2024 Volume 44 Pages 67-77
目的:急性期病院に勤務するキャリア中期看護師のキャリア・プラトー化に関連する要因,キャリア・プラトー化とキャリア・コミットメントの関連を明らかにする.
方法:首都圏14病院のキャリア中期看護師1,220名を対象に質問紙調査を行い,429名を分析対象とし,統計的に分析を行った.
結果:重回帰分析の結果,階層プラトー化は上司の関わりが多いこと,昇進基準があることなどと負の関連があり,内容プラトー化は同僚の関わりが多いこと,影響を与えている人がいることなどと負の関連があった.内容プラトー化はキャリア・コミットメントに影響を及ぼしていた.
結論:看護師のキャリア・コミットメントを高めるために,内容プラトー化の抑制が重要であることが示唆された.プラトー化の抑制には昇進基準の明確化やキャリアプランの意識化,上司の関わりとして同僚同士が刺激し合える職場環境づくりも含めた支援の重要性が示唆された.
Objective: To clarify the factors associated with the career plateauing of mid-career nurses working in acute care hospitals and the relationship between career plateauing and career commitment.
Methods: A questionnaire survey was distributed to 1,220 mid-career nurses at 14 hospitals located at the Tokyo metropolitan area with more than 400 beds; 429 responses were statistically analyzed.
Results: Multiple regression analysis indicated that the hierarchical plateauing was significantly lower when nurses perceived that their organization had clear promotion criteria and their supervisors interacted well with them. Furthermore, content plateauing was significantly lower when the nurses had certain career goals and opportunities to interact with colleagues and was significantly associated with career commitment.
Conclusion: The results suggest that reducing nurses’ content career plateauing is essential to increase their career commitment. Furthermore, suggestions to reduce the plateauing include increasing the awareness of career plans, clarifying promotion criteria, and strengthening supervisors’ roles in creating a workplace environment where colleagues can motivate each other.
医療の高度化・専門分化,患者の重症度や高齢化に伴い,看護の需要や役割が拡大する中で,キャリア中期にある看護師は臨床現場において質の高い看護を提供する上で中核的存在であり(本谷・成川,2010),この時期は専門職として明確なキャリア目標やプランを見出していく看護師が数多く存在する(関,2015).一方で,このキャリア中期以降の看護師にはキャリア開発上の課題も多いことが知られている.また,能力の伸び悩みややりがいの喪失を経験し,そのための離職も起きている(大井,2016).さらに,看護行為に自信は持てるがマンネリ感を抱く,新たな場で看護に取り組みマンネリ感から抜け出しても,これまでの経験が役に立たないという思いを抱く(中本ら,2018)などのことが知られている.Bardwick(1986)はこの伸び悩みやマンネリ感について「プラトー現象」と定義している.プラトー現象には,十分に経験を積んでも役職者のポストは限られているため昇進が望めない状況を意味する階層プラトー化と,役割や業務が固定化したり,新たな知識・技術も習得する機会が減り伸び悩みを感じる内容プラトー化の2種類がある.
看護師のキャリア・プラトー化に関する先行研究では,中堅看護師(経験年数5~20年未満)の看護実践能力はある一定のレベルにまで達すると伸び悩みが生じプラトー現象を起こすことが示唆されている(辻ら,2007).また,関(2015)によるとキャリア中期にある看護師は仕事の達成感を得ることが難しく,そのため自身のキャリアが停滞していると認識している.Abd-Elrhaman et al.(2020)の研究でも,多くの看護師がキャリア・プラトー状態にあると認識しているなど,キャリア・プラトー化は,キャリア中期にある看護師の多くが抱える課題であることが推察できる.キャリア・プラトー化は看護師が新たな目標を見出し,キャリア発達を遂げるきっかけになる可能性もあるものの,専門職の退職意思と正の関連を持っていたこと(山本,2014a)が明らかにされているなど,長期に渡れば看護職としての職務の継続に影響を及ぼす可能性がある.
