暑くない 45 66
楽である 1 14,17,18 23,27 36,37,38,40,41,42,47,51,52 59,61,62,66,70,76,77,81,84
安心感がある 3 9,13,15,19 26,27,28,29,32 36,38,41,45,49,50,53 57,61,73,79,82
気持ちがいい 3 6,8,15,16 22 37,42,47,49,53 61,76,80,84
心地がいい 26,27 37,42 57,68,72,73,74,76
快適 9 26 42,44,52 57,63,82
満足・充実感 1,3 9 27,29,32 36 73,75,79,84
リラックス 27 68,73,74
眠れる 5 24,30,33 37,51 74,84
穏やか・気持ちが落ち着く 4 27,28 36,37,38,44 79,81,84
爽快感がある 1,3 12,16,19 22 45,53 74
気分がいい 36 68,74
過ごしやすい 37,38,42,52 68
ポカポカする 1 74
副交感神経活動の活性化 9 74
体温が生理的範囲 25 66
安定感がある 2 6,7,8,10 30 37,43,51
情緒が安定 4 12,15 36 73
個々の患者に合わせた生活ができる 11 49 66,83
個別性がある 1 44 61,76
自分らしい 16 42,47 75
自己決定できる 10,14 40,42 81
人間らしい,個人の尊厳 16 29 66
強くなり個人の成長につながる 29,32 44

表内の数字はAppendixにある文献一覧の番号を示している

属性の経時的な変化をみると,1970年代は苦痛・不快症状がない・緩和,精神的苦痛がない,不安がない・軽減,楽である,安心感がある,気持ちがいい,満足・充実感,眠れる,穏やか・気持ちが落ち着く,爽快感がある,ポカポカする,安定感がある,情緒が安定,個別性があるという安楽の特徴が示されていた.その後,年代が進み文献数が増加するのに伴い,安楽の特徴についても広がりがみられた.そのなかで1990年代,2000年代の文献3件では強くなり個人の成長につながるという特徴があった.

2. 概念の属性や定義の同定

データを帰納的に分析した結果,日本の看護における安楽の属性は,「緩和された」,「快い」,「自分らしさがある」の3つが同定された(表3).「緩和された」は,痛みなどの苦痛症状がなくなることや苦痛が許容できる程度になることを意味していた.例として“痛みがない”や“気がまぎれる”ということがあたる.「快い」は,気持ちよさやリラックスした様で,満足や落ち着いた状態を意味していた.例として“楽である”や“安心感がある”ということがあたる.「自分らしさがある」は,自分の状態が個々の意向に沿ったものであることを意味していた.例として“個別性がある”や“自分らしい”ということがあたる.

表3 看護における安楽の属性

属性 もとになった文献NO
緩和された 苦痛・不快症状がない,緩和 47,48,52,53,55,60,61,62,64,65,66,67,70,71,72,76,78,79,82,83,84
痛みがない,コントロールされる 49,61,64,66,68,73,76
負担がない,苦労しない,無理がない 47,51,61
精神的苦痛がない 47,52
不安がない,軽減 64,83
緊張がない 49,55
寂しくない 82
気がまぎれる 77
体の力が抜ける 74
寒くない,暑くない 66
快い 楽である 47,51,59,61,62,66,70,76,77,81,84
安心感がある 49,50,53,57,61,73,79,82
気持ちがいい 47,49,53,61,76,80,84
心地がいい 57,70,72,73,74,76
快適 52,57,63,82
満足,充実感 73,75,79,84
リラックス 68,73,74
眠れる 51,74,84
穏やか,気持ちが落ち着く 79,81,84
爽快感がある 53,74
気分がいい 68,74
過ごしやすい 52,68
ポカポカする 74
副交感神経活動の活性化 74
体温が生理的範囲 66
安定感がある 51
情緒が安定 73
自分らしさがある 個々の患者に合わせた生活ができる 49,66,83
個別性がある 61,76
自分らしい 47,75
自己決定できる 81
人間らしい,個人の尊厳 66

表内の数字はAppendixにある文献一覧の番号を示している

これらの属性や安楽の定義,文脈的用いられ方をもとに,日本の看護における安楽は,患者が緩和された,快い,自分らしさがあると感じることと定義された.