看護職が長期にキャリア・プラトー状態に陥らないようにするには,支援のあり方について検討する必要がある.看護師のキャリア・プラトー化に関連する要因については,専門職としての自律性(辻ら,2007),キャリア意識(三浦,2018)などの個人特性や,職務満足(Abd-Elrhaman et al., 2020)などが明らかにされている.また,大賀・吾妻(2018)はプラトー現象の出現時期・期間は様々であり,プラトー現象から踏み出すきっかけとして転職,異動やフィードバックを得る機会が有効で,個人の発達段階や動機づけを重視した支援が必要であるとしている.山本ら(2012)はキャリア目標を持ち,目標実現に向けての計画を持っている看護師は,昇進可能性および職務挑戦性が高いなど,看護師自身が自分の目標や課題を認識し,それに取り組むことがキャリア・プラトー化の抑制に有用であることを示唆している.近年,中堅看護師や20代から50代を対象とした研究(齋藤ら,2020;高山・佐々木,2021)が行われ,目標に向かっての自身の取り組みが組織に認められることや周囲からのキャリアに対する支援があること,また,組織でキャリアを促進するような組織風土づくりをすることがキャリア・プラトー化を抑制するのに有効であると示唆されているが,キャリア中期看護師を対象とした研究はまだ少ない.
さらに,山本(2014b)によると,民間企業の従業員において,キャリア・プラトー化はキャリア・コミットメントと負の関連がある.キャリア・コミットメントが高い看護師ほど自己教育力が高い(千葉ら,2020)などキャリア・コミットメントは看護師にとって重要な概念である.しかし,キャリア・プラトー化とキャリア・コミットメントの関連について,民間企業では研究されているが,看護師を対象とした研究は見当たらない.看護師のキャリア・プラトー化とキャリア・コミットメントの関連を明らかにし,プラトー化の抑制の必要性や意義について検討する必要がある.
キャリア中期看護師がキャリアの停滞を感じる状況として,多重業務に追われる中で達成感が得られにくく,行き詰まりを自覚することが指摘されている(関,2015).このような特徴は,重症度の高い患者ケアに加え,年齢層が若いスタッフが多い中でキャリア中期看護師がリーダーの役割や後輩指導,質改善など多様な組織的役割を担っている急性期病院では特に顕著であると考えられる.また,首都圏では,高度急性期を含む急性期の機能を担い,地域の中核ともなる病院の多くは400床以上の病院であることから,本研究では400床以上の急性期病院で働くキャリア中期看護師に着眼することとした.
急性期病院において,キャリア中期看護師は看護の質を支える中核的な存在であるためそのキャリア発達支援は重要である.本研究の結果からこれらの看護師のキャリア・プラトー化を抑制することの意義や必要性が明確になり,キャリア・プラトー化を抑制するための取り組みについて検討することができると考える.
急性期病院に勤務するキャリア中期の看護師のキャリア・プラトー化に関連する要因,キャリア・プラトー化とキャリア・コミットメントの関連を明らかにする.
無記名自記式質問紙調査による関係探索研究(横断研究)とした.
2. 操作的用語の定義 1) キャリア・プラトー化キャリア発達の停滞と定義する.階層プラトー化とは「将来の昇進可能性の停滞」,内容プラトー化とは「職務の挑戦性の停滞」を意味するものとした.(Bardwick, 1986;山本ら,2012)
2) キャリア中期自分の価値や職業継続の選択,専門分野の選択などを再考する段階に進み,職業人として一人前として認められる時期(25~45歳)とした.(Schein, 1978)
3) キャリア・コミットメント専門分野や職業に対する心理的愛着を意味していることから,看護の専門性への愛着や思い入れとした.(労働政策研究・研修機構,2012)
3. 調査方法調査対象者は首都圏400床以上の164病院から無作為抽出し,看護部責任者の研究協力の得られた14病院に勤務するキャリア中期看護師約1,200名(主任や師長などの役職者は除外)とし,質問紙と回収用封筒を配布し,回収は封筒を用いた個別郵送法とした.調査期間は2021年6月から2021年9月30日であった.
1) 調査内容 (1) 基本属性キャリア・プラトー化に関する先行研究(関,2015;杉山ら,2016;高山・佐々木,2021)を参考に,「性別」「年齢」「看護最終学歴」「影響を与えている人の有無」「キャリアプランの有無」など18項目とした.
(2) 組織の支援先行研究より組織の支援としてキャリア支援体制,上司の関わり,同僚の関わりの3つの要素があることが示唆され,これらの研究を参考に調査項目を設定した.
キャリア支援体制としては,「目標管理など定期的に目標を定め,達成度を評価する仕組みの有無」「長期の院外研修や学会へ参加できる体制の有無」「昇任・昇格するにあたり,明確な基準の有無」など6項目とした.上司の関わりとしては,看護師長のメンタリング尺度や承認行為尺度(妹尾・三木,2012;萩本ら,2014)などを参考に,メンタリングに関わる「話しかけやすい雰囲気である」などの3項目,承認に関わる「仕事の成果が上がったときは言葉でフィードバックしてくれる」などの6項目,学習の支援にかかわる「必要に応じた勤務調整をしてくれる」などの4項目,合計13項目とした.そして,職場の同僚との関わりとしては,先行研究(萩原ら,2019)のキャリア目標達成に向けた同僚の支援を参考に「新しい知識・技術を身につけるために学習することに対して理解がある」「看護師としてお互いに刺激となる存在である」などの4項目とした.