3. 先行要件,帰結の同定

1) 先行要件

先行要件は,「患者の苦痛を示すもの」と「看護師の介入に関すること」(表4)が明らかになった.「患者の苦痛を示すもの」には,安楽を阻害する外的な要因,身体・精神・スピリチュアル・社会的な要因に関連した苦痛,看護師が苦痛と捉える患者や家族の反応があった.また,「看護師の介入に関すること」には観察やケア,看護師の態度や能力があった.

表4 先行要件(患者の苦痛を示すものと看護師の介入に関すること)

患者の苦痛を示すもの もとになった文献NO
安楽を阻害する外的な要因 不快な医療者の介入や音 57,77,82
チューブ・ラインや治療装置がついている 47,72
寝具の汚染 56
硬いベッド,クッション 56
空気が悪い 56
光が十分ではない 56
機械の音 49
排せつ物の臭い 56
慣れない環境 47
プライバシーのない環境 82
身体に関連した苦痛 様々な痛み 47,49,53,65,68,70,72,73,76,78
動けない 47,49,57,69,72,76,78
身体の拘束感や圧迫感 63,78,76
疲労感 倦怠感 体力の消耗 49,68,76
呼吸が苦しい 49,77
お腹が苦しい 48,65
食べれない 48,62
視覚が制限 49,56
眠れない,睡眠不足 49
汗をかく,冷汗 57
悪心,嘔吐 47
薬を飲めない 71
しびれる 78
暑い 76
精神・スピリチュアルに関連した苦痛 不安,恐怖,心配 49,55,57,75,76
できていたことができなくなる,他人にゆだねなければいけない 59,66,75
苛立ち 76
意思疎通できない 72
言葉で表出できない 69
悩みを言い出せない 55
閉塞感 56
緊張 57
寂しい,傍にいてほしい 55
せん妄 83
社会的な要因に関連した苦痛 人間関係を断たれる 72
面会制限,家族と離れる 72
看護師が苦痛と捉える患者や家族の反応 不自然な動き,体動が激しい,姿勢が崩れる 47,53,78
表情をしかめている 47,70
ニードがある 55,62
ナースコールの増加 47
家族の訴え,家族の希望 47
交感神経活動の亢進 78
看護師の介入に関すること もとになった文献NO
観察やケア 寝衣,体位の調整 51,58,60,61,63,69,76,77,81
安全にする,感染防御 48,52,56,57,60,61,79,83
環境への配慮 49,52,61,69,72,79,81,82
家族や親しい人を関与させる 49,61,68,73,75,79,82
清潔ケアなどの日常生活援助 50,57,66,70,75,80
情報を提供・説明,現状を知らせる 49,57,58,81,82
注意深い観察 56,69,70,78,82
声をかける,励ます 49,52,77,81
話を聴く,傾聴 49,55,69,81
てあて,触れる,さする,マッサージ 49,68,73,77
共にいる 50,69,75,81
足浴,温罨法,冷罨法 49,53,74,84
薬を調整する 49,71
プライバシーを保護 69,81
さらなる苦痛を与えない 52
生きる力を支える 78
家族友人の情報を集める 61
動物を関与させる 65
メディカルデバイスの調整 63
気晴らしになる活動,レクリエーションの提供 64
死について話し合う 75
看護師の態度や能力 医療者の連携 48,55,70,71,73,81,82,83
希望を取り入れる 49,52,61,63,73,81,83
個別への配慮,背景をふまえる 66,71,79,81,82,83
適切な知識・技術・判断 50,61,71,73
待つ,見守る 54,81,83
ケアを積み重ねる 64,79,82
信頼関係を築く 52,55,73
気持ちに寄り添う,気づかう,察する 54,57
十分な物品,物品の工夫 52,54
看護師の余裕のある態度 52,69
人として向き合う 79,82
社会的なつながりをもてるようにする 75,79
役割を感じられるようにする 75
できることはしてもらう 82
効果を保証する 82
共感,受け止める 59
生活の時間や時期に配慮 69
十分な看護師の人数 52

表内の数字はAppendixにある文献一覧の番号を示している

2) 帰結

帰結は,「回復と合併症予防」,「生活の質の維持向上」,「安寧」,「前向きな気分」,「他者との親密さが増す」,「希望を持つ」,「危機を乗り越える」,「安らかな死」,「自己肯定感」があった(表5).