上司と同僚との関わりについての17項目については「大変そう思う」4点「全く思わない」1点の4件法で評価し,得点が高いほど支援・サポートが大きいことを示す.
(3) キャリア・プラトー化尺度Milliman(1992)のキャリア・プラトー化尺度日本語版(山本,2014a)10項目を使用した.「あてはまる」5点,「あてはまらない」1点の5件法で評価する.使用にあたり山本氏に使用許諾を得た.得点が高いほどキャリア・プラトー状態にあることを示す.
(4) キャリア・コミットメント尺度日本労働研究機構(2003)が開発し,信頼性・妥当性が検証されているHRMチェックリストの中のキャリア・コミットメント8項目を尺度として使用した.本研究では看護師のキャリア・コミットメントを測るうえで,原版の「今の職務・専門分野」や「この職務・専門分野」を「看護の仕事」また「会社」を「病院」に置き換えた.「Yes」を5点「No」1点の5件法で,得点が高いほどキャリア・コミットメントが高いことを示す.尺度の使用および文言の修正については日本労働研究機構(労働政策研究・研修機構)の許諾を得た.
4. 分析方法統計解析には,SPSS Statiatics27,Amos26を使用して分析を行った.記述統計量を算出し,基本属性・組織の支援とキャリア・プラトー化との関連について,t検定,分散分析,相関分析により検討した.それらの関連を踏まえて,階層プラトー化尺度・内容プラトー化尺度の得点を従属変数,独立変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)を行った.次に,キャリア・プラトー化とキャリア・コミットメントの関連について,基本属性・組織の支援がキャリア・プラトー化に影響を及ぼし,キャリア・プラトー化がキャリア・コミットメントに影響を及ぼすというモデルを立て,共分散構造分析を行った.以上の統計解析の有意水準は両側5%とした.
5. 倫理的配慮本研究は,順天堂大学大学院医療看護学研究科研究等倫理委員会の審査を受け,承認を得た(順看倫第2021-4号).研究協力依頼文書及び質問紙に調査は任意であること,個人は特定できないこと,同意が得られなくとも,一切の不利益は被らないことを明記し,質問紙は無記名とし,質問紙への同意欄のチェックをもって同意とみなした.
首都圏の400床以上の病院で研究協力の得られた14病院に対して,質問紙1,220名に配布,462名(回収率37.9%)から回答が得られた.有効回答は,同意欄へのチェックがあるもの,本研究の従属変数であるキャリア・プラトー化尺度およびキャリア・コミットメント尺度に無回答の項目がないものとした.有効回答数は429名(有効回答率93.0%)であった.なお,キャリア・プラトー化尺度およびキャリア・コミットメント尺度以外の変数に欠損がある場合は,分析ごとに除外とした.
1. 対象者の特性 1) 基本属性,勤務先の属性およびキャリア支援体制,上司・同僚の関わり基本属性は93.7%が女性であり,平均年齢は32.19歳,看護師の経験年数は10.22年で,最終学歴は大学卒業が最も多く55%であった.部署内での役割を担っている者が84.6%,病院内での役割を担っている者が52.9%であった.影響を与えている人がいる者は50.6%であり,キャリアプランを持っている者は46.4%であった.勤務先は大学病院が79%であった.
キャリア支援体制に関しては,看護実践能力に応じた教育体制については94.6%が「あり」と回答した.また「長期の院外研修・学会参加の体制」については「あり」が193名(45.0%),「わからない」168名(39.2%),「昇任・昇格時の基準」については「あり」173名(40.3%),「わからない」230名(53.6%)であった(表1).
n = 429
n(%) | n(%) | ||
---|---|---|---|
性別 | 勤務場所 | ||
男 | 27(6.3) | 成人系病棟 | 184(42.9) |
女 | 402(93.7) | 重症集中病棟 | 40(9.3) |
婚姻状況 | 専門病棟 | 24(5.6) | |
未婚 | 225(52.4) | 小児系病棟 | 24(5.6) |
既婚 | 185(43.1) | 外来(救急) | 86(20.0) |
離婚 | 16(3.7) | 手術室 | 30(7.0) |
死別 | 3(0.7) | その他 | 33(7.7) |
子どもの有無 | 部署内での役割の有無 | ||
なし | 281(65.5) | あり | 363(84.6) |
小学生以下同居 | 125(29.1) | なし | 63(14.7) |
中学生以上同居 | 11(2.6) | 病院での役割の有無 | |
別居中の子ども | 1(0.2) | あり | 227(52.9) |
仕事に対する家族の理解・協力 | なし | 197(45.9) | |
あり | 413(96.3) | キャリアに影響を与えている人(目標となる人)の有無 | |
なし | 4(0.9) | あり | 217(50.6) |
看護系最終学歴 | なし | 212(49.4) | |
専門学校卒 | 136(31.7) | 看護師としての目標(キャリアプラン)の有無 | |
短大卒 | 46(10.7) | あり | 199(46.4) |
大学卒 | 236(55.0) | なし | 230(53.6) |
大学院卒 | 11(2.6) | 認定・専門看護師資格の有無 | |
看護師経験年数 | あり | 11(2.6) | |
5年未満 | 93(21.7) | なし | 417(97.2) |
6年~10年まで | 131(30.5) | キャリア支援体制 | |
11年~15年まで | 80(18.6) | 看護実践能力に応じた教育体制の有無 | |
16年以上 | 82(19.1) | あり | 406(94.6) |
病院の設置主体 | なし | 7(1.6) | |
公立 | 43(10.0) | わからない | 15(3.5) |
公的・社会保険関係 | 7(1.6) | 長期の院外研修・学会参加の体制の有無 | |
大学 | 339(79.0) | あり | 193(45.0) |
公益法人 | 35(8.2) | なし | 67(15.6) |
病院の病床数 | わからない | 168(39.2) | |
400~499 | 92(21.4) | 昇任・昇格時の基準の有無 | |
500~599 | 37(8.6) | あり | 173(40.3) |
600~699 | 58(13.5) | なし | 25(5.8) |
700~799 | 106(24.7) | わからない | 230(53.6) |
800~899 | 29(6.8) | ||
900~999 | 32(7.5) | ||
1000以上 | 61(14.2) |
無記入を除く
上司の関わりの平均値±S.Dは2.85 ± 0.59,同僚の関わり4項目の平均値±S.Dは2.96 ± 0.52であった.
2. キャリア・プラトー化およびキャリア・コミットメント 1) キャリア・プラトー化階層プラトー化尺度得点では「私は将来頻繁に昇進されることが予想される(R)」が4.24 ± 0.94と最も高く,「私が昇進する機会は限られている」が3.18 ± 1.13で最も低かった.階層プラトー化の平均値±S.Dは3.65 ± 0.75であった.
内容プラトー化尺度得点は「私の仕事における作業や活動は,私にとってマンネリ化してきた」の平均値±S.Dが2.92 ± 1.16と最も高く,「私の仕事では能力や知識を引き続いて伸ばしていくことが必要である(R)」の平均値±S.Dが1.77 ± 0.72と最も低く,内容プラトー化の平均値±S.Dは2.17 ± 0.64であった(表2).
平均値 | 標準偏差 | |
---|---|---|
階層プラトー化 | ||
私はより高い地位(師長や主任など,組織内でより高い職位)を獲得する見込みはない | 3.48 | 1.14 |
私は近い将来より高い地位(師長や主任など,組織内でより高い職位)に昇進することが予想される(R) | 4.16 | 1.03 |
私は将来頻繁に昇進することが予想される(R) | 4.24 | 0.94 |
私が昇進する機会は限られている | 3.18 | 1.13 |
私が昇進する可能性は限られている | 3.22 | 1.15 |
内容プラトー化 | ||
私の仕事はやりがいがある(R) | 2.22 | 0.93 |
私は現在の仕事で,多くのことを学び成長する機会がある(R) | 2.17 | 0.87 |
私の仕事では能力や知識を引き続いて伸ばしていくことが必要である(R) | 1.77 | 0.72 |
私の仕事上の責任は明らかに高まってきた(R) | 1.78 | 0.80 |
私の仕事における作業や活動は,私にとってマンネリ化してきた | 2.92 | 1.16 |
キャリア・コミットメント | ||
給料が下がっても,看護の仕事がしたい | 2.24 | 1.12 |
看護の仕事でキャリアを追求したい | 2.94 | 1.13 |
他の病院に移っても,看護の仕事に就きたい | 3.71 | 0.98 |
もし働かずにお金が得られても,看護の仕事を続けるだろう | 2.49 | 1.28 |
看護の仕事が好きなので,この先も続けたい | 3.50 | 0.97 |
私にとって看護の仕事はライフワークとして理想的な仕事である | 3.01 | 1.07 |
看護の仕事に満足している | 3.28 | 1.02 |
看護に関わる雑誌や本を多く読んでいる | 2.69 | 1.17 |
また,階層プラトー化尺度得点と内容プラトー化尺度得点の相関係数はr = .20(p < .001)であった.