表5 帰結

帰結 もとになった文献NO
回復と合併症予防 47,51,52,66,76,78
生活の質の維持向上 49,56,73,81,83
安寧 48,54,83
前向きな気分 47,52,78
他者との親密さが増す 68,73
希望を持つ 73,82
危機を乗り越える 48
安らかな死 60
自己肯定感 75

表内の数字はAppendixにある文献一覧の番号を示している

4. 代用語の同定

安楽の表現として多く出現した代用語は,コンフォートであった.84件の文献のうち,安楽をコンフォート,あるいはcomfort(comfortable)と置き換えて記述した文献は31件(1990年代5件,2000年代9件,2010年以降17件)であった.Kolcaba(2003/2008)のコンフォートの定義や理論をもとに安楽を説明した文献は8件(1990年代3件,2000年代1件,2010年以降4件)であった.

そこで,英文献の概念分析におけるコンフォートの定義や属性を確認すると,患者の状態や過程であること,主観的,全体的であり,強められる,克服できるという意味もあった(表6).また,英文献のコンフォートの属性のなかには,コミュニケーション,家族や関係の存在が含まれている文献もあった(Siefert, 2002).

表6 英文献におけるコンフォートの定義や属性

NO 文献 著者 発表年 掲載雑誌 定義 属性
1 An analysis of the concept of comfort Kolcaba, K., et al. 1991 J Adv Nurs, 16(11), 1301–1310 ・コンフォートを看護の成果として全体的に捉え,緩和,安心,超越に対する欲求が4つの文脈(身体的,サイコスピリット的,社会的,環境的)において満たされることにより,自分が強められているという即時的な経験 緩和,安心,超越
2 Concept Analysis of Comfort Siefert, M. L 2002 Nurs Forum, 37(4), 16–23 ・コンフォートとは,個々に定義され,多次元的で,動的な状態や過程であり,一時的または永続的で,特定の文脈の中で,身体的,精神的,社会的,スピリチュアル的,環境的領域でニーズを満たす必要がある コミュニケーション,家族と関係,機能性,個人特性,心理社会的・身体的症状の緩和や状態,スピリチュアルな行為や状態,安全
3 Comfort, well-being and quality of life: Discussion of the differences and similarities among the concepts Pinto, S., et al. 2017 Porto Biomed J, 2(1), 6–12 ・明確な定義の記述なし 主観的,自尊心,個々の認識,複雑性,満足,機能的,自己コントロール,安らぎ,症状の緩和,不均衡の軽減,苦悩の軽減,効果的なコミュニケーション,安全
4 Evolutionary Analysis of the Concept of Comfort Pinto, S., et al. 2017 Holist Nurs, 31(4), 243–252

・コンフォートの概念は,個人のニーズが満たされることを含む,複雑で,動的,全体的,主観的,かつ肯定的な体験

・コンフォートは,人間のあらゆる生活次元において,緩和,安心,超越を達成するために,個人の認識やニーズの充足と密接に関連した満足と幸福の望ましい状態,快適でホリスティックな体験

複雑,個々の,意識に左右される,主観的,全体的,快の経験,動的,肯定的,満足,幸せ,ニードが満たされる,強められる,支えられる,安全に感じる
5 Analysis of the concept of comfort: Contributions to the diagnosis of Readiness for enhanced comfort Pereira, C. S. C. N., et al. 2020 Esc Anna Nery, 24(2), 1–9

・患者が痛みや不快感から解放されるようにケア,不快感の緩和,痛みがない状態,痛み/精神的苦痛またはその他の不快感の緩和

・緩和,安心,超越という人間の基本的な欲求が満たされている状態.安寧の状態,緩和,励まし,または慰めの状態.心身の統合から生じる調和の状態.身体的・精神的安寧.身体的にコンフォートの状態.精神的にコンフォートの状態.強化,励まし,サポート.安心な状態.