2) キャリア・コミットメントキャリア・コミットメント尺度8項目のうち「他の病院に移っても,看護の仕事を続けるだろう」の平均値±S.Dが3.71 ± 0.98と最も高く,「給料が下がっても,看護の仕事がしたい」の平均値±S.Dが2.24 ± 1.12と最も低く,キャリア・コミットメント8項目の平均値±S.Dは2.98 ± 0.77という結果であった(表2).
3) 階層プラトー化および内容プラトー化に関連する要因キャリア・プラトー化に関連する要因を重回帰分析により検討した.独立変数として,キャリア・プラトー化尺度得点との関連でp < .10であった変数を投入し,ステップワイズ法により分析した.その結果,階層プラトー化については,「上司の関わり」の得点が高い者,「キャリアプランがある」者,キャリア支援体制のうち「病院の委員会などの役割がある」者,「昇任・昇格時の基準がある」と認識している者の階層プラトー化尺度得点が有意に低かった.また,キャリア支援体制の「配置転換希望の仕組みがある」と認識している者は階層プラトー化尺度得点が有意に高いという結果であった(表3).
n = 424
β | p値 | |
---|---|---|
上司の関わり | –.24 | <.001 |
キャリアプランの有無1) | –.10 | .03 |
病院の委員会などの役割の有無1) | –.10 | .03 |
昇任・昇格の基準1) | –.15 | .002 |
配置転換の仕組みの有無1) | .10 | .03 |
R2 | .13 | |
調整済みR2 | .12 |
ステップワイズ法
投入した変数:性別,病院の委員会などの役割の有無,影響を与えている人の有無,キャリアプランの有無,実践能力に応じた教育体制の有無,長期の研修体制の有無,昇任基準の有無,配置転換の仕組みの有無
1)なし=0,あり=1
内容プラトー化については,「同僚の関わり」の得点が高い者,「性別」が女性,「影響を与えている人がいる」「キャリアプランがある」者が有意に内容プラトー化尺度得点が低い結果であった.有意な関連を示した項目のうち,「同僚の関わり」の標準化回帰係数が最も高い値であった(表4).
n = 376
β | p値 | |
---|---|---|
性別1) | –.13 | .003 |
キャリアプランの有無2) | –.11 | .03 |
同僚の関わり | –.35 | <.001 |
影響を与えている人の有無2) | –.23 | <.001 |
R2 | .27 | |
調整済みR2 | .26 |
ステップワイズ法
投入した変数:性別,子どもの有無,影響を与えている人の有無,キャリアプランの有無,実践能力に応じた教育体制の有無,昇任基準の有無,最終学歴,看護師経験年数
1)男性=0,女性=1
2)なし=0,あり=1
最初に内容プラトー化および階層プラトー化双方がキャリア・コミットメントに影響を及ぼすというパス図を描いた.内容プラトー化および階層プラトー化,キャリア・コミットメントはいずれも潜在変数とした.基本属性およびキャリア支援体制については重回帰分析で有意な関連を示した変数をパス図に含めた.分析を行ったところ,階層プラトー化のパス係数が有意でなかったため削除した.最終モデルについて図1に示す.女性であること,影響を与えている人がいること,キャリアプランがあることが内容プラトー化を抑制し,内容プラトー化がキャリア・コミットメントに負の影響を及ぼすというモデルの適合度はχ2 = 520.0,df = 185,p < .001,GFI (Goodness of Fit Index) = .89,AGFI (Adjusted Goodness of Fit Index) = .86,CFI (comparative fit index) = .90,RMSEA (Root Mean Square Error of Approximation) = .066であった.内容プラトー化からキャリア・コミットメントへの標準化パス係数は–.44であった(図1).
本研究の対象者の79%が大学病院所属であり,大学以上の卒業・修了者の割合が高く,クリニカルラダーシステムはすべてが「あり」の回答で,目標管理の仕組みなども整備されていた.対象施設が400床以上で地域の中核となる大規模病院であり,看護師のキャリア支援体制がある程度整えられている施設に勤務していることが本研究の対象者の特徴と考えられる.
2. キャリア・プラトー化尺度得点およびキャリア・コミットメント尺度の特徴本研究の対象者の階層プラトー化尺度得点の平均値は3.65であり,昇進可能性は高くないと捉えていることが明らかとなった.一方,内容プラトー化尺度得点の平均値は2.17であり,やりがいや成長する機会は比較的あるという認識が平均的であることを示す結果である.しかし,内容プラトー化尺度の中で「仕事における作業や活動がマンネリ化してきた」の項目は2.92と最も高い値を示したことから,学習や成長の機会はあるものの日々の業務に関してはややマンネリ化を感じている傾向にあることが推察される.本研究で用いたキャリア・プラトー化尺度を用いて,20代から50代の看護師のキャリア・プラトーを測定した三浦(2018)の研究では,階層プラトー化尺度得点の平均値が3.62,内容プラトー化尺度得点の平均値1.77であった.また臨床経験5年以上かつ50歳未満の中堅看護師を対象とした齊藤ら(2020)の研究でも階層プラトー化尺度得点の平均値は3.3,内容プラトー化尺度得点は2.4と,階層プラトー化の得点が内容プラトー化よりも高い得点であった.これらの結果は本研究とはやや異なる対象者であったものの,おおよそ本研究の得点傾向と同様であった.クリニカルラダーをはじめとする能力開発の仕組みが充実していることが影響を及ぼしている可能性があるが,看護師にとってより高い職位に就くことなど昇進の可能性に対する認識はあまり高くない一方で,仕事に対してのやりがいや仕事の能力や知識の向上など職務挑戦性はある程度高く認識されているという状況は,他の年代の看護師とキャリア中期の看護師で類似した状況にあると考えられる.
また,キャリア・コミットメント尺度得点の平均値は2.98 ± 0.77であった.本研究で用いたキャリア・コミットメント尺度を用いた,臨床経験3年以上の臨地実習指導者を対象にした研究(千葉ら,2020)では3.16 ± 0.73であり,公立病院の看護師を対象とした研究(関根・冨田,2018)では,2.82 ± 0.73であった.これらのことから,キャリア・コミットメント尺度得点についても本研究の対象者は他の先行研究と大きく異なることはなく,看護の専門性に対する愛着や思い入れを一定程度有する集団であると考えられる.
3. キャリア・プラトー化に関連する要因 1) 階層プラトー化に関連する要因階層プラトー化を従属変数とした重回帰分析から,上司の関わりが多いこと,キャリアプランがあること,昇任・昇格の基準があること,病院の委員会などの役割を担っていることが,階層プラトー化を抑制する可能性があることが示唆された.
上司の関わりについては,杉山ら(2016)の研究で経験や知識,地位のある人が,若年の人々のキャリア形成を促進するために支援することで,昇進の動機付けや後押しとなり,昇進意欲を高め,階層プラトー化を抑制したと述べている.本研究においても同様の結果が得られたと考えられる.本研究で測定した上司の関わりは,相手を気にかけ支えること,モデルとなるなどのメンタリング(妹尾・三木,2012)や,職場での主体的な取り組みを認めること,目標に関心を持ち支援することなどの承認(萩本ら,2014),相手の課題を理解し学習する機会を提供するなど学習支援であった.これらの関わりはキャリア中期の看護師のキャリア形成において重要であり,自身のキャリアの展望を意識させ階層プラトー化を抑制する働きがあると考えられる.また,キャリアプランがあることが階層プラトー化を抑制する可能性については,山本(2014b)の研究において,看護職が目標を設定していることや目標への準備を行っていることが階層プラトー化を抑制していたという報告と一致するものである.以上のことから,上司を中心として,キャリア中期看護師に対し,日々の業務の関わりや年度目標のみではなく,キャリア全体にわたる目標について意識化を図れるように関わっていくこと,看護師が自らゴールを設定しその達成に向けた学習ができるように関わっていくことの必要性が示唆された.
昇任・昇格の基準が明確であることは,そこで勤務する人々にとって何を達成すれば昇格・昇任につながるのかの見通しや,管理職にはどのような資質が求められるか,期待像が明確になっていることを意味する.高山・佐々木(2021)の研究では昇進願望および昇進機会の満足感が階層プラトー化を抑制していた.本研究では昇進願望は尋ねていないが,基準が明確であることは昇進機会の満足感と関連することが予測できるため,本研究と関連する結果であると考えられる.キャリア支援体制として昇進・昇格の基準が明確になっていることは,昇格可能性に対する認識のあいまいさを低下させ,階層プラトー化の抑制につながる可能性がある.病院の委員会の役割など,役割を担うこととキャリア・プラトー化との関連については先行研究では見当たらない.しかし,青木(2018)は,中堅看護師に組織内の活動の役割を付与する意味として,組織の核へ近づくことの促進や新しい挑戦の機会の提供をあげている.日頃は部署内の業務に従事しているキャリア中期看護師にとって,組織全体の役割を担うことは視野の拡大につながり,看護部門や病院全体の仕事に対する認知や関心を高める可能性がある.