・患者に対する治療的看護行為の最終状態

超越(問題や痛みの克服).安心や満足を感じる.自分自身の活動があり,実行する能力.一体感,機能性,正常性.個人的な交流を楽しみ,身体的,精神的,スピリチュアル的な安寧を感じること.身体的,精神的,社会的,環境的ニーズを取り入れたコンフォート,物質的または財政的資源を持っていること,人間のニーズを満たすための中心的な側面,全体的なケア,生活の質,精神的および身体的な安寧を感じる,自分自身と他の人々に安心を与えること,人間の基本的なニーズの充足,気分が良い,緩和,安心,落ち着き,安心または満足の状態,希望と自信

5. 関連概念の同定

関連概念として,安楽は,84件の文献のうち29件(1970年代3件,1980年代7件,1990年代1件,2000年代10件,2010年以降8件)で安全と関連させて説明されていた.木村ら(2020)は,がん患者が臨終に近づくにつれてリスクが高まる転倒・転落や誤嚥などの事故や苦痛増強を最小限にするために身体状況を予測することで,苦痛なく安楽に過ごせると考えていた.安全を前提にすることで,安楽につながることが明らかになった.一方,医療安全に基づき「危険だから」という理由で身体拘束することで安楽を阻害することにつながる(川島,2014).安全対策をすることが安楽を阻害する要因になりうることも明らかになった.

Ⅳ. 考察

1. 看護における安楽の経時的な変化について

看護における安楽の経時的な変化について,国内の文献84件を対象に分析した.安楽の文脈的用いられ方は多様であり,時代とともに変化し特徴があった.1980年代から身体的,精神的安楽に関する文献が増加し,2010年以降の文献数が最も多かった.最新の看護学大辞典(永井・田村,2013)において「安楽とは,身体的にも精神的にも苦痛や不安のない状態をいう」と定義されている.この定義は安楽を重要用語として最初に記述したとされる「基礎看護―原理と方法―」の定義(佐居,2012)と同じ内容である.そのため,安楽が看護の原則とされて以降,安楽を身体的,精神的な側面から捉えるという本質は変わらず広く認識されていると考える.一方で1990年代に精神的安楽は少なくなり,「安楽の変調」という看護診断名を取り上げた文献が出現している.「安楽の変調」は下位概念に疼痛,悪心・嘔吐,掻痒感が示されており(土肥,1997b),身体的側面における苦痛の要素が強いことがわかる.このことにより安楽を身体的側面から捉えやすくなり,精神的安楽が少なくなったと考える.そして,安楽な体位・姿勢や安楽な看護技術・援助・ケアについても現在まで使用している文献が一定数見られた.戦後に体位を安楽にすることが看護技術とされ(山口,2010),体位の保持・変換は安楽を直接的な目的としていた.現代の教科書においても「安楽な体位」という記述は多くみられ,臨床の看護師や看護学生の言葉,記録においてもしばしばみられる.また,佐居(2012)が,安楽は看護の基本的要素としても,特定の看護提供方法(環境調整・体位保持・清潔の保持)としても使用されている現状を明らかにしており,そのことが本研究でも見受けられた.

2000年代にはスピリチュアル的,社会文化的側面から捉えた安楽,安楽に影響する環境に関する文献が増えはじめ,2010年以降は全人的苦痛の緩和に関する文献が出現した.また,終末期患者の安楽に関する文献が増加した.1989年シシリー・ソンダースが,苦痛について身体的苦痛だけでなく,社会的苦痛・精神的苦痛・スピリチュアル的苦痛を合わせた全人的苦痛という概念を提唱した(Saunders & Baines, 1989/1990).その後,2002年にこの概念は世界保健機関の緩和ケアの定義にも盛り込まれている(金井,2017;World health organization, 2022).このように,緩和ケアが着目されるようになり,緩和ケアとして安楽なケアが記述されていたため,終末期患者の安楽に関する文献が増えたと考える.国内では,がん対策推進基本計画(厚生労働省,2007)に緩和ケアが治療の初期段階から行われるとともに,様々な場面において切れ目なく実施される必要があると明記された.そして,大学の学士課程においてコアとなる看護実践能力と卒業時到達目標では,終末期にある患者を全人的に理解することや苦痛の緩和のために安楽を提供することが示されている(竹之内,2012).このような背景から終末期における安楽への関心がさらに高まったと考える.さらに本研究の1990年代以降の文献において,安楽の代用語にコンフォートが示されたように,コンフォートの概念分析(Kolcaba & Kolcaba, 1991)やコンフォート理論(Kolcaba, 2003/2008)が発表されて以降,それらをもとに安楽を説明する文献が出現している.これらのことから,社会的な文脈や政策,学問的な発展により看護における安楽の用いられ方が変化したと考える.

安楽の定義や属性については,文脈的用いられ方と同じように年代が進むとともに表現や特徴が変化していることが明らかになった.表2の属性の経時的な変化をみると,1970年代は「苦痛・不快症状がない」や「不安がない」などと示されていたが,年代が進むにつれて「緊張がない」や「寂しくない」などが示されており,安楽を使用する状況の影響があると考える.これは看護において安楽が様々な状況で用いられるうちに適用範囲が広がっていったことの表れと考える.また,1990年代と2000年代には,安楽の属性に「強くなり個人の成長につながる」がみられた.Kolcaba & Kolcaba(1991)によるコンフォートの概念分析の影響が安楽の属性に表れていたのではないかと考える.「強くなり個人の成長につながる」は強くなって元気づけられた状態(尾岸ら,1998),成長を増強または刺激する(尾岸ら,1999),個人の成長を促す(大内・森田,2006)ことから示されたものであり,コンフォートの超越を意味すると考える.このように安楽が特定の方法で使用され,研究や看護実践などを通して理解されることで,新しい状況に適用されてきたことがわかった.

2. 日本の看護における安楽の概念

2008年以降の文献38件を用いて安楽の属性,先行要件,帰結を同定した.看護における安楽の属性は,「緩和された」,「快い」,「自分らしさがある」の3つが明らかになった.

「緩和された」は,痛みなどの苦痛が軽減することや苦痛が許容できる程度になることである.患者は病気や外傷そのもの,治療や処置,環境によって苦痛が生じる場合が多い.その内容は先行要件(表4)に多様なものが示された.安楽の前には先立って生じる苦痛があることが多いため,安楽は全ての症状が取り除かれた状態だけを指すのではなく,「さっきよりはましになった」というような過去の状態と比較して現在感じていることであり,安楽にはレベルがあると考える.「快い」は快適や爽快感など気持ちが良い状態であり,患者が「緩和された」と感じるよりも高いレベルにあると考える.清拭や洗髪,足浴など看護師が独自に提供するケアによって患者にもたらすことができる.佐居(2004b)が安楽の特性のひとつに対象の幅広い状態を含む用語で,段階的な状態を示すものと述べており,同様のことが言える.「自分らしさがある」は,状態が個々の意向に沿ったものであることを意味する.看護師が患者に聴くことや患者が決められるよう援助することで患者は「自分らしさがある」と感じられる.また,同じ安楽を目指したケアでも,個々の患者の状態や状況に合わせて提供することで「自分らしさがある」と感じられる.「緩和された」,「快い」,「自分らしさがある」の3つの属性は,先行要件にある身体的,精神・スピリチュアル的,社会的な苦痛や安楽を阻害する外的な要因に介入することで生じるため,安楽を目指すためには患者を全体論的に捉える必要がある.先行要件は,「患者の苦痛を示すもの」だけでなく,「看護師の介入に関すること」があり,多くの場合患者の苦痛に対する看護師の関与が求められる.そのなかに「安全にする,感染防御」が含まれており,関連概念の安全は安楽の先行要件の一つであることが明らかになった.また,帰結は概念の結果として何が起きるかであるため,患者が安楽になることによって,「回復と合併症予防」,「生活の質の維持向上」,「安寧」などが生じる可能性があると示唆された.

日本の看護における安楽は,患者が緩和された,快い,自分らしさがあると感じることと定義された.安楽の文脈的用いられ方や代用語,先行要件との関連をみることによって,安楽がコンフォートの影響を受けて全体論的に捉えられるようになったことや適用する範囲の拡大がうかがえた.本研究は,日本の看護における安楽の経時的な変化をふまえ定義したことによって,安楽の特徴を示すことができたと考える.