また本研究では,配置転換の仕組みがあることが,階層プラトー化を促進する可能性があるという結果が得られた.配置転換が看護師にとってどのような意味を持つかについては,配置転換直後は否定的な気持ちを抱いても,それを乗り越えることで成長の実感が得られ,自分なりのキャリア発達の方向性を見出す(中村,2010;関,2015;吉田ら,2013)など,配置転換後の経験に焦点を当てた研究が多く,その仕組み自体を看護師がどのように捉えているかについては明らかにされていない.しかし看護師が配置転換を希望する理由で最も多いものはスキルアップであり,組織側の目的として最も多いものもジェネラリストとしての成長であった(五十嵐ら,2015)など,看護組織における配置転換の多くが,昇進・昇格につながるものとは認識されていない可能性が高い.また,中堅看護師であっても,キャリア試行期(28~33歳頃)とキャリア確立期(33~43歳頃)では異動によって受ける影響が異なること(吉田ら,2011),子育てのライフステージにある看護師にとっては配置転換の希望が叶うことが重要である(岩下・高田,2012)など,配置転換が希望できることの意味は,個々の状況により異なる可能性が高い.本研究の重回帰モデルの決定係数が低いことからも,この関連については今後検討を重ねる必要があると考える.
2) 内容プラトー化に関連する要因内容プラトー化には,性別,影響を与えている人がいること,キャリアプランがあること,同僚の関わりが関連していた.内容プラトー化を抑制する要因として,先行研究では,キャリア目標を設定するやメンターの存在があげられている(萩原ら,2019;杉山ら,2016;高山・佐々木,2021;山本ら,2012).これらは,本研究においてキャリアプランがあること,影響を与えている人がいることが内容プラトー化と関連していたことと同様の結果であり,これらの要因の重要性が確認された.特に本研究の対象者は日々の業務にはややマンネリ化を感じている傾向もみられたことから,毎日の業務を遂行するだけではなく,日々の経験から自身の関心領域を明確にするなど広い視点でキャリアについて考えることができ,目標を見出せるような関わりが職務の挑戦性の認識を高めることにつながると考えられる.
また,本研究では内容プラトー化に対して同僚の関わりの影響が大きい結果であった.小手川ら(2010)は看護を行う中で困難を感じた時に身近な人からの支援を受けることが看護に対する関心が増し,学ぶ意欲や今後のキャリア形成について考えることにつながっていると述べている.さらに斎藤ら(2020)はチームで活動することで職務や役割に変化を感じ,内容プラトー化の抑制につながる可能性があると述べている.これらのことから,日々のカンファレンスなどで患者の治療や看護について話し合い,共に学ぶ機会を設けるなど看護師同士が学んでいることやお互いのキャリアプランを理解し,刺激となる存在となることで内容プラトー化の抑制につながるのではないかと考えられる.一方で,上司の関わりは内容プラトー化と有意な関連は示さなかった.階層プラトーについては管理職志向のある看護師がいた場合,昇進のために必要な学習や満たすべき基準を示したり,管理職としてモデル的に機能することで抑制できる可能性がある.しかし内容プラトーに関しては,職務の挑戦性の停滞を意味することから,その乗り越え方は個人間でより多様であると考えられる.キャリア中期の看護師にとってキャリア・プラトーを乗り越えるには,現在の自分の課題と向き合い,自分自身で模索する必要があり,それには一定の時間を要する(関,2015).その状況においては上司が学習機会を提供したり精神的に支えたりしても,看護師にとって必ずしもキャリア・プラトーを乗り越えるきっかけにはならない可能性もある.自分自身で乗り越えようとしている状況を上司として見守り,助言すること,配置転換など踏み出すきっかけを提供するなどの支援をしていくことが必要であると考えられる.また,同僚同士が刺激しあえるような環境づくりや,学習機会を得て学んだことを職場に還元できるように働きかけることは上司の役割として重要であり,その側面から関わっていくことの重要性が示唆された.
3) 本研究の重回帰モデルについて本研究で得られた以上の結果に関して,階層プラトー化および内容プラトー化の関連要因のいずれも,重回帰モデルの決定係数が低く,キャリア・プラトー化に関連する要因として十分とは言えない.本研究では,キャリア・プラトー化に関連する要因として,個人属性と組織の支援体制を主に取り上げた.民間企業で働く人を対象とした先行研究では,個人の認識する職務の自律性や完結性などの職務特性,目標を設定しているだけでなく段階的な目標を持っていることがキャリア・プラトー化と関連することが明らかにされている(山本,1999;山本,1997).また,看護領域では,人間関係の満足感,昇進機会の満足感(高山・佐々木,2021),目標の方向性(看護管理者など)との関連(山本ら,2012)も指摘されている.今後は,キャリア目標や影響を与えている人の有無だけでなくその内容や,現在従事している職務の特性,職場環境要因などを加えて調査を行い,説明力の高いモデルを構築していく必要がある.
しかし,本研究のモデルの説明力は弱いものの,キャリア中期看護師のキャリア・プラトー化に関連する要因を調査した量的研究はまだ少なく,一定の示唆が得られたものと考える.キャリア目標を持っていることやロールモデルの存在が看護師のキャリア・プラトー化と関連していることについては先行研究でも示唆されているが,これらとキャリア支援体制,上司の関わりなどとの関連を合わせてみた研究は少ない.本研究では,キャリア支援体制とキャリア・プラトー化も一部関連していたが,標準化回帰係数を見ると階層プラトー化に対しては上司の関わり,内容プラトー化に対しては同僚の関わりおよび影響を与えている人がいることの値が相対的に大きく,仕組みよりも人的な関わりが重要である可能性が示唆された.本研究の対象者の所属施設は規模が比較的大きい急性期病院であり,キャリア支援体制がある程度整っている.そのような環境下では,仕組みがあるということ自体が看護師にとって意味があるのではなく,それを活用できるよう助言したり,刺激となるような存在との関わりを活性化することがより重要である可能性がある.
4. キャリア・プラトー化とキャリア・コミットメントの関連階層プラトー化からキャリア・コミットメントへのパスは有意でなく内容プラトー化からキャリア・コミットメントへのパスのみが有意であり,標準化パス係数も–.44とある程度高い関連を示した.キャリア中期看護師のキャリア・コミットメントを高めるためには,組織内での昇進や昇格の見込みがあることよりも,職務の挑戦性を高めることが重要であると考えられる.共分散構造分析の適合度について,GFIとAGFIはそれぞれ.90と.85以上,CFIは.95以上で.90が許容範囲,RMSEAは.08までは許容範囲で.05より小さいと当てはまりが良いとされる(中山,2018).本研究の結果は良好な適合度ではなかったが,積極的に棄却する結果ではないと考えた.これまで,キャリア・プラトー化が専門職の離職意思を高める(杉山ら,2016;山本,2014a)などのことは看護職を含めて明らかにされてきたがキャリア・コミットメントと関連することについては,企業において全従業員や課長職のみを対象にしたキャリア・プラトー現象とキャリア志向の関連についての研究などに限られ(山本,2014a),看護師を対象にした研究はほぼなかった.本研究では看護職において階層プラトー化よりも新たに内容プラトー化がキャリア・コミットメントと関連している重要な要因である可能性を示唆した.専門職である看護師にとってキャリア・コミットメントは重要な概念である.Bardwick(1986)は,昇進にさして意味がないかもしれない看護師のような専門職にとって階層プラトー現象は無縁であるが,内容プラトー現象に陥る危険性は充分にあると述べており,内容プラトー化を乗り越えるための方策の検討は重要である.
5. 本研究の限界と課題本研究は対象者の地域や病院の規模を特定したため,急性期病院に勤務するキャリア中期看護師として一般化することには限界がある.さらに,キャリア・プラトー化を従属変数とした重回帰分析の決定係数が低く,本研究ではキャリア・プラトー化に関連する要因は限定的にしか説明できていないという限界があり,より多様な要因を探索していく必要があると考えられる.また,キャリア・プラトー化とキャリア・コミットメントとの関連についても,共分散構造分析の適合度が良好とはいえず,今後も関連性を検討していく必要がある.
本研究により,急性期病院に勤務するキャリア中期看護師の階層プラトー化には,上司の関わりや昇任・昇格基準があることなど,内容プラトー化には,同僚の関わりや影響を及ぼしている人がいることなどが関連していることが明らかになった.また,内容プラトー化はキャリア・コミットメントに影響を及ぼす重要な要因であることが示唆された.
付記:本研究は,順天堂大学大学院医療看護学研究科に提出した修士論文に加筆・修正を加えたものである.本論文の内容の一部は第42回日本看護科学学会学術集会において発表した.
謝辞:本研究に快く承諾し,ご協力いただきました参加者ならびに協力施設の皆さまに心より御礼申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:MHおよびMOは研究の着想およびデザインに貢献し統計解析を実施,草稿を作成した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.