本研究では,概念分析によって現在の安楽の特徴を明示できた.安楽を目指すことは看護の目的とされてきたが(佐藤,1998佐居,2012),あらためて安楽を明示することによって,臨床における看護過程として活用が可能になると考える.具体的には,先行要件の「患者の苦痛を示すもの」が様々な苦痛を経験している患者に対して全体的な側面からアセスメントする視点となる.そして,明らかになった問題に対する看護介入の内容を示す.さらに属性に示したことは,患者の反応をもとに安楽の状態を見極める指標や患者の目標の根拠になる.帰結は長期的な目標として検討することができる.このように安楽の概念分析の結果は,看護実践の方向性を指し示す手掛かりになると考える.加えて,看護師が安楽を説明する言葉を持つことにつながると考える.そのことで,安楽を看護以外の医療者とも共有することができ,医療の目標としても位置付けることが可能になる.

3. 安楽の代用語と関連概念

本研究では,対象となった文献のなかで安楽がコンフォートに置き換えられていること(代用語)に着目した.2つの概念は類似している点が多いが,安楽よりもコンフォートの方が広い意味を持っていると考える.英文献のコンフォートは,全体的,症状緩和,安心,満足,個々の認識,超越,強められるなどが属性に示されており,これらは本研究の安楽の定義や属性と同じような意味を持つと考える.一方でコンフォートのコミュニケーション,家族や関係の存在,安全は,本研究の安楽の属性にはみられず異なる点であった.これらの点において,安楽はコンフォートと明確に分けられると考える.

Kolcabaのコンフォート理論が発表されて以降,用語集(日本看護科学学会看護学学術用語検討委員会第9・10期委員会,2011)や看護診断の安楽障害の定義(Herdman et al., 2021/2021)はコンフォート理論の定義(Kolcaba, 2003/2008)を用いて説明されていることから,我々は安楽がコンフォートに近づいていると考えていた.安楽には英文献のコンフォートの定義や属性にある一部の意味が含まれていなかったことで,英文献のコンフォートと現在の日本の安楽との違いが明らかになった.そのため,安楽はコンフォートの意味と異なる点があることを理解して使用する必要がある.そして,安楽の帰結に「前向きな気分」,「希望を持つ」,「危機を乗り越える」,「自己肯定感」があった.これらの帰結には英文献のコンフォートの定義や属性の一部が含まれていると考える.

安楽の関連概念は安全であり,対象となった文献のタイトルに安全・安楽のように並べて示されているものもあった.佐居(2004a, 2012)の安楽の概念分析や調査では,安楽を意味するものに“危険がない”や“安全”が含まれているが,本研究では結果に示したように看護における安楽と安全は相反する状況が生じうることが明らかになった.そのため,安全は安楽の属性ではなく,関連概念として同定した.看護師が安楽の前提的要件として安全を捉える(伊藤・佐居,2009)や危険だからという理由で身体拘束をすることで安楽を阻害する(川島,2014)のように,安楽と安全は階層や対の関係で表現されることがあり,看護における安楽と安全は切り離して考えることができないことが明らかになった.

Ⅴ. 結論

安楽は時代の変化に伴い,身体的,精神的側面からだけでなく,全人的側面から捉えられる傾向が示された.日本の看護における安楽は「緩和された」,「快い」,「自分らしさがある」の3つの属性が同定された.これらの属性,定義,文脈的用いられ方をもとに,日本の看護における安楽は,患者が緩和された,快い,自分らしさがあると感じることと定義された.先行要件は「患者の苦痛を示すもの」と「看護師の介入に関すること」であり,関連概念の「安全」は先行要件に内包されていた.帰結は「回復と合併症予防」,「生活の質の維持向上」,「安寧」,「前向きな気分」,「他者との親密さが増す」,「希望を持つ」,「危機を乗り越える」,「安らかな死」,「自己肯定感」があった.安楽の代用語はコンフォートであった.

謝辞:本研究において,文献検索やデータ収集にご協力下さいました日野綾乃様に感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:YO,MW,ANは研究の着想およびデザインに貢献した.YO,MWはデータ収集,分析の実施および草稿を作成した.ANは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言,分析を実施した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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